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高糖生地に適した酵母の発酵特性

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Academic year: 2021

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(1)

(₁₅)₁₅ 日本食生活学会誌 第₂₇巻 第 ₁ 号 ₁₅︲₂₁(₂₀₁₆)

[論  文]

高糖生地に適した酵母の発酵特性

小松﨑典子

・上島寛之

**

・藤原しのぶ

・植木幸英

・島  純

***

聖徳大学,

**

名古屋市立大学大学院,

***

龍谷大学)

(平成₂₇年₁₁月 ₆ 日受付,平成₂₈年 ₃ 月 ₉ 日受理)

Fermentation characteristics of yeast suitable

for high-sugar dough

Noriko Komatsuzaki

, Hiroyuki Kamishima

**

, Shinobu Fujihara

,

Yukihide Ueki

, Jun Shima

***

Seitoku University,

₅₅₀, Iwase, Matsudo-shi, Chiba, ₂₇₁-₈₅₅₅

**

Nagoya City University,

₁, Kawasumi, Mizuho-cho, Mizuho-ku, Nagoya-shi, Aichi, ₄₆₇-₈₅₀₁

***

Faculty of Agriculture, Ryukoku University,

₁-₅, Yokotani, Seta Oe-cho, Otsu-shi, Shiga ₅₂₀-₂₁₉₄

〒₂₇₁︲₈₅₅₅ 千葉県松戸市岩瀬₅₅₀

**

〒₄₆₇︲₈₅₀₁ 愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄 ₁

***

〒₅₂₀︲₂₁₉₄ 滋賀県大津市瀬田大江町横谷 ₁ ︲ ₅

 Three kinds of baker’s yeasts (Saccharomyces cerevisiae), 1-2, 9-3 and 10-2 were isolated from fruits or humus to bake bread in high-sugar dough. Their fermentation test and sensory evaluation of beard baked in 30%-sucrose dough were examined. The results of the fermentation test with 20-40% glucose added to the medium showed that CO2 production by the wild yeast (10-2) isolated from apple leaves was highest among

the three strains. The strain that showed the highest alcohol producing ability was 9-3, which was isolated from nectarine seeds.

 Bread was made from 30%-sucrose dough for sweet rolls usually, and the sensory evaluation found that the aroma of bread made with the 10-2 strain was significantly preferred. The malic acid content in this bread was clearly the highest among the three strains. It is therefore concluded that the yeast isolated from apple leaves (10-2) is the most suitable for high-sugar dough.

1 .緒  言

 Saccharomyces cerevisiae は,パン,清酒,ワインなど の発酵食品に利用される酵母である。S.cerevisiae は土壌, 樹木,果実,海洋など自然界のあらゆる場所に生息して おり,その性質も多種多様である₁ ︲ ₃ )。近年,果実,花, 葉などから分離した酵母の探索が行われ,地域独自の風 味や特性をもつパンが開発されている₄ ︲ ₆ )  平成₂₆年の家計調査では, ₁ 世帯あたりの年間品目別 支出金額で,パンの消費は米の消費を上回っている₇ ) パンは国内において年間約₁₂₀万トン生産されており, そのうちの ₃ 割が菓子パンで占められている₈ )。菓子パ ンの製造には,₁₀~₄₀%のショ糖を含む高糖生地が用い られるが,大量のスクロースの添加は酵母にとってスト レスとなり,発酵力および膨張力の著しい不足が生じ る₉ )。高ショ糖ストレス耐性をもつ酵母は,菓子パン製 造において利用できる可能性が高い。そこで本研究では, パン製造において広く好まれる触感や香りを有し,高糖 生地において発酵可能な酵母の探索を目的として,野生 酵母の発酵試験および菓子パンの官能評価を行った。  われわれは,果実,土壌,植物の葉などから,パン製 造に利用できる ₇ 種類の S.cerevisiae を見出した₁₀)。分 離したこれらの酵母の中から,発酵性に優れた ₃ 種類の 酵母を選抜した。これらの野生酵母の発酵特性および

