怒りは,日常的に誰もが経験する,非常に身近な感 情の一つである。それは,喚起された時のネガティブ な感情状態や,その表出に攻撃行動を伴う場合がある ことなどから,否定的に捉えられる傾向がある一方で, 自尊感情の保護や対人関係の強化など,我々が社会に 適応する上で重要な役割も果たしている(Averill, 1982)。しかし,その強度・頻度・持続時間などが過 度になると,様々な問題が生じ,社会的不適応に陥る 可能性が高まる(Novaco, 1994)。例えば,怒りを体 験する頻度が高い場合,高血圧や心疾患の罹患率を高 めることが,多くの研究により確かめられている (Siegman & Smith, 1994)。また,怒りがストレス反応 を引き起こすことにより,間接的に心身の健康に悪影 響を及ぼす可能性もある(渡辺,2008)。怒りは,社 会に適応する上で必要不可欠な感情であると同時に, その程度によっては,我々の健康状態を損ないかねな い。 渡辺・小玉(2001)は,虚血性心疾患との関連から, 怒りは一時的な生起よりもむしろ,感じる頻度が高い 場合や,生起した後にその状態が持続する場合にはじ めて,身体に重大な影響を及ぼす点を踏まえ,怒りの “喚起されやすさ”と“持続しやすさ”を測定する尺 度を作成した。その結果,怒りの喚起されやすさと持 続しやすさは弁別可能な概念であり,怒りという感情 の異なる側面として捉えることが妥当であるとしてい る。また,怒りの測定には従来,Spielberger(1988) の State-Trait Anger Expression Inventory( 以 下 STAXI とする)が用いられることが多いが,STAXI で測定 されるのは,特性怒り(怒りの喚起されやすさの傾向) と状態怒り,および怒り表出の仕方(表出,抑制,制 御の 3 傾向)である。したがって,ある個人の表出の 仕方ではなく,怒りという感情そのものの構造や性質 を検討したいのであれば,渡辺・小玉(2001)が提示 した,喚起と持続という観点の方が,怒りをより詳細
マインドフルネス瞑想の怒り低減効果に関する
実験的検討
平野 美沙
1湯川 進太郎
筑波大学The impact of mindfulness meditation on anger Misa Hirano and Shintaro Yukawa (University of Tsukuba)
This study explores the impact of mindfulness meditation on anger. A meditation group (N = 37) attended 5-10 minutes of mindfulness meditation daily for a week. They were assessed with self-report scales measuring three aspects of anger (rumination, arousal, and lengthiness) before, just after, and four weeks after their one-week participation. Their scores were compared to a control group (N = 27), which was assessed at the same intervals as the meditation group. The meditation group was also asked to evaluate their current mood using the Affect Grid before and after each meditation. The results indicated that participants in the meditation group who continued meditation voluntarily after the week of their participation had decreased anger rumination scores just after and four weeks after their participation. Additionally, the pleasant score on the Affect Grid increased after meditation for almost all the participation days. These findings suggest the efficacy of mindfulness meditation on improving the tendency to ruminate about anger episodes in the medium term to long term, and also on improving mood in the short term. Key words: mindfulness, anger, meditation, rumination, mood. The Japanese Journal of Psychology
2013, Vol. 84, No. 2, pp. 93–102
Correspondence concerning this article should be sent to: Shintaro Yukawa, Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba, Tennodai, Tsukuba 305-8572, Japan(e-mail: [email protected])
1 実験にご協力くださった皆様へ,この場をお借りして御礼
