第4章 高精度減速機の構造設計と
静的バックドライバビリティ評価
4.1 緒言
高バックドライバビリティを有するアクチュエータの開発として,モータと減速機が 一体化されたアクチュエータを新規に開発したが,そのモータの部分に関しては, 前章 で詳細を述べた.本章では, そのロボット用アクチュエータの高精度減速機の構造設計 手法と実現された減速機の静的バックドライバビリティの評価について述べる.
従来, ロボットには, 産業用を中心に比較的小型で大減速比が得られ, かつ高精度で あることから,ハーモニックドライブ減速機が多く用いられてきた.これは, 産業用など, 高出力高精度が主に要求される場合には適切であったが, 外部からの衝撃力に比較的弱 く破壊し易いという課題があり, 外力及び転倒などの衝撃力が頻繁に加えられる場合に は, 適さないという問題があった.そこで, 本研究で適用するロボットでは, ハーモニ ックドライブ減速機は採用せず, 衝撃力が頻繁に加えられることも考慮した高バックド ライバビリティを有する新たな減速機を独自に開発することとした.
まず最初に, 今回開発した減速機の概要について述べる.次に, 高精度を確保するた めのバックラッシの低減についてその設計手法と実際の実験データについて解析する.
次に, 第2章で述べたバックドライバビリティの概念と定義に基づき,高いバックドラ イバビリティを有するための減速機の設計手法について述べる.すなわち,具体的な向 上設計手法として,慣性抵抗の低減,粘性抵抗の低減,クーロン摩擦抵抗の低減, に関す る工夫の提案を行う.次に,従来には定量的に計測されたことのなかった実際のバック ドライバビリティ値の計測実験として実現された減速機の「静的バックドライバビリテ ィ」の定量的計測を行う.対象は,試作した2種の減速機,ロボットの減速機として広く 利用されているハーモニックドライブ減速機2種,および,試作ロボットなどに利用され ることの多い遊星型減速機であるマクソンモータ社の減速機1種について行う.そして, これらの実験データに関して比較評価を加える.
4.2 高精度減速機の概要
本研究における高精度減速機の概要について述べる.要求仕様は, 小型, 軽量, 高精 度, 高出力であることのみならず, 外部から出力軸に大きな力や衝撃力が加わった場合 でも破壊せず柔らかく反応することが条件となる.これより, 従来多く産業用ロボット を中心に使用されてきたハーモニックドライブ減速機は, 耐衝撃力の問題から採用せず, 独自試作を行った.本研究で試作した減速機は,タイプとしては,遊星歯車減速機に属す るが, 本目的のため様々な工夫がこらされている.
遊星歯車減速機の構造図の例を Fig.4.1 に示す.構造の概要は,太陽歯車①が入力軸 となり, 複数の遊星歯車②に伝達され, これらにより遊星歯車取付板③が回転する.
これに取り付けられた第2段の太陽歯車が回転し, また第2段の複数の遊星歯車に伝え られる.この回転が最後の出力太陽板に伝えられ,出力回転となる.第1段の遊星歯車 は耐トルクは小さくてよいため, 歯厚は小さいが, 第2段は耐トルクは大きくなるので, 歯厚は大きくなる.出力太陽板は, 出力軸となるため, 外部からの様々な方向からの応 力に耐えられるように, ベアリングで支持される.
1 2
4 3
1 2
4 3
Fig.4.1 Figure of example of planetary reduction gear
今回は,2つのサイズの減速機, Gear A, Gear B を試作したが,基本的な構成は上 記のような構成となっている.Table.4.1 にその2つの減速機の概要仕様を示す.
すなわち,外径は, それぞれ, 24mm,31mmであり, 減速比は, 約40 および 約50 であ る.上記にあるように2段減速となっている.採用した減速比についてであるが,大き なトルクを得るためには, もっと大きな減速比を与えればよいが, 今回の大きなポイン
トであるバックドライバビリティ確保のために意図して低減速比を採用しそのための工 夫をしている.低減速比であることによりモータ部は高出力を要求されるが,前章で述 べたようにそのための努力を行い,必要な出力を確保している.
