同一命題構造に基づく穴埋め問題と
キットビルド概念マップの生成と実験的利用
Simultaneous Generation of “a Set of Fill-in-blank Problems” and “a Kit-build
Concept Map” from a Set of Propositions and Experimental Use of Them
北村 拓也*1,山中 彰*2,前田 啓輔*2,林 雄介*2,平嶋 宗*2
Takuya KITAMUEA
*1,Akira YAMANAKA*2,Keisuke MAEDA*2,Yusuke HAYASHI*2,Tsukasa
HIRASHIMA*2
*1 広島大学工学部
*1Faculty of Engineering Hiroshima University
*2 広島大学大学院工学研究科
*2Graduate School of Engineering Hiroshima University
Abstract: This paper describes a function that generates (1) a series of fill-in-blank problems, and (2) a concept map corresponding to the problems from input of a series of propositions. As an experimental use of this function, we had used the fill-in-blank problems and the concept map (used as a kit-build concept map) in (1) science class of 5th grade in an elementary school, and (2) lectures of a university. As the results, the generated problems and concept map are able to use practically. Beside, in comparison with the fill-in-blank problems, concept map as kit-build method is obtained better learning effect than the problems.
1. はじめに
本研究では,授業者が自身の実施する授業の要点 を「関連を持った一連の命題群(命題構造)」とし て記述することで,その命題群に対応する概念マッ プを生成する機能を実現した(ここでは, RDF の 三つ組み表現[1]に準拠して命題を記述するものと している).さらに,ここの命題を構成する三要素 のうちいずれかを指定することで,その要素を空欄 とする穴埋め問題を生成する機能も実装した.ま た,作成された 概念マップ をキットビ ル ド方式 [2,3,4,5]で活用することもできるようにしている. これらの機能によって,同じ内容(つまり命題群) に対して,その理解を確認・促進する手段として, 穴埋め問題の解答とキットビルドの概念マップの組 み立ての二つの活動を行えるようになった.さら に,小学校の授業および大学の授業に関しての予習 映像の視聴による自習を対象とし,授業内容の理解 の確認・補強を目的とした活動として,本機能を用 いて生成された穴埋め問題およびキットビルド概念 マップを用いた活動を実施した.この試みを通し て,本機能が実践的に利用可能であること,学習効 果の点からすると,キットビルド概念マップがより 有効であることを示唆する結果が得られたので報告 する.2. 研究背景
授業において学習者に求められるのは,そこで得 られる情報の中から重要事項を選別し,整理して, 自分が持つ既知の知識と結びつけることと言える. これを Kiewra[6]は Mayer[7]の文章読解のモデルに 当てはめて,「選択」(文章から情報を選択し、作業 記憶に加えること)、「内的関連づけ」(選択された 情報を、作業記憶の中で結束した構造に体制化する こと)、「外的関連づけ」(体制化された情報を、長 期記憶の中に既にある、似たような他の知識と結び 付けること)の3 つのタスクからなるプロセスに整 人工知能学会研究会資料 SIG-ALST-B502-10理している.授業と文章読解の違いは,文章読解で は学習者が得られる情報が文章中に文字としてすべ て含まれているのに対して,授業は板書に書かれる ことは一部に過ぎず,教師の発言として揮発的な情 報となっていることを挙げ,別の難しさがあること を指摘している. この観点からの授業の支援として,穴埋め式の要 約資料(Skeletal outline)や学習内容の表での整理 の効果を検証している.ここでの穴埋め式の要約資 料とは,授業の内容の要点をまとめたドキュメント のいくつかの箇所を空欄に置き換えたもので,学習 者は授業を聞いて,その空欄を埋めることで理解の 確認や整理ができるものである.その穴埋め式の要 約資料や表を授業で実際に用いた結果として,穴埋 め式の要約資料は「選択」タスクと「内的関連づ け」タスクにおいて一般的なノートの取り方よりも 効果があり,さらに「内的関連づけ」タスクにおい ては表での整理がさらに効果があることが示されて いる[7]. この結果から考えられることは,学習内容の構造 (関係性)がより明示的に示される表現の方が学習 効果が高いと考えられることであり,同じように学 習内容を構造的に表すことができる概念マップを利 用した学習に関する研究で学習効果が示されている ことにも関連すると考えられる.そして,学習者が 授業内容を把握するために学習目標や実施条件の違 いによっていくつかの形式を使い分ける必要性を示 唆していると言える, 本研究では,これらのことを踏まえた上で,教師 が作成する授業内容の要点のまとめから,それに関 する穴埋め式問題課題と概念マップ作成課題を生成 し,教師が学習者の理解を確認できるようにする手 法を提案する.この提案手法では,穴埋め式問題や 概念マップ作成課題を独立に作成するのではなく, あくまで,まとめを一つ作り,そこから2 種類の課 題を作ることによって,それぞれに含まれる要素の 整合性も取れる点に特徴がある.また,概念マップ 作成課題では一般的な自由に概念マップを作成する 方式では自由度が高く,教師による評価も難しいた め,キットビルド方式[4,5,6]という概念マップ作成 のためのノードとリンクを学習者に提供する方式で 概念マップ作成課題を生成する.キットビルド方式 を利用することにより,学習者が作成する概念マッ プの比較がコンピュータ上で容易に処理可能にな り,教師が想定する概念マップとの比較による評価 や学習者同士の概念マップの比較による考えの違い の認識が容易となる.そして,授業時間内でのフィ ードバックが可能となる. 本稿では,教師がまとめ文章を概念マップの個々 の命題(リンクによる2つのノードのつながり)に 対応する記述とすることにより,同じ内容をカバー する穴埋め式問題をキットビルド概念マップを作成 できることを示し,それを用いた実践の結果につい て紹介する.
