幼児の自己制御とその発達に対する保育者の評価
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第55巻 弟1号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.55,No.1. 平成16年9月 September,2004. 幼児の自己制御とその発達に対する保育者の評価 Teacher’sevaluationofpreschoolers’seliregulationanditsdevelopment 戸田 まり. 高野 創子*. 北海道教育大学札幌校心理学第4研究室・苫小牧こぶしクリニック*. 問 題. および性差については言及されていない.森下も また質問紙を用いた一連の研究(ZOOOa,b,2002). 学級崩壊や学校の荒れが叫ばれて久しいが,そ. を行っている.ここでは横断的データでは自己抑. の原因のひとつとして,幼児期からの子ども自身. 制が年齢と共に直線的に高まり,自己主張は横ば. の自己制御の弱さがあげられている.自己制御と. いとなる相木(1988)と同様の結果が得られたが,. は,「自己の行動や感情,ないしは身体的状態な. 同じサンプルについて縦断的データを取ってみる. どを,自らの力で適切にコントロールすること」. と,自己抑制が途中から頭打ちになるのに対し自. (教育心理学用語辞典,1994)であり,日常的な. 己主張は伸び続けることなどが示された.さらに. 感情表出,対人行動から,自律訓練法やバイオ. Ito&Uchiyama(2001),伊藤(2002)では,同. フィードバックなどの心理療法的な活動まで幅広. 様に横断的データと縦断的データの比較分析か. く用いられている用語である.. ら,自己主張も自己抑制も,年少(4月時点で3. わが国での幼児期の自己制御を考える端緒とし. 歳であるクラス)から年中(4月時点で4歳)に. て相木(1988)の研究があげられる.相木は自己. かけて高まるが,年長(4月時点で5歳)になる. 制御を,自らの欲求や行動を適切に抑制する「自. と頭打ちか,やや低下するという傾向を見いだし. 己抑制」と,必要なときに自らの欲求や意思を相. ている.これらに対し,中台・金山(2002)では,. 手に示す「自己主張」の2側面に分け,保育者評. 横断的データを用い,自己主張も自己抑制も年少. 定によりその発達の様相を捉えた.自己抑制が3. から年中,年長にかけてのびること,どちらの尺. 歳はじめから7歳近くまで一直線に発達するのに. 度でも女児の得点が高いことを示している.一方,. 対し,自己主張は4歳代までは伸びるがその後は. 保育者ではなく親を評定者とした場合には,異な. 頭打ちになること,一貫して男子に比べ女子で自. る結果が得られている.森下(2000a)では自己. 己抑制が高く,自己主張には性差が見られないこ. 主張には年齢差がなく,男児が高いという性差の. とが示された.これらは男性に比べ女性に,より. み見られ,自己抑制は年少と年中・年長の間で伸. 従順さや抑制を求める日本的な文化の影響ではな. び,性差は見られなかった.また高野(2003)は親. いかと考察されている.. 評定では自己主張に年齢差が見られず,自己抑制. 同様の研究はこれまでにいくつか行われてい る.堂野(1996)は同様の手法で1994年に調査を 行い,アメリカの幼児に比べ,日本の幼児は自己. における性差も保育者評定とは異なるパターンを 示すことを見いだしている. このように,自己制御が幼児期にどのように発. 主張,自己抑制ともに劣っていることを示した.. 達するかについては,同様の概念をベースとし,. ただし若干方法に差異があるため,柏木のデータ. 同じように評定を用いた研究ですら,まちまちな. と直接比較はされておらず,発達的,年代的変化,. 結果が得られている.この理由として,大きく以.
