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Jpn. J. Health & Med. Soc., 26(2) (2016)

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娘の高年初産を経験した母親にとっての母娘関係

―二世代のベビーブームに焦点をあてて―

藍木 桂子 宮坂 道夫

新潟大学大学院保健学研究科 新潟大学大学院保健学研究科 Mother–Daughter Relationship of Women Whose Daughters

Carried Their First Baby at the Age of 35 or Over: Focus on Two Generations of Baby Boomers Keiko AIKI Michio MIYASAKA

高齢出産は女性の生き方の多様化により増加している。近年、高年初産を経験しているのは 第二次ベビーブーム世代であり、またその母親は第一次ベビーブーム世代である。この二世代 のベビーブームの間ではイエ意識や結婚・出産に関する規範が大きく変化し、少子化・高齢化 にも影響していると考えられる。本研究の目的は高年初産を経験した娘をもつ母親にとって、 娘の妊娠・出産・育児を経験して娘との関係がどのように変化したのか、またこれからどのよ うな関係を築いていきたいのか、サポートの授受や価値観の違いが母娘関係にどのような影響 を与えたか、について母親の語りから明らかにすることである。結果として、母親は娘との関 係を良好と捉え、年齢が上がるにつれ心理的な距離は離れるが、娘の高齢での妊娠を機に、心 理的・物理的に近接し、積極的にサポートしていた。母親はこれからも娘との良好な関係の維 持を望み、娘からのサポートを期待する意識も示唆された。 キーワード:高年初産、ベビーブーム、母娘関係、ダイアド、語り Ⅰ.序論 1. 高年初産の増加 女性の生き方はますます多様化し(岡本・ 松下 2004: 10–13)、高年初産は先進国を中 心に増加している(Carolan 2007)。その原 因は大学進学率の上昇、独身者の意識変化な どであるとされている(厚生労働省 2012)。 平成 24 年版厚生労働白書によると、日本の 女性の平均初婚年齢は 2011 年で 29.0 歳で あり、30 年前と比べて 3.8 歳上昇している。 さらに第一子出生時の年齢は 2011 年には 30.1 歳となり、31 年前から 3.7 歳上昇して いる。高年齢になると出産を控える傾向にあ り、晩婚化・晩産化は少子化の主な原因であ ると言われている(厚生労働省 2012)。 母と娘の関係も晩婚化・晩産化により変化 してきている(岡山・高橋 2006)。この変 化の背景には母と娘の共依存(岡本 2004: 119; 岩上 1999; 柏木・伊藤 2001)、核家族 化(小林 2010)、高齢化による介護の問題(岡 本・松下 2004: 212–214; 柏木・伊藤 2001; 水野・島谷 2002; 永田ほか 2005; 永田ほか 2007)、母娘双方のイエ意識の変化(柏木・ 伊藤 2001; 水野・島谷 2002)などがある と考えられる。これまで、キャリア志向が高 いとされる高年初産婦の意識について、高年 齢であるため、妊娠・出産への不安が強いこ とが国内外の研究から明らかにされてきてい る(Carolan 2007; Yang et al. 2007; 新村・ 小川 2012; 中沢ほか 2013)。また高年初産 婦を対象とした看護支援についての研究では 高年初産婦の背景が多様であることから個別 の援助が必要であること、本人を尊重した関 わりの必要性が示唆されている(Mori et al. 2014; 中沢ほか 2013)。 2. 母娘の関係に関する研究の概観 発達段階論において、エリクソンに代表さ れる理論は男性をモデルとしている、という 指摘(日笠 1995; 園田ほか 2007)がある。 近年、女性のライフサイクルに合わせた発達 段階も提唱されるようになり(岡本 2004: 1–26)、その中で母娘の関係に関心が向けら れている(北村・無藤 2001)。また親子の 関係の中でも母娘の関係は長く、安定し、親 密であることから特にライフサイクルを研究

