1.はじめに
LSI に代表される半導体産業の黎明期にフォト リソグラフィ加工技術が開発された.生産性良く 一括してデバイスが製作できる長所を最大限に活 かすことで集積度が高く付加価値の高い電子デバ イスが製作可能になった.この微細加工技術を応 用して,微小な機械構造をも製作できる.マイク ロマシニングも,フォトリソグラフィの長所を踏 襲することを暗黙の了解としている.但し応用分 野ごとに要求されるものは LSI のそれとは異なる ため,評価基準に照らし合わせた多様な加工技術 となる.例えば LSI では,ほぼ平面を対象とする のに対して,センサ,アクチュエータ,化学反応・ 分析ツールでは機能と密接に関係して深い凹凸を 持つ立体構造が求められる.私たちの手がけてい る光応用関係の研究を以下紹介する.2.鏡面加工と微小共振器
微小光学素子において反射ミラーは鏡面であ ることが求められる.但し,基板に対して 45°や 90°をなす微小な平面になるため,表面研磨を施 すことは不可能である.このため表面粗さはエッ チング技術に直接依存する. (111)面は KOHなど を利用した結晶異方性エッチングで容易に得られ るが,45°や 90°の面にはならないため不向きで ある.対して(110)面は(111)や(100)基板に垂直にで き,六角形や四角形からなる光学系を構成できる 1, 2).内部からの発光を各壁面で反射させて閉じ込 める共振器となる,固体色素微小共振器レーザを シリコン鋳型から転写して製作した. 図 1に製作プロセスを示す.酸化した Si(111) ウ ェハに六角柱状キャビティアレイを,垂直ドライ エッチングによって用意する.壁面は{110}面にな るよう位置合わせしておく.ドライエッチングの 図 2 製作した Si 鋳型壁面の表面粗さシリコンマイクロマシニングと集積化技術
佐々木実
*1,金森義明
*2,羽根一博
*3Minoru Sasaki, Yoshiaki Kanamori, Kazuhiro Hane
東北大学大学院工学研究科 *1助教授 工学博士,*2助手 工学博士,*3教授 工学博士
図 3 微小共振器からの発光スペクトル 図 1 微小共振器の製作プロセス
みでは壁面に 100nmRa 程度の表面粗さがある (ステッ プ 3).115℃の ethylenediamine pyrocatechol and water (EDP) を使用して結晶異方性ウェットエッチングを施 す (ステップ 4).エッチング速度には結晶異方性があり {110}面で極小値を持つ.このため{110}面以外の凹凸が 速く取り除かれ{110}面が現れる.6つの{110}面は結晶 学的に(111)基板面に垂直で,互いに 120°で交わる.ス テップ 4 の挿入図は Si鋳型である.エッチング速度が 最小の{111}面も一部現れている.ここにローダミン 6G レーザ色素と PMMA の溶液を流し込み,ベーキングす る(ステップ 5).固化したポリマーを剥がしてレーザ共 振器を得る(ステップ 7 の挿入図). 図 2は EDP エッチング時の壁面表面粗さを調べた結 果である.壁面には方向性を持つ筋が現れるため,筋 に平行(白丸)と垂直(黒丸)の 2 方向で表面粗さを 測定した.筋と平行方向の表面粗さはサブ nmRa であ る.筋と垂直方向の表面粗さは>4 分で<20nm Raまで減 少した.上記値はウェットエッチングで得られた面と しては我々の知る限り世界最小の表面粗さである.壁 面を平坦化するのに重要になったのは六角形パターン と結晶方位とのアライメント精度である.ウェハのオ リエンテーションフラット(OF) の精度は±1°である が,これを利用するとすじに垂直方向の表面粗さは 50nm Raまでは下がるものの,以後エッチングを長くし ても増加した.EDP エッチング速度は{111}方向に対し て 0.1°程度で敏感であることが報告されている3).結 晶方位を正確に得るために(111)ウェハにダミーエッチ ングを行った.サイズ∼500µm の三角形エッチングピ ットが多数得られ,各辺は<110>方向に対応する.これ らが六角形の辺と平行になるようアライメントした. 図 3 は励起したレーザ共振器からのスペクトルであ る.Nd:YAG パルスレーザの 2 倍波(532nm)を用いた. 多モードのレーザ発振を示す鋭いピークが得られた. OF を利用した共振器では Q 値が∼1600 であったのに 対 し て, エッチングピット を 利用 したものでは 2500-4500 とほぼ倍増した.レーザ発振の閾値は 10 か ら 3mJ/cm2に低減した4).