3. 授業の要点整理と課題化
授業でのキットビルド概念マップ利用では,教師 がその授業で学習者に学んでもらいたいことの要点 を授業実施前に概念マップとして作成する.これを 要点マップとよぶ(先行研究では,マップの再構成 における「ゴール」を表すものとして「ゴールマッ プ」と呼んでいたが,授業における学習の「ゴー ル」との混同が生じるため,このマップは授業の要 点を表すものという意味でここでは要点マップとよ 図 1 要点命題ベースの穴埋め問題作成支援システムの構成ぶ).学習者にはこの要点マップを分解したものが キットとして提供され,それを再構成することが求 められる. 図1に要点マップとキットの例を示す.この例で は,(a)要点マップとして太陽の動きが整理されて おり,4 つの命題が定義されている.キットビルド 概念マッ プとし ては,(b)キットの ように 分解さ れ,学習者に提供される.一方,この要点マップ は,(c)まとめ文のように自然言語で表現すること もできる.そして,これを(d)穴埋め問題のように 各文においてマップ中のノードまたはリンクに対応 する部分を空欄とすることによって,一般的な穴埋 め問題を作成することができる. 図1(b)のキットを組み立てることと,図1(d)の 穴埋め問題において空欄にした部分の語彙を選択肢 として提供することで,内容としては同じことを問 う課題となるただし,キットの組み立てはリンクの 両端がオープンになっているのに対し,穴埋め問題 はキットに対応させるとリンクの片方がつながって いる状態となっているため課題としての性質は異な る. このように穴埋め問題を要点マップとしても表す ことができる命題構造から生成することによって, 同じ内容を形態を変えて課題化することができる. また,この例の規模の命題構造であれば,それほど 変わりは無いが,規模が大きくなり命題数が増加す ると,まとめ文および穴埋め問題では文および問題 が多くなってしまう.そのため,より抽象度を上げ てまとめの項目を少なくするか,一般的な理解確認 のための穴埋め問題の提示では,一部を使ってサン プリング的に学習者の理解を測っているといえる.
4. 要点命題
ベース
の穴埋め問題作成
支援システム
4.1. システム構成
要点命題ベースの穴埋め問題作成支援システムの 構成を図2に示す.このシステムは,KB マップシ ステム[3]を拡張する形で設計,開発されている. KB システムでは,KB マップサーバでデータと管 理しており,教師用のクライアントであるK サーバでは,教師が要点マップの作成とキット化, 学習者マップの閲覧と分析ができる.学習者マップ 図2 システムの全体図は学習者用のクライアントである KB マップエディ タ上で作成され.そのデータが KB マップサーバに 送信され,蓄積される.このデータを使って教師は 学習者の理解の確認をする. 穴埋め問題の作成においては,問題の元となるデ ータは KB サーバで扱うものとする.問題の元とな るのはまとめについての命題集合であり,これは要 点マップを構成する情報と同じである.ただし,キ ットビルド概念マップでは要点マップを単に分解し て学習者に提供すればいいが,穴埋め問題では文章 として表現されていなければいけない.よって.文 章化の情報については穴埋め問題用のサーバ(穴埋 め問題サーバ)を別途用意して,そこで管理してい る
4.2. 課題の作成と利用の流れ
教授者と学習者が実際に使う場合の処理の流れを 示す。 (1) 教授者による課題作成 教授者は,穴埋め問題製作エディタ(図 3)を用い て、まとめ文章を命題形式の単文に変換したもの (図 1(B2))を一文ずつ入力する.これは図 3 左側 で示したもので,まとめの内容を各命題で空欄を設 定することで穴埋め問題(図1(C2))を作成する。 命題化したまとめ文と穴埋め問題はそれぞれ要点マ ップとキットと相互変換可能であり,穴埋め問題が 完成すると、同時に要点マップも自動生成される (図 4).穴埋め問題の情報(ノードとリンクの言葉を 文章としてつなぐための文字列や空欄箇所,正解の 内容など)は穴埋めサーバに、要点マップは Kit-Build マップサーバにアップロードされる. (2) 穴埋め問題の利用 学習者は穴埋め問題解答システム(図 5)を使っ て,穴埋め問題に回答する.ここでは,(1)で回答 箇所と設定した部分が空欄となっており,そこに選 択肢として用意されたノードをドラッグアンドドロ ップして回答する. 学習者が解いた穴埋め問題の 回答は、命題形式で Kit-Build サーバにアップロー ドされる. (3) 教授者による分析 教授者は穴埋め問題アナライザ(図 6)で各設問での 回答や正誤を見ることができると同時に,Kit-Build マップアナライザを使ってマップ形式で学習者の回 答を分析することも出来る.