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トピックの扱いから見た中等教育用 教材の特色

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(1)

0.はじめに

海外では日本語教育の比重は、高等教育から初等・中等教育へと移行している。1988 年の国際交流基金の調査によれば、海外で日本語を学ぶ学習者の数115カ国、210万人の 内、初等・中等教育機関で日本語教育を行う国は58カ国(1993年と比べ13カ国増)、学 習者は138万人(26.4%増)で、全体の66%を占めるに至っている1

学習者の増加と多様化2に伴い、中等教育用の教材がオーストラリアを中心に開発され てきているが、それらを見ると、海外で日本語を学ぶ中高生の学習意欲を高めるために、

視覚的にアピールするイラストや、カラフルな写真、漫画による導入など、中高生の興味 や関心をひきつける工夫が見られる。特徴的なのは、アクティビティを中心としたコミュ ニカティブな活動を通して言語使用体験を積むことにより外国語の習得を目指すという方 法であり、これらの活動は中高生に身近なトピック(familiar, everyday topics)、興味の あるトピック(topics of interest)を中心に編纂されているということである3

本稿では、中等教育の教材が、学習者である中高生にとって身近なトピック、興味や関 心が持てるトピックを取り入れているという前提に基づき、どのようなトピックがどのよ うに扱われているかを分析することにより、中等教育段階での日本語教育では何をどのよ うに教えようとしているのかについてトピックという視点から考察したい。

1.トピックとその分類

1-1.トピックと話題

トピックという視点から教科書を分類するためには、トピックの定義と、分類のための フレームが必要であるが、トピックは一般用語であり先行研究でも特に定義はされていな い。トピックは「話題」と訳されることもあり、以下のように説明されている。

「話題」4:「ある課の初めから終わりまで貫いている「テーマ」あるいは「意図」と解釈

教材の特色

―トピックとテーマに関する考察から―

船山 久美

キーワード

教材分析・中等教育・トピック・シラバス・コンセプト

(2)

されるもの」

「話題」5:「初級レベルでの学生が取り上げることのできるいわゆるhere and nowつまり 時間的にも場所的にも学習者に身近な話の内容を取り上げる。」

「話題」6:「それをめぐって授業内外の学習活動を展開するためのテーマであり、生徒が 日本語による会話や文章でコミュニケーションを行う際に触れる具体的な内容 である。」

「話題」7:「会話の参加者がある事態に関連して話しているとき、その内容の枠組みを話 題という。」

「話題」には、テーマに近い深い抽象的な概念から、談話分析的な視点から定義された 会話における話題までの広い認識の仕方があることが分かる。会話教材の内容分類をした 吉岡は「話題」8について、会話において「何について話しているかという観点から項目 を立てたもの」としている。

次にシラバスという観点からトピックと話題を見ると、次のような定義が見られる。

「トピックシラバス」9:「主として学習者が日本人と話をするときにどんなトピックが多 く現れるか、そのトピックを中心に組んだシラバスである。…日本語を使って 仕事をする外国人ビジネスマンが日本人と商談する時にどんな話題がでてくる かを考えると、話題はだいたい決まった範囲内に落ち着くことが多い。そのよ うなトピックを中心とした学習項目立てをして教育したとすれば、それはトピ ック・シラバスによる教育ということになる。」

「話題シラバス」10:「学習者が目標言語の話し手と目標言語を使ってコミュニケーション する時の話題を学習単位とするシラバス。それぞれの話題ごとに必要と考えら れる言語表現や語彙を選択・配列する。例えば「家族」「好きな食べ物」「子供 のころの経験」など個人的な事柄に関する話題の他、社会的な出来事や問題を 話題にして意見を述べるなどが学習単位となる。」

以上のように「トピックシラバス」または「話題シラバス」とは学習者が関心を持ってい るトピックを集めてシラバスを編成したものであり、この意味ではトピックと話題はほと んど同義語として使われている。

本稿では教材を分析するにあたり、教科書に「トピック」という指定があるときはそれ に従う。それ以外は、各課のタイトルまたは、各アクティビティの名称や、教材で紹介さ れている社会・文化的な情報の内容をトピックとして、分析の基準とする。

1-2.分類のためのフレームの作成

トピックの分類のためのフレームの作成に際し、Kato(1995)、岡崎(1989)11、横畠

(1997)等を参考に下の表1を作成した。

1

トピック分類のためのフレーム

自分

(3)

自分

(4)

