医 療 マ ネ ジ メ ン ト学 会 雑 誌 Vol.6, No.4, 2006
<原
著>
バ ー チ ャル看 護 相 談 室 の開発 と有 用 性 の検 討
杉 原 治 美1)2)大 岡 裕 子2)多 田 敏 子1)5)
藤 倉 健 一 郎1)4)森 川 富 昭3)森 口 博 基1)3)
The development and evaluation of virtual nursing consultation room
Harumi Sugihara, Hiroko Ooka, Toshiko Tada, Kenichiro Fujikura, Tomiaki Morikawa, Hiroki Moriguchi
要 旨 平 成11年 に 開 設 され た 地 域 医 療 連 携 セ ン タ ー で は,平 成17年 ま で に2,074件 の 看 護 相 談 に対 応 し て き た.セ ン タ ー に お け る 相 談 員 の 問 題 点 と して,1.相 談 員 の 不 足,2.利 用 者 の ニ ー ズ に あ っ た 情 報 提 供 や 均 質 な 相 談 対 応 が で き な い,3.開 設 時 間 だ け で は対 応 し き れ な い ニ ー ズ の 量,な ど が あ げ られ た.多 様 化 す る相 談 内 容 に迅 速 か っ 適 切 に対 応 す る た め,看 護 相 談 に お け る相 談 内 容 を 分 析 し て,カ テ ゴ リ ー分 類 を 行 い,問 合 せ 先 な ど の 回 答 を 表 示 す る 看 護 相 談 ソ フ トを 開 発 し,そ の 有 用 性 の 検 討 を 行 っ た.そ の 結 果,イ ン タ ー ネ ッ トを と お して 利 用 で き る こ と に よ り,看 護 相 談 員 だ け で な く,施 設 内 外 の 医 療 職,学 生,患 者 や 家 族 の情 報 源 と して,有 効 に活 用 さ れ て い る こ と が わ か っ た.ま た,情 報 検 索 時 間 の 短 縮 や 相 談 内 容 の 均 質 化 が 図 られ た. Key words:バ ー チ ャ ル,看 護 相 談,イ ン タ ー ネ ッ ト 序 文 人 々 の 医 療 へ の 関 心 は高 ま って い るが,徳 島県 内 に お い て気 軽 に健 康 問 題 な ど を 相 談 で き る窓 口 は少 な い. 人 口10万 人 当 た りの 医 療 機 関 数 は全 国 で も上 位 に あ り, 入 院 患 者 数 は全 国平 均 を上 回 って い る1).そ の 反 面, 在 宅 療 養 へ の移 行 が 遅 れ て お り,療 養 者 の ニ ー ズ に あ っ た療 養 環 境 の整 備 が 急 務 で あ る.看 護 専 門 職 と して は, 看 護 相 談 係 が保 健 ・医 療 ・福 祉 と連 携 した在 宅 医 療 の 窓 口 と して 機 能 す る こ と2),ま た看 護 相 談 室 の開 設 に よ り,専 門 外 来 と して 在 宅 医 療 支 援 が必 要 で あ る こ と が 指 摘 さ れ て い る3).当 院 で は 平 成11年 に,患 者 の QOL向 上 を 目 的 と し た相 談 窓 口 で あ る継 続 診 療 ・看 護 相 談 室(平 成16年10月 地 域 医 療 連 携 セ ン ター に改 組) を設 置 し,看 護 相 談 と して 患 者 支 援 や 情 報 提 供 を 行 っ て きた.そ の件 数 は毎 年 増 加 し,平 成17年 に は開 設 当 初 の6.8倍 の643件 に な り,総 数 で は2,074件 とな っ た. しか し,従 来 の紙 を 使 用 した記 録 方 法 で は 多 様 化 す る 看 護 相 談 に迅 速 か っ 適 切 に対 応 す る こ と は 困 難 で あ る. ま た,保 健 ・医療 ・福 祉 サ ー ビス の 総 合 的 な 相 談 窓 口 や看 護 相 談 サ ー ビス を 効 率 的 に 提 供 で き る看 護 相 談 ソ フ トは ま だ 見 当 た らな い.総 務 省 統 計 局 の報 告 で は, 平 成14年 末 に は イ ン タ ー ネ ッ ト利 用 者 の6割 が 情 報 獲 得 手 段 と して イ ン タ ー ネ ッ トを 活 用 して い る現 状 が報 告 さ れ て お り4),こ の こ と は,保 健 ・医 療 ・福 祉 情 報 もイ ン タ ー ネ ッ トを 通 じて 効 率 的 に得 られ る可 能 性 を 示 唆 して い る と考 え られ る.