高強度鋼管杭(引張強度570N/mm
2
級)の
港湾構造への適用に向けた検討
塩崎 禎郎
1・宇佐美 俊輔
2・大久保 浩弥
3 1正会員 JFEスチール(株)スチール研究所(〒210-0855 川崎市川崎区南渡田町1-1) E-mail:[email protected] 2 E-mail:[email protected] 3正会員 JFEスチール(株)建材センター(〒100-0011東京都千代田区内幸町1-2-3) E-mail:h-ookubo@ jfe-steel.co.jp 桟橋のレベル2地震に対する耐震性能照査では,液状化を考慮した地震応答解析プログラムFLIP等を用 いて検討されている.その際,鋼管杭が塑性化して要求性能を満足できない場合,板厚を増加させるなど の試行錯誤が必要となる.港湾工事で用いられる鋼管杭は,引張強度400N/mm2級と490N/mm2級の2種類 がほとんどであるが,490N/mm2級よりも高強度の鋼管杭が適用可能となれば,低コストな施設の建設が 可能になる.そこで,熱延帯鋼から造管した引張強度570N/mm2級の高強度鋼管杭の港湾構造への適用を 目指して,1)耐震性能確認のための単杭による正負交番繰返し載荷実験,2)桟橋構造を模した組杭による 正負交番繰返し載荷実験,3)腐食性状確認のための浸漬試験,を実施して従来材と同等に扱えることを証 明した.また,設計方法の提案を行った.Key Words : steel pipe pile, high strength, cyclic loading test, corrosion characteristics
1. はじめに 鋼管杭を用いた桟橋の設計では,レベル1地震などの 変動状態で断面を決めた後に,レベル2地震に対する耐 震性能照査を地震応答解析(FLIP1)等を利用)で行うと, 鋼管杭の塑性化が発生し,そのままでは要求性能を満足 できないケースある.そのため,設計者は鋼管杭の板厚 を増加させるなどの試行錯誤が必要となる.このように 鋼管杭の諸元が応力で決まる場合,従来の引張強度490 N/mm2級よりも高強度の鋼管杭が実用化できれば,設計 の自由度が高まるとともに,鋼重削減による低コストな 施設の建設が可能になる.そこで,筆者らは製造技術の 向上により熱延帯鋼から造管可能となった引張強度 570N/mm2級(以降HT570PCと略記)の高強度鋼管杭の港 湾構造への適用に向けて,耐震性能確認のための単杭お よび組杭の正負交番繰返し載荷実験,腐食性状確認のた めの浸漬試験,設計法の検討を行った. 2. 高強度鋼管杭の規格 港湾で用いられる鋼管杭は,コストと納期の観点から, コイル状の熱延帯鋼を巻き戻して円筒状に形成して継目 部を高周波電気抵抗溶接する「電縫鋼管」か,熱延帯鋼 を螺旋状に形成して継目部をサブマージアーク溶接する 「スパイラル鋼管」が一般的に用いられ,引張強度400 N/mm2級と490N/mm2級の2種類が製造されている. 一方,建築用の鋼管は高強度化が進められ,引張強度 590 N/mm2級まで実用化されている.高強度鋼管の製造 方法としては厚鋼板をプレスまたは曲げ加工して溶接す る方法が用いられてきたが,製造技術の向上により電縫 鋼管(直径600mm程度以下)とスパイラル鋼管(直径 600mm以上)で造管可能となった. 研究対象とした高強度鋼管杭HT570PCは,鋼板のJIS規 格であるSM570と同等に用いることができるように設定 した材料規格で製造したものである.機械的性質を表-1 に,化学成分を表-2に示す. 表-1 高強度鋼管杭の機械的性質 450 460以上(t≦16mm) 450以上(16mm<t≦40mm) 570~720 SM570 (参考) 315 315以上 490以上 SKK490 (参考) 450 460~675 570~720 HT570PC 降伏応力度 の特性値 降伏点又は0.2%耐力 引張強さ 名称 450 460以上(t≦16mm) 450以上(16mm<t≦40mm) 570~720 SM570 (参考) 315 315以上 490以上 SKK490 (参考) 450 460~675 570~720 HT570PC 降伏応力度 の特性値 降伏点又は0.2%耐力 引張強さ 名称 t:板厚 (単位:N/mm2)