(3) 戸田 まり・高野 創子. 下の理由が考えられる. ひとつは社会・文化の違い,特に時代的背景の. そこで本研究では,先行研究同様に他者評定を 用い,幼児期の自己制御の発達的変化について検. 異なりである.相木(1988)の研究では1984(昭. 討,比較することを目的とする.自己主張は現在. 和59)年にデータが収集されているが,堂野(1996). でも4蔵前後で伸びが止まり,自己抑制は伸び続. では10年後の1994(平成6)年,森下の一連の研. けるのか.女性の社会的地位が変化した現在にお. 究と伊藤らの研究では2000(平成12)年である.. いで性差はどのように変化しているのか.保育者. この間,女性の社会進出はすすみ,男女の性役割. 評定でとらえた「子どもの自己制御」は,どのよ. に対する価値観は,少なくとも表面的には大きく. うな側面を反映しているのか.これらの点につい. 変化した.たとえば1983年には「女性は結婚して. て実際にデータと先行研究との比較を行う形で考. 子どもが生まれても,できるだけ職業をもち続け. 察してゆく.. たほうがよい《両立》」という意見を支持する者 が全体で29%であったが,2000年の調査では49%, 「結婚したら家庭を守ることに専念」に賛成する. 方 法. 者は13%にまで下がっている(NHK放送文化研. 対象者 北海道内の幼稚園2園で,担任を持つ教. 究所ホームページ).このように男女の性役割に. 師15名(3歳児クラス4名,4歳児クラス5名,. 関する考え方は時代と共に大きく変遷しており,. 5歳児クラス6名)に対し,質問紙調査を行った.. こうした変化が子育てや子どもに対する大人の対. 評定された幼児は一年次調査では計396名.二年. 応を変化させている可能性は大いにあるだろう.. 次調査においては,前年度在籍していた. 従って女児に対してより自己抑制を求める傾向. ラスと5歳児クラスのみを対象とし,回答した保. も,以前よりは薄れているのではないかと推測さ. 育者ほ2園で計11名であった.一年次,二年次調. れる.また「学級崩壊」という言葉で授業が成立. 査ともに評定された幼児は計201名である.なお,. しない状態をマスコミが大きく指摘しだしたのは. 一年次調査ではこのほかに親に対する同様の評定. 1998年であるという(尾木,1999).80年代には. と,一部の子どもに対しては自己制御を調べるた. このような言葉は流行しておらず,子どもの自己. めの実験を行っているが,本論文では割愛する.. 制御力の弱さが大きく叫ばれるようになったの. 調査内容 首藤(1995)による幼児の自己主張行. は,特にこの数年と言える.であるならば,80年. 動と自己抑制行動をたずねる尺度を使用した.こ. 代のデータと,今日とでは子どもの様相が大きく. れは相木(1988)をもとに,保護者が家庭での幼. 変わっている可能性もあり得る.. 児の自己制御を評定できるよう作成されたもの. 二点目は評定者の判断基準の違いである.保育. で,自己主張8項目,自己抑制12項目,計20項目. 者も最初に述べた文化,社会,時代的影響から自. からなる.項目を検討した結果,保育者が評定す. 由ではないため,時代や価値観が変わることで同. る場合も無理なく使用できる内容であること,相. じような子どもの行動を異なって評価することが. 木(198郎 の元項目に比べ項目数が少なく,評定. あり得る.また保育者,あるいは保護者が子ども. 者の負担を増やさないことから採用することとし. の行動を評定する場合,どのような集団の中で,. た.各項目について「ほとんどない」から「きわ. 誰と比較して判断するかで評価は大きく異なる.. めて多い」までの5段階評定を求めた.二年次調. 当然のことながら,保育者評定の場合はその保育. 査ではこの他,「昨年に比べ自分を出せるように. 者が所属する幼稚園,保育園の子どもの平均的な. なったか.あるいはそのような話を他の保育者か. 姿に強く影響されるだろう.従って特定の地域で. ら聞くか.」「昨年に比べ自分をコントロールでき. の研究成果からだけでは一般化は難しく,多くの. るようになったか.あるいはそのような話を他の. データを積み上げていく必要がある.. 保育者から聞くか.」という,子どもの自己主張,. 196.