そ の た め,い つ で も誰 で もそ の 情 報 が 簡 便 に 利 用 で き る 「バ ー チ ャル 看 護 相 談 室 」 の 開 発 を計 画 し,そ れ が 日本 看 護 協 会 の 新 しい看 護 提 供 シ ス テ ム モ デ ル 事 業5)と して 採 用 さ れ た.ま た, 徳 島大 学 病 院 の地 域 貢 献 に お け る医 療 情 報 ネ ッ トワー ク事 業6)の 一 環 と して も取 り組 み,そ の有 用 性 も検 討 した. 1)徳 島大 学 病 院 地 域 医療 連 携 セ ン ター2)同 看 護 部 3)同 医 療 情 報 部4)同 緩 和 ケ ア セ ン ター 5)徳 島大 学 医学 部 保 健 学 科 著 者 連 絡 先:〒770-8503徳 島県 徳 島市 蔵 本 町2丁 目50-1 論 文 受 付 日:2005年10月3日 受 理 日:2006年2月1日
医 療 マ ネ ジ メ ン ト学 会 雑 誌Vol.6,No.4,2006 1.方 法 (1)相談 内 容 の 分 析 看 護 相 談 記 録 か ら,在 宅 支 援 が も っ と も 困 難 な 疾 患 で あ り,県 か ら の 委 託 事 業 で あ る 平 成14年 度 の 難 病 相 談41件(25事 例),相 談 調 整 回 数102回 を 分 析 対 象 と し た.事 例 の 質 問 と 回 答 を,一 文 に 一 つ の 意 味 を 含 む よ うす べ て 短 文 化 し356のFAQ(質 問 と 回 答)を 作 成 し た.そ の 短 文 の 意 味 を 確 認 し な が ら,使 用 す る 用 語 な ど の 表 現 を 統 一 して,共 通 の 概 念 を 抽 出 し,大 ・中 ・ 小 項 目 に カ テ ゴ ラ イ ズ し た.質 問 ・回 答 の 小 項 目 に つ い て は,キ ー ワ ー ド を 明 確 化 し,単 語 の レ ベ ル ま で 概 念 化 した.質 問 文 と 回 答 文 と の 整 合 性 に つ い て は,医 師,看 護 師,保 健 師,助 産 師,社 会 福 祉 主 事 な ど の 資 格 を 有 す る 相 談 員 問 で 検 討 を 重 ね た. (2)看護 相 談 ソ フ ト開 発 1)分 析 し た 相 談 内 容 の 質 問 大 項 目,中 項 目,小 項 目 そ れ ぞ れ を コ ー ド化 し,そ れ ら を デ ー タ ベ ー ス 化 し た(図1). 2)バ ー チ ャ ル 相 談 室 開 発 ワ ー キ ン グ メ ンバ ー で シ ス テ ム を 検 討 し た. 一 般 相 談 者 の 画 面 は,質 問 を 見 る,キ ー ワ ー ド 検 索 す る,新 着 情 報,難 病 に 特 化 した 画 面 の4構 成 と した 。 医 療 関 係 者 用 画 面 と し て,質 問 回 答 の 相 談 マ ニ ュ ア ル と 回 答 の 資 料 や 参 考 文 献 名 を 登 録 し た(現 在 は 非 公 開). 図1看 護 相 談 ソ フ トの 流 れ 3)回 答 や 関 連 サ イ トへ の リ ン ク を 行 う こ と に よ り, 必 要 な 情 報 を 得 る こ と が で き る シ ス テ ム と し,カ テ ゴ リ ー 別 に 相 談 窓 口 情 報 を 提 供 で き る 約250∼ 260件 の リ ン ク 先 を 有 す る 総 合 案 内 用 画 面 を 作 成 し た. 4)単 に 相 談 情 報 窓 口 を 提 供 す る だ け で な く,独 自 の 質 問 の 回 答 を 記 載 し た. 5)シ ス テ ム はLinux上 で 稼 動 す る もの と し,www サ ー バ で 利 用 者 が 閲 覧 で き る よ う に した(図2). 6)質 問 内 容 等 の 匿 名 化 し た デ ー タ は,医 療 情 報 部 の デ ー タ ベ ー ス サ ー バ に 蓄 積 し,外 部 か ら 活 用 で き る よ う に し た. 7)分 類 項 目 お よ び 項 目 に 付 随 す る デ ー タ の 追 加,変 更,削 除 が 相 談 室 の 室 員 に よ っ て 行 え る も の と し た. 8)一 般 公 開 の 前 に 職 員 等 に よ る 評 価 を 得 て,一 部 修 正 した. 9)一 般 公 開 は 平 成16年4月 に 行 っ た(http://soudan. hosp.med.tokushima-u.ac.jp/)(図3). 