センサ工学のための教材開発
Development of Teaching Materials for Sensor Engineering
五十嵐 茂 IGARASHI Shigeru 1.はじめに 専門課程、制御技術科2 年生を対象とした「セ ンサ工学」の専攻学科において、座学だけでな く、身近にあるセンサとシンプルな電子回路を 用いた教材を考案し、実際の訓練に使用して、 その訓練効果について検証したので報告する。 センサとは、「対象物のもつ情報を検知する素 子や装置のことで、人間の五感に代わって対象 物の情報を定量的に計測し、電気信号に変えて 伝達処理するものである。」と言われている1) が、その情報には、赤外線や磁気のような人間 には検知できない物理量も数多く含まれている。 「センサ工学」は、そのようなセンサを工学 的に利用する技術であるが、見えない、感じな い情報を検知するセンサの原理や使い方を、学 生に座学だけで理解させるのは、かなり困難で はないか、実際のセンサを手にして電子回路を 組み立てることで理解が深まるのではないか、 と考えた。 そこで本稿では、身近にある入手性のよいセ ンサを取り上げ、よく使われる電子回路を利用 して、いかに対象物のもつ情報を人間がわかる 信号に変換していくか、実際にブレッドボード 上に回路を組みながら、センサの動作が理解で きるような教材の開発と、学生アンケートに基 づく訓練効果等について述べる。 2.選定したセンサの概要 「センサ工学」の授業では、多岐にわたるセ ンサを、検知する情報別に分類しながらその概 要を紹介した後、その中から4 つのセンサを取 り上げ、実際にセンサを手にして回路を組んで 動作を確認する方法を試みた。 今回、取り上げたセンサは、① 光センサと して、CdS セル、② 赤外線センサとして、赤 外線LED とリモコン用赤外線受信モジュール、 ③ 磁気センサとして、ホール素子、④ 温度 センサとして、温度センサIC の 4 種類に絞っ た。それらの概要について以下にまとめる。 ① CdS セル(図 1)は、硫化カドミウムの 化合物半導体で、光を あてることで電気抵抗 が変化する素子である。 なお、CdS セルは、 RoHS 指令により生産 中止の傾向にあり、化 図1 CdS セル 合物であれば該当しな い2)と言われるが、今後は代替も検討しておく。 ② 赤外線 LED(図 2 左)は、発光する光 の波長が940nm であり、可視光(波長 380nm ~780nm)の赤色より波長が長く、人間の目に は見えない光である。これを 送信用として使用した。 図2 赤外線 LED(左)と受信モジュール(右) 一方、受信側は、リモコン用の赤外線受信モ ジュール(SPS-440-1/SANYO)(図 2 右)を 使用した。これは、外乱光の影響を除去するた めに 38kHz に変調された光を選択受光する回
路が内蔵されている。 一般的なリモコンは、変調された光をディジ タル的にON/OFF することで、データの送受 信を行っている。 ③ ホール素子(図 3)は、GaAs タイプの ホール素子(NHG501/日本セラミック)を選 定した。 ホール素子は、物質中に流れる電流に垂直方 向に磁界を加えると、電流と磁界に垂直な方向 に電界が生じる現象、いわゆるホール効果を利 用した磁気を検知するセンサのひとつである。 ④ 温度センサIC(図 4)は、高精度・摂氏 直読温度センサIC(LM35/ナショナルセミコ ンダクタ)を選定した。これは、半導体が温度 の影響を受ける性質を積極的に利用したもので、 摂氏(℃)温度に対してリニアに電圧が出力さ れる。 図3 ホール素子 図 4 温度センサ IC 3.センサ回路と組立例 今回、選定したセンサと汎用的な電子部品を 使用し、センサの動作が理解できるようにと考 案した回路について、ブロック図、回路図およ びブレッドボードに実装した様子や動作状態を 写真によって説明する。なお、電源はすべて 006P 型 9V 乾電池とし、電池スナップによりブ レッドボードに供給した。 3.1 光センサ回路 光センサを利用した回路は、図5 のブロック 図のような構成を考えた。 具体的には、図6 の回路図に示すように、タ イマ回路の時定数を決める抵抗の部分にCdS セルを置き換え、光量により抵抗値が変化する と発振周波数が変化し、圧電スピーカの音程が 明るさで変化する回路とした。 図7 は、実際にブレッドボード上に組立てた 例であり、CdS セルへの光量を手で変化させる と音程が変化する。 図5 光センサ回路のブロック図 図6 光センサ回路 図7 光センサ回路の組立 学生には、明るいとCdS セルの抵抗値が減少 し、タイマ回路の発振周期が小さくなり、その
