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歌唱活動における声のふるまい -調音・語感・唱歌による表現の可能性-

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(1)Title. 歌唱活動における声のふるまい −調音・語感・唱歌による表現の可能性 −. Author(s). 中西, 紗織. Citation. 釧路論集 : 北海道教育大学釧路校研究紀要, 第46号: 145-151. Issue Date. 2014-12. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/7740. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 釧路論集 −北海道教育大学釧路校研究紀要−第46号(平成26年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.46(2014):145-151. 歌唱活動における声のふるまい −調音・語感・唱歌による表現の可能性− 中 西 紗 織 北海道教育大学釧路校音楽教育講座. Behavior of Voice in the Activity of Singing: Possibility of Voice Expression by Articulation, Sense of Language and Kuchi-shōga Saori NAKANISHI Department of Music Education, Hokkaido University of Education, Kushiro Campus. 要旨  本研究は,歌唱活動における声そのものに焦点をあて,日本語の調音,日本語の語感,楽器の唱歌(しょうが)による 表現の可能性から歌唱活動の意義を問い直そうとするものである。そして,声・ことば・身体に焦点をあてた歌唱活動の 意義を,声のふるまいという考え方から見直し,学習者が歌うことの意味を身体全体を通して追求していこうとするため に有効な方策を探ることを目指す。本研究では,声・ことば・身体というつながりを意識し,身体の深みから動き始める 声の音そのもののあらわれという考えから,声の「ふるまい」ということばを使う。ここでは,大学生を対象として行っ た音楽の実演家によるワークショップの中の歌唱活動や声による表現活動に焦点をあて,調音・語感・唱歌(しょうが) による表現の可能性について論じる。この歌唱活動を通して学習者の学びが深まり,歌うことのよさや不思議さを他者と どのように共有できるかということを自ら考えることにもつながった。このことは大きな成果である。. 1 はじめに. し「音楽づくり」に関する活動を見直して,子どもたちや.  我が国の学校教育の音楽科においては, 「表現」 と 「鑑賞」. 大学生を対象としたさまざまな授業実践を通して,旋律づ. の二領域を大きな柱として,それらの関連をはかった学習. くりを伴わない「ことば」のみを素材とした音楽の創作活. 活動が行われている。「表現」領域では, 「歌唱・器楽・創. 動の可能性を追究し,新たな教材開発を行っている。その. 作(音楽づくり)」の活動が行われており, 「歌唱」活動は,. 一つが「言葉のカード」で,「 『あ』の母音ひとつでも,抑. 「表現」領域の中で最もよく取り上げられるものである。. 揚や声色などを変化させることで,喜怒哀楽を表現でき. また,音楽の教授・学習において声と身体は常に欠かせな. る」 (2013,p.107)日本語の特徴に着目し, 「そ」と「う」. いものである。本研究は,歌唱活動における声そのものに. の二文字だけで声による多様な感情表現が工夫できる創作. 焦点をあて,日本語の調音, 日本語の語感, 楽器の唱歌 (しょ. 教材による活動の価値や意義について論じている。たっ. うが)1) による表現の可能性から歌唱活動の意義を問い. た二文字だが33種類もの異なる表現のカードが示されてお. 直そうとするものである。. り,表現する者が伝えたい表現意図をどうやって相手に伝.  筆者は,能における声の演技や表現に着目し,声を身体. えるか,自由に工夫することができる。このことは,後述. の側面からとらえ直すことを試み,身体の深みから始まる. するワークショップの中の,声による創造的かつ即興的表. 息や声の表現について論じることを試みてきた(中西 . 現活動とも重なることであり,歌唱活動の根源にある声そ. 2011など) 。本研究では,声の「身体性」という考え方に. のものの表情やふるまいや歌唱活動の意義について再検討. 基づいて,声の「ふるまい」という表現を用いる。. するのに大いに参考になった。また,尾藤の実践は,今後.  本稿では,大学生を対象として行ったワークショップの. の筆者自身の教材開発や,声・ことば・身体に焦点をあて. 歌唱活動における声のふるまいに着目し,そこから声によ. た授業実践にも反映させたい内容である。. る表現の可能性を探ることを試みる。.  今川(2011)の「身体性」に着目した子どもたちの創造 的活動に関する研究は,教員養成課程の学生への指導にも. 1−1 先行研究について. 大きな示唆を与えてくれる。今川は,プロジェクト「身体.  尾藤は,声による音楽創作における「創造性」を問い直. から始まる表現―感じる・つくる・響き合う」において,. − 145 −.