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する上で重要であるとされる(Fischer 1981; Martell 1990; 岡山 2001; 井関・白井 2010)。 特に、母娘を一対の存在、「ダイアド(dyad)」 という二者関係と捉える研究は重ねて行わ れ、女性の結婚、妊娠・出産というライフイ ベントにおいて実母との関係が結びつきを新 たにし、お互いを再評価するという発達的変 化があることが明らかにされている(Fischer 1981; Martell 1990; 春日井 1997: 88–126; 北村・無藤 2001; 長鶴・高橋 2002; 岡山・ 高橋 2006; 小林 2010)。しかしながら、妊 娠・出産における母娘関係の研究の対象は多 くの場合娘であり、母親を対象としたもの、 特に娘との関係に焦点をあてたものは少な い。母親は自身の妊娠・出産だけでなく、娘 の妊娠・出産を経験することで、娘に対して 強い共感を抱き、娘に対する親密性を増すと いう(春日井 1997: 122; 川 2001)。また、 母娘関係は母親と娘の視点で同一ではない (春日井 1997: 120)ため、母娘関係の変化 を研究する上で、娘だけでなく、母親へのア プローチも重要だと考えられる。 3. 二世代のベビーブームの母娘ダイアド 周知のように、わが国には戦後二つのベ ビーブームがあった。1947∼1949 年の第一 次ベビーブームでは、出生数約 270 万人、 合計特殊出生率 4.32 であり、そこで生まれ た人々の子供にあたる世代が、1971∼1974 年の第二次ベビーブームをもたらしたと考え られている。第二次ベビーブームでは、出生 数約 209 万人、合計特殊出生率 2.14 であっ たが、彼らを中心とする世代が現在 40 歳代 前半になり、そのうちここ数年の間に妊娠・ 出産を経験した人たちが、現在において晩婚・ 晩産を経験している大きな主体を構成してい ると考えられる(母子衛生研究会 2009)。 第二次ベビーブーム世代が誕生した 1970 年 代半ば以降には、シングル化・晩婚化・晩産 化が急速に進み、出生率の低下が続いている (阿藤 1997)。また、親である第一次ベビー ブーム世代が子育てを行っていた時代には、 イエ意識や結婚・出産についての規範が大き く変化したと考えられている。背景に 1980 年代になってからの親子、夫婦、男女に関す る価値観の大きな変容があり、中でも親子関 係における価値観の変化が早く始まったとさ れる(阿藤 1997)。このように、今日にお ける晩婚・晩産の主体としての第二次ベビー ブームを中心とする世代の女性と、その母親 としての第一次ベビーブームを中心とする世 代の女性というダイアドは、わが国における 急速な晩婚化・晩産化という人口統計学的な 変化と、その背景にあるとされる結婚と出産 に関わる価値観の変化を身をもって経験した 人たちと捉えることができる。さらに、高齢 者となった第一次ベビーブーム世代が近い将 来、介護を必要とすることが予測される一方 で、今現在子育て支援を必要とする第二次ベ ビーブーム世代は、第一次ベビーブーム世代 の親の介護を担うことが見込まれる集団であ る。固定的な性別役割分担意識にとらわれな い社会の実現が目指されているものの(総理 府男女共同参画推進本部 1996)、少子化・ 人口減少によって公的支援の拡充が難しくな ることが見込まれ、介護と子育てが家庭内で 女性によって担われ続けている実態がある (総務省統計局 2011; 厚生労働省 2013)。 こうした観点からも、我が国の人口構成上の 大きな集団を構成する二世代のベビーブーム について、特に母娘ダイアドにおけるサポー ト授受を把握しておくことが有意義であると 考えられる。この母娘ダイアドにおいて、妊 娠・出産におけるサポートの授受はどのよう に行われてきたのか、イエ意識や結婚・出産 についての規範の変化はどのように経験さ れ、それが母娘関係にどう影響してきたのか は、これからの超高齢化社会を考える上で、 重要な手がかりとなりうるように思われる。 4. 研究目的 第一次ベビーブームを中心とする世代の母 親と第二次ベビーブームを中心とする世代で 高年初産を経験している娘との母娘ダイアド について、妊娠・出産におけるサポートの授 受、イエ意識や結婚・出産についての規範の 変化、およびそれが母娘関係に与えた影響を 明らかにする。そのために、母親を研究参加 者として、娘の結婚・出産までの関係、娘の 妊娠、出産・育児を経験して娘との関係がど

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のように変化したか、またこれから娘とどの ような関係を築いていきたいかについて、イ ンタビュー調査を行う。 5. 本論文による用語の説明と定義 高年初産婦を、日本産婦人科学会(1993) の定義を用いて 35 歳以上の初産婦とした。 本研究では、厚生労働省の定義する二つのベ ビーブームにプラスマイナス 5 年以内の幅 を持たせ、「第一次ベビーブームを中心とす る世代」を 1942∼1954 年生まれの者、「第 二次ベビーブームを中心とする世代」を 1966∼1979 年生まれの者とした。 Ⅱ.対象・方法 1. 参加者 高年初産を 5 年以内に経験した第二次ベ ビーブームを中心とする世代の娘をもつ第一 次ベビーブームを中心とする世代の実母で、 研究協力の同意が得られた 5 名。 2. 収集方法 スノーボールサンプリング法による研究協 力依頼。 3. データ収集期間 2013 年 4 月下旬から 6 月下旬まで。 4. インタビュー 本研究では参加者の母娘関係を以下の 4 期 に区分できるという仮説の基に、半構成的面 接を行った。まず、日本の高年初産の特徴と して、自立してから結婚するまでの時期が長 期化している(厚生労働省 2010)ため、「2) 大人としての娘が結婚するまでの母娘関係」 を設定した。次に、同居していない場合でも 里帰り出産の習慣があるように、出産前後は 母親から娘への直接的サポートが提供されや すいため、この時期を「3)高年初産に臨む 母娘関係」とした。これら 2 つの時期の前 の期間として「1)幼少期から大人になるま での母娘関係」、後の期間として「4)これ からの母娘関係」を設定した。インタビュー ガイドを用いて、各期における①娘の性格の 捉え方、自分の育児、②高年初産した娘の捉 え方、③娘の妊娠、出産・育児に対する自分 の関わり方、④娘の出産と自分の出産との比 較、⑤娘の妊娠出産における娘との関係の変 化、⑥今後の娘との関係性を尋ねた。その後、 現在の家族構成や人口統計学的な情報を収集 した。インタビュー時間は約 60 分から 120 分の 1 回であった。 5. データの分析方法 各期毎に 5 人の対象者から語られた事象 の共通性と多様性を分析し、母娘ダイアド間 の変化を理論として導き出すために、以下に 述べる質的帰納的分析を行うこととした。収 集したデータより逐語録を作成した後、繰り 返し読み、特に母娘関係が表れている語りの 部分を抽出し、それぞれに対して意味内容を 短い文章で表現し、コード化した。コード化 したデータを精読して意味内容の同じものを 簡潔にまとめてカテゴリー化した。分析結果 の信頼性を確保するために、継続的に質的研 究を専門とする研究協力者と討議を行い、ま た必要に応じて心理学・社会経済学の専門家 の助言を受けた。 6. 倫理的配慮 研究参加者には、口頭と文書を通じて研究 の趣旨と調査内容について説明し、面接への 参加は参加者の自由意思を尊重し、研究途中 での中断や回答を拒否する権利を保証した上 で、調査協力に対する同意書に署名を得た。 また、実施前に新潟大学大学院保健学研究科 研究倫理審査委員会の承認(承認番号第 102 号)を得た。 Ⅲ.結果と考察 1. 参加者の概要(表 1) 参加者の年齢は 60∼71 歳で、1942 年か ら 1953 年に生まれ、娘は 36∼43 歳で 1971 年から 1977 年生まれであった。参加者の職 業は 2 名は引退し、2 名は自営業者であった。 娘の職業は現在は 2 名が専業主婦となって いるが、出産まで全員が職に就いていた。参 加者の初産年齢は 22∼29 歳で、娘の初産年 齢は 35∼41 歳であった。娘は全員が長女で あったが、兄弟姉妹関係において、第一子で

