ル
著者
伊崎 義憲
著者別名
Izaki Yoshinori
雑誌名
経営論集
巻
26
ページ
1-25
発行年
1986-02-25
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00005781/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja〈言 語 ゲ ー ムとし て の会 計〉 と会 計 行 動 の ル ール
伊
埼
義
憲
[1] は じ め に
会計とい う社会現象はい うまでもなく人間の行動と密接な関係がある。 と
はいえ伝統的会計学においては,会計の人間的ないし その行動的側面につい
て配慮されていた とは言い難い。 本稿はこのような背景のもとで, 会計行動
の一環とし て会計を把握するため ウィトゲンシ ュタ インの言語ゲーム, ハー
トのルール分祈,それにJ.L.
オースティンの言語行為との接触を試みたも
のである。
「1955年以降, 会計の基本的性質,意味,および機能に関し て多く の問題
が提起されてきたが, どれひ とつとし て十分に解 決されたものはない。現在
の会計思考が混乱し ているとい うだけでは十分でない。し かし ながら,この
ことは,会計が古来の技術ではあるが,科学的研究分野とし て脱皮しつつあ
るとい う意味では健全な徴候であ る1)
」 と主張するO.V-f。 ユーに賛意を表し
たい。
[2] 会 計の 定義
会計 とい うコ トバはわ か りき ってい るようであ るが, 多 義的 でわ か りに く
いので 検討を 加え てお くこ とにし よ う。 まず, 会計用 語公 報は, 会 計を 「財
務的な 性格を 少な く とも部分的 に もってい る取 引お よび事 象を, 意 義 のあ る
方法を用い, かつ貨 幣額 に よって, 記録 ・分類 ・要 約す る とと もに, そ の結
果を解釈 す る技 術で あ る2)
」 と定 義し てい る。 この定 義に ょれ ば, 会計 は技
術懲あ る。 会 計 が技 術的 側面を もってい ることは否 め ない。し かし 技 術 とは
いって も, 人間 的ないし 行動的 側面を 見逃す こ とはで き ない。 会計 用 語公報
の定義は こ のよ うな 要請を 満たし てい ない。
ASOBAT
は 「 会計を ,情報 の利用者 が事 情に精 通し て 判断や意思 決定を
行 な うこ とができ るように, 経済 的情報を 識別し , 測定し , 伝達す るプ=j セ
スで あ る3)
」 と定 義し てい る。 こ の定義 におい ては, 人 間的ないし 行動的側
面 も対象 に なってい る。し かし そ れは 情報 の利用 者に偏 ってい て, 送 り手に
は 焦点 が合わさ れてい ない。 送 り手を も視 野に 入れ た定 義 とし ては
。
−の
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ・ ●.・● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 「 会 計 は , 人 間 と 人 間 に よ る 稀 少 資 源 の 所 有 お よ び 利 用 と の 相 互 作 用 に か か−w =wwww
−== =
わ る全環 境 の諸側面 の測定お よび伝達 に関 す る研 究 分野4)
」だ と す る考 え方
があ る。 こ の定義にお い ては, たし か に送 り手 の人 間的 ないし 行動的 側面 も
あ る程度 は対象に なっ てい るが, 後述 す る観点 か らす る と必 ずし も十 分とは
いえ ない。
’I
鍼
っこの3 つ の定 義を並 べた
場 合に気 がつ くこ とは, いず れ も会計(accounting
)
とい う被定 義項 に対し て√「技 術」(art),「プ ロセ ス」
(process
),あ るいは「研
究 分野 」(discipline
)を定義 項 とし てい ることであ る。技 術 とプ ロセ スは研究
対 象 とい って よい。 だ が研 究対象 と研 究分 野 とは厳 密に 区別し なけ ればなら
な い5)。 青 柳 教授ぱ
会 計” に 相当 す るコ トバとし て ①accountancy, ②ac
‘counting,
③accounts, の3 つを 区別 され てい る。 ①は会 計 の知 的 分野,②は
会計 行動 , そし て③ は会計行動 の所 産 とし て の勘定 の集 合 であ る6)
。 ①の知
的 分 野は プ ロフ4 ツシ ョソ とし て の技 術を も含み 研 究分 野 よりも広 い。 ②の
会 計行 動 はプ ロセ スに見 合 う。 ③は会 計 附報 に 相当 する。 後述す る よ うに,
〈記 号ないし 言語 とし て の会 計〉(以下〈会計〉と表現する)といっ て も よ い。
この よ うに会計 とい うコ トバは多 義的 であ るか ら会 計 の定義 にお い ても,十
分に注 意し てお か なけ れば ならな い。
さ らに また, 定義 とはそ もそも何 な のか とい うこ とも問題 とな る。定 義に
は, 既 に用い られ てい るター ムの一 般 に認め られ てい る意味を記 述す る記述
的定 義 と,一 定 のタ ームに 規約に よっ て特定 の意 味を 割 り当 てる規約的定義
があ る。 記 述的定 義はあ るコトバ の現実 の使い 方を 述べ てい るのであ るか ら
真 ・偽を 問 うこ とがで き る。し た が って真理 値を もった事 実 命題 とし て提示
さ れ る。 これに対 し て規 約的定義 は, あ る コトバを 特定 の意 味で使 う犬
ことに
し よ うと提案し てい るのであ るか ら, もち ろ ん真理値 は 与え られ ない。 さ き
に あげ た会 計 の定 義は, いずれ も規 約的定 義 であ るか ら 真理 値は もっ ていな
い。 し た がっ て, あ る定 義 が正し く, 他 の定義 は誤 っ てい るとい うこ とは で
きな い。 そ のた め,
ただ 言え る ことは,
抄 であ る7)。
〈言語ゲームとしての会計〉と会計行動のルール3 立 場 の 相 違 に応 じ て 複 数 の定 義 が 成 立 す る こ と にな る。 特 定 の観 点 か ら み て ど の定 義 が 望 まし い か とい う こ とだで は, 会 計 の人 間的 ないし 行動的 側面を 明ら かにし てい くために はいか な
る定 義(規約的定義) が望 まし い のであろ うか。 この 観点 からする と,「会 計
とは, 実 体 の管 理 と運 営 のため, なら びに 受託 責任お よびそ の他 の責任を 履
行す るため に提 出すべ き報告 書の作成 のため に必 要な, 財務的 な性格を 少 な
くと も部 分的 に もってい る取引お よび事 象に つい て の 信頼 で き, かつ意義 の
あ る情 報を 体 系的 に把 握 ・確認 ・記 録 ・分類 ・処 理 ・要 約・分 析・解釈・伝
達す るこ とに 関す る知識体 系お よび機 能をい う8)
」 と い っ た グレ イデ ィの定
義が, 煩瓊な 手続 きを く どぐ列挙し す ぎるきらい はあ る が, 会計責 任に焦点
を合 わせ,し か もそ の履行 におい て提 出すべ き報 告 書 すなわ ち〈 会計〉 が取
り上げ ら れてい る点 は,い もお う評価 で きる。し かし , 定 義 項 とし て「知 識
体系」 と「機 能」を 並列的 にあげ てい るこ とは納得 で きない。 前 者は「知 的
分野j で あり,後 者 は「研 究対 象」 に はい る。 それ以 上 に,〈会計〉 と会 計
行動 が区別 され てい ない ところに根 本的 な欠陥 がある。 次 にこ の点を 掘り下
げ てい くこ とにし よ う。
・
。 犬
[3] 〈会計〉 と 会計行動
し
\ASOBAC
に よれば, 会 計情報 が受け手 (利用者)に 伝達 さ れ る過 程を図1
で示し てい る。 こ の 図を利 用し て,〈会 計〉 と
会計行 動 の関係を 明ら か に し て い く ことに す
る9)o
一
図1 は,「主 題 (経済事象および経済活動)
」 が
「作成 者/ 源泉」 に イン プ ッ トされ, これに応
じ て「会 計報告書 (経済的情報)」φ; 「会 計 附報
利用 者」に ア ウトプ ッ トさ れ ることを 示し てい
る。 インプ ットされ る「主題 (経済事象および経
済活動)
」 は会 計用 語公報 の 「取引 お よび事 象」
あるい は ユ ーCD 「全環境 の諸側面 」 に等し い
図1 ( 以下単に 経済事象と表現する)。 一 方 , ア ウ ト プ(ASOBAC,p.9, 訳.18 頁)ツトさ れ てい るめは
「会 計報 告書(経済的情報)
」 であ るが, こ こ で 「経 済的
情報」 は 会計隋報 といっ て よい。「会 計報告 書」はそ の メデ ィアで あ る。 ま
た「作 成者/ 源泉」は そ の送 り手 であ り,「会計 冑報利 用 者」 はそ の受け手 で
あ る。ASOBAC
は ∧ASOBAT
の会 計 隋報を 基礎 にし な がら, かか る会 計 盾