(3) 中 西 紗 織 幼稚園の5歳児を対象として実践を行い, 表現における「身. て「タ」。カ・タ・チにする。カタイんです。 (中略). 体性」の重要性を再確認し,音楽と造形の専門家と保育者.  小学校で皆さんが先生になった時,子どものコトバ. との連携から保育カリキュラムへの示唆を得て,「大人が. は音楽になっていく,カラダのリズムになっていく,. 自らの表現と創作の根源を探求するとき,その探求は音を. カラダのカタチになっていく。所作があなたの体型を. 介してであれ形や色を介してであれ,子どもたちの楽しく. つくります。コトバはカラダを育てます。. 生き生きとした経験=遊びに結実しうることを,この実践 を通して実感した」 (p.37)と述べている。人間の創造的.  話し手の発するコトバ,つまり声が音楽となり,リズム. 活動の根源にあるものが子どもたちの活動の中にすでにた. となり,身体をかたちづくっていく。声のふるまいは身体. しかにあるのであり,「身体から始まる表現」の活動を見. そのものなのだ。. 直すことは,他者との関わりの中から創造的なものが生ま.  竹内は次のように言う。. れてくることを考える上でも非常に重要なことである。  この他に,声,ことば,身体,表現に関しては,竹内(1990.  声は,からだからことばが生まれ出て他者に至ろうとす. など) ,谷川他(1989),佐藤(2012) ,生田・北村(2011). る,もっともなまなましいプロセスの現れだ。話す主体は. らの研究から貴重な示唆を得た。. そこに姿を現す(2001,p.16)。. 2 小学校の歌唱共通教材を用いた活動.   「春がきた」を全員で歌ったあと,詩の中のことばの語.  実践事例としてとりあげるのは,2012年2月(釧路)と. 感やイメージについて,きむら氏は次のように説明した。. 3月(東京)に実施した集中体験講座としてのワークショッ プの中の歌唱活動と声のふるまいに関わる活動の一部であ.  この歯(と自分の歯を指差して)だとか,葉っぱの. る。講師を依頼したのは,海外の大学でも指導経験があり. 「ハ」だとか,花の「ハ」だとか。実がはじけるの「ハ」. さまざまな芸術分野で活躍中の声楽家(ご本人は声楽奏者. でもあるし,始まりの「ハ」でもある。パンッてもの. と称している)のきむらみか氏と,ピアニストとしても活. がはじけるときに,やっぱりこれもはじめなのね。そ. 躍し特に歌曲と邦楽器の分野で活発な創作活動を行ってい. のはじめの「ハ」 なので。言い方にもよるんだけれど,. る作曲家の高橋久美子氏である。ワークショップ全体につ. これは, 「はーるがきーたー, はーるがきーたー」 (「ハ」. いては,「小学校教員養成課程における音楽指導力向上の. を張らずに力のないウタい方で)だと,秋がきたんだ. たえのプログラム開発に関する研究―実演家と大学教員と. か,冬がきたんだか。エネルギーを感じないのね。出. の連携による教授・学習方法を考える―」 (中西 2012). だしの「ハ」は少し, 張って発音できますか。 (中略). に詳述した。本稿では,この時話題にしなかった声に関す. 座ったままでいいから,語感を確かめる意味で,出だ. る活動を中心に考察する。. しの「春がきた」の「ハ」だけ,意識して歌ってくだ さい。 「山にきた,里にきた,野にもきた」そうする. 2−1 「春がきた」の「ハ」の調音点と語感. と,山ってどんな山だっけ? 里ってどう違うんだろ.  きむら氏は,「春がきた」(小学校2年の歌唱共通教材). う? 野はどうして野なんだろう? ご自分なりに,. 2). の体験について次のように語っ. 山が,カラダの中で,空間で感じられたり,里が里と. た。 (きむら氏のことばの中の「コトバ」 「カラダ」 「ウタ」. して落ち着いて感じられる。あるいは野が野として広. などについては,きむら氏の板書に従ってカタカナ表記と. がったりするように,工夫してみてください。各国の. する。 ). 国語によってみんな表現していることが違うけれど,.  . やっぱりどこかカラダの中でそういうイメージを思い. の「春」の「ハ」の調音点.  のどから出てきた音がどこかで邪魔されることで,. 描いていることが,コトバからわかるんです。日本語. 「ア」ではない音になる。一番初めに出てくるその. の場合はこれですね。. 音がたぶんハ行の音です。 「オー」って言っていたの が,喉頭原音と言って,喉の一番深いところで,響き.  コトバの語感やイメージ,コトバや声のふるまいに関す. になって。母音は口の形が変わることで出てくるけれ. る説明である。学生たちの歌う姿を観察していて,すでに. ど,「オー」って出てきているものが, 「ホー」ってな. 学んだことと新たな経験を結びつけて理解を深め,自分の. るためには,奥で子音をつくっています。一番奥から. 中で再構成して次の学びにつなげようとしていることが見. 出てくる子音は,エイチ系の音なんだけれども。 「ハ」 。. てとれた。ある学生はレポートの中で次のように述べてい. (中略). る。.  「カ」は「ハ」の次に出てくる子音です。 「カ」にな ると,舌根,口の奥と軟口蓋がはっきり合わさりま.  きむら先生の(筆者注:東京での)レッスンでは,. す。ここで初めてカタチになります。さっきからカタ. 他の受講生の方とご一緒させていただいた。小学校の. と言っているけれど, 「カ」 と, 舌の先がしっかりあたっ. 先生も受講しており,音楽と身体の関連について義務. − 146 −.

(4) 歌唱活動における声のふるまい 教育の現場においても重要視されていると考えること. 2−2  「とんび」を飛ばそう―語感と身体. ができる。野口体操も行い,自分が大学1年で学んだ.  次に,学生の弾き歌いによるワークショップから,「と. こととリンクさせることができた。これも小学校音楽. んび」 (小学校4年生の歌唱共通教材)を取り上げ,以下. ではなかなか取り上げられずにいると考えられる。し. にきむら氏と学生Aとのやりとりを記す。会場は天井が高. かし,体育や休み時間の遊びのように音楽もまた身体. く,広い演奏室。. を通して表現することを考えると,子どもたちにしっ かりと音楽と身体をリンクさせることの大切さを伝え.   (簡単なコードによる伴奏でAが弾き歌いを始める). たいと思った。.  きむら(以下K): (ピーンヨローの歌詞のところか ら学生の横で一緒に歌い始める)これ,歌っている?.  小学校の教育現場にいる現職の教員が音楽と身体に深い. A:はい(笑い)。. 関心を持っていて,一緒にレッスンを受けたことはこの学. K:左手だけおさえながら,自分で歌える?. 生にとって大きな刺激となったようだ。この学生はまた,. A:はい。 (1段目,C・F・C・Gとコードを弾きな. 語感やことばを身体を通して体験しとらえることの重要性. がら歌う。各コードにかなり強いアクセントがつ. についてもふれていた。 大学でのワークショップでの「ハ」. いたような弾き方). の体験をふまえて, 「春がきた」を歌い, 「春」の「ハ」が「は. K:とんび,飛んでる?. じまり」や「破」という物事の発端になる音であるという. A: (A,困ったように笑う。会場にいた学生たちも. ことや, 「花が咲く」の「咲く」が「裂ける」と同じよう にはじけるようなイメージとふるまいを持つことばである というきむら氏の説明を聞いて,自分自身の音楽の表現も. 笑う) K: 「とーべとーべーとーんび」(と歌う)。とんび, どこにいるの?. 変わったと言っている。きむら氏のレッスンを通して,学. A:空。. 生が自らのことばや語感,声のふるまいへの意識を高め,. K:空,どっち?. 学びをつなげていけるようになることも確認することがで. A:上。. きた。. K:頭の上に,それ,ある?.  次に,歌唱共通教材ではないが,声のふるまいの認識を. A:ああ…(と,うなづく). 