2.分析対象教科書

各国の中等教育機関で様々な教科書が使われているが、本稿では、日本、オーストラリ ア、アメリカで使用されている中等教育用に制作された初級用の総合教科書を対象とし、

ひらがな、カタカナ等の個別技能の習得を目的とするものは除く。以下、取り上げる教科 書、対象部分、及び教科書の略称を示す。

日本

(1)『にほんごかんたん Speak Japanese 1〜3』(1988〜97)坂起世、吉岐久子著

(1は4課以降の会話部分、2〜3はトピックの名称。総課数 30)以下『かんたん』

(2)『モジュールで学ぶよくわかる日本語 Japanese in Modules ①〜③』(1993〜98)

コーベニ澤子、高屋敷真人、本間直子著12

(目次のタイトル。総課数 15) 以下『モジュール』

(3)『ヤングのための日本語Ⅰ〜Ⅲ』(1998, 99, 2001)国際日本語普及協会編

(目次のタイトル、「Japan news」の内容。総課数 45) 以下『ヤング』

アメリカ

(5)『きせつ 春一番』(2000)Kazuo Tsuda, Masatoshi Shimano

(二つのテーマの下の4つのユニットのタイトル、「culture」「connection」の内容。

総課数 2テーマ4ユニット+2ユニット13) 以下『きせつ』

オーストラリア

(6)『よろしくシリーズ』Curriculum Corporation

『もしもし』(1993)ステージ1&2

『ぺらぺら』(1994)ステージ3&4

(モジュールのタイトルとアクティビティの名称、「日本語ワールド」の内容。総課 数 29) 以下『よろしく』

(6)『いま!1〜2』(1998〜2000)Sue Burnham

(1は目次のタイトル、まんが、フォトストーリのタイトル。「面白い日本」の内容。

(5)

2はトピックの名称「Social and Cultural awareness」の内容。総課数 15)

以下『いま』

(8)『おべんとう1〜3』(1996〜2000)Peter Williams et al

(1〜2はまんがの「いただきます」のタイトル。3は「準備体操」と「会話」。

総課数 28) 以下『おべんとう』

(9)『いっしょに1〜3』2nd Ed. (1992〜94)Margaret Lee

(教師用指導書でテーマ、トピックとされているもの、「Socio - cultural and other

data」。総課数 30) 以下『いっしょに』

(10)『みらい: STAGE 1〜3+4』(1999〜2001) Meg Evans et al

(1〜2はパートとテーマのタイトル、1の「インフォ」、2の「あきのやまにききま しょう」、3+4の「ホームページ」。 総課数 11パート29ユニット)

以下『みらい』

(11)『みらい: STAGE 5〜6』(1995〜96) Meg Evans、Ikuo Kawakami et al

(Teacher s book のTheme, topic並びにcultural information/content。総課数 6パート24ユニット) 以下『未来』

(12)『KOOKOO SEIKATSU: 1~2』revised(2000)Keiko Aitchison

(TOPICS、英文説明。総課数 17) 以下『高校生活』

3.教材で扱われるトピック

3-1.トピックの分布

教材で取り上げられるトピックで一番多いのは「余暇」であるが、これは、趣味、スポ ーツ、ゲーム、映画、テレビ・アニメなど会話や漫画にしたとき、中高生の話題になりそ うなトピック多いからである。特に、柔道や空手などの日本の伝統的なスポーツ、アニメ や漫画などは、情報として英文で紹介されることも多い。

その次に多いのは、「学校生活」だが、中高生の生活の中心を占めるのは学校であるこ とから学校を場面とした会話や漫画が多い。取り上げ方としては、日本の学校制度、制服、

規則の厳しさ、学生が教室を掃除する習慣、クラブ活動や先輩と後輩の関係など、日本の 学校生活の特徴的なところを取り上げ、海外の中高生が自分たちの学校生活と相違点を比 較できるような、情報として、活動としても面白いトピックが多い。

3番目に多いのは、「日常生活」だが、この中には時間・曜日・月日、数え方が項目と して入る事も一因かと思われる。また、この範疇にあるアルバイトは中高生の関心の高い トピックのひとつであり、特に日本からの観光客の多いオーストラリアではツアーガイド や日本食レストランでのアルバイトなど、実際に日本語を使う可能性が高い場面を取り上 げている。

4番目に多いトピックは「食生活」である。好きな食べ物を決めて注文したり、ファー ストフード店でのメニューをカタカナで読んだり、ピザをオーダーしたりする以外にも、

伝統的な日本食の紹介や日本食(お好み焼き、すき焼き、カリフォルニアロール等)を作 るというアクティビティもある。

「住居」については、主人公が日本にホームステイに来て、お風呂やスリッパに驚いた

(6)