(4) 幼児の自己制御とその発達に対する保育者の評価 Tab10.1尺度の因子分析結果(主因子解プロマックス回転) 一年次調査 番号. 項目. 二年次調査. 因子1 因子2 因子1 因子2. 2 入t)たい遊びに自分から「入れて」と言える.. 0.861 −0.026. 5 自分のやりたい遊びを,友だちを誘って始められる.. 0.834. 6 他の子どもと自分の考えが違っている時でも主張できる.. 0.812 −0.152. 7 遊びたいおもちゃを友だちが使っている時「貸して」と言える.. 0.803. 0.029. 0.779. 0.125. 1 考えを聞いたり,感想を求めると,自分なりの考えや感想を出す(もっている).. 0.792. 0.035. 0.738. 0.062. 8 人から促されないと行動が起こせない.. 0.040. 0.869 −0.007 0.867 −0,024 0.786 −0.043. −0.668 −0.136 −0,705 −0.131. 15 頼まれたことが,いやなことや難しいことでも,がんばることができる.. 0.526. 0.397. 0.471 0.393. 16 ままごと遊びやごっこ遊びなどで,自分に決められた役ができる.. 0.515. 0.279. 0.570. 12 他児のものが欲しくてもがまんする.. ー0.019. 0.327. 0.8Z6 −0.031 0.703. 13 (プランコや滑り台,おもちゃの貸し借りなど)遊びの中で自分の順番を待てる.. 0.059 0.779 0二085 0.836. 11「してはいけない」と言われたことはしない.. 0.092. 0.768. 0.141 0.798. 9 「ちょっと待っていなさい」で,待てる.. 0.178. 0.730. 0.159. 0.782. 18 遊びのルールが守れる(ズルをしたり,ごまかしたりしない).. 0.089. 0.703. 0.107. 0.7ZO. 14 友だちの物や他の子が既に使っているおもちゃが欲しいと,すぐに取る.. O.065 −0.690. 0.019 −0.695. 17 たたかれても,すぐたたき返さない.. −0.011 0.631 −0.046. 20 仲間と考えの違う時,相手の考えを受け入れられる(自分の考えだけを押し通そうとしない).. −0.065. 3 ひどい悪口を言われたり,からかわれると怒る.. 0.557. 0.500 −0.009. 4 ちょっと失敗したりうまくいかないと,すぐあきらめてしまう.. −0.297 −0.271 −0.376 −0.286. 19 勝ち負けのあるゲームで負けると泣いたり,怒ったりする.. 0.Z25 −0.335. 10 ケガしたり,血が出てもがまんできる.泣かない.. 0.161 0.204. 4.95. 二乗和. 0.199 −0.342 0.112. 0.234. 4.41 5.05. 自己抑制の全体的な印象について,「はい」「いい. 調査とも0.90,自己抑制が2回とも0.88であり,. え」「わからない」の3件法でたずねた.. 十分な信頼性が示された.. 得られたデータで各調査ごとに新たに因子分析 を行ったところ,第1回,第2回ともほとんど同. 調査手続き 担任する子どもの人数分の評定用紙. じ構造を示し,固有値の減衰状況から2因子構造. を用意し,名簿を見ながらひとりずつの評定を求. とするのが適切であると判断された.2因子まで. めた.調査時期は2002年8月(一年次調査)およ. の累積寄与率は一年次調査が47,3%,二年次調査. び,2003年12月(二年次調査)で皐る.. が4臥7%である.第一因子は「入りたい遊びに自. 結 果. 分から『入れて』といえる」「自分のやりたい遊. 荷を示し,自己主張を表す因子と解釈された.第 二因子は「他児のものが欲しくてもがまんする」 「たたかれても,すぐたたき返さない」などの項. 4.70. 24.75 Z2.56 Z5.23 23.48. 寄与率(%). びを,友だちを誘って始められる」などに高い負. 0.446. 0.346 −0.331 0.391 −0.Z98. 1.横断的分析 (1)一年次調査での検討(横断的分析1) 一年次調査のデータにもとづき,自己主張得点, 自己抑制得点のそれぞれについて年齢ごとの推移. 目に高い負荷を示し,自己抑制を表す因子と解釈. および性差をTable.2,およびFig.1と2に示. された(Table.1).そこで各因子に高い負荷量. した.幼児期は発達の著しい時期であることを考. を示した自己主張8項目,自己抑制8項目の平均. 慮し,年齢段階については一年次調査(2002年8. 評定値を,それぞれ自己主張得点,自己抑制得点. 月)の時点での年齢と,在籍クラ不(2002年4月. とした.倍額性係数は自己主張が一年次,二年次. の年度初めの時点で何歳であったか)をもとに6.