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ある者が 3 人、第二子が 1 人、第三子が 1 人であった。参加者の居住地は自らが育児を していた当時と変わっておらず、首都圏が 2 名、地方都市が 2 名、地方農村部が 1 名で あり、また娘についてもほぼ同様の居住地で あった。参加者の現在の居住形態は 2 名が 夫の死別や離婚で一人暮らしであり、1 名は 夫と夫親と同居、2 名は夫婦のみであった。 また参加者の結婚時の居住形態は 1 名を除 いて夫親と同居していたが、娘の現在の居住 形態は 1 名が夫親と同居し、他は夫婦のみ の独立世帯であった。娘は参加者の近所や同 市内に居住し、母娘の物理的距離は離れてい ない場合が多かった。里帰り出産について は、参加者は 2 名が「なし」、娘は 3 名が「な し」であるが、そのうちの 2 名は参加者で ある母親の近所に居住していた。参加者の育 児の主なサポート者は 1 名を除いて義母で あったが、娘は 1 名を除いて参加者である 母親自身がサポートを担っていた。娘の結婚 から出産までは 1∼2 年と比較的短く、不妊 治療は受けていなかった。 1) 出産について 参加者は 22∼33 歳に出産していたが、当 時は一般的に第一子を 20 歳代半ば、第二子 を 20 歳代後半、第三子を産む場合は 30 歳 代初めに出産し、79%が 29 歳以前に出産を 終えているのが現状とされていた(厚生省人 口問題研究所 1973)。また 20∼34 歳の年齢 層を「生み盛り」(厚生省人口問題研究所 1978)と表していることから概ね参加者は 表 1 参加者の概要 A B C D E 参加者(母) 年齢(生年)* 68(1945) 71(1942) 64(1949) 60(1953) 64(1949) 職業 保健師、 のち引退 会社員、 のち専業主婦 自営業、 のち引退 自営業 自営業 出産年齢(歳)** (第一子出産年) 25, 27, 29 (1970) 29, 33 (1971) 25, 27, 30 (1974) 22, 27, 32 (1975) 25, 26, 28 (1974) 居住地 地方農村部 首都圏 地方都市 地方都市 首都圏 現在の居住形態 夫婦 一人暮らし 夫婦と夫親 一人暮らし 夫婦 結婚時の居住形態 夫親と同居 夫婦のみ独立 夫親と同居 夫親と同居 夫親と同居 里帰り出産 なし あり 1 人目のみ なし 1 人目のみ 主な育児サポート者 義母、親戚 実母 義父母、親戚 義母 義母、実母 娘 年齢(生年)* 39(1974) 43(1971) 36(1977) 38(1975) 38(1975) 兄弟姉妹*** 男男 女 女 男 男 女 男 女 男女 女 女女 職業 看護師 のち専業主婦社労士、 のち専業主婦看護師、 派遣社員 会社員 初産年齢(歳)(出産年) 35(2009) 41(2012) 36(2012) 37(2012) 37(2012) 結婚から出産までの年数 1 1 2 2 1 居住形態**** 夫の親 独立世帯 同県内 独立世帯 同市内 独立世帯 他県 夫親と同居 独立世帯 不明 娘の親 他県 同市内 近所 同市内 近所 里帰り出産(期間) なし あり(2 ヶ月) なし あり(20 日) なし 主な育児サポート者 夫 実母、義母 実母 実母、夫 実母 * 年齢はインタビュー時のものである。 ** 参加者(母)の出産年齢の欄の○は娘を出産した年齢を示す。 *** 娘の兄弟姉妹の欄は左の者ほど年長であり、○は娘を示す。 **** 「同市内」は車で 20 分程度、「近所」は 5 分以内である。