に捉えることができると考えられる。 こうした怒り(あるいは攻撃性)を高める要素とし て,近年,“反すう”が多くの研究において指摘され ている(Rusting & Nolen-Hoeksema, 1998)。すなわち, 怒りの引き金となるものには,実際に怒りを喚起させ る外的な状況だけではなく,以前に怒りを感じた出来 事についての考えや記憶のように,内的なものも多く 存在するという指摘である(Deffenbacher, 1999)。荒井・ 湯川(2006)は,こうした反すう傾向が強いほど怒り が持続しやすく,怒りが持続しやすいほど特性怒りが 高い,という因果モデルを提唱・確認している。こう した知見から,(怒りの)反すう傾向の低減によって, 心身の疾患を規定する要因とされる怒りの喚起されや すさや持続しやすさ(渡辺・小玉,2001)が低減する だろうと予測される。 マインドフルネスと怒り 従来,上述のような社会的不適応状態を招く恐れの ある過度の怒りを,より適応的なものへと制御するた めに,様々な技法が提案されてきた。例えば,リラク セーション,自己教示,ソーシャルスキルトレーニン グといったような,認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy:以下 CBT とする)に基づくか,それに準ず る諸技法である(湯川,2008)。近年では,新たな CBT のアプローチとして,“マインドフルネス”が注 目されている。 マインドフルネスは,“今ここでの経験に,評価や 判断を加えることなく能動的な注意を向けること (Kabat-Zinn, 2003)”と定義され,その促進方法は東 洋の座禅やヨーガなどの心身修養法が基となってい る。海外では,ストレスや慢性的な痛みを低減するた めに考案されたマインドフルネスストレス低減法 (Mindfulness-Based Stress Reduction:以下 MBSR とす る,Kabat-Zinn, 1990 春木訳 2007,2003)やマイン ド フ ル ネ ス 認 知 療 法(Mindfulness-Based Cognitive Therapy: 以 下 MBCT と す る,Segal, Williams, & Teasdale, 2002 越川監訳 2007)といった,マインドフ ルネスを促進する瞑想プログラムが,実際の医療機関 などで実用化されている(春木・石川・河野・松田, 2008)。マインドフルネス介入の効果を扱った臨床研 究も多く,慢性的な痛み,うつ病,摂食障害,がん, 喫煙などの生活習慣といった,様々な領域においてそ の有用性が認められている(春木他,2008)。 従来の CBT の多くは,それぞれの疾患に特有のネ ガティブな認知を同定し,修正することを試みるのに 対して,マインドフルネス瞑想は,ネガティブな認知 に直接働きかけることはしない。マインドフルネス瞑 想では,自分の呼吸の数を数えるなど,特定の対象へ 注意を向ける訓練から,体の感覚,思考や感情など, 幅広い対象へと注意を拡大していく。また,瞑想中に 様々な思考が頭に浮かんでも,ただそれに気づき,ゆっ くりと呼吸に注意を戻すことを繰り返す。このように 能動的かつ柔軟に注意をコントロールする訓練を繰り 返すことにより,ネガティブな思考が浮かんだ場合も, こだわったり無理に抑えたりすることなく,それらの 思考から距離を置くスキルを養うことを目指している (杉浦,2008)。 こうしたマインドフルネスは抑うつや不安障害の改 善に効果があるとされているが(春木他,2008),そ のメカニズムの基盤として,上述した“反すう”の存 在が指摘されている(Brown & Ryan, 2003)。反すうは, 抑うつや不安を持続・増幅させる主要な要因の一つで あ る(Morrow & Nolen-Hoeksema, 1990)。 そ こ で Ramel, Goldin, Carmona, & McQuaid(2004)は,マイ ンドフルネスが促進されることにより反すう傾向が低 減し,その結果として抑うつや不安が低減するとし, これを実証した。すなわち,マインドフルネス瞑想を 通して,抑うつや不安の原因となるネガティブな感情 や思考に気づき,それらから距離を置いて対処するス キルが新たに獲得されることにより,反すう傾向が低 減すると考えられる。 これら抑うつや不安と同様に,反すうと強い関連が 示唆されている怒りに対しても,マインドフルネス瞑 想が効果を示す可能性は十分に考えられる。実際これ までにも,マインドフルネスと怒り・敵意・攻撃性 (anger-hostility-aggression:以下 AHA とする)との関 連を示した研究がいくつかなされている。Heppner, Kernis, Lakey, Campbell, Goldman, Davis, & Cascio (2008)はまず,質問紙調査を行い,マインドフルネ ス特性が攻撃性や敵意帰属バイアスと負の相関関係に あることを見出した。その後実験を通して,仲間はず れのような社会的拒絶を受ける前にマインドフルネス 導入(この実験では,マインドフルネスについての簡 単な説明を受け,MBSR で“食べる瞑想”と呼ばれて いる,意識的にレーズンを食べる課題を 5 分程度行っ た)を受けた参加者は,受けなかった参加者と比べて, 攻撃行動を表出することが少なかったことを報告して いる。また Borders, Earleywine, & Jajodia(2010)は, 反すうが怒りや攻撃性を増加させるという先行研究 (Rusting & Nolen-Hoeksema, 1998)をもとに,マイン ドフルネス,反すう,AHA の関係について質問紙を 用いて検討した。その結果,マインドフルネス傾向と 怒り・敵意との関係に,反すうが媒介していることを 明らかにした。これらの研究から,マインドフルネス の促進が反すう傾向を低減させることにより,怒り傾 向を低減させるだろうということが予測できる。 本研究の目的 しかしながら,マインドフルネスと怒りの関連につ いて,実際に継続的な介入を通して検討した研究はこ