(2)

₁₆(₁₆) ₃₀%スクロース添加に対する菓子パンの影響について調 べた。パンの発酵過程において生成される遊離アミノ酸 や有機酸は,パンの風味やおいしさの一因となっている ことが報告されている₁₁)。製造後の菓子パンに含まれて いる遊離アミノ酸と有機酸含量についても調べたので報 告する。

2 .方  法

( 1 )供試菌株,培地および試薬の調製  ₂₀₁₂年 ₈ 月と₁₁月に果実,果実の葉,土壌から分離し た ₃ 種類の野生の S.cerevisiae,土壌由来の酵母 ₁ ︲ ₂ , 果実の葉由来の酵母 ₉ ︲ ₃ ,果実由来の酵母₁₀ ︲ ₂ を用 いた。  酵母の培養には YM 培地(グルコース ₁ %,ペプト ン₀.₅%,酵母エキス₀.₃%,麦芽エキス₀.₃%),および YPD培地(グルコース ₂ %,ペプトン ₂ %,酵母エキ ス ₁ %)の液体培地を調製し用いた。菓子パン製造のた めの培地は,糖蜜培地(ネオモラセスト(EM 研究所) ₃ %,尿素₀.₁₉₃%,リン酸 ₂ 水素カリウム₀.₀₄₆%)を 調製し用いた。ペプトン,酵母エキスおよび麦芽エキス は Becton Dickinson and Company(France)製を用いた。  糖の定量のためのソモギー・ネルソン法で用いた銅試 薬とネルソン試薬を以下の通り調製した。酒石酸ナトリ ウムカリウム四水和物(半井化学薬品㈱)₁₂ g と無水 炭酸ナトリウム₂₄ g を約₂₅₀ mL の水に溶かし,₁₀%硫 酸銅溶液₄₀ mL を加え,炭酸水素ナトリウム₁₆ g を加え て溶解し硫酸銅溶液とした。別の容器に約₅₀₀ mL の熱 水に無水硫酸ナトリウム₁₈₀ g を溶解しておき,沸騰の のち放冷し硫酸ナトリウム溶液とした。硫酸ナトリウム 溶液と硫酸銅溶液を混ぜ,水を加えて ₁ L としたものを 銅試薬とした。ネルソン試薬は,以下の通り調製した。 七モリブデン酸六アンモニウム四水和物₂₅ g を₄₅₀ mL の水に溶かし,濃硫酸を₂₁ mL 加えてよく混和した。別 に,ヒ酸水素二ナトリウム七水和物 ₃ g を₂₅ mL の水に 溶かし,これをモリブデン酸アンモニウム溶液に加えて 混和したものをネルソン試薬とした。 ( 2 )アルコール発酵試験  グルコースにおける当該 ₃ 酵母の発酵特性を調べた。 ( ₁ )で示した ₃ 種類の各酵母を YM 培地で前培養した。 その培養液各 ₁ mL を,グルコース濃度を₂₀%,₃₀%, ₄₀%に調製した ₃ 種類の YM 培地₁₅₀ mL に接種し, ₃₀℃, ₇ 日間(₁₆₈時間)振とう培養した。培養 ₆ 時間 までは ₁ 時間ごとに,それ以降は培養開始から₂₄時間ご とに CO₂生成量と pH を測定した。培養開始時の培地の 重量から培養終了時までの培地の重量を差し引いた値を CO₂生成量とした₁₂)。 1 )培養液中のグルコース含量の測定  発酵試験に使用した YM 培地及びその発酵後の培養 液に含まれる残糖をソモギー・ネルソン法に従って測定 した₁₃)。試験管に培養液の各希釈液 ₁ mL をとり,銅試 薬を ₁ mL 加え,沸騰水浴中で正確に₁₀分間加熱した。 加熱後直ちに流水中で ₃ 分間冷却し,冷却後ネルソン試 薬 ₂ mL を加え,静かにかき混ぜて生成した酸化銅(Ⅰ) を完全に溶解した。さらに水 ₆ mL を加えてよく混和し, ₅₀₀ nm の吸光度を測定した。標準物質にグルコースを 用いて作成した検量線から各培養液中の糖濃度を算出し た。培養前の糖量と培養後の糖量から,糖の資化率を求 めた。 2 )培地の pH 測定  培養過程で培地を取り出して室温に放置し,直接 pH メーター(HORIBA F︲₅₂,堀場製作所,京都)で pH を 測定した。 3 )アルコール濃度の測定  発酵終了後,その培養液を正確に各₁₀₀ mL 量り取り, 丸底フラスコに冷却器を連結して蒸留した。その留液に 水を加えて₁₀₀ mL とし,よく混和してから₁₀₀ mL のメ スシリンダーに移し,₁₅℃において酒精度浮ひょうを用 いてその示度を読み,エタノール濃度(%(V/V))とし て測定した₁₂) ( 3 )製パン試験および官能評価 1 )製パン用圧搾酵母の調製  酵母 ₁ ︲ ₂ , ₉ ︲ ₃ ,₁₀ ︲ ₂ の分離株をそれぞれ₅₀ mL の YPD 培地に加え,₃₀℃で₂₄時間振とう培養(₁₈₀ rpm) を行った。その前培養した培養液₅₀ mL を滅菌した ₄₅₀ mL の糖蜜培地に加え,₃₀℃で₄₈時間振とう培養 (₁₃₀ rpm)を行った。この培養液を₁₀分間遠心分離 ( ₄ ℃,₃,₀₀₀ rpm)し,上清をすてて沈殿物を得た。そ の沈殿物を蒸留水で懸濁して洗い,同様に遠心分離し, これを ₂ 回繰り返してから,沈殿物を回収板にのせ,₄ ℃ で ₁ 時間乾燥させ製パン用の圧搾酵母(生菌数およそ ₁.₀×₁₀₁₀/g)とした₁₄) 2 )菓子パンの調製  表 ₁ の材料を配合し,Siroca ホームベーカリー(㈱ オークセール製:SHB︲₁₁₂)を用いて菓子パンを作成し た。スクロースは小麦粉の重量の₃₀%とした。焼成後, 菓子パンの高さと重量を測定した。菓子パンの水分含量 は,常圧加熱乾燥法で測定した₁₅)。 ₃ 種類の菓子パンの 外観,香り,甘さ,やわらかさ(食感),総合的な好み 表 1  菓子パン材料の配合割合 材料 比率(%) 使用量(g) 強力粉 ₁₀₀ ₃₂₀ バター ₈ ₂₅ スクロース ₃₀ ₉₆ 塩 ₁.₈ ₆ スキムミルク ₂.₅ ₈ 圧搾酵母 ₂.₈ ₉ 水 ₆₈ ₂₂₀