促す歌う活動を取り上げたい。きむら氏のレッスンの中. K: (会場の全員に向かって)とーべとーべーってい. で,学生たちはコンコーネ第5番を歌った。最初に全員で. うの, これ,語感の話です。ことばが音楽をつくっ. 一回通したあと,二人ずつになってはじめの8小節を歌っ. ている。飛ぶってどんな感じ? 飛んだっ!(と. た。最初の二人組にきむら氏が次のように語った。. 声を飛ばすように声を出す)「とぶっ」て言って みて。.  今これを音符で見ていませんか? 先日釧路でも. 全員:と ぶ…. 言ったけれど,音楽は点ではなくて,点と点のあいだ. K:飛べる? それで。. が音楽。間をどうつなぐかが大事です。ところが楽譜. (Aを椅子から立たせて,そこから5メートルほど離. そのものだけを見たら, (メロディにのせて,区切る. れたドアの方を向かせる) じゃあね, 飛べって言って。. ようにしてウタう) 「アー, アー,アーーー。 アー, アー,. A:飛べ。. アーーー。 」と読めちゃうんだけれど,これを弦楽器. K: ゆっくり,と,べ(とドッシリした声で言う). で,ヴァイオリンで弾いていると思ったら(と,ヴァ. A:と,べ。. イオリンで弾いているようになめらかに音と音をつな. K:じゃあ, 「と」に少しアクセントつけようか。 語幹。. いできむら氏が範唱する) 。. この場合のゴカンは語の幹ね。コトバのボディの.  はい,やってみましょう。. ほう。この場合コトバのボディは「と」にあるか ら。 「べ」は命令するために,飛ぶっていうのが.  すると,2回目ですぐに,二人とも非常になめらかに, 声も1回目よりもずっと伸びやかに堂々と出て, 「弦楽器」. 変化しているものね。じゃあ, 「と」にちょっと 気をつけて。. のような声のふるまいをもって歌うことができた。これ. A: (とにアクセント,はっきり発音して)と,べ!. は,釧路での最初のワークショップにおいて,調音や語感. K:はい。今ここから(カラダを固くした感じで)飛. と後述する唱歌を体験することで,自分の声のふるまいを. べって言っているけれど, 飛べないな, これだと。. 実感し,声の使い方,表現したいことや方法をイメージす. そういう時には……(Aが深呼吸をする)そう!. ること,音と音の間にも音楽があることなどを経験して理. ひとつ息がいるね。膝も使って。せーの! 全員:とべ!. 解していたからこその成果だといえる。. K: (拍手する)はい!(メロディではなく,抑揚と アクセントをつけながら) 「とーべとーべーとー. − 147 −.

(5) 中 西 紗 織 んび」って言える!とんびっていう名前は, 「飛. たー」と歌い終わった途端,「部屋が割れんばかりに声が. ぶ」からですよね。せーの!. とどろき,凄まじい花吹雪が渦巻いたように見えた」(同. A:とーべ,とー…. p.204)という。. K:ああ,もう,飛ばなくなっちゃった。音楽のこと.  竹内はまた,生き生きとした歌や息と結びついた「から. を考えたら飛ばなくなるから,今はピッチアクセ. だとしてのことば」について次のように語る。. ントだけ大事に。 「とーべとーべーとーんび」(メ ロディはつけずに右手の人差指で音のピッチと声.  歌はことばだ。そしてことばは,第一に,他者に対. の方向を示すような動きをつける). するよびかけだ。第二に,呼びかけとは,音声による. A:とーべとーべーとーんびー. 文章の伝達ではない,ことばを発する人=主体の全身. K: (Aの背中を手で支えて)まだ飛んでないなあ(一. がはずんで相手に働きかけることだ。(中略)空を仰. 同笑い)。目は, 一応上にいっているんだけれど。. いで「アメーッ」と呼びかける,そのからだのはずみ. とーべとーべーとーんびー。この辺(と額のあた. 方にこそ,内から湧き上がって来るリズムがあり,そ. りを指して)にとんびが,ミミズみたいにチョロ. れが外から与えられる動きの枠組みとしてのリズムに. チョロ飛んでるように見える。