逆数の発振周波数は高くなるので音程が高くな る、という動作によってCdS セルの特性を実感 させた。 3.2 赤外線センサ回路 赤外線センサを利用した回路は、図8 のブロ ック図のような送受信の構成を考えた。 図8 赤外線センサ送受信回路のブロック図 図9 赤外線送信回路(左)受信回路(右) 図10 赤外線センサ回路の組立例と動作 リモコン用受信モジュールで赤外線を受信す るためには、赤外線LED の送信信号を 38kHz で変調する必要がある。この発振周波数を可変 抵抗で調整できるようにし、スイッチを押した 時だけ送信すると、受信側で正常に受信できた 時にLED が点灯する。 図9 に具体的な回路を示す。 送信側は、オシロスコープを使用して可変抵 抗により発振周波数を 38kHz に調整する。押 しボタンスイッチを押したときに赤外線 LED から38kHz に変調された赤外線が送信される。 受信側は、赤外線受信モジュールの出力に LED を接続して受信時に点灯させる。 図 10 は、赤外線センサの送受信回路の組立 例であり、この例では、送信と受信を対向させ て、スイッチを押すと LED が点灯する様子を 示している。 学生には、送受信を個別に組立て、学生同士 で送受信の確認を行ってもよいとした。また、 赤外線は目に見えないので覗き込まないよう注 意し、携帯電話のカメラや赤外線送信を利用す れば、赤外線の送信や受信が観察できることを 補足した。 3.3 磁気センサ回路 磁気センサを利用した回路は、図 11 のブロ ック図のような構成を考えた。 図11 磁気センサ回路のブロック図 ホール素子は、定電流駆動とし、磁界が加わ ることで発生する電圧を差動増幅回路で増幅し LED を点灯させる。磁界の向きが反対になると 発生する電圧の極性が反転するので、もう一つ
の LED を逆向きに接続して点灯させる。こう することにより、磁界の向きにより点灯する LED が切り替わり、磁界の強さにより LED の 明るさも変化する。 図 12 に具体的な回路を示す。定電圧回路は LED の順方向電圧を利用し、オペアンプにより 定電流駆動を行う。ホール素子からの出力電圧 を差動増幅器により約200 倍に増幅し、電圧の 正負によって、どちらかのLED が点灯する。 図12 磁気センサ回路 (A)手前に N 極:奥側の LED が点灯 (B)手前に S 極:手前の LED が点灯 図13 磁気センサ回路の組立例と動作 図 13 は、磁気センサ回路の組立例である。 ホール素子に磁石で挟むように磁気を与えると、 磁石の磁極の向きにより、点灯する LED が切 り替わる様子が示されている。 なお、ホール素子はピンが細いので、あらか じめソケットを装着し、1 番ピンに赤色の印を つけ、破損や誤接続を防止した。また、回路の 定数を計算させる演習も盛り込んだ。 3.4 温度センサ 温度センサを利用した回路は、図 14 のブロ ック図の構成を考えた。 図14 温度センサ回路のブロック図 図15 温度センサ回路 温度センサIC は、10mV/℃の特性で、温度 と出力電圧が比例しているため、電圧計があれ
ばそれだけで温度計となってしまう便利な IC である。 しかしながら今回は、バーグラフのように LED が順次点灯する回路を試みた。あらかじめ 温度区分に相当する電圧区分を抵抗分圧で決め ておき、温度センサIC の出力電圧を 4 組のコ ンパレータと LED でバーグラフ点灯する回路 を考えた。図15 に具体的な回路を示す。 たとえば、24℃→26℃→28℃→30℃の 2℃ス テップでLED が点灯する回路や、25℃→26℃ →27℃→28℃の 1℃ステップで点灯する回路な ど、温度範囲と温度ステップを抵抗だけで自由 に設計できる温度計となる。 温度センサIC の出力電圧を 10 倍しておくと、 10℃で 1V、25℃で 2.5V 等となり、50℃に相当 する定電圧を 5V ツェナーダイオードで発生す れば、抵抗分圧の計算が簡単になる。 図 16 に温度センサ回路の組立例を示す。こ の例では、5V の分圧抵抗を下から 12k、1k、 1k、1k、10kΩとし、24℃→26℃→28℃→30℃ の 2℃ステップで LED がバーグラフ点灯する 温度計となっている。 LED の 2 つ点灯は、周囲温度が 26℃~28℃ であることを示しており、学生には、実際の温 度計との比較で検証させた。 図16 温度センサ回路の組立例と動作 4.教材の訓練効果と課題 次に、これらの教材を実際の授業で使用し、 学生のアンケートによりその効果を確認した。 