(3)

(₁₇)₁₇ について順位法により官能評価を行った。パネルは聖徳 大学人間栄養学科の学生および教職員₃₁名で行った。結 果の解析は Friedman 検定を行い,有意な違いがみられ たものは Scheffe 法による多重比較検定を行った。 ( 4 )菓子パンの成分分析 1 )菓子パン中の有機酸分析  ( ₃ )の ₂ )で調製した菓子パンを凍結乾燥後,粉砕 して₇₀%エタノールで抽出した。それを濃縮乾固の後, ₃ mmol/L 過塩素酸水溶液(和光純薬工業㈱,精密分析 用)に溶解後,₀.₄₅μm のフィルターでろ過し試験液と した。それを高速液体クロマトグラフィー(HITACHI UV L︲₇₄₀₅) に 供 し た。 分 析 条 件 と し て, カ ラ ム は Gelpack GL︲C₆₁₀H︲S(₇.₈ mmI.D.× ₃₀₀ mL, 日 立 化 成工業㈱)を用いた。カラム温度は₆₀℃とし,溶離液は ₃ mmol/L 過塩素酸水溶液を用いて,流速を₀.₅ mL/分 とした。検出波長は UV ₂₁₀ nm,試料は₂₀μL を注入し 測定した。測定後,絶対検量線法により各有機酸濃度を 算出した。 2 )菓子パン中の遊離アミノ酸分析  凍結乾燥後粉砕した各菓子パンを試料とし,₇₀%エタ ノールを加え,₃₀分加熱後,ろ過し,上澄みを抽出液と した。抽出残渣は,さらに ₂ 回抽出を同様に繰り返した。 上澄みを合わせて,減圧濃縮した後,その濃縮液を pH ₂.₂クエン酸リチウム緩衝液(和光純薬工業㈱)で溶 解したものを₂₅ mL に定容し,各試験溶液とした。希釈 した試験溶液を₀.₄₅μm のフィルターでろ過し,アミノ 酸自動分析計(L︲₈₈₀₀,HITACHI)を用いて,生体液 分析法により,非たんぱく性アミノ酸₁₁種類を含む遊離 アミノ酸₃₁種類を定量した。

3 .結果および考察

( 1 )野生酵母の発酵特性 1 )各野生酵母の CO2生成能   ₃ 種類の野生酵母を用いて,₂₀%,₃₀%,₄₀%に調製 したグルコース YM 培地の各濃度区分(以下,「₂₀%培地, ₃₀%培地,₄₀%培地」とする)での発酵中の CO₂生成 量と pH を調べた。 ₃ 種類ともに₇₂時間までの CO₂生成 量はほぼ同じであったが,₇₂時間以降は₃₀%と₄₀%培地 が₂₀%培地よりも高値を示した(図 ₁ )。₄₀%培地にお ける酵母₁₀ ︲ ₂ の CO₂生成量は₂₂.₃ g で,酵母 ₁ ︲ ₂ (₂₁.₈ g)と酵母 ₉ ︲ ₃(₂₀.₈ g)よりもわずかだが上回っ た。 2 )各野生酵母による培地の pH 変化  酵母₁₀ ︲ ₂ の₄₀%培地において,₂₀%と₃₀%培地に比 べて pH の低下の遅れがみられたが,₄₈時間後にはほぼ 同じ pH ₃.₅付近となった(図 ₂ )。 3 )各野生酵母によるグルコース資化率  ₂₀%と₃₀%培地でのグルコース資化率は, ₃ 種類の野 生酵母すべてが₉₉%であったが,₄₀%培地でのグルコー ス資化率は₁₅~₃₀%ほど低下した(表 ₂ )。