(5) 戸田 まり・高野 創子 Tab】e.2 自己主張得点と自己抑制得点の横断的検討(一年次調査) 自己主張得点(SD). 年齢段階. 男児. 自己抑制得点(SD). 女児. 男児. 女児. 年少3歳. 3.09(0.93). 3.28(1.03). 3.01(0.59). 3.31(0.87). 年少4歳. 3.57(0.73). 3.08(0.95). 3.22(0.71). 4.14(0.56). 年中4歳. 3.30(0.74). 3.14(0.92). 3.38(0.80). 3.78(0.67). 年中5歳. 3.Z6(0.87). 3.58(0..83). 3.48(0−88). 3.94(0.70). 年長5歳. 3.16(0.96). 3,32(1.00). 3.75(0.83). 4.17(0.62). 年長6歳. 3.31(1.03). 3−71(1.01). 3.87(0.82). 4.08(0.67). Flg.1 自己主張得点の横断的検討(一年次調査). Flg.2 自己抑制得点の横断的検討(一年次調査). Table.3 自己主張得点についての分散分析. つのグループに分類して検討した.「年少3歳」. (一年次調査:横断的検討). とは,3歳児(年少)クラスに在籍しており一年. 変動因 平方和 自由度平均平方 F値 p. 次調査時点で3歳であった者,「年少4歳」とは, 同様に3歳児クラスに在籍しているが,調査時点. 年齢段階. 4.451. 性. 0.356. では既に4歳になっていた者をさす.以下同様に. 年齢段階×性 5.931. 「年中○歳」は4歳児(年中)クラスの在籍児,「年. 誤差. 長○歳」とは5歳児(年長)クラスの在籍児をさ. 5 0.8901.029 n.s. 1 0.356 0.412 n.s. 5 1.186 1.371n.s.. 329.674. 381 0.865. Tab旭.4 日己抑制得点についての分散分析. す.. (一年次調査:横断的検討). 自己主張得点について性と年齢段階の2要因分. 変動因 平方和 白由皮平均平方 F値 p. 散分析を行ったところ,主効果も交互作用も認め. 年齢段階. 32.897. られなかった(Table.3).自己抑制得点では性. 性. 19.890. と年齢段階の主効果が見られ,女児の方が高いこ. 5 6.57912.369 0.000 119.890 37.394 0.000. 年齢段階×性 2.152 誤差. 5 0.430 0.809 n.s.. 202.658. 381 0.532. と,大枠において年齢が上がるにつれ得点が上昇. することが示された(Table.4,5).交互作用. Table.5 自己抑制得点の年齢段階別多重比較. は認められなかった.. (一年次調査:横断的検討). 年少4歳年中4歳年中5歳年長5歳年長6歳. (2)二年次調査での検討(横断的検討2) 次に,一年次調査から約1年後に同一園で行っ. 年少3歳. 年中5歳. と同様に横断的分析を行った.年齢段階ごとの推. 年長5歳. 198. *. *. *. 年少4歳. 年中4歳. た追跡調査(二年次調査)のデータを用いて,(1). 移をTable.6に示す.年齢段階は二年次調査時. *. * *. *. * * *. *:p<0.05.
(6) 幼児の自己制御とその発達に対する保育者の評価 Tabl8.6 自己主張得点と自己抑制得点の横断的検討(二年次調査) 自己主張得点(SD). 年齢段階. 男児. 自己抑制得点(SD). 女児. 男児. 女児. 年中4歳. 3.31(0.92). 3.97(0.93). 3.43(0.73). 3.99(0.72). 年中5歳. 3.76(0.82). 3.81(0.66). 3.77(0.71). 4.44(0.47). 年長5歳. 3.25(0.81). 3.37(0.89). 3.67(0.63). 4.00(0.71). 年長6歳. 3.22(0.88). 3.54(1.02). 3.45(0.80). 3.93(0.52). 注)二年次調査であるため、たとえば「年中4歳」は,一年次調査の時点では「年少3歳」だった着である.. 点でのものを表記したため,たとえばTable.6 における「年中○歳」の幼児は,前年の一年次調. 2.コホートによる比較 一年次調査と二年次調査の同じ年齢段階での得. 査時には1歳年下の「年小○歳」であったグルー. 点を比較したものがFig.3,4である.自己主張. プである.以下同様にどのグループも二年次時点. 得点では女児の年中4歳で大きなコホート差が見. での所属年齢段階を表している.. られる(t=3.52,p<0.01).また自己抑制得点. 二要因分散分析の結果,自己主張得点では性と 年齢段階の主効果が見られた.交互作用はなかっ. では,女児の年中5歳,年長6歳で有意なコホー ト差が見られた(それぞれt=2.40,p<0.05;. た.