れまで皆無である。Heppner et al.(2008)の研究は, 5 分程度のマインドフルネス導入が怒りを喚起する状 況に及ぼす即時的効果について検討している。しかし, 例えば Kabat-Zinn(2003)は,MBSR では,毎日続け ることをマインドフルネスプログラムにおける重要事 項の一つとして挙げている。このように,マインドフ ルネスは即時的な効果を目指すものではないという見 解が多い。健常な大学生を対象に 4 週間のマインドフ ルネス訓練を行った研究では,マインドフルネスは, 一時的な効果よりも練習の継続による累積的な効果と して発揮され,抑うつ傾向や抑うつの脆弱性・維持・ 再発に関連した認知的スキルやスタイルを改善させる ことが示唆されている(勝倉・伊藤・根建・金築, 2009)。そこで本研究では,実際に継続的な介入を行 うことにより,マインドフルネス瞑想が怒りに及ぼす 影響について実験的に検討することを目的とする。具 体的には,マインドフルネス瞑想を通して(マインド フルネスが促進されることにより),怒りの反すうし やすさが低減し,(その結果として)怒りの喚起され やすさや持続しやすさが低減するだろうという仮説を 検証する。 なお,マインドフルネス瞑想は本来,即時的なリラ ク セ ー シ ョ ン を 目 指 す も の で は な い(Kabat-Zinn, 2003)。ただ,伊藤・安藤・勝倉(2009)の研究では, 瞑想による気分改善が見られ,こうした即時的な気分 の改善がマインドフルネス瞑想を継続する上での直接 的な強化子として機能する可能性を指摘している。そ の一方で,勝倉他(2009)では,マインドフルネス訓 練による気分の即時的変化は認められておらず,マイ ンドフルネス瞑想と気分の関係については,いくつか 異なる知見が得られている。そこで本研究では,瞑想 の前後で気分がどう変化するのかについても併せて検 討を行う。 方 法 実験の概要 参加者は,実験群および統制群のいずれかに配置さ れた。1 週間の実験介入の前後および介入後 4 週間の 3 時点(プレ,ポスト,フォローアップ)で,質問紙 による効果測定(怒りの反すう傾向,怒りの喚起傾向, 怒りの持続傾向)を行った。介入期間中,実験群はマ インドフルネス瞑想(呼吸瞑想)を行い2,統制群は 何も行わなかった。実験は 2010 年 9 月から 11 月の間 に行われた。 2 本研究では,客観的に測定することが難しい,瞑想指導者 の瞑想経験という剰余変数を統制(除外)する目的で,瞑想経 験のない者が実験者となり,実験中のすべての教示を行った。 参加者 関東圏内にある T 大学に通う大学生を対象に,参 加の募集を行った。講義時間中に,本実験への参加を 募る依頼文書と連絡先記入用紙を配布し,参加可能な 場合には,自発的に連絡先を記入し提出するよう求め た。この際,実験群と統制群とで,異なる依頼文を用 いた。実験群では“瞑想に関する心理学研究への参加 のお願い”と表記し,統制群では“心理尺度の検討へ の協力のお願い”と表記した。参加希望者が実験室に 来室した際,はじめに,(a)実験内容,(b)心身への 影響,(c)参加の自由,(d)参加の拒否・辞退,(e) 個人情報の保護について十分に説明した上で,参加同 意書ヘの署名を得た。同意が得られた参加者は 64 名 であり,平均年齢は 20.11 歳(SD ± 1.90)であった。 内訳は,実験群 37 名(男性 14 名,女性 23 名),統制 群 27 名(男性 10 名,女性 17 名)であった。 手続き 実験群 実験者は実験の目的を,“瞑想が感情にど のような影響を及ぼすのかについて検討すること”で あると説明した。また,実験を通して,“マインドフ ルネス”という言葉は用いなかった。参加者は同意書 に署名した後,その場で効果測定のための質問紙に回 答した。その後,1 週間のマインドフルネス瞑想を行 い,直後と 4 週間後にそれぞれ同じ質問紙に回答した。 また,瞑想の前後には毎回そのときの気分について評 定を行った。すべての手続きが終了した後,十分なデ ブリーフィングを行い,慎重を期すために,最後にデー タ使用に関する同意書への署名を得た。 統制群 実験者は実験の目的を,“怒りに関する心 理尺度について検討すること”であるとし,時期を隔 てて 3 回同じ質問紙に回答してもらうと説明した。参 加者は同意書に署名した後,その場で実験群と同様の 質問紙に回答した。1 週間後と,さらにその 4 週間後 に実験室に来室して同じ質問紙に回答した。全手続き 終了後,実験群と同様に,十分なデブリーフィングを 行い,データ使用同意書への署名を得た。 マインドフルネス瞑想 実験群は,マインドフルネス瞑想を 1 週間行った。 1 日目から 4 日目は実験室に来室して,5 日目から 7 日目はホームワークとして,各自自宅で瞑想を行った。 すべての参加者について,1 日目から 7 日目までの実 施曜日を統一した。瞑想の前後には毎回 Affect Grid (Russel, Weiss, & Mendelsohn, 1989)を用いてそのとき の気分について評定を行った。Affect Grid とは横軸に 快―不快,縦軸に覚醒―眠気を配置した,9 × 9 のマス 目からなる 2 次元の空間上で,気分の評定を行う単項 目尺度である。
1 週間のマインドフルネス瞑想の構成は, Kabat-Zinn (1990 春木訳 2007, 2003)の開発した MBSR の方針に 沿いながら,特にプログラムの初期段階で行われる呼吸法 および静座瞑想法に基づいて作成した。呼吸瞑想の具体 的な方法については,勝倉他(2009)で用いられたマイン ドフルネス訓練の内容も参考にした。 1 日目(火曜日) はじめに,瞑想とは“意識や注 意をコントロールするための練習方法”であると説明 した。その後,(a)瞑想中の姿勢,(b)腹式呼吸,(c) 数息観(すそくかん)といった,瞑想の具体的な方法 について説明した。(a)瞑想中の姿勢については,椅 子に座った状態で,背筋を伸ばし,肩の力を抜き,手 は楽にし,目は閉じても閉じなくてもよい,とした。 瞑想中は(b)腹式呼吸を心がけるよう求めた。腹式 呼吸とは,息を吸ったときに腹部が膨らみ,吐いたと きに腹部が凹む呼吸方法である。(c)数息観は,参加 者が呼吸に集中する感覚をつかむための練習として用 いた。瞑想中,呼吸に意識を集中し,呼吸の数を 10 まで数えたら,また 1 に戻ることを繰り返すよう指示 した。 