すべての野 生酵母は,₃₀%培地に含まれるグルコースをほぼ完全に 全量資化したが,₄₀%培地のようにグルコースが高濃度 になるとその資化能力が低下することが明らかとなった。 4 )各野生酵母のアルコール生成能  エタノール生成能が最も高かったのは酵母 ₉ ︲ ₃ であ り,₃₀%および₄₀%培地に対して ₃ 種類いずれの野生酵 母も高値を示した(図 ₃ )。酵母は原材料の中で糖を発 酵してエタノールを生成し,二酸化炭素を放出する。そ れを利用して発酵食品を製造する₁₆)。発酵過程において 生成されるアルコールには,香気成分であるイソアミル アルコール,フェニルエタノールなどが微量含まれる。 これらの香気成分は,焼成後のパンの香りや風味に大き な影響を与える₁₁,₁₇)。本研究において,果実から分離さ れた酵母 ₉ ︲ ₃ と酵母₁₀ ︲ ₂ は発酵後独特の甘い香りを 有することから,₂₀~₄₀%スクロースの高糖生地でのパ ンへの利用が期待された。 ( 2 )野生酵母の菓子パンへの応用  果実や土壌から分離した ₇ つの S.cerevisiae の糖資化 性および発酵性を調べたところ,すべての酵母にグル コースとスクロースの資化性と発酵性が認められた₁₀) 自然界から分離される酵母は,利用する糖の種類により 発酵力が異なり,独特の風味や特性をもつパンができ る₁₇)。今回,S.cerevisiae である酵母 ₁ ︲ ₂ ,酵母 ₉ ︲ ₃ , 酵母₁₀ ︲ ₂ を使って,菓子パンに最も多く用いられてい る₃₀%スクロースを加えたパンを作成し,官能評価を 行った。 1 )菓子パンの膨張とスクロース資化量  焼成後の菓子パンで最も膨らみが大きかったのは酵母 ₁₀︲ ₂ であった(表 ₃ ,図 ₄ )。酵母₁₀ ︲ ₂ の菓子パンは 重量が軽く,菓子パンに残っていた全糖量が最も少ない ことから,酵母 ₁ ︲ ₂ と酵母 ₉ ︲ ₃ に比べると,酵母₁₀ ︲ ₂ はスクロースを最も多く資化したことが推測された。 2 )菓子パンの官能評価  官能評価の結果を表 ₄ に示した。外観,香り,甘さ, やわらかさ(食感)の好ましさを順位法により ₃ 種類の 菓子パンについて評価した結果,酵母 ₁ ︲ ₂ と酵母₁₀ ︲ ₂ で香りの好ましさに有意差が認められた(p<₀.₀₅)。 ₃ 種類の菓子パンの中で最も膨らみが大きかった酵母₁₀ ︲ ₂ の菓子パンの香りが有意に好まれた。 ( 3 )菓子パン中の有機酸および遊離アミノ酸含量 1 )菓子パン中の有機酸含量   ₃ 種類の菓子パンに含まれる有機酸には乳酸が最も多 く,全体の₄₀%以上を占めていた。次いでコハク酸,リ ンゴ酸,ギ酸が多く,クエン酸,フマル酸も若干検出され た(図 ₅ )。有機酸全量をみると,酵母 ₁ ︲ ₂ ,酵母 ₉ ︲ ₃ , 酵母₁₀ ︲ ₂ を用いた菓子パンからそれぞれ₁.₂₇ mg/g, ₁.₂₀ mg/g,₁.₁₆ mg/g が検出され,大きな差はみられ