り、布団に寝たり、畳に座って足がしびれたりというような体験をするという話(『未来』) や、日本の家の間取りを見て好きな部屋を選んだりするアクティビティがある。また、人 や物や建物の場所の存在や所在を表す文型指導をこの項目で展開することも多い。

「情報・通信」の項目では、ほとんどの教科書で葉書や手紙の書き方(ホストファミリ ーへの御礼の手紙、引越しのお知らせ、パーティの招待状など)が取り上げられているが、

インターネットや携帯電話でのメールについてはどの教科書も取り上げていない。『いま』

は携帯電話の広告写真を掲載しているだけである。『おべんとう』はポケベルのメッセー ジの書き方について取り上げているが、残念なことに若者の間ではポケベルはもうほとん ど使われていないので時代遅れの感が否めない。流行に敏感な中高生の関心を引くために は現在の日本で流行している最新のものを取り上げることは大切だが、教科書が出来上が った時にはもう使われていないという可能性もあり、取捨選択は難しい。そしてこれはト ピックだけでなく、写真についても言えることであろう。

その他、数は多くないが、環境問題やリサイクル、自然保護や野生動物などの、生徒へ の問題提起を目的にしたトピックもある。

3-2.各教材の概略と教材に占める各トピックの傾向(表3、表4参照)

次に、各教材の簡単な概略と各教材にどんなトピックがあるかについて述べる。

(1)『かんたん』は日本で最初に制作された中高生用の教科書であり、機能シラバスに沿 って会話例が挙げられている。中心的な主人公は6人(米、英、奥、韓、ブラジル、日)

の学生であるが、6人の関係や場所の設定が明記されておらず、会話の場面もイラストで 想像できる程度である。BOOK2からはタイトル(L3. Making Decisions)の下にTopic

(Ordering take away or home delivery)が記載されるように変更され、文型練習の後に

「よみましょう おぼえましょう」でかなり場面も登場人物も状況も明確に設定された会 話や手紙が提示されるようになった。

2

トピックの分布

(7)

『かんたん』はトピックの絶対数は少ないが、トピックの偏りは少なく、非常にオーソ ドックスなテキストである。会話の部分の対訳はない。

(2)『モジュール』は、特定の主人公はいないが、生徒の実生活にもとづいた身近なトピ ックを中心に編纂されているモジュール式教材である。ゼロ初級対象ではなくある程度日 本語を学習した生徒向きで、あるトピックの中でコミュニケーション能力を育成するため に必要な文型、語彙、表現などを選び、それらを身につけるための練習を行う。アクティ ビティは文型や定着を目指すものである。

『モジュール』のトピックは全部で15あり、「余暇」に分類したものは「スポーツ・レ ジャー」「私の国へようこそ」「日本に行って」「旅行に行こう」の4つである。「日常生活」

には「私の一日」「ホームステイの経験」「「お世話になりました」の3つがある。最後の モジュールは「地球を守ろう」であり、具体的にはゴミ、大気汚染、リサイクル、ゴルフ 場建設などについてである。『モジュール』トピックの分布には偏りがあるが、制作者は 中高生の興味を持ちそうなトピック、知っておくべきトピックを選択したのではないかと 思われる。

(3)『ヤング』は機能と文型重視だが、主人公がいて、会話がついている。主人公はアメ リカ人「バード」と日本人「加藤けん」、そしてこのふたりの家族である。各課に複数の 機能や文型が盛り込まれているので、タイトルは代表的な機能を表す文となり、課全体を 貫くものではない。例えば、Iの14課のタイトルは「GOING WITH MY FRIEND まい にち かとうくんと がっこうへ いきます。」学習すべき機能は①Coming and going,

②Going and coming back, ③Speaking to Sempaiの三つである。以下はこの課のMain

Dialogueでバード君と加藤君のお母さんの会話である。隣のページに漫画があり、吹き

出しで英語の訳をつけてある。

B :ただいま。

M:おかえりなさい。

B :あした どうぶつえんへいきます。

M:だれと いきますか。

B :やまもとくんと きむらくんといきます。

M:たなかせんせいも いきますか。

B :はい、いきます。

○バードくんは あした たなかせんせいと ともだちと どうぶつえんへいきま す。

会話の下には囲み記事で「JAPAN NEWS」があり、日本の屋内では靴を脱ぎスリッパ を履くことについての英語の説明がある。帰ってきたバードが靴を脱ぎながら動物園へ行 く話をするという会話は不自然であり学習すべき機能の①と②の練習と靴を脱ぐ習慣を紹 介するために玄関で動物園の話題を出したのかと思われる。