次に,瞑想中は誰でも呼吸以外のことを考え始めた り眠くなったりなど,意識がさまようことがしばしば あることを,日常生活の中での例(授業中や自動車の 運転中など)を挙げながら説明した。瞑想中に呼吸か ら意識が離れた場合,それに気づき,再び呼吸に意識 を戻すよう求めた。また瞑想中,実験者がベルを 2.5 分ごとに鳴らし,ベルの音が聞こえた際,呼吸に意識 が集中していた場合は右手,呼吸から意識が離れてい た場合は左手を挙げるよう求めた。この方法は,瞑想 をしている者の意識が呼吸から離れている場合,それ に気付かせるための技法としてマインドフルネス瞑想 ではよく用いられる(Frewen, Evans, Maraj, Dozois, & Partridge, 2008)。すべての説明後,5 分間の瞑想を行っ た。 2 日目(水曜日) 1 日目の説明に加え,瞑想中は呼 吸とともに,腹部の動きなど自らの呼吸に伴う身体の 動きにも注意を向けるよう求めた。呼吸に集中する感 覚に慣れてきた場合は,数息観を行わなくてもよいこ とを説明した。2 日目も 1 日目と同様,瞑想中にベル を 2.5 分ごとに鳴らし,ベルが聞こえたら右手か左手 を挙げるよう求めた。すべての説明後,10 分間の瞑 想を行った。 3 ― 4 日目(木・金曜日) 1 日目・2 日目の説明に 加え,瞑想中に呼吸から意識が離れた場合,何に意識 が逸れていったのかを確認するよう求めた。その際, 意識が逸れていった対象について,実験者に報告する ことはないので,瞑想終了後まで覚えておく必要はな いことを説明した。すべての説明後,10 分間の瞑想 を行った。 5 ― 7 日目(土・日・月曜日) 参加者は,ホームワー クとして各自自宅で瞑想を行った。具体的には,実験 室で行ったものと同様の瞑想を,1 日 1 回,都合のよ い時間に実施するよう求めた。週末を含むため,瞑想 の時間を定時にまとめて取ることが難しい可能性を考 慮し,瞑想を行う時間帯や長さについては特に指定し なかった。 なお,1 週間の介入期間終了後,もし瞑想を継続し て行いたい場合は継続してもよいとした。4 週間後に 再び来室した際,介入後も瞑想を行ったかどうか尋ね た。行ったと答えた場合はその頻度について,実験介 入後からフォローアップ時までのカレンダーを提示 し,瞑想を行ったと思う日付に印をつけるよう求めた。 この回答をもとに,1 週間の介入期間後からフォロー アップ時までの 4 週間に,瞑想を 1 日でも行った者(継 続群)と行わなかった者(非継続群)に群分けして分 析を行った。 効果測定(質問紙の構成) 怒りの反すう傾向 怒りの反すう傾向を測定するた め,Sukhodolsky, Golub, & Cromwell(2001) の Anger Rumination Scale(以下 ARS とする)の日本語版(八田・ 大渕・八田,2011)を用いた。この日本語版は,原著 者の許可を得て作成されたものであり,本研究では, 原著者および日本語版原著者の許可を得て使用した。 ARS は 19 項目からなり,“1:ほとんどない”,“2:時々 ある”,“3:しばしばある”,“4:ほとんどいつも”の 4 件法で回答を求めるものである。下位尺度として, 怒りの捉えなおし(6 項目。項目例:口論した後は, 頭の中で相手と言い争いを続ける),報復したいとい う思い(4 項目。項目例:私を傷つけた人は許せない), 怒りの記憶(5 項目。項目例:過去の腹立たしい体験 を繰り返し思い出す),怒りの原因理解(4 項目。項 目例:腹の立つ出来事があると,それについて分析を する)の四つから構成されている。 怒りの喚起傾向と持続傾向 怒りの喚起傾向と持続 傾向を測定するため,渡辺・小玉(2001)の怒りの喚 起・持続尺度(Anger Arousal and Lengthiness Scale:以 下 AALS とする)を用いた。本尺度は 13 項目からなり, “1:全くあてはまらない”,“2:あまりあてはまらない”, “3:どちらとも言えない”,“4:ややあてはまる”,“5: よくあてはまる”の 5 件法で回答を求めるものである。 下位尺度として,怒り喚起(6 項目。項目例:ささい なことにもかっとしやすい方だ),怒り持続(7 項目。 項目例:いったん怒ると,それがおさまるまでには時 間がかかる)の二つから構成されている。 結 果 データの基本的検討 実験群のうち 2 名が,実験期間中に参加を中止した。
また,回答に不備のあった 8 名(実験群 6 名,統制群 2 名),本実験に参加する以前に座禅やヨーガなどの 瞑想を定期的に行っている,または行っていた 6 名(実 験群 1 名,統制群 5 名)を分析から除外した。この結 果,分析対象者は実験群 28 名(男性 9 名,女性 19 名), 統制群 20 名(男性 7 名,女性 13 名)の,計 48 名となっ た。実験群については,1 週間の介入期間終了後の瞑 想実施の有無に基づき,継続群 15 名(男性 4 名,女 性 11 名)と非継続群 13 名(男性 5 名,女性 8 名)の 2 群に分けた3。 怒りに及ぼす効果の検討 ARS の合計得点と 4 下位尺度得点(怒りの捉えな おし,怒りの記憶,報復したいという思い,怒りの原 因理解)および AALS の 2 下位尺度得点(喚起,持続) 3 継続群の実験介入後からフォローアップ時までの平均瞑想 日数は 7.13 日であった(SD ± 6.72,最小値= 1,最大値= 24)。 瞑想頻度の内訳は,ほぼ毎日(1 名,瞑想日数 24 日),週に 2― 4 回(5 名,平均瞑想日数 11.40 日),週に 1 回(3 名,平均瞑想 日数 3.67 日),介入直後のみ(3 名,平均瞑想日数 4.33 日),1 日のみ(2 名,瞑想日数 1 日),不明(1 名)であった。 それぞれを従属変数として,実験条件(参加者間:継 続群,非継続群,統制群)× 測定時期(参加者内: プレ,ポスト,フォローアップ)の 2 要因混合計画に 基づく分散分析を行った4。いずれの下位尺度も,尺 度に含まれる項目の素点を合計し,項目数で割った値 を尺度得点とした。各得点について,各群各時期の平 均値と標準偏差を Table 1 に示した。 