(4)

₁₈(₁₈) 表 2  グルコース濃度の違いによるグルコースの資化率 グルコース濃度(%) ₁ ︲ ₂ * ₁ ₉ ︲ ₃ * ₂ ₁₀ ︲ ₂ * ₃ ₂₀ ₉₉ ₉₉ ₉₉ ₃₀ ₉₉ ₉₉ ₉₉ ₄₀ ₇₀ ₈₄ ₈₃ * ₁  ₁ ︲ ₂ :土壌より分離した酵母 * ₂  ₉ ︲ ₃ :果実の葉より分離した酵母 * ₃ ₁₀ ︲ ₂ :果実より分離した酵母 表 3  30%スクロース添加菓子パンの特徴 ₁ ︲ ₂ ₉ ︲ ₃ ₁₀ ︲ ₂ 高さ(cm)* ₁ ₁₀.₇ ₁₁.₈ ₁₂.₀ 重量(g) ₆₁₉ ₆₁₂ ₆₀₇ 水分含量(%) ₆₀.₄ ₆₀.₉ ₅₉.₁ 全糖量(mg/g) ₁₈.₅ ₂₇.₅ ₁₇.₄ * ₁ 高さ:菓子パンの中心の高さを測定した。 20%グルコース  30%グルコース  40%グルコース 図 1  発酵過程における CO2生成量の経時変化 20%グルコース  30%グルコース  40%グルコース 図 2  発酵過程における pH の経時変化 1-2 25 20 15 10 5 0 25 20 15 10 5 0 25 20 15 10 5 0 9-3 10-2 0 24 48 72 96 120 144 168 0 24 48 72 96 120 144 168 0 24 48 72 96 120 144 168 時間(h) CO 2 生成量(g )C O2 生成量(g )C O2 生成量(g ) 1-2 9-3 10-2 7 6 5 4 3 2 1 0 0 24 48 72 96 120 144 168 0 24 48 72 96 120 144 168 0 24 48 72 96 120 144 168 7 6 5 4 3 2 1 0 7 6 5 4 3 2 1 0 pH pH pH 時間(h)