女児の方が高い.多重比較の結果,年中4歳,. t==・−−3.57,p<0.01).その他のグループでは,. 年中5歳が,年長5歳よりも有意に高い得点を示. 一年次と,二年次での同年齢グループとの間に意. した(Table,7).. 味のある差異は認められなかった.. Table.7 自己主張得点についての分散分析 (二年次調査:横断的検討). 変動因 平方和 自由度平均平方 F値 p 年齢段階. 6.213. 3 2.0712.684 0.048. 性. 3.239. 1 3.239 4.198 0.042. 年齢段階×性 2.191 誤差. 3 0.730 0.947 nふ. 145.849 189 0.772. 自己抑制得点では,性の主効果が認やられ,一. Fi9.3 自己主張得点のコホート差. 年次調査同様,女児の方が得点が高かった.年齢 段階では有意ではなかったが,一年次調査と異な り,年中4歳,年中5歳の方が年長5歳よりも得 点が高くなる傾向が見受けられた.交互作用は認 められなかった(Table.8).. Table.8 自己抑制得点についての分散分析 (二年次調査:横断的検討). 変動因 平方和 自由度平均平方 F値 p 年齢段階 性. 3.229 10.174. 年齢段階×性 0.746 誤差. 3 1.076 2.406 0.069. Fig.4 自己抑制得点のコホート差. 110.174 22.740 0.000 3 0.249 0.556 n.s.. 84.556 189 0.447. 3.縦断的分析 次に同じ幼児を一年次,二年次と追跡する形で 縦断的に得点の推移を検討した.被験者内要因と.
(7) 戸田 まり・高野 創子. して一年次,二年次の各尺度得点,被験者間要因. であった群)では伸びていない傾向がうかがわれ. として年齢段階と性を用い,繰り返しのある三要. た.その他の交互作用は認められなかった.. 因分散分析を行った(Table.9).Fig.5から8. 自己抑制得点では,年次,年齢段階,性のすべ. に各年齢段階ごとの得点推移を示す.自己主張得. ての主効果が有意であった(Table.10).一年次. 点では年次の主効果が見られた.全体として二年. より二年次が,男児より女児が得点が高い.また. 次調査で,・つまり翌年では得点が上がっている.. 多重比較の結果,5%水準で3歳時点だけが得点. また年次と性の交互作用が有意であり,女児の得. が低いことが示された.自己主張と同様,調査年. 点の伸びが著しいことが示された.調査年次と年. 次と年齢段階の交互作用は有意にはならなかった. 齢段階の交互作用は有意にはならなかったが(p. が,年少から年中にかけて得点が伸び,年中から. <.10),5歳から6歳にかけてのグループ(一年. 年長にかけてはあまり変動のない様子がうかがわ. 次調査で「年中5歳」,二年次調査で「年長6歳」. れた.その他の交互作用は認められなかった.. Tab18.9 自己主張得点についての分散分析. Table.10 自己抑制得点についての分散分析. (縦断的検討). 変動因. (縦断的検討). 変動因. 平方和 自由度平均平方 F値 p. 調査年次. 3.745. 年齢段階. 4.648. 1 3.74510.310 0.002 3 1.5491.361n.s.. 調査年次×年齢段階 2.638 3 0.879 2.4210.067. 平方和 自由度平均平方 F値 p. 調査年次. 6.514. 年齢段階. 6.429. 3. 2.143 3.668 0.013. 調査年次×年齢段階. 2.5g2. 3. 0.864 2.2610.083. 1 6.51417.045 0.000. 性. 1,429. 11.4291.256 n.s.. 性. 調査年次x性. 1.822. 11.822 5.015 0.026. 調査年次X性. 0.028. 1 0.028 0.072 n.s.. 年齢段階×性. 3.579. 年齢段階×性. 1.530. 3. 3 1.1931.049 n.s.. 18.876. 118.876 32.303 0.000. 0.510 0.873 n.s.. 調査年次×年齢段階×性 0.763 3 0.254 0.700 n.s.. 調査年次×年齢段階×性 0.658 3 0.219 0.574 n.s.. 誤差. 誤差. 68.656 189 0.363. 110.441189 0.584. 円g.5 自己主張得点の縦断的検討(男児). Flg.7 自己抑制得点の縦断的検討(男児). F弓g.6 自己主張得点の縦断的検討(女児). Fig.8 自己抑制得点の縦断的検討(女児). 囲注:「4歳時点(a)」は,年少(3歳児クラス)だが調査時に4歳になっていた者の得点.「4歳時点(b)」は,年中クラ ス(4歳児クラス)で4歳の者の得点を表す.以下「5歳時点」(a)(b)についても同様.. 200.