3.ウェハ折り曲げによる立体構造
エッチング溶液にアルコールや界面活性剤を添加し て{111}面の代わりに{110}面を得る技術がある.(100) ウェハに対して 45°の面となり光線を 90°曲げること ができる.しかし,通常の(100)ウェハの面方位精度が ±1°でしかないため,完全な(110)面が得られても,基 板面に対する角度精度は±1°に留まる.結晶方位に依 0 0.5 1 1.5 2 2.5 15 20 25 30 35 40 Sensor-to-sample distance (mm) Photocurrent ( µ A) -1 -0.5 0 0.5 1 (ch2-ch1)/(ch1+ch2) 図 6 センサから得た光電流信号 図 5 製作したセンサ 図 4 ウェハ折り曲げによる三角測量型センサ ch2 ch1 jig PSD ch1 ch2 guide pit lens hinge sample imaging lensP
wafer ch2 mirror LD PSD ch1存しない方法として,ウェハを折り曲げる試みを行っ ている5).原理的には図 4のような加工である.Siウェ ハに予め V 溝などの加工を施し塑性変形する材料(例 えば,メタル薄膜)によってヒンジ構造を用意してお く.機械加工で用意したジグ上にウェハを配置し,溝 に沿って折り曲げ,所望の角度に固定する.元々1つ であったウェハを切り離すことなく,立体的に面を傾 けて利用することで,ウェハ上に用意した複数素子の 相対的な位置を崩すことなく,任意の角度を設定でき る.一度設定した角度を調節し直すことも可能である. また,mm レベルの段差を形成することも容易であり微 細加工では加工時間がかかりすぎるような大きさのデ バイスを効率よく製作できる.ボールレンズ固定用の ガイド溝,ミラー,PSD (Position Sensitive Detector)を用 意したウェハを図 4 のように 2 回折り曲げて用意した 三角測量型距離センサを図 5に示す6).固定した LDチ ップは発光している.ウェハには 3 列のデバイスがあ り,センサのアレイ化も可能である. 図 6 は計測信号である.灰色の点は PSD センサの 2 電極から得た光電流を,センサ-対象物間距離を変化さ せながらプロットしたものである.PSD 上には対象物に 照射されたレーザスポットの像が形成される.像の位 置はセンサ-対象物間距離が変化するのに依存して PSD 上を移動する.PSD からの 2 電流信号の比率を比較する ことで,スポット位置と対象物の距離が計測できる. 黒点は 2 信号の差と和の比をとったもので,18-40mm の範囲で単調減少し,距離計測が可能である.
4.高アスペクト比構造による集積化
マイクロマシニング技術の発達によって幅に対して 深い,高アスペクト比構造が比較的簡単に製作できる ようになった.レンズホルダ応用の試みを紹介する7). 図 7 は模式図である.いくつかの Si 片持ちばねにより, ボールレンズを保持する.レンズ上端は Si 基板と陽極 接合したパイレックスガラス板に接しており,面外方 向のレンズ位置を決定する.面内方向は,同一のばね 定数を持つばねのバランスで中心に位置合わせされる. 図 8は 4 本のカンチレバーでφ300µm のボールレンズを 固定した様子である.面内位置決め精度は∼2µm であ った.2層の Siウェハの貼り合せであるSOI(Silicon on Insulator)ウェハを利用すると,ハンドル Si 層にレン ズホルダを,デバイス Si 層に図 7 挿入図のような PD アレイを集積化できる.0
0.05
0.1
0.15
0
100
200
Displacement (
µ
m)
Photocurrent (nA)
図 7 ボールレンズで結像するエンコーダ 図 8 カンチレバー4 本で中心に固定されたレンズ 図 9 ライン&スペースに対応した光電流信号ball lens
cantilever
pyrex glass
hande Si
device Si
code
photodiodes
このデバイスを用いて,明暗のライン&スペースパ ターンを PD 上に結像させ移動させた際の光強度変化を 計測した.図 9 に PD の信号を示す.コード板のピッチ は 40.8µmである.入射光の強度に応じて信号強度が繰 り返し変化している.これを読み取ることで,変位や 回転量を計測できる.