(5)

(₁₉)₁₉ なかった。有機酸ごとにみると,コハク酸は酵母 ₁ ︲ ₂ の菓子パンに,リンゴ酸は酵母₁₀ ︲ ₂ の菓子パンに多く 含まれていた。  酵母の有機酸生成は,TCA 回路が酸化的方向に動く ことでコハク酸やリンゴ酸が生成される₁₈)。リンゴ酸は 清酒やパンに与える味として爽やかで好ましい風味を作 り出すことが報告されている₁₉)。高スクロース生地にお いて酵母は高い浸透圧にさらされ,酵母の増殖と発酵が 20%グルコース  30%グルコース  40%グルコース 図 3  酵母が生成するアルコール濃度( 7 日間培養,YM 培地) 0 2 4 6 8 10 12 14 16 1-2 9-3 10-2 アルコール濃度(%) 図 4  30%スクロース添加菓子パン 1-2 9-3 10-2 表 4  30%スクロース添加菓子パンの官能評価 調査項目 酵母 平均順位 標準偏差 Friedman test 多重比較 χ₂ P Scheffe 外観の好ましい順 ₁ ︲ ₂ ₁.₉₄ ₀.₇₇ ₉ ︲ ₃ ₂.₀₀ ₀.₈₉ ₀.₂₅₈ ₀.₈₇₉ ₁₀ ︲ ₂ ₂.₀₆ ₀.₈₁ 香りの好ましい順 ₁ ︲ ₂ ₂.₃₉ ₀.₈₀ ₉ ︲ ₃ ₁.₉₇ ₀.₈₇ ₈.₅₈₁ ₀.₀₁₄ ⎩ ⎜ ⎨ ⎜ ⎧ * ₁₀ ︲ ₂ ₁.₆₅ ₀.₆₁ 甘さの好ましい順 ₁ ︲ ₂ ₁.₉₀ ₀.₈₃ ₉ ︲ ₃ ₂.₀₀ ₀.₈₉ ₀.₅₈₁ ₀.₇₄₈ ₁₀ ︲ ₂ ₂.₁₀ ₀.₈₃ やわらかさ(食感) の好ましい順 ₁ ︲ ₂ ₂.₁₆ ₀.₈₆ ₉ ︲ ₃ ₁.₉₄ ₀.₇₇ ₁.₂₂₆ ₀.₅₄₂ ₁₀ ︲ ₂ ₁.₉₀ ₀.₈₃ 総合的に好ましい順 ₁ ︲ ₂ ₂.₁₉ ₀.₈₇ ₉ ︲ ₃ ₁.₈₁ ₀.₈₃ ₂.₃₂₃ ₀.₃₁₃ ₁₀ ︲ ₂ ₂.₀₀ ₀.₇₃ *p<₀.₀₅

(6)