減速機の長さについては,それぞれ,20mm, 30mm としたが,ロボットの腕部や 脚部に組み込むにはこのレベルの短さが必要であるため実現した.
重量については,それぞれ,30g,60g という軽量を実現した.目標とするアクチ ュエータとしての平均総重量が100g という制限があることから,A-アクチュエー タ:約80g, B-アクチュエータ:約120gの中で,40~50 % の範囲で減速機を収め る必要があり,ほぼその範囲で試作した.
Table.4.1 Specification of Gear A and B
Gear A Gear B
Reduction ratio
1:40 1:50
Size mm
40.5
Weight g
30 60
Bearable startup
Torque Nm
2.0 6.0
30 31 × φ
20 24 × φ
X Y
Z
X Y
Z
X Y
Z
X Y
Z
50
[mm]50
[mm]50
[mm]50
[mm]Fig.4.2 View of Gear A Fig.4.3 View of Gear B
4.3 バックラッシの評価関数
4.3.1 バックラッシの設計手法
高精度であることが要求仕様である場合, バックラッシは小さければ小さいほど良い ことになる.しかしながら, 以下の理由により, 通常必要最低限のバックラッシは与え られることが要求される.70)
1) 歯車には工作上の誤差が必ず存在する.
2) 歯車箱にも工作上の誤差が必ず存在する.
3) 歯車の運転が始まると, 負荷による発熱で歯車や歯車箱に変形が生じる.
これらの誤差や変形から, 騒音や振動を起こさずに滑らかに歯車を回転させるために, 歯面間の遊び, すなわちバックラッシはある程度必ず必要とされる.また,今回は,バッ クドライバビリティの概念を取り入れ, その性能向上からもバックラッシの小ささは制 限される.そのバックラッシの必要量の定量的な解析については後ほど述べる.
L3
L1 L2
D
d ( deg )
Z
X
L3
L1 L2
D
d ( deg )
Z
X
L3
L1 L2
D
d ( deg ) L3
L1 L2
D
d ( deg )
Z
X
Fig.4.4 Deviation caused by accuracy
次に, ロボットが歩行などの動作を実行するにあたり, 安定した位置決め制御が可能 であるためには, あるレベル以下のバックラッシであることが要求される.
バックラッシの評価にあたり,Fig.4.4 に示したように, ロボットにおいて, アクチュ エータが存在している足首部, 膝部, 腰部の精度を考え, それぞれのアクチュエータの ギア部のバックラッシがd 度あったとすると, 頭部での偏差Dは次の式で近似される.
D = L1 tan d + L2 tan 2d + L3 tan 3d
本研究の対象となるロボットにおいては, 頭部での偏差は10mm以内に抑えること が制御上の要求であるため, Dの値を10としてdの値を求めると, 約0.5度となる.
すなわち, アクチュエータに求められるバックラッシは, 最大でも0.5度であり, そ れ以下が望まれることとなる.頭部での偏差は構造部材のたわみも要素として考えられ るが,本研究では小型であり,構造部材は金属を使用しているため,その影響は少ない と仮定している.
次に, 最初に述べた必要なバックラッシの量の下限について述べる.バックラッシ量 は精度を上げていくという目的では,小さければ小さいほど良いということになるが,
実際にはバックラッシ量を小さくしていくと外部から回転させると固くなってくる.す なわち, バックドライバビリティの点から問題が起こり,その面からの制限が発生する.
そこで,バックラッシとバックドライバビリティの関係について,次に考察する.
静的バックドライバビリティ値については, その必要な値は, 第6章での目標値から A-gear では 2.5 x 10-2Nm以下ということが,求められている.試作した減速機のな かからバックドライバビリティが 2.5 x 10-2Nm以下であることを満足する減速機を選 択していくことになるが,バックラッシは 約0.3度以上でないとその数は大変少なく なることが試作より確認された.すなわち,この値のレベルのバックラッシがないと外 部からトルクが加えられた時に満足のいく軽さで歯車が回転しないということになる.