同じ課のタスク「どの絵ですか。」の2は「7がつ ようかは たんじょうびでした。

プレゼントは カメラでした。おおきい ケーキを たべました。」で4つの絵から正し

(8)

いものを選ぶことになっているが、この課の学習すべき機能にも、タイトルにも全く関係 ない問題である。このようなタスクはその課で取り上げるべき文法項目の理解と練習を目 指したものでさえない。カラフルなイラストと同年代の主人公の設定は確かに中高生を意 識したものであろうが、この教科書でどのような能力を育成するのかについては不明であ る。

『ヤング』のトピックは「学校生活」が多いことが特徴的である。二番目は「余暇」で ある。その他は「行事」「地理・交通」「住居」など初級の文型が使えそうなトピックが多 い。

(5)『きせつ』はACTFLのアメリカのナショナルスタンダード14の中心となる5つのC、

Communication (interpersonal, interpretive, presentational) Cultures

Connections (social studies, music, mathematics, computer science, biology,) Comparisons (language, pronunciation, kanji and kana)

Communities (self-and peer assessments, portfolio assessment, social, community) を反映し、現在のアメリカの主流であるコンセプト・ベースト・カリキュラム15を外国語 教育に適用した教科書である。『きせつ 1 春一番』は4部作の一冊目で、二冊目『きせ つ 2 銀河』は2003年初頭にも発刊される予定だ。著者の一人である津田和男は「教 育のための日本語教育」16を提唱し、生徒に事実(ファクト)の暗記を強いるのではなくコ ンセプトをめぐって内容(コンテント)把握できる人間に育つことを目的としている。ゼ ロ初級の中高生に対し、深く応用の利くコンセプトの下にやや具体的なトピックを統合し たカリキュラムである。同じコンセプトのもとに他教科の内容を積極的に取り入れている こと(connections)、各課の最後には自己・クラスメートによる批判・反省が取り入れら れていること(communities)も特徴の一つである。内容の概略は以下の通り。

Getting Started I:自己紹介、挨拶、感謝などの簡単な応対を導入しながら、カタカナ、

長音、濁音、拗音、などを教える。TPRを取り入れたアクション。

Getting Started II:いくら、何時、好き嫌い、性格、何をするつもりかなどの短い応

答を導入する。語彙はマインド・マッピング(連想発想技能)で導入。カタカ ナの復習をしながら、ひらがなと長音の導入。

1.出会い 1.誰かに初めて会う

2.パーティをしましょう(デシジョン・メイキング)p. 186 2.気づき 3.もっとよく知ろう:アイデンティティ

(例えば、形容詞も自分や友人を語るために必要な形容詞が導入され、カウン セリングの手法を取り入れた「三面鏡」のアクティビティを行い、自分に対す るイメージと他人が自分に持っているイメージの差を知る。)

4.日本文化週間を企画する:会議を切り盛りする。発言。議長の役割。

『きせつ』では二つの深いコンセプトの下に具体的なトピックが網羅されている。トピ ックの分類から見ると「自分」「学校生活」の占める割合が多く、日本語学習の最初の段 階では「自分」や、学生としての生活基盤である「学校」がトピックとして取り上げられ る傾向と一致している。

(9)

スタンダーズの5つのCの一つであるconnectionsは、外国語と教科学習の統合を図ろ うという目標であるが、『きせつ』では日本語で数学の掛け算や割り算をして通貨レート を計算したり、パソコンの容量を測ったりするなど、教科学習を積極的に取り入れようと している。

( 6 )『 よ ろ し く 』 は オ ー ス ト ラ リ ア の 言 語 政 策 を 実 現 す る た め の 枠 組 、N a t i o n a l Curriculum Guidelines for Japanese17を具現化する布石として制作された。コミュニケー ションのためのアクティビティの教材バンクのような役割をしているので、トピックの数 も多い。基本的にKey functions and notionsが中心になり、具体的なトピックのもとに多 様なアクティビティを展開している。主人公は5人+1(奥2、米2、日1、オストリッジ1)。

(7)『いま』の1は金沢の浅野家が舞台。2は慶應藤沢の中等部・高等部の学生が主人公。

フルカラーの写真で、主人公の生活や周囲を紹介している。コミュニケーションタスクが 多く、タイトルは課全体を貫くものではない。

『いま』は「余暇」と「学校生活」に分類されるトピックが特に多いことが特徴である。

「余暇」の例ではルーズソックスをはいた慶應藤沢の生徒たちがカラオケする様子が写真 ストーリで展開される。生徒たちはカラオケへ行く前に天気予報を聞くのだが、天気に関 する言語的項目を学習させるためにこのようなフォトストーリを作るのは不自然であり、

