幼児前期の身体から派生する表現活動に関する研究
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(2) 116. わすことができないし、運動が心的生活の全てをあらわ. 荏(1996年)まで継続しているが、本研究では1995年. しているとされている。そして、年齢発達に応じて、そ の運動の段階を4段階、すなわち. 9月6日までの1歳7ケ月2日から3歳11ケ月18日ま での2年4ケ月間の観察記録を対象とした。観察は原則 として1週間に1回保育園を訪問して行った。ただし8. 1)衝動的運動性の段階. 月は観察を行わなかった。観察時間は、自発的活動場面. 2)情動的段階 3)感覚運動的段階. の多い平日の午前中、 9時半から11時半の問である。 全観察回数は53回である。. 4)投影的段階に分類している.. て感覚が生じ、たとえば「快感」という感覚印象がある. [結果と考察] (1) 1才7-8ケ月-視覚、触覚の働き(表1参照) 表1-1は1歳7ケ月の事例である。これは、 9:40. とその運動を繰り返そうとするといわれている。つまり、 なにか偶発的な運動からある効果が生じると、子どもは. から11:00の観察記録な中からA男が身体を用いて表現 しているものを抽出し、人とのかかわり、物とのかかわ. この効果を再現しようとするのだといわれ、これを循環. り及びその両方にかかわるものを記述整理したものであ. 活動とよんでいる。. る。この事例より<見る>という行動が多いことに気づ. 3)の感覚運動的段階では、生体は運動することによっ. 次に4)の投影的段階では、運動身振りが意識に心的. かされる。例えば、 「他児が車を押すのを見る」、 「奉を. 印象を与える手段となる、とされており、このとき、子. もったまま他児の方を見る」というものである。また、. どもは言葉によるのと同じくらい身振り動作を用いて自. 波線はさわるという触覚に関する行動であり、 1歳8ケ. 分を表現している。また、話しの補助としての動作も用. 月の時期には、 1歳7ケ月よりも見てさわるという視覚. いたりもする(8)。ここで重要なことは、この段階以前か らみられる「模倣」という行動である。この模倣につい. と触覚の活動が頻繁にみられ、これはワロンのいう外受 容感覚にあたるものと言えよう。 (表1-2参照). てワロンは大きく3つのレベルで考えているようである。. このように、整理することによって1歳7ケ月から8. まず、最初は、子どもが自分をやったばかりの身振りを. ケ月には、主に視覚、触覚といった感覚器官からの表現. 自分の前でだれかが再現すると、これを子どもが反復す. を兄いだすことができた。次に、自らの身体による身振. る、というものであり、これは比較的早い時期から出現. りの模倣として、先はどワロンの論で説明した投影的段. するといわれている(9)。 次に、先に自分の方で同じ身振りをしなくても、モデ. 階について事例をみていきたい。. ルの身振りを知覚しただけで模倣ができるようになると. (2)投影的段階としての身振りの模倣. いう段階であり、モデルを見て真似をするということで. 事例2 (1993者21観察) 1歳10ケ月2日. ある。ここでは、 「知覚一運動的結合があらかじめ構成. A男は先生にL字型のブロックを<手渡す>。先生が. されている」(10)ということがわかるとされている。さら. それをもって食べる振りをするとA男も食べる振りを. に高いレベルになるとモデルが目の前になくても、模倣. <真似する>。. できるようになり、それは延滞模倣と呼ばれるものとさ れている(ll)。 以上、ワロンの身体と表現に関わる概要の一部を示し. ここでは、先生の食べる振り、そのものを真似ようと する行動がみられた。それまでA男が自発的に食べる振. た。これらが実際の幼児の身体から派生する表現とどの. り(身振り)をしたことはない。ここでも先生の行動を. ように関連づけられるのであろうか。現象として目の前 に現れるが、その意味をっかむことの困難な幼児の身体. 真似るということが主であったといえよう。つまり、行. からの表現についてワロンやその明解な解説者である浜 田の論によって整理し、その意味について考察を試み、. ら自分の身体を使って真似することが出来たといえる。 この模倣については、ワロンが「モデルの身振りを知覚. 身体に根ざす表現活動を見直し、保育内容「表現」を考. しただけで模倣できるようになる」(12)段階であるとし、. える基底としたい。. これは、 「あらかじめ知覚一運動的な結びつきが構成さ. 動を客観的に見る事が出来た結果、その行動をA男が自. れていた」(13)ものと言えよう。ただし、ここでの模倣は. [研究方法]. 単なる行動の真似ということだけではなく、 「振り行為」. 兵庫県内M保育園の男児1名(A男、 1991年9月19 日生まれ)について参与観察方法により行動を記述した。. を真似るということの二重の意味がある(14)。 A男はもち ろんそのブロックを食べたわけではなく、先生を真似て. その記録を時系列に整理し、身体から派生する表現活動. 「食べる振り」をしたのである。. を抽出し、検討した。観察は、 1993年4月21日から現.
