透 析 会 誌 28 (4): 369∼376, 1995
症例報告
維持 透 析 患者 お よび 腎移 植 患 者 に お け る妊 娠 ・分 娩例 の検 討
石 川
暢 夫
山
口
修
木 村
ま り
小 幡
紀 夫
尊 田
和 徳*
高 橋
公 太*
東
間
紘*
阿 岸
鉄 三*
太 田
和 夫*
立 川綜合 病院 腎セ ンター 東京 女子医科 大学 腎臓 病総合 医療 セ ンター*
key words: 血 液 透 析, 腎移 植, 分 娩, 免 疫 抑 制 剤, 催 奇 形 性 <要 旨> 血 液 透 析 患 者1例, 腎移 植 患 者2例 の 妊 娠 ・分 娩 を経 験 した の で 報 告 す る. 症 例1は31歳 女 性. 21歳 よ り血 液 透 析 に 導 入 され, 透 析 歴8年9か 月 目 に妊 娠8週 で妊 娠 判 明, 妊 娠31週6日 に 経 膣 分 娩 に て1,625gの 男 児 を 娩 出 した. 児 に は鎖 肛 を認 め た が, そ の 他 の 合 併 症 は な か っ た. 症 例2は39歳 女 性. 31歳 よ り血 液 透 析 に 導 入, 35歳 時 生 体 腎移 植 を うけ る. 移 植 後3年0か 月 目 に妊 娠7週 で妊 娠 判 明 (夫 一 腎移 植 患者), 妊 娠38週5日 に帝 王 切 開 に て2,275gの 男 児 を娩 出 した. 児 に は奇 形 ・合 併 症 を認 め な か っ た. 症 例3は28歳 女 性. 22歳 よ り血 液 透 析 に 導 入, 26歳 時 生 体 腎 移 植 を う け る. 移 植 後1年6か 月 目 に 妊 娠5週 で 妊 娠 判 明, 妊 娠41週0日 に 帝 王 切 開 に て 2,620gの 男 児 を 娩 出 した. 児 に は 奇 形 ・合 併 症 を認 め な か っ た. ま た, この 症 例 で は免 疫 抑 制 剤 シ ク ロ ス ポ リン (CYA) の 濃 度 をRIA (radioimmunoassay) 法 に よ り, 分 娩 時 母 体 末 梢 血, 臍 帯 血, 羊 水, 新 生 児 末 梢 血 お よ び 母 乳 に お い て 測 定 した と こ ろ, 胎 児, 乳 汁 へ の 移 行 性 が それ ぞ れ 示 され た. 透 析 患者 の 妊 娠 分 娩 例 は, 妊 娠 可 能 な透 析 患 者 の 増 加 に 加 え, 透 析 技 術 の 進 歩 や エ リス ロポ エ チ ン (rHuEPO) 使 用 に よ る貧 血 状 態 の 改 善 に よ り, 最 近 報 告 例 が 増 え て き て い る. 一 方, 腎移 植 患 老 の 妊 娠 分 娩 例 も, 免 疫 抑 制 剤 の 催 奇 形 性 ・変 異 原 性 や 乳 汁 移 行 性 等 の 問 題 は あ る が, 移 植 腎 の 生 着 率 の 安 定 と と もに 今 後 さ ら に増 加 す る と考 え ら れ る. 石 川 暢 夫 立 川 綜 合 病 院 腎 セ ン タ ー 〒940 長 岡 市 神 田 町 3-2-11 (0258-33-3111) 〔受 付: 平 成6年9月28日, 受 理: 平 成6年12月26日 〕Successful
pregnancy
and
delivery
in
a
patient
on
maintenance
hemodialysis
and in two patients
after
kidney
transplantation
Nobuo Ishikawa, Osamu Yamaguchi, Mari Kimura, Norio Obata, Kazunori Sonda*, Kota Takahashi*,
Hiroshi Toma*, Tetsuzo Agishi*, Kazuo Ota*
Kidney Center, Tachikawa General Hospital; Kidney Center, Tokyo Women's Medical College*
We report 3 cases of successful pregnancy and delivery in chronic renal failure patients. One patient had been
undergoing chronic hemodialysis, the others were being followed after kidney transplantation.