報を 作 り出すシ ステ ムや プ ロセ ス, お よびそ の伝 達過 程に 焦点 を 合わ せてい
乙 の で,「会 計 尉報利 用 者」 も 「社 会 の種 々様 々な利 害関 係者 」 が予定 され
てい る10)
レ もちろ ん 「T
作 成者 /源 泉」 もそれに応じ た次元 七考 え られ てい る。
し かし , 会計 の人間 的な いし 行 動的 側面を取 り上げ るた めに は,受 け手 の
「会 計 附報利 用者」 を 「社 会 の種 々様 々な利 害関係者」 だけ で な く企業 組織
内部 の成員に まで 広げ て考 察す るこ とが必要 とな る。 これ に応じ て送 り手 の
「作 成者 /源泉」 も経営 者だ け でな く従業 員を も含めなけ ればなら ない。 本
稿 では これを 〈会 計担当 者〉 と表 現す る。 また,「会計報 告書(経済的情報)
」
は組 織内部 の伝 票類 まで を含 め るた め前述 のよ うに 〈会 計〉 と名づ け る。 か
<て< 会計担当 者〉 は 経済事 象を インプ ットさ れ, これに 応じ て 〈会計〉を
そ の受け 手に ア ウトプ ッ トし てい る ので 〈行動〉 をし てい る11)
。 これ が会 計
行 動 であ る。 こ の概 念を 導入 す るこ とに よっ て,会 計用語 公報 の「記 録」「分
類 」
「要 約」
,ASOBAT
の「識 別」「測定 」「伝達」
, そ れに グレ イデ ィの「把
握 」「確認」「記録」「分類 」「処 理」「要 約」「伝達」 とい った手 続 きを 列挙す
る必要 がな くな る。
会計 行動は 〈行動〉 ではあ るが, 単な る行動 とは異な る。 どこが違 うか と
いえ ば, まず第1 に, ア ウトプ ットが〈会計〉 であ るこ と, 第2 に , 行動(7>
主 体 が〈会計担当 者〉 だ とい うこ とであ る。 この2 つ は, 互い に関 連し てい
る。 まず最初 の方 から述 べ る。〈会 計〉 は 「言語ないし 記 号」 であ るか ら,
会計行動 は言 語行動 また は記 号行動 とい うことに な る。 言 語行動や 記 号行動
の特 色は, そ のア ウトプ ットが言 語ないし 記 号だ とい う と とろ にあ る。 すな
わ ち言語 ないし 記 号を媒 介 とす る行動 であ る(言語と記号については後述する)
。
だ が,〈会計〉 が言語 ないし 記 号だ といっ て 乱
言語な いし 記号 と の種 差を
明らか にし なけ れば概 念規 定 とし て十 分ではない。 そ の種差 は どこにあ るか
といえ ば, 会 計担当 者に よっ て, そ の〈役割〉を表 現す るた めに使 わ れてい
るところ にあ る。
そ こで会 計担当 者 とい う概 念 が重要 にな る。 例えば,lあ る会社 の社長 とい
個 人A 個 人B 個 人C 社 長 と して の役 割a 〈 言 語 ゲ ー ム とし て の 会 計 〉 と 会 計 行 動 の ル ー ル5 業 の に 同 体 と 者 団 町 内 会 役 員 父 親 理 事 の役 割 とし て の役割 とし て の役割bCd 〈役割 とし ての会 計責 任〉 図2 『ニュ ーカ ムほかr 社会 心理学J374 頁 の図を 修正し て作成し た)
うポ スト(社会学では〈地位〉とよばれる)につ い てい る人 物を 考 えてみ る。 彼
拡 トップ ・マ ネジ メン トとし て の< 役 割〉を 遂 行し てい る昿
そ の一 環とし
て株主 に対す る会 計責任 の履行 が含 まれ る。 役割を 遂 行す るには, それ にふ
さわし い 地位につ い てい なけ れば なら ない。 逆に, 役 割は特定 の地位につ い
てい る人 に期待 され る行動 の パ ターン であ る。 そ こで 個人 と役 割 の関 係を 示
し だ の が図2 であ る。
図2 は特定 の個人 の行 動 が〈役割〉 に よって規 制 され ると ともに, 個人的
要因 に よっても変容 す るこ とを示し てい る。 まず,ヨ コに見 てい く とA,B,C
とい う各 個人 は, 社長, 同業 者 の団体 の理市, 町内 会 の役員, そし て家庭 に
おい ては 父親, とし て行 動す る。 もちろ んA,B,C
とい う個人差 はある が,a,b,c,d
とい う類 型的 な行動 パタ ーンを とる。 この行 動 パタ ーン が〈役割〉
であ る。 また, タ テに見 て み よ う。a,b,c,d
とい う各役割 は,A,B,C
とい
う個人 に よって遂 行され てい るが, 同一 のa とい う役 割 であ っ て 乱
それを
遂行す るに際し て はバ リエ ーシ ョン が生じ る。 これ がA,B,C
の行動 パター
ンの個人 差 とな って現れ て くる ので あ る。 例え ば,A
とい う個人 が社長 とし
ての役割a を 遂 行す る場 合に は, そ の行動 はAa
で表 さ れ る。 同じ 役割 尽を
別の個人B が遂行 す ると,Ba
とい うこ とにな る。Aa
とBa
は 同じ 役割O
遂 行 で あ る力;,A とB ごと の 個 人 差 が あ る。 同 様 に , 同 一 の 個 人A の 行 動 で あ ■yr − , つ て 乱Aa とAb ぱ 別 の 役 割 で あ る12)。= ・・ 本 稿 で主 張し てい る 〈 会 計 担 当 者〉 とい う考 え 方 は , こり 図2 を も と に説 明 す る と 理 解し 易 い 。 た だ , 図2 七 は 〈地 位 〉 が 表 面 にj現 れ て い な い の で, こ の 点 を 補 い なが ら 説 明し てい く こ と に す る。 例 え ば , あ る 個 人 が 社 長 の 地 位 に つ く と, そ れ に 伴 っ た 役 割 が生 まれ る (図2 の第1 列におけ る タテの見地は これを 表し てい る)。 会 計 責 任 の履 行 は そ の一 部 を なし て い る。 社長 で は な く 人 事 課 長 で あ っ て も, あ るい は 営 業 担 当 の一 課 員 で あ っ て も, そ の役 割を 遂 行し て い く に 際 し て 会 計 責 任 の履 行 とい う行 動 パ タ ー ン を 含 ん で い る こ とか 考 え ら れ る。 ふ つ う 人 事 課 長 としヽえ ば , 会 計 責 任 と は 全 く無 縁 の よ うに 考 え ら れ る が , 人 事 関 係 の 費 用 の 支 出 に 伴 っ て伝 票 を 切 る よ うな 場 合 に は , 会 計 責 任 を 履 行し て い る と 見 る こ と が で き るり で。 あ な が ち 会 計 責 任 と関 わ りが な い と は い え な い 。 し か も, 会 計 責 任 の履 行 は 類 似 の 行 動 パ タ ーン を なし て い る の で 役 割 に 準じ て取 り扱 う こ と が で き る。 こ れを< 役 割 とし て の 会 計 責 任 〉 と よび , また , こ の 〈役 割 とし て の 会 計 責 任〉 を 履 行 す る 人 は, そ の占 め る〈地 位 〉 に 拘 わ ら ず 〈会 計 担 当 者 〉 と よぶ こ とに す る。 し た が っ て,< 会 計 担 当 者 〉 は 地 位 で は な い が, 会 計 行 動 の主 体 とし て 地 位 に 準 じ て 取 り扱 う。 こ の よ うな 観 点 か ら す る と, 会 計 行 動 と は,〈会 計 担 当 者 〉 が< 役 割 とし て の 会 計 責 任 〉 を 履 行 す る た め に 〈会 計 〉 を ア ウ ト プ ッ ト す る 行 動 とい うこ とに な る。 し た が っ て ま た ,〈会 計〉 と は< 会 計 担 当 者〉 の く役 割 とし て り 会 計 責 任 〉 を 表 現 す る 言 語 な いし 記 号 とい うこ と に な る 。 こ の よ うに 会 計責 任 を 重 視す る見 解 は 井 尻 教 授 に も 見 る こ と が で き る。 だ が< 役 割 とし て の 会 計責 任 〉 と い う考 え方 と は 食 い 違 うと ころ が あ る。 ・ 。 /’・1 井 尻 教授 は 会 計 の 目的 を 経 済 的 意 思 決 定 に 役 立 つ 情 報 を 提 供 す る こ と に 求 め る 意 思 決 定 説 を ,「意 思 決 定 者 と会 計 人 と い う2 つ の 当 事 者 だ け し か 認 め な い 」 とい っ て 否 定し ,「会 計 責 任 の 履 行 者 (accountor),そ の 受 益 者(accoun-tee), な ら び に 会 計 人 (accountant) の3 つ の 当 事 者 を そ の 理 論 の 焦 点 に お く 」 会 計 責 任 説 を 提 唱し て い る13)。 こ の見 解 に お い て, 会 計 責 任 の履 行 者 は< 会 計 〉 の送 り手 に 相 当 し , 会 計 責 任 の受 益 者 は 〈会 計 〉 の 受 け 手 に当 た る の で 問 題 は な い が, 疑 問 点 儒 会 計 人 に あ る。「会 計 人 は 第 三 者 とし て こ の会 計責 任 関 係 に 介 入し , 履 行 者 と 受 益 者 と の 間 の会 計責 任 の発 生 か ら 消滅 ま で ス希