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当時の標準的な出産パターンであったと考え られる。娘の初産年齢は参加者より 10 歳以 上高齢での出産であった。 2) 職業について 1977 年の調査(厚生省人口問題研究所 1978)で 25∼29 歳の既婚女性の就業状態は、 専業主婦が 63.8%、被雇用者が 17.2%、自 営業者が 12.6%であり、当時、参加者は自 営業など仕事に就いている者が多かったとい える。Bのように結婚前に一度は会社勤務す る傾向も強まりつつあり、会社勤めの妻は第 一子の出産が相対的に遅いことが指摘され始 めていた(厚生省人口問題研究所 1978)。 2012 年の女性の定年前後の就業率は 60∼64 歳で 44.5%、65∼69 歳で 27.8%であり(総 務省統計局 2012)、参加者の現在の就業状 況は一般の調査結果と大きく異なってはいな いといえる。 娘については現在は 3 名が就業しているが、 出産までは全員が就業していた。2008 年の 調査 (国立社会保障・人口問題研究所 2008) によると第一子妊娠が分かった時点での就業 率は 69.1%であり、他の調査(総務省統計 局 2013)では育児中の 35∼39 歳の就業率 は 53.2%であった。このことから娘の就業 状況は現在は一般の調査と大きく異ならない ものの、出産前は看護師や社会保険労務士な ど 3 名が資格を有する職に就き、キャリア 志向が高いこともうかがわれ、働く母親に育 てられた娘が高い職業意識をもつ傾向にある という先行文献(北村・無藤 2001)の結果 と一致しているともいえる。 3) 同居状況・育児サポートについて 娘は実親あるいは夫親との物理的距離が近 い者が多かった。実際に娘は親と同居せずに 近くに居住することは自分たちにとって都合 がよい、と考えていることが示唆されており (西本ほか 2010)、育児期の娘が夫親、実親 どちらかの母親と 30 分未満の距離に居住す る割合は 30 歳代後半で 67.5%、40 歳代前 半で 61.0%となっている(国立社会保障・ 人口問題研究所 2008)。 参加者の結婚当時の居住形態は三世代同居 が大半であり(久保ほか 2008)、現在は三 世代同居は 11.8%(国立社会保障・人口問 題研究所 2009)であることからほぼ二世代 について一般的な居住形態をとっているとい える。1977 年の調査(厚生省人口問題研究 所 1978)では既婚女性の 27.3%が親と同居 し、親からサポートが得られるため出産数が 多くなることが述べられていた。娘の主な育 児サポート者が実母であるのは他文献( 川 2003; 中見ほか 2012)でも母親方親族によ るサポートの重要性が指摘されている通りで あった。日本の家族は習俗として男系を中心 とするイエ制度が戦前は強固であったが、戦 後の高度経済成長期に核家族化(阿藤 1997) してきた。そのため参加者の育児では義母に よるサポートが中心だったが、核家族である 娘の育児では参加者である実母がサポートの 担い手となったと考えられる。 以上見てきたように、今回の参加者の出産 については当時の出産パターンに準じている といえ、娘は対象者よりも 10 年以上高齢で の出産をしていた。職業については参加者の 現役中は一般と比べて就業している傾向に あったが、現在は一般と同程度であり、娘も 出産までは全員が就業しており、キャリア志 向が高いダイアドであるといえる。同居状 況・育児サポートについては参加者、娘とも 当時の一般的な状況と大きく異なっていな かった。 2. 母娘関係(表 2) 母娘関係について抽出し、コード化された データ総数は 525 であった。分析の結果、 24 のカテゴリーが抽出された。語られてい る事象のライフステージの時期を、対象・方 法で述べた仮説に基づき、1)幼少期から大 人になるまでの母娘関係、2)大人としての 娘が結婚するまでの母娘関係、3)高年初産 に臨む母娘関係、4)これからの母娘関係、 の 4 期に区分した。さらにカテゴリーは 3 つのテーマに分類できた。(1)参加者の娘 へのまなざしや娘との関係のあり方を表す [娘との関係性]、(2)参加者と娘との関係 に影響を与えていると考えられる[外的な要

