在宅終末期がん疼痛に対する
PCAによるオピオイド
【目的】
PCA( patient-controlled analgesia )とは、患者が痛 みを自覚した時、患者自身の判断で鎮痛薬を投与す る方法である。PCAを併用したオピオイドの持続投与 は、リスクが過大に心配されることや専門医以外に広 く知られていなかったことなどから普及が遅れている。 PCAを適切に実施するには、患者と医師・看護師・薬 剤師の連携及び管理体制が重要な要因となる。 今回、無菌製剤室を有する調剤併設型ドラッグストア 薬剤師が、在宅終末期がん患者のPCAによるオピオ
【対象と方法】
2007年X月、主治医よりIV-PCAおよびTPN( total parenteral nutrition )処方の応需依頼があり、退院予 定日、処方内容、PCAのデバイス、往診スケジュール、 配薬スケジュールなどについて、主治医と打ち合わせ をおこなった。 2008年Y月の患者逝去迄、無菌室(クラス10,000)内 のクリーンベンチ(クラス100)にてインフューザーポン プへのモルヒネ充填及びTPNの調製(図1)をおこなう と供に訪問服薬指導を実施した。主治医には訪問報 告を詳細におこなった。図1 応需薬局(調剤併設型ドラッグストア)
無菌製剤室
無菌製剤準備室
クリーンルーム:クラス10,000 クリーンベンチ:クラス100
• 症例:50歳代女性 肺腺がん(ステージT4N0M0,ⅢB) • 使用器具:IV-PCAデバイス バルーン圧縮式持続注射器(バクスターインフュー ザーポンプ)容量60mL、0.5mL/hr ロックアウトタイム60min及び15min.)
<処方>
Rp1 静脈注:インフューザー
塩酸モルヒネ200mg/5mL 6管,
生理食塩水 30mL
Rp2 中心静脈栄養:
持続24時間(40mL/hr)
フルカリック1号輸液 903mL1キット
5%ブドウ糖 250mL1袋,
10%NaCl 20mL1管
ガスター注射液20mg 2mL1管
【結果】
<処方経過> •処方されたオピオイドは、塩酸モルヒネ注 (200mg/5mL)であり、投与量は6管30mL (生理食塩液30mLと混合)から開始された。 頻回のレスキュー使用が見られるようになり、退 院後54日目には、ロックアウトタイムが60minか ら15minの製品への変更が行われた。 •その後64日目には8管、71日目には10管、92 日目には12管へと増量された。<居宅訪問> • 薬剤師の患者宅訪問は、X月5回、翌月6回、 翌々月8回、3ケ月後4回の、合計23回実施した。 <訪問服薬指導> • 訪問服薬指導の主な事項は、インフューザーポ ンプのレスキュー使用方法の説明、吐き気・便秘 などのオピオイド副作用のモニタリング、デュロ テップパッチの適正使用のための情報提供などで あった。
<処方支援> 処方支援として、レスキューの頻回使用に対するロッ クアウトタイムの短いポンプへの変更、モルヒネ投与 の増量、NSAIDs坐薬や抗嘔吐坐薬の併用などにつ いて提案した。 <退院後の処方応需・訪問日・訪問実施事項> 処方内容や訪問日、訪問実施事項の詳細を下記の 表に示した。 ①退院~15日後 :(表1)、(表2) ②退院20~43日後 :(表3)、(表4) ③退院49~65日後 :(表5)、(表6) ④退院69~84日後 :(表7)、(表8) ⑤退院89~103日後 :(表9)、(表10)
表1 退院~15日後の処方応需・訪問日
退院からの日数 退 院 +3 日 +6 日 +9 日 + 13 日 + 15 日 塩酸モルヒネ200mg/5mL6管, 生理食塩水30mL 1本 1本 2本 フルカリック1号輸液903mL1キッ ト,5%ブドウ糖 250mL1袋,1 0%NaCl 20mL1管,ガスター注 射液20mg2mL1管 7 日 分 7 日 分 7 日 分 新レシカルボン坐剤(個) 20 薬剤師訪問指導 ◎ ◎ ◎ ◎ 処方せん発行 ◎ ◎ ◎ ◎ ナウゼリン坐剤60mg (個) 20 往診時に吐き気 止めの注射 (退院月:X月)表2 退院~15日の間の実施事項