これより, A-gear で必要なバックラッシは,0.5度より小さく0.3度より大きい 範囲で, 精度を得るにはそのなかで出来るだけ小さいほうの値であることが望ましい ということが得られる.同様に、B-gearでは、約0.25度以上であることがわかり、
B-gear で必要なバックラッシは,0.5度より小さく0.25度より大きい範囲とい うことが得られた.
4.4 バックドライバビリティの向上設計手法
次に, 本研究における実際の減速機のバックドライバビリティの向上設計手法につい て述べる.従来、バックドライバビリティの向上に着目して減速機が設計されたことは 少なく,今回,第2章での定義検討の解析結果をもとに各抵抗の低減を目指してバック ドライバビリティ向上のため提案する事項は以下のようである.
1)慣性抵抗の低減 ( )
J
g→ 0
1.入力側遊星歯車に重量の軽い素材を設定.
理由)入力側遊星歯車に重量の軽い素材を設定した理由は, 出力段に比べ減速 比分, 入力側歯車は早く回転するため, その慣性モーメントを極力少なく するためにできるだけ軽い素材とする.
2.減速比をできるだけ低く設定.
理由)入力側歯車が受動的に回転させられる場合に, 減速比が低ければその分回転 数は低くなり, 必要な慣性モーメント力は少なくて済む.減速比の設定は モータの高出力化レベルに応じて設定する.モータが従来の2~3倍の高出
力化が可能となると,減速比は,従来の2,3分の1にすることができる.
具体的には,従来値は,約100~150であったが,本試作では,約40
~50の減速比を採用することが可能となった.
2)粘性抵抗の低減 ( )
D
g→ 0
1.減速比を出来るだけ低く設定.
理由)入力側歯車が受動的に回転させられる場合に, 減速比が低ければその分回転 数は低くなり, グリースなどによる粘性抵抗が少なくなる.
2.入力側歯車をできるだけ薄く設定.
理由)回転数が高い入力側歯車にかかる粘性抵抗を少なくする.
3.低粘性グリースの選定
理由)粘性抵抗の少ない, 且つ高加重に耐えるグリースとする.
3)クーロン摩擦抵抗の低減 ( )
F
g→ 0
1.インボリュート歯形を出来る得る限り理想インボリュート歯形に近づける.29)
理由)通常は, ピッチ円上の歯幅のみに着目して精度を管理することが多いが, 回転時に滑りの発生によるクーロン摩擦を出来得る限り低減する目的で,
歯形を全面に渡り, 理想インボリュート歯形に極力近づける.
2.遊星歯車と内歯歯車のクリアランスにおいて, 初段を出力段より大きくする.
理由)クリアランスが大きい方が摩擦抵抗が少なくなるが, アクチュエータ出力軸 位置決め角度として必要な精度があるため, 出力段では クリアランスを 小さくして精度を確保し, 精度に大きくは影響しない初段を大きなクリア ランスをとることとしてバックドライバビリティに考慮する.
3.入力側遊星軸系を出来るだけ細く短くする.
理由) 入力側遊星軸系の摩擦抵抗は, 減速比分大きく出力段で発生し,バックドラ イバビリティに悪い方向に影響するため,この摩擦抵抗を出来るだけ低減 させるために,歯の接触面積を少なくするよう、軸系を細く短く設定.
以上のようなバックドライバビリティ向上設計手法を提案する.
4.5 静的バックドライバビリティの計測実験の方法
静的バックドライバビリティ値は,「減速機を外部から回転を開始させるために必要 な値とし, 0に近い非常にゆっくりとした回転数で回転させた場合に計測される回転ト ルクの値」と定義しており,すべて同様の条件で計測する.
計測装置としては,本研究のために製作した Fig.4.5 に示した装置を使用する.