(3) 幼児期の身体から派生する表現活動に関する研究. (3)身体言語. 117. 動きでそばにいる大人に意恩表示したものである。麻生. 事例3 (同上) 1歳10ケ月2日 A男は滑り台の横にいる。観察者に対し<両手を挙げ. は「生後11ケ月になると"身振り言語''とでも言いた. て>、観察者の方を<見る>。観察者はA男を上に持ち. ものがある種の"言語"として機能し始めたと言っても. 上げ、滑り台の途中から台にのせる。 A男は歓声をあげ. 過言ではない」(16-と指摘している。この時期、まだ言葉. くなるような複雑な行動」(15)がみられ、 「 "身体"その. て<滑り降りる>。下までいくと、再び<両手を上に挙. が出ない分「身振り」として意志を通じさせようという. げて>観察者の方を<見る>。観察者は同じように台の 途中からA男をすべらせる。これが、 7-8回続いた。. 行動がみられる。また、何回もその行為を繰り返すこと は、活動の結果、自分の行った運動が外の世界にある効 果をもたらしたことを感知し、この運動と効果を結び付. この行為は、 A男が言葉ではなにも言わないが身体の. けるという「循環反応」anであると言えよう。. 表1身体から派生する表現活動---視覚の働き. 表1-2. 事例1 - 1 (1993,4,21観察) 1歳7ケ月2日 人 とのかかわ り 9:40 他児 が車 を押す のを < 見 る> 他児 の声 の方を< 向 く>. 事例1 -2 (1993,5,19観察) 1歳8ケ月0日. 物 とのかかわ り 車 か ら離 れ、 暫 く して尊. 人 とのかかわ り 9二 25. に< 乗 る>. 物 との か か わ り て ん と う虫 を< 見 る>. 観察 者 を< チ ラ ツと見 る>. 車 を< 押す>. て ん と う虫 に く さ わ る > 「ム ンム 、 ム ンム」. 他児 に車 を. と< 言 う>. < 押 され たまま>. サ ラ砂 に く さわ る> 遠 くか ら観 察者 を< こ 見 る>. 車 を持 ったま ま、他児 の方 を< 見 る> !′. < 振 り返 って見 る>. 調 理 室 へ < 歩 く> 9 :30. 観察者 の方を. → < 食 べ る>. < じっと見 る>. 座 るよ うに言 われ < 座 る>. 地面 に< 座 り> 車 を< さわる> 、 、 !.、 !. 、 ..!、 ー ′ 、 .!、 、 、 .. ′ 、 !、 、. 10 :05 車 を< とられ る>. ヤ ク ル トを< も ら い> l→< 飲 む > 他 児 を < 見 る>. l→< 泣 く> 車 を< もらい>. 豆 を< も ら う>. 車 で地面 を ぐる ぐる. →< 押 す>. 観察 者 に自分 の手 の 傷 を. < 回る>. < 見 せ る>. 車の上 に< 座 る> 10 ‥ 15. → < 走 らせ る> 積 み 木 の 上 を < 歩 く>. 先生 と花 の方 を< 見 る>. 積 み木 の 上 で < ひ っ く り返 る>. . ち 泣 いて い る他 児 を< 見 る>. 10:25 9‥ 40. 積 み 木 を < 持 っ て くる>. 10 :31 他児 のサ ラ砂 づ くりを < 見 る>. 他 児 の や って い る事 を →. サラ砂 を< さわる> 、 、 ー !.、 .ノ .、 、 ノ .、 、 ノ .、 、 ノ .、 ノ .、 .!.