₂₀(₂₀) 抑制され有機酸の生成量も減少することが予測されたが, 酵母₁₀ ︲ ₂ で試作した菓子パンはリンゴ酸量が他の菓子 パンに比べて顕著であった。官能評価の結果,酵母₁₀ ︲ ₂ の香りが有意に好まれたのは,菓子パンに含まれる有 機酸とともに香気成分が関与している可能性が示唆され た。 2 )菓子パン中の遊離アミノ酸含量  遊離アミノ酸総量は,酵母 ₉ ︲ ₃ ,酵母 ₁ ︲ ₂ ,酵母₁₀ ︲ ₂ の菓子パンの順に多かったが,酵母 ₉ ︲ ₃ の菓子パン のグルタミン酸が他の菓子パンに比べ多く検出された (表 ₅ )。  遊離アミノ酸は,パンの香ばしさやうま味に影響を与 えると考えられており,グルタミン酸,アラニン,プロ リンは甘味やうま味などの好ましい味を呈する₁₁,₂₀)。今 回の実験で,グルタミン酸が多く含まれていた酵母 ₉ ︲ ₃ の菓子パンの遊離アミノ酸に着目したところ,グルタミ ン酸,アラニンおよびプロリンはそれぞれ₆₇.₉ mg/₁₀₀ g, ₇.₆ mg/₁₀₀ g と₀.₁ mg/₁₀₀ g であった(表 ₅ )。グルタ ミン酸の閾値が ₅ mg/dL,アラニンとプロリンがそれ ぞれ₆₀ mg/dL と₃₀₀ mg/dL である₂₀)ことから,酵母 ₉ ︲ ₃ の菓子パンに含まれるグルタミン酸は,他の菓子パン に比べてうま味に寄与していることが示唆された。  パンは食生活には欠かせない発酵食品のひとつである。 さまざまな環境から見いだされた微生物を利用して,地 域の特性を生かした香りや風味をもつパンの開発が可能 となる。本研究では,スクロースにおける高糖生地の発 酵特性について ₃ 種類の野生酵母を比較したが,市販の ドライイーストとの比較も必要であると考えている。ま た,パンのおいしさには焼成後の匂いが関与している。 今後,発酵過程で酵母が生成する香気成分の解析につい ても検討したい。

4 .要  約

 高糖生地において発酵に適したパン酵母の探索を目的 として,果実と土壌から分離した ₃ 種類の野生酵母 (Saccharomyces cerevisiae)の発酵試験を行った。グル コース濃度を₂₀~₄₀%に調製した培地での発酵試験の結 果, ₃ 種類ともに₃₀%,₄₀%,₂₀%の順に CO₂発生量 が多かった。グルコース濃度₄₀%培地において ₃ 種類の 酵母を比較すると,果実の葉から分離された酵母₁₀ ︲ ₂ 表 5  30%スクロース添加菓子パンの遊離アミノ酸組成 (mg/100g) ₁ ︲ ₂ ₉ ︲ ₃ ₁₀ ︲ ₂ Asp ₄₂.₇ ₃₈.₁ ₂₅.₁ Thr ₂₁.₇ ₂₉.₄ ₂₇.₇ Ser ₇.₉ ₁₆.₄ ₁₂.₂ Glu ₅₉.₁ ₆₇.₉ ₅₈.₄ Pro ₀.₂ ₀.₁ ₀.₂ Gly ₇.₂ ₆.₁ ₈.₄ Ala ₂₁.₅ ₇.₆ ₁₄.₇ Val ₄₈.₅ ₆₃.₄ ₃₉.₅ Cys ₃₄.₆ ₃₈.₂ ₄₁.₄ Met ₃₆.₆ ₄₀.₆ ₃₆.₄ Ile ― ― ― Leu ₂₄.₆ ₂₅.₉ ₂₄.₇ Tyr ₈.₀ ₅.₆ ₅.₀ Phe ₁₇.₆ ₁₇.₃ ₉.₄ GABA ₂₄.₀ ₂₄.₈ ₂₄.₂ Trp ₁₁.₀ ₄.₂ ₁₁.₁ NH₃ ₂₆.₀ ₂₇.₁ ₂₉.₃ Orn ₁.₅ ₁.₀ ₁.₉ Lys ₁.₉ ₁.₀ ₁.₅ His ₁.₀ ₁.₆ ₁.₈ Arg ₉.₂ ₄.₉ ₇.₃ Total ₄₀₄.₈ ₄₂₁.₂ ₃₈₀.₂ 図 5  30%スクロース添加菓子パンの有機酸量 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 1-2 9-3 10-2 有機酸量(mg/g) ク エ ン 酸 フ マ ル 酸 リ ン ゴ 酸 コ ハ ク 酸 乳 酸 ギ酸 酢酸 ピロ グ ル   タ ミ ン 酸 吉 草 酸