この装置は,計測される減速機の出力軸に直径200mmの円盤を取り付け,その周囲に糸状 の線材を巻き付け,その先に負荷を加えたものである.その負荷を少しづつ増加させて いき,ゆっくりとした回転を始めた時の負荷を計測し,それから回転トルクを求め,そ の値を静的バックドライバビリティ値とする,というものである.
回転を開始する際に、正確には静摩擦抵抗と動摩擦抵抗があり,一般的には静摩擦抵抗 が動摩擦抵抗より幾分大きいとされる.実際には静摩擦抵抗も計測することは可能であ るが,静的バックドライバビリティ値の定義として0に近い非常にゆっくりとした回転 数で回転させた場合の回転トルクとしており,またその値のほうが安定して計測される ため,本研究では回転直後の動摩擦抵抗を計測する形をとることとする.
また,この計測装置は次章の動的なバックドライバビリティの計測にも利用される.
X Y
Z
Gear
Lord φ200
X Y
Z
Gear
Lord φ200
Fig.4.5 Measurement system for backdrivability
4.6 各種減速機の実験結果
4.6.1 試作減速機
1)試作減速機の仕様
本研究で試作した2種の減速機について静的バックドライバビリティ値の計測を行う.
本減速機の試作の要点は高バックドライバビリティを目指し,4.3で示した通りであ る.本研究の減速機の概要仕様は以下の Table.4.2に示す.
Table.4.2 Specification of Gear A and B
Gear A Gear B
Reduction ratio 1:40 1:50
Size mm 40.5
Weight g 30 60
Bearable startup
Torque Nm 2.0 6.0
31× 30 φ 20
24 × φ
2)試作減速機の構造
試作した減速機のサイズや重量については仕様に示したようであるが,その減速機構 の基本的な構造は,以下のようである.
すなわち,基本的なメカニズムは遊星減速機であり,構造の概要は, 太陽歯車が入力 軸となり, 複数の遊星歯車に伝達され, これらにより遊星歯車取付板が回転する.これ に取り付けられた第2段の太陽歯車が回転し, また第2段の複数の遊星歯車に伝えられ る.この回転が最後の出力太陽板に伝えられ,出力回転となる.第1段の遊星歯車は耐 トルクは小さくてよいため, 歯厚は小さいが, 第2段は耐トルクは大きくなるので, 歯 厚は大きくなる.出力太陽板は, 出力軸となるため, 外部からの様々な方向からの応力 に耐えられるように, ベアリングで支持される.
基本的には以上のようになっており,これに仕様の項で説明した様々な工夫が付加され た構造となっている.また,単にバックドライバビリティを低減するために最大の努力 が払われているだけでなく,ある程度の量産,また長期の使用に耐えられるよう生産性,
品質維持のための耐久性についても特に考慮されている.
3)実験結果
試作した Gear A,Bに関して静的バックドライバビリティ値の計測を複数回行った 結果であるが,Table.4.3 のようになった.
Gear A に関しては,大体2.0 ~ 2.5 x 10-2Nmの間に入っており,そのなかでは,2.5 x 10-2Nmよりの値であった.Gear B については,ほぼ 4.5 ~ 5.0 x 10-2Nmのなかに入っ ており,そのなかでは,その中間よりの値であった.
Table.4.3 Backdrivability data for Gear A and B
Backdrivabirity Nm Reduction ratio
Gear A 2.0 ~ 2.5 x 10-2 1:40 Gear B 4.5 ~ 5.0 x 10-2 1:50
本研究においての試作における減速機の持つべき静的バックドライバビリティ値の目 標値であるが,第6章においてその設定のための詳細は述べるが,以下のような目標値 を設定している.
各減速機の目標値: Gear A: 2.5 x 10-2 Nm Gear B: 5.0 x 10-2 Nm
これらの目標値に対して実験結果は,
Gear A : 2.0 ~ 2.5 x 10-2 Nm Gear B : 4.5 ~ 5.0 x 10-2 Nm
であるので,その設定仕様を満足する結果となっている.