Case 1: A 31-year-old woman had been undergoing hemodialysis since 1979. In November 1987, she was
found to have a pregnancy of 8 gestational weeks. She delivered a boy weighing 1,625g by the vaginal route
at 31 gestational weeks. He suffered imperforate anus.
Case 2: A 39-year-old woman had been undergoing hemodialysis since 1985. In August 1989, she received
a kidney from her father. In August 1992, she was found to have a pregnancy of 7 gestational weeks. She
delivered a boy weighing 2,275g by caesarean section at 38 gestational weeks. No congenital malformation
was detected in the newborn. In this case, her husband had also been well controlled following kidney transplan
370 石 川 ほ か: 慢性 腎不 全 患 者 の分 娩 例
tation from a living related donor in 1985.
Case 3: A 28-year-old woman had been undergoing hemodialysis since 1988. In June 1992, she received a
kidney from her brother. In December 1993, she was found to have a pregnancy of 5 gestational weeks. She
delivered a boy weighing 2,620g by caesarean section at 41 gestational weeks. No congenital malformation
was detected in the newborn. In this case, the ciclosporin (CYA) concentrations in maternal and neonatal whole
blood samples, breast milk and amniotic fluid were determined by radioimmunoassay (RIA). No side effects of
CYA were observed in this baby. CYA, however, was present in maternal breast milk, suggesting that breast
feeding by CYA-treated mothers should be avoided.
は じめ に
慢 性 腎 不 全 に対 す る 治 療 と して, 血 液 透 析,
CAPD,
腎 移 植 とい う3つ の 柱 が あ るが, それ ぞ れ
の治 療 内 容 の進 歩 に は め ざ ま しい もの が あ る. 移
植 患 者 の 最 初 の妊 娠 成 功 例 は, 1963年 のMurray
ら1)の報 告 に よ る 一 卵 性 双 生 児 間 の移 植 患 者 の 成
功 例 で あ り, 透 析 患 者 の 最 初 の成 功 例 は, 1971年
のConfortiniら2)の
報 告 例 で あ る. わ が 国 の 透 析
患 者 の妊 娠 ・
分 娩例 の報 告 は, 堀 口 ら3)の指 摘 に も
あ る よ うに, エ リス ロポ エ チ ン (rHuEPO)
の使
用 開 始 以 後 増 加 して きて い る. ま た, 腎移 植 は慢
性 腎 不 全 の 根 治 的 治 療 で あ る た め, 移 植 腎 の 生 着
率 の 安 定 と と もに, 着 実 に移 植 患 者 の妊 娠 ・分 娩
例 は増 加 して き て い る. 我 々 の施 設 で は, これ ま
で に血 液 透 析 患 者1例,
腎 移 植 患 者2例
の 妊 娠 分
娩 を経 験 して い る の で報 告 す る.
図1 臨床 経 過 (症例1)症 例
〔
症 例1〕
患者: 31歳, 女 性.
家 族 歴: 特 記 す べ き こ と な し.
既 往 歴: 4歳, 急 性 糸球 体 腎 炎. 9歳 よ りネ フ
ロ ー ゼ 症 候 群 で 治 療 開 始. 以 後, 寛 解 ・増 悪 を く
り返 す. 21歳, 慢 性 腎 不 全 にて 血 液 透 析 に 導 入 さ
れ る. 27歳, 右 卵 巣 嚢 腫 破 裂 に て 右 卵 巣 摘 出.
月 経 歴: 初 経11歳,
周 期 不 順. 透 析 導 入 後1
∼2年
無 月 経 期 間 あ り
. 25歳 頃 よ り頻 発 月 経 傾
向, 1987年4月
頃 よ り30∼40日
周 期.
結 婚: 30歳.
妊 娠 歴: 0妊0産.
現 病 歴: 週3回
で 外 来 透 析 中, 1987年11月
(透
析 歴8年9か
月) に妊 娠8週
で 妊 娠 判 明 。 挙 児 を
強 く希 望 した た め, 妊 娠 を継 続 し た.
