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木造住宅建築の構造特性とリノベーションの設計手法 利用統計を見る

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木造住宅建築の構造特性とリノベーションの設計手

著者

伊藤 暁

著者別名

Satoru ITO

雑誌名

工業技術

41

ページ

74-77

発行年

2019-02

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00010950/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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木造住宅建築の構造特性とリノベーションの設計手法

Renovation Design Method of Wooden Architecture in Conformity with Structural Characteristics 伊藤 暁*, 1.はじめに 人口減少、空き家問題など、成熟社会における問題と 相関するように、建築の既存ストック活用が大きな議題 となっている。これまでの成長社会においては「新築」 を前提として設計手法の探求や技術開発、法整備などを 行えばよかったが、近年の社会背景や経済状況は、それ だけでは対処しきれない多くの課題を浮上させている。 戦後の復興から高度経済成長を経て、1970 年代には 年間200 万戸近くまで膨れ上がった住宅着工件数は、 2016 年には 96 万戸となっており、約半分にまで減少 している1) こうした背景の中で、リノベーションに代表される 既存ストック活用の事例は増えるばかりだが、一方で新 築を前提としてきた建築の文化・技術・法規制などとの 齟齬は解消されておらず、体系的な見直しの必要性が高 まっている2)。本稿では、住宅を中心とした小規模木造 建築を事例に、リノベーションの対象となる既存木造建 築物について構造的な観点から分析を行い、既存ストッ ク活用の拡大に際する検討項目について考察する。 2.木造住宅建築のリノベーション 2.1 構造エンジニアリングと木造住宅 「木造住宅建築リノベーション」と「構造エンジニア リング」は、実際の設計業務においては分かち難く結び ついているが、現時点におけるその関係は、体系的とい うよりは場当たり的と言わざるをえない。 そもそも「構造エンジニアリング」とは、建築物が 地震や風などによって受ける力や、あるいはその建物自 体の重さで損壊することないように解析・設計を行うも ので、当然ながらその作業は「個別の建物」一棟毎に行 われることとなる。一方で木造は住宅全体の約 6 割を占 める構造形式であり(※平成 25 年度住宅・土地統計調 査/総務省)、その「木造住宅」に関わる法的規制は個 別対応というよりは(4 号規定に代表されるような)マ スに対して汎用的な対応ができるような仕組みとなっ ている。「量」が需要される木造住宅に対して個別に解 析や設計を要求することは、時間・手間・費用など様々 な観点から困難だとする判断には、一定の合理性を認め ざるを得ないだろう。 「木造住宅のリノベーション」とは、様々な個別性 をカッコに入れた「量への対応の成果である木造住宅」 と、建物毎に性能を設定していく「エンジニアリング」 の邂逅の場であり、そこには単純な論理の導入を拒む 様々な与件が絡まり合っている。また、「木造住宅」と 一言でいっても、それらは建てられた時代によって、幾 つかの分類を行うことができる。まずは、最近の現行基 準法に準拠した商品住宅。その前が、戦後住宅政策の落 とし子である産業化住宅、戦前は大工による伝統工法の 住宅。もちろんその境界は曖昧で厳密な線引きは意味を なさず、各々がオーバーラップしながら時代的特徴を表 出させているのだが、現在行われている「木造住宅のリ ノベーション」は、その対象建物の時代的特性によって 採用される介入の方法も変わってくる3) 筆者はこれまでに幾つかの古い木造建築を対象と する設計を行ってきたが、そのうち「えんがわオフィス」 「武蔵境の住宅」「筑西の住宅」の 3 つを例にとって、 木造建築への介入の方法を検証してみたい。 2.2 【事例 1】えんがわオフィス 「えんがわオフィス」は築 80 年(計画当時)ほど の古民家改修である。徳島県の神山町という中山間地域 に位置しており、都市型住宅とは異なった農家型の住宅 である。このような場所において、住宅は「すみか」で あると同時に「生産の道具」でもあり、ライフスタイル