、 車 をく さが す> →. < 見 る> → < 真 似 を す る>. →車 を< もらう>. < つ ま ず く>. 一 →< 押す> l→滑 り台 に足 を < のせる> 一 →車で滑 り台 に < 昇 ろ う> とす る 先生の いる部屋 の方 を < 見 る> →先 生 を< みつ け る> → 先生 の方 へ < 走 り よ る> →先生の手 を< 引 っ張 る> 先生 の手 を < つ ないで歩 く>. 他 児 の さわ つて い る もの を < 見 る>. トラ ックを台上 に乗 せたい様子で観察者 を< 見 る>. ll:00. → < さわ る>. 車 を持 って先生 の方へ向か って< 歩 く>. r - x ゥ:i ≡ ▼ f. 10 :4 1. お もち ゃを < 見 る>. 9 :4 5. l十< こ ろが る> 外 を< 見 る> i パ ケ を < さわ る> l 、 ノ .、 ∼、 !、 J. 、 州 → 外 を< 見 る> → 虫 を< み つ け る> 鎖 を< さ わ る> 、 ノ 、!.、 .!、 !、 八ノ 、 一 へ → く ゆ らす > 砂 を< さわ る> 、 ノ 、 一 !、 一 !′ 、 、 ノ ′ .、 ′ . 、 ノ V 、 ロ ー プ を < さ わ る> 、 一 ′ へ し ′ .、 ノ 、 ー ′ 、 ノ . 、!、 ノ ′ 、.
(4) 118. 事例4 (1993,9,8観察) 1歳11ケ月20日. イメージは共有しているのである。相互理解が成り立っ. A男が同年令のB男とっかみあいの喧嘩を始めた。 A. ているのであり、かかわりが生じているのである。つま. 男はそばにいる観察者の方へ来て<身をよせた>。観察. り、 「人と並んで『ともに』外のなにものかを見. 者もA男を守るようにした。その後暫くして、車に乗っ. る」(19)ことで「自己と他者が何かを共有するという」三. ていたA男は観察者の方に<来て><手をとり、ひっぼっ. 項関係の確立を示している(20)。. た>. (中断)ミニカ-でプロIyクをさわっていたA男 は観察者の方を<ちらっと見て>私の方に近づいてくそっ と手をつないだ>。そして、観察者が他児と見ていたも のについて、 「これ、な一に」と<きいた>。. (5)身振りによる表現活動 表2は、 1才11ケ月以降に見られたA男の身体を用 いて、明らかに何かの「振り」をした内容の一覧であるo 事例の中の< >内は身体の動きをあらわしている。. この時期にいたるまでA男と観察者のかかわりはほと. 表2 A男の身振りによる表現活動 (1才11ケ月から3才10ケ月). んどみられなかった。しかし、自分を守り依存できる者 としてA男が観察者を認めた時、関係性が始まった例で ある。ここで<身をよせる><手をとる>という行為は、 A男の積極的な意志を明確に表しているものと思われる。. 年. 令. (4)対物認識を介在した表現活動. レ-ン、クレーン」と言って<動かしていた>oまた別 の木片を<持ってきて>、 「クレーンきたで」 「クレーン・ カー」と<呼んでいた>o木片を積み重ねてクレーン車 に見立てていた。. ろに、 A男が<急いで入ってきた>。自分も白いミニカー を<みつけ>、数枚の細長い板がつなげて敷いてあると. ブロ ックを頭 に載 せ て 「カ ク レンジ ャー」 とい う (事例 9 ). 2才10 ケ月10 日. 大型積 み木 で 「 忍者」 、 ブロ ックで 作 った剣 を もつ (事例 10). 2才11 ケ月27 B. 