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モンゴル国の遊牧経営におけるゾド被害と

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) /ヾ ト ゥ ー ル ソ イ ル カ ム

学 位 論 文 題 名

モンゴル国の遊牧経営におけるゾド被害と      回復要因に関する研究

学位論文内容の要旨

  モンゴル国は1990年代前半の市場経済化にともない,遊牧生産の主体は従前のネグデル

(農牧業生産協同組合)から家族経営に移行した.以降,家畜飼養頭数は増加を続け,そ れは過放牧による放牧地の砂漠化を懸念させる見解を生じさせた.しかし,1999年末から ゾド(Dzud〕 と呼ばれる 風寒雪害 の被害を 受け,し かもゾド被害が3カ年継続したため

(「2000年ゾド」と表記),家畜飼養頭数(羊換算)はゾド直前の99年の2/3にまで減少 した,ゾドは風雪やそれによる氷結により放牧地での草採食を阻害し,家畜を凍死・餓死 させる災害である.自然災害であるため回避しようのない災害であるが,ゾドの被害やそ の回復状況は遊牧世帯により異なり,また家畜畜種によっても異なっていた.本論文は,

こうした遊牧世帯にみられた被害率や回復の差異というファクトフんインディングに注目 し,未曾有の被害をもたらしたゾドに対して,被害率を最小にし,さらに円滑な回復要因 を考察している.

  第1章「序論」では,問題意識を指摘した上で,既存研究からゾド対策の手法を検討し,

馬と牛・小家畜では対策が異なり,馬は草を求めて遠隔地域に移動するオトルが,牛・小 家畜にはゾド回避移動と畜舎施設利用,飼料貯蔵が基本的な対策と考えられていることを 整理し,この基本対策の実施状況とその効果を視点に考察する手法を提起している.また,

被害と回復対応を詳細に把握するという観点から,移動を繰り返す遊牧世帯ではあるが,

同 一 遊 牧 世 帯 を 訪 問 し , 継 続 的 に 調 査 ・ 補 足 す る 調 査 手 法 を 採 用 し て い る .   第2章「市 場経済化以 降の家畜 頭数の動 向と『2000年ゾド』の影響」では,主に市場 経済化以降のモンゴル国遊牧世帯の展開を整理し,ゾドの影響を考察している.「2000年 ゾド」は 家畜飼養頭 数を2/3に減少させただけでなく,遊牧世帯数も1割ほど減少させた 未曾有の災害であり,07年においても災害以前に回復していなしヽ実態を明らかにしている.

3カ年継続 したゾドの うち,最も甚大な被害を発生させたのは00/01年ゾドであったこと も明らかにしている.また,畜種別には馬・牛という大家畜の回復が遅れ,ラクダ飼養は 壊減状況となっていること,小家畜は回復基調にあるが,ヤギの回復が際立っていること を指摘している.さらに,ゾド被害を蒙ったにもかかわらず,テレピなどの家電やトラッ ク・バイク顔どの所有は広がり,遊牧世帯における生活に変化が見られることも指摘して いる.

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  第3章「00/01年ゾドにおける被害の畜種別の規定要因」は,ゾドの被害率を規定した 要因を,最もゾド被害の大きかった00/01年ゾドを主要事例に,馬と牛・小家畜に区分し,

主要ゾド対策の実施状況と効果を検討している.馬はオトル対策が有効と考えられるが,

未実施遊牧世帯も多く,実施には若年男子労働カの保有,それら若年労働カでのオトルチ ームの結成,オトル費用を負担可能な経済力,さらにオトル先での放牧地利用の調整とい う行政上の調整などが必要であることを明らかにしている,また,「2000年ゾド」はその 被害程度が大きかったため,オトル先で被害にあう事例もみられ,移動先情報の提供など も必要であることを指摘している.

  他方,牛・小家畜では,移動対策が効果的であるが,労働力,移動手段の保有,移動費 用負担が必要になること,畜舎活用にはその整備状況が効果を左右した要因であることを 明らかにしている,また,飼料貯蔵は遊牧移動の負担になること,積雪時の輸送の困難性,

需要急増による価格上昇など,広範に受け入れられる手段になり得なぃことを指摘してい る.さらに,今次のゾドでは,特定の対応ではなく良好な移動先を確保できた事例はその 有利性を,移動ではなく良好な畜舎を利用できた事例はその有利性を活かした対策を継続 した遊牧世帯で被害が少なかったことを指摘している.