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木造住宅建築の構造特性とリノベーションの設計手法

Renovation Design Method of Wooden Architecture in Conformity with Structural Characteristics 伊藤 暁 のみならず農作業の変遷、あるいは産業形態や生業の変 化などに合わせたカスタムが繰り返し行われている。そ の結果としての建物は、統合的な計画的概念が希薄な、 複数の構造形式が同居したものとなる。 [図 1]えんがわオフィス(改修後)外観 [図 2]えんがわオフィス(改修前)外観 この建物の一番古い部分はおよそ築 80 年、つまり 住宅が産業化する以前の建物で、主要部分の構造形式は 基本的には伝統工法の延長線上にあり、石場建て、貫と 土壁など、現行基準法の評価軸には乗らない技術で組み 立てられていた。(※限界耐力計算で伝統工法の躯体を 現行基準法に位置付けることは可能だが、木造住宅改修 の方法論としてまだ一般的とは言い難いので今回は論 考の対象外とする) 改修の内容は「えんがわオフィス」という名の通り 住宅を事務所にコンバージョンするもので、建築主の事 業継続性(BCP)の観点からも、現行基準法に適合した 耐震補強を行うことが必須であった4) 伝統工法と現行基準法の在来工法は同じ木造であ りながら、その考え方は大きく異なっている。伝統工法 の木造建築は仕口や面を固めるというよりは全体がフ ァジーに動き、木材同士がお互いにめり込んだりする中 で建物全体に荷重を分散させ、損壊を免れるという考え 方で構成されている。躯体が壊れなければ土壁などは崩 れても良く、壊れたら直して使い続ければいいという考 え方である。一方で現行基準法の在来軸組工法は、仕口 を金物で緊結し、筋交いや面材で建物をしっかり固めて 動きにくくすることで損壊を免れることを標榜してい る。つまりえんがわオフィスの改修で行ったのは、建物 全体のあり方を「動く→動かさない」という、180 度転 換した方向で組み立て直す作業であるといえる。 ここでは、建物が「木材」の「柱や梁」によって構 成されているという唯一の共通点を手掛かりに、伝統工 法である既存建物の各部材を現行基準法の部材に読み 替え、基準法的に不足と判断される部分を補っていくよ うに計画を進めている。基礎や金物の追加、耐震要素の 確保などで建物を「固めていく」作業である。 [図 3]えんがわオフィス改修工事中の様子 具体的には、まず建物をスケルトン状態まで解体し、 全体をジャッキアップ、束石を撤去して基礎を新設する。 そこに土台を設置し、金物で既存建物の柱と緊結すると いうプロセスで軸組を更新する。その後、構造用合板や 11:.!ll r ,

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筋交い、格子壁などによって耐震要素を配置し、建物を 固めている。プランニングに応じて一部柱を移動してい るが、厳密な部材設計が行われていない曖昧さゆえに既 存躯体に備えられた余剰が、こうした改変を可能にして いる。 2.3 【事例 2】武蔵境の住宅 「武蔵境の住宅」は、標準的な 3LDK の間取りを持つ、 築 42 年(計画当時)のいわゆる産業化住宅のリノベー ションである。構造体としては在来軸組工法の範疇に括 られるもので、現行基準法の考え方に準じた性能評価が 可能だった。設計に先立って建物全体のインスペクショ ンを行い、構造に関しては基礎が無筋であること、耐震 性能が現行基準法を満たしていないことなどが確認さ れた。改修内容については、施主との打ち合わせの中で 特に一階についてはプランニングを大きく変更する方 針となったが、構造的には大幅な柱移動などは行わず、 むしろ二階の角部分直下など、不足している部分に柱を 追加する方向で設計を進めている。基礎は部分的に新規 の増し打ちで補強することで既存の性能不足を補って いる。耐震要素は構造用合板を用いた耐力壁や鋼製ブレ ースなどをプランニングに合わせて挿入した5) [図 4]武蔵境の住宅(改修後)内観 新築の場合はプランニングに合わせて構造形式や 構造部材の配置を検討することが可能(というか当たり 前)であるが、リノベーションではその乖離は前提条件 である。新規のプランニングに合わせて構造を刷新する ことも可能ではあるが、それは新旧両方の状態に無理を 強いることになり、あまり健全ではないと考えている。 また、もし今後またこの建物に改修の機会が訪れた際は、 躯体がより自然な状態である方が、改修の幅を担保でき ることとなる。設計者には、ある程度既存の構造に身を 委ねつつ、異なった両者の衝突をいかにポジティブに計 画に取り込めるかといった興味や技量が重要になるだ ろう。 2.4 【事例 3】筑西の住宅 「筑西の住宅」は築 90 年(計画当時)ほどの蔵を 一度解体し、移築して新築住宅として建設したものであ る。 [図 5]筑西の住宅(移築後)外観 既存蔵は、そもそも建物が建設された時点で複数の建 物の古材を寄せ集めて作られたようで、複数の小屋組が 混在するものだった。こうした状況を目の当たりにする と、木造という構造形式は相当冗長なものだと実感する。 木造住宅は、「建物」としてだけではなく、建材レベル でも使い続けられている6)

