背 景
2007 年の ACC/AHA の非心臓手術における合併 心疾患の評価と管理に関するガイドラインでは周術 期体温管理について,正常体温維持が周術期合併症 予防に有用である1)ことが報告されるなど,急性 期患者の治療において患者体温管理は重要であるこ とが広く認識されている。持続的血液濾過透析 (continuous hemodiafiltration:CHDF)による体外 循環においては,外気温により自然冷却されるため, 血液の返血温度は低下する。臨床においては,膀胱 温や咽頭温などの患者体温の変化を観察しながら, 血液浄化装置操作者が,加温器の設定温度の変更を 行うことが一般的である。各種血液浄化装置の加温 方法は,直接血液を加温する血液回路加温型と,補 充液や透析液を加温する流入液加温型に分けられ る。先行研究において庭山らは CHDF 施行時の設定 条件や外気温が返血温に影響を与えていると報告2) している。一方,これら装置の加温法の違いによる 返血温については明らかになっていないため,治療技術・工夫
持続的血液濾過透析における加温法と設定条件が返血温へ与える影響
条件,加温器設定温度を含め,さらなる検討が必要 である。 今回,加温方法の異なる ACH-Σ(以下Σ)(旭化 成メディカル株式会社)とプリズマフレックス(以 下 PF)(バクスター株式会社)2 種類の血液浄化装 置を使用し,CHDF における加温法と設定条件の 違いによる返血温度への影響について検討した。Ⅰ.目 的
CHDF における加温法,設定条件変更が,返血 温度へ及ぼす影響を明らかにする。Ⅱ.方 法
加温方法の異なる 2 種類の血液浄化装置,Σと PF を対象機種とした。Σは透析液,補充液を本体 側面の金属プレートにより温め血液の加温を行う流 入液加温型,PF はヒーター内蔵のシリコンチュー ブを設定温度まで加温し返血側回路を覆う血液回路 加温型である(図 1,2)。 回路は CHDF-FS(Σ),プリズマフレックスセプ 浜松医科大学医学部附属病院医療機器管理部1),同血液浄化療法部2) 長末鉄平1),江間信吾1,2),水口智明1),中島芳樹1),加藤明彦2) 論文受付 2020 年 2 月 3 日 同 受理 2020 年 7 月 13 日 連絡先 長末鉄平 〒 431-3192 静岡県浜松市東区半田山 1-20-1 キーワード 加温方法,設定条件,返血温度,血液浄化装置 要旨:血液浄化療法による体外循環では,外気温により自然冷却されるため返血温は低下する。血液浄化装置は,これ を予防するためにさまざまな加温法を有している。しかし,各種装置による加温法,設定条件の違いが返血温に与える 影響については明らかではない。今回,ACH-Σ(以下Σ):流入液加温型とプリズマフレックス(以下 PF):血液回 路加温型の 2 種類の血液浄化装置を使用し,加温法と設定条件の違いによる返血温への影響について検討した。実験は 25℃の外気温とし,37℃に加温された水をそれぞれの血液ポンプで循環させた。血液流量,補充液流量,透析液流量を それぞれ変化させた時の返血温を測定した。室温 25℃の透析液,補充液流量を増加させると,これらが直接血液に流 入する PF で返血温度の低下が大きかった。また血液流量のみ変化させた条件では,血液流量の増大とともに両装置に おいて返血温は上昇した。外気との接触時間短縮による影響と考えられたが,PF では返血回路を直接加温するため, 低血液流量での温度低下は軽度であった。各血液浄化装置の加温方法を理解することにより,持続的血液濾過透析設定 条件変更による軽度低体温のリスクを軽減できる可能性が示唆された。ザイリスセット(PF),ヘモフィルタには sepXiris100 を使用した。実験は 25℃設定の室温環境下(25.0 〜 25.5℃)において恒温槽で 37℃に加温した水をΣ, PF それぞれの血液ポンプで循環させた。恒温槽は 37.0±0.1℃の精度で実験した。実験回路を図 3 に示 す。各装置の返血回路末端(恒温槽流入直前)に温 度センサ(テルモ社製キャピオックスコネクター ルアーサーミスタ)をそれぞれ装着した。実験 1 は 血液流量を 100mL/min と一定とし,補充液流量, 透析液流量それぞれを変化させた際の返血温度を測 定した。実験 2 は補充液流量,透析液流量を 0mL/ hr とし,血液流量を変化させた際の返血温度を測定 した。実験はそれぞれ 3 回施行し,平均返血温度を 算出した。両加温器の温度設定は 37℃に設定した。
Ⅲ.結 果
実験 1 として,血液流量を 100mL/min に固定し, 補充液流量,透析液流量を 200mL/hr,500mL/hr, 800mL/hr と変化させた。各装置の平均返血温度を 図 4 に示す。平均脱血温度がそれぞれ,36.3±0℃, 36.3±0℃,36.3±0℃であるのに対し,Σの平均返血 温度は 34.3±0.1℃,34.1±0.1℃,33.9±0.1℃であった。 PF における同様の条件下での平均返血温度は,そ れぞれ 34.9±0℃,34.4±0.1℃,33.7±0.1℃であった。 補充液 透析液 金属プレート 図 1 Σ加温器 加温器本体 ヒータ内蔵 シリコン チューブ 返血回路を覆い加温 図 2 PF 加温器また実験 2 として,補充液流量,透析液流量を 0mL/hr とし,血液流量を 50mL/min,100mL/min, 150mL/min,200mL/min,250mL/min と変化させた。 各装置の平均返血温度を図 5 に示す。平均脱血温は それぞれ,36.3±0℃,36.3±0.1℃,36.3±0℃,36.4 ±0℃,36.5±0.1℃であるのに対し,Σの平均返血温 度は 33.0±0.3℃,34.2±0.2℃,35.1±0.1℃,35.4±0.1℃, 35.7±0.1℃であった。また PF の平均返血温度は, 34.5±0.3 ℃,35.0±0.1 ℃,35.6±0 ℃,35.8±0 ℃, 36.1±0℃であった。
