札幌市における金融機能の集中過程

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北 海道 地理 No.81 (2006.7)

札幌市 における金融機能の集中過程

Concentration

Process

of Financial

Function

in Sapporo

City

上 口 大 輔* Daisuke KAMIGUCHI*

キ ー ワ ー ド:金 融,銀 行,北 海 道,札 幌,小 樽

Key words: finance, bank, Hokkaido, Sapporo, Otaru

I.札 幌 市 の 金 融 の 現 況 2004年 の 『事 業 所 ・企 業 統 計 調 査 報 告 』 に よ る と,札 幌 市 の金 融 ・保 険業 の 企 業 数 は344社,常 用 雇 用 者 数 は9,613人 で,北 海 道 全 体 の そ れ ぞ れ 約37.8%,83.8%を 占め る。札 幌 市 の 人 口が 北 海 道 全 体 の3割 程 度 で あ る こ と を考 え る と,当 市 の 雇 用 者 数 の 多 さが 際 立 っ て い る。 ま た,札 幌 市 に お け る貸 出額 は,2000年 以 降預 金 額 を下 回 る借 入 超 過 とな っ て い る も の の,北 海 道 全 体 に 占め る割 合 は6割 を超 え る範 囲 で推 移 して お り,北 海 道 金 融 の 中 心 を担 っ て い る(図1,図2)。 札 幌 市 の 金 融機 関 の分 布 は 図3の よ う に な っ て い る。 金 融 機 関 は,札 幌 駅 か ら南 に伸 び る駅 前 通 り付 近 に 集 中 して お り,特 に 道 外 金 融機 関 の大 部 分 が こ こに 立 地 して い る。 ま た,日 本 銀 行 札 幌 支 店 や 札 幌 証 券 取 引所 も この 付 近 に所 在 して い る。 当該 地 域 に は 多 くの企 業 や 商 業 施 設 が あ る こ とか ら,金 融機 関 は こ れ らの 施 設 との 近 接 性 を重 視 し て い る もの と考 え られ る。 II.札 幌 市 の 金 融 の歴 史 明 治 時代 以 降,札 幌 市 に は 開 拓使 が 置 か れ,早 くか ら北 海 道 の行 政 の 中心 とな って い た が,経 済 の 中心 は 松 前 藩 の蓄 積 が あ っ た 函 館 市 や,内 陸 部 の農 産 物 や 工 業 製 品 の 出荷 港 と して 栄 え た小 樽 市 に あ っ た 。 特 に小 樽 市 は 明治 後 期 か ら,北 海 道 経 済 の 中 心 的 役 割 を担 う よ うに な る。 図4は 昭 和 初 期 に お け る小 樽 市 の 銀 行 店 舗 の分 布 を示 した もの * 北海道大学大学院文学研究科(院)