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木造住宅建築の構造特性とリノベーションの設計手法

Renovation Design Method of Wooden Architecture in Conformity with Structural Characteristics 伊藤 暁 [図 6]筑西の住宅、移築前の蔵 今回の移築工事は既存蔵の古材を再利用して架構 を組むものの、法規的な考え方としては、新築として計 画された建物の木材が材木市場で購入した製材か、既存 蔵から引っ張ってきた古材かという「材」の違いでしか ない。法規上はあくまで 4 号建築物の新築工事であり、 現行基準法への適合が前提条件となる。つまり、伝統工 法の架構として組み立てられていた材を、現行基準法の 在来軸組工法の部材として再構成するこという態度で 設計に臨むこととなる。 とはいえ既存躯体の仕口は伝統工法に準じたもの であるため、その形式を利用しつつ適宜金物や筋交いを 配することで性能を確保している。基礎は一般的な木造 住宅と同様にベタ基礎を新設し、土台を敷き、柱を立て る。柱材については長さの不足や腐食などから全て新規 材に盛り替えを行い、HD 金物で基礎と緊結する汎用的 な工法となっている。梁材についても傷み具合に応じて 適宜盛り替えや、仕口の補強などを行っている。 これらは単純な作業のようにも見えるが、しかし実 際のところは材のばらつきや経年変化の幅が大きく、設 計図書において全ての工事内容を指示するのは困難で ある。こうした工事においては、現場での臨機応変な対 応が不可欠であり、在来工法のみならず伝統工法にも精 通した構造設計者と大工の協働が重要となる。しかし、 ここには大きな憂慮もある。昨今の住宅建設はプレカッ ト技術の導入などで高度に簡略化されており、現場で要 求される技術水準は高くない。その結果、仕口の刻める 大工の数は急激な減少傾向にある。一方改修工事ではプ レカット技術の導入には障壁が多く、伝統工法のみなら ず、在来工法であっても仕口の刻める大工の技術が必要 不可欠である。長らく、量を供給する新築主流の世界で 仕事をしてきた建設業界は、ストック活用が重要な社会 課題となった時代において、その要請に応えられる技術 が絶滅寸前という事態にも直面しており、人材の確保や 技術の継承なども重要な課題だろう。 3.個別対応とマス対応の架橋 以上、3 件の木造住宅改修事例を見返してみて改め て考えるのは、今までとは違った意味で「量」に対応す る知見が求められているということである。 いうまでもなく現在世の中に存在している木造住 宅のストックは大量で、リノベーション・コンバージョ ンの需要も高まるばかりである。しかしそれらのストッ クには性能のばらつきがあり、曖昧さがあり、それらが 新築された当時のような汎用的な態度では対処が難し い。現状では個別に対応せざるを得ず、だからこそ構造 エンジニアの参画がこの状況を支えているわけだが、そ れでは物理的な「量」を相手にすることができないこと は明らかである。現在はまだ数的には新築が趨勢で、リ ノベーション・コンバージョンは個別対応でもなんとか なっているが、今後需要が高まっていくことが想定され る中で今までと同じやり方ではいずれ限界を迎えるだ ろう。すでに目の前にある、大量かつバラバラなものを 相手にできる方法論の模索や法整備の検討は、私たちが 直面した大きな課題である。現行の建築基準法はあくま で新築を前提とした論理体系で組み立てられており、改 修と相性の悪い部分も少なくない。こうした齟齬を解き ほぐしていくことが必要で、構造エンジニアリングの知 見は、古いものを現行の基準に適合させるだけでなく、 古いものの性能をどう評価し、現代的に位置付けていく かといった視点にも注がれて然るべきだろう。 さらに踏み込めば、この問題はリノベーションに限 った話ではなく、新築にもできることはあるはずだ。例 えば、厳密な計算に依拠しすぎずに部材寸法に余剰を持 たせておくことは、その建物が改変され、使い続けられ る上で重要な性能なのかもしれない。

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4.おわりに 冒頭でも述べたように、全てを計画し構築する「新 築」だけが建築の問題ではなくなりつつある現在、近代 的合理性とは異なった合理の可能性について探求・提案 を行うことも、建設業界の重要な役割になってくるので はないだろうか。それは、建築の設計に時間の概念を引 き寄せることに他ならない。新築を前提とした建築の計 画においては「どのような建物を作るか」、つまり、竣 工時の建築のあり方が議論の対象となってきたが、一方 リノベーションやストック活用に対する需要の増加は、 「竣工」が建築の目的ではなく、その後建物が使われ(続 け)ていくための手段であるということを教示している。 建築が在り続け、時にはその中で改変に遭遇し、機能や 用途などの役割を変えながらも生きながらえていくこ とを引き受けた時、どこに合理を見出すことができるか の検証が進みつつある。この模索は、おそらく近代的合 理性に導かれた建築の形とは違った建築のあり方をあ ぶり出すであろう予感に満ちている。 参考文献 1) 総務省:平成 25 年度住宅・土地統計調査

2) Unfinished : Pabellón español, Spanish Pavilion, Biennale Architettura 2016

3) 多木浩二:生きられた家、青土社(1984)

4) 新建築2014 年 4 月号

5) 新建築住宅特集2017 年 1 月号

参照

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