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小学校体育科における体つくり運動領域の「多様な動きをつくる運動」の教材化に関する研究

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†保健教育専修 教科教育専攻 指導教員: 延浩 原 著 論 文

小学校体育科における体つくり運動領域の

「多様な動きをつくる運動」の教材化に関する研究

A Study on Teaching Materials for “Essential Motions Leading to

Various Movements” in the Area of Physical Development

Exercise of Elementary-School Physical Education

Yoshitaka TAKADA

Abstract

With the idea proposed by Iwata (2007), “fundamental viewpoints for developing teaching materials,” this M. A. thesis attempts to advance a teaching material for physical development, in particular, putting emphasis on its substantial and methodological viewpoints. The purposes of developing the material that we call “Essential Motions Leading to Various Movements” are twofold : first, through the practice of the material, the students can participate in the class proactively and acquire various physical motions, and second, the development of the material itself can contribute to clarifying the structure of the childrenʼs learning procedure of physical movements. The viewpoint of content arranged in our teaching material is found to stimulate the studentsʼ self-recognition of how their bodies move during the exercises, and the methodological viewpoint is helpful to nurture the studentsʼ attitudes toward the participation in the class as a group activity. These two aspects are clearly reflected on the feedbacks from the students after the class.

キーワード:体つくり,多様な動きをつくる運動,教材化,縄を使った運動,ボールを使った運動 1.研究の目的と意義 今回の学習指導要領 (体育科) の改訂に際し て,「体つくり運動」の増設は,全領域の中で 唯一,12 年間 (6・3・3) を通して位置づけら れ,体力向上に向けての役割を大きく期待され ている。その中の小学校低・中学年の「多様な 動きをつくる運動 (遊び)」は,体を動かす楽 しさや心地よさを味わうとともに,体の基本的 な動きを総合的に身に付けることをねらいとし ている (文科省,2008)。学校現場でこれらの ねらいを十分に理解しないまま,解説の例示を

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そのまま子どもたちに丸投げしてしまう捉え方 をしていると内田 (2009) は指摘している。単 元構成や指導の方法がよくわからないという声 があった,「基本の運動 (昭和 52 年改訂)」が 導入された当初と類似している(内田,2009)。 また,将来的にどのような能力に発展していく のかが見えにくい「多様な動きをつくる運動 (遊び)」(北村,2010) は,より授業の中で活 用しやすいように教材化することが急務である。 しかし,このような教材開発は,他領域に比し てあまり積極的には行われておらず,実践の多 くは,ただ単調な動きの反復に終始した内容に なりがちである (近藤,2008・塚本,2009・山 内,2010・栗原,2010)。したがって,子ども たちが楽しみながら運動する中で,それぞれの 運動のもつ本質的な楽しさに触れ,体の基本的 な動きが身につくような学習内容にしていく授 業づくりが重要である。学習指導要領では,運 動を楽しむ結果として「全身の動きをコーディ ネートする能力」を育成することがねらわれて おり,興味関心をベースにした授業を組み立て る工夫や教師の働きかけ,教材づくりが求めら れる。「多様な動きをつくる運動」にも,学習 者に習得させたい運動や動き・認識,そして社 会的態度の内容が明確に盛り込まれている必要 があると考える (岩田,2007)。岩田 (2007) は以下の図 1 のように示している。 「多様な動きをつくる運動」の教材化は,岩 田 (2007) の「教材づくりの基本的視点」の内 容的視点にあたる,① 知識・認識 (わかる) ② 運動 (できる) ③ 社会的行動 (かかわる) と,方法的視点から捉えた,① 運動経験や興 味・関心 ② 学習機会の平等性 ③ プレイ性 の確保を意識した教材づくりが重要である。 また,先行実践では,今回のプログラムで, 運動経験に乏しい女子には受け入れられるもの であったが,比較的運動経験の多いと考えられ る男子の評価は低いものであったと報告されて いる。さらに,男子については,特にボールの 単元において,子どもたちがボール運動と捉え, ボール運動としての欲求が満たされなかったと も考えられる。体つくり運動の本来のねらいと は違った欲求が子どもたちから出てきたと考え ると,運動経験に乏しい子どもたちが楽しく参 加して力をつける内容を工夫しながら,運動経 験の多い子どもたちも満足させていく工夫が求 められる。工夫の視点としては,用具・器械・ 器具の組み合わせ方や学習形態が考えられる。 従って,児童が喜びをもって自主的に活動に参 加できる内容を工夫していくプログラムの開発 が急務である。また,もう一つの問題点は,子 どもたちに学年の発達の違いと用具を使った運 動の種類の違いにおいて,一定の関係は見出さ れなかったとも報告されており,どの学年でど の運動をするかということよりも,どの運動も もれなく実践することがより重要であると考え る。学習意欲の喚起が足りなかった結果を受け, これらのことを複合的に検討することを通して, (岩田,2007) 図 1 教材づくりの基本的視点