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因]、(3)参加者が実際に娘に対して行って いると考えられる[自分の行為]である。 以下に、母親の語りによる母親と娘の関係 を述べていく。カテゴリーを【 】、参加者 の語った代表的な内容を「 」、各参加者を A∼Eで示し、語りの中で意味が不明確と思 われた箇所は( )で言葉を補い、言いよど みや間を…で、省略箇所を・・・で示した。 1) 幼少期から大人になるまでの母娘関係 (1)[娘との関係性] 参加者は幼少期の 娘について「親の道しるべに沿って育ってし まったかな。だからそれほどには、手がかか んなかったかな(E)」等と語り、ほぼ全員 が【自立心が強く手がかからなかった】、【反 抗期がなかった】と捉え、母親から見て従順 な子供であり、母娘関係は良好だと受けとめ ていた。これまでの日本文化においては「従 順で素直な子ども」が好まれ、特に女性に対 してこのような傾向が強かった(岩上 1999) と言われている。また、現在祖母という立場 になった参加者が思春期の娘との思いを「浄 化」して語った(久保ほか 2008)のではな いかとも考えられる。今回の参加者は、いず れも娘との関係を幼少期から良好であったと 捉えていたと言える。 (2)[外的な要因] 参加者全員が【夫は 仕事優先で育児には関わらなかった】と、「う ちのお父さん、絶対運動会なんか行かない し、私いっつも 1 人で。考えてみれば仕事 ハードだし、まいっか、と思って(C)」と 語られた。また「(義母は孫が)かわいくて しょうがなくって、(夫の)弟の子供 2 人と うちの子供 3 人、5 人はもう兄弟なんだよ (C)」という語りのように【親戚や義母に兄 弟やいとこと一緒に見てもらった】という例 表 2 分析結果の概要 テーマ ステージ 1)幼少期から大人に なるまでの母娘関係 2)大人としての娘が結婚するまでの母 娘関係 3)高年初産に臨む 母娘関係 4)これからの母娘関係 (1) [娘との関係性] 【自立心が強く手がか からなかった】(5) 【反抗期がなかった】 (4) 【大人になっても研鑽 し頑張り屋】(3) 【自分の近所に娘が移住】(2) 【娘と孫の訪問回数の 増加】(4) 【出産して娘から感謝 されている】(3) 【共通体験し関係が近 くなった】(2) 【娘という存在価値の 再認識】(3) 【娘は嫁いだから当て にできない】(1) 【最終的に頼れるのは 娘】(2) 【人 に は 頼 ら な い 主 義】(1) 【現状のままがいい】 (4) (2) [外的な要因] 【夫は仕事優先で育児 には関わらなかった】 (5) 【親戚や義母に兄弟・ いとこと一緒に見て もらった】(4) 【自分の若い時との社 会規範・慣習の違い】 (4) 【自分も実母や義母に 手伝ってもらったた め娘の育児にも協力 的】(4) (3) [自分の行為] 【習い事・教育を積極 的に受けさせた】(3)【娘を独立した存在として認識し、遠慮を もって遠くから見つ めていた】(3) 【なぜ結婚しないのか 理由を分析した】(3) 【結婚は本人任せで、 強いることはできな い】(3) 【出 産 は 見 守 る ば か り】(3) 【もっと早く産んで欲 しかった】(3) 【孫への援助】(3) 【育児に口出しはしな い】(2) ※各カテゴリーの後の(  )内の数字は語られた参加者人数を示す。

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もあった。当時の調査(厚生省人口問題研究 所 1978)では、6 割以上の回答者が夫は家 事協力を「全く手伝わない」としていた。ま た表 1 に示すように参加者の育児は実母・義 母のほか、親戚のサポートも受け、女性中心 で行われ、娘は兄弟やいとこなど母娘だけで なく多くの人の関わりの中で育てられてい た。特に 1960 年代の家族は兄弟が多いため 多様な親族ネットワークを利用した子育て、 高齢者の介護がされていたことが言われてお り、参加者が育児をしていた 1970 年代にも そのような形態が残っていたのではないかと 推察される。 (3)[自分の行為] 進学した娘に対し【習 い事•教育を積極的に受けさせた】と、「高 校からはもう下宿生活(をさせ)、進学校(A)」 に行かせたことが語られた。これは参加者の 子供が 2∼3 人であり、特に第二次ベビー ブーム期に出産した母親が比較的経済的な余 力を有している( 川 2003)とされること も背景にあると考えられる。そしてこのこと が、娘の高学歴化やキャリア意識の形成へと つながっていくことも推測できるように思え る。 2) 大人としての娘が結婚するまでの母娘関(1)[娘との関係性] 参加者はキャリア 形成している娘を「一生懸命(会社から)帰っ てくると勉強して、・・・どっちにしろ頑張 り屋よ、あの子は(B)」と、【大人になって も研鑽し頑張り屋】と表現していた。母親に と っ て 娘 は「夢 の 代 理 達 成」(久 保 ほ か 2008)をしてくれる「憧れの追体験をさせ てくれる存在」(柏木・伊藤 2001)とも言 われるように、Aからは娘に自分と同じ職種 への進路を勧め、さらに自分が憧れていた大 学への進学も勧めたことが語られた。これ は、母親にとって娘の自己実現を援助するこ とが自身のアイデンティティの発達につな がっている(北村・無藤 2001)例として捉 えることができる。 (2)[外的な要因] 参加者は【自分の若 い時との社会規範・慣習の違い】を認識し、 「私たちの時代は・・・子供を早く産まなきゃ いけない、今そうじゃないでしょ? 縁がな かったら、好きじゃなかったら結婚しない、 ですよねえ?(C)」と語り、そのため「母 親に言われたこと娘に…言えなかった(C)」 と語った。また、「クリスマス終わると 25。 だから 25(歳)過ぎると売れ残りのケーキ (B)」という語りが表すように、25 歳まで が結婚適齢期と見なされていた当時の規範意 識(厚生省人口問題研究所 1978)も語られ た。現在は女性のライフスタイルの多様化に より、結婚適齢期という意識そのものが希薄 化し(厚生省 1993)、女性の人生において 結婚・出産を最重要と見なす考え方は支持さ れなくなっていることが各種の意識調査から 報告されている(大日向 1995)。このよう な規範意識の変化は、娘世代のみでなく、母 親世代にも浸透していることが参加者の語り からうかがえる。 (3)[自分の行為] 参加者はキャリアを 重ねる【娘を独立した存在として認識し、遠 慮をもって遠くから見つめていた】。娘の年 齢が上がるにつれ心理的な距離が離れていっ た様子が語られ、そうした距離感の中で参加 者は【なぜ結婚しないのか理由を分析した】。 参加者の一人は自分の離婚と関連付けて娘の 結婚の遅れを分析し、他の参加者は肉親の 死、あるいは娘が父親を理想化していたこと が結婚の遅れにつながったのではないか等と 分析していた。参加者は晩婚に至った理由を 分析しつつ、娘に対して遠慮する態度をとっ ていたことは今回の母娘ダイアドに特徴的な 関係性の一つであるとも考えられる。また、 「30(歳)過ぎるとなかなか(結婚について) 言い出せない(A)」というように、【結婚は 本人任せで、強いることはできない】ことが 語られた。その一方で、高年初産した娘への 調査(新村・小川 2012)で指摘されたよう な、実母・義母からの妊娠の強い希望による プレッシャーは、今回の参加者からは語られ なかった。本研究は母親側への調査なので、 そのようなプレッシャーが語られなかったの は当然と言えるのかもしれないが、[外的な 要因]の項で見たように、参加者は自分の若 い時との社会規範・慣習の違いを認識してお り、人権尊重などの民主主義的な関わりが娘