  第4章「災害回復期おける遊牧経営の変化」では,被害からの回復状況とその要因を検 討している.畜種別には,ラクダは飼養頭数とともに飼養事例も減少していること,馬・

牛という大家畜の回復が遅れ,小家畜,中でもヤギの回復はゾド以前を越える実態であっ た.これは,家畜の生物学的な特徴に加え,ゾドによる草勢変化という放牧地の条件変化,

カシミア生産の経済的優位性によってもたらされており,畜種構成の変化が放牧地利用に 与える影響が懸念される状況にある.家畜頭数の増加には,自家消費家畜量を抑制する対 応が行われていた.しかしながら,消費抑制の反面で,回復の遅れている遊牧世帯はラク ダに変わる移動手段としてのトラック取得,テレピなどの生活手段取得,さらには子弟の 教育資金確保のために家畜の売却が多かった. 家畜の回復状況は,生産面だけでなく,市 場経済化によって変化した家畜商品化の進展と生活の変化が大きく左右していることを指 摘している.

  第5章「結論」では,以上をまとめ,ゾドの被害を緩和し,円滑な回復を実現させる対 策を提起している.遊牧世帯のゾド被害緩和策の基本は良好な放牧地への移動である.し かし,移動を実施するには若年労働力保有やチームの結成,移動手段保有,移動費用負担 などが必要であり,しかも移動先での放牧地利用調整などが必要であった.こうした移動 調整を遊牧世帯間,さらには行政を含め行う必要があること,遊牧世帯には畜舎などの施 設整備の励行が求められ,飼料貯蔵などは遊牧世帯では基本的に困難である行政等による ストックヤードの設置が有効であると指摘している.さらに,移動先の気象情報や放牧地 の情報提供など,情報通信の社会基盤整備を含めた対応が求められる.こうした生産対策 だけではなく,家畜の回復を遅らせている要因にはトラックなどの移動手段取得のほか,

子息の教育投資のための家畜販売があることから,遊牧民の生活支援も必要となると指摘 している.

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学位論文審査の要旨 主査   准教授   志賀永一 副 査    教授    柳村俊介 副査   教授   飯澤理一郎 副,査   助教   東山   寛

学 位 論 文 題 名

モンゴル国の遊牧経営におけるゾド被害と      回復要因に関する研究

  本 論 文 は5章 か ら な り 、 図3、 表29を 含 む 総 頁 数85の 和 文 論 文 で あ る 。 別 に4編 の 参 考 論 文が 添え られ てい る。

  モ ン ゴル 国は1990年代 前半 の市 場 経済 化に とも ない ,遊 牧生 産の 主体 は従 前の ネグ デル

( 農 牧業 生産 協同 組合 )か ら家 族経 営に 移行した.以降,家畜飼養頭数は増加 を続けるが,

1999年 末 か ら ゾ ド (Dzud: 風 寒 雪 害) の被 害を 受け ,し かも3カ年 継続 した ため (「2000 年 ゾ ド 」 と 表 記 ) , 家 畜 飼 養 頭 数 (羊 換算 )は ゾド 直前 の99年 の2/3に まで 減少 した .自 然 災 害 であ るゾ ドを 回避 する こと は 困難 だが ,そ の被 害や 回復 状況 は遊 牧世 帯で 異な り,

ま た 家 畜畜 種に よっ ても 異な って い た, 本論 文は ,遊 牧世 帯に みら れた 被害 率や 回復 の差 異 と い う実 態に 注目 し, 被害 を緩 和 し, 円滑 に回 復さ せる 要因 の解 明を 課題 とし てい る.

  第1章 「 序 論 」 で は , 問 題 意 識 を 述ぺ た上 で, 既存 研究 から ゾド 対策 法を 検討 し, 馬に は 草 を 求め 遠隔 地域 に移 動す るオ ト ルが ,牛 ・小 家畜 には ゾド 回避 移動 と畜 舎施 設利 用,

飼 料 貯 蔵が 基本 対策 であ るこ とを 示 し, この 基本 対策 の実 施状 況と その 効果 を分 析視 点と す る 手 法を 提起 して いる .ま た, 被 害と 回復 対応 を詳 細に 把握 する ため ,移 動を 繰り 返す 遊 牧 世 帯 に 対 し て 同 一 事 例 を 継 続 的 に 調 査 す る 手 法 の 必 要 性 を 述 ベ , 採 用 し て い る .   第2章 「 市 場 経 済 化 以 降 の 家 畜 頭 数 の 動 向 と 『2000年 ゾ ド 』 の 影 響 」 で は , ゾ ド 被 害 の 実 態 を 考 察 し て い る .r2000年 ゾ ド 」 は 家 畜 飼 養 頭 数 を2/3に減 少さ せた だけ でな く,