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「動きつくり」にねらいをおいた教材づくりの 具体的な視点を以下に示す。まず内容的視点と して, ① 身につけた動きや運動を工夫したり,場 を選んで運動したりする (わかる) ② 一つ一つの動きをじっくりと経験し,動 きを確認しながら習得する (できる) ③ 友だちと競争したり,複数で動きを合わ せたりすることで,動きを広げる (かか わる) また,具体的な方法的視点として, ① 運動経験や興味関心をベースにする ② 基本的な動きを生かし,動きのレパート リーを広げる ③ 一つだけの運動を繰り返して行うのでは なく,バランスよく組み合わせる 以上のような具体的な視点を踏まえたプログ ラムに焦点をあて,「多様な動きをつくる運動」 のプログラムを教材化し,工夫した授業を実践 することにより,主体的に「多様な動きをつく る運動」に取り組み,多様な動きを身につける 子どもたちの姿が見られるであろう。そしてさ らに「多様な動きをつくる運動」の学習の系統 性を明らかにし,よりよい授業の構築を行うた めの知見を得ることを本研究の目的とする。 2.方法の概要 本研究は,単元として授業を構成し,どのよ うな力がついたのかを評価していくことや先行 実践を踏まえた研究でもあることから,同一単 元 (縄,ボール) とし,前述の視点を中心に単 元を構成した。先行実践とのプログラムの大き な違いは以下のとおりである。 ① 運動欲求 (特に男子) を満たすことに重 点を置き,縄の単元では,ダブルダッチ やボール操作を取り入れたり,ボールの 単元では,ゲーム的要素があるものを多 く取り入れたりして,運動の難易度を上 げる。(運動経験や興味・関心) ② 集団として動きを高めるため,集団とし ての課題設定を増やし,仲間と関わりな がら,課題解決をめざす。(先行研究) (1) 対象児童と実施プログラム 滋賀県下の O 小学校第 4 学年の2 学級 (A 学級:男子 18 名,女子 20 名,計 38 名,B 学 級:男子 17 名,女子 21 名,計 38 名) の児童 を対象にした。 各学級に,ボールと縄を使った運動で構成さ れた「多様な動きをつくる運動」の単元を実施 した。 実施期間は,2011 年 9 月〜12 月であった。 (2) 実施したプログラム 表 1 (主に縄を使った運動で構成した「多様 な動きをつくる運動」の単元計画) と表 2 (主 にボールを使った運動で構成した「多様な動き をつくる運動」の単元計画) に示すような 2 つ の単元を設定した。 改変したプログラム (表 2 も同様) 〈縄で改変した主な内容〉 ・長縄を跳びながら,主にボール操作 (投げ 上げ,ドリブル,パスなど) を取り入れ, 組み合わせの運動を増やした。 ・単元が進むにつれ,ダブルダッチに取り組 む時間の割合を増やし,難易度を上げて いった。 〈ボールで改変した主な内容〉 ・グループ (少人数) での活動に,ゲーム的 要素を取り入れたプログラム (バウンド ゲームやボールキャッチ) を増やした。 ・集団 (グループや学級) で活動する時間の 割合を,単元後半にかけて増やしていった。 (3) 授業評価の方法 情意領域では,奥村ら (1989) による中学年 児童を対象とした態度測定を単元前・後に実施 した。技能領域については,栗本ら (1981) に よる調整力フィールドテスト (「とび越しくぐ り」「反復横とび」「ジグザグ走」) と,新体力 テストの中から「立ち幅跳び」を単元前・後に 実施した。さらに,単元の各授業時間において の児童の学びを把握するために,長谷川ら (1995) による形成的授業評価法を実施した。 (4) 統計的処理 単元開始前後に実施した調整力フィールドテ