各トピックは相互関連性を欠いたまま混在しているように見える。

(8)『おべんとう』1は中山学園という架空のインターナショナルスクールを日本に設定、

主人公として日本人7人とオーストラリア人2人、ニュージーランド,アメリカ、カナダ、

インドネシアの生徒が各一人ずつ登場する。2では大半の交換留学生は国に帰り、場面も 中山学園の外が多くなる。主人公は1と同じだが少し成長した日本人7人とオーストラリ アの生徒の一人に、そのいとこが加わる。

『おべんとう』の名のごとくいろいろな要素のアクティビティがひとつひとつ綺麗に 盛り付けられているが、タイトルは課全体を貫いたテーマとはなっていない。

トピックの分布では「余暇」と「自然・天候」が他のトピックに比べ非常に多いこと が特徴的である。「自然・天候」の項目では例えば、津波、地震、台風、火山、雪は、

春一番などをひとつひとつ説明している。基本的には機能シラバスだが、導入としての 漫画はユーモラスで楽しい。

(9)『いっしょに』

テーマは各課のタイトルで、その下に記載されているトピックは言語項目や機能に近い もの。まんがを使った会話は文法項目を重視した結果不自然なものが多い。例えば、

Book1のUnit 3:じこしょうかい3 Topics: 一 Where one lives, 二 Where one wants to go, 三 where one goes, 四 Geography of Japan

Dialogue(4コマ漫画で、場所は日本の駅のホームらしい)

一 女の子:こんにちは。あなた は アメリカじん ですか。

男の子:いいえ、オーストラリアじん です。

(10)

二 女の子:どこ に すんでいますか。

男の子:ブリズベン に すんでいます。あなた は?

三 女の子:わたし は こうべ に すんでいます。

男の子:そうですか。どこ へ いきますか。

四 女の子:きょうと へ いきます。

男の子:どうして?

女の子:きれい だ から です。

男の子:そうですね。わたし も きょうと へ いきたい です。

この会話では日本にいる男の子が、「ブリズベンに住んでいます」というのもおかしい が、次のステップでは、「ブリズベン」をオーストラリアの生徒たちが自分の住んでいる 地区に置き換えて練習することになっているのでこの文が必要だったと思われる。

「どうして?」ときかれた女の子が「きれいだからです」という理由を述べるが、これ も形容詞を入れ替えて練習することになっている。練習は「どうして。」「(形容詞)から です。」の文型パターン練習で、な形容詞とい形容詞の使い分けがポイントである。

教師用指導書は懇切丁寧で必要な説明とリソースがあり、教師は忙しいので必要と思わ れるものは全て揃えておいたと書いているだけあって、非常に丁寧である。

トピックの分布は「学校生活」「日常生活」「余暇」「価値観」がやや多いものの、余り 偏りがない。

(10)『みらい』の1〜2巻は田中先生と柔道アカデミーに所属する生徒達が主人公で、日 本人3人、カナダ人1人、オーストラリア人3人(それぞれ肌の色が違う)である。しか し2001年に刊行された3+4巻は「ザ・バッグズ」というオーストラリアのアイドルグル

3

トピックの分布(各教科書ごとのトピック割合)

(11)

ープが日本公演をするという設定になっている。

『みらい』ではパートという大きな単位があり、その下にユニットがある。これは、『き せつ』のコンセプトとタイトルの関係に似ている。ただし、3+4ではパートのテーマとト ピックに関連性が見られない傾向がある。以下パートとユニットの例である。

みらい1 パート1:ともだち ユニット1:どうぞ よろしく ユニット2:なんさい ですか

ユニット3:どこに すんで いますか パート2:がっこう ユニット4:なん ねんせい ですか

ユニット5:りかは おもしろい です ユニット6:せんせい、みてください みらい3+4 パート2:ザ・バッグズ、へいわと しぜんを かんがえる

ユニット4:ひろしまで おなかが いたくなりました!

ユニット5:ザ・バッグズ、ふじ山で ぼんおどり!

