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本文(横)  ※リュウミンL・カンマ使用/大扉●還暦記念論集用

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算数や数学の学習場面で,式を立てることや計算をすることはそれぞれできるのに,問題解 決の過程で計算をよく間違ってしまう子どもに対して,教師が,「式はできているのだから, 計算を落ち着いてやればうまくできるよ」という指導を繰り返し行ったり,図をかく能力はあ ると思われるのに,問題解決が進まない子どもに対して「図をかいたら,うまくできるよ」と いう指導を何度か行ったりすることがある。 これらの指導は,例えば,計算問題であれば,計算をアルゴリズムにしたがって行うという ような知識や技能あるいは直接的な問題解決行動を指導しているのではなく,直接的な解決行 動をモニターしたり,コントロールしたりする間接的な思考活動(メタ認知的活動)に関する 指導を行い,計算や図形といった特定の領域に依存した知識・技能ではなく,「落ち着いて計 算すればできる」,「図をかけばうまくできる」など,領域や問題に依存しない能力を高めるこ とによって,「知識・技能をもっているのに問題が解けない」という課題を解決しようとして いるといえる。 これらの例は,これまで,教師は,児童・生徒の認知そのものをコントロールできると考え て指導してきたが,実は,教師がコントロールできるものは,児童・生徒の認知そのものでは なく,メタ認知であったのではないか,教師は,メタ認知を通してしか,児童生徒の認知に関 与し得ないのではないかということを示唆している。すなわち,これまで「上手な教え方」と いわれてきたものは,「上手なメタ認知の与え方」であったとも考えることができる。このよ うに考えると,教師は,児童・生徒を指導するにあたって,常に「メタ認知」を意識し,いわ

数学教育におけるメタ認知の研究

―メタ認知に関する調査問題の開発(1)―

〔要 旨〕 メタ認知は,行動する自己を監理する自己ととらえることができ,学習指導 及び児童生徒の学習意欲の向上,教員の職能成長等に深い関わりをもつと考えられ,教 員養成にも大きな意味をもつと考えられる。本研究は,研究の大きな枠組みとして,メ タ認知の研究を教員養成に生かすことを視野に入れながら,まずは,算数・数学教育に おけるメタ認知に焦点をあて,特に,問題解決にあたって有効に機能する認知的要因と メタ認知的要因を明らかにする調査問題を開発し,その結果を算数・数学の学習指導に 活かすことをめざしている。 本稿では,これまでに開発したメタ認知を測定するアンケートの項目を見直し,大学 生を対象とした調査結果をもとに,項目を精選した場合にも,メタ認知に関して把握で きることが示唆された。また,問題解決に関わる認知的要因に関する調査問題について その枠組みを提案した。 〔キーワード〕 問題解決,メタ認知,調査研究,調査問題,算数・数学教育

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ゆる知識を獲得させると同時にメタ認知(メタ知識)を獲得させるようにしなければならない といえる。 また,メタ認知は,児童・生徒の学習意欲の向上にも大きく関連しているとともに,教師の 職能成長にも深く関わっていると考えられる。したがって,教員養成に関わって,「メタ認 知」という概念が大きな意味をもつといえよう。研究の大きな枠組みとして,メタ認知の研究 を教員養成に生かすことを視野に入れながら,まずは,算数・数学教育におけるメタ認知につ いて研究を進めていきたい。 (1)研究の目的 児童・生徒が,数学的な問題を解決できる要因として,用語・記号を知っていること(知識 ・理解)や,図をかく,式を書く,計算ができる(技能)といった要因(認知的要因)と,い つ,どこで,どのような図を書き,立式し,計算をするか,また,実際的な知識がどのような 価値をもつかといった認知的要因をコントロールする要因(メタ認知的要因)があると考えら れる。 重松・勝美・上田(1989a)は,学習の習熟度とメタ認知との関連について,アンケートに よる調査研究を行い次のような4つのタイプがあることを明らかにしている。 A:メタ認知の得点が高く成績のよい児童 B:メタ認知の得点は高いが成績不振の児童 C:メタ認知の得点は低いが成績のよい児童 D:メタ認知の得点が低く成績もよくない児童 その上で,それぞれのタイプについて,学習指導に関する示唆を示し,アンケート調査の改 善と調査項目の精選が必要であるとしている。 本研究では,それぞれのタイプの児童・生徒に対する指導のあり方をより明確にするため, メタ認知に関する調査項目を精選するとともに,認知的要因についても併せて検討できる調査 問題を開発し,算数・数学の学習指導に活かすことをめざしている。 本稿では,メタ認知を測定するアンケート調査の開発研究のために,あわせて,これまでの 理論的,基礎的研究の成果についてまとめるとともに,次のことを目的とする。 ! これまでに開発したメタ認知を測定するアンケートの項目について,問題解決の段階に 関して整理し,問題解決に有効に機能すると考えられるメタ認知の項目に精選する。 " 大学生を対象として項目を精選したメタ認知アンケート調査を実施し,その結果を分析 ・考察する。 # 小・中学校における算数・数学における問題解決に関わる認知的要因をチェックする項 目の枠組みを提案する。 (2)研究の方法 これまでに,開発されたメタ認知に関するアンケート調査の項目を,問題解決の過程にそっ て整理し,数学的問題解決に関するメタ認知がある程度固定化していると考えられる大学生を 対象にして新しい項目での調査を行い,数学的な問題解決の結果との関係を考察することで, メタ認知に関するアンケート項目について検討する。

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研 究 の 枠 組

(1)メタ認知研究の歴史

メタ認知は,近年突然考えられたまったく新しい概念とはいえない。これまでの研究におい ては,特に心理学的な考察で,直接的な行動を対象においた知的な思考のメカニズムが,すで に注目されてきた。