〈言語ゲームとしての会計〉と会計行動のルール7 − ズに 進 行 す る よ うに 努 め る14)」 と述 べ て い る が , は たし て そ の よ うな 「会 計 人 」 が現 実 に 存 在 す る の で あ ろ うか。「会 計人 と はレ 実 際 の 会 計 担 当 者 の み な ら ず, レ監 査 人 や , さ ら に 会 計 原 則 を 設 定 す る 権 限 を もつ 機 関 な ど も ふ く め て 総 称し た も の15)」 とい わ れ る が, か か る 「会 計 人 」 に ( 科 学 に おけ る研 究者 と同 様16)」 な 役 割 を 期 待 す る の は 無 理 で は な かろ うか 。 こ こで ウ ィト ゲン シ ュ タ イ-yl7)は 「哲 学 は, い か な るし か た に せ よ。 言 語 の実 際 の使 用 に 抵 触し て は な ら ない 。 そ れ ゆ え , 哲 学 は , 最 終 的 に は, 言 語 の使 用 を 記 述 で き る だけ で あ る。 … … そ れ は す べ て の も のを , そ の あ る が ま まにし てお く 」(ⅦI,§124 ) とい っ て い る が, 哲 学 を 会 計学 に, そ し て 言 語 を 〈会 計〉 に 代 え れ ば , そ の ま ま会 計 学 に 対 す る 警 句 と な り 得 る よ うで あ る。 次に か か る立 場 か ら, 会 計 行 動 と言 語 ゲ ー ム と の関 係 に つ い て検 討 を 加え て い く こ と に す る。 し
[4 ] 会 計行動と 言語 ゲー ム
会計行動 は 〈会計〉を ア ウトプ ットす る行動で あ る。〈会 計〉 を ア ウトプ
ットす る とい うこ とを 具 体的にい えば, 財務諸表 の場 合に は作成 であ り, 伝
票 の場 合には 起票で ある。 財務諸表 の作成や 伝 票 の起 票は 言語行 動とい ケ見
地からす ると発言に 相当 す る。 そこ で, 会計 行動を この 見地 か ら見 直し てみ
よう。
財務諸表は 「 財政 状態 及び経 営成 績」を表 示し , 伝 票 は取引を 告 示し てい
る。 これは鳥 居 が神社を 告示し , 交 通信号 が「 ゴー」 や 「 スト ップ」を 指示
し てい るのに 等し い。 これ らはあ るか くれ た事 態を 指 示 (表示や告示も指示に。
統一する)し てい るので 記 号であ る18)
。〈会 計〉が記 号 だ とい うのは この意味
であ る。 ところ が,〈会計〉 は言 語 と見 る見方 も あ る。 そ もそ も言語は記 号
の一 種であ る。「そ の特徴 は意義 の単位 と し て の単 語 があ って, それ が一 定
の/
結合法則に 従 って 結合さ れ, 以 て思 考作 用を 推進 す るこ とに あ る19)」
。く会
計〉 はかか る特 徴を もってい る ので 言語 とい っても よい。 し かし 記 号と見た
方 が スッキ リす る側面 も無 視で きない ので, 本稿で は,し い て’
両 者の区 別は
せず,文 脈に 応じ て使い 分げをし てい くこ とに する。
十
記号 はあ る事態を 指示 す る(以下,事態を指示対象とよぶ)が,十それは実物 の
単な る代 わ り とし てで は な い。 記 号 が指示対 象 の代 わ りにな り得 るた めに
は, 記 号 が指示 対象 と一 体とな り, そ の全 体 の一 部 分に なって い る ことが必
要であ る。 鳥 居が 神社 の一 部であ るか ら こそ全 体 とし て の神社を 指示す るこ
とがで きる よ うに, 伝票も取 引 の一 部で あ るから こそ全 体 とし て の取引を指
示 す るこ とがで きる のであ る。 か く て, 伝 票を見 る こと に よっ て取引を了解
す る。 同 様に, 財務諸表を 見 ることに よって 「財政状態 及 び経営 成績」 が了
解さ れ る。 こ の よ うに, 記号 から全 体 の事態を了 解 す るため には, 記号と指
示 対 象 との関係 につい てコンベ ンシ ョン, す なわち ルー ル が確立し ていなけ
れ ば なら ない。 もちろ ん,
〈会 計〉とその 指示対 象を 規制 す るル ール がGAAP
であ る。 また, 記 号から指示 対象を了 解 す るために は全 体を 見なけ れば なら
ないり であ るが, 全 体とは記 号を 使 用し てい く場で あり , ウィト ゲンシ ュタ
イン が「1 つ の言 語を 想 像す るとい うこ とは,1
つ の生 活 様式を 想像 するこ
とに ほか ならない」(vnl
,§19) とい う場 合の 「生活 様式 」に当 た る。 こ こに
彼 の 言語 ゲー ムと の出会い が始 ま る。
ウ ィト ゲンシ ュタ インは論 理実証主 義 の魁 とな っ た 『 論理 哲学 論 考』,お
よび 日常 言語学 派 とよばれ る哲学 の先駆 と なった 『哲学 探究 』に よって代表
され る2 つ のタ イプの哲学を 展開し た。 こ の2 つ の哲学 はそれぞ れ前期,後
期 と よんで区 別され る。 前 期の ウ ィト ゲン シ ュタ インは 「命題にお い て適用
され る単 純記号」を 名 と よび(I ,3・202),かつ 「名は対 象を 意味す る」(I ,3
・203)とい っ て, 語 の指 示対象を 意 味 と す る(写 像の 理論20)
」を主 張し て
い た。「 財務諸表 に 対す る意見 の表 明 は, 財務諸 表 が企業 の財政状態及 び経
営 成 績を 適正に表 示し てい るか ど うかに つい て なさ なけ れば なら ない」 とし
た監 査基 準 ・報 告基 準二 の基 礎にあ る適正表 示 の理論 は, まさ にこ の「写像
の理 論」 の典型 的 な現れで あ る。 この理論 に よ れ ば,< 会計〉 の意味は経 済
事 象 とい うこ とにな る。
この 考え 方は, 新聞 が自動 車事故 の発 生 と場 所を 図面 と地 図を用い て説 明
し てい ることに ヒン トを 得 たとい われ る。 そ の結果,「地 図は 命題 と同 様に
現 実 にお こった 事態 の論 理構造を 写 像し てい る」 と 考 え た。 この関係 はま
たレ レ コード と楽 譜 の関係 に も認 め るこ とがで きる。 す なわち 意味を 意 味論
的 意 味だ と考え てい た。 後 期にな る と, スラッ フ ァーとい う イタ リアの経 済
学 者か ら「指 先で ア ゴの下を 外に向 け て こ す る動 作」( ナポリ人が嫌気や侮辱
の気持を現わす動作)を見 せ ら れ,「 この動 作の論理 構造 は 何か ね」 と尋 ねら
〈言語ゲームとしての会計〉と会計行動のルール9 れた 結果 , 命 題 が そ の指 示 対 象 た る事 態 と 同じ 論 理 構 造 を 指 示 す る と 考え る のは お かし い と気 づ い た21)。 そ こ で 語 用 論 的 意 味 こそ が 意 味 だ と主 張し た の であ る。 彼 の 主 張 を 聞 い て み よ う。 「或 る人 が ,『五 つ の リン ゴ 』 と い う語 が 書 か れ て い る紙 切 れ を も って 食 料品 屋 に 使 い に や ら れ る。 そ の 紙 片 の語 の 意 味 は , 実 際 の場 面 で の そ の語 の 使 い 方 であ る。 通 常 , 我 々 の ま わ り の 事 物 に は 語 で 記 さ れ た 名 札 が つ い て い て, 我 々 の 会 話 で は そ れ に よ っ て事 物を 指 示 す る もの と 想 像し てほし い。 … … [こ うい う 状 況 で は ] 名 札 が 意 味 を 持 つ の は そ れ が 特 定 の使 わ れ 方 を す る 場 合だ け で あ る。[ そ れ な の に ] 事 物 の 名 札 を 見 るだ け で そ れ に 感 銘し て , そ の 名札 が 大 切 に な る の はそ れ を 使 うが た め だ と い う こ とを 忘 れ てし ま う… ・・・。 そ うな る と, 指 差し の動 作 を し て 「 こ れ は・・…・で あ る」(直示定義の定式) とい った 言 葉 を 出 せ ば 何 か を 命 名し た と思 い こむ 」(M ,pp パ123∼124)。 将 棋 の駒 は ル ー ル に 従 っ て使 わ れ て 初 め て 意味 が あ り, 駒 自身 に 意 味 が あ るわ げ で は な い (Ⅷ, §31)。し た が っ て 「 語 が 言 語 の 中 で 一 般 に ど の よ うな 役 割を 果し 七い る か が す で に 明 ら か で あ る場 合に は , 直 示 的 定 義 が 語 の便 用 一 意 味− を 説 明 す る… …。 