臨 床 経 過 (図1):
エ リ ス ロ ポエ チ ン
(rHu-EPO)
が まだ 普 及 して い な か っ た時 期 の 症 例 で あ
る た め, ヘ マ トク リ ッ ト (Ht) 値 を25%前
後 に維
持 す る た め に頻 回 の輸 血 を必 要 と した. 透 析 条 件
石 川 ほか: 慢性 腎 不 全患 者 の分娩 例 371 と してBUN 60∼70 mg/dl以 下, Cr 7.0mg/dl以 下 を 目 標 に ダ イ ア ラ イ ザ ー を変 更, 一 方 で 食 餌 は 健 常 妊 婦 と ほ ぼ 同 様 な 指 導 を行 っ た. dry weight (DW) の 設 定 は, 健 常 妊 婦 の 妊 娠 中 の 体 重 増 加 と 超 音 波 断 層 法 (エ コ ー) に よ る 胎 児 発 育 評 価 を参 考 と し, 胸 部X線 写 真 に よ る 心 胸 比 の 測 定 は最 小 限 に し た. そ の た め, 妊 娠 週 数 の増 加 に伴 い, 透 析 回 数 お よ び 時 間 を 増 や し, 最 大: 週42時 間 の 透 析 を 施 行 し た. 経 過 中, 血 圧 は 降 圧 剤 を 内 服 せ ず に ほ ぼ 正 常 域 に コ ン トロ ー ル さ れ て い た. 産 婦 人 科 に お い て1∼2週 間 ご と に 外 来 で 管 理 さ れ, IUGR (子 宮 内 発 育 遅 延) 等 を 認 め ず に 比 較 的 順 調 で あ っ た が, 1988年4月7日 (妊 娠27週4日)に 切 迫 早 産 に て 入 院 と な っ た. 安 静 と塩 酸 リ ト ド リ ン の 投 与 に て 管 理, 胎 児 胎 盤 機 能 はHPL (human
placental lactogen), E3 (estriol) に て 評 価, ま た 胎 児 機 能 はNST (non stress test) を 頻 回 に 行 い 評 価 し た. 妊 娠31週6日, 血 液 透 析 中 に 自 然 破 水, 塩 酸 リ ト ド リ ン を 点 滴 し 陣 痛 抑 制 を 試 み る も 無 効, 同 日 経 膣 分 娩 に て1,625gの 男 児 を 娩 出 し た. Apgar scoreは1分 後3点, 5分 後9点. 児 に は 鎖 肛 を認 め た が, そ の 他 の 奇 形, 合 併 症 は認 め な か っ た. 鎖 肛 は 中 間 位 鎖 肛 で, 生 後2日 目 に 人 工 肛 門 造 設 術, 10か 月 目 に 肛 門 形 成 術 が 施 行 さ れ た が, 発 育 等 に 問 題 は な か っ た. 一 方, 母 体 合 併 症 と し て 弛 緩 出 血 を み た が, 産 後 経 過 は 順 調 で 週3回 の 維 持 透 析 に 戻 り現 在 (透 析 歴15年7か 月) に 至 っ て い る. 児 も 発 育 (精 神, 運 動) 等 問 題 な く経 過 し て い る. 〔症 例2〕 患 者: 39歳, 女 性. 家 族 歴: 特 記 す べ き こ とな し. 既 往 歴: 10歳, 虫 垂 切 除 術. 27歳 頃 よ り腎 機 能 低 下 を 指 摘 さ れ る. 31歳, 慢 性 腎 不 全 に て 血 液 透 析 に 導 入 さ れ る. 35歳, 父 を ドナ ー と し て 腎 移 植 を う け る. 月 経 歴: 初 経12歳, 周 期 整. 結 婚: 37歳. 妊 娠 歴: 1妊0産 (25歳, 人 工 流 産). 配 偶 者 (夫): 38歳. 慢 性 腎 不 全 に て20歳 よ り 血 液 透 析 に 導 入 さ れ る. 30歳, 父 を ドナ ー と し て 腎 移 植 を う け る. 免 疫 抑 制 剤 は シ ク ロ ス ポ リ ン (CYA), ミ ゾ リ ビ ン (MZ), メ チ ル プ レ ドニ ゾ ロ ン (MP) の3剤 で 維 持 さ れ, Crは1.5mg/dl前 後 で 安 定. 図2 臨床 経 過 (症例2)
現 病 歴: 腎 移 植 後3年0か
月 目 の1992年8月