4.6・2 ハーモニックドライブ減速機
本研究の静的バックドライバビリティ値の比較実験として,ロボットには広く利用さ れている波動型減速機,すなわち,ハーモニックドライブ減速機について評価すること は価値あることと考え,この項において計測実験を行うこととする.
1)ハーモニックドライブ減速機の仕様
本研究の減速機との比較のため,大きさ,減速比ともに2種の試作減速機とほぼ同様 なハーモニックドライブ減速機の機種を選定し,Table.4.4に示す2機種とした.
Table.4.4 Specification of Harmonic Drive Gears
Harmonic Drive Gear A (CSF-8-30-2XH-J) B (CSF-11-50-2XH-J)
Reduction ratio
1:30 1:50
Size mm
40.5
Weight g
111 176
Bearable startup
Torque Nm
1.8 8.3
30 5
.
40 ×
φ 5
. 24 31× φ
両機種の外観を Fig.4.6, Fig.4.7 に示す.
50
[mm]50
[mm]50 50
[mm][mm]Fig.4.6 View of Harmonic Drive Gear A Fig.4.7 View of Harmonic Drive Gear B
2)ハーモニックドライブ減速機の構造
ハーモニックドライブ減速機の構造はよく知られているのでその詳細は述べないが,
概要構造図を,Fig.4.8, Fig.4.9 に示す.
すなわち,大きく3つの部品からなっており,外側の内歯を持つサーキュラースプライ ン,柔軟性を持つフレックススプライン,入力軸となるウェイブジェネレータで構成さ れている.フレックススプラインの歯数は,通常サーキュラースプラインの歯数より2 つ少なく,その歯数の差から減速作用が起こる.
Circular spline Flex spline
Wave generator
Circular spline Flex spline
Wave generator
Circular spline
Flex spline Wave generator Circular spline
Flex spline Wave generator
Fig.4.8 Harmonic drive gear system Fig.4.9 Harmonic drive gear system
3)実験結果
ハーモニックドライブ減速機の実験結果を Table.4.5 に示す.
CWは時計回りの回転方向,CCWは反時計回りの回転方向を表す.
減速比が30のAタイプでは約 10 x 10-2Nmで出力軸が回転し,減速比が50のBタイ プでは約 53 x 10-2Nmで回転という結果であった.
この値は,可動を開始する際の静摩擦抵抗値ではなく,ある程度ゆっくりした回転速度 で外部から回転させた場合に計測された値である.
どちらも対応する試作減速機の静的バックドライバビリティ値に対してかなり大きな値
をとることが計測された.
Table.4.5 Backdrivability of Harmonic Drive Gears
Harmonic Drive Gear Reduction ratio
CW CCW
A (CSF-8-30-2XH-J)
10 10.4 1:30
B (CSF-11-50-2XH-J)
52 54 1:50
Backdrivabirity x 10-2Nm
4.6・3 遊星歯車型減速機
試作減速機は遊星型減速機であるため,その比較としてマクソン社の遊星型減速機を 選定し,評価を行う.
1)マクソンモータ減速機の仕様
本研究の減速機との比較のため,大きさ,減速比ともに試作減速機とほぼ同様なマク ソンモータ減速機の機種を選定し,Table.4.6に示す機種とした.
この減速機の基本的な形式は遊星型減速機である.
試作した減速機も遊星型であるので,比較対象として適切である.
ただ,減速比が試作減速機は約40であるのに対して,この採用した減速機の減速比は 29である.最も近いものがこの機種であったため,採用することとしたが,減速比が 少なくなれば、回転のための抵抗値は少なくなるため,そのことは考慮する必要がある と考える. 考察で比較する際に考慮する.
また,バックラッシも,このタイプとしては市販品では少ない 1.2 度となっている.
これも試作減速機の約 0.5 度と比較すると大きめな値となっている.
