鳥取 大学教 育学部 研 究報告 (自然科学),
41 (1992) 111-117
パ ソコ ンを利用 した波形解析
西
田
英
樹
*・美
坂
靖
子
**Hideki NIsHIDA and Yasuko MIsAKA: WaVefolln AIlalysis Using a Personai Computer (1992年 4月20日 受理)
1
は じ め に 音声信号等 のスペ ク トル分析 は波形分析 の一般 的な方法 として,サ
ウ ン ドスペ ク トログ ラフ 等 を用 いて古 くか らお こなわれて きた10。 最 近 で は コ ンピュー タの普及 に伴 い,
これ を用 い た各種 の波形分析法 やそのための機器が開発 され,有
効 な解析手段 として定着 してい る3-o。 なかで もフー リエ変換 を利用 した信号処理 はコ ンピュー タに適 した処理方法 と して発達 し, マ イクロコ ンピュータとソフ トウェアを内蔵 した専用 のアナ ライザの出現 な どに よ り,音
声 波 を初 め とす る一般 の振動解析 に広 く利用 され るようになって きた。 しか しなが ら現在 で も本格 的 な解析 システムは まだ一般的で はな く,優
れ た手法 を様 々な分野 に適用す る上 で妨 げ にな っ てい る。 一 方電子技術 の発達 に よ り回路 の集積化 が進 み,現
在 で はサ ンプル&ホ
ール ドやAD変
換 とい った回路 に とどまらず,フ
ー リエ変換 の計算 さえ も専用 プロセ ッサ を利用す るこ とに よ り 簡単 に実現 で きる よ うにな った。 また システ ム全体 の制御,管
理 にはパ ソコ ンを利用す る こ と がで き,そ
の結果各 回路の タイ ミング制御 や複雑 なデ ー タ処理 の大部分 はソフ トウェアで解決 す る ことが で きる。 本報 告 で は,ご
く一般 的 なADコ
ンバ ー タを用 いてパ ソコ ンに波形 デー タを取 り込 み,さ
らにベ ク トル シグナル プロセ ッサ を用 いて高速 フー リエ変換 (F「r)を
行 ない,さ
らにそ の結 果 を種 々の方法で表示す るためのシステム を構 築 し,試
用結果 につ いて検討 した。 この よ うな 手造 りの システム は柔軟性 が大 き く,
しか も信号 の特徴 を比較 的高分解能で しか も手軽 に調べ るこ とがで きるため,音
声 に限 らず歪波 の周 波数成分 の分析 や これ らの教 育 に適 用す る うえで 有効 であ る。2-1
ハ ー ドウェア 図1に
,本
研 究 に使 用(RAM 640 kB実
装 , クロ2
システムの構成 したハ ー ドウェ ア の構 成 を示 す。 パ ソ コ ンに は,9801E(NEC)
ンク周波数8 MHz)を
使 用 してい る。*技
術教室**鳥
取市立江山中学校本 システ ムで はサ ンプル
&ホ
ール ドIC LF398N(NAT10NAL SEMICONDUCTOR)の
アパ ー チ ャー タイムが必 ず し も充分短 くないので,再
現 す る信 号 の周 波数上 限 を約10 kHzに設定 し てい る。従 って,FFTに
お けるいわゆ るエ リア シ ング (折り返 し歪)を
防 止す るため に送 断 周波 数 10 kH2のL.P.F.を
プ リア ンプの前 段 に挿 入 した。L.P,F.の
回路 方 式 に は,バ
タ ワース型4次
L.P.F,を
用 い た。 プ リア ンプで信 号 を増 幅 した後,約
5Vの
直流 電圧 を加 算 し,ADコ
ンバ ー タの入力電圧範囲(0-10V)に
整合 して い る。ADコ
ンバ ー タには8ビ
ッ ト逐次比較型 のADC825MC(DATEL)を
用 いた。 このADコ
ンバ ー タチ ップ の変 換 時 間 は l μ
secで
あ る。DAコ
ンバ ー タに は分 解 能8ビ
ッ トのAD 558
(ANALOG DEVICES)を
使用 した。 出カ アナ ロ グ電圧 は約004Vス
テ ップで出力 され る。FFTの
計 算処 理 用 と してベ ク トル シ グナ ル プ ロセ ッサ(VSP)チ
ップZR34161を搭 載 した FLASH-1611(カ ノープス電子)を
パ ソコンの拡張 スロ ッ トに装着 している。2-2
ソフ トウェア ソフ トウェアは,大
き く分 けて,波
形測定用 プ ログ ラム と,ス
ペ ク トル解析お よび音声再生 用 プ ロ グ ラム に よって構 成 され てい る。 両 プ ロ グ ラム と も,お
もにN88日本語BASIC(MS―
DOS版
)に
よる もので あ り,共