穴埋め問題アナライザ で見ることができるのは,回答者数、学習者の回 答,その正誤である.KB マップアナライザ(図 7)で 見ることができるのは,マップとして表示されたも のであり,各学習者の回答と教授者が作成した要点 マップとの比較による正誤判定や学習者全員の回答 をマップ形式で重ね合わせたもの(重畳マップとよ ぶ)から全体の傾向を確認することができる. こ れらの情報は課題実施後すぐに得ることができ,こ の情報に基づいて授業中のフィードバックを行うこ とができる. 図 3 穴埋め問題制作エディタ画面 図 4 自動生成された要点マップ 図 5 穴埋め問題解答画面図 6 穴埋め問題アナライザ画面 図 7 Kit-Build マップアナライザ画面
5. 実践での利用
本システムを(I)A 大学附属小学校 5 年生の理 科の 3 時限(1 単元),および(II)B 大学文学部 での集中講義で利用した。小学校での利用では,2 クラスで同一内容の授業において穴埋め問題のみも しくは KB マップのみを用いて,それぞれの課題の 成績と最終課題として両クラスに提供した共通の記 述式問題の成績を比較した.大学での利用について は,1 クラスのみでの実施であり,学習者に穴埋め 問題,KB マップの順で両方の課題を実施した後に 行ったアンケート調査の結果について分析する.5.1. 小学校での利用
本利用は小学5 年生の 2 クラスでの理科の授業で 「植物の生態」という3 回の授業で構成される単元 で行われた.この2 クラスは,本研究とは別途行わ れた理科についての学習内容全般に対するテスト (実力テスト)で成績の有意差が無く(表 1),この 2 クラスを穴埋め利用群と KB 利用群として分け, 全 3 回の授業の各回の授業の理解の確認をそれぞ れ,穴埋め問題,KB マップを利用して行った。授 業時間、学習内容、教授者は同じである。また,最 後の授業後に同一の記述式のテストを行った。 表1 テスト・課題の平均点 穴埋め群 KB 群 実力テストの平均点 60.0 (SD=12.7) 60.9(SD=15.5) 課題の平均点 100.0 (SD=0.0) 79.3 (SD=24.4) 記述テストの平均点(%) 65.1 (SD=21.6) 80.1 (SD=19.4) 各回の課題では,穴埋め群が全ての課題で全員が 正解していたのに対して,KB 群では平均点は 79.3 であり,キットから概念マップを一部正しく組み立 てられない学習者がいた.それに対して,記述テス トでは傾向が逆転しており,KB 群の平均点が有意 に高かった.授業における 2 群の差は,授業の確認 における穴埋め問題の利用とKBの利用の違いだけ であり,KBの利用効果が表れていると思われる. また,両群での実力テストと記述テストの相関, KB 群での最後の総合的なマップ課題と記述テスト の相関を表に示す.両群共に実力テストと記述テス トの成績に中程度の相関があり,有意であった.こ のことは,今回実施した記述テストがある程度児童 の理科の理解度合を捉えていること,また,総合マ ップと記述テストの間にも弱い相関がみられたこと から,マップにおけるスコアは,ある程度学習者の 理解状況を表していることも示唆された.このこと は,穴埋め問題ではできる学習者が,KBマップで はできない場合があること,そして,そのできない 場合には理解状態が不十分ではない可能性があるこ とも示唆している. これらのことから,授業理解の確認として用いる 場合,(1)穴埋め問題よりもKBマップの方が学習 に貢献すること,(2)学習者の理解状態を適切に把 握できること,が示唆された. 表2 実力テスト・総合マップと記述テストの相関 穴埋め群 KB 群 実力テスト−記述テスト 0.45 (p=0.0046) 0.52 (p=0.0008) 総合マップ−記述テスト - 0.34 (p=0.039)5.2. 大学での利用
大学の利用では,予習用の講義映像を視聴後に, KBマップおよび穴埋め問題の解答の両方を行って のもらった.その後,実際に講義を行い,その後で,KBマップと穴埋め問題の比較についてのアン ケートを取った. 質問項目は,(1)小テスト(穴 埋め問題)とマップ(KBマップ)のどちらが難し かったですか,(2)予習講義の理解を深めたのは どちらですか,(3)予習講義の自身の理解度を確 認するのにどちらが有用でしたか,(4)講義の理 解を深めるのに役立ったのはどちらですか,であっ た.この結果を表3に示した. 表3 アンケート結果 質問項目 マップ 小テスト 不明 (1) 13 4 1 (2) 12 4 2 (3) 14 0 4 (4) 13 2 3 いずれの項目においても,マップが高い評価を得 た.