だ か ら , 誰 か が わ た くし に 色彩 語 を 説 明し よ うと し てい る こ と を 当 のわ た くし が 知 っ てい る場 合に は ,『 これ を 〈セ ピ ア〉とい う』 とい っ た 直 示 的 説 明が , そ の 語 の 理 解 を 助 け て く れ る こ と に な る 」CM , §30) ので あ る。 こ の よ う に し て 「 名詞 が あ れ ば そ れ に 対 応 す る何 も のか を 見 付 け ね ば こ ま ると い う考 え 」(1,p.21 ), す な わ ち 意 味 論 的 意 味 論 を 批 判 し , 語 用 論 的 意 味 論 へ の転 換 を 企 て る。 例え ば ,「建 物 」 とい う科 目 の 意 味 は , 建 物 を 指 さし て 直 示 的 説 明を し た か ら とい っ て 明 ら か に な るわ け で は な い。 伝 票を 起 票 し た り, あ るい は 財 務 諸 表 を 作 成 す る とい っ た 現 実 の会 計 行 動 に お い て 使 用 す る こ と に よ っ て 初 め て, 意 味 を もっ こ とに な る。 科 目 の 指 示 対 象 であ る 建 物 そ の も のは , 意 味 の 担 い 手 で あ っ て 意 味 で は な い (VⅢ,§40 )。 かく て, ウ ィ ト ゲ ン シ ュタ イン は 「 語 の 意 味 と は, 言 語 内 に お け るそ の語 の 使用 で あ る」(悳 §43) と主 張 す る。 そし て ま た ,「『 語 の 意 味 とは , 意 味 の説 明 が 説 明 す る も の で あ る 。』 す な わ ち,『 意 味 』 と い う語 の 使 用 を 理 解し た い の な ら, ひ と が 『 意 味 の 説 明』 と 呼 ん で い る も0 を 調 べ て み よ」(Ⅷ,§560 )と も述 べ て い る。
こ の よ うに コ ト バ の意 味 は モ の 使 用 に あ る とい う ので あ る が , 使 用 とい っ て も 一 回 限 り の 使 用 で は な く , 社会 な い し 組 織 の成 員 に よっ て コ ン ベ ン シ ョ ン とし て 受 容 さ れ てい る 「 ル ー ル に よっ て規 定 さ れ てい な く て は な ら ない 」 (M ,§567)。し かし 「 た っ た 一 度 だ け , た った 一 人 の人 間 があ るル ー ル に 従 っ て い た , な ど と いう こ とは あ り得 な い 。− …・あ るル ール に 従 い , あ る報 告 を なし , あ る命 令 を 与 え , チ ェ スを 一 勝 負 す る の は。 慣 習 (使用, 制度) な の で あ る」 Ⅶ, §199)。 そ し て 「あ る 言 語 を 理 解 す る とい うこ と は , あ る技 術 に 通 暁 す る とい うこ と」( 同上)な の で あ る。 ・I = で は , い か にし て そ の技 術 に 通 暁 す るか 。 簿 記 を 修 得 す る に は ,「頭 で な く 手 で 覚 え ろ 」 と よく 言 わ れ る。 技 術 に 通暁 す る と い う こ と は こ れ と同 様 で。 「 手 で 覚 え る」 とい うこ と に あ た る。「肌 で 感じ る」 とい っ て も よい 。 とに か く 「言 語 を 教 え る と い うこ と は , そ れ を 説 明 す る こ と で は な く て, 訓 練 す る とい う こ と な の で あ る 」( Ⅶ,§5 )。 ウ ィト ゲン シ ュ タ イン は こ の 訓 練 を 直 示 的 教 示 と よ ぶ。「こ の よ うな 語 の 直 示 的 教 示 は , 語 と も の と の間 に 一 つo 連 想 的 結 び つ き を つ く り 出 す 」(vin,§6 )。 例 え ば 売 掛 金 とい え ば ,「 得 意 先 と の 間 の 通 常 の 取 引 に 基 づ い て 発 生し た 営 業 上り 未 収 入 金 」(財務諸表規則取 扱要領第20)を 思い 出 す の が 連 想 的 結 びつ き で あ る が, こ れ は 必 ずし も 表 象 の よ うな 心 的 な も の で は な く 行 動 的 な も の で あ る6 「 そ れ は 一 定 の 教育 を 伴 っ て, はじ め て 可 能 と な る の で あ る」(Ⅷ,§6 ). か か る直 示 的 教 示 とい う訓 練 な いし 教 育 に よ っ て,「 言 語 を 話 す とい うこ と が , 一 つ の活 動 な い し 生 活 様式 の一 部 」 と な る(Vi. §23)。 こ の生 活 様式 は また ,「 言 語 と 言 語 の 織 り 込 ま れ た 諸 活 動 と の総 体 」(§7 )で あ る く言語 ゲ ー ム〉 とい う考 え 方 と結 び つ く。 コ ト バ の 使 用 とし て の 意 味 は か か る 言語 ゲ ー・ム の場 に お い て 考 え ら れ る ので あ る ○ 言 語 が 言 語 ゲ ー ム とし て 把 握 す る こ と が で き る ので あ れ ば ,〈会 計〉 も 言 語 な いし 記 号 で あ る か ら 会 計 行 動 も 言 語 ゲー ム とし て 把 握 す る こ と が で き る。 言 語 ゲ ー ムは 「T言 語 と 言 語 の織 り込 まれ た 諸 活 動 と の 総 体 」 で あ っ た か 仏 工言 語 を 〈 会 計 〉 で 置 き 換 え る と 「〈 会 計 〉と〈 会 計 〉 の 織 り込 ま れ た 諸 活 動 と め 総 体 」 とい う考 え 方 に 行 きつ〈 。 こ れを \〈 言 語 ゲ ー ム とし て の会 計 〉 と よ ぶ こ とに す る。「〈会 計 〉 の 織 り込 ま れ た 諸 活動 」 とい う のは 結局 , 会 計 行 動 に 当 た る の で ,〈 言 語 ゲ ー ム とし て の 会 計〉 に お い て は ,〈会 計 〉 を 会 計
〈言語ゲームとしての会計〉と会計行動のルール11 行動 の一 環 とし て 取 り扱 っ て い く こ とに な る。 し か も,〈 会 計 〉 は 経 済 事 象 の単 な る写 像 で は な く て , 会 計 担 当 者 の 〈役 割 とし て の 会 計 責 任 〉 を 表 現 し , そ の一 部 と な っ て い る。 か く て,〈言 語 ゲT− ム とし て の会 計 〉 に お い で は,〈役 割 とし て の 会 計 責 任〉 を 履 行 す る場 が 言 語 ゲ ー ム の場 に 相 当 す る。 〈言 語 ゲ ー ムとし て め 会 計 〉 に お い て ,〈会 計 〉 は 将 棋 の コ マ に 当 た る (皿, §108)。 コ マ は ル ール に 従 っ て 動 か さ れ る が , こ のル ー ル が 会 計 行 動 か 指 針 で あ るGAAP に 相当 す る。 と こ ろ で ,「規 範 へ の同 調 が 成 員 に よ っ て 受容 さ れ, そ れ が サ ソ クシ ョ ン の裏 づ け を も ち ノ し か もそ れ が 成 員 の パ ー ソ ナ リ テ ィに 内 面 化 さ れ て い る, とい う三 つ の 条 件 を 一 語 にし て あ ら わ すた め に √ わ れ わ れ は そ の 規 範 が制 度 化 さ れ て い る と い う。 制 度 化 さ れ た 規 範 は, し ばし ば √ 単 に 制 度 と 呼 ば れ る22)」。 そ こ で , 制 度 と 言 語 ゲ ー ムと の関 係 に つい て 考 察し て お く。 十 〈 会 計〉 の 意 味は ,〈役 割 とし て の 会 計 責 任 〉 を 履 行 す る場 に お け る 具 体 的 な 使 用 に あ る。 使 用 と い っ て も コ ン ベ ン-y ョ ン とし て 受 容 さ れ てい るル ー ルに 従 うこ と が 要 求 され る。 技 術 に 通 暁 す る よ うに 訓 練 に よ っ て 「た た き こ まれ る」 こ と が 必 要 で あ る。 これ に よ っ て ,〈会 計〉 と そ の指 示 対 象 と の 問 に 連 想 的 結 びっ き が 生 ま れ, 会 計 が 会 計 行 動 め 一 環 と な る。 か く て , 制 度 と言 語 ゲ ー ム の 場 とし て の生 活 様 式 と の 間 に 密 接 な 関 係 が あ る こ と が わ か る23)^ ・。 : 以 上 √ 言 語 ゲ ÷ ムお よび 〈 言 語 ゲ ー ム とし て の 会 計 〉 に つ い て検 討 し て き た が, こ れ を 理 解 す るた め に は , ゲー ム自 身 を 考 察 す る 必 要 が あ る。 ゲ ー ム に は , 碁 ・将 棋 ・相 撲 ・野 球 な ど多 く 四 種 類 があ る が , こ れ ら 各 種 の ゲ ー ム に共 通 す る性 質 は 見 当 ら な い 。 丁 度,「家 族 の 何 人 か は 同じ 鼻を , 他 の何 人 か は 同じ 眉 を , また 他 の何 人 か は 同 じ 歩 き 方 を し てい る。 そ し て こ れ ら の 類 似 性 は ダ ブ ッ て い る」( Ⅵ,p.46) よ う に ,「わ れ わ れ は , 互 に 重 な り合 っ た り, 交 差し 合 っ た りし てい る 複 雑 な 類 似 性 の網 目を 見 , 大 室か な 類 似 性 や こ まか な 類 似 性を 見 て い る の で あ る」(Ⅷ,§66 )。 こ の 類 似 性 は 「家 族 的 類 似 性」(m, §67 ) と よば れ る。 ゲー ム とい う概 念 が 家 族的 類 似 性し か も っ て い な い とい う こ と は , 言い 換 え る と外 延 が な い とい うこ と で あ る。 外 延 が な い と いう こ とは ピ ソ ボ ケ の写 真 のよ うに 輪 郭 がぼ や け てい る とい う こ とで あ る。 輪 郭 がぼ や け た 概 念 な ど