観察者 に 「スーパ ーむ て き しよ うぐん 」 と 言 いポーズ (事例 11). 3才 0 ケ月 1 日 積 み木 で滑 り台の坂をつ くり、滑 り降 りる 3才 1 ケ月 0 日. 積 み木 で乗 り物 を つ くる0 「カゴオパ ケ」 と言 う. 3 才 1 ケ月 8 日. 観察者 の背中 を 「カ ク レンジ ャー l」 と言 つ て押す (事例 12). 3才 1 ケ月20 日. 跳 び箱上で 「トリN ト、 ゴ ッ ドサ イ ダー」 と唱え、飛 び降 りる. 3才 4 ケ月 8 日. 車の模型で 「 温泉 、 あ った か い」 と言 う0 砂を 「 お米」 と言 う. 3才 5 ケ月 5 日. カク レンジヤI ごっこ、三輪 車を とりもどす (事例 13). 3才 5 ケ月22 日. ブロ ックの中で 「ヤマ ンバ恐 い」 と言 う0 マ ットに頭頂をつけ る. 3才 7 ケ月 1日. 2 本の棒でカ クレンジヤI の戦 いをする. 3才 7 ケ月29 日. タイヤの中の蟻 を見 て 「ア リの音 楽 隊」 と 言 う0 砂の ごちそ う. 3才 8 ケ月 6 日. ブロックの剣を もって走 り回 る. 3才 8 ケ月13 日. まま ごとで引 っ越 しをす る. 3才10 ケ月 2 日. 積み木上で ガ ンダムとウル トラマ ンの戦 いを する. ころに<行って>、ミニカーを<走らせた>O 事例7 (1994,1,26観察) 2歳4ケ月7日 A男は園庭の隅でたくさんの小石の入ったバケツを <みつけた>。側にいる観察者に「お米」と<言った>。 そして、その小石全てをバケツから<出し>、次にバケ. 容. 2才 5 ケ月24 日. 事例6 (1994,1,12観察) 2歳3ケ月23日 室内で同年令の男児3人がミニカーで遊んでいるとこ. 内. カ ゴをT Ⅴに見立 て、 中に入 った り出た りす る (事例 8 ). 事例5 (1993,12,8観察) 2歳2ケ月20日 A男はB男と共に、木片をクレーン車に見立て、 「ク. 現. 1才11 ケ月20 日. それは、言葉によるものではない、身振り言語とも言う べき表現で示されている。. 表. (才. 月. 日). 篭を頑に被 り. ツに<入れた>。この出し入れを数回繰り返した。 (中 略)砂場で、ミルクを入れるカップに砂を<入れ>、 「今度はミルク」と<言った>。. 事例8 (1993,9,8観察) 1歳11ケ月20日 年長の男児が観察者に向かい「テレビがあるよ」と台 上の横向きのカゴを示した。観察者はA男に向かって. これらの事例は、木片をトレーラーに、板を道路に、 小石をお米に、砂をミルクに見立てた例である。いずれ. 「テレビだって、 A男もうつるかしら?」と声をかけた。 A男はその声をきいて、カゴの方に<歩き>そのカゴ. もなにか「物」をあるイメージに重ね合わせている例で. を手に<持った>。それを側にある砂の方に<持っていっ. ある。ワロンは、 「人と人との間で成り立っ相互理解」(18). て>そのカゴの中に<入ろうとした>。頑から<入ろう. として、見立てる物自体よりも見立てた物によって行動. としたり>、お尻から<入ろうとした>。また、身体を. する身体を問題にしている。つまり、ここでは、複数の. <半分に折って>、お尻から<入り>、顔をカゴの外に. 他児との「見立て」を通した活動が展開されるのだが、. <出そうとした>。. そこでは現実ではそのものではない物であっても、その.