3. 単杭による正負交番繰返し載荷実験 (1) 実験方法 鋼製橋脚を対象としたSM570の板巻鋼管(直径850mm 板厚13mm)の実験2)と比較することを念頭に,HT570PC (スパイラル鋼管,直径700mm板厚9mm)の実験を行っ た.実験概要図を図-1に示す.比較対象の実験と同じ条 件にするため,特性値で算定した降伏軸力に対して15% の鉛直方向荷重を作用させた状態で,水平荷重を±1δy から+6δyまで変位制御にて正負交番載荷した.各サイ クルの繰返し数は1回である.また,降伏変位δyは降伏 強度の特性値から算定した12.1mmを用いた. (2) 実験結果 載荷実験における荷重~変位関係を図-2に,正側の包 絡線を図-3に示す.+3δyの載荷時に荷重のピークを迎 えている.その際,目視ではわからなかったが,手で触 れて確認出来る程度の局部座屈が基部から100~125mm 程度の位置で発生していた.その時の+側鋼管基部から 150mm地点の軸方向ひずみは10225μであった. SM570の板巻鋼管の荷重~変位関係との比較のため, 材料試験から算定したPyMとδyEMで無次元化したグラフ を図-4に示す.SM570の荷重~変位関係は,文献3)に掲 載されている無次元化前のデータを加工した.表-3に代 表的な耐震性能の指標を示す.t/DはHT570PCの方が小さ いため,ピーク後の荷重低下が早い懸念があったが,両 者の荷重~変位関係は同様の傾向を示し,指標もほぼ一 致している.したがって, 両者は同等の耐荷力,変形 表-2 高強度鋼管杭の化学成分 規定なし 規定なし 0.035 以下 0.035 以下 1.65 以下 0.55 以下 0.18 以下 SKK490 (参考) 0.28 以下 (t≦50) 0.44 以下 (t≦50) 0.035 以下 0.035 以下 1.70 以下 0.55 以下 0.18 以下 SM570 (参考) 0.26 以下 0.44 以下 0.015 以下 0.030 以下 1.70 以下 0.55 以下 0.18 以下 HT570PC 溶接割れ 感受性組成 炭素 当量 S P Mn Si C 名称 規定なし 規定なし 0.035 以下 0.035 以下 1.65 以下 0.55 以下 0.18 以下 SKK490 (参考) 0.28 以下 (t≦50) 0.44 以下 (t≦50) 0.035 以下 0.035 以下 1.70 以下 0.55 以下 0.18 以下 SM570 (参考) 0.26 以下 0.44 以下 0.015 以下 0.030 以下 1.70 以下 0.55 以下 0.18 以下 HT570PC 溶接割れ 感受性組成 炭素 当量 S P Mn Si C 名称 (単位: %) H800×440×30×30 H800×440×30×30 100tf油圧ジャッキ ストローク400mm 試験体-柱接続梁 100tfロードセル 200tfロードセル 150mm:圧縮のみ 200tf油圧ジャッキ 試験体 39 PC鋼棒(呼び40) 400 2142 2982 66 H480×440×75×50 水平荷重 鉛直荷重 HT570PC (直径700mm 板厚9mm) 2142mm 440mm +側 -側 440mm 反力床 反力 フレーム ロードセル ジャッキ 変位計 H800×440×30×30 H800×440×30×30 100tf油圧ジャッキ ストローク400mm 試験体-柱接続梁 100tfロードセル 200tfロードセル 150mm:圧縮のみ 200tf油圧ジャッキ 試験体 39 PC鋼棒(呼び40) 400 2142 2982 66 H480×440×75×50 水平荷重 鉛直荷重 HT570PC (直径700mm 板厚9mm) 2142mm 440mm +側 -側 440mm 反力床 反力 フレーム ロードセル ジャッキ 変位計 図-1 単杭モデルの正負交番繰返し載荷実験の概要図 -1000 -800 -600 -400 -200 0 200 400 600 800 1000 -100 -50 0 50 100 