ARS の合計得点および,下位尺度である怒りの捉 えなおし得点と怒りの記憶得点において,測定時期の 主効果(F(1.69, 76.17)= 13.41, p < .01, ηp2 = .23; F(1.73, 77.84)= 9.99, p < .01, ηp2 = .18; F(2, 90)= 6.53, p < .01, ηp2 = .13)と,実験条件 × 測定時期の交互作用(F(3.39, 4 介入後の瞑想継続の有無で参加者を分けずに 2 群で分析を 行った結果,ARS の合計得点および原因理解得点において,実 験条件×測定時期の交互作用(F(1.64, 75.62)= 5.80, p < .01, ηp2 = .11;F(1.77, 81.44)= 3.38, p < .05, ηp2 = .07)が有意であった。 下位検定を行ったところ,実験群における測定時期の単純主効 果のみが有意であった(F(2, 90)= 12.35, p < .01, ηp2 = .35;F(2, 92)= 6.74, p < .01, ηp2 = .23)。多重比較の結果,両得点ともに, プレ,ポスト時に比べ,フォローアップ時において有意な得点 の低下がみられた。なお,すべての得点において,測定時期の 主効果が有意であった。 Table 1 Mean (SD) scores related to mindfulness meditation for each experimental group Scores
Subscales Group n Pre Just After 4 Weeks After ARS Total Score Continued 15 2.04(0.67) 1.85(0.54) 1.61(0.51) Discontinued 13 1.90(0.51) 1.87(0.50) 1.74(0.56) Control 20 1.83(0.51) 1.85(0.49) 1.81(0.53) Angry Afterthoughts Continued 15 2.17(0.81) 1.89(0.50) 1.61(0.64) Discontinued 13 1.92(0.59) 1.88(0.51) 1.73(0.63) Control 20 1.86(0.62) 1.85(0.63) 1.78(0.64) Thoughts of Revenge Continued 15 1.58(0.65) 1.57(0.66) 1.35(0.57) Discontinued 13 1.71(0.59) 1.71(0.54) 1.60(0.55) Control 20 1.55(0.56) 1.60(0.53) 1.49(0.50) Angry Memories Continued 15 1.99(0.62) 1.75(0.57) 1.52(0.51) Discontinued 13 1.74(0.67) 1.77(0.71) 1.66(0.74) Control 20 1.76(0.64) 1.75(0.58) 1.74(0.56) Understanding of Causes Continued 15 2.57(0.99) 2.47(0.82) 2.08(0.67) Discontinued 13 2.48(0.66) 2.42(0.67) 2.21(0.64) Control 20 2.41(0.75) 2.49(0.70) 2.43(0.89) AALS Arousal Continued 15 2.80(0.84) 2.76(0.87) 2.50(0.73) Discontinued 13 2.85(0.54) 2.64(0.53) 2.65(0.44) Control 20 2.58(0.74) 2.67(0.77) 2.51(0.86) Lengthiness Continued 15 2.88(0.79) 2.53(0.69) 2.32(0.50) Discontinued 13 2.53(0.57) 2.35(0.73) 2.38(0.54) Control 20 2.76(0.68) 2.69(0.77) 2.64(0.81)
76.17)= 4.71, p < .01, ηp2 = .17;(F(3.46, 77.84)= 2.93, p < .05, ηp2 = .12; F(4, 90)= 3.81, p < .01, ηp2 = .15)が 有意であった。そこで下位検定を行ったところ,全得 点で,継続群における測定時期の単純主効果のみが有 意であった(F(2, 90)= 13.09, p < .01, ηp2 = .37; F(2, 90)= 9.22, p < .01, ηp2 = .30; F(2, 90)= 9.58, p < .01, ηp2 = .30)。多重比較(Bonferroni 法)の結果,全得点で, プレ,ポスト,フォローアップの全測定時期の間で有 意な得点の低下がみられた。一方,報復したいという 思い得点と怒りの原因理解得点では,測定時期の主効 果のみが有意であった(F(2, 90)= 4.77, p < .05, ηp2 = .10; F(2, 90)= 6.12, p < .01, ηp2 = .12)。多重比較の結果, 両得点で,プレ,ポスト時に比べ,フォローアップ時 において有意な得点の低下がみられた。 AALS の喚起得点と持続得点については,いずれも 測定時期の主効果のみが有意であった(F(2, 90)= 3.40, p < .05, ηp2 = .07; F(1.74, 78.11)= 6.51, p < .01, ηp2 = .13)。多重比較の結果,両得点で,プレ時に比べ,フォ ローアップ時において有意な得点の低下がみられた。 即時的な気分変化の検討 Affect Grid において,快―不快の軸については,最 も快な状態を 4,最も不快な状態を–4 とし,覚醒―眠 気の軸については,最も覚醒している状態を 4,最も 眠気を感じている状態を–4 とし得点化した。各得点 (快―不快,覚醒―眠気)を従属変数として,実験条件(参 加者間:継続群,非継続群)× 測定時期(参加者内: 瞑想前,瞑想後)の 2 要因混合計画に基づく分散分析 を,各参加日ごとに行った。