(5) 幼児期の身体から派生する表現活動に関する研究. この事例はA男がテレビのイメージから箱に入って、. 119. る。さらに、イメージは「現実の身振りを投影されるこ. 顔を出そうとする行動がみられたものである。果たして、. とによってはじめて成り立っ」ものであこノ、それを「運. テレビの箱のイメージであるかどうかは、観察者の推測. 動的形象化」としている.、11)。. の域を出ないが、その場にいたものとしてそのように解 釈することは可能であった。このような自分の身体を使っ て印象を身振りであらわすことについて、ワロンは「投. (診身体の同型性 事例11 (1994,9,14観察) 2才11ケ月27rl. 影的段階」の模倣の中の高次のレベルであるとしている。. A男は、観察者に向かって、 「スー-ーむてきしょう. つまり、 「運動は心的表象に随伴し、表象の力動や描出. ぐん」「カクレンジャー」と言って、 <両手を上方から. の支えるものとなっていく」(21)のであり、 「運動身振りが. 下方へ動かしながら交差させて>、 <胸の前で両手を絡. 意識に心的表豪を与える手段となっていく」(22)ということ. め>そのヒーローのポーズをした。. である。つまり、この投影がされてこそ「はじめてイメー ジが成り立つ」(23)のであり、はじめからイメ-ジが独立し. ここでは、事例10に見られるようにそのモデルらし. て存在しているのではないという考え方である。それは、. い姿勢や動きをとろうとしていることに注目出来よう。. 「身振り」を用いることによってイメージがより明確な形. これは、浜田(1992)によると身体による自我形成の中. として確保出来るということである。このような事例は2. で身体の同型性とも呼ばれるものであり、それらしく同. 歳5ケ月を境に頻繁に見られる様になる。. じ型をすることを指している(28)。また、それはこの事例 11が観察者に向かってなされたことにもよる。つまり、 他者に向かってそのヒーローと同じような姿勢、動きを. ①ヒーローものになる意味 事例9 (1994,3,9観察) 2歳5ケ月24日 A男は、ブロックを頭にくのせて>、 「グレンジャー」. することによって身体を介してそのモデルの実在を示し ているのである(29)。つまり、 「現前の身体身振りを適し てしか存在しえない」イメ-シであるとされている(より。. (カクレンジャー?)と<言って>室内から外へ<走り出 た>。すぐにブロックを<取り外した>。. ④身体の相補性 事例12 (1994,10,27観察) 3才1ケ月8日. A男が何かヒーローものに「なって」活動をし始めた 例である。このような自分の身体を使ってその印象を身振. 観察者が登園すると、 A男が「カクレンジャー」と言っ て<両手で>観察者の<身体を押して>くる。. りで表すことについて、ワロンは前述の投影的段階の模倣 における高次のレベルであるとしている。この模倣は「表. ここでは、 A男ではなく、「カクレンジャーであるA. 象の領域」に関わっており、 「多少とも権威をもった人物. 男」が他者に向かって、かかわりをもってきた例である。. に同一化するとき」に生じるとされているく2㌔これらの. これを「身体をとおして人と人が通じ合う」ことである. 何かに「ヒーローものになって動く活動」は、観察回数. とするなら、身体による相補性と言えよう(31、。このA男. 8恒Hこわたって見られた。. の手の先には自らの主体性が含まれ、観察者に向かう 「方向性」が明確なものとなっている。 