水平変位δ (mm) 水平 荷重 P (kN) 図-2 HT570PCの荷重~変位関係 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 0 20 40 60 80 100 水平変位δ (mm) 水 平荷重 P (kN) PyM Pu P95 PyN δyEN δyEM δm δ95 δuN δuM 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 0 20 40 60 80 100 水平変位δ (mm) 水 平荷重 P (kN) PyM Pu P95 PyN δyEN δyEM δm δ95 δuN δuM PyN:特性値から算定した降伏水平荷重(494kN) PyM:材料試験値(下降伏)から算定した降伏水平荷重 (636kN) ここで,PyNとPyMは軸力を考慮して算定している. Pu:最大水平荷重(821kN) P95:最大水平荷重の95%の荷重(780kN) δyEN:実験初期勾配においてPyN時の水平変位 (16.5mm) δyEM:実験初期勾配においてPyM時の水平変位(21.2mm) δm:最大水平荷重時の水平変位(34.0mm) δ95:Pu後の包絡線がP95となるときの水平変位(43.1mm) δuM:Pu後に包絡線がPyMとなるときの水平変位(54.2mm) δuN:Pu後に包絡線がPyNとなるときの水平変位(61.7mm) 図-3 HT570PCの正側の包絡線 -2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 δ/δyEM P/ PyM -2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 δ/δyEM P/ PyM 図-4 無次元化した荷重~変位関係 HT570PC SM570 +3δy
性能を有しているものと判断できる. 設計的な観点からHT570PCの特性値で無次元化した指 標を表-4に示す.鋼材降伏強度の特性値に対応する荷重 を保有できる限界値δuNを終局と仮定すると,降伏変位 δyENの3.8倍の塑性性能を保有していることになる. 4. 組杭による正負交番繰返し載荷実験 (1) 実験方法 桟橋の鋼管杭部分を高強度鋼管杭HT570PCと,比較対 象の従来材を用いた場合の2種類に対して実構造の1/4縮 尺程度の部分模型を製作して,正負交番繰返し載荷実験 を行った.実験で用いた鋼管杭の製造方法は電縫鋼管で ある.構造試験フレーム内に鋼管杭下部をピン構造とし て設置し,両側から荷重を作用させる手法を採用した. 実験概要図を図-5に,模型の詳細図を図-6に示す. 従来材は全塑性モーメントがHT570PCとほぼ等しくな るように材料を選定した(表-5参照).従来材の規格は STK400であるが,材料試験で求めた管軸方向の鋼材降 伏強度は393N/mm2で490N/mm2級相当の強度を保有して いた.従来材に比べ高強度材HT570PCを用いると,鋼重 が21%低減されることになる. 上部工は,鋼管杭に着目した実験のため,鋼管杭が先 に塑性化するように全塑性モーメントに耐えることを目 安に設計した.ただし,模型の設置上の重量制限から上 部工は幅600mm×高さ800mmが限界で,杭頭部の上部工 への埋込み長,押し抜きせん断耐力,梁のせん断耐力な ど設計式を完全に満足させることはできなかった.また, 鋼管杭の内部に上部工下端から直径分だけ中詰コンクリ ートを充填した. 載荷方法は,過去に港湾技術研究所で実施された桟橋 モデルの載荷実験4)にならい,±1δ yから±4δyまでは3 回ずつ繰返し載荷を行い,以降は模型の状況を見ながら 最大±150mm程度(STK400は+9δy,HT570PCは+6δy) まで載荷した.δyは材料試験による降伏強度を用いて 骨組計算にて算定し,STK400は15.1mm,HT570PCは 24.8mmであった.また,δyに対応する水平荷重は, STK400で284kN,HT570PCで299kNであった. (2) 実験結果 a) STK400 繰返し載荷で得られた荷重~変位関係を図-7に示す. 