何 の役に も立 たない よ うであ る が, 必 ずし もそ うではな い。 「 どこか こ の辺
に 立っていろ 」( 皿,§71)とい う 文 で も 「言葉に公 共的 な意味を 与え る基
準」(1 ,p.106)が あ れ ば, 意 味を もっ てい る。 この「公 共的 な意味を 与え
る基 準」は 「定 義基準」(M ,p.103) とも よば れる よ う に, コト バ の使 い方
の取 り決めを 通じ て 意味を大 まかに規 定し てい る(1 ,56頁以下)
。そ こ で,
ウ ィト ゲンシ ュタ インは 「外延 の代 りに 『家族』を, 内 包 の代 りに『 基 準』
を , 考えた24)」 のであ る。
とにか く〈言語 ゲ ー ムとし て の会計〉 も含め て, ゲー ムは輪郭 がハ ッキ リ
し ない。 とい うことは, 内 包も 外延 も ない。し か も, こ のこ とは 「数学 にお
け る諸 概念を 別に すれ ば, 多か れ 少か れ,一 般の概 念につい て も言え る こと
であろ う。 そ うだ とす れば, ア リスト テレ ス以 来 の形式 論 理学 の『概 念論』
は, ウ ィト ゲンシ ュタ インに よって完 全 に否定さ れた事 にな る。 概念 には内
包 と外延 があ る, とい う従来 の常識 は, 覆された のであ る25)
」。 この観点 か
ら すれば,〈会計〉 に は内 包 も外延 もない ことにな る。〈会 計〉を< 役割 とし
て の会計 責任〉 を表 現 す る言語 と考え る と,〈役割 とし で の会 計責任〉が内包
の ように 考えら れ るが, これは コト バの約束 とし て大 言かに 決め るた めのも
の であ って 「定 義基 準」 と 見るべ きであ る。
か か る観点に 立ち な がら, と くに ル ールに焦点を 合わ せて議論を 展開し て
い るの があ とで ふれ るハ ートであ る。 彼 が い ってい る よ うに,「わ れわれ が
ル ール と呼んで よい よ うな ものす べて に関し て, そのル ールがたし かに当 て
は ま る明瞭で中心的 な諸 事 例 と, そ のル ール が当ては ま るとも当 ては まらな
い と も言え る理 由のあ る他 の諸事 例 とを 区別 す ることが でき る。お れわ れ が
個 々の状 況を一 般的 ル ール のもとに 入れ よ うと す る と き, 確実な 核心coreofcertainty
と疑わし い 半 影penumbraofdoubt
とい う二重性を 排 除す る
こ とのでき るものは 何もない のであ る。 この ことに よっ てすべ てのル ールは
『曖 昧な 周縁jafringeofvagueness
あ るい は『開 かれた 構造』'opentexture'
を 与 へら れる26)
」
。
ハ ードは もちろ ん法的 ル ールにつ い て述べ でい る ので あ るが, 言語 ゲー ム
ないし〈言語 ゲー ムとし ての 会計〉 に おけ るル ール,し た がっ てGAAP
につ
い て も, 同じ こ とがい え る。APB
やFASB
の苦 闘か ら も覗 え る よ う に,GAAP
〈言語ゲームとしての会計〉と会計行動のルール13 が会 計 責 任を 表 現 す る に 際し て 準 拠 す べ き 明 確 な ル ー ル も存 在し な い 。 た だ 定 義 基 準 に よ っ て 「曖 昧 な 周 縁 」 を 形 成し てい るに す ぎ な い 。〈会 計 〉 の よ うな 「開 か れ た 構 造 」 を も っ た 「概 念 に つ い て は , そ れ に 入 る こ と が 確 実 な 事 例 と 入 るか ど う か が 確定 的 で な い 事 例 と があ る。 こ の事 実 は , こ の種 の 概 念に そ くし て い え ば , そ れ が 意 味 の確 定し た 部 分 (核 心部) と意 味 の 不 確 定 ないし 未 確 定 の 部 分 (周縁部) と か らな る も の で あ る こ とを おし え る。 こ の 周 縁 部 に 入 る 事 例 に つ い て は , ひ と に よっ て 異 な る解 答 が 出 る可 能 性 が 大 い に あ る27)」。 〈役 割 とし て の 会 計 責 任〉 は 〈会 計〉 の定 義 基 準 と し て ,〈会 計 〉 と い わ れ る も のを 大 ま か に 示 し てい る。 た だ , そ れ は 核 心 部 に お い て で あ っ て , 周 縁 に い く に 従 っ て 次 第 に そ の 程 度 は 少な くな り, 遂 に は 全 く そ の 影 響 が な く なっ てし ま う。 こ の 関 係 は 丁 度 √ 川 と 海 の境 目が ハ ッ キ リ し な い の に 等し い。 海 か ら 川 に 入 る 場 合レ 海 水 と川 の 水 を 分け る隔 壁 があ るわ け で は な く, いつ の 間 に か 塩 水 が 真 水 に 変 わ っ てし ま う。 こ の場 合 , 塩 分 が 海 水 の定 義 基 準で あ る。 こ れ が< 役 割 とし て の会 計 責 任 〉 に 当 た る。
[5] 会 計行動とルール
言語ゲームにおい ては,ル ールに従 うとい うことが重要な要素となってい
る。 またルールは「制度化された規範」すなわち制度 と密接に関係し てい る
ので,会計行動の研究にとって, とくに重要であ る。 この延長線上におい て
当然,GAAP
が視野に入ってくる。そこで, ウ ィ ト ゲンシ ュタ インの影響
のもとに「法の概念」をルールとい う観点から解明し たハートの見解を取り
上げ,この観点から会計行動につい て再検討を試みることにする28)
。
法的ルールに対するハートの主張の基本的構想は, ①ルールに対し て内的
視点と外的視点を区別すること,および, ②第一次的 ルールと第二次的ルニ
ルを用いること√の2 つに基づい ている。 まず,①の方から取り上げ よう。
内的視点とは,行動の指針とし てル ールを受容し ,かつ実際にそれを用いて
いる人の視点 である。一方,外的視点とは,自分では全 くルールにコミットし
ない単なる観察者のとる視点であ る。内的視点を表現 する言明を内的陳述と
よび,外的視点を表現する言明を外的陳述とよぶ。外的視点には,観察者自
身はルールを受容し ないで,集団がそれを受容してい ることを述べ,かつ集
団 の 成 員 が 内 的 視 点 か ら ル ー ル に 関 わ っ て い る仕 方 に つ い て 外 側 か ら 言及 す る 立 場 と , 集 団 の 内 的 視 点 に は 外 側 か ら さ え も 全 く 言 及 し な い 観 察 者 の立 場 と が あ る。 後 者 の立 場 に お け る 観 察 者 は , 成 員 が ル ール に 従 っ て 行 動 す る場 合 に お け る, そ の観 察 可 能 な 規 則 性, お よ びル ー ル か ら の逸 脱 に 対し て 加え ら れ る サ ソ クシ ョ ン の規 則 性 を 記 録し , こ の 規 則 性 を も とにし て 逸 脱 と サソ ク シ ョ ン を 関 連 づ け , 逸 脱 に 対 す る サ ン ク シ ョ ン を 予 測 す る の み で あ る<Hart,pp.86-88,p.99, 訳,98-99 頁,112 頁) 。 守 屋 教 授 は 前 者 を ル ー ル 関 説的 また は ル ー ル 関 係 的 と よ び , 後 者を ル ー ル 無 関 心 的 と よ ん でい る29)。 ② に つ い て , ハ ー トは ル ール を 第一 次 的 ル ール と 第 二 次 的 ル ール に 区 別し , 両 者 が 結 合 す る こ と に よっ て 法 体 系 が 成 立 す る と 主 張 し て い る。 彼 は 立 法 機 関 , 裁 判 所レ 公 機 関 を も た ない 原 初 的 社 会 を 想 定 し , か か る社 会 に おけ る責 務 の ル ール を 第 一 次 的 ル ール と よぶ。 第 一 次 的 ル ー ル の み か ら 成 る社 会 に お い て は , 次 の よ うな 不 都 合 が 生じ る と い う。 