ユニット6:母は あいぞめに きょうみが あります。

広島と「平和」、藍染めと「自然」は関連付けできても、「富士山で盆踊り」と「日本の季 節に何を着る」というトピックは結びつきにくい。

『みらい』のトピック分布は他の教材に比べ「地理・交通」が多いが、3+4巻でザ・バ ッグズが日本の各地を回ってコンサートをするという設定なっており、各地の説明がある ためである。

(11)『未来』シリーズ全六巻の最初に作られたのが5〜6巻で、継続学習者用の教科書。

主人公は日本へ留学するジョン・モリスと、オーストラリアへ留学する山口幸子が中心。

二人の異文化体験を生徒が疑似体験するという仕掛けになっている。

4

トピックの分布(各教科書のトピックの量)

(12)

著者の一人である川上18は制作上の留意点として①学習者の興味や関心を中心、②多様 な文化との出会いを体験できるようなアクティビティ重視、③異なる他社との共生を目指 す異文化適応能力の育成という三点を挙げている。(10)の『みらい』と同様パートとユ ニットに分かれている。一つのパートのもとでユニットは相互に関連している。

トピックの分布は「地理・計画」が多いが6巻のパート1が「旅」というテーマで、日 本各地を回ることによる。「余暇」は他の教科書よりも少なめでバランスが取れている。

(12)『高校生活』高校2〜3年生で、日本語のVCE19を受験する人のための対策用のテキ スト。継続学習者を対象としたVCE対策用試験問題がある。

トピックに関しては「自分」についての項目がないこと、「食生活」の話題が比較的多 いことが特色である。

4.教材におけるトピックの分類

以上、トピックを分析して各教材の特徴を見てきたが、これらの教材はトピックの扱い 方により以下の4種類に類型化できる。

1)文法中心+トピック型

基本的には構造シラバスで構成され、本文会話はあるが、現実とはかけ離れていたり、文 法的項目をはめ込んだりするために必要な抽象化された場面である。トピックは会話また は漫画につけられたタイトルである場合が多い。トピックは課全体を貫いておらず、文法 項目を定着させるための練習と応用練習がある。機械的なドリル練習が中心で、結果的に 文法項目の習得が目的となる。

教科書:『ヤング』、『いっしょに』、『高校生活』

2)コミュニカティブ+トピック型

基本的には機能シラバスであるが、アクティビティによるコミュニケーション能力の養成 を重視する。一つ一つの機能のために行うアクティビティの内容がトピックとなる場合が 多く、1課の中で複数のトピックが扱われる。最初に提示される会話や漫画でその課の代 表的な機能を表す文が提出され、その文がその課のタイトルとなる場合が多い。タイトル はテーマとして機能せず、具体的ではあるが広く浅いトピックは相互関連性がない。

学習者は一つ一つ個別に言語項目を使う練習をするので、逆に表現したい内容があっても どの表現形式を使ったらよいのか分からなくなる可能性がある。

教科書:『かんたん』、『いま』、『おべんとう』

3)コンセプト+トピック型

各課は一つのテーマを持ち、そのテーマのもとに具体的なトピックが相互関連的に配置さ れ課全体をまとめている。この場合のテーマはトピックよりも深く統合的な概念であり、

トピックをまとめている。概念を理解することにより学習者が考える力を育成することを 目的としている。

(13)

教科書:『きせつ』『みらい1〜2』『未来』

4)モジュール+トピック型  

各課に独立したトピックがあり、前後の課との関連がないモジュール型教材。ある程度の 言語項目(文法・文型)を学習した後で使用することが多い。初級段階では文法項目の定 着のためのアクティビティ集、つまり「楽しい」パターンプラクティスのアイデア集とし て使われることが多い。

教科書:『モジュール』

以上、トピックの扱われ方という視点から教材を見るとあたかもトピックベースである かのようなタイトルで目次を構成したり、トピックベースを主張したりする教材もあるが、

実際には構造シラバスまたは機能シラバスが中心で、トピックは導入の会話のタイトルや、

導入したい機能または文型の例文でしかない場合が多い。

一つの文型の定着のために独立したアクティビティを行うと、文型の導入のたびに全く 関連性のないトピックのアクティビティを行うことになる。たとえば、『おべんとう』に は一つの課にいろいろな言語項目が盛り込まれており、多様なアクティビティがある。こ れらのアクティビティを行うと、広く、楽しく日本語が学べることは利点ではあるが、学 習者がこれらのアクティビティから何を習得できるのかは疑問である。例えば教科書から 離れて自分の言いたいことを表現したいと思った場合、習得したはずの文型の中から的確 な文型を選択して表現できるようになるかどうかは疑問である。

そこで、『みらい』1〜2と、『未来』のように、トピックよりも統合的なテーマによっ て課という単位をまとめ、その中で具体的なトピックを相互関連付けて組み合わせるとい う方法が考えられる。しかし、この場合はトピックを厳選しなければならず、また、観光 というテーマを設定すると、観光に関連した語彙しか学習できないことになる。トピック が身近で具体的であればあるほど、一つのトピックについてバランスよくいろいろなアク ティビティを展開することは難しくなるのである。