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(1) 準備運動 ・ストレッチ (2) 短縄 チャレンジ ・短縄基本練習 (3) ダブルダッチ チャレンジ ・まわす練習 ・中外でパス ・2 人跳びでパス ・短縄を組み合 わせて (4) ダブルダッチ 発表会 ・発表会へむけ ての練習 (5) 学習の振り 返り (1) 準備運動 ・ストレッチ (2) 短縄 チャレンジ ・短縄基本練習 (3) 長縄 チャレンジ ・1 分間 8 の字跳び ・ボール投げ上げ ・ドリブルかけ 抜け ・ドリブル (1,2 個) ・中外でパス ・2 人跳びでパス ・バスケシュート (4) ダブルダッチ ・まわす練習 ・3 回ぬけ ・5 回ぬけ (5) 学習の振り 返り (1) 準備運動 ・ストレッチ (2) 短縄 チャレンジ ・短縄基本練習 (3) 長縄 チャレンジ ・1 分間 8 の字跳び ・ボール投げ上げ ・ドリブルかけ 抜け ・ドリブル (ボール 1 個) ・中外でパス ・2 人跳びでパス (4) ダブルダッチ ・まわす練習 ・入る練習 ・1 回ぬけ (5) 学習の振り 返り (1) 準備運動 ・ストレッチ (2) 短縄 チャレンジ ・短縄基本練習 ・ペアとび (3) 長縄 チャレンジ ※むかえなわ で行う ・1 分間 8 の字跳び ・1 回跳び ・床タッチ ・落とし物ひろい ・2 人で技をする ・移動しながら 跳ぶ (4) ダブルダッチ ・まわす練習 ・入る練習 (5) 学習の振り 返り (1) 準備運動 ・ストレッチ (2) 短縄 チャレンジ ・短縄基本練習 ・ペアとび (3) 長縄 チャレンジ ※かぶりなわ で行う ・1 分間 8 の字跳び ・1 回跳び ・床タッチ ・落とし物ひろい ・2 人で入る ・移動しながら 跳ぶ (4) ダブルダッチ ・まわす練習 ・入る練習 (5) 学習の振り 返り 内 容 1 2 3 4 5 6 時間 表 1 主に縄を使った運動で構成した「多様な動きをつくる運動」の単元計画 (1) 準備運動 ・ストレッチ (2) 短縄 チャレンジ ・短縄基本練習 (3) ダブルダッチ チャレンジ ・まわす練習 ・中外でパス ・2 人跳びでパス ・短縄を組み合 わせて (4) ダブルダッチ 発表会 ・技の発表 (5) 学習の振り 返り (1) 準備運動 ・ボール操作移動 ・ストレッチ (2) ビュンビュンタ イム (投げる) ・ビュンビュン スロー (3) バンバンタイム (投げる・捕る) ・バンバンキャッチ (2 人,グループ) ・ボールキャッチ (1 人,2 人 グ ループ) (4) ドンドンタイム (投げる・捕る) ・なげとり合戦 (発展型) (5) 学習の振り 返り (1) 準備運動 ・ボール操作移動 ・ストレッチ (2) ビュンビュンタ イム (投げる) ・ビュンビュン スロー (3) バンバンタイム (投げる・捕る) ・バンバンキャッチ (2 人,グループ) ・ボールキャッチ (1 人,2 人グ ループ) (4) ドンドンタイム (投げる・捕る) ・なげとり合戦 (5) 学習の振り 返り (1) 準備運動 ・ボール操作移動 ・ストレッチ (2) ビュンビュンタ イム (投げる) ・ビュンビュン スロー (3) バンバンタイム (投げる・捕る) ・バンバンスロー (1 人で) ・ボールキャッチ (1 人,2 人) (4) ドンドンタイム (投げる・捕る) ・なげとり合戦 (5) 学習の振り 返り (1) 準備運動 ・ボール操作移動 ・ストレッチ (2) ビュンビュンタ イム (投げる) ・ビュンビュン スロー (3) バンバンタイム (投げる・捕る) ・バンバンスロー (1 人で) ・ボールキャッチ (1 人,2 人) (4) 学習の振り 返り (1) 準備運動 ・ボール操作移動 ・ストレッチ (2) ビュンビュン スローの行い 方を知る それを行う (3) それぞれの運 動の行い方を 知り,行う ・バンバンスロー ・バンバンキャッチ ・ボールキャッチ ・なげとり合戦 (4) 学習の振り 返り 内 容 1 2 3 4 5 6 時間 表 2 主にボールを使った運動で構成した「多様な動きをつくる運動」の単元計画 (1) 準備運動 ・ボール操作移動 ・ストレッチ (2) ビュンビュンタ イム (投げる) ・ビュンビュン スロー (3) バンバンタイム (投げる・捕る) ・バンバンキャッチ (2 人,グループ) ・ボールキャッチ (1 人,2 人 グ ループ) (4) ドンドンタイム (投げる・捕る) ・なげとり合戦 (発展型) (5) 学習の振り 返り