ト1. ル ール が 体 系 を なし て い な い の で ル ー ル を ル ー ル とし て 確 認 す るため の 共 通 の 標 識 が な い。2. 古 い ル ー ル を 排 除し た り, 新し い ル ール を 導 入 す る こ とに よっ てル ー ル を 変 化 す る 状 況 に 意識 的 に 適 応 さ せ る手 段 が な い 。3. ル ール が 侵 害 さ れ た か ど うか に つ い て , 最 終 的 か つ 権 威 を も っ て決 定 す る こ と が で き ない 。 こ の よ う な3 つ の 欠 陥 を , 彼 は そ れ ぞ れ , 不 確 定 性 √ 停 滞 性 , お よ び非 効 率 性 と よ ん でい る が , これ ら の欠 陥を 補 正 す る た め のル ール が 第 二 次 的 ル ー ル で あ る(Hart,pp.89-92, 訳,101 ―104頁) 。 要 す るに ,「第一 次 的 ル ール と 第 二 次 的 ル ー・ル と の 相 違 は , 一 言 で 言 え ば , 第 一 次 的 ル = ル が 集 団 成 員 の行 動 に つ い て の ル ー ル で あ る のに 対 し て, 第二 次 的 ル ール が( 第一 次的) ル ール に つ い て の ル ー ル , つ ま り メ タ ・ ル ール で あ る こ とに あ る30)」。し た が っ て, 第 一 次 的 ル ー ル に 見 ら れ る3 つ の 欠 陥 に 応 じ て, そ れ ぞ れを 補正 す るた め の3 つ の第 二 次 的 ル ー ル が考 え ら れ る。 す な わ ち , 不 確 定 性 を 補正 す るル ー ル は 承 認 の ル ー ル と よ ば れ, 停 滞 性 を 補 正 す る の は 変 更 の片 − ル で あ り, そし て 非 効 率 性 は 裁 決 の ル ール に よ づて 補正 さ れ る(Hart,pp.92-95, 訳,104-107 頁)。 な お , と く に 承 認 の ル ー ル に 対し て は , 特 別 の位 置 づ け が な さ れ て い る が, こ の こ とに つ い て は 後 述 す る。
〈言語ゲームとしての会計〉と会計行動のルール15 ・ヽ− ト の主 張 を 会 計 行 動 の見 地 か ら 見 直し て み よ う。 ま ず, ① の内 的 視 点 お よ び 外 的 視 点 と の関 連 で あ る が, 内 的 視点 は まさ に 会 計 担 当 者 が< 役 割 と し て の 会 計 責 任〉 を 履 行 す る際 に と るべ き 視 点 で あ る。 会 計 の 人 間 的 ない し 行動 的 側 面 を 取 り上 げ る とす れ ば , こ の点 に こ そ 探 究 の 目を 注 ぐべ き であ る。 従来 , 会 計 学 に お い ては , こ の よ うな 反 省 が 十 分 に な さ れ てい た とは 言い 難 い。 例 え ば , ハ ッ テ ィ1コに よっ て 倫 理 的 ア プp − チ31)が提 唱 さ れ て は い るか , こ の よ うな視 点 が 確 立 さ れ てい な け れ ば ,「倫 理的 」 な 成 果 は 期 待 で き な い ので は な か ろ うか。 六 方 , 外 的 視点 の 方 は 利 害 関 係 者 す な わ ち 〈会 計〉 の受 け 手 の 視 点 で あ り, か つ ま た , 監 査人 の視 点 で もあ る。< 会 計〉 の受 け 手 はGAAP を 受 容し てい るわ け で は な い が,GAAP に 対 す る会 計担 当 者 の 内 的 視 点 を 参 照し な がら , そ の 行 動を 見 て い く。 これ に 対し て 監 査 人 は ,GAAP を 基 準 とし て 会 計 担 当 者 の 会 計 行 動 を 批 判 的 に 検 討 す る。 そ の 際,GAAP は 会 計 担 当 者 の会 計 行 動 を 批 判 す る基 準 で あ っ て , 自 分 が そ れ を 受 容し てい るわ け では な い。 し た が っ て , い ず れ の視 点 も ル ー ル 関 説 的 (関係的) とい っ て よ い。 一 方, ル ール 無 関 心 的 な 視点 は ど こに あ る か と い え ば , ル ール 懐 疑 主 義を 主 張 す る リ ー ガ ル ・ リア リ ズ ム(Hart,pp.132ff., 訳,148 頁以下) の視 点 に 見 る こ とが で き る。 さ き に ふ れ た 井 尻 教 授 の 「会 計 人 」 も こ の 視点 に よっ て い る と い っ て よい 。 こ の よ うな 視 点 を と る こ と が で き な い ここ と につ い て は , 既 に 述 べた 通 り で あ る。 結 局 , 井 尻 教 授 は 内 的 視 点 と外 的 視 点 と く に ル ー ル 無 関 心 的 な 視点 を 混 同し て い る とい わ ざ るを 得 な い 。 な お , こ の ほ か , 外 的 視 点 に つ い て は 広 義 の 外 的 視 点 と よば れ る 考 え 方 を 付げ 加 え てお く こ と が 必 要 で あ る。 ハ ー トは 「そ の体 系 の 承 認 のル ール は 優 れた も の で あ っ て , そ れ に も とづ く 体 系 は 支 持 す るに 価 す る とい う陳 述 」 を 「。価 値 に つ い て の陳 述」 とい っ て い る (Hart,pp.104-105, 訳,117頁)。 こ の 陳 述 に は,APB やFASB のStatement やopinion 等。 そ れ に わ が 国 の 企 業 会 計 審 議 会 に よ っ て 公 表 さ れ る 「原 則 」「基 準」 等 が 含 ま れ る。 井 尻 教 授 の 「会 計 原 則 を 設 定 す る 権限 を もつ 機 関 」 も これ に当 た る。 とに か く, 内 的 視 点 お よ び 外 的 視点 とい う考 え 方 は , 会 計 行 動 の ル ー ル とし て のニGAAP の 理 解 に 明 確 な 視 角 を 与 え て くれ る。 \ ヶ・ ト
が, と りあ え ず ハ ー ト の主 張 を 見 て み よ う。 彼 は 「体 系 の 他 のル ー ル の妥 当 性 の 評 価 基 準 を 与 え てい る 承 認 の ル ー ル は … … 重 要 な 意 味 を も っ て お り, 究 極 の ル ー ルtheultimaterule で あ る。 … …いヽくっ か の 基 準 が 相 対 的 な 従 属 と 優 越 と い う順 序 に 位 置 づ け ら れ て い る と こ ろ で は そ の う ち の1 つ が 最 高supremefs: の で あ る」(Hart,p.102, 訳,115 頁) と い う。 か く て, 第一 次 的 ル ール の上 に 第 二 次 的 ル ール が , そし てそ の上 に 承 認 の ル ール が位 置し , こ れ に よっ て ル ー ル の段 階 構 造 が形 成 さ れ る。 ハ ー トは さ ら に 次 の よ うに 述 べ て い る。 「承 認 のル ール が 体 系 の 究 極 の ル ール で あ る とい うこ と は , 法 的 推 論 の非 常 に なじ み 深 い 鎖 を 追 っ て い け ば も っ と も よく 理 解 さ れ る。 あ る一 定 の ル ー ル が 法 的 に 妥 当 す るか ど うか とい う問 題 が 出 さ れ る 場 合 , そ の 問 題 に 答 え る た め にわ れ わ れ は 別 のあ る ル ール に よ っ て与 え ら れ る妥 当 性 の 基 準を 用 い な け れ ば な ら な い 。・・…・わ れ わ れ は 中 間 的 な 命 令 や 制 定 法 と同 様 に 他 の ル ール の妥 当 性 評 価 の た め の基 準 を 与 え る ル ー ル に 至 っ た ので あ る が , そ の ル ール に つ い て は また , そ れ 自 体 の法 的 妥 当 性 を 評 価 す るた め の基 準 が な い 点 で そ れ ら の 命 令 や 制 定 法 と 異 な る か ら で あ る」(Hart,pp.103-104, 訳,116-117 頁)。 こ こに , 会 計 行 動 を 正 当 化し て い く た め の基 礎 が あ る 。 そし て, ハ ー トO ル ー ル に つ い て の主 張 と ウ ィh ダ ソ シ ュタ イン の 言 語 ゲ ー ム と の 出 会 い が あ る。 究 極 の承 認 のル ール は 言語 ゲ ー ム に おけ る 生 活様 式 と同 様 に , 自 明 で あ っ て疑 うこ とは で き な い 。 し た が っ て正 当 化 す る こ とは 可 能 で も な け れ ば 必 要 で もな い32)。 会 計 行 動 に 即し て い え ば , 会 計 公 準 に 相 当 す る。 ウ ィ ト ゲン シ ュ タ イン が い っ てい る よ うに ,「 ど ん な 事 実 も 確 実 と見 な さ な い 者 に とっ て は , 自 分 の 用 い る 言 葉 の 意 味 も また 確 実 で は あ りえ な い 」(K, §114)。 そ こ で「経 験 命 題 の 体 系 の中 で一 種 の論 理 的 な 役 割 を 演じ る命 題 」(Ⅸ,§136), す な わ ち 「枠 組 」(DC, §83) が 必 要 と な る。 彼 は こ の 枠 組 を 「世 界 像 」 (iX,§93) と か 「確 信 の体 系 」(K, §102) と も よ ん で い る。「そ し て こ の体 系 は , 多 分 に 疑 わ し い も のだ が とに か く そ れを 起 点 とし て 一 切 の 論 証 が 進 行 す る, とい っ た も の で は な い。 そ れ は わ れわ れ が 論 証 と 呼 ぶ も の の核 心 に 属 し て い る のだ 。 体 系 と は 論 証 の 出 発 点 で あ る’よ り も , 論 証 の 生 き る 場 で あ る」( 瓦, §105 )。 こ の 「論 証 の 生 き る 場 」 と は ,〈言 語 ゲ ー ム とし て の会 計 〉 が 行 わ れ てい