*Graduate Student, Graduate School of Letters, Hokkaido University

図1札 幌 市 に お け る貸 出 金 額 と預 金 額 の 推 移 資料 全 国 銀行 業 協 会 「金 融 」(月 刊)を も とに作 成 。

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-59-で あ る。 銀 行 は 商 社 へ の 資 金 供 給 の た め に 当市 に 支 店 を立 地 させ,銀 行 や 商社 の建 物 が 並 ぶ 街 並 は 「北 の ウ ォ ー ル 街 」 と形 容 さ れ た 。 小 樽 市 か ら札 幌 市 へ 金 融 機 能 の 中 心 が 移 る の は,統 制 経 済下 の 第2次 世 界 大 戦 中 で あ る。 当 時 の 札 幌 に は,北 海 道 開 発 の た め の長 期 資 金 を供 給 す る 目的 で設 立 され た 国策 銀行 で あ る,北 海 道 拓 殖 銀 行 の 本 店 が 置 か れ て い た が,政 府 は 経 済 の統 制 を強 め る た め 一 県 一 行 主義 を強 く推 進 し,道 内 銀 行 は 吸 収 合 併 に よ り,北 海 道 拓 殖 銀 行 に 一 本 化 さ れ た 。 ま た,統 制 経 済 に よ っ て行 政 官 庁 の 札 幌 集 中 が 進 み,関 係 官 庁 との連 絡 等 の都 合 か ら,日 本 銀 行 が1943(昭 和17)年 に 北 海 道 統 括 店 を小 樽 市 か ら札 幌 市 に移 し た。 物 資 の 枯 渇 に よ っ て小 樽 市 の 出荷 港 と して の 意 義 が小 さ くな っ た こ とや, 小 樽 市 金 融 機 関 の 営 業 基 盤 の ひ とつ と な っ て い た 樺 太 との 金 融 経 路 が 戦 争 に よ っ て 絶 た れ た こ と も,札 幌 市 へ の 金 融 機 能 の移 転 を進 め た 要 因 と し て挙 げ られ る。 道 外 の 主 要 銀行 は,戦 中 も し くは 戦 後,札 幌 市 に進 出 し,小 樽 市 の支 店 は1960年 代 ま で に概 ね 当 市 か ら撤 退 した(表1)。 日本 銀 行 や 三 井 住 友 銀 行 も2002年 に小 樽 市 か ら撤 退 し,現 在 当 市 に 支 店 を 置 く道 外 銀 行 は 北 陸 銀 行 の み とな っ て い る。 な お,北 海 道 拓 殖 銀行 か ら営 業 譲 渡 を受 け た 北 洋 銀 行 の 前 身 で あ る北 洋 無 尽 も,1945(昭 和20)年 に小 樽 市 に あ っ た 本社 を札 幌 市 へ 移 転 さ せ て い る。 戦 後,北 海 道 の 金 融 機能 を担 っ た の は,共 に 札 幌 市 に 本 店 を 置 く,北 海 道 拓 殖 銀 行 と北 海 道 銀 行 で あ る。 北 海 道 拓 殖 銀 行 は大 企 業 向 け 金 融 と道 外 融 資 が 中心 だ っ た の に対 し,北 海 道 銀 行 は そ の 設 立 経 緯1)か ら,中 小 企 業 金 融 を担 う よ うに な っ た。 北 海 道 は 食 糧 増 産 と資 源 開発 の 点 で期 待 され,全 国や 北 海 道 の総 合 開 発 な どの 公 共 投 資 に よ る 開発 資 金 が 多 く流 入 した 。 そ れ に伴 い 多 くの 企 業 が 札 幌 市 に支 社 を置 くよ う に な る と,上 記 二行 を 中心 に金 融 機 能 も年 々拡 大 し,1970年 代 に は 北 海 道 全 体 の貸 出 に 占め る割 合 が5割 を上 回 る よ うに な っ 図2 北 海 道全 体 に 占め る札幌 市 の 貸 出金 額 と預 金 額 の推移 資 料 全 国銀 行 業協 会 「金 融」(月 刊)を もとに作 成 。 ★ 日本銀行 ▲ 証券取 引所 〓 道 内銀行本店 ○ 道 内銀行支 店 □ 道 内証券会社本店 ● 道外銀行支店 ■ 道外証券会社支店 〓 道外他金融機関支店 図3 札幌 市都 心部 に おけ る金融機 関 店舗 の分布(2006年)