ちがう? 目線が. いのちを注ぎ込むのだ。みるみる,からだが,息が,. そうなっているみたい。みんなでやってみてもい. 歌が,生き返っていく(2001,p.21 )。. い? みんなでとんびを飛ばせて。こっちの人 は,Aさんの頭の上にとんび飛ばせて。あなたは,.  身体と声とことばが一つになった「からだとしてのこと. ここにいる学生さんたちの頭の上にとんびを飛ば. ば」は,からだごと他者へ呼びかける。. せて。みんなでここにとんび飛ばそう。せーーー.   「身体」と「コトバ」の結びつきについては, 斎藤(2000). のっ!. が「からだ言葉」や身体感覚, 「身体知」という概念によっ. 全員:(各自,視線や身体の動きなどを駆使して)とー. て説明している。きむら氏は,声やカラダを通して表現活 動を行っている専門家の立場から,ことばや身体と音楽と. べとーべーとーんびー。. のつながりについて説明した。この日の受講生の多くもき. K:(拍手しながら)いいですね!. むら氏の語る調音点や語感の話に強い関心を示し,ある学  このあとAは,とんびの飛ぶ様子を声で表現するコツを. 生は感想文に「文字の音ひとつひとつに意味があって,そ. 少しつかんだようだった。ことばで記述するのは難しい. れをとらえると自然とそのような声の出し方になっている. が,Aの声が上空へ舞い上がるようになってきた。さらに,. のだと,何となくですが実感することができてとても面白. 伴奏についても,一つ一つのコードに重りのようなアクセ. かったです」と書いた。. ントのついた弾き方から,次第に声とバランスして,伸び.  受講生はおそらく全員同様の感想を持ったことだろう。. 伸びとなめらかに空へ飛び上がるような雰囲気となった。. カラダが意識を持ってコトバをハナスとき,そのコトバが. 声のふるまいが弾き歌いのピアノの表現にも効果を及ぼし. 声と身体のふるまいそのものとなってあらわれ,伝わって. た。. いく。そのことをカラダを通して実感し,他者と共有でき.  歌の表現が変化していくプロセスについては,竹内の. た体験だったといえよう。. 春がきた」のレッスンが非常に興味深い(2007 pp.183204) 。調音点や語感を実感するためのきむら氏のレッスン. 3 楽器の「声」―唱歌(しょうが)による活動. でも見られたが,次のような問いかけやことばがけが学習. 3−1 小鼓の対話. 者の声の表現に大きな変化をもたらしている。.  高橋久美子氏のワープショップでは,学生たちは能管と 小鼓の唱歌を体験した。小鼓の唱歌については, 「チ・タ・.  ・詩の中に登場するのは何人か? 誰か?. プ・ポ」という四つの音であらわされる小鼓の「声」を,.  ・「春がきた」はどんな時に感じるか?. 受講生全員が実際に小鼓を打ちながら表現した。二人一組.  ・はるってなんだろう?「は」と「る」とは?. で行い,最初の二人組は横に並んで前を向いて鼓を打った.  ・はる,なつ,あき,ふゆと唱えてみる。すると「はる」. が, 次の二人組は自然と向き合い, 音による対話を始めた。 一人はわざと怒ったような表情で相手に挑むように小鼓を. はどんな感じだろう?  ・やまって何?. 打つ。その音に応えて,もう一人が笑顔で打ち返す。交互.  ・「のにも」の「も」って?. に打つうちに,笑顔の学生は打つたびにそのタイミングで 首をかしげる。見ている者たちから笑いが起こる。.  ここにあげたのは,竹内のレッスンの中のことばのほん.  活動後,笑顔だった学生は「チって聴こえてきた!」と. の一部だが,きむら氏のワークショップにおけるプロセス. 感想を述べた。楽器の「コトバ」である唱歌が,身体を通. を体験した学生が,生き生きと「とんびを飛ばせた」よ. して語られ,二人の間に対話としての音楽が生まれてく. うに,竹内のレッスンの最後では,「野ーにーもーーきー. る。これは,声・ことば・身体の視点から非常に興味深. − 148 −.