荷重は+4δyまで増加を続け,以降はほぼ同程度で推移 した.最大荷重は+9δy時の380.4kNであった.耐力低下 が生じなかった要因は,杭頭部に中詰コンクリートを充 填していること,上部工で致命的な破壊が生じなかった こと等が考えられる. 以降,主な経過を記す.+1δy 1回目載荷時にはA杭+ 側中詰下端から50mm地点で最大-2733μのひずみが発生 し,降伏ひずみ1965μを越えていた. +2δy 1回目載荷時には,A杭+側上部工下端から50mm 地点で最大-8061μのひずみが発生したが,明瞭な局部 座屈は確認できなかった.また,上部工側面に明瞭なせ ん断ひび割れと,上部工下面の杭周辺からひび割れが発 生した. +4δy 1回目載荷時には,A杭+側上部工下端から50mm 表-3 耐震性能指標(δyEM)で無次元化 SM570 HT570PC 1.29% 1.6 2.1 2.6 1.52% t/D (板厚/直径) 2.3 1.9 1.5 δuM/δyEM δ95/δyEM δm/δyEM SM570 HT570PC 1.29% 1.6 2.1 2.6 1.52% t/D (板厚/直径) 2.3 1.9 1.5 δuM/δyEM δ95/δyEM δm/δyEM 表-4 耐震性能指標(δyEN)で無次元化 HT570PC 2.1 2.6 3.8 δuN/δyEN δ95/δyEN δm/δyEN HT570PC 2.1 2.6 3.8 δuN/δyEN δ95/δyEN δm/δyEN 鋼管(B杭) 上部工 水平荷重 水平荷重 +側 -側 単位:mm 167 0 2300 鋼管 (A杭) ロードセル ジャッキ 変位計 鋼管(B杭) 上部工 水平荷重 水平荷重 +側 -側 単位:mm 167 0 2300 鋼管 (A杭) ロードセル ジャッキ 変位計 図-5 組杭モデルの正負交番繰返し載荷実験の概要図 図-6 桟橋模型の詳細図 表-5 実験で用いた鋼管の諸元 9.44E+3 1.48E+4 断面2次 モーメント (cm4) 2.55 2.52 t/D (%) 78.3 98.7 断面 積 (cm2) HT 570PC STK 400 393 428.5 355.6 9.07 318.5 8.03 直径D 板厚t (mm) 451.6 583 全塑性 モーメント (kN・m) 軸方向 降伏強度 (N/mm2) 9.44E+3 1.48E+4 断面2次 モーメント (cm4) 2.55 2.52 t/D (%) 78.3 98.7 断面 積 (cm2) HT 570PC STK 400 393 428.5 355.6 9.07 318.5 8.03 直径D 板厚t (mm) 451.6 583 全塑性 モーメント (kN・m) 軸方向 降伏強度 (N/mm2)
地点で最大-22795μのひずみが発生していた.+4δy 3回 目の載荷終了後にはA杭+側の杭頭部(上部工下端から 50mm付近)で局部座屈により外側への膨らみが発生し ていた.以降,杭頭部の圧縮側で外側に膨らみが発生し, 象の足座屈が進展していった.また,中詰コンクリート の効果で内側に凹むような座屈は発生しなかった. b) HT570PC 荷重~変位関係を図-8に示す.荷重は,STK400と同 様に+4δyまで増加を続け,+6δyまで同程度で推移した (厳密には,最大荷重は+5δy時の447.6kNで,+6δyでは 1%程度減少した).最大荷重は STK400と比べると1.18 倍で,δy時の水平荷重の比率である1.05倍(=299/284) よりも大きな値となっていた.その理由としては,同一 寸法の上部工内に固定された鋼管の固定度などの違いが 影響したものと考えられる. 以降,主な経過を記す.+1δy 1回目載荷時には,A杭 +側上部工下端から50mm地点で最大-4712μのひずみが 発生し,降伏ひずみ2915μを越えていた.また,上部工 側面にせん断ひび割れと,上部工下面の杭周辺からひび 割れが発生した. +2δy 1回目載荷時には,A杭+側上部工下端から50mm 地点で最大-13049μのひずみが発生したが,明瞭な局部 座屈は確認できなかった. +4δy 1回目載荷時には,A杭+側上部工下端から50mm 地点で最大-24295μのひずみが発生していた.