この点に関して、『きせつ』はコンセプトを柱として確立することによって、いろいろ な場面や話題を取り込むという方法を取っている。具体的には、 decision making とい うコンセプトを理解させれば、このコンセプトが使える場面をいろいろ取り込み、発展さ せることができる。寿司屋やマクドナルド、生徒会や文化祭から、誕生会や買い物までを 含むことが可能となる。この場合には、場面に応じて必要な語彙が変わってくるので、複 雑な文法の導入は極力抑え、必要とする語彙や表現のレベルを高くするという方法をとっ ている。

5.海外における中等教育の教材の方向性

海外に於ける外国語(日本語)教育の目的はコミュニケーションを重視した言語習得の みにとどまらず人間教育のための日本語教育20であると各国の教育理念は述べている。そ れゆえ、選定されるトピックは学習者にとって身近で興味があると同時に、心の発育又は 認知的な発育を促すようなトピックでなければならない。

(14)

それでは、中等教育ではどんなトピックを取り上げるべきなのだろうか。それは中等教 育における外国語教育の目的という枠組みの中で、個々の学習者の興味によって選択され るべきであろう。

具体的な教材の方向性として筆者が考えるのは、トピック分析から得られた教材のタイ プの中の4番目のモジュール型+トピックである。この形は、シラバス・ガイドラインに よる文型や語彙が国や州によって変わっていたとしても、副教材として使用できるであろ う。現在は文法・文型定着のためのアクティビティ集という形で『モジュール』があるの みである。しかし、CALLA21で挙げている情報収集、比較、分類、分析、推論、問題解 決、統合というような言語機能の育成を目的にしたモジュール教材を作成できれば、学習 者の知的、社会的な発達を育成する能動的な日本語学習ができる可能性がある。

教材の方向性を示すだけでなく、このような考え方を具体的に表した提案をすることを 今後の課題にしたい。

1)国際交流基金日本語国際センター(2000)

2)オーストラリアでは、学習者の母語(背景)や学習の開始時期、学習の目的などが一律ではなく ても全ての学習者のニーズに対応できることを基本理念としている

3)

Curriculum Corporation, 1993『よろしく』p. 12.

4)日本語教育学会編(1991)p. 208.

5)岡崎敏雄(1989)初級レベルで取り上げる複合シラバスとして課題、話題、一般言語習得、情意、

異文化の

5

つに対応したリストを紹介する前提としての性格付け。pp. 82–3.

6)国際交流基金日本語国際センター(2002)p. 32.

7)柳沢好輝・石井理恵子監修(1998)

8)吉岡英幸(2000)

9)田中望(1988)p. 94.

10)柳沢好輝・石井理恵子監修(1998)

11)岡崎敏雄(1989)pp. 86–7.

話題のリスト

1.

自己について(住所、電話番号、年齢、国籍、年月日、未/既婚の別、職業、言語)

2.

家族、友人、人間一般

(1)家族、親族  (2)身体的概観  (3)性格

3.

日常生活

(1)日課     (2)時間

4.

住居

(1)建物 (2)部屋 (3)家具 (4)家庭用品 (5)家事 (6)ペット

5.

食事

(1)飲食物  (2)食事   (3)注文

6.

買い物

(1)お金  (2)値段   (3)流行

7.

レクリエーション

(1)スポーツ (2)気候  (3)季節の行事、活動 (4)休日 (5)文化、芸術

8

プラン

(1)近い将来の計画 (2)遠い将来の計画・希望

9.

過去の経験

(1)近い過去の出来事、経験 (2)幼、少、青年期の経験 (3)経験全般

(15)

10.

職業

(1)業務一般  (2)職種  (3)職場  (4)給与

11.

旅行

(1)地理 (2)交通手段 (3)休暇 (4)旅行の計画、経験

12.

健康

(1)身体の部分 (2)身体のコンディション (3)精神状態 (4)健康保持

13.

価値観

(1)家族 (2)友情 (3)愛情 (4)結婚 (5)精神状態 (6)人生上の目的

14.

自然科学

15.

歴史

16.

地理

17.

産業

18.

社会

(1)政治 (2)国際関係 (3)経済 (4)企業 (5)社会 (6)交通・通信

19.

文化

(1)思想 (2)教育 (3)心理 (4)生活

20.