5.立体へのフォトリソグラフィ加工
マイクロマシニングでは数 100µm を越える凹凸形状 を用意することがよく生じる.更にその上に,電気・ 機械構造を用意したい要求がある8).レジスト膜を塗布 するためにスピンコーティング法を利用すると,平面 サンプルの場合のように有効ではない.立体形状上で は遠心力と表面張力が互いにバランスする向きになら ず,原理的に均一な膜は得られない.最初に問題にな るのは凸部でレジスト膜が切れてしまうことである. このため,霧状のレジスト微粒子を噴きつけて成膜す るスプレーコーティング技術を研究・開発している 9). スプレーは気体,液体が複雑に関係する現象であるが, ある種のバランスの上で均一な成膜を可能とする10, 11). 立体を対象とする機械加工と平面リソグラフィ加工の 狭間をつなぐ技術にもなる.最新の知見を盛り込み12), ウシオ電機から 2004 年 11 月に装置を製品化した13). 図 10(a)は段差を越えてネガレジストをパターニングし た 100µm 幅のライン&スペースパターンである.図 10(b)はポジレジストを利用した 83µm幅の結果である. いずれもピンホールのような欠陥は無い.レジスト膜 が段差凸部で切れることなく,キャビティ底までつな がっている.材料に依存せず均一な成膜ができている. ネガレジストの場合には全体平均膜厚 3.0µm に対して 凸部コーナで 3.0µm 凹部で 2.3µm,ポジレジストの場 合には全体平均膜厚 4.8µm に対して凸部で 5.2µm 凹部 で 3.5µm となった.レジスト膜厚分布は立体形状のア スペクト比や場所にも影響を受けるが,キャビティ底 では薄くなる傾向がある.6.ナノ構造とアクチュエータ
回折格子はよく利用される光学素子である.格子周 期 dが波長λ の 3倍以上の場合は回折効率曲線はスカラ ー 理 論 と よ く 一 致 す る . d<λ の サ ブ 波 長 格 子 (SubWavelength Grating: SWG)になると複屈折・有効屈 折率特性,入射波との強い結合による共鳴効果が構造 と共に変化する.このため材料の制限を避けながら特 性を設計できる.加えて構造は機械的に可変にでき, マイクロアクチュエータと組み合わせたチューナブル 波長選択フィルタが実現できる.バネ状の SWG を静電 アクチュエータを用いて伸縮させる周期可変 SWG を 紹介する14).図 11 下部が SWG である.拡大図を右下 に示す.周期は 600nm である.互いに微細な梁が組み 合わさりジャバラ状になっており,上部の静電櫛歯型 アクチュエータに接続されている.アクチュエータを 駆動させることにより,SWG が上方向に引っ張られ, 周期は 715nm まで伸びる(図 12(b)).アクチュエータ は静電引力が大きくなるよう,SWG は柔らかく且つサ ブ波長幅の貫通エッチング加工が可能になるよう Siの 厚みを領域ごとに変化させている.製作時にも,フォ 図 10 スプレーコーティングしたレジスト膜に転写 したライン&スペースパターン (a)ネガレジスト OMR83 (b)ポジレジスト AZ5218E (a) (b)トリソグラフィと電子線描画の2つを使い分けている. 図 12 は反射光学顕微鏡像である.初期状態の図 12(a) では赤色であったが,伸びた状態の図 12(b)では暗く変 化した.図 13 は,TE 偏光入射時の分光反射率特性で ある.格子周期が 600 から 715nm へ変化することによ り,波長 650nm∼750nm の赤色の波長領域において反 射率が低減している.
7.おわりに
シリコンマイクロマシニングと集積化技術に関する 試みを紹介した.アプリケーションによりスペックの 詳細は異なるが,光応用デバイスを実現する際に,い ずれも要求される内容である.化学応用分野とは違い があるであろうが,参考になれば幸いである. 本研究の一部は東北大学ベンチャー・ビジネス・ラ ボラトリーを利用して行われた. 参 考 文 献1) M. Sasaki, Y. Li, Y. Akatu, T. Fujii, K. Hane, Jpn. J. Appl. Phys. Part 1, Vol. 39, 7145 (2000).
2) Y. Li, M. Sasaki, K. Hane, J. Micromechanics & Microengineering, Vol. 11, 234 (2001).
3) H. Seidel, L. Csepregi, A. Heuberger and H. Baumgartel : J. Electrochem. Soc. Vol. 137, 3612 (1990).
4) M. Sasaki, T. Fujii, K. Hane, Sensors & Materials, Vol. 15, No. 2, 83 (2003).
5) M. Ishimori, J. H. Song, M. Sasaki, K. Hane, Jpn. J. Appl. Phys. Part 1, No. 6B, Vol.42, 4063 (2003) .
6) S. Endou, M. Ishimori, M. Sasaki, K. Hane, Jpn. J. Appl. Phys. Part 1, Vol.44, 4B, 2874 (2005).
7) F. Nakai, M. Sasaki, K. Hane, K. Yokomizo, K. Hori, Proc. Int. Conf. Optical MEMS, P-26, 116 (2004).
8) M. Sasaki, T. Yamaguchi, J.H. Song, K. Hane, M. Hara, K. Hori, J. Lightwave Technol. Vol. 21, No. 3 602 (2003). 9) 佐々木実,能川真一郎,羽根一博, 電学論 E, 122-E,
No.5, 235 (2002).
10) V. K. Singh, M. Sasaki, J. H. Song, K. Hane, Jpn. J. Appl. Phys. Part 1, No. 6B, Vol.42, 4027 (2003).
11) V. K. Singh, M. Sasaki, J. H. Song, K. Hane, Jpn. J. Appl. Phys. Part 1, Vol. 44, No. 4A, 2016 (2005).
12) V. K. Singh, M. Sasaki, K. Hane, M. Esashi, Jpn. J. Appl. Phys. Part 1, Vol.43, No. 4B, 2387 (2004).
13) http://www.ushio.co.jp/cgi-bin/press/prog/news.cgi?view + 00079 14) 金森義明, 羽根一博, 応用物理学会誌, 74 (2005), No.7 印刷中. 図 13 SWG の分光反射率(TE 偏光) SWG 500 550 600 650 700 750 800 0 20 40 60 80
Red color region
Reflectivity (%) Wavelength (nm) Grating pitch 600nm 715nm 図 11 アクチュエータと組み合わさった SWG