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スト及び立ち幅跳びの結果を比較した。平均得 点の比較に際しては,対応のある t-検定を用 いた。なお, 5 % を有意水準とした。 3.結果ならびに考察 (1) 態度測定による児童の愛好的態度の変容 ①「縄を使った運動」 単元後の態度得点の診断は,男子が「かなり 低いレベル」,女子が「低いレベル」であった。 単元期間中の授業の成否は,男女とも「かなり 失敗」であった。「よろこび」「評価」「価値」 の全ての項目において標準以下の低下を示して いる。 ②「ボールを使った運動」 単元後の態度得点の診断は,男子が「低い」, 女子が「アンバランス」であった。単元期間中 の授業の成否は,男子が「失敗」,女子が「か なり成功」であった。男子では,「よろこび」 「評価」の項目において標準以下の低下を示し ている。女子では,「評価」「価値」の項目にお いて標準以上の伸びを示している。これらのこ とから,今回設定した学習過程は,女子の運動 欲求を満たすのに有効に作用したと考えられる。 (2) 単元前後における調整力フィールドテス トの結果 表 3 は,縄を使った運動を主に実施した学級 での,男女ごとの調整力フィールドテストの結 果をまとめたものである。 表 4 は,ボールを使った運動を主に実施した 学級での,男女ごとの調整力フィールドテスト の結果をまとめたものである。 2 つの単元の単元前後の調整力フィールドテ ストの結果を比較してみると,縄を使った単元 では,「跳び越しくぐり」で男女とも有意に向 上し,「反復横跳び」でも女子が向上している。 しかし,「ジグザグ走」で男女とも下がる結果 となってしまった。一方,ボールを使った単元 において,「ジグザグ走」で男子が,「反復横跳 び」「跳び越しくぐり」でも女子が向上してい ることがわかり,「多様な動きをつくる運動」 にボールを使うことの有効性を示している。調 整力フィールドテストの結果のみに注目すると, 有意に向上している項目は,どちらの単元にも あることから,調整力がついているという結果 が表れているが,総合的に見ると,縄を使った 単元に問題があったと推察される。 (3) 考察 本実践のプログラムは,岩田(2007)の「教材 13.70 (0.80) 12.80 (1.18) ** 13.24 (0.80) 12.21 (1.52) ジグザグ走 4 年生縄 (男子) n=15 4 年生縄 (女子) n=16 ( *p<0.05 **p<0.01) 表 3 4 年生で縄を使った運動を主に実施した学級での調整力フィールドテストの結果 反復横跳び 126.13 (12.63) 127.81 (13.93) 134.80 (16.82) 134.50 (14.29) 立ち幅跳び * 12.02 (1.75) 13.77 (2.74) ** 11.0 (1.79) 12.0 (1.72) 跳び越しくぐり ** 単元後 単元前 平均 (SD) 平均 (SD) 平均 (SD) 平均 (SD) * 30.94 (4.27) 29.44 (3.78) 33.60 (14.13) 33.90 (16.88) 単元後 単元前 12.80 (1.25) 13.40 (0.76) ** 12.70 (1.26) 13.51 (1.05) ジグザグ走 4 年生ボール (男子) n=14 4 年生ボール (女子) n=18 ( *p<0.05 **p<0.01) 表 4 4 年生でボールを使った運動を主に実施した学級での調整力フィールドテストの結果 反復横跳び 133.0 (9.66) 132.72 (12.03) 129.9 (14.04) 127.6 (13.74) 立ち幅跳び ** 11.58 (2.47) 12.88 (2.81) 11.0 (1.39) 12.0 (1.84) 跳び越しくぐり 単元後 単元前 平均 (SD) 平均 (SD) 平均 (SD) 平均 (SD) * 32.50 (3.78) 30.56 (3.82) 33.20 (4.30) 31.10 (5.94) 単元後 単元前