10)患 者 が 使 用 で き る イ ン タ ー ネ ッ ト閲 覧 用 の コ ン ピ ュ ー タ ー は,徳 島 大 学 病 院 内 の 中 央 部 に あ る 患 者 図 書 室 に2台 設 置 し た. (3)有用 性 の 評 価 プ レ テ ス トと し て,看 護 職 員 お よ び 看 護 学 生 に 利 用 し た 結 果 の ア ン ケ ー ト調 査 を 行 っ た.看 護 相 談 ソ フ ト の 一 般 公 開 後 は,職 員 及 び 患 者 ・家 族 の 意 見 及 び 感 想 の 聞 き 取 り 調 査 を 行 い,利 用 状 況 に つ い て 質 問 に 対 す る 閲 覧 数 調 査 な ど の ロ グ 集 計 を 行 っ た, 【用 語 の 定 義 】 ・看 護 相 談:医 療 や 健 康 問 題 な ど 在 宅 で の 生 活 を 困 難 に し て い る 様 々 な 問 題 に 対 し て,保 健 ・医 療 ・福 祉 サ ー ビ ス の 総 合 的 な 情 報 を 提 供 し解 決 の た め に 看 護 師 が 行 う 相 談. ・バ ー チ ャ ル 看 護 相 談 室:徳 島 大 学 病 院 が 看 護 相 談 内 図2看 護 相 談 支 援 シス テム
医 療 マ ネ ジ メ ン ト学 会 雑 誌Vol.6,No.4,2006 理在の位置:トッブ→生活・療養(看護)の問題→日常生活の看護問題→ 食事の問題 印刷用ベージを別ウィンドウで開く 図3一 般 公 開画 面 容 分析 か ら対 応 す る質 問 を作 成 し,カ テ ゴ リー分 類 さ れ た 項 目 に よ り イ ン ター ネ ッ トを とお して 情 報 提 供 を す る シス テ ム. 【倫 理 的 配 慮 】 相 談 内 容 か ら個 人 を 特 定 す る情 報 はす べ て 除 外 した もの を デ ー タ と して 使 用 した. 2.結 果 (1)相談 内 容 の 分 析 結 果 難 病 相 談25事 例 を 分 析 した結 果,相 談 の 開始 は,在 宅 療 養 の 不 安8事 例,経 済 と制 度 の相 談8事 例,病 院 情 報 の 提 供5事 例 が 上 位 を 占 め た.調 整 回 数102回 中 に 寄 せ られ た 質 問 内 容 を 分 析 す る こ と に よ り 生 じ た356 件 の 質 問 数 の 最 高 は1事 例34件 で 最 低 は12件 で あ っ た. 質 問 内 容 を カ テ ゴ リ ー 分 類 す る と(1)病 気 ・健 康 問 題 (55件),(2)医 療 ・福 祉 施 設 情 報(97件),(2)生 活 ・療 養(看 護)の 問 題(52件),(4)経 済(お 金)と 制 度 の 問 題(79件),(5)育 児 の 問 題(9件),(6)教 育 ・仕 事 の 問 題(16件),(7)こ こ ろ の 問 題(43件),3そ の 他 の 問 題(6件),に 分 類 さ れ,こ れ ら を 大 項 目 と し た.カ テ ゴ リ ー 分 類 に お い て 当 初 は 経 済(お 金)の 相 談 と制 度 に つ い て の 相 談 を 分 け て い た が,回 答 で は90%近 く が 制 度 を 利 用 し て の 経 済 問 題 の 解 決 で あ っ た た め,経 済 ・制 度 の 問 題 と 統 合 す る こ と で,質 問 と 回 答 の カ テ ゴ リ ー 大 項 目 を8項 目 に 一 致 で き た .カ テ ゴ リ ー 分 類 し た 質 問 内 容 及 び 件 数 を 表1に 示 し た.中 項 目 は43項 目,小 項 目 は106項 目 に 分 類 した.回 答 項 目 は キ ー ワ ー ドか ら284項 目 に 分 類 で き た が,一 つ の 質 問 に 対 し て, 何 種 類 か の 回 答 が あ り,カ テ ゴ リ ー 分 類 に よ る コ ー ド 化 に は 至 ら な か っ た.各 質 問 カ テ ゴ リー の 関 連 性 は 図 4に 示 し た.カ テ ゴ リ ー の 妥 当 性 に つ い て は,平 成16 年1月 か ら看 護 相 談 記 録 用 紙 を 改 訂 し,実 際 の 面 接 相 談 で カ テ ゴ リ「 チ ェ ッ ク を 行 っ た.大 項 目 分 類 は フ ィ ッ ト し た が,中 項 目,小 項 目 で は カ テ ゴ リ ー 不 足 や カ テ ゴ リ ー 選 択 が 困 難 な 項 目 も あ っ た .カ テ ゴ リ 「 の 見 直 し に つ い て 相 談 員 間 で 協 議 し,質 問 の 大 項 目 と 中 項 目 に つ い て は カ テ ゴ リ ー を 定 義 し確 認 した. (2)有用 性 の 評 価 一 般 公 開 に 先 立 っ て 利 用 し た 看 護 職 員 お よ び 看 護 学 生 か ら の ア ン ケ ー トの 結 果 に よ り,画 面 の 文 字 が 小 さ い,画 面 の 印 象 が 暗 い,病 気 の 説 明 と の 関 連 付 け が あ っ 図4看 護 相 談 質 問 カ テ ゴ リー 大 ・中 ・小 の 関 連