バックラッシが大きいと回転の抵抗値は少なくなると思われるので,この点も考慮する 必要がある.
Table.4.6 Specification of Maxon gear
Maxon Gear GP 26 B
Reduction ratio 1:29
Size mm φ 26 x 36
Weight g 86
Bearable startup
Torque Nm 0.9
Backlash deg 1.2
2)マクソンモータ減速機の構造
遊星減速機型であって,2段構造であり,減速比は29となっている.
2段構造である点は,試作減速機と同様であるが,減速比は約40と比して少ない.
バックラッシは,1.2度であり,一般的な遊星減速機のバックラッシ精度といわれる 3度から比較すると精度の高いレベルと言える.試作減速機は,0.5度であるのでこ れと比較すると低いレベルとなる.断続最大トルクは,0.9 Nm であり,試作減速機の約 2Nmと比べると少ないレベルである.重量は,86gであり,試作減速機の約30gに 比較して大きい.すなわち,総じてバックドライバビリティの点から予測すると,試作 減速機より有利な状況にあると言える減速機である.
マクソン減速機付きモータの外観を,Fig.4.10 に示す.
50
[mm]50
[mm]Fig.4.10 Overview of Maxon geared motor
Fig.4.11 Overview of Maxon gear part 3)実験結果
マクソンギアの実験結果は,Table.4.7 に示したようである.
これは,実験装置での負荷値を示す.実験は複数回行ったので,実験結果としては幅で 示している,この結果は,負荷が25gでは可動しなかったが,30~35gの間で出 力軸が可動したことを示す.これは静摩擦負荷というよりある程度回転が始まった負荷 であるので動摩擦負荷に近い値である.
Table.4.7 Measurement data of the load of Maxon gear
Maxon Gear GP 26 B
Static friction-lord g 30 ~ 35
この値を静的バックドライバビリティ値で示すと,Table.4.8 のようになる.
Table.4.8 Measurement data of Maxon gear backdrivability
Maxon Gear GP 26 B
Backdrivability Nm 3.0 ~ 3.5 x 10
-24.7 各種減速機の実験結果の比較と考察
静的バックドライバビリティ値の比較として,試作減速機2種,ハーモニックドライ ブ減速機2種,マクソン減速機1種について,実験を行ってきたが,この項では、これ らの結果について比較と考察を行う.これら5種の減速機の静的バックドライバビリテ ィ値を表にまとめてみると,Table.4.9 のようになる.
Table.4.9 Backdrivability of several types of gears
Gears Reduction ratio Backdrivability x 10-2Nm
Gear A 40
2.0 ~ 2.5
Gear B 50
4.5 ~ 5.0
CSF-8-30-2XH-J 30
10.0 ~ 10.4
CSF-11-50-2XH-J 50
52 ~ 54
Maxon 26B 29
3.0 ~ 3.5
この比較表から以下の評価が得られる.
試作した減速機 Gear A は,
・同レベルのハーモニックドライブ減速機(CSF-8-30-2XH-J)に対して 約1/4~1/5の静的バックドライバビリティ値を持つ.
・マクソンギア(26B)に対しては,
約2/3の静的バックドライバビリティ値を持つ.
試作した減速機 Gear B は,
・同レベルのハーモニックドライブ減速機(CSF-11-50-2XH-J)に対して 約1/10~1/12の静的バックドライバビリティ値を持つ.
ということがわかる.
それでは,なぜこのような差が生じているのかハーモニックドライブ減速機とマクソン ギアのそれぞれに対して考察する.
1)ハーモニックドライブ減速機の静的バックドライバビリティ値について
ハーモニックドライブ減速機の静的バックドライバビリティ値がこのように比較的大 きな値となるのは, 次の機構の原理上からと考えられる.
すなわち, 出力軸から回転させる場合,
ⅰ) フレックススプラインと呼ばれる部品の歯面と外周サーキュラースプラインの 内歯の歯面との間に摩擦抵抗が生じること,
ⅱ)フレックススプラインをたわませる力が必要となること,
ⅲ)ウェーブジェネレータという部品を回転させる必要があること,
これには、粘性のあるグリースとボールベアリングが複数個含まれた構造の 部品となっている.