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づくりの基本的視点」を元に構成したものであ る。この視点をもとにして,以下に考察を述べ ていくこととする。 〈1〉内容的視点から ① 知識・認識 (わかる) に関わって,縄の プログラムでは先行実践までの高まりは認めら れなかった。その要因として,ダブルダッチや 長縄にボール操作等が入り,基本的な動きを組 み合わせる運動の割合が増え,難易度が上がっ たことが挙げられる。 ② 技術・戦術 (できる) に関わって,縄を 使った単元では,態度測定の「技能向上のよろ こび」項目の得点が低くなったことは,「技能 を伸ばすことが態度測定を高める基本的な要因 である」という野田ら (1987) の指摘を裏付け る結果となった。これらのことから,授業を受 ける児童たちにとって,運動によって自らの身 体能力の伸びを感じることができていなかった ため,態度得点を伸ばすことができなかったと 捉えることができる。 ③ 社会的行動 (かかわる) については,態 度測定の評価項目「仲間との活動」で得点が高 いことから,男女とも仲間と活動する喜びは感 じている。しかし,「仲間からの支援」「利己主 義の抑制」「みんなの活動」項目の得点が伸び ていないことや,活動中,「男子がまじめに やってくれない」「ふざけて縄が正確に回して もらえない」「ゲームに協力してくれない」な どの声から,授業に取り組む姿勢に問題があっ た可能性も考えられる。 〈2〉方法的視点から ① 能力の発達段階や興味・関心に関わって, 女子にとっては学習機会が保障され有効にプロ グラムが機能したが,運動能力の高い児童,と りわけ男子にとっては運動欲求が満たされない 結果となった。鈴木 (2011) の主張する「大人 の論理と子どもの実態にズレ」が生じたもので あろう。 ② 学習機会の平等性に関して,短縄や二人 技においては昨年の経験もあり,基本的な動作 の習得はできていた側面もあるが,集団での基 礎的な技を全員に身につけさせることを目指し た提示・説明的な授業展開となった。縄の単元 では,基礎目標に即した学習形態をとっており, そのことが態度得点の結果が低くなった要因の 一つと考えられる。ボールの授業の後半には, 身につけた動きを生かして挑戦できるミニゲー ムやクラス全員で取り組めるゲームに多くの時 間を費やした。その結果,男女とも仲間と一緒 に活動する喜びを味わえたことが成果として挙 げられる。 ③ プレイ性の確保に関わっては,態度測定 の「挑戦する態度」「運動する意欲」項目が低 下していることから,「運動の種類や方法を子 どもの実態と発達に応じて柔軟に調節すれば, どの段階でも楽しめる」(栗原,2010) や,「教 師が意図した運動を提示しても,子どもがその 運動に楽しみを感じなければ意欲的な活動につ ながらない」(栫井,2010) という指摘を裏付 け,共通の課題設定に問題があったものと捉え られる。 〈3〉二つの視点から見えてきたこと 本実践は,授業者の指導法や児童の実態等の ちがいによる変数を制御するために,実践にあ たる授業者と対象となる学校,学年は同一とし たが,実際,今回,授業に当たった教師のヒヤ リングから,昨年の実践と比較して「26〜28 人のクラスから 40 人のクラスに人数が増えて いるため,指導が行き届きにくい」「学習する 場が制限される」「グループ学習が成立しない 実態がある」などの声があった。また,北村実 践で縄を使った単元では向上したという結果と 矛盾する点や,授業に取り組む姿勢に問題が あったこと,縄を使った単元の調整力フィール ドテストの測定方法自体に問題があった可能性 も考えられることなどを踏まえ,特に態度得点 が伸びなかった縄の単元で,改変したプログラ ムを作成し,再実践をすることを試みた。改変 したプログラムで重要視した点は以下のとおり である。 ① 内容的視点に関わって,技能が直接の目 標とならない特性やプログラムにダブルダッチ やボール操作等を入れることで動きを確認しな がら習得することが不十分となる問題があるこ とから,難易度を下げ,長縄 1 本での技に挑戦 する。 ② 仲間とともに活動するよさを感じている ことから,集団課題を増やし,更に仲間との関