(6) 歌唱活動における声のふるまい い成果だといえる。私たちにとっては意味のない(と思え. 身体性に関する研究からも再検討できることである。この. る)ことばでも,その音や感覚によって自然と身体が反応. ことについては,機会をあらためてさらに追究したい。. して,表現するカラダが立ち現れる。  これは,高橋氏が現代曲において歌の一部として能管の. 4 声・ことば・身体から即興的活動へ. 唱歌をそのまま歌詞のようにして取り入れて作曲したこと.  高橋氏による「音楽づくり」の活動後,高橋氏が用意し. にもつながってくる(この活動後,中西作詞,高橋氏作曲. たさまざまな場面をイメージさせるような音楽や効果音を. の《月に聲澄む》の一部を聴いた)。先に述べたが,能管. バックに,詩を朗読するという活動を行った。受講者全員. の唱歌という,そのものだけでは意味をなさないコトバ. が音楽から喚起されるイメージから発展させて,さまざま. が,意味のあるものとして歌の表現の一部となる。能管の. な声やことばによる即興的な表現によって独自の「作品」. 「声」のふるまいが,言語ではない音声によって感情を持. をつくった。. つ。.  続いて,音楽にのせて,日本語として意味をなさない音.  先にあげた竹内(2001)の「からだとしてのことば」は,. (例えば,プ・ボ・バなど)や身体の動きも取り入れて即. 存在としての「わたし」のからだ全体が働きかける仕方で. 興的な歌をつくった。受講者はワークショップ会場となっ. 他者に呼びかけるとしている(p.15) 。他者への呼びかけ. ている演奏室の中を歩き回り,歌っていくうちに,対面し. は,竹内が行っているからだとことばのレッスンのプロセ. た相手と声の音によって対話したり,お互いに声や身体の. スの中のほんの一部に過ぎないので,機会をあらためて全. 動きによって自然に同調したり反駁したりした。感覚の共. 体を見直したいと考えているが,表現することにおいて他. 有を通して,新たな身体の表現が生まれる。. 者が強く意識されていることはたしかである。.  意味のないコトバで相手と対話するこの活動の途中で,.  また,佐藤公治は次のように言っている。. きむら氏が詩を印刷した紙を取り出し,それを見ながら, (相変わらず意味のないコトバで)歌い始めた。 詩のイメー.  音楽に限らず美術も含め多くの芸術は芸術家個人が. ジや意図を声にのせて歌っているという印象だった。つま. 孤立した世界の中で行っているのではなく,直接,間. り,意味をなさない「あー」とか「ぶー」などを歌ってい. 接を問わず他者との関わりの中でそれは生まれてい. くのだが,そこには声そのものによって詩のイメージや. る。 (2012,p.2). メッセージを伝えようとする意志が感じられた。少し時間 が経ってきむら氏にたずねたところ,意味のない音を歌っ.  「芸術家」の芸術活動に関することであるが,一般の人. ている声に詩の内容を重ねて表現しようとしたのだと語っ. 間が音楽に関する創造的な活動を行う場合にもあてはまる. てくれた。詩の朗読からスタートしたことばと歌による表. ことである。高橋氏が行ったワークショップの中の音楽づ. 現活動が一旦解体され,バラバラになった意味のないこと. くりの活動は,他者との関わりの中で, 一人ではできなかっ. ばの断片を歌っていた声が,お互いに声だけで対話すると. た新たなものが生まれてくるものであり,「こんな簡単な. いう即興的活動を経て,再び意味のある世界へ戻っていく. ことで音楽づくりは体感できる」と高橋氏は語った。自分. というプロセスを進んだというように説明できるだろう。. と相手の間に音楽やいろいろなものが生まれてくることを.  このことは, 先に述べた小鼓の唱歌にも通じる。つまり,. まさに体感できるのは,このようなワークショップの意義. 小鼓のコトバが生き生きと「チ・タ・プ・ポ」と相手に対. であるといえよう。. して語りかけるのである。他者との関わりの中で,言語を 超えて身体そのものが鳴り, 奏でる。 そのプロセスを経て,. 3−2 映画の中の「踊り」. あらためて意味やメッセージを伝える。これこそ,音楽で.  声と身体による生き生きとした表現の例として,きむら. 表現することの根底にある本質といえるかもしれない。. 氏は,映画「どん底」(黒澤明監督)から,役者たちが笛 や太鼓の音や音楽をからだごと表現するシーンを紹介し.  学生の一人は次のような感想を述べた。. た。役者たちは,唱歌を唱えながら,笛を吹いたり太鼓を たたいたりする仕草をしながら,中には実際に鼓を打つ者.  ワタシをカタることがこれまで苦手でした。でも今. もいてながら,大騒ぎする。唱歌を唱えながら身体表現す. 日のワークショップを受けて,共有しようと自分から. るそのことを「踊り」と呼んでいることも印象深い。唱歌. していくこと,自分をヒラくことで,相手に伝わるも. は意味のある言語ではないが,楽器の声でありコトバであ. のがあると感じました。思い通りに伝えたいことを伝. る唱歌が,楽器の声のふるまいとして役者の研ぎ澄まされ. えること,表現することの難しさと,それを,それで. たカラダごとそのまま奏でられているということが実感を. もやってみることの楽しさを感じ取ることができまし. 持って伝わってくる。そこには声・ことば・身体によって. た。. 伝わってくるものがたしかにある。きむら氏が「ワタシは 一体何楽器?」と問いかけたこととも結びつく。竹内の「か.  「自分をヒラ」き,声と身体による活動を他者と共有す. らだとしてのことば」や斎藤の「からだ言葉」や身体論,. ることで,伝え合い,今まで見えなかった新たな可能性を. − 149 −.