各得点について,各群各 時期の平均値と標準偏差を Table 2 に示した。 快―不快得点では,4 日目を除くすべての参加日に おいて,測定時期の主効果のみが有意または有意傾向 であり(F(1, 26)= 9.38, p<.01, ηp2 = .27; F(1, 26)= 4.93, p < .05, ηp2 = .16; F(1, 26)= 3.48, p < .10, ηp² = .12; F(1, 25)= 5.67, p < .05, ηp² = .19; F(1, 26)= 25.31, p < .01, ηp2 = .49; F(1, 26)= 17.97, p < .01, ηp2 = .41),瞑想前 から瞑想後にかけて得点が増加していた。一方,覚醒 ―眠気得点では,1 日目と 6 日目において,測定時期 の主効果のみが有意であり(F(1, 26)= 5.83, p < .05, Table 2 Mean (SD) scores on the Affect Grid for each participation day Scores
Groups Pleasure – Displeasure Arousal – Sleepiness
n Before After Before After Day 1 Continued 15 –0.27 (1.39) 0.80 (1.32) –1.53 (1.36) –0.53 (1.19) Discontinued 13 0.31 (1.49) 1.15 (1.35) –0.54 (2.03) 0.08 (2.06) All 28 0.00 (1.44) 0.96 (1.32) –1.07 (1.74) –0.25 (1.65) Day 2 Continued 15 0.93 (1.34) 1.20 (1.08) –0.13 (1.89) –0.33 (1.40) Discontinued 13 –0.38 (1.61) 0.62 (1.98) –0.38 (2.33) –0.31 (1.84) All 28 0.32 (1.59) 0.93 (1.56) –0.25 (2.07) –0.32 (1.59) Day 3 Continued 15 0.60 (1.06) 1.27 (1.10) –0.13 (1.73) –0.40 (1.77) Discontinued 13 0.77 (1.30) 0.92 (1.26) 0.00 (1.92) 0.31 (1.97) All 28 0.68 (1.16) 1.11 (1.17) –0.07 (1.78) –0.07 (1.86) Day 4 Continued 15 0.47 (0.99) 0.67 (1.18) –0.07 (1.75) –0.33 (1.59) Discontinued 13 0.46 (1.27) 1.00 (1.68) –0.46 (2.07) 0.00 (2.12) All 28 0.46 (1.11) 0.82 (1.42) –0.25 (1.88) –0.18 (1.83) Day 5 Continued 14 0.50 (1.87) 1.07 (1.21) –0.93 (2.13) –1.00 (1.52) Discontinued 13 0.15 (1.14) 1.08 (1.04) –0.54 (1.61) –0.46 (2.07) All 27 0.33 (1.54) 1.07 (1.11) –0.74 (1.87) –0.74 (1.79) Day 6 Continued 15 –0.40 (1.55) 0.73 (1.22) –0.20 (2.08) 0.13 (1.69) Discontinued 13 –0.54 (0.97) 0.62 (0.65) –0.31 (1.38) 0.69 (1.03) All 28 –0.46 (1.29) 0.68 (0.98) –0.25 (1.76) 0.39 (1.42) Day 7 Continued 15 –0.80 (1.70) 0.33 (1.92) –0.27 (1.91) –0.33 (1.72) Discontinued 13 0.54 (1.39) 1.15 (1.63) –0.62 (1.26) 0.15 (1.95) All 28 –0.18 (1.68) 0.71 (1.80) –0.43 (1.62) –0.11 (1.81) Note. On Day 5, the data from one participant in the Continued group was rejected due to inadequacy.
ηp2 = .18; F(1, 26)= 5.62, p < .05, ηp2 = .18),瞑想前か ら瞑想後にかけて得点が増加していた。 考 察 本研究の目的は,怒りの反すう傾向,喚起傾向,持 続傾向の三つの側面に関して,継続的にマインドフル ネス瞑想を行うことによる低減効果を,実験的に検討 することであった。怒りの反すう傾向は,実験群の中 でも特に継続群(1 週間の介入期間後も自発的に瞑想 を行った群)において,介入期間直後,およびその 4 週間後にも有意に低減した。怒りの喚起傾向と持続傾 向は,実験群と統制群に有意な差はなく,全体的に介 入期間前から 4 週間後のフォローアップにかけて有意 に低減した。また,実験群について,瞑想の前後に毎 回そのときの気分の評定を求めたところ,ほぼすべて の参加日で,瞑想の前後に気分の改善がみられた。 マインドフルネス瞑想が怒りの反すう傾向に及ぼす 効果については,質問紙を用いた Borders et al.(2010) の研究,すなわち,マインドフルネス傾向が反すうを 媒介して怒りと関連しているという知見を一部支持す る結果が得られた。Peled & Moretti(2009)は,“悲し みの反すう”と“怒りの反すう”を区別して測定し, 怒りの反すうは特性怒りや攻撃性と関連しているのに 対して,悲しみの反すうはそれらの変数とはあまり関 連がないことを示している。