医 療 マ ネ ジ メ ン ト学 会 雑 誌 Vol.6, No.4, 2006 表1 難 病 相 談 カ テ ゴ リー分 類 別 質 問 数(件) た ほ うが よ い,目 的 とす る結 果 を 得 る ま で に 時 間 が か か る が,便 利 な の で も う一 度 利 用 した い,知 人 に も紹 介 した い な ど の声 が 聞 か れ た.そ れ らの評 価 を 基 に ソ フ トを修 正 した一 般 公 開 画 面 につい て は,利 用 方 法 を 直 接 説 明 し た病 棟 看 護 師 や看 護 学 生 は利 用 で き た が, パ ン フ レ ッ ト配 置 の み で 使 用 説 明 が な い患 者 図 書 室 で のパ ソ コ ンに よ る患 者 利 用 は0件 で あ った.難 病 相 談 で 来 室 した患 者 か ら イ ンタ ー ネ ッ トの利 用 につい て意 見 を 聞 く と,面 談 に よ る情 報 提 供 を 望 む 者 も い た が, イ ン タ ー ネ ッ ト利 用 経 験 が あ る者 は ホ ー ム ペ ー ジの情 報 が役 に立 つ,と の 意 見 で あ った. 看 護 職 員 に お い て は,相 談 内 容 の 回 答 を 導 き 出 しや す くな っ た とい う回 答 が あ った.ま た,看 護 相 談 支 援ニ シス テ ム構 築 に お け る利 点 と して,(1)保 健 ・医 療 ・福 祉 に 関 す る多 数 の 情 報 を一 元 管 理 で き る,(2)リ ン ク さ れ た項 目 に よ り検 索 時 間 を短 縮 で き る,(3)看 護 相 談 マ ニ ュ アル 登 録 に よ り相 談 の均 質 化 が 可 能,(4)24時 間場 所 と時 間 の制 約 な しに相 談 対 応 が 可 能,な ど の意 見 が よ せ られ た.徳 島 大 学 病 院 内 の 医 師 か ら も,難 病 情 報 セ ン タ ー の情 報 や 病 院 情 報 な どが リ ン ク され て い るの で活 用 して い る との 意 見 が よ せ られ た. 利 用 者 数 を み る と,平 成16年4月 か ら平 成17年9月 ま で の イ ン タ ー ネ ッ ト上 で 質 問 を閲 覧 した数 は16,064 件 で あ っ た.ロ グ集 計 で は月 平 均 約250人 の訪 問 者 が あ り,1年 以 内 の新 規 訪 問 は月 平 均150人 で あ っ た. 3. 考 察 退 院 調 整 看 護 師 の専 任 化 の 意 義 を考 え る特 集7)の 中 で,看 護 相 談 室 の 運 営 の 問 題 と して,相 談 件 数 の増 加 に 伴 う マ ンパ ワ ー不 足 か ら病 棟 の看 護 師 と の連 携 が 強 調 され て い る.わ れ わ れ も,平 成11年 か ら7人 の兼 任 の 看 護 相 談 員 が,看 護 部 医 療 連 携 委 員 会 活 動 の 中 で, 病 棟 看 護 師 と連 携 し退 院調 整 や 看 護 相 談 業 務 を行 って い た.し か し,看 護 相 談 の 紙 記 録 で は デ ー タ の整 理 や 回 答 の活 用 が 困 難 で1.人 的 資 源 の不 足,2.利 用 者 の ニ ー ズ に あ った 情 報 提 供 や 均 質 な相 談 対 応 が で きな い, 3.開 設 時 間 だ けで は対 応 しき れ な い ニ ー ズ の量 な ど, 相 談 員 の抱 え る問 題 は拡 大 して い った.平 成14年 度 よ り1人 の看 護 師 が 専 任 者 と して 配 置 され たが,患 者 の QOL向 上 の た め の相 談 室 業 務 は多 様 化 し,複 雑 で 専 門 的 な相 談 に 対 して,質,量 と もに 困 難 な もの で あ っ た.