(7) 中 西 紗 織 見出すことができる。先に,コトバが声と身体のふるまい. びついていることへの意識を高めることは,また,声・こ. となってあらわれ,伝わると述べたが,このこととも関連. とば・身体を通して子どもとの関わりも深めることにもな. することである。このことは,竹内が語る次のこととも重. るだろう。. なる。  以上のことから,声・ことば・身体が相互に結びついた  声の変化はからだの状態の変化の現れだが,同時に. 活動となって,学習者の学びが深まり,さらに彼らの認識. 相手に対して呼びかけていることだ。それは答えを. 活動の活性化と教える人間として子どもたちとどう関わり. 待っている。能動がそのまま受動であるからだである. ながら音楽の楽しさを共有できるかということを自ら考え. (2001,p.16). ることにもつながった。学生自身が,今まで体験したこと のないものにふれた喜びを素直に語り,自らの身体を通し.  即興的な活動を経て,今までの自分とは違う身体の動き. て理解し,そこから新たなものをつくっていきたいという. や声が出たとか,普段絶対出ないような高音域の声を出せ. 意思とモティヴェイションもうかがうことができた。声の. たというような感想も聞かれた。身体が相手に呼びかける. ふるまいを重視したワークショップは継続的に行っていき. ことで,声が変化する。これは,きむら氏も指摘したこと. たいが,将来,受講生たちが地元の音楽文化や芸術文化に. であるが,相手の声を自分のノドやカラダを通して体験し. 関わる人間として,新たな文化を創造し発信していってく. ているということである。「能動がそのまま受動である」. れることを願っている。. と実感できるのは,声によって他者と対話したり響き合っ.  歌唱活動における声のふるまいに焦点をあて,日本語の. たりするからであり,「相手に対して呼びかけている」声. 調音,日本語の語感,楽器の唱歌による声の表現の可能性. こそまさに「わたし」である。ワークショップ実施の「講. について論じた結果,そこから拡がる歌唱活動の意義とし. 座案内」のリーフレットにもあげたが, 「『わたし』と『あ. て次のことが言えるだろう。. なた』はどんな風につながって, どんな風に伝え合う」か,.  ①他者との関わり合いから音楽は生まれる。つまり音楽. その問いに答えるカギを握っているものが声であるといえ. は発信する自分と受け取る相手(他者)がいてこそ生. よう。. まれ出るものである。  ②人から人へ渡していくその間も含めて,すべてが音楽 になっている。. おわりに  今回のようなワークショップは継続するべきかという質.  ③学習者の声・ことば・身体への意識が高まり,以上の 体験を学習者全員が共有できる。. 問に対して,学生の一人が次のように答えた。.  今後の課題として,声・ことば・身体とコミュニケーショ  自分自身は継続すべきであると思う。今回のレッス. ン,伝えるというようなことをさらに見直していきたい。. ンを受けていなければ「ことば」の大切さを考えるよ うなことはもっとあとになっていたかもしれない上. 付記. に,全く考える機会がないまま子どもに教えることに.  ここで取り上げたワークショップは,2011年度北海道教. なったかもしれない。これは非常に恐ろしいことであ. 育大学学長裁量経費により補助を受け実施した。その成果. る。ことばを大切にできない教師がコミュニケーショ. については,日本音楽教育学会第43回大会(2012年10月). ン力向上をうたって子どもと向き合っても意味はほと. において「教員養成課程における音楽指導力向上のための. んどないと考える。. プログラム開発に関する研究―実演家と大学教員の連携に よる教授・学習の方法に基づいて―」というタイトルで発.  この学生は子どもたちにことばを教える立場の教員が,. 