(8) 幼児の自己制御とその発達に対する保育者の評価. 最後にこのような全体的な印象が個々のどう. 4.保育者が評価する「自己制御」 評価した保育者は子どもの行動のどのような点. いった行動と関連するのかを調べるため,「去年. を見て自己主張,あるいは自己抑制の高低を判断. より自分をコントロールできるようになった」へ. しているのだろうか.これを検討する目的で,二. の回答を独立変数,各賞間項目への評定値を従属. 年次調査にお)?て一人一人の子どもに対する全体. 変数として同様に一元配置の分散分析を行った.. 的な印象をたずねた.結果をTable.11に示す.. Table.14に示す8項目で有意差が見られ,いず. 保育者は全体の約7割の子どもに対し,昨年度よ. れも「自分をコントロールできるようになった」. り自己主張ができるようになったと感じていた.. と判断された子どもの方が高い評定値を示した.. 自己抑制については,約6割が昨年より高まった Tab旭.11二年次調査における教師の全体的な印象. と評価しており、,いずれも性差,グループ差は認. (人数と%). められなかった.. コに他. る、︻ノ・卜つ教 せい、ノンなの. 自る1︻ノ. を・︻ノを. た(そ. 分よ話. 比で・つ. 去年に ロール. ベきい. 抑制. 立変数,各尺度得点を従属変数として一元配置の. にに他. いるかを調べるため,全体的な印象への回答を独. 虹.ふ. という全体的な印象はどのような行動を反映して. 十. 項目. 年、つを 去よ山帯 張 主. 次に,「自己主張/抑制ができるようになった」. はい いいえ わからない 142(70.6) 9(4.6)49(24.9). 121(59.9)10(5.1)69(35.0). 師から聞く). 分散分析を行った.その結果,自己主張力の全体 的な印象として設定した「去年より自分が出せる. Tab始.12 自己主張に関する全体的な印象と尺度得. ようになった」という質問に対する回答では,ど. 点(SD)(二年次調査). の尺度得点にも差違が認められなかった.自己抑. り自分カよう. 得点. 制力の全体的な印象として設定した「去年より自. い. 群聞差. 自己主張得点 3・56(0瀾)3・13(0・鱒 3.31(0.96)なし. 分をコントロールできるようになった」という質. 自己抑制得点 3.86(0.74)3.97(0.63)3.79(0牒4) なし. 問では,自己抑制得点に差は見られなかったが, Table.13 自己抑制に関する全体的な印象と尺度得. 自己主張得点に有意な差が見られた(F=11.44. 点(SD)(二年次調査). d.f.=2,197 p<.01).このことは「去年よりも 得点. 自分をコントロールできるようになった」という. 去年より自分がコンできた. 群間差. はい. 印象を持たれた子どもは,自己主張得点が高いこ. 自己主張得点 3.71(0.80)3.10(1.14)3.10(0.88) 有. とを表す(Table.13).. 自己抑制得点 3.郎(0、72)3.76(0.76)3牒3(0.72) なし. Table.14 自己抑制に関する全体的な印象と各項目への評定値(SD)(二年次調査) 去年より自分がコントロールできるようになった はい. いいえ わからない. F値 p. 群間差 はい>いいえ,. 考えを聞いたり,感想を求めると,自分なりの 考えや感想を出す(もっている).. 3.62(1.11)2.86(1.32)2.97(1.18)8.510 0.000. 入りたい遊びに自分から「入れて」と言える.. 3.飢(1.10)3.40(1.51)3.03(1.15)10.663 0.000 はい>わからない. 自分のやりたい遊びを,友だちを誘って始めら. 3.68(1.15)3.10(1.52)2.87(1,29)10,120 0.000 はい>わからない. れる,. 他の子どもと自分の考えが違っている時でも主 張できる.. 遊びたいおもちゃを友だちが使っている時「貸 して」と言える.. わからない. 3.30(1.24)2.80(1.55)2.79(1.24)3.773 0.025 はい>わからない 3.90(1.02)3.30(1.42)3.48(1.02)4.484 0.012 はい>わからない. 人から促されないと行動が起こせない.. 2.31(1.13)3.00(1.15)2.68(1.24)3.206 0.043 はい>わからない. 頼まれたことが,いやなことや難しいことでも, がんばることができる.. 3.84(1.02)2.90(1.20)3.29(1.19)7.80Z O.001. ままごと遊びやごっこ遊びなどで,自分に決め られた役ができる.. はい>いいえ・ わからない. 3.82(1.03)3.50(0.71)3.29(1.06)6.926 0.001はい>わからない.