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-60-た(図2)。1972年 に 札 幌 市 で 開 催 さ れ た 冬 季 オ リ ン ピ ッ ク も,開 発 資金 の 札 幌 集 中 に 拍 車 を か け た。 以 上 の よ うに,北 海 道 経 済 は 公 共 投 資 が 重 要 な 役 割 を果 たす こ とで,高 度 経 済 成 長 期 や そ の 後 の 安 定 成 長期 に比 較 的 順 調 に発 展 して きた が,1990 年 代 に 入 っ て経 済 が停 滞 す る と,公 共 投 資 は 大 き く削減 され た。 道 内 銀 行 の 融 資 先 企 業 に は 公 共 投 資 に頼 る もの が 多 く,銀 行 は 企 業 の経 営 悪 化 で 多 額 の不 良債 権 を抱 え る よ うに な っ た。 北 海 道 拓 殖 銀 行 は,道 内融 資先 企 業 の 経 営 悪 化 に加 え,バ ブ ル 期 に道 外 向 け に大 規 模 融 資 を行 って い た こ と も 重 な り,1997年 に 経 営 破 綻 し た2)。当行 は道 内 の 多 くの大 規 模 融 資 と中小 企 業 金 融 の約2割 を担 って い た た め,経 営 破 綻 に よ っ て札 幌 市 に お け る貸 出 額 は大 き く減 少 した(図1)。 近 年,道 州 制 や 自治体 へ の 財 源 委 譲 な ど,将 来 の 「地 域 の 時 代 」 へ 向 け た議 論 が 活 発 に行 わ れ て い る。 北 海 道 は公 共 投 資 と共 に発 展 して きた 経 緯 ★ 日本銀行 ○ 道内銀行支店 〓 道内銀行本店 ● 道外銀行支店 図4 昭和初期 にお け る小樽 市 の主 な銀行 店舗 の分 布 道路,鉄 道は現在 のもの。 表1 主 な道外 銀行 の小樽 拠 点の 設置年 と撤 退年 ・札 幌拠 点 の設置 年 銀 行 名 は1954年 当 時 の もの 。 資料 『札 幌市 史 産 業 経 済 篇 』,『小 樽 市 史』,『小樽 商 工 会 議所 百 年 史』を もと に作 成 。

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-61-が あ り,将 来 の 「地 域 の 時 代 」 の ため に は,経 済 的 な 自立 と公 共 事 業 に 代 わ る産 業 の 育 成 が 不 可 欠 で あ る。 札 幌 市 の金 融 機 関 に は,資 金 の安 定 的 供 給 と成 長 産 業 へ の効 率 的 な 資 金 配 分 に よ って,「地 域 」 へ の 貢 献 が求 め られ て い る。 参 考 文献 小 樽 市(1958):『 小樽 市 史 』小 樽 市. 小 樽 商 工会 議 所(1996):『 小樽 商 工 会 議所 百 年 史 』小 樽 商 工 会 議所. 札 幌 市 史編 集 委 員会 編(1958):『 札 幌 市 史 産 業 経 済篇 』 札 幌 市. 札 幌 商 工 会 議 所 創 立 九 十 周 年 記 念 事 業 特 別 委 員 会 編 (1997):『 札 幌 商工 会 議 所 九 十年 史 』 札 幌商 工 会議 所. 総 務 省 統 計局(2004):『 事 業 所企 業 統 計調 査 報 告 』総 務 省 統 計 局. 北海 道 新 聞社 編(1999):『 拓 銀 は なぜ 消 滅 したか 』 北海 道 新 聞社. 注 1)1948年 か ら1950年 に か け て の不 況 に よ って 中小 企 業 の 資金 難 が 著 し くな った ため,1951年 に 全 道商 工 会 議 所 の主 導 で 北海 道 銀行 が 設立 され た。 設 立 時 に は,道 内 の8商 工会 議 所 の 会 長 が 当行 の 取締 役 や 監査 役 と し て 銀行 経 営 に かか わ った(札 幌 商工 会 議 所,1997)。 2)北 海道 新 聞 社(1999)に よれ ば,北 海 道 拓 殖銀 行 はバ ブ ル期 に地 価 高騰 を見 越 して道 外 不動 産 へ の積 極 的 な 融 資 を行 った が,都 市 銀行 と して は後 発 であ った ため, 他 の金 融 機 関 がす でに 担保 に して い る物 件 を劣 後 順 位 で 担保 にす る こ とや,土 地 評 価額 以上 の融 資 を行 うこ とに よ って 融 資案 件 を確 保 した こ とが,バ ブ ル崩 壊 後 の 不 良債 権 の 増大 と経 営破 綻 につ な が る大 きな要 因 で あ った こ とを示 して い る。

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