例えば,J.Piaget(1976)は,反省的思考(reflective thinking),R.Skemp(1979)は,反 省的知能(reflective intelligence)の観点から,メタ認知的側面を考察している。教育実践に おいても,教師は,児童・生徒にその学習活動を振り返らせて,理解を一層確かにすることな どが行われている。

このように,メタ認知がまったく新しい概念ではないにせよ,算数・数学教育においてメタ 認知が注目され始めたのは,A.H.Schoenfeld(1983),F.K.Lester と J.Garofalo(1982)等の 問題解決とメタ認知との関連であったといえる。多くの問題解決の研究では,ともすれば,解 決に直接影響するような知識や技能のみが注目され,それを調整するような知的作用について はそれほど注目されてこなかった。この問題解決に関する研究への反省が,メタ認知研究を促 したといえよう。 メタ認知の研究は,1960年代におけるメタ記憶の研究から始まっているといわれている。や がて,1970年代に入って,J.H.Flavell(1976),A.L.Brown(1978)等の研究によって,メタ に関する問題は,記憶にとどまらずに,注意を調整するメタ注意や,理解を調整するメタ理解 へと発展した。そして,これらを包含する形でメタ認知の研究が盛んになってきたのである。 (2)メタ認知の意味 狭い意味での認知は,知覚と同じように考えられるが,本研究では,計算する,測定する, 作図する,グラフをかく,表をつくるなどの直接的な数学的活動に作用する知識や技能をも含 めた認知作用を意味するものとする。これに対して,うまく知識や技能が活用されているかな どその認知作用を調整する作用がメタ認知であると考えている。このように考えると,メタ認 知は環境に対する直接的行動ではなく,頭の中で起こっている,認知を対象とする作用,認知 についての認知であるといえる。 重松(1987)は,認知の中での知識と技能に対応させて,次の2つのカテゴリーでメタ認知 を定義している。 ! メタ認知的知識(メタ知識) 認知作用の状態を判断するために蓄えられた環境,課題,自己,方略についての知識をい う。 ア 環境に関するメタ知識 環境の状態が,認知作用にどのように影響するかに関する知識をいう。 (例)算数(数学)の授業だから,この問題を考えよう。 イ 課題に対するメタ知識 課題の本性が,認知作用にどのように作用するかに関する知識をいう。 (例)前にやった問題は,易しい ウ 自己に対するメタ知識 自己の技能・能力が,認知作用にどのように作用するかに関する知識をいう。

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(例)式さえわかれば,計算には自信がある。 エ 方略に関するメタ知識 認知作用をよくするための方略に関する知識をいう。 (例)わかったことを図にかいたほうが分かりやすい。 ! メタ認知的技能(メタ技能) メタ知識に照らして認知作用を直接的に調整するモニター,自己評価,コントロールの技 能をいう。 ア モニターに関するメタ技能 認知作用の進行状況を直接的にチェックする技能をいう。 (例)前にやった問題か イ 自己評価に関するメタ技能 認知作用をモニターした結果をメタ知識と照合して直接的に評価する技能をいう。 (例)おもしろい ウ コントロールに関するメタ技能 自己評価にもとづいて認知作用を直接的に調節する技能をいう。 (例)図をかけ。 これら3つの技能は,それぞれが独立して機能しているのではなく一連の作用であると考え られる。 (3)認知とメタ認知の関連 図1は,問題解決過程における思考の流れを表したもので,認知的活動とメタ認知的活動の 関連を図的に解説したものであり,図2は,問題を提示された学習場面を,具体的に図1にあ 図1 認知とメタ認知の関係図

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てはめて考えてみたものである。 (4)肯定的・否定的なメタ認知 メタ認知の機能を考えるときに,あるメタ認知が,児童・生徒の学習や問題解決により有効 に機能するものと阻害的に機能するものがあると考えられる。前者を肯定的なメタ認知,後者 を否定的なメタ認知として区別して考えることができる。 例えば,「算数・数学には自信がある。」という自己に対するメタ知識は,算数・数学の問題 解決に有効に機能する肯定的なメタ認知と考えられる。 逆に,「文章問題は,苦手だ。」という課題に対するメタ知識は,「文章題だ。」というモニタ ーにもとづき,メタ知識として参照され「苦手だ。」という意識を喚起することになり,問題 解決への意欲を阻害する方向で機能すると考えられる。 認知的要因に問題がない限りにおいては,肯定的なメタ認知を多くもつ児童・生徒は,メタ 認知が問題解決の推進力となるため,よりよく問題解決を行うことができると考えられる。 反対に,否定的なメタ認知を多くもつ児童・生徒では,たとえ認知的要因に問題がないとし ても,メタ認知が,問題解決の推進力とはなり得ないばかりか,阻害的な機能としてはたらく ため,問題解決がうまく進みにくいということが考えられる。 次の事例1は,否定的なメタ認知のために,問題解決がすすまなかったが,教師の支援によ ってスムーズに問題解決がすすんだものといえよう。 小学校2年生で,立方体(サイコロの形)の展開図を見つける学習を行った際,学習成績が 下位群で,算数の学習に対する不安が高く,「算数は,苦手だ。」と考えている児童は,問題解 決過程で,教師と次のようなやりとりを行っている。 図2 具体的な場面における認知的活動とメタ認知的活動の関係図