すなわち,一口に反すう といっても,反すうする感情の種類とその影響には違 いがあるといえる。本研究では,ARS を用いて怒り に特化した反すう傾向を測定し,一定の効果を見出し たが,このことは,今後さらにマインドフルネス瞑想 による怒りの低減効果を検討していく上で,非常に意 義が大きいと考えられる。マインドフルネス瞑想を通 して,怒りの経験や記憶を反すうする傾向が低減する という本研究の結果は,過度の怒りや攻撃行動を中長 期的に制御するための技法としてのマインドフルネス 瞑想の有効性を示唆しているといえる。 怒りの反すうについてより詳細に検討すれば,本研 究の結果,ARS の下位尺度のうち,“怒りの捉えなお し”と“怒りの記憶”でのみ,マインドフルネス瞑想 の効果が見られ,“報復したいという思い”と“怒り の原因理解”では見られなかった。“怒りの捉えなおし” は,最近の怒りの経験について繰り返し考える傾向を 示し,“怒りの記憶”は過去の怒りの経験について考 える傾向を示すことから,瞑想を行うことにより,一 般的な意味での反すう傾向,すなわち,以前の経験に ついて繰り返し考えてしまう傾向が低減することが示 された。ARS を作成した Sukhodolsky et al.(2001)は, “怒りの原因理解”は,怒りの経験に対する有意義な 理解を得るための努力,“報復したいという思い”は, 怒りの経験により生起したコンフリクトに終結をもた らすための試みとして捉えることができるとしてい る。反すうに関する先行研究では,何らかの目的が阻 害され,なかなか解決策が見つからないと,解決策の ことを考えるのではなく,経験そのものやその時の感 情について考えるようになり,反すうが生じるとされ ている(Martin & Tesser, 1989)。したがって,仮に “報 復したいという思い”と“怒りの原因理解”が,怒り を内的に終結(鎮静)するための認知的試みであると すれば,これらは怒りの反すうを引き起こす要因の方 であって,厳密な意味での反すう傾向を反映していな いともいえる。さらに,これらの側面は,必ずしも繰 り返し考えたり,あるいは,無意図的ではなかったり する場合もあり(Sukhodolsky et al., 2001),一般的な 反すうの定義とは合致しない側面も含まれている。つ まり,“報復したいという思い”と“怒りの原因理解” は,マインドフルネスと反すうに関するこれまでの研 究において扱われてきたものとは異なる反すうの側面 であるため,本研究では実験群と統制群の間に有意な 差がみられなかった可能性がある。今後,介入の期間 や方法を変えることにより,マインドフルネス傾向が より高められれば,これらの側面にも効果がありうる かもしれない。例えば,マインドフルネスにおいて重 要な要素である“受容”や“とらわれない”といった 側面が,長期間の介入によって,報復や原因について 繰り返し考える傾向を抑制する可能性もある。“悲し みの反すう”に比べ,“怒りの反すう”に関する研究 はまだ少ないため,今後,反すうを含めた怒りの構造 や性質について,より詳細に検討を行う必要があるだ ろう。 マインドフルネス瞑想を通して怒りの反すう傾向を 低減することが可能であれば,怒りの喚起傾向や持続 傾向にも変化が生じると予想されたが,本研究では, 怒りの喚起傾向と持続傾向の得点の変化に群間差はみ られなかった。この理由として,以下の点が考えられ る。第一に,介入期間の長さである。もしマインドフ ルネス瞑想が怒りの反すう傾向の改善から,怒りの喚 起傾向と持続傾向の改善にまで波及効果を持つのであ れば,今回の介入期間(1 週間)ではその効果が十分 に及ばなかった可能性がある。第二に,怒りの反すう 傾向が低減することにより,付随的に怒りの喚起傾向 と持続傾向が低減するわけではなく,効果が波及する 過程には,何らかの媒介要因が存在しているのかもし れない。あるいは,喚起傾向や持続傾向は,反すうと は別の要因によっても規定されており,反すう傾向の 変化だけではなく,それらの要因との交互作用により はじめて低減されるのかもしれない。今後,怒りの各 傾向を規定している可能性のある要因の検討も考慮に 入れ,それらがマインドフルネスとどのように関連し ているのかについて,より詳細に検討を行う必要があ る。 怒りの反すう傾向は,1 週間の介入期間後も自発的
に瞑想を実践した群においてのみ,低減効果が認めら れた。これには,瞑想を行う自発性が大きく寄与して いると思われる。すなわち,マインドフルネス瞑想と 参加者との“相性”である。介入期間後も瞑想を自発 的に実践したということは,彼らは瞑想を気に入った か,介入期間中に何らかの効果を感じた可能性が高い。 こうした“相性”の良さから,瞑想を継続しなかった 群に比べて,マインドフルネス瞑想の効果が顕著に現 れたのかもしれない。マインドフルネス瞑想は,方法 そのものは単純ではあるが,実際に実行するとなると 難しいという面もある。田中・杉浦・神村(2010)は, 日常の生活音に注意を集中することにより注意のコン トロール能力を促進する注意訓練(Wells, 1990)の効 果とマインドフルネス瞑想の効果の比較を試みた。そ して実験終了後,マインドフルネス瞑想を行った参加 者に感想を求めたところ,瞑想は“難しかった”,“よ く分からなかった”という意見が多く得られたことを 報告している。マインドフルネス瞑想は,自分の呼吸 や身体感覚に注意を向けるという単純な課題ではある が,我々は日常生活の中で,それらに意識的に注意を 向けることをあまりしない。そのため,人によっては 初めての経験に難しさを感じて習得に時間を要するか もしれず,その意味ではこうした個人差も一つの“相 性”といえるだろう。本研究においても,瞑想を継続 しなかった群の中には,マインドフルネス瞑想に困難 さを感じていたり,そのために十分な瞑想ができな かったりした者がいたかもしれない。その結果,マイ ンドフルネス瞑想による低減効果がみられなかった可 能性もある。また,マインドフルネス瞑想の,長期的 な継続によって徐々に得られる全人的な変容,あるい は短期的なスパンでの進展・変化の感じにくさ(分か りにくさ)といった側面を考慮すると,報酬遅延やあ いまいさへの非寛容性(非許容性)なども,相性を規 定する要因として考えられる。