芸術

(1)文学 (2)言語 (3)美術 (4)写真、映画 (5)音楽 (6)演劇、舞踏

12)出版は日本だが 著者のコーベニ・澤子、高屋敷真人、本間直子はオーストラリア・マードック 大学日本研究科の専任講師だった。便宜上日本の教材とする。

13)

Getting started I

Getting started II

というユニットがあり、発音、カタカナ、ひらがな、挨拶 などを表現として導入している。

14)

American Council on the Teaching of Foreign Languages (1996)

15)

Erickson, L. (1998)によれば、アメリカでは 90

年代に

fact

中心の学習 から

critical thinking, problem-solving 中心の学習へとシフトが起こった。コンセプト・ベースト・カリキュラムでは

深いコンセプトを理解させることにより、知識は統合され、学生は深い理解へ到達し、そのコン セプトは広い分野に適応できるとしている。伝統的なトピック・ベース・カリキュラムへの反省 から生まれた。

16)津田和男(2002)2002年

11

月に早稲田大学で行われた講演会では「コンテント・オリエンテッ ド・ベースのプロジェクト」として「きせつ」を紹介した。

17)オーストラリアは

1987

年「多言語多文化主義」を国是とし、その一環としての言語政策として 公用語である英語以外の言葉を

Languages Other Than English (LOTE)と呼び学校教育の中で積

極的に学ぶことを決めた。1998年に出版された

Australian Language Levels Guideline (ALL) は、

LOTE

教育関係者を対象に実際に学校で教育活動を行うためのカリキュラムを作成するための指 針として、理念と具体的提言を述べたが、この理念と提言は連邦政府の主導で、1994年に

National Japanese Curriculum Project(全国標準カリキュラムプロジェクト)

『よろしくシリー ズ』という形で教材として具現化された。『にこにこ』(幼稚園から小学生用)、『もしもし』(中 学生用)、『ぺらぺら』(高校生用)が全国の公立、私立の学校に導入され、ALLガイドラインに もとづいてアクティビティを中心にコミュニカティブな活動を通して言語使用体験を積む事を目 的にした先駆的な外国語教育が始まっている。

18)川上郁雄(2002)

19)

Victorian Certificate of Education。Senior School(高校 2

3

年生)では中等課程修了資格試験 すなわち大学入学資格試験の受験に際して日本語という科目を選択することもできる。

20)矢部まゆみ(2001)

21)

Chabot, A.U., O’Malley J. M.(1994)

参考文献

岡崎敏雄(1989)『日本語教育の教材 分析・使用・作成』アルク

(16)

小山 悟(2002)『ジェイ・ブリッジ』凡人社

川上郁雄(2002)「第

6

章 年少者のための日本語教育」『ことばと文化を結ぶ日本語教育』凡人社 国際交流基金日本語国際交流センター(2000)『海外の日本語教育の現状―日本語教育機関調査

1998』

(2002)日本語教育シラバス・ガイドラインシリーズ

4(中国)

「日本語課程標準:全日制義務教育 実験稿」(2001)中華人民共和国教育部制定 日本語版翻訳:語程教材研究所 日本語課程教材研究センター 

田中 望(1988)『日本語教育の方法―コース・デザインの実際―』大修館書店 

津田和男(2002)「教科を超えた米での中等日本語教育の実験」『第

7

回日本語教育シンポジウムの報 告・発表論文集』に掲載予定の原稿

日本語教育学会編(1991)『日本語教育機関におけるコース・デザイン』凡人社 柳沢好輝・石井理恵子監修(1998)『日本語教育 重要用語

1000』バブルプレス

矢部まゆみ(2001)「海外の初中等教育における日本語教育と<文化リテラシー>」『21世紀の「日 本事情」』くろしお出版

横畠邦子(1997)「年少者対象日本語教科書における話題に関する一考察」『日本語教育論文集:小出 詞子先生退職記念』『日本語教育論文集小出詞子先生退職記念』編集委員会編集、凡人社 吉岡英幸(2000)「明治期の日本語会話教材」『早稲田大学日本語研究教育センター紀要 13』

American Council on the Teaching of Foreign Languages (1996) Standards for Foreign Language Learning: Preparing for the 21

st

Century. Lawrence, Kansas: Allen Press.

Chabot, A.U., O’Malley, J. M. (1994) The CALLA Handbook. Implementing the Cognitive Academic Language Approach. U.S.A.: Addison-Wesley.

Curriculum Corporation. (1993) Yoroshiku: Moshi Moshi.

Curriculum Development Centre, Commonwealth Schools Commission (1988) ALL (The Australian Language Levels) Guidelines.

Erickson, L. (1998) Concept-based Curriculum and Instruction: Teaching beyond Facts. Thousand Oaks, CA: Crown Press.

Kato, K(1995)Developing Topics in Japanese Resources for Activity-based Teaching. Brisbane:

Boolarong Press.

参照

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