372 石 川 ほか: 慢 性腎不 全 患者 の分 娩例 に 妊 娠7週 で 妊 娠 判 明. Crは1.6mg/dl前 後 で 安 定 し, ま た タ ン パ ク 尿, 高 血 圧 を 認 め て い な か っ た た め, 妊 娠 を 継 続 し た. 臨 床 経 過 (図2): 妊 娠 判 明 時 に は, 免 疫 抑 制 剤 と してCYA 180mg/day (3.6mg/kg), MZ150 mg/day, MP 8mg/dayを 内 服 し て い た が, 判 明 後 す ぐ にMZを ア ザ チ オ プ リ ン (AZ) 50mg/day に 変 更, さ ら に 妊 娠16週 か ら は25mg/dayに 減 量 し た. 妊 娠20週 頃 ま で はHt値 の 低 下 を 認 め た も の の, rHuEPOの 使 用, 輸 血 の 施 行 に は 至 ら な か っ た. 産 婦 人 科 に お い て2週 間 ご と に 外 来 で 管 理 さ れ, 経 過 は順 調 で あ っ た. 妊 娠32週 頃 よ り タ ン パ ク 尿 を軽 度 認 め る よ う に な り, Crも1.8mg/ dlと や や 上 昇, 血 圧 は130∼150/70∼90mmHg で あ っ た. 1993年3月31日 (妊 娠38週5日) 破 水 感 に て 入 院, Cr 2.0mg/dlと 上 昇, 同 日 帝 王 切 開 に て2,275gの 男 児 を 娩 出 し た. Apgar scoreは
1分 後9点, 児 はSGA (small for gestational age) で あ っ た が, 外 表 奇 形, そ の 他 の 異 常 は 認 め られ な か っ た. 産 後 経 過 は順 調 で あ っ た. ま た, 児 に は 母 乳 栄 養 を避 け た. 分 娩 後1か 月 目 に 免 疫 抑 制 剤 のAZを 妊 娠 判 明 前 ま で 内 服 し て い たMZ に 戻 し た. 分 娩 後1年6か 月 を 経 過 し て い る がCr は1.6mg/dl前 後 で 安 定, タ ンパ ク 尿, 高 血 圧 も 認 め て い な い. 児 も発 育 (精 神, 運 動) 等 問 題 な く経 過 し て い る. 〔症 例3〕 患 者: 28歳, 女 性. 家 族 歴: 特 記 す べ き こ と な し. 既 往 歴: 17歳 頃 よ り 腎 機 能 低 下 を 指 摘 さ れ る. 22歳, 慢 性 腎 不 全 に て 血 液 透 析 に 導 入 さ れ る. 26 歳, 兄 を ドナ ー と し て 腎 移 植 を う け る. 月 経 歴: 初 経11歳, 周 期 整. 透 析 期 間 中, 周 期 不 順 の こ と あ り. 結 婚: 21歳. 妊 娠 歴: 1妊0産 (24歳, 人 工 流 産). 現 病 歴: 腎 移 植 後1年6か 月 目 の1993年12月 に 妊 娠5週 で 妊 娠 判 明. 免 疫 抑 制 剤 は 維 持 量 と な っ て お り, Crは0.8mg/dl前 後 で 安 定 し, ま た タ ン パ ク 尿, 高 血 圧 を 認 め て い な か っ た た め, 妊 娠 を 継 続 し た. 図3 臨 床経 過 (症例3) 臨 床 経 過 (図3): 妊 娠 判 明 時, 免 疫 抑 制 剤 は CYA 125mg/day (2.5mg/kg), AZ 75mg/day, プ レ ドニ ゾ ロ ン (Pred) 10mg/dayの3剤 で 維 持 さ れ て い た た め, そ の ま ま 継 続 と し た. 妊 娠 週 数 が 増 加 し て も移 植 腎 機 能 は 安 定 し て い た た め, 妊 娠20週 か ら はAZを50mg/dayに 減 量 し た. ま た, Ht値 は や や 低 下 を 認 め た も の の35%を 維 持 し た. 産 婦 人 科 外 来 で2週 間 ご と に 管 理 さ れ, 妊 娠 経 過 は順 調 で あ っ た. 1994年8月18日 (妊 娠40
石 川 ほか: 慢 性 腎 不全 患者 の分娩 例 373
週6日) に腰 痛 を 訴 え て 入 院. 超 音 波 断 層 (エ コ ー) 上, 移 植 腎 に 軽 度 腎 盂 の 拡 張 を 認 め, Crも1.0
mg/dlと 上 昇 し た た め, 産 科 的 適 応 よ り41週0 日 に 帝 王 切 開 に て2,620gの 男 児 を 娩 出 し た.