などから, 抵抗値が発生し,バックドライバビリティ値がかなり悪くなると考えられる.
構造の違いからバックドライバビリティ値について大きな差が生まれたと言えるが,ロ ボット,特に外部から力が加えられる可能性の高いヒューマノイドロボットのアクチュ エータとして,特に衝撃吸収を考慮したロボットを設計しようとする場合においては,
ハーモニックドライブ減速機は不向きと言える.本研究の試作減速機では,このような 歯面間の摩擦抵抗は原理的には発生しないこと,またたわむような部品がないことなど から小さな値となる.
ハーモニックドライブ減速機は,基本的にはバックドライバビリティに着目して開発 されたものではなく,小型で大きな減速比が得られ,バックラッシは原理上ほぼ零とい う特長があり,そのような使い方をする場合には適切な減速機である.
すなわち,出力軸側から回転力を受けてモータが受動的に回転するという必要性がな く,もっぱらモータ側から能動的に出力軸を回転させるだけという場合で、大きさに比較 して大きな減速比を必要としかつ高精度な位置決めが必要とされる場合に効果を発揮す る.ヒューマノイドロボットの場合は,外部から力を受けて受動的に動いて欲しいこと が多くあり,また予期せぬ場合に転倒などで外部から出力軸に対して衝撃を受けること も起こりうるので,高いバックドライバビリティを持つ本研究のような減速機の必要性 は大変高いといえる.ハーモニックドライブ減速機に劣る点はバックラッシの大きさで あるので,バックドライバビリティを低減させずに,さらなるバックラッシを小さくする ことは今後の課題である.
2)マクソン減速機の静的バックドライバビリティについて
マクソン減速機の減速比は29であり,これに対して減速比が試作減速機は約40で あり,減速比が少なくなれば、回転のための抵抗値は少なくなるため,バックドライバ ビリティ値も小さくなると考えられるが,結果は試作減速機の静的バックドライバビリ ティ値の 2.0 から 2.5 x 10-2Nmに比較して大きな値となっている.
また,バックラッシも,このタイプとしては市販品では少ない 1.2 度となっている が,これも試作減速機の約 0.5 度と比較すると大きめな値となっている.バックラッシ が大きいと回転の抵抗値は少なくなると思われるが,この点から見ても試作減速機のほ うが抵抗値は少なくなっている.両者とも遊星減速機型であって,2段構造であり,タ イプとしては同等であるが,高バックドライバビリティを考慮して設計された試作減速 機は差が出たといえる.
他の点としては,マクソン減速機の断続最大トルクは,0.9 Nm であり,試作減速機 の約2Nmと比べると少ないレベルである.すなわち,試作減速機のほうが強固に作られ ていることがわかる.重量は,86gであり,試作減速機の約30gに比較して大きい.
この点からは軽量ということから試作機が優れていると言える.
すなわち,総じてバックドライバビリティの点から予測すると,マクソン減速機は試 作減速機より有利な状況にあると言える減速機であるが,実際の計測値から見ると,様々 な面において試作機のほうが優れていると言える.マクソン減速機はバックドライバビ リティ値の点からすると,試作減速機の約1.5倍程度であり,ハーモニックドライブ 減速機から考えるとはるかに良いレベルにあるが,バックラッシが1.2度とヒューマ ノイドロボットの脚部や胴部に使用するには精度が低く問題があるレベルであるが,精 度をそれほど必要としない腕部などに使用するには問題は少ない減速機ということがで きる.ただし,重量は試作減速機の3倍近くあり実使用には困難な点がある.