また,A 杭+側の杭頭部(上部工下端から50mm付近)で局部座屈 により外側への膨らみが発生していた.以降,STK400 と同様に杭頭部の圧縮側で外側に膨らみが発生し,象の 足座屈が進展していったが内側に凹むような座屈は発生 しなかった. 以上の結果から,高強度鋼管杭HT570PCに置き換えて も同等の耐荷力を確保できることが明らかになった.ま た,座屈の発生は+4δyで同じタイミングであった.実 スケールで評価するとHT570PCの方が1.6倍程度の大きな 変位まで座屈が発生しなかったことになる. 5. 腐食性状確認のための浸漬試験 (1) 試験方法 HT570PCと従来材(SKK490)の単体としての腐食性 状の比較と,両者の異種金属接合状態における腐食性状 に与える影響の把握を目的として,海水を模擬した浸漬 試験を行った.単体試験片は,長さ300mm,幅40mm, 厚さは切削により6.5mmに統一した.接合試験片は長さ 方向の中央部で溶接を行い,単体試験片と同一の形状に した.3.5%濃度の食塩水を用いて40℃を保持し2000時間 浸漬させて,板厚と腐食電位変化の測定を行った. (2) 試験結果 a) 腐食電位 腐食電位は,試験片端部に設けたリード線と試験片の 中央部の電位を測定した.接合試験片ではSKK490側の リード線と溶接部から10mm程度HT570PC側の位置で測 定した.腐食電位の経時変化を図-9に示す.試験開始直 後に電位が卑化(錆びやすい)し,その後全試験期間を 通じて徐々に貴(錆びにくい)の方向にシフトした.試 験片による電位の差は小さく,腐食性状に有意な差が生 じていないものと判断できる. b) 板厚測定 板厚測定は,マイクロメータを用い,長手方向に3列 (中央部と両端部から10mm中央側の3列),5mmピッチ で計測した.図-10に単体試験片の板厚減少量分布図を 示す.横軸は試験片長手方向位置であり,3列の計測値 -500 -400 -300 -200 -1000 100 200 300 400 500 -150 -100 -50 0 50 100 150 水平変位 (mm) 水平荷 重 (k N ) 図-7 荷重~変位関係(STK400) -500 -400 -300 -200 -1000 100 200 300 400 500 -150 -100 -50 0 50 100 150 水平変位 (mm) 水 平荷重 (kN ) 図-8 荷重~変位関係(HT570PC) -800 -700 -600 -500 -400 -300 -200 -100 0 0 500 1000 1500 2000 浸漬時間(h) 電 位 ( m V v s. A g/ Ag C l) HT570PC(単体試験片) SKK490(単体試験片) SKK490+HT570PC(接合試験片) 図-9 腐食電位の経時変化 +4δy +4δy
の平均値を示している.板厚減少量に関しては, HT570PCの方が平均で3割程度少ない結果となった.図-11に接合試験片の板厚減少量分布図を示す.単体試験片 と同様に,HT570PCはSKK490に比べ板厚減少量が平均3 割程度少ない結果となった.また,溶接部でも特に板厚 減少量が大きくなることはなかった. 板厚減少量に関しては,HT570PCの方が優れる結果で あったが,腐食電位では有意な差が生じていなかったた め,設計では従来材と同様の扱いとして問題ないものと 考えられる. 6. 設計法の検討 HT570PCの適用に際して設計で必要となる,部分係数 と軸方向圧縮降伏応力度の扱いについて検討を行った. (1) 部分係数 港湾基準5)では,新素材の開発により設計因子の確率 変数が変わる場合や、ライフサイクルコスト等の観点か ら目標信頼性指標が変化する場合には,部分係数の設定 の見直し方法として下記手法が紹介されている. ①信頼性の変化前の感度係数をそのまま用いて部分係 数を修正する方法 ②信頼性の変化に対応して部分係数を修正する方法 ③再度キャリブレーションを実施して部分係数を設定 する方法 また,部分係数は(1)式で算定することができる.