+3日後訪問 +9日後訪問 +15日後訪問 訪問 活動 医師 への 報告 痛み:我慢している 吐き気:なし 使用方法の不理解 があったためレス キューの使用方法 を説明 痛み:入院時より 強い レスキューの回数 を増やすことを説 明 痛み:レスキュー1 日2回程度使用 上記モニタリング・ 説明事項を報告 吐き気が強くなっ ていることを報告 吐き気止めの薬に ついて相談 制吐薬の処方を希 望されていることを 報告退院からの日数 + 2 0 日 + 2 2 日 + 2 4 日 + 3 0 日 + 3 1 日 + 3 3 日 + 3 4 日 + 3 6 日 + 4 1 日 + 4 3 日 ◎ 塩酸モルヒネ200mg/5 mL6管,生理食塩水30 mL 2 本 1 本 1 本 2 本 フルカリック1号輸液903 mL1キット、5%ブドウ糖 250mL1袋、10%NaCl 20mL1管、ガスター注射 液20mg2mL1管、プリン ペラン注射液10mg1管 1 4 日 分 7 日 分 7 日 分 新レシカルボン坐剤(個) 2 0 薬剤師訪問指導 ◎ ◎ ◎ ◎ 処方せん発行 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ モーラステープ(枚) 7
表3 20~43日後の処方応需・訪問日
+22日後訪問 +30日後訪問 訪問 活動 痛み:3日前か ら増強。昨日レ スキュー6回使 用 今後の投与量 の増加の提案 (ロックアウトタ イムが短い製 品又はモルヒ ネ濃度増加) 医師 への 報告 +36日後訪問 +43日後訪問 痛み:レス キューを使わ ない日もある 吐き気低下 痛み:レス キューを6回程 度使用してい る。 吐き気安定 痛み:レス キュー1~2回。 我慢している。 吐き気安定 吐き気が以前 より落ちついて いる レスキュー使 用状況・吐き気 モニタリング レスキュー使 用状況・吐き気 モニタリング
表4 20~43日の間の実施事項
退院からの日数 + 49 日 + 51 日 + 54 日 + 56 日 + 61 日 塩酸モルヒネ200mg/5mL8管, 生理食塩水20mL 1 本 モーラス30(枚) 36 + 64 日 + 65 日 ◎ 2 本 7 日 分 20 42 塩酸モルヒネ200mg/5mL6管, 生理食塩水30mL 1 本 1 本 フルカリック1号輸液903mL1キッ ト、5%ブドウ糖250mL1袋、10 %NaCl20mL1管、ガスター注射 液20mg2mL1管、プリンペラン注 射液10mg1管 7 日 分 7 日 分 モーラステープ(枚) 70 70 新レシカルボン坐剤(個) 薬剤師訪問指導 ◎ ◎ ◎ ◎ 処方せん発行 ◎ ◎ ◎ ロックアウトタイムが60min から15min製品へ切り替え
表5 49~65日後の処方応需・訪問日
+51日後訪問 +56日後訪問 訪問 活動 痛み:多い日は レスキューを1 0回使用する。 ロックアウトタ イム変更説明。 痛みの状況。 医師 への 報告 +64日後訪問 +65日後訪問 痛み:昨夜レス キュー3回使用。 ロピオンも使用 した。 痛み:レス キュー多用(1 日10回以上) 痛み:ひどい モルヒネ濃度 の増加を説明 痛みの状況(レ スキュー・ロピ オンの使用)。 むくみの発生 (訪看からの情 報)。 患者より痛み 止めの坐薬希 望。 モルヒネ濃度 の増加(レス キューを押す 患者への説明 事項(モルヒネ 濃度増加)
表6 49~65日の間の実施事項