A男がヒ-ロー. (塾モデル-の同化、吸収 事例10 (1994,10,1観察) 2才10ケ月10日 A男は大型積み木の上から<飛び降りて>、 「忍者、ヒ. になることによって、より積極的に関わりをもてた例で あると言えよう。はじめ観察者はA男に対して身体によ る志向性はもっていないが、その後、 A男の方に振り返. ヒョウドゥ-」と言いながら、 <両手を大きく回した>。. り、カクレンジャーであるA男に向き合う。ここに、身. 次に「忍者、レインボー」と言って、 <走り去った>。. 体の志向のやりとりがみられるようになる(32)。. さらに、 3人の男児と一緒に積み木に<またいで乗った>O その後、ブロックの剣を背中に<差し入れて>、外に <走り出た>。. ⑤問身体による共同的な意味世界 事例13 (1995,2,24観察) 3才5ケ月5日 A男は、 B男から三輪車をかしてもらえず、諦める。. ここでは、事例9と同様にヒーローになる活動である. その後、ジャングルジムの上-移動し、「カクレンジャー. が、ワロン(1954) 、このモデルは同化、吸収されてい. ごっこしている」と言う。 C男の「犯人はあいっだ」と. るのであり、ここでの模倣は「本当の意味で自発的」(25). いう言糞を聞いてA男は「あいっが犯人か-」と言い、. であるとされている。そして、この場合の模倣は「あた. <片目をつぶり>B男の三輪車の方へ<走っていく>。. ためてふ化する一定の時間が必要」(26)である,と述べられ. しかし、再度戻りA男は「ぼくの三輪車とっている、行. ている。ここに身体を介在する自我形成を意味づけてい. け-」と言い、 「やっつけろ-」 「光をくれ-」と<両手.
(6) 120. をあげて>「光をかしてくれ-!」と言う。 D男が「ひ. それは前述した「投影されてはじめてイメージが成り立. かりだよ」と言って、 A男に石を手渡す。 A男はその石. つ」というワロンの論から考察するとイメージしたもの. で<音を出す>。. を外にあらわすのではなく、身体で認識することによっ て、イメージの形が出来上がっていくのではないだろう. ここでは、 5人の3才男児が共有のイメージの世界で. か。そこでは身体での認識がすべてに優先し、身体の動. 振り行為をしている。 A男は、ただA男でいるときは三. きを通しての同化、吸収によって、その本人自身に「取. 輪車を諦めなくてはならなかったが、ヒーローになるこ. り込む」ことが行われるのではないだろうか。このよう. とによって三輪車をとりにいくことが出来たようだ。ま. に考えるとわれわれが目にする形としての活動、すなわ. たD男の行為からA男のふり行為が理解されているのも. ち結果としての表現活動よりもその行為をすることその. みることが出来る。ここではお互いの身振りを共有し、. ものに、より大きな意味を兄いだすことが出来よう。こ. 身体を通して5人の共同的な意味世界を構築しているの. のことについて例えば描画活動に関して「身体全体を動. をみることが出来よう。. かすことによって沸き上がってくる情感のただ中に自ら の行為の軌跡を兄い出す」C33)ことが絵を措くということ であり、何かの形を作品として描くよりも、身体を情感. [結論]. の中で動かした結果のあらわれだ、という指摘がある。. 以上、 1才後半から3才代にかけて、 A男が自分自身. また、同様に「彼らはからだの動きそのものとそれが痕. の身体を使って、想像の世界を繰り広げ、新たなる自分. 跡を残すことを楽しんでいるだけで、それがなにかを. の力をもち、また身体の型を通して共同的な意味世界を もてるようになる様子をみることができた。これはワロ. 