Apgar scoreは1分 後9点, 児 はSGAで あ っ た
が, 外 表 奇 形, そ の 他 の 異 常 は 認 め ら れ な か っ た 。 産 後 経 過 は 順 調 で あ っ た. ま た, 児 に は 母 乳 栄 養 を 避 け た. こ の 症 例 に お い て, い くつ か の 検 体 に 対 し てRIA法 (シ ク ロ トラ ッ ク 全 血 用, Baxter 社) に よ りCYA濃 度 を 調 べ た と こ ろ, 表1に 示 す よ う に, CYA最 終 内 服 後7時 間 を 経 過 し た 分 娩 時 の 母 体 末 梢 血 で は140ng/ml, 臍 帯 血 で29 ng/ml, ま た 乳 汁 (初 乳) のCYA濃 度 は83ng/ mlで あ っ た. 一 方, 新 生 児 末 梢 血 は1日 目 で す で に20ng/ml以 下 と な っ て い た. 表1 シ ク ロ ス ポリ ン (CYA) 濃 度 (症 例3)
考 察
1. 血 液 透 析 患 者 の 妊 娠 ・分 娩
一 般 に
,
血 液 透 析 患 者 お よ びCAPD患
者 は 内分
泌 機 能 障 害 に よ り, 排 卵 障 害, 月 経 不 順 が 認 め ら
れ る こ とが 多 く, 妊 娠 の成 立 が 困 難 で あ る. 1992
年8月
まで の透 析 患 者 の妊 娠 ・分 娩 例 の 文 献 的報
告3∼13)は
我 々 の報 告 を含 め37例
で, 分 娩 年 齢 は平
均30.2歳
(21∼40歳),
透 析 歴 は平 均6年2か
月
(1年 ∼18年),
分 娩 週 数 は平 均32.1週
(23∼39
週), うち33例 (89%) が 早 産 (37週 未 満) で あ っ
た. 分 娩 様 式 は, 経 膣 分 娩16例,
帝 王 切 開20例,
不 明1例
で あ っ た. 出 生 体 重 は2,500g未
満 の低
出 生 体 重 児 が34例 (92%) を 占 め, そ の う ち1,500
g未 満 の極 小 未 熟 児 は17例
と半 数 を 占 め て い る.
しか し, 透 析 患 者 に対 し てrHuEPOが
使 用 さ れ
る よ うに な っ て か ら は, 妊 娠 ・分 娩 例 の 報 告 が 増
加3)して き て い るだ けで な く, 出 生 体 重2,500g以
上 の症 例 が12例
中3例
(rHuEPO使
用 開 始 前 は
0例) を数 え, 反 対 に1,500g未
満 の 症 例 は4例
と明 らか に減 少 して きて い る. 透 析 機 器 を 中心 と
した 透析 技 術 の 進 歩, rHuEPO使
用 に よ る貧 血 状
態 の 改 善 とい っ た ものが, 内 分 泌 機 能 を含 め全 身
状 態 を改 善 させ, 妊 娠 可 能 な透 析 患 者 の増 加 に関
与 し て い る と考 え られ, 今 後 も分 娩 例 の報 告 は増
加 す る もの と考 え られ る. 症 例1は
血 液 透 析 に導
入 され て以 来, 循 環 動 態 は比 較 的 安 定 して お り,
ま た精 神 的 に も安 定 して い た. 妊 娠 判 明 時 に患 者
に対 し, 透 析 患 者 が 妊 娠 を継 続 し た場 合 の 母 体 へ
の負 担, 自然 流 産 率 ・早 産 率 な ど に つ い て, さ ら
に胎 児 発 育 に関 して も, 母 体 にみ られ る尿 毒 症,
貧 血, 易感 染 性, 代 謝 性 ア シ ドー シ ス, 透 析 に よ
る循 環 動 態 の変 化 な どか ら正 常 妊 娠 に 比 較 し て,
ハ イ リス ク妊 娠 ・新 生 児 で あ る こ と を十 分 に説 明
した 上 で, 挙 児 を強 く希 望 し た た め, 妊 娠 を継 続
した. こ の症 例 は, rHuEPOが
まだ 普 及 して い な
か っ た 時 期 の も ので あ るた めHt値
を維 持 す るた
め に, 頻 回 の輸 血 をせ ざ る を得 な か っ た. 一 方,
妊 娠 中 の透 析 条 件 と して, 現 在 で もBUN
50∼70
mg/dl以
下, Cr 6∼7mg/dl以
下 に維 持 す る14)と
い う報 告 が 多 く, 我 々 の 症 例 も妊 娠23週
以 降 は,
週42時
間 の透 析 とな っ た が, この 条 件 を維 持 す る
こ とが で き, そ れ まで の報 告例 に お い て19例
中7
例 が 生 後 ま もな く死 亡 し て い る なか, 無 事 に 分 娩,
成 長 に 至 っ て い る こ と は評 価 で きる.