に一部 で機械 語 プ ログ ラム を呼 んで い る。 これ らのプロ グラ ムは インタープ リタ環境 で使用 され る。2-21
波形測定用 プロ グラム 波 形 測定 プ ログ ラムで は,波
形 の読 み込 み にあ た ってAD変
換 時 のサ ンプ リング同 期,連
続測定 時 間等 が設定 されて い る。 このプ ログラムの主 な機 能・特徴 をのべ る。1)サ
ンプ リング周期 の調整 本 システ ムで扱 う信 号周 波 数範 囲 は0-10 kHzで
あ るので,サ
ンプ リング周期 は50 μsecが
適切 で あ る。 しか し,本
装 置 で はADコ
ンバ ー タをマ シ ン語 プログラムでその まま駆動 した PC9801E AUD10 図1
ハ ー ドウェア構成パ ソコ ンを利用 した波形解析
ときの通常 のサ ンプ リング周期 は11 9 μsecと な り
,こ
れ を減速調整 しなければな らない。 この調整 には
,専
用 の クロ ック発生 回路 を設 け,ハ
ー ド的 に制御 す る方法 と,プ
ログラムによって ソフ ト的 に制御 す る方法 とが あ る。本装置で は このサ ンプ リング周期 の調整 には機械語 の
NOP(no operation)命
令 の実行 時 間 を利 用 す る ソフ ト的方 法 を とった。NOP命
令 はその実行に3ク ロ ック要 し
,ク
ロ ック周波数8MHら
のパ ソコ ンで は この命 令1個
を実行 す る度 に 3/8 μsec費
や され るこ とにな る。 これ を,調
整 の1ルー プの中に適切 な個数 入れ るこ とに よ り, サ ンプ リング周期 を調整す ることがで きる。 この方法 はハ ー ドウェア作成 の負担 が無 い とい う 利点が あ る一方 で,機
種 が異 なる と再調整 しなければな らない とい う欠点が あ る。NOP命
令 の数 とサ ンプ リング同期 との関係 をPC9801Eで
測定 した結果 か ら,測
定 の1ルー プに入れ るNOP命
令 の数 を79個 と設定 した。 これ らに よって きまる本 システムの基本 的 な仕 様 を表1に示 す。 表1
システムの仕様 サ ンプ リング周期0 0488 msec
サ ンプ リング周波数20 5 kHZ
最高周波数10 25 kHZ
周波数分解 能20 0 HZ
1024点 当 りの測定時間50 0 msec
連続測定 時 間1 60 Sec
2)デ
ー タ格納領域 及 び連続測定時間 測定後 の波形 デー タの格納領域 と して,32 kBの
RAMを
使 用 してい る。波形 デ ー タの格 納 領域 は48 kBま で容易 に拡 大す るこ とが可能であ るが,解
析 時 間,デ
イス クヘ の記録時 間が それだけ多 く必要 となるため,こ
れ らを考慮 して全 デー タ数 を32 kBと した。 従 って, 1回
の トリガで可能な連続測定時間は 1 60 secと なる。 測定 した波形デ ー タをその都度確認 した上で,再
測定,再
表示,デ
ー タ保存,波
形 のハ ー ド コ ピーが可能であ る。2-2-2
スペ ク トル解析及 び音声再生 プログラム 本 システ ムで は,波
形 デ ー タか らスペ ク トル を得 る方法 と してFFTを
用 いて い る。 区間点 数 は1024点 と した。FFTの
計 算 は,FLASH-1611に
付 属 して い る機 械 語 ライブ ラ リをBASIC
インター プ リタか ら呼 び出す こ とに よ りお こなってい る。 この計算 は1024点 で4 msec程度 と 極 めて高速 で あ り,計
算 に よって発生 す る ノイズ も少 ない とい う特徴があ る。実際の計算で は, 切 り出 し区間の不連続接点の影響 を軽減す るために,サ
ンプ リングされたデー タに窓関数 を乗 じた もの を波形 デー タと して使用 してい る。窓関数 には一般 的 に使用 されてい るHamnung窓
の他,Hanllulg窓 ,BlacLlaan窓 を選択 して使用す る こ とがで きる。以下 に各々の窓関数 を示 す0。 本 シス テ ム にお け るFFT計
算 で は16ビ ッ ト整 数 デ ー タを使用 す るので,窓
関数 も以下 の値 に16進 数7FFFHを
乗 じて使用 してい る。″
haniming(%)=054-0 46COS(2πη
/Nl摩
hanng(2)=05-0 5COS(2π
η
/Nl (0≦η≦Ⅳ) (0≦η≦ハI)〃Blachan(η
)=0,42=0 5COS(2π
η/Nl+0 08COS(4π
η/Nl ただ しⅣ は区間点数である。 本プログラムの主な機能 を以下に示す。 (0≦η≦ハ
01)分
解 能 の調整機 能FFTに
お ける区間点数 をN,サ