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事例1 C:先生,これであってる? T:うん,それでいいよ。切り取って本当に作ってみたらわかるよ。 C:そうか。 (以降は,図を描いては,切り抜いて考える) C:先生,だいぶできたやろ。 (4種類見つけている) T:すごいね。 この事例の場合,「算数は,苦手だ。」というメタ知識が,問題解決の過程で,常に否定的に はたらいているため,自分の問題解決に自信がもてず,問題解決がすすまなかったことがうか がえる。その状況をモニターした教師が,「今のしかたでよい」ということを発言することで, 児童の問題解決についての自信を高めるとともに,「実際に作ってみると確かめられる」とい う方略に関するメタ知識を示し,その後の問題解決がスムーズに進んだものであると考えられ る。 (5)「内なる教師」について ! 「内なる教師」の意味 算数・数学の学習でのメタ認知は,児童生徒にとって教師となる者(学校教育では,教 師,時には,友人,自分であることもあり,家庭,社会では,それぞれの教師的存在の 人)の影響が内面化することによって形成されていくと見ることができる。この意味から, メタ認知の形成過程を強調したとき,メタ認知を「内なる教師」という擬人的な表現で呼 んでいる。 " 「内なる教師」の形成 授業では,教師の言語行動 ―説明,発問,指示,評価―や学級の他の子どもたちの発 言などをとおして「内なる教師」が形成されると考えられる。 例えば,前述の事例1のような教師の言語行動がやがて児童・生徒の中に内面化され, 「内なる教師」が形成されると考えられる。 # 「内なる教師」の形成過程のモデル 重松(1993)は,メタ認知(「内なる教師」)の内面化の過程のモデルとして,次のよう な7段階のモデルを提案している。 ! 子どもが聞く気持ちになっている。 " 問題解決の前やその途中に教師の適切なメタ認知的アドバイスがある。 # 子どもが,教師のメタ認知的アドバイスを一時的に記憶する。 $ 問題場面でアドバイスされたメタ認知を使って子どもが情動的にも認知的にもよい 問題解決の経験ができる。 % 子どもが,そのメタ認知を記憶する。 & 子どもが,別の類似問題をこのメタ認知を使って解ける。 ' 子どもが,このメタ認知を「内なる教師」として獲得する。 この過程は,次の図3のように表すことができる。

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(6)メタ認知を測定するアンケート調査に関する研究の経緯 これまでに,重松(1987)は,問題解決過程における「内なる教師」の役割を明らかにする ため,教師の言語行動を収集し,説明,発問,指示,評価の4つの視点から分類整理するとと もに,メタ認知的知識及びメタ認知的技能のカテゴリーを用いて,アンケート調査問題を作成 し,教師の言語活動と児童生徒が意識している「内なる教師」について研究を行っている。 また,重松(1988)は,肯定的・否定的なメタ認知についての調査研究を行うため,初期の アンケートを改良して,121項目からなるアンケート調査を作成している。 重松・勝美・上田(1989a)では,重松(1989)が作成した教師の言語行動に基づくアンケ ート調査を,子どものメタ認知として書き換えてアンケートを作成し,小学生のもつメタ認知 の全体的傾向や算数の成績とメタ認知の関係から子どもを4つのタイプに分けて,指導への示 唆を明らかにしている。さらに,重松・勝美・上田(1990b)では,より簡便にアンケート調 査を実施することに配慮して項目数を121項目から70項目に減らしたアンケート調査を実施し, メタ認知の発達的変容についての調査研究を行っている。 重松(1994)では,これらをまとめ,海外での調査も加えて,メタ認知を測定する用具とし てのアンケート調査に関する開発研究を行っている。 これらの研究の中で,教師の言語活動から「内なる教師」として意識されているものを抽出 し,メタ知識及びメタ技能のカテゴリーによる項目のバランス,問題解決過程におけるバラン ス等を考えて,121項目を設定し,さらに121項目の中から70項目を選択して活用してきた。 新しいメタ認知アンケートの開発について これまでのアンケートは,メタ認知的知識の発達的変容を中心に調査するために開発したも ので,直接問題解決過程で機能しないであろうと考えられる項目が多く含まれている。 例えば,「算数は美しいなあ。」という項目は,算数を学習していく上では,大切に育ててい きたい感性の一つではあるが,問題解決の過程で直接機能するものとは考えにくい。あるいは, 「これは,学校の外でも使えるな。」という項目は,算数・数学を日常生活に利用したり,後 の学習に活用したりする際には,必要なメタ知識といえるが,問題解決に有効にはたらくとは 必ずしもいえないのではないかと考えられる。 また,「ほかの人の考えと自分の考えをまとめるとどうなるかな」や「わからない人にどう 現明したらいいかな」のように問題解決型の授業の集団解決の過程で機能すると考えられる項 図3 メタ認知の内面化のモデル

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目も含まれている。 今回の調査問題の作成にあたっては,まず,これまでの70項目を,新たに児童・生徒の問題 解決過程にそって整理し,これまで使用してきたアンケート調査の項目のうち,児童生徒の問 題解決に直接機能するであろうと考えられる項目に精選することを考えた。これは,後で枠組 みを提案する「問題解決過程で必要な認知的要因を診断する調査問題の各課題」と今回開発す る「アンケート調査の項目」を関連させて考察する際,問題解決過程にそって整理しておくこ とが今後の研究の中で必要になってくるであろうと考えたからである。 また,今回の調査用紙(資料参照)を作成するにあたっては,アンケートの集計が容易にで きるように,SQS(Shared Questionnaire System