『描く』こと、記号をっくりだす行為とは気づいていな. ンの言う運動の投影的段階の高次のレベルであり、浜田. 結果としての作品ではなく、行動そのものすべてが「描. い」(34)のであるともいう。このように描画活動にしても. の言う身体が自我形成に関与しつづけていることを示す. く」ということなのである。身体表現活動も同様に、情. ものであると言えよう。. 感のただ中にいる身体として、内的衝動として沸き上がっ. すなわち、身体行動の観点からみると、 A男の1才78ケ月は、動き自体はゆっくりしたものであり、主に 「見る」 「聞く」 「触る」という行為を通して身体の行動 が起こされている。つまり、感覚を通して外界の情報を 受容する姿が兄いだされた。さらに、この身体行動は、. てくるものにつき動かされ、それが動きとなって「みえ」 としてわれわれの眼前にあらわれてくる。彼にとっては 指先までヒ-ローであり、足先からは閃光を放っO 第2に、幼児の表現活動が心にあるものを単に外に表 すだけではないものとするならば、幼児にとっての外在. 1才10ケ月-11ケ月には、 「振り行為」として日常動. するものとの関係はどのようなものなのであろうか。こ. 作を模倣し再現したり、 「身体言語」として言語以前の. こで考えられることは、このような内と外の関係とは非. コミュニケーションの手段として用いられるようになっ. 常に近い、一体化、あるいは身体の外の領域と融合した. ている。次いで、大人側からは幼児が何かを表している. 関係であり、ワロンの言う「癒合的」結合とでもいうべ. と認められる「・-・・になる」身体行動がみられるように. きものではないだろうか(35)。さきに述べたように、身体. なる。それは、 3才まで継承されるがここでは単なる日. で認識する外界は直接的で、身体感覚という確実な実感. 常の動きのコピーのような振り行為ではなく、明らかに. としてとらえられたものであろう。これは換言するなら. そのものになること、例えば、コップであれば「のむ振. ば、 「身体的存在と共にあり」、さらに「直接的で身体に. り」ではなく、コップそのものになることや、 TV画像. 寄り添うような関係」をあらわしているとも言えよう(36)。. そのもになるといった身振り表現が兄いだされるように. 第3に、身体で外界を認識している幼児どうしの関わ. なる。この行動をここでは単なる振り行為、模倣とは区. りの問題がある。先の事例にもあるように、そこでの関. 別して「身体表現」と呼ぶ。この身体表現の意味につい. わりは必ずしも直接身体がふれるものばかりではなく、. ては、ワロンや浜田の論より身体を使って同じような形. E]に見えない共通のイメージが働き、そのイメージを共. で示す「同一化」や、その表現で他人に伝える機能をも. 有することによって遊びが成り立つ。しかしそこには、. つことを「相補性」と述べた。これらのことによって、. 表されたものが「ふれあう」ことによって表現が形成さ. 幼児たちは仲間でのイメージの共有が可能となる。. れ、 「かかわり」がもてることによってはじめて成立す. しかし、なぜA男はカクレンジャ-になるのであろう. る表現があるという考え方もある(37)。しかし、意識的に. か。そのことを考察する上で次の3点について指摘した. 伝達することを目的としていないが、結果として伝わり. い。. 得るものであり、表現の発信を受容することで、あるい. まず、第1に、彼らは内側にあるカクレンジャーのイ メージを身体の動きを用いて表現しているのであるが、. は了解し、読み耽ることで成り立っているものがある。 これはすなわちワロンのいうようなはじめから関係性が.