(7)

(₂₁)₂₁ の CO₂発生量がわずかながら高値を示した。アルコー ル生成能が最も高かったのは果実から分離された酵母 ₉ ︲ ₃ であった。  菓子パンに多く用いられている₃₀%スクロースを加え た菓子パンを作成し官能評価を行った結果,酵母₁₀ ︲ ₂ の菓子パンの香りが有意に好まれた。これらの結果から, 果実の葉から分離された酵母₁₀ ︲ ₂ が,高糖生地に適し ていることが示唆された。

謝  辞

 本研究の実験にご協力下さいました,山田裕美子さん (野田鎌田学園)に深く感謝申し上げます。 文  献

₁ ) Manwar, J., Mahadik, K., Paradkar, A., Sathiyanarayanan, L., Vohra, M., Patil, S. :Isolation, biochemical and genetic characterizations of alchol-producing yeasts from the flowers of Woodfordia fruticose. J. Young. Pharm., 5 , ₁₉₁-₁₉₄ (₂₀₁₃) ₂ ) Tokashiki, T., Yamamoto, H., Watanabe, H., Nakajima, R.,

Shima, J.: A functional compound contained in sugar cane molasses enhances the fermentation ability of bakerʼs yeast in high-sugar dough. J. Gen. Appl. Microbiol., 57, ₃₀₃-₃₀₇ (₂₀₁₁) ₃ ) 田村學造,野白喜久雄,秋山裕一,小泉武夫:酵母から のチャレンジ「応用酵母学」,技報堂出版,p.₃₂︲₃₉(₁₉₉₇) ₄ ) 土佐典照,野津智子,秋吉渚月,大渡康夫,上池貴晃, 近重克幸,永田善明:島根県産きぬむすめの米粉と世界遺 産石見銀山の梅花から単離された酵母の米粉パン製造特性, 日本食品科学工学会誌,62,₂₅₀︲₂₅₆(₂₀₁₅) ₅ ) 間瀬雅子,瀬見井純,幅靖志:花卉などから分離した Saccharomyces cerevisiaeの製パン適性評価,あいち産業科 学技術総合センター研究報告, 2 ,₇₂︲₇₅(₂₀₁₄) ₆ ) 八木葉奈子,福山紗英子,黒川正道:青果物から分離し た「天然酵母」の製パン試験,化学と生物,51,₁₂₉︲₁₃₁(₂₀₁₃) ₇ ) 総務省統計局:平成₂₆年家計調査  ₁ 世帯あたり年間の 品目別支出金額(₂₀₁₅) ₈ ) 日本パン工業会:パンの生産動向 平成₂₆年 パンの生 産数量(₂₀₁₅) ₉ ) 福永千文,島純:パン生地における発酵特性及び冷凍耐 性に対するトレハロースの機能評価,食総研報,67, ₁ ︲ ₈ (₂₀₀₃) ₁₀) 上島寛之,山田裕美子,奥村莉奈,櫻井美果,植木幸英, 小松崎典子:高ショ糖生地に適した酵母の探索と製パン利 用,日本食生活学会第₄₉回大会講演要旨集,p.₂₅(₂₀₁₄) ₁₁) 藤本章人,井藤隆之,井村聡明:伝統的パン種のおいし さと微生物の関わりについて,生物工学,90,₃₂₉︲₃₃₄(₂₀₁₂) ₁₂) 中里厚実,村清司:食品科学のための基礎微生物学実験  浮ひょう法によるアルコールの定量,建帛社,p.₉₃︲₉₄ (₂₀₁₀)

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参照

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