(
)
k x x T x x X V µ β α γ = 1− (1) ここに,γx:部分係数,αx:感度係数,βT:目標信 頼性指標,Vx:変動係数,μx:平均値,Xk:特性値. 新しい材料に対する部分係数の設定は③が最も望まし いが,簡便な①を適用することもできると解説されてい る.実際,桟橋のSKK490の部分係数は,SKK400の部分 係数(コードキャリブレーションで決定)をもとに,① の手法で設定されている. HT570PCの部分係数もSKK490と同様に①の手法で設 定してみる.HT570PCの鋼材降伏強度の21データを整理 したところ,μx / Xk =1.181,Vx ==0.04の値が得られてい る.部分係数の算定例として表-6に耐震強化施設(特 定)のレベル1地震に対する杭の応力に関する部分係数 を示す.γx(調整前)は,(1)式で算定した値で,実際 に用いる部分係数γxは鋼材降伏強度を1.0となるように 水平力の部分係数を割り戻している.HT570PCの水平力 に関する部分係数は,SKK490の1.77よりも小さい1.68と なった.このように,HT570PC用の独自の部分係数を用 いることもできるが,設計者の判断で,SKK490の部分 係数を用いて設計すると安全側の設計となる.なお,他 の部分係数に関しても同様に設定することができる. (2) 軸方向圧縮降伏応力度 道路橋示方書6)では,許容軸方向圧縮応力度に関して, 圧縮部材の不完全性(初期まがり,荷重の偏心,残留応 力,部材内の降伏強度のばらつきなど)を考慮に入れた (2)式で表される基準耐荷力曲線を採用している. ) 773 . 0 ( 0 . 1 545 . 0 109 . 1 0 . 1 2 λ α λ α α + = − = = (2) ここに,α
=
α
crα
y , E lr y ⋅ ⋅ = π σ λ 1 α :基準cr 耐荷力, y α :降伏応力度, E:ヤング率,l :部材 の有効座屈長,r :断面 2次半径. この式は,各種形状の鋼材に対して求められた耐荷力 曲線のほぼ下限値に相当する式である. 港湾基準では基準耐荷力曲線から軸方向圧縮降伏応力 度を定めるのではなく,道路橋示方書の許容軸方向圧縮 応力度に安全率1.7を掛けた値を採用している. HT570PCの軸方向圧縮降伏応力度として,従来材と同 様に道路橋示方書のSM570の許容軸方向圧縮応力度に1.7 を掛けた応力度と,基準耐荷曲線から直接算定した応力 度を表-7および図-12に示す.SM570の許容軸方向圧縮 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0 100 200 300 位置(mm) 板厚 減少 量 (mm ) ○SKK490 ●HT570PC 図-10 単体試験片の板厚減少量 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0 100 200 300 位置(mm) 板厚 減少量 (mm ) ○SKK490 ◆溶接部 ●HT570PC 図-11 接合試験片の板厚減少量 表-6 レベル 1地震に対する杭の応力に関する部分係数 -0.885 0.423 αx 3.65 3.65 βT 1.77 1.00 γx 水平力 鋼材降伏強度 1.05 1.196 0.08 1.86 γx(調整前) 0.20 1.00 Vx μx/Xk -0.885 0.423 αx 3.65 3.65 βT 1.77 1.00 γx 水平力 鋼材降伏強度 1.05 1.196 0.08 1.86 γx(調整前) 0.20 1.00 Vx μx/Xk Vx μx/Xk βT αx γx γx(調整前) -0.885 0.423 3.65 3.65 1.68 1.00 水平力 鋼材降伏強度 1.11 1.181 0.04 1.86 1.00 0.20 Vx μx/Xk βT αx γx γx(調整前) -0.885 0.423 3.65 3.65 1.68 1.00 水平力 鋼材降伏強度 1.11 1.181 0.04 1.86 1.00 0.20 (SKK490) (HT570PC) ) 0 . 1 ( ) 0 . 1 2 . 0 ( ) 2 . 0 ( λ λ λ > ≤ < ≤応力度は,l r が小さな領域で安全率を1.7よりも大き くとっている.そのため,許容軸方向圧縮応力度を1.7 倍した値は,基準耐荷曲線から直接算定した値よりも小 さくなる.ただし,桟橋ではl r が18よりも小さいこ とは少なく,どちらの式を用いても同じ結果となるもの と考えられる. 7. まとめ 熱延帯鋼から造管した引張強度570N/mm2級の高強度 鋼管杭HT570PCの港湾構造への適用を目指して,耐震性 能,腐食性状,設計法の検討を行った.主な結論を以下 に示す. 1) HT570PCの単杭の正負交番繰返し載荷実験を行った 結果,厚鋼板(SM570,引張強度570N/mm2級)か ら曲げ加工で造管したと鋼管と同等の耐震性能を 示し,造管方法による差異は認められなかった. 2) HT570PCと,耐力が同等となるように選定した SKK490相当の鋼管の2組に対して,桟橋構造を模 した組杭の正負交番繰返し載荷実験を行った.そ の結果,HT570PCは鋼重が21%低減されているに もかかわらず,SKK490相当と同等の耐荷力を有す ることが明らかになった.また,変形性能に関し ては,HT570PCの方が座屈発生変位が1.6倍程度大 きかった. 3) 腐食性状に関して浸漬試験を行い,HT570PCは従来 材と同等の取り扱いができることを確認した. 4) HT570PCの降伏強度のばらつきデータをもとに部分 係数の設定例を示し,SKK490と同じ値を利用すれ ば安全側の設計となることを確認した.また,軸 方向圧縮降伏応力度の提案を行った. 参考文献
1) S. Iai, Y. Matsunaga, T. Kameoka: Strain Space Plasticity Model for Cyclic Mobility, Report of The Port and Har-bour Research Institute, Vol.29, No.4, pp.27-56, 1990.