(9) 戸田 まり・高野 創子. これらはすべて「自己主張得点」を構成する項目. 第一に,自己主張も自己抑制も3歳から4歳にか. であった.. けて伸びが大きく,5歳以降はさほど大きく変化 しないのではないかと推測される.このような結. 考 察 子どもの自己制御の発達と性差. 果は先行研究(森下,2000b;伊藤;2002;中台・ 金山,2002)とも一致しており,また自己制御に ついて実験的研究を行った鈴木(2003)も,年少. 本研究では保育者評定を用いて,幼児の自己主. 児において目の前に誘惑物があると自己抑制でき. 張と自己抑制がどのように発達するかについて調. なくなりがちだが,年中,年長児ではそれでも抑. べた.. 制できる者が多くなることを見いだしている.こ. 自己主張得点は,一年次調査の横断的検討では. れらのことから,幼児期の自己制御は3歳から4. 性や年齢段階と関連がなく,少なくとも3歳から. 歳にかけて大きく伸び,4歳(年中)付近を境に. 4歳にかけては伸びるとする先行研究(相木,1988. して変化することが示唆される.先行研究でも年. ;森下,2000b;Ito&Uchiyama,2001;中台・. 長になると得点として.は伸びなくなるという知見. 金山,2002など)とは異なった結果となった.さ. が多いが,これは自己主張や自己制御の質的な違. らに翌年の二年次調査で同様に横断的検討を行う. いが評定にうまく反映されないという意味かもし. と,今回は性と年齢の主効果が見られ,女児の方. れない.. が自己主張が高いことが示された.また年齢段階. 第二に性差に関してだが,女児の万が一般に自. では年中(4歳クラス)が高く,年長(5歳クラ. 己抑制が高いということは多くの研究で支持され. ス)になるとかえって下がるという結果が得られ. ており,本研究でも同様の結果が認められた.自. た.このような矛盾した結果は,その年のクラス. 己抑制面で性差が見られていないものは先行研究. の雰囲気や特徴を反映したせいとも考えられる.. でも少ない.これらから考えて,少なくとも幼児. 一年次調査と二年次調査で,同じ年齢段階での比. 期においては,一般に女児の方が自己抑制に長け. 較(コホート比較)を行った結果もこのことを裏. ていると言える.ただし,これが実際の性差その. 付けた.同じ子どもを追跡した縦断的検討では,. ものを反映したものか,それとも評定する保育者. どの年齢段階でも前年度よりは評定値が上がるこ. の性役割ステレオタイプが色濃く反映された結果. とが示された.先行諸研究では年少(3歳クラス). なのかは今後の検討課題である.実際に子ども自. から年中(4歳クラス)にかけて自己主張が伸び. 身に対して実験的手法でアプローチすると共に,. るという知見を得ているものが多く,本研究でも. 性差を強く意識した幼稚園・保育園と,ジェン. このことは支持された.. ダー・フリーを意識した幼稚園・保育園とで比較. 次に自己抑制であるが,一年次調査,二年次調. することも有効と思われる.自己主張は本研究の. 査とも,性差については先行研究(相木,1988). 結果では女児の方が高かったが,先行研究では結. 同様,女児が高いという結果が得られた.また一. 果が錯綜しており,一般化できる時点にまでは. 年次調査では年齢が上がるにつれ得点が上昇した. 至っていない.. が,二年次調査では必ずしもそうはならず,コホー. 第三に,本研究でも先行諸研究でも,横断的検. ト差が顕著であった.同じ子どもを2年にわたっ. 討をした場合と縦断的検討をした場合とでは同じ. て追跡した縦断的検討では,自己抑制が年齢とと. サンプルであってもかなり異なる結果が認められ. もに上昇するという結果が得られた.さらに3歳. た.子どもたち自身が実際に自己制御の面でかな. から4歳にかけて伸びが大きいことが示唆され. り異なることがあるのか,それとも保育者が変わ. た.. れば基準が変わるため,具体的な行動頻度をたず これらの知見から,以下の三点が指摘できる.. 202. ねるような設問であっても評定値が不安定に動く.
