論 文 内 容 の 要 旨
論文提出者氏名 矢西 賢次 論 文 題 目
A Simple Risk Stratification Model for ST-Elevation Myocardial Infarction (STEMI) from the Combination of Blood Examination Variables: Acute Myocardial Infarction-Kyoto Multi-center Risk Study Group.
論文内容の要旨 (目的) 近年、急性心筋梗塞(AMI)に対する臨床研究が活発化し、予後規定因子の解析が行われ、 各国の急性心筋梗塞治療ガイドラインのエビデンスとなっている。AMI の急性期死亡率(30 日以内の院内死亡率)は、その経年変化をみると MIYAGI-AMI Registry では 1979 年の 20 % から 2008 年の 8 %と改善しており、この予後の改善には、再灌流療法の普及が関係してい るものと推定される。しかし、依然として女性と重症心不全合併例の死亡率は高く、また 80 歳以上の高齢者における死亡率は高率である。また、AMI の中でも死亡率が高い ST 上昇 型急性心筋梗塞(STEMI)における年齢調整死亡率(人口 10 万対比)は、2010 年が 20.4%、 女性では 8.4%と、その死亡率は高い。今後、高齢化や食の欧米化が進むことで高齢の AMI 患者が増加していくことが予想され、さらなる予後規定因子を研究していくことが必要で ある。以前より京都府立医科大学附属病院を中心に京都府立医科大学関連の 23 施設におい て急性心筋梗塞のレジストリー研究を施行しており、AMI の病態、背景因子、急性期冠動脈 インターベンション治療の実態、長期予後、予後規定因子などを解析し、AMI のさらなる予 後改善を目的とした臨床研究を行っている。 (背景)
現在 STEMI においては、TIMI risk index や TIMI risk score、GRACE score など様々な 院内予後を規定するリスクスコアが報告されている。これらのリスクスコアには、心拍数 や収縮期血圧が項目として使用され、急性期には安定した数値が得られないことが多い。 血液生化学検査は急性心筋梗塞において簡便かつ迅速に施行しうる項目であり、また客観 的で絶対的な指標である。このような絶対的で客観的な血液生化学検査をリスクスコアに 用いることで、急性心筋梗塞における新たな院内予後の予測モデルを作成し、また既存の スコアと併用することで予後予測のさらなる層別化が可能となると考える。 (方法) 2009 年 1 月から 2012 年 12 月までに AMI レジストリーに登録された 2043 の STEMI 症例よ り、まずは搬送時心肺停止症例、非 ST 上昇型急性心筋梗塞(NSTEMI)症例及びデータ欠損症 例を除いた。その 1581 症例を、それぞれ仮説群(n=1,060, 2009/1~2011/9)及び実証群 (n=521, 2011/10~2012/12)に分けた。また、リスクモデルの因子には搬送直後に施行した 血液生化学検査より白血球(WBC)、ヘモグロビン値(Hb)、CRP、クレアチニン値(Cr)及び血 糖値(BS)を用いた。Cut-off 値としては ① 仮説群でスプライン曲線を作成、② 臨床上で 使用しやすい値を用い、それぞれ WBC > 10,000/μL, Hb < 10 g/dL, CRP > 1.0 mg/dL, Cr > 1.0 mg/dL, BS > 200 mg/dL と設定した。仮説群において、これら 5 つの項目を性別と年 齢を併せ多変量解析を行い、そこで得られたβ係数より各 5 つの項目をスコアリングし、 0-8 点のリスクグループにわけ、それぞれの院内死亡率を解析した。また、そのリスクモデ ルを実証群でも検証することで有効性を確認した。最後に全 STEMI 症例において、本リス クモデルと既存のリスクスコアである TIMI risk index(年齢とバイタルを用いた予後予測 因子)で層別化することで、さらに詳細な STEMI の予後予測が可能となるかを検討した。 (結果) 仮説群と実証群における患者背景、治療背景、院内予後背景に有意差はなく、両群共に 同様の背景を持つことを確認した。仮説群において、それぞれ 5 つの項目は院内予後を有 意に高める因子であった(p < 0.01)。また、Total score(0~8 点)のグループ間内の院内 死亡率の傾向は、有意差をもってハイスコアほど高率であることを確認し(p trend < 0.01)、 0~2 点を Low laboratory group、3~5 点を moderate laboratory group、6~8 点を high laboratory group と設定した。これら 3 つの laboratory group 内においても院内死亡率の 傾向は有意に high group が高く(p trend < 0.01)、実証群で検証した結果も同様で、院内 死亡率の傾向は有意に high group が高い結果となった(p trend<0.01)。以上の結果より、 本リスクモデルの有効性が検証されることとなった。また、全 1581 例の STEMI 症例を、 InTIME II substudy1を参考にして得られた数値を基に、各 STEMI 症例を 3 つの TIMI risk
index のグループにわけた(TIMI risk index が 22.5 未満を low TIMI risk index、22.5 以上 30 未満を moderate TIMI risk index、30 以上を high TIMI risk index)。またその各 TIMI risk index グループをさらに本リスクモデルで層別化したところ、laboratory スコ アがハイスコアであるほど有意に院内死亡率が高い結果となった(p < 0.01))。
(結語)
本リスクモデルは STEMI において簡便で迅速な院内予後規定因子であり、また既存のス コアである TIMI risk index を用いることでさらに詳細なリスクの層別化が可能である。 簡便なリスクモデルとして、STEMI におけるトリアージや治療方針の決定に有用であると考 える。
(参考文献)
1. Morrow DA, Antman EM, Giugliano RP, Cairns R, Charlesworth A, Murphy SA, et al. A simple risk index for rapid initial triage of patients with ST-elevation myocardial infarction: an InTIME II substudy. Lancet. 2001; 358: 1571-1575.