(1) )を活用し,普通紙にマークシート方式で アンケートの項目を印刷し,マークされた回答をスキャナで読み取って PC で処理できるよう にして調査を行った。 (1)問題解決過程を捉える枠組み 問題解決の過程を捉える枠組みとしては,G.Polya(1944)の4段階「理解−計画−計画の 実行−検討(振り返り)」という枠組みで捉えることが広く行われてきた。また,Schoenfild は,Polya の4つの段階を発展させて,「読み,分析,探究,計画,実行,検証」という6つ の局面からなるモデルで問題解決過程を分析している。 今回は,問題解決の過程を捉える枠組みを,G.Polya の4段階「理解」,「計画」,「実行」, 「検討」とし,これに加えて,問題解決のすべての段階ではたらくと考えられるメタ知識があ るため,「全体」を加えた5つのカテゴリーで検討した。 (2)問題解決過程にそったメタ認知アンケート項目の整理 これまでに開発したメタ認知に関するアンケート調査の70項目を,問題解決の段階(理解, 項 目(メタ認知のカテゴリー) 理 解 前に同じような問題をやったことがあるかな(課題) おもしろい問題だな(課題) 少しややこしいな(課題) 短いから簡単だ(課題) これはいい問題だなあ(課題) これははじめてだなあ(課題) 算数の問題にはいろいろなものがあるんだ(課題) 求めなければならないのは何かな(課題) 今日はこれを考えてみよう(環境) 十分間は静かに考えよう(環境) わかっていることは何かな(方略) 答はどのくらいになるかな(方略) わからないことは何かな(方略) 問題の意味はわかっているかな(方略) 今まで習ったこととどこがちがうかな(方略) 問題をわかりやすく変えてみよう(方略) 問題の中で,わかっていること,わからないことに線を引こう(方略) 自分にわかるところまで簡単にして考えてみよう(方略) 簡単な数字を入れてみよう(方略) 予想してみよう(方略) 自分の言葉で言い直してみよう(方略)

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計画,実行,検討,全体)とメタ知識のカテゴリー(環境,課題,自己,方略)によって整理 してみたものが,次の表1である。 (3)調査項目の精選 今回の調査に使用したメタ認知アンケートの項目については,上記の70項目から26項目に精 選した。26項目に精選するにあたっては,次のような観点で行った。 ! 問題解決に直接機能しにくいと考えられる項目を削除する。 例えば,「算数は美しいなあ」「算数の問題にはいろいろあるんだ」など。 実 行 答えがきちんとなるとはかぎらないぞ(課題) すぐ出来るとはかぎらないぞ(課題) 問題は計算だけでできるとはかぎらないぞ(方略) ここが一番むすかしいところだ(方略) 数が大きくなったら,失敗しないように気をつけよう(方略) 他の方法はないかな(方略) 式はどうなるかな(方略) 図を書いて考えてみよう。(方略) どんなやり方でもいいから,答えを出してみよう(方略) わかるところまでやろう(方略) 頭の中で書いてみよう(方略) わからなくなったら,別の方法を考えてみよう(方略) つまずいているところを文や言葉にしてみよう(方略) 式をじっと見よう(実行) 検 討 算数は美しいなあ(課題) この問題は学校の外でも使えるな(課題) 便利な記号がたくさんあるな(方略) 問題によっては答えがいくつもあるんだ(課題) この方法はいつでも使えるかな(方略) わけを説明できるかな(方略) わけを別の言葉で言うとどうなるかな(方略) わからない人にどう現明したらいいかな(方略) ほかの人の考えと自分の考えをまとめるとどうなるかな(方略) 身のまわりでこれとよく似たことはないかな(課題) できたら,よく見直そう(方略) ほかの人に説明できるように書いてみよう(方略) どの方法がよいかみんなで話し合いたいな(方略) 実際にやってみたいな(方略) どんなやり方でもよいから説明してみよう(方略) もう一度繰り返しやってみよう(方略) 終わったら答えが問題の意味にあっているか考えよう(方略) ここに注意しておこう(方略) 全 体 問題をよく読んでみよう(方略) わからなくなったら,もう一度初めから読み直してみよう(方略) もっと簡単にする方法はないかな(方略) もう一回やり直そう(方略) 先生と同じ方法でとかなくてもいいんだ(方略) 表1 メタ認知アンケート調査項目の問題解決過程及びメタ知識のカテゴリーによる整理

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" 学校での授業展開と関連が深い項目を削除する。 例えば,「ほかの人の考えと自分の考えをまとめるとどうなるかな」「今日はこれを考えて みよう」など。 # 調査の対象者の発達段階に適応していないものを削除する。 例えば,「たし算,ひき算,かけ算,わり算のうちどれかな」など これらの観点により,作成した調査項目が,次に示す表2の項目である。 調査の実施とその結果及び考察 (1)調査の目的 ! 学習者の状況をよりよく診断するための,認知的要因とメタ認知的要因の調査問題開発 のための枠組みを明らかにする。 " 学力の上位群・中位群・下位群に特徴的な項目を明らかにする。 段階 項 目(メタ認知のカテゴリー) 理 解 前に同じような問題をやったことがあるかな(課題) おもしろい問題だな(課題) 求めなければならないのは何かな(課題) わからないことは何かな(方略) 問題の意味はわかっているかな(方略) 自分にわかるところまで簡単にして考えてみよう(方略) 計 画 図がきちんと書ければ必ずとけるぞ(自己) 何がわからないからとけないのか考えてみることが大切だ(方略) 式さえわかれば簡単だ(自己) 算数を解く順番にはわけがあるんだ〈問題を解くには順番が大切だ〉(方略) 問題によっては別のとき方もあるぞ(方略) 今まで習ったことを使えるかな(方略) 今までのバターンにあてはめてみよう(方略) 実 行 すぐ出来るとはかぎらないぞ(課題) 問題は計算だけでできるとはかぎらないぞ(方略) 他の方法はないかな(方略) 式ほどうなるかな(方略) 図を書いて考えてみよう。(方略) どんなやり方でもいいから,答えを出してみよう(方略) わかるところまでやろう〈途中まででもいいからやろう〉(方略) わからなくなったら,別の方法を考えてみよう(方略) 検 討 問題によっては答えがいくつもあるんだ(課題) わけを説明できるかな(方略) できたら,よく見直そう(方略) 全 体 問題をよく読んでみよう(方略) わからなくなったら,もう一度初めから読み直してみよう(方略) 表2 今回の調査問題の26項目