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わり,交流が深まる共通した課題設定とする。 〈4〉他校実践から 単元後の態度得点の診断は,男女とも「高い レベル」であった。単元期間中の授業の成否は, 男女とも「成功」であった。女子では,「評価」 の項目において態度スコアが「B → A」に伸び を示し,男女とも,「よろこび」の項目におい て同様の伸びを示している。これらのことから, 今回設定した学習過程は,男女ともに有効であ り,特に女子の運動欲求を満たすものであった といえる。更に男女とも上達欲求を満たすこと もできたことを示している。 他校実践のまとめをするにあたり,前の縄と ボールの実践とも合わせて,検討を加えていき たい。 ① 内容的視点に関わって,他校実践の「多 様な動きをつくる運動」では,他の運動領域に 当てはまる岩田 (2007) の「知識・認識 (わか る)」とは性質が異なる,運動によって自己へ の気づきであり,体についての「知識・認識 (わかる)」であることが示唆された。「自分の 力を知ることができてよかった」「縄に入るタ イミングがつかめた」「ボールを投げるとき, 投げる手と反対の足を踏み込めば,遠くに投げ られることがわかった」などの声もあり,自分 の体への気づきを感じている姿もあった。これ が,内田 (2011) の「自分の気づきによって体 についての知識や興味を豊かにする」と合致す る。しかし,「多様な動きをつくる運動」の特 性として,技能が目標とならない点から,認識 することは非常に難しく,自己や体への気づき が乏しくなることも否めない。また,各評価尺 度を高めるために,他校実践によるプログラム にダブルダッチやボール操作等を入れないで動 きを確認しながら習得することをねらい,難易 度を下げ,長縄 1 本での技に挑戦することによ り,授業の中に発展的活動 (ある程度の基本的 な動きの組み合わせ) の必要性や,児童の実態 に合わせた難易度でないと,子どもたちにとっ て魅力ある活動にならないことが表出された。 これは,内田 (2011) の「目の前の子どもたち をよく見た上で,教師側は採り上げる運動を選 択しなければならない」との指摘と,さらに, 運動経験も身体能力も異なる子どもたちが集 まっている学級では,『「指導内容の明確化と体 系化」と「教師の見とりや見立て」とが重なり 合って,子どもたちに意味のある体つくり運動 の授業が展開できる』とのまとめを裏付けてい る。 また,他校実践から,子どもたちが身体能力 の伸びを実感できる「多様な動きをつくる運 動」の内容が非常に有効であり,特に縄を使っ た運動については,縄跳び運動に対する愛好度 を高め,経験を深めることによって,非常に有 効な教材であるということが検証された。各測 定結果からも,改変した縄のプログラムが児童 の実態や子どもたちが求めているものと合致 し,有効に作用したことが示唆される。内田 (2011) は,体つくり運動に期待される授業像 について,「子どもたちが運動に親しみ自分の 力を伸ばせるような魅力的な教材を常に探り求 める一方で,子どもは教師が提示した (運動) 材をそのまま受け入れるだけでは満足しないだ ろうという期待や信頼のもとでは,その材を子 どもがどのように変えていくか,また教師とと もに作り変えていけるのかを期待し,彼らの学 びを見守っていくもの」と述べていることと一 致する。 ② 方法的視点に関わっては,他校実践で, 仲間とともに活動するよさを感じていることか ら,集団課題を増やし,更に仲間との関わり, 交流が深まる共通した課題設定とするプログラ ムであった。このプログラムによって男女とも 態度得点が上昇する傾向にあった。このことは, 児童にとって,「多様な動きをつくる運動」の 改変プログラムが,教師からやらされただけの トレーニングと感じるものではなかったことを 表している。つまり,今回のプログラムは,子 どもとともに学んでいける内容であったという ことである。内田 (2011) の指摘と合わせて考 えてみると,この内容が,児童にとって主体的 な学びを保障し,子どもとともに学んでいける 内容であったように,経験や能力の違う様々な 子どもたちが集まる学級集団においてこそ,教 師の力量とされる「見とりや見立て」(内田, 2011) が必要となる多様性が保障される場が用 意され,課題の共有化ができる教材にすること によって,子どもたちの主体的な学びを保障す