出生 児 に鎖 肛 を認 め た が, 先 の37例
の報 告 中,
奇 形 の 記 載 を 認 め た の は, こ の 症 例 の 他 に3例
(ASD
1例, PDA
1例, brain atrophy
1例)
を 数 え るが, 慢 性 腎 不 全 と い う母 体 環 境 と奇 形 と
の は っ き り と し た因 果 関 係 は不 明 で あ る.
透 析 患 者 のDWの
指 標 とし て, そ の有 用性 が 報
告15,16)さ
れ て い る α-hANPに
つ い て, 堀 口 ら3)は
妊 娠 中 のDW設
定 の指 標 の ひ とつ と し て有 用 で
あ る と して い る. また, 妊 娠 時 の α-hANPに
つ
い て は, 妊 娠20∼28週
よ り有 意 に増 加 す る とい う
報 告17,18)が
あ り, 今 後, 同様 の症 例 に対 し参 考 に し
て い きた い と考 え る.
2. 腎 移 植 患 者 の 妊 娠 ・分 娩
腎 移 植 は慢 性 腎 不 全 に 対 す る根 治 的 治 療 で あ
り, 移 植 腎 が生 着 した場 合 は, 完 全 社 会 復 帰 が 可
374 石 川 ほ か: 慢 性 腎不 全 患者 の分 娩例
能 と な る. な か で も, 妊 娠 可 能 年 齢 に あ る 女 性 移 植 患 者 に と っ て は, 妊 娠 ・分 娩 はquality of life (QOL) の 向 上 を 示 す も っ と も 端 的 な も の と い え
る19∼21).
表2 Criteria for consideration of pregnancy in renal transplant recipients
(文 献22)よ り 引 用) (1987 Davison JM)
腎移 植 後 の妊 娠 ・分 娩 の条 件 に つ い て は, い く
つ か の基 準 が 示 され て い る が, Davisonら22)あ
る
い は高 橋 ら20)の基 準 が 一 般 的 で あ る (表2) . この
な か で, 移 植 後2年
以 上 健 康 で あ る こ とが 条 件 と
され て い るが, 最 近 で は移 植 後1年 以 内 で の分 娩
例 も報 告23)され て い る. また 動 物 実 験 と臨 床 投 与
量 とで, 催 奇 形 性 をお こ す量 に それ ほ ど差 が な い
とされ て い るMZを
投 与 した 例 で の 妊 娠 ・分 娩 も
増 加 して きて い る. 現 在 まで にMZ使
用 例 で の分
娩 の う ち, 実 際 に奇 形 を認 め た の は3例20,24,25)で
あ る. AZとCYAに
関 し て は, 種 に よ って 免 疫
抑 制 剤 の感 受 性 は違 うが, 動 物 実 験 で催 奇 形 性 お
よ び変 異 原 性 作 用 を起 こす 量 に比 べ て臨 床 投 与 量
で はか な りの 差 が あ り, 移 植 患者 の 妊 娠 ・分 娩 に
は他 の薬 剤 よ り も使 用 しや す い26)と考 え られ る.