特に,(3)の自身の理解度の確認に関しては, 「マップをよいと判断する/しないを無作為に選 ぶ」を帰無仮説にしたうえで正確 2 項検定をする と,両側検定で有意となった(p=0.031).(1)およ び(4)についても同様の検定で,有意傾向が見ら れた.したがって,多くの学習者が,マップは小テ ストより難しいと判断しながら,マップが自身の理 解の確認や,講義の理解の促進に有用であると判断 していることになる.これは,小学校で得られた結 果と対応するものであるといえる. また,理由を自由に記述してもらった中では,穴 埋め問題よりも KB マップの方が回答するためのよ り考えることが必要という記述や関係性を考えるた めに理解を深めやすかったという記述が何名かから 見られた.これは,アンケート結果を補強するもの である.ただし,良い評価だけでは無く,KB マッ プではラベルの言葉が短く分かりにくく,穴埋め問 題のような文章の方が分かりやすいといった指摘も あった.これらは KB マップの使いにくさを表さす ものであり,改善が必要と思われる.ただし,今回 の学習者はこれまでに KB マップを利用したことが なく,事前の練習も行わずに使った上での結果であ ることから,KB マップの利用可能性は十分である とも判断できる.
6. おわりに
本稿では,一連の命題構造を記述することで,K Bマップが構成できること,および,その命題構造 に基づいて,KBマップに対応する穴埋め問題が生 成できる機能を実現した.さらに,この機能を用い て,命題構造としては同等となる穴埋め問題とKB マップを授業のまとめ活動としてそれぞれ利用する 2 群(2 クラス)を設けた授業を,5 年生理科にお いて 3 時限実施したところ,KBマップの利用が学 習効果を上げることを示唆する結果が得られた.ま た,大学におけるオムニバス形式の集中講義で利用 したところ,多くの学習者から,KBマップの利用 が学習に役立ちそうであるとのアンケート結果を得 た.これらのことから,本機能が実践的に利用可能 であることが示せるとともに,学習効果の観点から すると,KBマップの利用が有効であることが示唆 された.参考文献
1. RDF Working Group (2004). RDF Semantics. http://www.w3.org/TR/2004/REC-rdf-mt-20040210/ 2. K Yamasaki, H Fukuda, T Hirashima, H Funaoi (2010).
Kit-build concept map and its preliminary evaluation, Proc. of ICCE2010, 290-294.
3. T Hirashima, K Yamasaki, H Fukuda, H Funaoi (2011). Kit-build concept map for automatic diagnosis, Proc. of
Artificial Intelligence in Education 2011, 466-468.
4. K Sugihara, T Osada, S Nakata, H Funaoi, T Hirashima (2012). Experimental evaluation of kit-build concept map for science classes in an elementary school, Proc.
ICCE2012, 17-24.
5. Hirashima T, Yamasaki K, Fukuda H and Funaoi H (2015). Framework of kit-build concept map for automatic diagnosis and its preliminary use, Research and
Practice in Technology Enhanced Learning 2015, 10:17.
6. Kiewra, K. A. (1991) Aids to Lecture Learning.
Educational Psychologist, 26(1): 37-53
7. Mayer, R. E. (1984) Aids to Text Comprehension.
Educational Psychologist, 19(1): 30-42
8. Kiewra, K., DuBois N. (1991) Note-Taking Functions and Techniques, Journal of Educational Psychology, Vol.83, No.2, 240-245.