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の育児に反映され(水本 2010)、結婚に対 してもあまり口出しをしなかったのではない か、とも考えられる。 3) 高年初産に臨む母娘関係 (1)[娘との関係性] 娘の結婚や妊娠を 機に【自分の近所に娘が移住した】参加者が 2 名おり、娘が結婚して近所に居住するよう になったり、離れて暮らしていた娘の妊娠中 の体調を心配して娘夫婦を参加者の近所に移 住させたりしたことが語られた。産後には、 4 名が【娘と孫の訪問回数の増加】を語り、 娘が近所に居住するCとEは、娘と孫が毎日 参加者の家に来て、日中は一緒に過ごしてい ると語った。このように、参加者は母親とし てサポートを提供するようになり、大人に なってやや遠ざかっていた娘との心理的な距 離が再び接近したということが読み取れる。 そのことは、娘の言動にも表れており、参 加者たちは【出産して娘から感謝されてい る】、【共通体験し関係が近くなった】と認識 していた。例えば「自分がやっぱり子供産ん でみて、なおさらなんかお母さんのありがた み(を)・・・感じるっていうのをね(メー ルで)送ってくれるから、実際同じ経験をし てありがたみがわかる(D)」、「結婚して、 子供を持ってっていう時に、また共通話題と いうか、女同士でこう話し合える(A)」等 と語られた。こういったことは、娘の結婚・ 出産という共有体験が母娘の対等性を確立 し、価値の一致度、情緒的親密度が母親にお いて顕著に高くなるという先行研究(春日井 1997: 122)に一致していた。これは母親に とって娘の出来事経験が「過去の自分」と「現 在の娘」が同僚的地位につくことを意味し、 母親が強い共感を「現在の娘」に抱き、親密 性を増大させるからだとされる。この母娘の 異時進行性は、母娘に異時点での共有体験を も た ら し、 時 間 的 ズ レ を 伴 っ た 共 感 性 (Time-lag Empathy)を生み出すと説明さ れている。さらに娘の出産を機に母親と娘は お互いに再評価し、お互いを必要な存在とみ なすことについても、本研究の参加者によっ て「(娘が)そばにいてありがたいですよ、 いろんな面で。・・・息子はねえ、もうお嫁 さんのもの。・・・女の子はそれがないから いいんですよねえ(C)」という【娘という 存在価値の再認識】として語られたと考えら れる。またDの場合は、娘が同居の夫親に一 時的に育児を頼んだが拒否されたため、自分 にお願いされたことがあったと語った。娘は 夫親と同居している場合も母親を頼りに子供 を預け、母親と娘は物理的に距離が離れてい ても身近で気安い関係であり、「仲良し」と いうより「支え合い」の関係にある(柏木・ 伊藤 2001)という指摘を裏付けている例だ と捉えられ、自らへの今後の支援を期待して いる可能性もうかがわれる。 (2)[外的な要因] 「(兄弟)みんな姑さ んにみてもらいながらやっていたので、私は 今子供に協力するのはそのお返し(D)」と いう語りの例のように、参加者全員が【自分 も実母や義母に手伝ってもらったため娘の育 児にも協力的】に関わっていた。祖母達は孫 ができたことで育児経験がある女性として育 児を手伝うことに役割意識の復活を感じ、自 分の価値を再認識することにつながっている とされる(久保ほか 2008)。このように孫 の存在と育児することで活動欲求が強くなり (西本ほか 2010)、自身も実母や義母に手 伝ってもらったという思い( 川 2001)が 抱かれることは、本研究の参加者にも見いだ された。 (3)[自分の行為] その一方で、参加者 にとって、娘の高齢での【出産は見守るばか り】であった。娘の一人は、妊娠中に医療的 管理が必要で、参加者は娘の様子を不安を感 じながら見守っていたことを語った。また妊 娠・出産に際して医療上の問題が特になかっ た他の参加者からも、子供の発育や異常への 心配や、体力低下による出産の困難さという 視点から同様に語られた。そして、3 人の参 加者が【もっと早く産んで欲しかった】と語 り、「できれば 30(歳)ぐらいまでに産んだ 方がいい(B)」、「本心を言えば 24、5(歳) で産んで欲しい(C)」と、具体的に出産し てほしい年齢を述べる参加者もいた。高年初 産婦本人を対象とした研究(Carolan 2007; Yang et al. 2007; 新村・小川 2012; 中沢ほ か 2013; Mori et al. 2014)でも、他の年代