2) 建設省土木研究所橋梁研究室:鋼製橋脚の正負交番 繰返し載荷実験(その 1),土木研究所資料第 3474 号,平成 9 年. 3) 社団法人日本橋梁建設協会:鋼製橋脚の耐震設計マ ニュアル(資料編),平成 10 年 11 月. 4) 横田 弘,川崎 進,菅原 亮,Hazem EI-Bakry,川端規 之:鋼直杭式桟橋の地震時保有耐力に関する実験お よび解析,港湾技術研究所報告,第 38 巻,第 2 号, pp.223~255. 1999, 5) 社団法人日本港湾協会:港湾の施設の技術上の基 準・同解説,平成 19 年 7 月. 6) 日本道路協会:道路橋示方書・同解説Ⅱ鋼橋編, pp.129-133,平成 14 年 3 月.
STUDY ON THE APPLICATION OF A HIGH STRENGTH STEEL PIPE PILE
(570N/mm
2GRADE) TO PORT STRUCTURES
Yoshio SHIOZAKI, Shunsuke USAMI, Hiroya OOKUBO
The seismic performance verification of a pile supported wharf for Level-2 earthquake ground motion has been carried out using effective stress analysis code FLIP. If the performance requirements are not satisfied because of full plasticity of piles, trial and error is required, such as to increase the thickness of steel pipe piles. Steel pipe piles, tensile strength of which is 400 N/mm2 grade or 490 N/mm2 grade, have been generally used in port structures. However, if it is possible to use a high strength steel pipe pile (more than 490N/mm2 grade), port structures can be constructed at low cost.
Aiming to apply the high strength steel pipe pile manufactured from hot coil (570N/mm2 grade) to port structures, experiments as follows have been conducted. 1) Cyclic loading test of the single steel pipe pile. 2) Cyclic loading tests of the coupled steel pipe piles (pile supported wharf models). 3) Immersion tests for verification of corrosion characteristics. Consequently, it has been found that the high strength steel pipe pile (570N/mm2 grade) can be used in the same way as conventional strength pipe piles. Design method has been also proposed.
表-7 HT570PCの軸方向圧縮降伏応力度 a) ≦13のとき 450 b) 13< ≦67のとき 450-3.65( -13) c) >67のとき 2.03×106 3.5×103+( )2 a) ≦18のとき434 b) 18< ≦67のとき 434-3.57( -18) c) >67のとき 2.04×106 3.5×103+( )2 基準耐荷重曲線から算定 道路橋示方書の 許容軸方向圧縮応力度×1.7 a) ≦13のとき 450 b) 13< ≦67のとき 450-3.65( -13) c) >67のとき 2.03×106 3.5×103+( )2 a) ≦18のとき434 b) 18< ≦67のとき 434-3.57( -18) c) >67のとき 2.04×106 3.5×103+( )2 基準耐荷重曲線から算定 道路橋示方書の 許容軸方向圧縮応力度×1.7 r l / r l / r l / r l / r l / r l / r l / r l / r l / r l / 単位:N/mm2 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500 0 20 40 60 80 100 軸方向 圧縮 降伏応 力度 (N/ m m 2) 許容軸方向圧縮応力度×1.7 基準耐荷重曲線から算定 図-12 HT570PCの軸方向圧縮降伏応力度 r l