博士論文審査結果の要旨
学位申請者
谷 口 将 吾
主論文 1 編Treatment in a ward for elderly patients with dementia in Japan. Neuropsychiatric Disease and Treatment 9; 357-363, 2013
審 査 結 果 の 要 旨
認知症の行動・心理症状 (Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia; BPSD) は重要 な問題であり,時には入院治療が必要となる.認知症治療病棟は,精神科の医師,看護師,作業療 法士,精神保健福祉士等による多職種で治療を提供する.欧米では,BPSD の入院治療の有効性 に関する研究は多いが,わが国では多くない.また,過去の研究では,身体合併症の頻度が非常 に多いことや,身体合併症が長期入院の予測因子であることが報告されている. 申請者は,認知症治療病棟での治療の有効性,身体合併症に関連したリスク因子,抗精神病薬 使用による影響に関して後ろ向き調査を行った.88 名の認知症患者が対象となり,認知症の重 症度は Clinical Dementia Rating (CDR) を用い,ADL は Physical Self-Maintenance Scale (PSMS) を用 い ,BPSD は Neuropsychiatric Inventory (NPI) を 用 い て 評 価 し た . 入 院 時 と 退 院 時 の CDR,PSMS,NPI の比較には Wilcoxon の符号付き順位和検定と χ 二乗検定を用いた.身体合併 症治療のため転院,転棟した群とそれ以外の群の CDR,PSMS,入院時の身体合併症の有無,退 院時の抗精神病薬の処方の有無の比較には Mann-Whitney の U 検定と χ 二乗検定を用いた.抗 精神病薬の有無で患者を入院時と退院時で二群化し,それぞれの CDR,PSMS,NPI の比較にも Mann-Whitney の U 検定と χ 二乗検定を用いた.データは SPSS 12.0 を用いて解析し,p < 0.05 を統 計学的有意とした.また,多重補正には Bonferroni 法を用いた.その結果,診断はアルツハイマー型 認知症が最も多く 61%を占め,次いで血管性認知症が 18%であった.向精神薬の使用頻度は入 院時と退院時で有意差を認めなかったが,抗精神病薬は半数以上で使用していた.約 1/3 が身体 治療のため転院,転棟した.PSMS は退院時には有意に改善 (Bonferroni-corrected p < 0.01),CDR は不変であった.退院時に多くの BPSD で消失傾向を認めたが,妄想と睡眠異常で特に顕著で あった (uncorrected p < 0.05).身体合併症により退院した 29 名とそれ以外の 59 名の比較で は , 身 体 合 併 症 の た め に 退 院 し た 群 で は 有 意 に 退 院 時 の 認 知 症 の 重 症 度 が 高 か っ た (Bonferroni-corrected p < 0.05).入 院 時 と退 院 時 の 抗 精 神 病 薬 使 用 の 有 無 に よ る 2 群 間 で の CDR,PSMS,BPSD の比較では,退院時に抗精神病薬を使用されていた群では認知症重症度は 高い傾向であった (uncorrected p < 0.05).本研究では,認知症治療病棟での加療によって認知症 患者の ADL は有意に改善し,妄想と睡眠異常を含めた多くの BPSD は消失傾向であった.身体 合併症治療のために転院,転棟した群では有意に退院時の認知症の重症度が高かった.退院時 に抗精神病薬が使用されていた群では認知症重症度は高い傾向であった .このことから,認知 症治療病棟での治療の有効性,認知症の重症度と身体合併症,抗精神病薬との関連性が示唆さ れた. 以上が本論文の要旨であるが,認知症治療病棟での治療の有効性,認知症の重症度と身体合併 症,抗精神病薬との関連性を示した点で,医学上価値ある研究と認める. 平成 25 年 9 月 19 日 審査委員 教授