(7) 幼児期の身体から派生する表現活動に関する研究. 121. あるという立場から捉え得るものとして表現という行為. (ll)前掲書(3) p.221. が在るC38)、と考えるならばまさしく身体の同型性、身体. (12)前掲書(2) p.146. による相補性によって意味づけられる。. (13)同上p.146 (14)麻生はふりを3種類に分類し、 「動作による表象 としてのふり」としてタイプ2の「ふり」として. 以上のように「身体的存在から出発してこそ、世界の 方から近づいてくる印象を子供は受けることができ、ま たその印象に対して意味を与えることができる」(39)もの であり、幼児の表現活動は描画、音声、言語でとり扱わ れる場合が多いが実は遊びの世界の中で身体を駆使して 繰り広げられている。むしろ、幼児の表現は身体から派 生し、問身体によってかかわりをもっているのだと言え よう。つまり、 「身体はあらゆる印象や表現の基盤なの であり、この基盤としての身体から人間は世界の意味付 けをし、意味を発掘する」(40)と言うことと重なるのであ る。 このように考えていくと、身振りの多くみられるごっ こ遊びが実は子どもの発達に欠かせないものであり、身 振りでなにかになる、という自発的な身振り表現がいか に重要な意味をもっているかがわかる。幼児教育の中で 保育内容というものが幼児の発達を支援するものとして 捉えられるならば、領域「表現」も表層的な音楽や描画 にとどまることなく、自発的な活動、総合的な遊び、人 間関係も含めた領域を越えた新たなる視点が必要なこと ではないかと思う。この実際の子どもにとっての表現と いう意味について身体を基盤としてさぐることにより、 保育内容の在り方についてさらに考えていきたい。 註. (1)保育学会での10年間の研究動向の、幼児の身体 表現活動に関するものとしては、 1983年から 1987年は各年7-8件であるが、 1988年には10 件あり、その後徐々に増加している。しかし、そ の数は、全発表件数の約2 %前後である。 (名須川知子; 「幼児の表現活動の『読みとり』 に関する研究」 『アジア国際舞踊会議発表論文集』 JADE '93 p.148) (2) H.ワロン: 「子どもの精神発達における運動の 重要性」 1956浜田寿美男(訳編) 『身体・自我・ 社会』ミネルヴァ書房1984p.138 (3)浜田寿美男: 『ピアジェとワロン』ミネルヴァ書. 房1994 p.170 (4)同上p.190 (5)同上p.192 (6)前掲書(2) p.132 (7)同上p.138 (8)同上pp.14ト146 (9)同上p.145 (10)同上p.146. いる。(麻生武: 「"ふり"の三つのタイプ」 『仏教と人間』永田文昌堂1994 p.352) (15)麻生武: 『身ぶりからことばへ』新曜社1992 p.385. (16)同上p.387 (17)前掲書(2) p.143 (18)前掲書(3) p.226 (19)浜田寿美男: 『個立の風景-子どもたちの発達の ゆくえ-』ミネルヴァ書房1993p.89 (20)同上p.90. (21)前掲書(2) p.148 (22)同上p.148 (23)前掲書(3) p.222 (24)前掲書(2) p.146 (25)同上p.146 (26)同上p.146 (27)前掲書(3) p.222 (28)同上p.232 (29)浜田寿美男: 『「私」というもののなりたち』ミ ネルヴァ書房1992 p.73 (30)前掲書(3) p.222 (31)前掲書(29) p.73 (32)同上p.74 (33)増山真緒子: 『表情する世界-共同主観性の心理 学』新曜社1991 p.143 (34)佐々木正人: 『からだ:認識の原点』東京大学出 版会1987 p.160 (35)前掲書(2) p.231 (36) E.A.A.フェルメール、浜口順子(訳) : 「子ど もの遊び(その3)」 『幼児の教育』第85巻第7 号フレーベル館1985 p.42 (37)庄司康生: 「からだと表現一動くことと(他者に) ふれること-」」『発達』第10巻第37号ミネル ヴァ書房1989 p.53 (38)前掲書(2) p.194 (39)前掲書(36) p.42 (40)同上p.42.
(8) 122. A Study on the Expression of Driving from body in Early Infancy. TOMOKO NASUKAWA. The paper is an attempt to clarify the meaning of expressive activity of driving from body of a child. The method of this research is an observing a child (-from one-year to about four-year old boy) once a week for 2 year and 4 months.And I try to understand of his bodily expression through Wallon s theory. So that,I can point out the first stage is a function of the senses of sight and touch, the next stage is imitation of gestures. Also he has a physical language. They have to do with materials each other. He pretends to a hero.Why does he pretend a hero? Because he identifies authoritative person. SO,he takes into his mind of a model. And there are the same type of body and the communication through a bodily shape. Children have a special world through their bodily shapes. Above mentioned in this paper,the first,he recognizes through his body ,and he makes their image. So that I guess which he has nearly connection of outside and his mind. They have relationship their nature..
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