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(2)調査の方法 ! 対 象:T大学1年生144名 " 調査日:平成20年6月16・17・18日 # 調査用紙:教員採用試験の一般教養で出題された内容からなる数学調査問題及びメタ認 知に関する調査問題 (調査用紙は資料参照) $ 問題解決がうまく進まなかった事例については,インタビューを実施。 (3)結果 ! 対象者の算数・数学に対する好感度 算数数学についての好感度は,下のグラフのとおりである。 グラフから明らかなように,対象者の算数・数学に対する好感度は,高くないといえる。 また,学年があがるにつれて好感度が下がり,中学校で「すき」「きらい」が逆転してい る。 " 学力の上位群・中位群・下位群と「よく思い浮かぶ」と答えた項目の割合 今回の調査では,数学調査問題の点数により,次の基準で上位群・中位群・下位群に分 けることとした。 上位群 中位群 下位群 数学問題の点数 5∼6 2∼4 0∼1 人 数 41 86 17 全体に占める割合 28.4% 59.7% 11.8%

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各群の中で「よく思いうかぶ」と回答した人数の割合は,次の表3のとおりである。 また,それぞれの項目について,比率の差の検定(Z検定:片側)を行った結果は,次の表 4のとおりである。 番号 項 目 上位群 中位群 下位群 1 前に同じような問題をやったことがあるかな 41.5% 25.6% 15.8% 2 おもしろい問題だな 14.6% 3.5% 10.5% 3 図が書ければ必ずできるぞ 19.5% 3.5% 0.0% 4 式がわかれば簡単だ 46.3% 27.9% 31.6% 5 問題は計算だけでできるとは限らないぞ 39.0% 24.4% 5.3% 6 求めなければいけないのは何かな 43.9% 22.1% 15.8% 7 わからないことは何かな 29.3% 16.3% 5.3% 8 他の方法はないかな 36.6% 18.6% 5.3% 9 問題の意味はわかっているかな 29.3% 8.1% 10.5% 10 式はどうなるかな 34.1% 12.8% 15.8% 11 わけを説明できるかな 17.1% 3.5% 5.3% 12 今まで習ったことを使えるかな 39.0% 12.8% 15.8% 13 図を書いて考えてみよう 48.8% 24.4% 31.6% 14 問題をよく読んでみよう 58.5% 26.7% 21.1% 15 できたら見直そう 36.6% 15.1% 21.1% 16 どんなやり方でもいいから答を出してみよう 51.2% 32.6% 26.3% 17 問題によっては,答がいくつもあるぞ 26.8% 15.1% 5.3% 18 わからなくなったらもう一度はじめから読み 直してみよう 31.7% 26.7% 21.1% 19 わからなくなったら別の方法でやろう 34.1% 19.8% 15.8% 20 今までのパターンに当てはめよう 32.5% 16.3% 21.1% 21 すぐできるとは限らないぞ 31.7% 25.6% 26.3% 22 何がわからないから解けないのか考えてみる ことが重要だ 26.8% 10.5% 5.3% 23 問題を解くのには順番が大切だ 31.7% 18.6% 10.5% 24 問題の意味はわかっているのかな 26.8% 11.6% 10.5% 25 途中まででもいいからやろう 48.8% 25.6% 15.8% 26 自分にわかるところまで簡単にして考えてみ よう 36.6% 24.4% 10.5% 表3 各群の中で「よく思い浮かぶ」と回答した割合 番号 項 目 上―中位群の 有意差 中―下位群の 有意差 1 前に同じような問題をやったことがあるかな * 2 おもしろい問題だな * 3 図が書ければ必ずできるぞ ** 4 式がわかれば簡単だ * 5 問題は計算だけでできるとは限らないぞ * * 6 求めなければいけないのは何かな **

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1)上位群>中位群>下位群と順に割合が低くなっている項目 各群の割合を比較すると,「よく思い浮かぶ」と回答した割合が上位群>中位群>下位群と 順に低くなっている項目は次のとおりである。 1 前に同じような問題をやったことがあるかな 3 図が書ければ必ずできるぞ 5 問題は計算だけでできるとは限らないぞ 6 求めなければいけないのは何かな 7 わからないことは何かな 8 他の方法はないかな 14 問題をよく読んでみよう 16 どんなやり方でもいいから答を出してみよう 17 問題によっては,答がいくつもあるぞ 18 わからなくなったらもう一度はじめから読み直してみよう 19 わからなくなったら別の方法でやろう 22 何がわからないから解けないのか考えてみることが重要だ 23 問題を解くのには順番が大切だ 24 問題の意味はわかっているのかな 25 途中まででもいいからやろう 7 わからないことは何かな * 8 他の方法はないかな * 9 問題の意味はわかっているかな ** 10 式はどうなるかな ** 11 わけを説明できるかな ** 12 今まで習ったことを使えるかな ** 13 図を書いて考えてみよう ** 14 問題をよく読んでみよう ** 15 できたら見直そう ** 16 どんなやり方でもいいから答を出してみよう * 17 問題によっては,答がいくつもあるぞ 18 わからなくなったらもう一度はじめから読み直してみよう 19 わからなくなったら別の方法でやろう * 20 今までのパターンに当てはめよう * 21 すぐできるとは限らないぞ 22 何がわからないから解けないのか考えてみることが重要だ ** 23 問題を解くのには順番が大切だ 24 問題の意味はわかっているのかな * 25 途中まででもいいからやろう ** 26 自分にわかるところまで簡単にして考えてみよう *:5%水準 **:1%水準 表4 項目ごとの比率の差の検定の結果