さらに、実施の上で気づいた点について課題と してまとめた。 4.1 学生アンケート 授業の最終日に訓練効果等を検証するため、 学生21 名にアンケートを実施した。 アンケート内容は、① 実習を取り入れたこ とにより理解が深まったかどうか(表 1)、② センサ周辺の回路設計が役に立ったかどうか (表2)、③ 回路組立の方法は、今回のブレッ ドボードでよいか、またはプリント基板か、完 成基板か(表3)、④ 実習を行うと扱うセンサ 数が限られるため、座学のみで多数のセンサを 広く学びたいか、実習で少数のセンサを深く学 びたいか、について調査した。 集計結果をそれぞれの表中に示す。 表1 実習の訓練効果 選択項目 人数(割合) 実習でとても理解が深まった 9(42.9%) 実習で少し理解が深まった 12(57.1%) 実習でも理解は変わらなかった 0( 0.0%) 表2 回路設計の訓練効果 選択項目 人数(割合) 回路設計がとても役に立った 14(66.7%) 回路設計が少し役に立った 7(33.3%) 回路設計は役に立たなかった 0( 0.0%) 表3 回路組立方法の希望 表4 センサ学習の希望 選択項目 人数(割合) 座学で多数のセンサを広く学ぶ 3(14.3%) 実習で少数のセンサを深く学ぶ 18(85.7%) 選択項目 人数(割合) ブレッドボードがよい 9(42.9%) プリント基板に半田付けがよい 9(42.9%) 組立せずに完成基板がよい 3(14.2%)
これらを分析すると、見えない、感じない情 報を検知するセンサの原理や使い方を学ぶには、 実際のセンサを手にして、回路を組み立てなが ら動作を実感することが、学生にとっては理解 しやすいことが実証できたと考えられる。 組立については、組立をしたくない学生も若 干いるが、ブレッドボードでもプリント基板で も「ものづくり」をしたいという気持ちが表れ ている。意外なのは、回路設計がとても役に立 ったという学生が6 割以上を占めており、他の 実習や総合制作実習等に役立てたいという回路 設計への関心の強さと考えられる。また、セン サの周辺回路があるからこそ、センサが活かさ れるということも再認識した。 4.2 実施上の課題 実習を実施して気づいた点は、まず、与えら れた回路図から、ブレッドボードを使用しての 配線組立は、予想以上に学生の個人差が大きく、 回路組立が完成するまでにかなりの時間がかか ってしまったこと。さらに、あまりに自由度が 大きいので部品配置や配線の引き回しで、とて も電子回路の組立とは思えない組立が頻繁に見 られたことである。(図 17)これには、回路チ ェックにも時間がかかって困惑させられた。 図17 学生の自由過ぎる組立例 そこで、第 3 番目の磁気センサ回路からは、 組立時間の節約のために、ブレッドボードの配 線例の写真を添付して、見本写真を見ながら配 線できるようにしたところ、この磁気センサ回 路では1 時間程度で、次の温度センサ回路では 2 時間程度で、ほぼ全員が動作確認までできる ように改善された。 組立にばかり時間がとられてしまうのは、本 来の目的に反するので、ブレッドボードの組立 写真の他、実体配線図、またはプリント基板化 等を検討していきたい。組立時間がかからない ような工夫があれば、もっと多数のセンサを深 く学ぶことも可能になるはずであり、今後の課 題としたい。 5.まとめ 本稿では、「センサ工学」のための教材を考案 し、その訓練効果と課題について述べた。 これにより、扱うセンサの数は限定されるが、 見えない、感じない情報を検知するセンサの動 作を周辺回路の設計、組立とともに実感できれ ば、センサ技術の理解の手助けになるものと確 信する。 しかし、センサ技術には、直線性、安定性、 再現性、誤差、精度といった重要な項目もある。 その値が本当に正しいのかどうかが常に問われ る。今回の目的は、センサの動作をシンプルな 回路で理解しやすくすることに主眼をおいたの で、それらには目をつぶったが、次のステップ としてはそれらを忘れないよう心掛けたい。 今後は、その他に超音波、圧力等の身近なセ ンサを取り上げ、さらに、新エネルギー関連等 の新たな分野にも目を向けていきたい。 参考文献 1) 湯川清貴、センサー工作実例集、パワー社、 2007 年 6 月、p2 2) http://www.bea.hi-ho.ne.jp/furukawa-ele/ parts/cds.htm 3) 松井邦彦、センサ活用 141 の実践ノウハウ、 CQ 出版社、2001 年 5 月 4) 松井邦彦、センサ応用回路の設計・製作、 CQ 出版社、2006 年 4 月