最後に,試作減速機の静的バックドライバビリティ値に関してであるが,目標仕様と した値は,ロボットの手足が自重で容易に可動するためのトルクと設定されており,外 部から軽く可動させることができるための値として設定されたが,ロボットが転倒など した際の衝撃を受けた場合にロボットが破壊しないために必要なバックドライバビリテ
ィ値もカバーしているかどうかも大変重要である.減速機だけで受け止めずに衝撃を受 けた際の回転をモータ軸まで受動的に可動するかどうかが問題である.転倒衝撃を柔ら かく受け止めるための出力軸での受動的回転数は,
腕部において約10rpm以上,
胴体や脚部においては2~3rpm以上,
と試作ロボットによる実験から推測されている.
従って,上記のバックドライバビリティ値で可動を開始した直後に出力軸がこれらの回 転数まで即座に上昇してくれるかどうかが重要なポイントとなると考えられる.
この点については、次章の動的なバックドライバビリティの計測実験で更なる確認を していることとする.
4.8 結言
本章では,今回開発した減速機の概要について述べた.次に, 高精度を確保するため のバックラッシの低減についてその設計手法と実際の実験データについて解析した.次 に, 第2章で述べたバックドライバビリティの概念と定義に基づき,高いバックドライ バビリティを有するための減速機の設計手法について述べた.すなわち,具体的な向上 設計手法として,慣性抵抗の低減,粘性抵抗の低減,クーロン摩擦抵抗の低減, に関する 工夫の提案を行った.次に,従来には定量的に計測されたことのなかった実際の静的バ ックドライバビリティ値の計測実験を行い,評価,考察を行った.
対象は,試作した2種の減速機,ロボットの減速機として広く利用されているハーモニ ックドライブ減速機2種,および,試作ロボットなどに利用されることの多いマクソンモ ータ社の遊星型減速機1種について行った.そして,これらの実験データに関して比較評 価を加えた.
計測装置としては,本研究のために新たに製作した装置を使用した.
この装置は,計測される減速機の出力軸に直径200mmの円盤を取り付け,その周囲に糸状 の線材を巻き付け,その先に負荷を加えたものである.その負荷を少しづつ増加させて いき,ゆっくりとした回転を始めた時の負荷を計測し,それから回転トルクを求め,そ の値をバックドライバビリティ値とする,というものである.
実験結果:
1)試作した減速機 Gear A,B
Gear A に関しては,2.0 ~ 2.5 x 10-2 Nm Gear B に関しては,4.5 ~ 5.0 x 10-2 Nm この減速機の目標値としては,
Gear A: 2.5 x 10-2 Nm Gear B: 5.0 x 10-2 Nm
と設定されていたが,この目標値を満足する結果を得る事が出来た.
2)ハーモニックドライブ減速機
減速比が30のAタイプ:約 10 x 10-2 Nm, 減速比が50のBタイプ:約 53 x 10-2 Nm
という結果を得た.
どちらも対応する試作減速機のバックドライバビリティ値に対してかなり大きな値をと ることが計測された.すなわち,
Aタイプでは,同レベルの試作減速機の約4~5倍 Bタイプでは,同レベルの試作減速機の約10~12倍 のバックドライバビリティ値ということが計測された.
この理由としては、方式の違いであることを説明した.
3)マクソン減速機
結果:3.0 ~ 3.5 x 10-2 Nm
を得た.これは,試作減速機に比較して1.5倍のバックドライバビリティ値である.
減速比が29である,バックラッシが1.2度であるなど,良好なバックドライバビリ ティ値を得るには試作減速機より有利な点があるが,試作減速機のほうがバックドライ バビリティ値では良い値を示していることが確認された.
構造の違いからバックドライバビリティ値について大きな差が生まれたと言えるが,
ロボット,特に外部から力が加えられる可能性の高いヒューマノイドロボットのアクチ ュエータとして,特に衝撃吸収を考慮したロボットを設計しようとする場合においては,
ハーモニックドライブ減速機は不向きと言える.また,マクソン減速機はバックドライ バビリティはよいほうであることがわかったが,サイズ,重量の点で実際ロボットへの 使用には困難な点があると言える.