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26 自分にわかるところまで簡単にして考えてみよう これらの項目で,17,18,23,26の4項目以外は,上位群と中位群の間に有意差が見られた。 一方,中位群と下位の間では,有意な差が見られた項目は,「5 問題は計算だけでできると は限らないぞ」の1項目のみであった。 2)中位群より下位群の割合が高い項目 各群の割合を比較すると,「よく思い浮かぶ」と回答した割合が中位群より下位群で高くな っている項目は次のとおりであるが,いずれの項目も,有意差は見られなかった。 2 おもしろい問題だな 4 式がわかれば簡単だ 9 問題の意味はわかっているかな 10 式はどうなるかな 11 わけを説明できるかな 12 今まで習ったことを使えるかな 13 図を書いて考えてみよう 15 できたら見直そう 20 今までのパターンに当てはめよう 21 すぐできるとは限らないぞ 3)上位群に特徴的な項目 上位群が「よく思いうかぶ」又は「思い浮かぶ」と解答した割合が70%以上の項目は,次の とおりであった。 13 図を書いて考えてみよう 1 前に同じような問題をやったことがあるかな 14 問題をよく読んでみよう 4 式がわかれば簡単だ 16 どんなやり方でもいいから答を出してみよう 5 問題は計算だけでできるとは限らないぞ 12 今まで習ったことを使えるかな 25 途中まででもいいからやろう 10 式はどうなるかな 7 わからないことは何かな 23 問題を解くのには順番が大切だ 6 求めなければいけないのは何かな 26 自分にわかるところまで簡単にして考えてみよう 20 今までのパターンに当てはめよう 19 わからなくなったら別の方法でやろう 18 わからなくなったらもう一度はじめから読み直してみよう

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4)中位群に特徴的な項目 中位群が「よく思いうかぶ」又は「思い浮かぶ」と解答した割合が70%以上の項目は,次の とおりであった。 6 求めなければいけないのは何かな 1 前に同じような問題をやったことがあるかな 16 どんなやり方でもいいから答を出してみよう 14 問題をよく読んでみよう 26 自分にわかるところまで簡単にして考えてみよう 5)下位群に特徴的な項目 下位群が「よく思いうかぶ」又は「思い浮かぶ」と解答した割合が70%以上の項目は次のと おりであった。 18 わからなくなったらもう一度はじめから読み直してみよう 20 今までのパターンに当てはめよう 25 途中まででもいいからやろう 4 式がわかれば簡単だ 5 問題は計算だけでできるとは限らないぞ 13 図を書いて考えてみよう 14 問題をよく読んでみよう " 問題解決がうまく進まなかった学生へのインタビューの結果 1)インタビューの方法 数学調査問題の実施の際に,机間観察をしながら,問題解決がうまく進んでいない学 生に対し,個別に次の内容の質問をした。 2)インタビューの内容 「なぜ,問題解決がうまくいかないと思うか」 「どうしてうまく解けないと思うか」 という趣旨の質問を行った。 3)インタビューへの回答 ○ 式をつくろうと思ったが,うまくできなかった。 ○ 「弦」という言葉の意味がわからなかった。 ○ 数学はできないから,あきらめた。 ○ どうやったらいいか思い出せなかった。 ○ 絵をかこうと思ったが,問題の意味がわからなかった。 ○ 四角形ABCFは,ひし形であると思うが,正しいかどうかわからなかった。 ○ どうやったらいいのか忘れてしまった。 (4)考察 ! 数学の学力とメタ認知の関係について

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全体的な傾向としては,上位群は,メタ知識の量が中位群や下位群に比べて豊富であるこ とが確認できた。また,上位群と中位群の間では,項目17,18,21,23,26の5項目以外の21項 目では有意な差が見られた。しかし,中位群と下位群の間では,ほとんど有意な差が見られ なかった。 また,上位群では,「図をかいて考えてみよう」「前に同じような問題をやったことがある かな」をはじめとして,「よく思い浮かぶ」「思い浮かぶ」と回答する項目数が多く,これら のメタ認知がうまく機能して,問題解決がスムーズに進んだことがわかる。 中位群は,上位群に比べると,メタ知識の量が少なく,問題を見て,「求めなければなら ないのは何かな」と問題を分析した後,「どんなやり方でもよいから答を出してみよう」と 考え,「前に同じような問題をやったことがあるかな」とこれまでの経験を振り返りつつ, 問題解決を進めていることがうかがえる。 下位群では,中位群と同程度のメタ知識をもっていたり,中位群よりも多くのメタ認知を 機能させたりしていると考えられるが,問題解決はうまくいっていない状況がみてとれる。 これらのことは,これまでのメタ認知の調査研究の中で確かめられてきたことが,再度確 認できたものではあるが,これまでの,121項目のアンケートや70項目のアンケートと同様 に,項目数を26項目に精選したアンケート調査でも,メタ知識の量やメタ認知のはたらきに ついて,ある程度把握できることが確認できたと考える。 ! 問題解決における認知的要因とメタ認知的要因について 下位群で問題解決がうまく進まなかった学生へのインタビューから,メタ認知は,機能し ているが,数学の問題を解決するための基礎的な知識や技能が身についていないために問題 解決が進まなかったと考えられる。 例えば,「『弦』という言葉の意味がわからなかった」と答えた学生では,「図形の問題な ので,図をかこう」というメタ認知は機能したものの,「弦」という用語の意味を忘れてし まっていたため,問題を図で表そうとしてもうまくできず,それ以上問題解決が進まなかっ たと考えられる。また,「式をつくろうと思ったが,うまくできなかった」と答えた学生は, 「式がわかれば簡単だ」というメタ認知は機能しているが,問題を式で表すたことができな かったため,問題解決に至らなかったと考えられる。 これらの例は,たとえメタ認知がうまく機能したとしても,問題解決に必要な認知的な知 識や技能が不足していると問題解決はスムーズに進まないことを示している。 新しい調査問題の枠組み (1)算数・数学の問題解決とメタ認知 算数数学の問題解決とメタ認知の関係を整理すると,図4になると考えられる。 (2)新しい調査問題の枠組み これまでの調査研究(重松・勝美・上田1990,1991,1993)では,算数・数学の学力について, 単元や学期ごとのテストや今回の調査のように数問の問題によって判定した上で,メタ認知と の関連について考察してきた。 しかし,今回の大学生を対象とした調査における下位群の結果の考察からも明らかなように, メタ認知が有効に機能していたとしても,認知的要因(例えば,「図がかけない」「用語を知ら