当 面 の解 決 策 と して は,専 任 ・兼 任 の 看 護 相 談 員 だ けで な く,病 棟 看 護 師 な ど も相 談 業 務 が で き る よ う な,仕 組 み を つ く る こ とが 必 要 で あ る と考 え られ た. ま た,気 軽 に 大 学 病 院 に来 る こ と が で き な い地 域 住 民 に も対 応 が で き る,と い った 仕 組 み の必 要 性 も検 討 さ れ た.こ の よ う な問 題 提 起 が,日 本 看 護 協 会 の新 しい 看 護 提 供 シス テ ム モ デ ル事 業5)や 徳 島大 学 の地 域 貢 献 事 業 と して採 用 され,本 研 究 の 実 施 に 至 っ た.
医療 マネジメ ン ト学会雑誌 Vol.6, No.4, 2006 相 談 ソ フ トの デ ー タ ベ ー ス と な った 一 事 例 ご との 相 談 内容 を 文 章 化 し分 析 す る過 程 で,(1)相 談 の き っか け, (2)示さ れ た 方 向性,(3)患 者 の 希 望 の具 体 化,(4)実 現 の た め の 懸 案 事 項 の 表 現,と い っ た患 者 の ニ ー ズ を 明 確 化8)す る こ と に つ な が った と思 わ れ る.こ の分 析 プ ロ セ ス を繰 り返 す こ と に よ り,看 護 相 談 員 と して 問題 解 決 能 力 の 向 上,迅 速 で 的 確 な 情 報 提 供 が 図 られ るよ う に な った.事 例 に お け る相 談 開 始 の 時点 で,在 宅 療 養 の 不 安 は あ るが 何 が 問 題 か わ か らず 来 室 され る相 談 者 が,難 病 相 談25事 例 の 中 で8事 例 と多 い こ とか ら,相 談 者 の 問 題 と ニ ー ズ を 明 確 に す る こ とが 重 要 で あ る こ とが 認 識 され た.看 護 相 談 に お け る複 雑 な 内 容 を項 目 に 分 け,そ れ ぞ れ に 短 文 説 明 を 付 加 し た こ と に よ り, 問 題 が 明 確 に カ テ ゴ リー分 類 で き,デ ー タベ ー ス化 が 可 能 と な った.そ の た め情 報 抽 出 時 間 の 短 縮 と回 答 の 均 質 化 が 可 能 と な っ た.FAQ(質 問 と回 答)と 総 合 案 内(リ ン ク に よ る情 報)も わ か りや す く有 用 で あ る と考 え て い る. ま た,相 談 分 析 結 果 で は,病 院 や 施 設 の 情 報 を多 く の 相 談 者 が 望 ん で い た.徳 島 県 の 病 院 情 報 提 供 シス テ ム 「医 療 と く し ま情 報 箱 」9)や,福 祉 保 健 医 療 の 情 報 ネ ッ トワ ー ク シ ス テ ム 「WAMNET(ワ ム ネ ッ ト)」 (い ず れ も リ ンク承 諾 済 み)な ど と リン ク した バ ー チ ャ ル 看 護 相 談 室 の 有 効 活 用 で,面 接 相 談 な しに 解 決 す る 相 談 が あ る と考 え られ る.徳 島 県 医 療 評 価 委 員 会 に お い て は,「 医 療 と く しま情 報 箱 」9)と本 シス テ ム の共 同 利 用 に よ る情 報 提 供 サ ー ビス は,県 民 の利 便 性 が 高 ま る と評 価 さ れ た.し か し,在 宅 支 援 の た め の 看 護 や介 護 技 術 指 導 の 分 野 で あ る生 活 ・療 養 上 の 問題 に関 す る サ イ トが 少 な く,看 護 教 育 のIT化 の 遅 れ や,専 門 領 域 や ケ ア につい て の情 報 お よ び 提 供 体 制 が 不 足 して い る.そ の た め に も,看 護 や 介 護 情 報 を情 報 化 す る必 要 が あ る と考 え られ た.そ れ らの情 報 項 目 の充 実 に よ り, サ ー ビス が 利 用 で き る 者 が 増 え る こ と も期 待 され る. 今 後 の課 題 と して,こ の よ うな イ ンタ ー ネ ッ ト利 用 が看 護 師 の面 接 相 談 対 応 に近 い効 果 を もた らす た め に は,患 者 の 持 っ 悩 み を 明 確 化 し,素 早 く分 析 し,簡 便 な方 法 で 自 己 解 決 の窓 口 を提 供 で き る よ うな よ り良 い イ ン タ ー フ ェイ ス に改 良 す る こ とが 必 要 で あ る.