今後,この点に関して 更なる検討が求められる。 実験群において,瞑想の前後に気分の評定を求めた ところ,瞑想後に快気分が増加していた。この結果か ら,マインドフルネス瞑想が即時的な気分の改善,す なわち一種のリラクセーションをもたらすことが示さ れた。この結果は,瞑想による気分の改善を示した伊 藤他(2009)の知見と一致している。伊藤他(2009) の指摘にあるように,こうした即時的な気分の改善は, マインドフルネス瞑想を継続する上での直接的な強化 子として機能する可能性がうかがえる。そして実際, このような気分改善を経験できるかどうか,できると すれば,その程度や,その改善を何に帰属するかなど が,継続と大いに関係してくるのかもしれない。こう した経験とその捉え方の個人差も,マインドフルネス 瞑想との一つの“相性”といえるかもしれない。しか し,瞑想を通して,毎回必ずリラクセーションが得ら れるわけではない。そのため,リラクセーションを瞑 想の目的に据えてしまうと,それを得られないことを 否定的に捉え,瞑想をやめる傾向が高まることが指摘 されている(Segal et al., 2002)。瞑想の初期段階にお いては,気分改善が瞑想を継続する上での強化子とな る可能性がある一方で,中長期的には阻害要因として 機能する可能性があることを踏まえ,研究としては今 後もマインドフルネスと気分改善の関連について検討 を続けていく。しかし実習にあたっては,マインドフ ルネス瞑想が気分改善を目的としたリラクセーション 技法ではないことをきちんと伝えることが必要であろ う。 本研究では,継続的なマインドフルネス瞑想による 怒りの低減について実験的に検討し,その効果および 活用可能性の一端を示すことができた。しかし,以下 に示すように,研究方法上の限界や今後の課題も示さ れた。 第一に,個人が持つ怒り一般の傾向が,マインドフ ルネス瞑想によってどのように影響されるのかに関す る基礎的な検討を行うため,本研究は一般の大学生を 対象とした。怒りの喚起傾向と持続傾向に変化がみら れなかった理由の一つとして,介入期間が不十分で あった可能性を挙げたが,もともとの怒りの傾向が病 理的に高いわけではない健常者を対象としたため,怒 りの喚起と持続傾向で効果がみられなかったことも考 え ら れ る。 し か し 一 方 で,Deffenbacher, Thwaites, Wallace, & Oetting(1994)や Fernandez & Beck(2001) のように,大学生を対象とした研究からも,臨床的に 有用な知見が一定数得られている。こうした健常者を 対象としたアナログ研究によって得た知見を踏まえ て,将来的には,過度な怒り傾向への臨床的介入とし ての,マインドフルネス瞑想の効果を検討することが 望まれる。 第二に,本研究では,実験群の介入期間を 1 週間と した。8 週間のプログラムからなる本来の MBSR に比 べると,本研究の介入期間は非常に短いといえる。一 方 で,Tang, Ma, Wang, Fan, Y., Feng, Lu, Yu, Sui, Rothbart, Fan, M., & Posner(2007)では,5 日間(1 回 20 分間)のマインドフルネス訓練を取り入れたプロ グラムを通して,不安や抑うつなどの低減を示してい る。なお,これまでに公刊された MBSR に関する研 究を対象に,そこでの介入の長さと効果についてメタ 分析を行ったところ,MBSR の効果と介入の長さとの 間に有意な相関は認められなかった(Carmody & Baer, 2009)。つまり,マインドフルネスプログラムの期間 は研究により様々であり,介入の長さと効果について は一貫した知見は得られていないといえる。また,本 研究で継続群においてのみ効果がみられた理由につい て,瞑想との“相性”の観点から考察を試みた。しか しながら,介入期間中における実験室外での瞑想の有
無や,介入後の瞑想時間の累計などを記録していな かったため,この効果が瞑想との相性によるものなの か,瞑想量の違いによるものなのかを一概には断定で きない。今後,介入期間の長さと得られる効果につい て,系統的に操作をして検討を行う必要がある。 最後に,方法論上の課題について何点か述べる。今 回実験群において,瞑想の前後に気分の評定をするよ う求めた。マインドフルネスの本来の発想が“評価を 与えないこと(Kabat-Zinn, 2003)”であることを考慮 すると,この作業がマインドフルネスの何らかの効果 を妨げてしまった可能性もある。また,本研究の統制 群には,実験群と同じインターバルで質問紙に回答を 求める以外,特に課題を与えなかった。したがって, 厳密にいえば,実験群でみられた低減効果が,マイン ドフルネス瞑想による効果なのか,単に心理学の実験 に参加したことによる効果(実験者期待効果やプラ シーボ効果など)なのかを明確に区別することができ ない。さらに,今回すべての変数において,実験条件 にかかわらず,参加者全体で有意な得点の低減がみら れた。これは,同じ内容の質問紙に繰り返し回答する 以外,特に課題を与えなかった統制群においても得点 が低減したことから,反復測定による学習効果による ものである可能性が考えられる。今後は,マインドフ ルネス瞑想の効果を的確に措定するために,実験中の 教示をより厳密化することや,何らかの別の課題や技 法を行う統制群を設けて比較すること,また,潜在的 な指標や生理的な指標を用いて,主観や学習の影響を できる限り統制・排除して検討することなどが望まれ る。 引 用 文 献 荒井 崇史・湯川 進太郎(2006).言語化による怒り の制御 カウンセリング研究,39, 1–10. (Arai, T., & Yukawa, S. (2006). Verbalization for con-trolling anger. Japanese Journal of Counseling
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