遊 牧 世 帯 数 も1割 ほ ど 減 少 さ せ ,07年に おい ても 飼養 頭数 は災 害前 の水 準に 回復 して いな い .3カ 年 の う ち 最 も 甚 大 な 被 害 を 発 生 さ せ た の は00/01年 ゾ ドで あり ,畜 種別 には 馬・

牛 と い う大 家畜 の回 復が 遅れ ,ラ ク ダ飼 養は 壊減 状況 とな って いる こと ,小 家畜 は回 復基 調 に あ るが ,ヤ ギの 回復 が際 立っ て いる こと を指 摘し てい る. さら に, ゾド 被害 を蒙 った に も か かわ らず ,テ レピ など の家 電 やト ラヅ ク・ バイ クな どの 所有 は広 がり ,遊 牧世 帯に お け る生 活に 変化 が見 られ るこ とも 指摘 して いる .

  第3章 「00/01年 ゾ ド に お け る 被 害 の 畜 種 別 の 規 定 要 因 」 は ,最 大の 被害 をも たら した     ‑ 1310―

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00/01年ゾドを事例に,馬と牛・小家畜に区分し,ゾド基本対策の実施状況と効果の観察 を通じてゾド被害の規定要因を検討している.馬のオトル対策は,未実施遊牧世帯も多く,

実施には若年男子労働カの保有,それら若年労働カでのオトルチームの結成,オトル費用 を負担可能な経済力,さらにオトル先での放牧地利用の調整という行政の対応などが必要 であることを明らかにしている.また,オトル先で被害にあう事例もみられ,移動先情報 の提供なども必要になることを指摘している.

  他方,牛・小家畜はゾド回避移動が効果的であるが,労働力,移動手段の保有,移動費 用負担が必要になること,畜舎活用では整備状況が効果を左右することを明らかにしてい る,また,飼料貯蔵は遊牧移動の重荷になること,積雪時の輸送の困難性,需要急増によ る 価 格 上 昇 な ど , 広 範 に 受 け 入 れ ら れ る 手 段 に な り得な ぃこ とを 指摘 して いる .   第4章「災害回復期おける遊牧経営の変化」では,ゾド被害からの回復状況とその要因 を検討している.ラクダの飼養がみられなくなり,馬・牛は回復が遅れる一方,小家畜は 増加,中でもヤギはゾド前を上回る増加であった.これは,家畜の生物学的な特徴に加え,

ゾドによる草勢変化,カシミア生産の経済的優位性などが要因であることを明らかにして いる.家畜頭数の増加には,自家消費家畜量を抑制する反面,ラクダに替わる移動手段と してのトラック取得,テレビなどの耐久消費財取得,さらには子弟の教育資金のために家 畜が売却されていた.家畜の回復状況は,生産面だけでなく,市場経済化による生活の変 化が要因となっていることも指摘している.

  第5章「結論」.ではゾド被害を緩和し,円滑な回復を実現させる対策を提起している.

遊牧世帯のゾド被害緩和策の基本は良好な放牧地への移動である.しかし,移動を実施す るには若年労働カによるチームの結成,移動費用負担,移動先での放牧地利用調整などを 遊牧世帯間,さらには行政を含め行う必要がある.また,遊牧世帯には畜舎などの施設整 備が求められ,飼料貯蔵などは遊牧世帯個々では基本的に困難であり,行政等によるスト ックヤードの設置が有効であると指摘している.さらに,移動先の気象情報や放牧地の情 報提供など,情報通信の社会基盤整備を含めた対応が求められる.こうした生産対策だけ ではなく,資産取得や子弟教育投資が家畜の回復を遅らせている要因でもあることから,

遊牧民の生活支援も必要になると指摘している,

  このように本論文は、遊牧世帯の継続調査を通じて,ゾドという自然災害被害の緩和策 と円滑な回復対策を具体的に提起しており,モンゴル国の自然リスク回避対策に貢献でき る,よって審査員一同は、BatturSoyollkhamが博士(農学)の学位を受けるに十分な資 格を有するものと認めた。

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参照

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