ま た, 多 くの 疾 患 や,生 活 習 慣 病,健 康 問 題 ま で デ ー タ ベ ー ス化 す る こ と に よ り,保 健 ・医療 ・福 祉 に 関 す る情 報 の一 元 管 理 を 行 う必 要 が あ る.ま た,患 者 ・家 族 が 満 足 す る 円滑 な 支 援 が可 能 と な るよ う,シ ス テ ムの 改 良 を継 続 して い き た い.分 析 対 象 が 全 相 談 内容 の 一 部 で あ り,疾 患 も難 病 の み で あ る こ とか ら,今 後,対 象 を 拡 大 す る こ と に よ る カ テ ゴ リー の 変 更 の可 能 性 が あ る. (平 成16年 度 に は他 疾 患 の 分 析10)を行 い,質 問 中 ・小 項 目 の カ テ ゴ リー変 更 を 行 って い る). 結 語 医 療 関 係 者 お よ び広 く一般 住 民 が,コ ン ピュ ー タ ー を使 用 したバ ー チ ャル 看 護 相 談 室 の利 用 に よ り,時 間 や場 所 の 制 限 な し に保 健 ・医 療 ・福 祉 に 関 す る情 報 を 入 手 す る こ と が可 能 と な った.し か し,看 護 相 談 で は, 時 間 を か け た患 者 の 悩 み や 問題 を 引 き 出 す こ とが で き る対 面 サ ー ビス と,そ の た め の 「場 所 」 も必 要 で あ り, 「看 護 相 談 室 」 の 重 要 性 を 感 じた. な お,本 論 文 の要 旨 は,第7回 医 療 マ ネ ジ メ ン ト学 会(福 岡)に て報 告 した.ま た,本 研 究 は,平 成15年 度 「ま ち の 保 健 室 」 事 業(日 本 看 護 協 会)及 び徳 島大 学 地 域 貢 献 特 別 支 援事 業(文 部 科 学 省),徳 島 県 難 病 ネ ッ トワ ー ク事 業(徳 島 県)に よ る研 究 の 一 環 と して 実 施 さ れ,そ の一 部 は平 成16年7月 に 「ま ちの 保 健 室 」 事 業 成 果 発 表 会(日 本 看 護 協 会)5)に 報 告 した. 謝 辞 本 研 究 を 進 め る に あ た り,療 養 者 お よ び 家 族 の 方 々 か らは相 談 を 通 して貴 重 な デ ー タを い た だ き ま した こ と に感 謝 します.ま た,看 護 相 談 員,徳 島大 学 医 学 部 保 健 学 科 地 域 精 神 看 護 学 講 座 の先 生 方 お よ び 徳 島 大 学 病 院 医療 情 報 部 の ス タ ッフ の方 々 に深 謝 しま す.最 後 に,随 所 で サ ポ ー ト下 さ い ま した 香 川 征 病 院 長 に深 謝 い た しま す. 文 献 1) 厚 生 統 計 協 会 編: 国 民 衛 生 の 動 向2005年 度 版, pp414, pp440, (財厚 生 統 計 協 会, 東 京, 2005 2) 大 津 陽子: 看 護 相 談 係 が 患 者 と家 族 を サ ポ ー ト, 看 護53 (5): 53∼56, 2001 3) 滝 沢 真 季 子, 山 口聖 子: 看 護 相 談 室 (焦点 外 来 で 看 護 の専 門 性 を発 揮 す る-専 門外 来 の取 り組 み の 実 際), 看 護 技 術47 (7): 799∼804, 2001 4) 日本 統 計 協 会 編: 統 計 で み る 日本2004情 報 ・通 信, pp256∼269, 日本 統 計 協 会, 東 京, 2004 5) 大 岡裕 子: 平 成15年 度 地 域 に お け る看 護 提 供 シ ス テ ム モ デ ル 事 業 (ま ち の 保 健 室) 報 告 書, 日本 看 護 協 会: 125∼149, 2004 6) 杉 原 治 美, 大 岡 裕 子, 森 口博 基: 大 学 病 院 に お け る行 政 を 含 め た地 域 医 療 連 携 と将 来 構 想, 医 療 マ ネ ジメ ン ト学 会 雑 誌3 (3): 501∼505, 2003 7) 植 村 康 子: 看 護 相 談 室 専 任 者 と各 病 棟 の連 絡 委 員 の連 携 に よ る退 院 調 整 (特 集 退 院 調 整 看 護 師 の 専 任 化 の意 義), 看 護 展 望29 (9): 991∼997, 2004 8) 杉 原 治 美, 大 岡 裕 子, 美 馬 福 恵: 看 護 相 談 に お け る患 者 ニ ー ズ の明 確 化 か ら問 題 解 決 過 程 の 分 析, 第35回 日本 看 護 学 会 抄 録 集, 地 域 看 護: 56, 2004