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ない」「式に表せない」等)によって問題解決がうまく進まない場合も見られる。 ある学習者の数学的問題解決がうまく進まない要因が,認知的要因であるのか,あるいは, メタ認知的な要因であるのかを的確に判断し,学習指導に生かしていくためには,認知的要因 についても,問題解決の段階に対応した領域横断的に診断する調査問題を開発・実施し,メタ 認知アンケート調査の結果とあわせて分析して,その学習者の特性を見きわめることが重要か つ有効であると考えられる。 ! 認知的要因を診断する調査問題 本稿では,認知的要因を診断する調査問題について,その具体的な内容等について,議論 できなかったが,小・中学校における算数・数学の問題解決に必要な知識や技能及びそれを 確認するための調査問題の課題の内容について,次のような枠組みを仮説的に提案する。な お,具体的な課題の内容については,今後の研究課題としたい。 " メタ認知的要因を診断する調査問題 メタ認知的要因を診断する調査問題については,今回,70項目を26項目に精選して実施し た結果から,項目数を減らしても,メタ知識の量やメタ認知のはたらきについて,ある程度 把握できることが確かめられた。 認知的活動 メタ認知的活動 〈問題の理解に必要な知識・技能〉 ○算数・数学の用語・概念に関する知識 ○問題理解に必要な図や表などの利用 ○数学的な記号やグラフ,式などの理解 〈解決の計画に必要な知識・技能〉 ○演算を決定する知識・技能 ○論理的な推論 ○解決の計画への図や表の利用 〈実行に必要な知識・技能〉 ○計算を遂行する知識・技能 ○数学的な表現(グラフ,図,式等)で 表現する知識・技能 〈検討に必要な知識・技能〉 ○結果を吟味する知識・技能 問題の解決 〈計画の段階で機能するメタ知識〉 例えば,図がきちんと書ければ必ずとけ るぞ(自己),問題を解くには順番が大切 だ(方略) 等 〈実行の段階で機能するメタ知識〉 例えば,他の方法はないかな(方略), 式はどうなるかな(方略),別の方法はな いかな(方略) 等 〈検討の段階で機能するメタ知識〉 例えば,問題によっては答えがいくつも あるんだ(課題),わけを説明できるかな (方略) 等 〈全体で機能するメタ知識〉 例えば,わからなくなったら,もう一度 初めから読み直してみよう(方略) 等 〈理解の段階で機能するメタ知識〉 例えば,前に同じような問題をやったこ とがあるかな(課題),わからないことは 何かな(方略) 等 図4 算数・数学の問題解決とメタ認知

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今回アンケート項目の精選に用いた次の3つの観点「! 問題解決に直接機能する項目を 選択する。" 学校での授業展開とリンクしない項目を選択する。# 調査の対象者の発達 段階に適応した項目を選択する。」ついては,項目の選択にある程度有効であったと考えら れるものの,アンケート項目の選択について,これまでの経験や直感による部分もある。 したがって,今後さらに問題解決に直接機能すると考えられるメタ知識についてさらに精 査するとともに,上記の観点を活用しながら,学習者のメタ認知をより的確に把握できるア ンケート調査の項目について,さらに多くのデータを収集し,その信頼性をデータに基づき 検討していくことが必要であると考える。 成果と課題 本稿では,数学教育におけるメタ認知研究について,これまでの研究を整理し,新しいメタ 認知アンケートの開発に向けて,項目数を26項目に精選し作成した調査問題を大学生を対象と して実施した。その結果,調査問題の項目を精選しても,メタ知識の量やメタ認知の状況につ いて把握することができることが示唆された。また,学習者の状況をより的確に把握するため に,メタ認知調査と同時に実施する認知的要因を診断する調査問題の枠組みについて提案する ことができた。 今後研究を進めていく上で,当面の課題としては,次のことがあげられる。 ・認知的な要因を診断するための発達段階に応じた調査問題の具体的な提案と検証 ・メタ認知に関するアンケート調査の項目の再検討とその検証 ・学習者へのフィードバックとその効果の検証 また,研究を通して明らかになった内容については,今後の教員養成教育に活かしていきた い。