〈言語ゲームとしての会計〉と会計行動のルール17 る場 で あ る。▽「 経 験 に よ る正 当 化 に は終 りか お るノ 終 り石 な か っ た ら , 正当 化で は な い で あ ろ う」m ,§485 )。そ のた め , 既 に ふ れ た よ うに< 会 計 〉o 「実 際 の 使 用 に 抵 触し で は な ら な い 」 ので ,「す べ て の も の を , そ のあ るが ま まにし て お く 」(眼 §124 ) こ と が要 請 さ れ る。「 で も, わ れ わ れ が ゲ ー ム
をす るとき
〈や りながら ル ールを でっち上げ る〉 よ うな場 合 もあ るので
はない か。 また ,や りな がら
ル ールを 変え てし ま う場 合 もあ るのではな
いか」(Ⅷ,§83)とい われ る よ うに, ルールにし た がっ て ゲー ムそ の ものが
変わ るこ ともあ る。 会計 とい って 乱
公害 会計, 環境会 計, は ては政 治会計
とい った連 符会 計 の出現 がこ のこ とを 暗示し てい る ようであ る6
犬
[6 ] 会 計 行 動 と 言 語 行 為 前 節 で ハ ー ト の ル ー ル 概 念 を 取 り上 げ た が , ハ ー ト へ の 影 響 は ウ ィ斗 ゲソ シ ュ タ イソ も さ る こ と な が ら,J.L. オ ー ス テ ィン も 無 視 す るこ とは で き な い (Hart,p.vii, 訳,iv 頁) の で , 彼 め 言語 行 為 論33)と 会 計 行 動 と の関 わ り に つ い て 検 討 を 加 え て い く こ と にし よ う。 ウ ィ ト ゲン シ ュタ イン は 言 語 ゲ ー ム の 場 に お け る コ ト バ の 使 用 を 意 味 と考 えた が , こ の 「使 用 」 の 分 析 は 必 ずし も十 分 とは い え な か っ た 。 オ ー ス テ ィ ンは 「 使 用 (use) とい う語 は ,『意 味 』(meaning )とい う語 と 全 く同 様 に多 義 的で あ り, また 漠 然 とし て い る」(Austin,p.100, 訳,174 頁) とい っ て √「使 用ト の ヨ リ 精 緻 な 分 析 を 試 み る。 \ 財 務 諸 表 に つ い て 考 え て み よ う。 財 務 諸 表 は い う ま で も な く経 営 者 が利 害 関 係者 に 対し て,「 私 は ,『会 社 の財 政 状 態 及 び 経 営 成 績 が*・…・で あ る』 と 陳 述し ま す」 と い う発 言 で あ る。 こ の文 は, 例 え ば 「私 は こ の 船 を 『エ リザ ベ ス 号』 と 命 名し ま す 」 とい う 進 水式 に お け る 発 言 や √「 私は こ の 時 計を 弟 に 遺産 とし て 与 え る」 とい う遺 言 状 の 作 成 , そ れ に 「 私 は あ な た と , 明 日雨 が 降 る方 に 千 円 賭 け る」 とい う場 合 と同 様 で あ っ て, 何 か を 記 述し て い る わけ 亡は ない 。 も ち ろ ん事 実 の 確 認 を し てい る わ け で も な い ので 真 理 値 は も っ て いヽな^^o \ 命 名や 遺 贈 , あ るい は 賭 とい う た 行 為 にお い て√ こ れ ら の 文 を 発 言 す る こ とは, そ の ま ま当 該 行 為 を 実 際 に 行 な うこ とに な っ て い る。 こ れ ら の文 は , 「発言 を 行 な うこ と が と り も な お さ ず, 何 ら か の行 為 を 遂 行 す る こ と 七 あり, そ れは単 眼何ご とかを 言 うとい うだけ のこ ととは考 えら れない とい うこ
とを 明示 す る」(Austin,pp.6-7, 訳,12 頁)た めに (行為)遂 行文 な い し (行
為)遂 行 的発言 (performativeutterance
) と よば れ る。 こ れに対し て, 事実を
記 述す る文を 事実 確認 文 な い し 事 実確認 的発 言(constativeutterance
)とよ
び, 一 応, 両者を区 別し た(Austin,Lecturel ,訳,第1 講)
。
ところ で, 財務諸 表を作 成す る こ と は丁 度, 遺言状 を作 成す るのと同様
に, 遂行 的発言に 相当 す る。し た がって, 財務諸 表 め作 成は 単に 「財政状態
及 び 経営 成 績」を 記述し 報 告し てい るのでは ない。 財 務諸 表 の作 成は とりも
な お さ ず 〈役割 とし て の会計責 任〉 を 履 行し てい るので あ る。 これはさ きに
ふれ た 〈言語 ゲー ムとし て の会 計〉 とい う考え方 と結 びっ く。
丿
え ど も, 記 述 ・報告 ・陳述 とい った 行為を 遂 行し てい る。つ ぎに,事 実確認
文 に 真偽を 問 うこ とがで きるの と同様に, 遂行 文も正誤を問 題にす るこ とが
で き る。 そし て遂 行文に正誤 が問 え る よ うに, 事 実 確認文 に も適否を 問 うこ
と が で き る。し た がって両者を 明確に区 別す る こ とは 不可能 であ る。 これ
は, 遂 行的発 言 とい う考え方 が意 味論 的意 味 と語用論 的 意味を 誤解し ていた
こ とに 起因 する34)
。
オ ー ステ ィンは 意味(meaning)を意 義(sense) とレ フ ァレ ン スを 合わ せた
も のと考 えてい る(Austin,p.93, 訳,162 頁)
。 こ れ は意 味論 的意味 であ る。
語 用論 的 意味は 「 どのよ うな もの とし て, そ の発 言 が受 け 取られ るべきであ
るか」(Austin,p.73, 訳,128頁)と い うこ とで, オー ス テ ィンは これを 「発,
言 の力 」(force
)とよんでい る。 そ こで彼 は,「意 味(meaning)とい うものと
力(force)とを, まさに この意味 の内部 で 意義(sense)とレ フ ァレ ン ス(refer-ence
)の区別 が本質的であ るのと同 程度 に, 明瞭に 区別 し た い」(Austin,p.100,
訳,174 頁)とい って,「意味 」 と 「発 言の力」 との区 別を強 調す る。「力
(force)」 とい っ てもわか りに く い 力K 「意 図」35
)
とか 「 趣旨」36)
といえ ば理解
し 易い のではなかろ うか。「意味 」を 意味 論的 意味 と見 る限 り 「力」 と は 異
な る。し か し 語用論 的意味 と考 えれ ば,「力」 も意味 とい っ てよい。 こ の見
地 か ら す ると,事 実 確認文 と遂行文 を 区 別すべ き理 由は ない。
そ こで オーステ ィ ン はr
意味(
‘meaning')の理 論は , 発語行為 と発語内
行 為 とい う手 段に よるあ る種 の淘 汰 と再 構 成 とを 必要 とし て い る」(Austin,
〈言語ゲームとしての会計〉と会計行動のルール19p.149, 訳,249-250 頁) とい っ て 言 語 行 為 論 を 展 開し て い く の で あ る。 財 務 諸 表 は既 に 述 べ た よ うに ,「財 政 状 態 及 び 経 営 成 績よ に つ い て陳 述 す る文 に 相 当 す るか ら , こ れ を 作 成 す る こ と は 発 言 行 為 で あ る。 財 務 諸 表 の 作 成 に よっ て , 経 営 者 は 利 害 関 係 者 に 対し て会 計 責 任 を 履 行 し て い る の で あ る が, こ の 発 言行 為 を オ ー ス テ ィン は3 つ の部 分 に 分け る。 まず 第1 は ,「財 政 状 態 及 び 経 営 成 績は … … で あ る」 と い う文 を 発 語 す る 行 為 で あ る。 こ れ は 発 語 行 為 (locutionaryact) と よば れ る。 こ こ で 発 語 さ れ る 文 は, 意 味 論 的 意 味 だ け で な く, 語 用 論 的 意 味 と も 関 わ り が あ る。 第2 は ,「陳 述 」 と い う行 為 で あ る。 こ の 「陳 述 」 とい う行 為 は , 発 語 行 為 の中 に あ る行 為 で あ る。 し た が っ て発 語 内 行 為 (illocutionaryact) と よば れ る 。例 え ば,“InsayingX,heisdoingY. ” とい う文 を 考 え て み る。 こ の文 に お い て,sayingX は 発 語 行 為 で あ り,Y が発 語 内 行 為 で あ る。「内 」 とい う の は 「in」 に 当 た る。“illocution” ぱinlocution" の変 形 で あ る。 第3 は 。