医 療 マ ネ ジ メ ン ト学 会 雑 誌 Vol.6, No.4, 2006 9) 医 療 と く し ま 情 報 箱: https://www.iryo.pref. tokushima.jp/iryou-kokai/Main-Menu, ア ク セ ス2005. 12. 20 10) 薮 本 み ど り, 杉 原 治 美, 多 田 敏 子: 大 学 病 院 の 看 護 相 談 に お け る 脳 血 管 疾 患 患 者 の ニ ー ズ の 明 確 化, 第23回 徳 島 県 看 護 学 会 プ ロ グ ラ ム ・集 録 集: 31∼ 33, 2004 (本 稿 は2005年6月24・25日 に 開催 され た第7回 医 療 マ ネ ジ メ ン ト学 会 学 術 総 会 に お け る発 表 内 容 を も とに 寄 稿 した も ので あ る。) ABSTRACT
The development and evaluation of virtual nursing consultation room Harumi Sugihara1)2), Hiroko Ooka2), Toshiko Tada1)5),
Kenichiro Fujikura1)4), Tomiaki Morikawa3), Hiroki Moriguchi1)3)
1)
Medical Liaison Center, Tokushima University Hospital 2)
Division of Nursing, Tokushima University Hospital
3)
Dep. of Medical Informatics, Tokushima University Hospital
4)
Palliative Care Center, Tokushima University Hospital 5)
School of Health Sciences, The University of Tokushima
In the Medical Liaison Center Tokushima University Hospital, established in 1999, a total of 2074 nursing consultations were accepted from 1999 to 2005. The problems we found in these 6 years were; 1. lack of consultants, 2. diverse and manifold inquiries from each client, 3. too many inquiries in limited office hours, etc. To improve the situation and deal with such diverse inquiries as promptly and properly as possible, we analyzed the details of our consultations, classified them into several categories, and developed a nursing consultation software, which provides users with information including answers to inquiries or site links to proper authorities where clients can obtain additional information. As a result of software evaluations, we found that the software functioned effectively, by using it on the Internet, as information sources not only for consultant nurses but also for medical staffs in and outside of our hospital, student nurses, and patients or their families. We also found that the software could reduce time to get to proper information and respond to manifold inquiries.