表し,研究論文(中西 2012)でも報告しており,本稿は. ことばの大切さを意識することが非常に重要であると述. これらの内容の一部に基づいて作成した。. べ, ワークショップの意義についても簡潔に述べてくれた。.  釧路と東京でのワークショップにおいてご指導くださっ.  ことばについてこの学生はまた, 次のように語っている。. たきむらみか先生,高橋久美子先生に心から感謝申し上げ ます。また,ワークショップに参加した阿部華鈴さん,荒.  言葉を大切にする意識は音楽だけではなく現代の学. 木輝さん,砂野夏未さん,木村比呂香さん,齋藤環希さ. 校教育に強く求められていると言える。この考えを音. ん,佐藤朋弥さん,佐藤由衣さん,田中千秋さん,ワーク. 楽的に考えるならば歌詞を大切にし,フレーズやリズ. ショップ実施を支えてくださった皆様に心から感謝申し上. ムだけではなく,ことばでイメージを伝えることにつ. げます。. ながると言える。自分自身ももっと語感を重視しなが 【注】. ら音楽を指導していきたいと考える。. 1)楽器が演奏する旋律や奏法のパターンを,一定の法則  ことばを大切にすることとコミュニケーションが深く結. − 150 −. に従って声に出して唱えるための方法。.

(8) 歌唱活動における声のふるまい 2) 「ハ」の子音はもともと両唇音, つまり唇を合せた音だっ たことが知られている。 「古くは『ハ』行を今の『パ』 行の音で発音していたと推定されています。 」 (町田  2003,pp.27-29)竹内(2007)もこのことにふれてい る。 【引用・参考文献】 今川恭子(2011) 「幼稚園における音楽と造形の協同プロ ジェクト『身体から始まる表現』(特集 音楽科と他 教科との連携―何を拓くためにどの教科とどのように 連携するのか)」 『音楽教育実践ジャーナル』Vol.8-2, pp.30-37。 斎藤孝 (2000) 『身体感覚を取り戻す―腰・ハラ文化の再生』 (NHKブックス893)日本放送出版協会。 佐藤公治(2012) 『音を創る, 音を聴く―音楽の協働的生成』 新曜社。 白川静(2005)『新訂字訓』平凡社。 竹内敏晴(1990)『「からだ」と「ことば」のレッスン』講 談社現代新書。 竹内敏晴(2001)『思想する「からだ」 』晶文社。 竹内敏晴(2007) 『声が生まれる』中公新書。 谷川俊太郎,竹内敏晴,稲垣忠彦,佐藤学,国語教育を学 ぶ会(1989)『「にほんご」の授業』国土社。 中西紗織(2011) 「能における声と『身体』―声を『身体』 の側面から見直す試み―」 『北海道教育大学紀要(教 育科学編)』第61巻第2号,北海道教育大学,pp.277283。 中西紗織(2012) 「小学校教員養成課程における音楽指導 力向上のためのプログラム開発に関する研究―実演家 と大学教員との連携による教授・学習方法を考える ―」『釧路論集:北海道教育大学釧路校研究紀要』第 44号,北海道教育大学釧路校,pp.69-78。 尾藤弥生(2010) 「『ことば』を音楽表現の素材とした創作 活動の意義」『北海道教育大学紀要(教育科学編) 』第 61巻第1号,北海道教育大学,pp.249-263。 尾藤弥生(2013) 「声による音楽創作教材『言葉のカード』 の価値の考察―創造性・創造過程を手がかりとして ―」 『北海道教育大学紀要 (教育科学編) 』 第63巻第2号, 北海道教育大学,pp.103-113。 町田健編,猪塚元・猪塚恵美子著(2003) 『日本語音声学 のしくみ』研究社。 (釧路校講師). − 151 −.

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参照

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