Ⅳ.考 察
周術期の低体温は,出血量,輸血量,感染症の増 加,回復・入院期間の増加と関係3)すると考えら れている。さらには,中枢温が 1℃低下することで, 出血や輸血のリスクは約 16 〜 22%程度増加4)する ため,血液浄化療法による低体温発生には注意が必 要である。血液流量が一定の状態で透析液,補充液 流量を増やした実験 1 において,PF の返血温度は 補充液流量,透析液流量の増加に伴い低下した。透 析液および補充液は,室温環境下(25℃)に十分保 管後に使用したため,流入液加温型でない PF は, 補充液流量や透析液流量を増量した場合に,血液に 直接流入するヘモフィルタ内部や補充液流入部での 温度低下が大きくなることが予想できる。一方で, 補充液流量,透析液流量がそれぞれ 200mL/hr, 500mL/hr の設定においては,∑よりも平均返血温 度が高く,一般的な浄化量設定範囲内であれば室温 環境下による温度変化は少ないと考えられた。また 流入液加温型の∑においては,補充液流量,透析液 流量の増量による平均返血温度への温度変化は PF と比較して少なかった。 実験 2 の透析液,補充液流量を 0mL/hr,血液流 量を増加させる条件においては,血液流量の増加に 36.5 36 35.5 35 34.5 34 33.5 温度︹ ℃ ︺ 36.3±0 34.9±0 QD=QS=200 Σ返血温度 PF 返血温度 脱血温度 n=3 QD=QS=500 透析液(QD),補充液(QS)流量〔mL/hr〕 QB=100mL/min QD=QS=800 34.4±0.1 34.3±0.1 34.1±0.1 33.9±0.1 33.7±0.1 36.3±0 36.3±0 図 4 透析液,補充液流量変更時の返血温 脱血温度 センサ 返血温度 センサ 返血温度センサ 加温器 透析液 補充液 廃液 透析液 補充液 PF 廃液 Σ 室温 25℃ 恒温槽 37℃ 加温器 図 3 実験の回路図伴い,Σ,PF の両方で平均返血温度が上昇した。 流入液加温型の∑は,外気温による温度低下のみで 加温されずに返血される。血液流量増加による平均 返血温度の上昇は,外気による血液の冷却時間が短 縮されることのみが影響すると考えられた。血液回 路加温型の PF は血液流量が 50mL/min と低流量で あっても,返血回路をシリコン製チューブで覆い加 温を行うため,返血温度が低下しにくいと考えられ た。各血液浄化装置の加温方法を理解することによ り,CHDF 設定条件変更による軽度低体温のリス クを軽減できる可能性が示唆された。しかし,本実 験は恒温槽内を水道水で満たし,実験に血液を使用 していない。さらには室温環境温を 25℃としたた め,季節などの室内温度変化については検討できて いないため,さらなる検討が必要である。
ま と め
CHDF における加温法,設定条件は返血温へ影 響を与える。CHDF 施行時の返血温は加温器の温 度設定だけでなく,施行条件,室温などの周囲環境 も合わせて考える必要がある。本実験からは,透析 液,補充液流量変更時において,PF(血液回路加 温型),血液流量変更時においてはΣ(流入液加温型) で返血温度の変化を認めた。加温器の特性に合わせ た CHDF 条件設定が必要であると考えられる。 本論文において,開示すべき利益相反はない。 文 献1) Fleisher LA, Beckman JA, Brown KA, et al : ACC/AHA 2007 Guidelines on perioperative car-diovascular evaluation and care for noncardiac surgery : Executive Summary : A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines (Writing Committee to Revise the 2002 Guidelines
on Perioperative Cardiovascular Evaluation for Noncardiac Surgery)Developed in Collaboration With the American Society of Echocardiography, American Society of Nuclear Cardiology, Heart Rhythm Society, Society of Cardiovascular Anes-thesiologists, Society for Cardiovascular Angiogra-phy and Interventions, Society for Vascular Medi-cine and Biology, and Society for Vascular Surgery. J Am Coll Cardiol 2007 ; 50 : 1707-32. 2) 庭山ゆう子,朝日亨,五十嵐雅史,他:持続的血液
濾過透析における加温器の有効性の検討.ICU と CCU 2008;10:969-73.