臨 床 に お い て は妊 娠 判 明 時 に, す で に胎 児 は器 官
形成 期 を む か え て い た り, そ れ を過 ぎ て い る報 告
例 が 多 いが, 我 々 の施 設 で は妊 娠 判 明 時 が器 官 形
成 期 で あれ ば, で き る限 りMZはAZに
変 更 す
る 方 針 で あ る. 症 例2は
こ の点 を考 慮 し, 妊 娠 判
明 時 に免 疫 抑 制 剤 を変 更 し た. また この例 は, 配
偶 者 の いず れ もが 移 植 患 者 で あ る稀 な ケ ー ス で,
と も に免 疫 抑 制 剤 を 内服 して い る状 態 に あ り, こ
の場 合, 胎 児 の催 奇 形 性, 変 異 原 性 が 増 大 す るか
ど うか に関 して は, 報 告27)が少 な い た め, 不 明 で あ
る.
現 時 点 でCYAは,
腎 移 植 後 に 投 与 さ れ る免 疫
抑 制 剤 と して, 単 独 あ る い は併 用 で 最 も使 用 され
て い る薬 剤 と考 え られ る. CYA登
場 以 前 に 中 心
とな り用 い られ て きたAZは,
胎 盤 通 過 性 が よ く,
母 体 血 中 の60∼90%が
胎 児 血 清 中 に 移 行 す る28)
と い わ れ て い る. 一 方, CYAの
胎 盤 移 行 性 は
25∼56%29∼31)と され, AZに
比 べ て低 い と考 え ら
れ て い る. 症 例3に
お け るCYA濃
度 (RIA法)
の検 討 で, 分 娩 時 の母 体 末 梢 血 (最終 内 服 後7時
間) で140ng/ml,
臍 帯 血 で29ng/mlと
他 の 報
告29∼33)に
比 べ 移 行 性 は低 い も の の, 妊 娠 中 に胎 児
は 常 にCYAに
曝 露 さ れ て い る こ とが 示 唆 さ れ
た. 出 生 時 の新 生 児 末 梢 血 のCYA濃
度 は測 定 し
て い な い が, 生 後1日
目 の 末 梢 血 で は す で に20
ng/ml以
下 とな り, 主 と して 肝 で 代 謝 され る薬 剤
で あ るた め, 肝 機 能 障 害 の な い場 合 は速 や か に 排
泄 さ れ る もの と考 え られ た.
一 般 に
, 薬 剤 の 乳 汁 移 行 性 に関 与 す る因 子 の ひ
とつ に脂 質 へ の溶 解 性 が あ げ られ るが, CYAは
脂 溶 性 で あ る た め, 母 乳 へ の 移 行 性 は高 い と考 え
られ, 実 際 に い くつ か の報 告30,32,33)でCYAが 高 濃
度 に 母 乳 中 に分 泌 さ れ て い る こ とが 示 さ れ て い
る. 症 例3に
お い て も, CYAは
母 乳 中 に高 濃 度 に
分 泌 さ れ る こ とが確 認 さ れ た. また, CYA内
服 後
の 時 間 に よ っ て は, 母 乳 中濃 度 が 血 中 濃 度 を上 回
る との報 告33)もあ り,
我 々 の施 設 で は,
母 乳 栄 養 は
避 け る よ う に指 導 して い る.
腎 移 植 患 者 の妊 娠 ・分 娩 に は, そ の 他, 妊 娠 経
過 中 か ら産 褥 期 に か け て の感 染 症 や 拒 絶 反 応 を含
め た 移 植 腎機 能 低 下 な ど多 くの 問 題 が あ るが, 移
植 腎 生 着 率 の 安 定 して き た今 後 は, さ ら に症 例 は
増 加 す る と考 え られ る. 我 々 の 施 設 で は, 妊 娠 可
能 な 患 者 に は, 移 植 後 退 院 時 あ る い は外 来 診 察 時
に 「
妊 娠 す る可 能 性 の あ る時 は, 早 め に 主 治 医 に
連 絡 す る よ う」 指 導 して お り, 妊 娠 が 判 明 し た際
に は, 先 の妊 娠 許 可 条 件 を念 頭 に 入 れ て判 断 し,
い た ず らに 患 者 を心 配 させ る の で は な く, 過 去 の
報 告例 な ど も率 直 に説 明 し, 対 応 す る こ とが 重 要
で あ る と考 え る.
石 川 ほ か: 慢性 腎不 全 患 者 の分 娩 例 375
本 論文 の要 旨 は,
第21回 東北 腎 不全研 究 会 にお い
て報 告 した.
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