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の妊産婦より、児の発育や異常に対する妊 娠、出産への不安が強いことが指摘されてお り、「早く産めばよかった・産んで欲しかっ た」という認識は母娘に共通していた。しか し、これは他国での高年初産婦ではあまり見 いだされない点であり、日本に特徴的な捉え 方である可能性もある。 【孫への援助】という経済的サポートは実 母の援助行動の 1 つ( 川 2001, 2003)と されるが、本研究の参加者も、「子供の物全 般、全部買いますね。楽しみで。一緒に買い 物行くのが楽しみ(E)」等と語った。先に も述べたように、母親世代がより経済的に豊 かとなっていること( 川 2003; 永田ほか 2005)も背景にあると考えられる。米国の 先行研究では、母親が娘に提供するのは直接 的サポートよりも精神的サポートが中心であ るとされる(Fischer 1981)が、本研究では 娘が母親の近くに移り住んだり、里帰り出産 を行ったりするなど物理的距離を近づけて直 接的サポートを受ける場合が多く、娘にとっ て母親は直接的サポートを中心とした存在で あることがうかがえた。さらに高年初産婦の 場合、サポートを提供する母親も高齢化して いる(中沢ほか 2013; 前原ほか 2014)。そ のため近い将来、自分達が娘から直接的サ ポートを受けることを期待し、それが娘と接 近する動機となっている可能性も考えられ る。初産婦の娘にとっては妊娠することで母 親への依存性、親密性が高くなる傾向があり ( 川 2001; 井関・白井 2010)、日本の里 帰り出産の習慣により、娘が母親からのサ ポートを受けやすい環境であることが指摘さ れている(岡山・高橋 2006)。その一方で、 高年初産婦に対するソーシャルサポートにつ いての研究(前原ほか 2014)では、高年初 産婦は高齢の親を気遣い、頼ることを遠慮し ている(Mori et al. 2014)という指摘もある。 参加者は、結婚に対して口出しをしなかった のと同様に、【育児に口出しはしない】と、 娘の育児のやり方を尊重しようとしていた。 例えば「あんまり変なこと言うと動揺するか ら(E)」との語りがあった。実母としては 育児方法や方針の違いから戸惑いを感じたり ( 川 2001; 石井ほか 2011)、また娘が母 親からの一貫性のない育児助言や出産施設で の方針と異なる助言で混乱することも指摘さ れており、母親の育児知識や技術に疑念を抱 いたり( 川 2003)、娘の意思を尊重しない サポートによって母娘関係に緊張が生じるこ と(小林 2010; 白井ほか 2006)も報告さ れている。こういった点は、本研究の参加者 もかなり意識して娘に対応しているように 語っていた。 4) これからの母娘関係 (1)[娘との関係性] このステージにつ いては、[娘との関係性]のみがテーマとし て語られた。参加者の今後の娘との関係につ いての態度は 3 つに分かれた。一つは【娘 は嫁いだから当てにできない】で、「娘達は もう出た人間(D)」と嫁いだ娘を「イエ」 を出た存在として認識し、自分が頼ることは できないとする態度であった。その一方で、 「(頼れるのは)娘なのかなあ、と…昔は家を 継ぐとかって、男とかっていいましたが、男 は当てにならない(A)」と、【最終的に頼れ るのは娘】だという態度を語る参加者もいた。 3 つ目は、「私はなるべく子供の世話んなん ないように、自分のことはなんでも自分でし なくちゃ、…人に頼ったりしない主義だし (B)」との語りに典型的な、【人には頼らな い主義】という態度であった。これらの 3 つ の態度は、「イエ意識」の捉え方によって一 貫して説明ができるように思える。上述のA の語りに明示的に述べられているように、参 加者世代は「イエ意識」の変遷を経験してい る世代であるため、伝統的なイエ意識を潜在 的に抱いている( 川 2003; 岡本 2004) と見られる。「イエ意識」のもとでは、老親 の世話をするのは長男の嫁であり、【娘は嫁 いだから当てにできない】ことになる。その 一方で、第一次ベビーブーム世代が子育てを 行っていた時代には、「イエ意識」は社会規 範として好ましいものではないという認識が 広がり、長男の嫁などに頼ることもためらわ れ、結果として【人には頼らない主義】とい う態度が出現した。【最終的に頼れるのは娘】 との態度には、潜在的にはいまだに抱き続け ている「イエ意識」によって娘に頼れないと