ンプ リング周期 をTと
お くと,周
波 数分解 能 丁 は つ生1/ⅣT
と表 され,時
間窓の幅 の逆 数 となる。周 波数分解 能 を変 え る方法 と して,1)FFT演
算 の区間点数Nを
変 える。1)サ
ンプ リング同期Tを
変 える。 が考 え られ るが,FI■
演 算 の 区 間点数,サ
ンプ リング周期 は ともに不変 と し,有
効 デ ー タ数 を変 える (残りは0と置 く)こ
とに よって も時 間窓の有効幅 を変 えるこ とがで きる。本 システ ムで は,サ
ンプ リング周期,FFT演
算 の区間点 数 は固定 してお き,有
効 デ ー タ数 を21°,29,28,27の
ご と く変 えるこ とに よ り分解能 を変化 させ てい る。本器 の有効 デー タ数 と時 間窓有 効 幅,周
波数分解能 との関係 を表2に
示 す。 この方法 の欠点 は区問 ど う しの時 間的 なつ なが り が薄 れることであ るが,後
述 す る方法 によって改善 してい る。測定対 象 に応 じて分解能 を適切 に選択す ることはS/N比
の向上 とい う点か らも効果がある。 表2
有効データ点数 と周波数分解能 有効データ点数 時間窓の有効幅 周波数分解能 1024 512 256 128 64 20 HZ 40 HZ 80 HZ 160H多 320 HZ50 0 msec
25 0 msec 12 5 msec 6 25 msec 3 125 msec2)オ
ーバ ー ラ ップ点数 の調整機能FFTで
は1区
間1024点 のデ ー タの うちの何 点 か を前 後 の区 間 とオーバ ー ラ ップ させ なが ら 区間 を移動 し,次
々 とスペ ク トルの計算 を行 う。 これは,前
述 の ご と く各 区間の時間的 な連続 性 を保 つ ため に必要 で あ る。本 システムにおいて0,1/2,3/4,7/8,15/16の
オーバ ー ラ ップ が選択可能である。 オーバ ーラ ップを大 き くす ることによ り,時
間的 な連続性 が十分確保 され る。 オーバ ーラ ップ15/16で は結果 がCRT画
面 い っばい にな るので,専
用 の プ ロ グ ラムで表 不 してい る。3)エ
ネルギスペ ク トルの カ ラー三次元表示機 能 解析 結 果 は,縦
軸 に時 間の推 移 を,横
軸 に周 波数 をと り,そ
れぞれの時 間にお ける各周波数 成分 の強度 を色で階調表示 す ることによ り,三
次元的 に表示 され る。 スペ ク トルの強度 は等差 的 に8段
階 に分 け,
レベ ルの高い方か ら黒→青→赤→紫→緑→水色→黄→ 白の順 に表示 され る。パ ソコンを利用 した波形解析
4)エ
ネルギ スペ ク トルの二次元表示 横 軸 に周波 数,縦
軸 に各周波数成分 の強度 を とってスペ ク トル を二次元表示す る。 これ は,32 kB分
の計算結果 の うちの任意 のl kB区間のみ のFFT結
果 を表示す る もので,強
度 は,全
区 間の F「F結
果 の 中で最 大 の強度 を100と した相対 値 で表 され る。 この表 示方 法 は三次 元表 示 されたスペ ク トルの,周
波数軸 に平行 な切 断面 を見 るこ とに相 当す る。5)ス
ペ ク トルの比較表示機能 これ らの二種類 の表示法 を選 んで画面上 のニ カ所 の表示 窓に,独
立 して表示 させ ることがで きる。 これ はスペ ク トルの特徴 の詳細 な観察,異
なるデ ー タ間の比較 な どを行 う上で効果 的で あ る。6)カ
ラーハ ー ドコ ピー機能 デ ー タ処理 にパ ソコ ンを用いているので,カ
ラープ リンタを接続す ることによ り,容
易 にカ ラーハ ー ドコ ピーが取 れ る。特 に,コ
ピーキーに よる画面 カ ラーハ ー ドコ ピーはN88日 本語BASICイ
ンタープ リタ特有 の拡張機 能で あ り,イ
ンタープ リタの環境 で動作 す る本器 の長所 となる。7)音
声再生機 能FFTに
よって得 られたスペ ク トル に何等 かの処理 を施 した後,さ らに逆 F「Fを
行 い,こ
の 結果 をアナ ログ信号 に変換 して ローパ ス フ ィル タを通 し,ス
ピーカに出力す るこ とがで きる。3
監吉昇竜と 1父 言寸 本 システム を利用 した解析 の一例 と して,試
み に音声波形 の解析 を行 った。図2に
女声 の母 音 「 ア」 のエ ネルギスペ ク トル を示す。図の上部 はスペ ク トルの時間的 な推移 を三次元表示 さ せ た ものであ り,下
部 はあ る時 間 にお けるスペ ク トル を二次元表示 させ た もので あ る。 スペ ク トル に表 れている縦縞 あるいは ピークは,声