(1) SQS(Shared Questionnaire System)は,2003年8月28日,慶應義塾大学「21世紀COE

問題解決に必要な知識や技能 調査問題の課題の内容 理 解 算数・数学の用語・概念に関する知識 ○ 算数・数学の用語・概念の正誤判断 ○ 算数・数学の用語・概念の正しい説明の 選択 問題理解に必要な図や表などの利用 ○ 課題の解決に有効な図や表の選択 ○ 数学的な表現(グラフ,記号,式等)の 理解と表現 計 画 演算を決定する知識・技能 ○ 基本的な文章問題の解決 論理的な推論 ○ 論理的な命題の真偽判断 解決の計画への図や表の利用 ○ 数学的な表現(グラフ,記号,式等)の 理解と表現 実 行 計算を遂行する知識・技能 ○ 基本的な四則計算 ○ 計算のルールに従った遂行 数学的な表現(グラフ,図,式等)で表現す る知識・技能 ○ 数学的な表現(グラフ,記号,式等)の 理解と表現 検 討 結果を吟味する知識・技能 ○ 検算 ○ 自発的な吟味

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プログラム 次世代メディア・知的社会基盤における研究活動」として,金子郁容研究室・ Community Management Research Project「学校評価支援システム」開発プロジェクトで開 発された「普通紙マークシート方式による調査票作成・読み取り集計ソフトウェア」である。 2003年12月よりオープンソースとして公開されている。

引用および参考文献

J. Piaget (1976). The grasp of consciousness : action and concept in the young child. Cambridge, MA ; Harverd University Press

R. R. Skemp (1979). Intelligence, Learning, and Action A Foundation for Theory and Practice in Education. New York, Wiley

John. H. Flavel (1976). Metacognitive Aspects of Problem Solving. In L. Resnick ed. The nature of intelligence, Lawrence Erlbaum

A. L. Brown (1978). Known when and how to remember. A problem of metacognition. In R. Glaser ed. Advances in Instructional Psychology. Vol. I. Erlbaum

Frank K. Lester, Jr. and Joe Garofalo (1982). Metacognitive Aspects of Elementary School Students’ Performance on Arithmetic Task. AERA.

A. H. Schoenfeld (1983). Problem Solving in the mathematics curriculum. A report, recommenda-tion, and an annoted bibliography, Mathematical Association of America

Joe Garofalo and Frank K. Lester, Jr (1985). Metacognition, Cognitive Monitoring, and Mathematical Performance. JRME, vol. 16, no. 3, pp. 163−176

Schoenfeld, A. H. (1992). Learning to think mathematically : Problem solving, metacognition, and sense−making in mathematics. In D. Grouws (Ed.), Handbook for Research on Mathematics Teaching and Learning pp. 334−370

A.L.ブラウン(1984)「メタ認知」サイエンス社 重松敬一(1987)「数学教育におけるメタ認知の研究(2)―問題解決行動における「内なる教師」の 役割―」日本数学教育学会論文発表会 重松敬一(1988)「数学教育におけるメタ認知の研究(3)―肯定的,否定的メタ認知について―」日 本数学教育学会論文発表会 重松敬一,勝美芳雄,上田喜彦(1989a)「子どもの思考を生かした算数指導(3)」第37回西日本数学 教育学会発表資料 重松敬一,勝美芳雄,上田喜彦(1989b)「子どもの思考を生かした算数指導(4)―「もう一人の自 分」の診断方法の実践的研究」日本数学教育学会第71回全国大会発表資料 重松敬一(1990a)「メタ認知と算数・数学教育『内なる教師の役割』」 数学教育学のパースペクティ ブ第1章§3,pp76−107 平林一榮先生頌寿記念出版会編 聖文社 重松敬一(1990b)「思考と認知」教職科学講座第20巻 算数・数学教育学第10章 pp168−184 福村書 店 重松敬一,勝美芳雄,上田喜彦(1990a)「子どもの思考を生かした算数指導(5)―「もう一人の自 分」の調査と実践への示唆―」日本数学教育学会第72回全国大会発表資料 重松敬一,勝美芳雄,上田喜彦(1990b)「数学教育におけるメタ認知の発達的研究―「内なる教師」 の発達的変容調査―」奈良教育大学紀要第39巻第1号 重松敬一,勝美芳雄,上田喜彦(1991a)「子供の思考を生かした算数指導(2)―メタ認知の発達的 変容調査と実践への示唆―」日本数学教育学会会誌第73巻第12号 重松敬一,勝美芳雄,上田喜彦(1991b)「子どもの思考を生かした算数指導(6)―メタ認知育成の

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ための発問指示リストの作成と事例研究―」日本数学教育学会第73回全国大会発表資料 重松敬一(1994)「児童・生徒の数学的問題解決に影響する『メタ認知』を測定するアンケートの開発 研究」平成4,5年度科学研究費補助金(一般研究(C))研究報告書 重松敬一,勝美芳雄,上田喜彦(1993)「数学教育におけるメタ認知の研究(8)―子どもへのメタ認 知の内面化に関する調査研究―」日本数学教育学会 数学教育論文発表会論文集,97−102 アルベルト・オリヴェリオ(2005)「メタ認知的アプローチによる学ぶ技術」創元社 G.polya/柿内賢信訳(1954翻訳初版:原著1944)「いかにして問題をとくか」丸善 (資料) 数学調査問題 1 1個40円のみかんと1個60円のりんごを合わせて10個買うとき,ちょうど500円になる買い方は, 全部で何通りあるでしょうか。 (考えたことや式) 解答欄 2 幅が一定の紙テープを結んでみたところ,五角形ABCDEは,正五角形になった。CEとBD の交点をG,CEとADの交点をFとする。このとき次の(ア)∼(エ)の中で正しいものはどれ か。正しいものをすべて選んで,記号で答なさい。 (ア)∠BAEは,108°である。 (イ)AB:FG=AF:FDである。 (ウ)四角形 ABCF はひし形である。 (エ)三角形GCDと三角形EADは合同である。 解答欄 3 半径5!の円がある。その弦ABの長さが8!のとき,円の中心Oから弦ABの中点Cまでの長 さは何!か。

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参照

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