3) 中嶋康文:麻酔・集中治療における体温管理と患者 予後.日臨麻会誌 2013;33:25-31.
4) Rajagopalan S, Mascha E, Na J, et al : The effects of mild perioperative hypothermia on blood loss and transfusion requirement. Anesthesiology 2008 ; 108 : 71-7. 36.5 36 35.5 35 34.5 34 33.5 33 32.5 温度︹ ℃ ︺ 36.3±0 36.3±0.1 36.3±0 36.4±035.8±0 35.4±0.1 36.1±0 35.7±0.1 36.5±0.1 34.2±0.2 34.5±0.3 35.0±0.1 35.6±0 35.1±0.1 QB=50 QB=100 QB=150 QB=200 QB=250 n=3 血流量(QB)〔mL/min〕 QD,QS=0mL/hr 33.0±0.3 PF 返血温度 Σ返血温度 脱血温度 図 5 血液流量変更時の返血温
Teppei Nagasue1), Shingo Ema1,2), Toshiaki Mizuguchi1), Yoshiki Nakajima1), Akihiko Kato2)
Effect of heating methodologies and purification conditions on infused blood temperatures in CHDF
Department of Medical Engineering, Hamamatsu University Hospital1), Department of Blood Purification Unit, Hamamatsu University Hospital2)
During blood purification under extracorporeal circulation, the temperature of the returning blood decreases natu-rally because of contacting the external temperature. Blood purification systems can be used with various methodol-ogies to prevent natural decreases in temperature. However, the temperature change in the returning blood may vary depending on the heating techniques and purification conditions of different systems. In this study, we used the influent fluid heating ACH-Σ(Σ)and blood circuit heating prismaflex(PF)to examine the effects of different heat-ing techniques and purification conditions on the returnheat-ing blood temperature. These experiments were carried out at room temperature(25℃)with 37℃ warmer water circulated in both systems. The returning blood temperature was recorded by varying the blood, substitution fluid, and dialysate flow rates. When the substitution fluid and dialy-sate flow rates increased at room temperature, the returning blood temperature drastically decreased in the PF be-cause of the direct flows of the substitution fluid and dialysate into the blood. Meanwhile, the blood flow rate change proportionally affected the blood return temperature irrespective of the system. We thought that this was due to the reduced contact time at room temperature with the blood circuit. In the case of the PF, the temperature decrease was minimal at low blood flow rates due to direct heating of the returning blood circuit. We conclude that the risk of hypothermia might be resolved by understanding the heating methodologies of different blood purification systems.