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しながら、社会規範として薄れた「イエ」、 すなわち息子世帯と自分が同居する形を取ら ず、娘と物理的に接近することが可能であ り、それによって娘とのサポートの授受が 可能になるのではないかと期待する意識が読 み取れる。このことは、今後の娘との関係に ついて【現状のままがいい】と、現在の良好 な関係の維持を望む思いが共通していた点に も反映されているように思える。今後参加者 の加齢により、彼らは介護が必要となること が予想される。A の語りに「年とってくる と・・・話し相手とか、介護とか、病気した 時とか考えれば、娘なのかなあ」とあるよう に、介護や家事支援が必要になった場合に娘 を頼ろうとする最近の日本人の傾向(柏木・ 伊藤 2001; 阿藤 1997)が現れているよう な語りもあった。 Ⅳ.結論 高年初産を経験した第二次ベビーブームを 中心とする世代の娘をもつ第一次ベビーブー ムを中心とする世代の実母の語りを分析した 結果、以下のことが明らかとなった。 1)幼少期から大人になるまでの母娘関係 について、自立心が強く手がかからず反抗期 がなかった娘との関係を、幼少期から良好で あったと捉えていた。夫は育児に関わらず、 親戚等のネットワークの中で娘の育児をし、 習い事等を積極的に受けさせていた。 2)大人としての娘が結婚するまでの母娘 関係は、娘を独立した存在として認識し、遠 慮をもって遠くから見つめていた。自分の若 い時との社会規範や慣習の違いを認識して、 なぜ結婚しないのか分析しつつも結婚に口出 しせず、娘の年齢が上がるにつれ、心理的な 距離が離れていった。 3)高年初産に臨む母娘関係は、近所に娘 が移住するなど物理的距離が接近し、娘が共 通の体験をしたことで関係が近づき、娘の存 在価値を再認識するなど娘との関係は心理的 にも接近した。早く産んで欲しかったと感じ つつ、娘の育児を積極的に支援し、また育児 にも口出しをしないようにしていた。 4)これからの母娘関係については、潜在 的に抱き続けているそれぞれの「イエ意識」 の捉え方により、今後娘に頼るかどうかにつ いての態度は【娘は嫁いだから当てにできな い】、【最終的に頼れるのは娘】、【人には頼ら ない主義】の 3 通りに分かれた。その一方で、 娘との現在の良好な関係の維持を望むという 意識は概ね共有されており、娘と物理的に接 近することで娘とのサポートの授受が可能で はないかと考え、娘から自らへのサポートを 期待する意識も抱いていた。 本研究では、結果として母娘関係が良好な 少数の母娘ダイアドが対象となっており、こ こで得られた知見をすべて一般化することは 難しい。しかしながら、関係が良好で、サ ポートの授受が比較的活発な母娘ダイアドで あっても、自らが結婚・妊娠・出産を経験し た時代とは違った社会規範をよく認識しなが ら、娘への適切な距離の取り方や母娘間のサ ポート授受のあり方を模索していることがう かがわれた。 (本論文は、2013 年度新潟大学大学院保健 学研究科修士論文の一部を加筆修正したもの である。) 謝  辞 本研究にご協力いただきました研究参加者の皆様、 ご指導ならびにご助言いただきました千葉商科大学 の伊藤宏一先生、新潟大学の佐山光子先生、定方美 恵子先生、関島香代子先生、宮坂研究室の皆様に感 謝申し上げます。なお、本研究は新潟大学GP支援事 業の助成を受けたものです。 引用文献 阿藤誠,1997,「日本の超少産化現象と価値観変動仮 説」『人口問題研究』53(1): 3–20. 母子衛生研究会編,2009,『母子保健の主なる統計』 母子保健事業団.

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英文要約

With the diversification of women s lifestyle in Japan, older childbearing is an increasing trend. At the core of the recent population experiencing their first older childbearing is the second baby boom generation(born between 1971 and 1973), while the majority of their mothers are considered to belong to the first baby boom generation(born between 1947 and 1949).Our study aimed to clar-ify how the relationship between these mothers and daughters(dyad)changed during the process of the daughters pregnancy, delivery, and child rear-ing; furthermore, we examined the kind of future relationship they expected against the backdrop of the social norms and values that had drastically changed since the 1970s. Our results suggested that the mothers considered their relationship with their daughters to be good. Although the psycho-logical distance between them increased as the daughters matured, they became closer again when the mothers positively supported their daughters experiencing older pregnancy. The mothers hoped to maintain the good relationship and receive care and support from their daughters.

参照

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