退院からの日数 + 69 日 + 71 日 + 75 日 + 76 日 + 78 日 + 80 日 + 82 日 + 83 日 + 84 日 ◎ 1本 デュロテップパッチ10mg(1回2枚) 6枚 7日 分 ◎ ◎ ◎ 塩酸モルヒネ200mg/5mL8管,生理 食塩水20mL 2本 ◎ ◎ ◎ 塩酸モルヒネ200mg/5mL10管,生 理食塩水10mL 1本 2本 7日 分 モーラステープ(枚) 70 フルカリック1号輸液903mL1キット、 5%ブドウ糖250mL1袋、10%NaCl2 0mL1管、ガスター注射液20mg2mL 1管、プリンペラン注射液10mg1管 7日 分 ボルタレンサポ25mg(個) 10 10 ボルタレンサポ12.5mg(個) 10 10 薬剤師訪問指導 ◎ ◎ ◎ 処方せん発行 ◎ ◎
表7 69~84日後の処方応需・訪問日
+71日後訪問 +75日後訪問 訪問 活動 痛み:レス キュー1日1回 程度 モルヒネの濃 度増加を説明 痛みの状況 医師 への 報告 +78日後訪問 +84日後訪問 痛み:朝・夜の レスキュー使 用が多い、昨 日11回 むくみ改善 痛み:レス キューは1日平 均10回 デュロテップ パッチの使用 上の注意 痛み:減少。レ スキューの回 数減少。 吐き気増強 (デュロテップ) ダイアップ効果 モニタリング 外用薬の備蓄 が少なくなって いること 痛み(上記) デュロテップの 説明事項 ダイアップの効 果モニタリング。 デュロテップに よる吐き気
表8 69~84日の間の実施事項
退院からの日数 + 89 日 + 92 日 + 93 日 + 96 日 + 99 日 + 100 日 + 103 日 ◎ 7日 分 塩酸モルヒネ200mg/5mL12管 2本 2本 フルカリック1号輸液903mL1キット、 5%ブドウ糖250mL1袋、10%NaCl 20mL1管、ガスター注射液20mg2 mL1管、プリンペラン注射液10mg1 管 7日 分 ダイアップ坐剤10mg(個) 20 20 20 薬剤師訪問指導 ◎ ◎ ◎ ◎ 処方せん発行 ◎ ◎ ◎ 患 者 逝 去 (X+3月)
表9 89~103日後の処方応需・訪問日
+92日後訪問 +93日後訪問 訪問 活動 モルヒネ濃度 の増加を説明 体調モニタリン グ(呼吸荒い) 患者体調 ダイアップ使用 状況(昨日5 本) 医師 への 報告 +99日後訪問 痛み:レス キュー使用増 加(10回程度) (O22.5L/分で 使用) 痛み:レス キューの使用 回数減少 呼吸安定 痛みの状況 患者の呼吸が 荒い状況 患者体調 レスキューの 使用回数減少
表10 89~103日の間の実施事項
【考察と結論】
終末期がん患者の在宅療養における疼痛緩和に関 する訪問服薬指導の結果、オピオイド副作用の便秘 に関しては良好なコントロールが得られたが、疼痛の コントロールとオピオイド増量に伴う吐き気の対応に 苦慮した。平成20年4月より、在宅疼痛緩和用ディス ポーザブルポンプが院外薬局においても保険診療の 中でカバーできるようになった。PCA法は、疼痛の個 人差や経時的変化に対して柔軟に対応でき、疼痛時 における医師の「投薬指示」の許可なしに、オピオイド の要求から投薬までを最短で対応できる利点がある。疼痛の緩和や栄養補給、腹水や胸水の除去、そして導尿 や酸素吸入も、在宅で全て可能であろうか。がん性疼痛 に対しては、オピオイド製剤を積極的に使うことで緩和さ れている。がん性疼痛は一定ではないので、レスキュー の対応が重要である。がんの進行にともなう栄養摂取の 低下に対しては、在宅におけるTPNの実施が要請され、 したがってHPN(在宅中心静脈栄養法)やHEN(在宅経 腸栄養法)も重要となる。 「病院で受けられる緩和ケアは、在宅においても全て受け られる」。こうした在宅療養環境の実現に、主治医、看護 師との密接な連携の基に、地域薬局薬剤師は貢献しなけ ればならない。
㈱スギ薬局における麻薬注射薬対応薬局の分布
疼痛緩和セットを常備 ・シリンジポンプ