帯 の基本振動 数 (ピッチ)の
整数倍 の成分 を表 し て い る。本図 は分解能 をやや落 として (有効 デ ー タ数256)ノ
イズ を減 らし,
ピ ッチが 明 白 と な る条件 で解析 した ものである。 図3に
は,男
性 の母音 「 アJの
解析結 果 と低 周 波発振器 に よる400 Hzの正 弦波 の解析結果 とを比較 して示す。典型的な歪波であ る音声 には基本波以外 に多 くの高調波成分が含 まれてい る こ とが よ くわか る。 図4及
び図5は
,男
性が 「 アイウエ オJと
連続 して発音 した ときのエ ネルギスペ ク トルであ る。図4は
有効 デー タ数1024で 解析 した結果 であ り,周
波数分解能が充分高 いので ピ ッチ周波 数 (音程)の
推 移 の様 子 が わか る。 図5は
周 波 数分解 能 を低 くし,有
効 デー タ数 128で 解析 し た結果で ある。一つ の音素 か ら次 の音素へ 変化 す る (いわゆ る “わた り")際
の フ ォルマ ン ト 分布 の推移が非常 に よ くわか る。 以上 に示 したご と く,本
システムは簡単 な構成 であ りなが ら,か
な り高い周波数分解 能,時
間的分解能 を もち,容
易 にカラーハ ー ドコ ピー も取 れ るので,音
声等 の歪波形 の解析 手段 と し て有効 に利用で きることが明 らか となった。図
2
音声 波 (女声「ア」)の
エ ネルギスペ ク ル 。 図4
連続音声 「アイウエオ」の解析例。周波数 分解能20 Hz。 図3
音声波 (男声「ア」)と 400 Hz正 弦波 との エネルギスペク トルの比較。 図5
連続音声「アイウエオ」の解析例。周波数 分解能160 Hz。4お
わ り に 本研究においては,バ
ソコンを利用 した波形解析 システムを試作 し,そ
の応用 として音声 を 解析 した。このようなシステムは,既
に高度な ものが開発 され,市
販 されているが,か
な り高 価である。本研究では,手
軽な装置で,そ
れ らと同等の機能をで きるだけ多 く備 え,
また,そ
れ らが持ち合わせていない機能 を備 えるように心掛けた。特にソフ ト面でフレキシビリテ ィー に富み,
目的に応 じた機能の変更が容易である。 試作 したシステムで試みに母音音声 を測定 した結果は,今
までの音声学の分野で研究 され, 立証 されて きたことに見合 うものであ り,音
声解析の簡易 システムとして,満
足のい く結果が 得 られることが明 らか となった。プログラムの改良によって,障
害児のための発音訓練,声
楽 。器楽などの楽音解析等 に応用することがで き,発
声法や演奏法等の教育にも効果 をあげる ことが期待 される。 また,変
調波や一般の歪波,あ
るいは機械的振動等,音
声以外の波形 を解 析 し,比
較表示機能などを生か して教育に利用す ることも可能である。 引 用 文 献 五十嵐寿一 :実験物理学講座9
音響 と振動 (共立出版,1968)第
6章. 藤崎博也他 :岩 波講座 日本語5
音韻 (岩波書店,1977)第
3章.中 8
叫
叫
囲
枷 鷺 a 麟 o 艶パソコンを利用 した波形解析
3)西
日五佐夫,西
田英樹,尾
西 寛,岡
本潔政 :鳥取大学教育学部研究報告,35(1980p.55.
4)南
茂夫 :科 学計測のための波形データ処理 にQ出
版,1968)第
8章.5)古
井真熙 :デ イジタル音声処理 (東海大学出版会,1銘5)第
4章・6)三
上直樹 :デ イジタル信号処理入門 (CQ出版社,1989)o100,
AbstractFFT analyses of Waveform weFe―attempted using a persOnal conlputer aIId an AD cOlavё rteF,A sattpling
ilaterVal or the cOnverter is abottt O105 msec, Poillt number Of FFT is 1024 and the cdiculatゎ ns aro executre usilag a vector signtt prOcessOr bOad avallaЫα Rettutlol1 0f thoも ystem tt attuStab腱 ゅy vttyillg erfectlve IItIIn‐
ber of points in a whdow.ResdtS are displayed to CRT by cO10rS and hardcopies can be obtthedi THs sぃ ‐
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