(10) 幼児の自己制御とその発達に対する保育者の評価. のかは本研究だけでは明らかにならない.しかし,. 伊藤 篤 2002 幼稚園児の自己主張・自己抑制の発達. 横断的研究の知見だけをもって発達を論じるのは. 的変化(2)一棟断データと縦断データの比較一 人間. 実態を正確に反映しないと言えよう.. 科学研究(神戸大学)10,1,3ト48. 工to,A.&Uchiyama.Ⅰ.2001Developmentalchangeof. 保育者評定について. Self−aSSertionandselfqcontrolinpreschooIchildren. 人間科学研究(神戸大学) 9,1,47−56.. 保育者に昨年と比較しての全体的な印象の評定 を求めると,約6∼7割の子どもにおいて自己主 張も自己抑制も高まっているとの回答が得られ. 相木恵子1988 幼児期における「自己」の発達 行動 の自己制御機能を中心に 東京大学出版会. た.しかしこの全体的印象と結びついているのは 自己主張得点のみで,自己抑制得点とは何の関連 も認められなかった.このことから,保育者の中. 教育心理学用語辞典1994 学文社 森下正廉 2000a 幼児期の自己制御機能の発達(1)一思. で「自分をコントロールする」ということが,具. いやり,攻撃性,親子関係との関連一 和歌山大学教. 体的な行動としては自主的に遊びに入っていく力. 育学部紀要 教育科学 50,9−24.. など,自己主張として想定されている概念に近い ものとなっていることが推測される.確かに自己 主張が自己主張として成り立つためには,周囲の. 森下正康 2000b 幼児期の自己制御機能の発達(2)−親 子関係と幼稚園での子どもの特徴一 和歌山大学教育 学部教育実践総合センター紀要10,11ト128.. 状況を読み,どのような主張方法が適切かを考え 行動することが必要であり,その前提としてある 程度の自己抑制は不可欠であろう.保育者,ある. 森下正康 2002 幼児期の自己制御機能の発達(4)一園 と家庭における縦断的研究一 和歌山大学教育学部紀 要 教育科学 52,1−12.. いは親など身近な大人がポジティブな意味での自 己主張を考える時,そこに自ずから自己抑制的な. 中台佐喜子・金山元春 200Z 幼児の自己主張,自己抑. 側面が混在してしまうことは想像に難くない.. 制と問題行動 広島大学大学院教育学研究科紀要 第. 今回の研究に協力してくれた保育者からは,同. 三部 51,297−302.. じ行動でも,年齢により評定基準が異なってゆく. NHK放送文化研究所ホームページ 第7回日本人の意. とのコメントが得られている.たとえば,攻撃さ. 識調査・2003. れて攻撃し返した場合,3歳児であれば自己主張 が順調に育っていると見るが,6歳児では自己抑. 制に乏しいと見るといった例が挙がる.高野. http://www.nhk.or.jp/bunken/yoron−S/yo−ic・j.html 尾木直樹1999 「学級崩壊」をどう見るか. NHK. ブックス. (2003)は自己主張と自己抑制が年齢が上がると 共に共通した内容を持つものとして認識されるよ うになるのではないかと述べているが,発達段階. 首藤敏元1995 幼児の向社会的行動と自己主張一自己 抑制 発達臨床学研究 7,77−86.. により同じ行動の意味が異なってくることを十分. 高野創子 2003 私の「主張」 一助児期の自己制御の. に認識した上で,今後この分野の研究を進めるこ. 発達一 北海道教育大学修士論文. とが望まれる.. 謝. 文 献. 辞. 本研究にあたりご協力いただきましたピノキオ. 堂野恵子1996 幼児の自己制御機能の発達と親が期待. 苫小牧幼稚園およびエンゼル幼稚園の皆様に深く. する子どもの将来像 一目米比較一 安田女子大学紀. 感謝いたします.. 要 24,125−134.. 203.
(11) 戸田 まり・高野 創子. 注 本研究は第一著者に対する平成14年度∼15年産 科学研究費補助金(基盤研究(C)(2))(課題番号. 14510116)を受けた.. (戸田 まり 札幌校助教授). (高野 創子 苫小牧こぶしクリニック). 204.
(12)
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