「利 害 関 係 者 を 納 得 さ せ る 」 とい う行 為 で あ る。 こ れ は 第1 お よ び 第2 の行 為 に よっ て媒 介 さ れ た 結 果 とし て 出 て く る行 為 で あ るか ら 発 語 媒 介 行 為 と よ ば れ る。“BysayingXanddoingY,hedoesZ." と い う文 に お け るZ
が 発 語媒 介 行 為 で あ る。「媒 介 」 は 「by 」 に 相 当し ,“perlocution" ぱbylocution" の変 形 七 あ る37)。 オ ース テ ィン は 「意 味 論 的 概 念 , 語 用 論 的 概 念 の い ず れ の で あ る のか が 明 確 でな か った 事 実 確 認 的 発 言 の身 分 を 語 用 論 的 概 念 と す る こ と38)」 に よ っ て ,1 つ の 発 言 が 単 一 な 行 為 と 見 な さ れ る べ き で は な く。 上 記 の3 つ の行 為 か ら重 層的 に 構 成 さ れ る 複 合 体 を 成 し てい る と考 え てい る39)。 こ の よ うに 語 用 論 の立 場 か ら 言 語 行 為 を 重 層 的 に と らえ る と ころ に 言 語 行 為 論 の特 色 があ る。 オー ス テ ィン は 語 用 論 的 観 点 に 立 っ て はい るが,「わ れ わ れ は す で に , い か にし て 『文 の 意 味 (meaning )』 と い う表 現 と,『 文 の 使 用 』 とい う表 現 と が , かえ っ て 発 語 行 為 と発 語 内 行 為 と の区 別を , 不 明 確 な も の と な し 得 るか とい うこ とを 知 っ た 。 そし て , 今 こ こ で 言 語 の 『使 用 』 とい う言 い 方 を す る こと とに よっ て 乱 同 様 に 発 語 内 行 為 と発 語 媒 介 的 行 為 と の 間 の 区 別 が 不 明 確 な もの と さ れ る こ と を 知 る の で あ る。 そ れ ゆ え に こ そ, わ れ わ れ は こ の 後直 ち に こ の両 者 を, よ り 細 心 に 区 別 す るつ も り で あ る」(Austin,p.103, 訳,178
頁) と い っ て , 両 者 の区 別 を 強 調 す る。 と は い え,「 私は , こ こ で こ の 問 題 に 対 す る十 分 な 検 討 が な さ れ ては い:な い とい うこ とを 認 め よ う。 す な わ ち , 現 に 世 に流 布し て い る見 解 に 頼 っ て, 旧 来 の 『 意義 (sense) どレ フ ァレ ン ス』 と い うこ とを 理 解し た に す ぎ ない 」> (Austin,p.149, 訳,250 頁) と, 彼 自身 が 認 め てい る よ う に ,「意 味 の問 題 に つ い て は 当 時 英 国 に 紹 介 さ れ てい た 限 りで の フ レ ー ゲ (G.Freege ) の議 論 に 頼 り40)」, こ れ を 基 礎 にし てい た 。 モ の た め に , 意 味 を 意 味 論 的 意 味 に 限 っソ て い た ので あ って , 語 用 論 的 意 味 を も意 味 とし て認 め る の で あ れば , 発 言 の 力 と い うわ か りに くい コト バ を 使 わ な く て す ん だ の で は な か ろ うか。 もちろ ん, 発 言 の力 と よぶ か , あ るい は 語 用 論 的 意 味 と よ ぶ か は, 単 な る コ ト バ の 問 題 とい え な い こ と も な い。 むし ろ ,「陳 述 の 真 偽 は ,語 の 意 味(meaning) だ」 け に 依 存 す る も ので は な く, い か な る 状 況 七 い か な る 行 為 を 遂 行し てい るか と い う こ とに も 依 存 す る」(Austin,p.145, 訳,242 頁) と 述 べ て い るこ とが重こ 要 で あ る。 こ れ に よっ て, 意 味 を 言 語 ゲ ー ム の 場 に お け る使 用 と考 え る ウ ィ ト ゲ ン シ ュ タ イン との 出 会 い が 考 慮 さ れ てい る よ うで あ る。 十 と もあ れ ,「 発 言 が行 な わ れ てい る 場 面 全 体(totalsituation ) す な わ ち, そ の 言 語 行 為 全 体(thetotalspeech-act )を 考 察 の 視 野0 中 心 収 め 」(Austin,p.52, 訳,91 頁) な が ら, 語 用 論 の 観 点 か ら 「発 語 内 の 力 の一 覧 表 」 を 作成し てい こ う とい うの が オ ー ステ ィン の ね ら い で あ る(Austin,pp.149-150, 訳,250 頁)。し た が っ て , 当 然 に 発 語 内 行 為 に 焦 点 がお か れ る。し か も,「発 語 内; 行 為 は , 慣 習 的 行 為 (conventionalact) で あ る」(Austin,p.105, 訳,181 頁)か ら , コ ン ベ ンシ ョ ンを 基 礎 とす る会 計 行 動 の 分 析 と 密 接 な関 係 があ る。 こ れ が ひい て は 〈役 割 とし て の会 計責 任 〉 とい う考 え 方 と も 結び つ く。 こ の こ と は ,「行 為 遂 行 的 / 事 実 確 認 的 の区 別 に 関 す る 見 解 は , 発 語 行 為 と 発 語 内 行 為 に 関 す る見 解 に 対し て , 特 殊 理 論 と一 般 理 論 の 関 係 に あ る」(Austin,p.148, 訳,248 頁) こ とか らし て も理 解 で き る。 オ ー ス テ ィン の 言 語 行 為 論 は 言 語 ゲ ー ム の場 に おけ る文 の具 体 的 使 用 に, 前 述 の発 語 行 為 , 発 語 内 行 為 , お よ び 発 語 媒 介 行 為 と い う3 つ の区 別を し た の で あ る が , 発 語 内 行 為 「に お い て は じ め て , 我 々の 発 言 は 言 語 ゲ ー ムに 具 体 的 に 織 り 込 ま れ る の で あ る41」」。 し た が っ てレ 会 計 行 動 の ル ール た るGA-AP 乱 こ の 発 語 内 行 為 の ル ール とし て と ら え る こ と が 必 要 と な る。 と ころ
〈言語ゲームとしての会計〉 と会計行動のルール21 が ,「Tウ ィTト ゲ スシ ュ・ダ イン は , オ ー ス テ ィソ の いうlocutionaryact に お け る規 則 の みを 言語 ゲ ー ム の 規 則 と考 え た42)」 とい わ れ る。 こ こ に , ウ ィト ゲy シ ュ タ イン の限 界 が あ づた。〈言 語 万 一ム とし て の会 計〉 に お い て 乱 そ の ル ー 少 は 発 語 内 行 為 に お け るル ー ル とし て と ら え てい か な け れ ば な ら な い 。 そ の道 筋 を 示し て い るの が , オ ー ス テ ィン の言 語 行 為 論 で あ る と い う こ とが で き る。 な=お, 発 語 媒 介 行 為 は 〈会 計 〉 の受 け 手 に 影 響 を 及 ぼ す 行 為 で あ っ て , 意 思 決定 説 は こ れ に 焦 点 を 合 わ せ てい た と 見 る こ とが で き る。 し か し , 発 語 媒 介 行 為 は 言 語 ゲ ー ム の 場 に お け る行 為 で は あ る が , 言 語 の枠 外 の 行 為 で あ る43)。し た が っ て,〈 言 語 ゲ ー ム とし て の会 計 〉 の対 象 外 であ る。 さ き に ウ ィト ゲン シ ュ タ イ ン と ハ ート の 関 係 に ふ れ ニ こ こ で ウ ィト ゲ ソシ^ ダ イ ン と オ ー ス テ ィ シ の関 係を 取 り上 げ た の で , ハ ート の ル ール に つ い て の 見 解 を オ ー ス テ ィン の観 点 か ら 検 討 す る こ と も,‥<言 語 ゲ ー ム とし て の 会 計 〉 の 考 察 に と っ て重 要 で あ る が, 残 さ れ た 課 題 とし てお く。犬