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るものになることが証明された。しかし,運動 経験や興味・関心の差が大きくなればなるほど, 課題の共有化が困難となり,多様な場の設定と の組み合わせがより重要となってくることが示 唆される。 高橋 (2011) の「固有の運動様式を特定しな い体つくり運動だからこそ,子どもたちが主体 的に遊び鍛える運動内容や方法論の開発が求め られている」ことからも,今回の実践を通して, 「多様な動きをつくる運動」の教材づくりの基 本的視点を,岩田 (2007) の他のスポーツ教材 を対象とする技能を目標とした,図 1 に示す 「教材づくりの基本的視点」を改変して,以下 のように提案する。 4.ま と め 本研究では,主体的に「多様な動きをつくる 運動」に取り組み,児童自らが身体能力の伸び を実感できる授業展開が行われていないという 問題に着目し,この問題を解決するために「多 様な動きをつくる運動」のプログラムを教材化 し,工夫した授業実践を試みることにした。ま た,さまざまな運動が考えられる「多様な動き をつくる運動」の中で,先行実践 (北村実践) を踏まえた研究でもあるため,縄を使った運動 とボールを使った運動を取り上げ,その適時性 についても検討することとした。その結果,態 度評価は概して男子で失敗の傾向があり,女子 でやや成功の傾向を示した。態度測定の得点に ついては,今回のプログラムにおいて,児童の 実態を考慮し,特に縄の単元において基礎目標 に即した学習形態をとっており,そのことが態 度得点の結果を低くした要因の一つと考えられ る。一方で,仲間と一緒に活動するよさを感じ たり,集団で課題を解決したりすることで態度 得点を高めていることから,「多様な動きをつ くる運動」の可能性を読み取ることもできる。 教師は「多様な動きをつくる運動」の教材に ついて考えるとき,教具や場の工夫に注目しが ちであるが,本実践から大切にしたいことは, 内容的視点からのアプローチである。運動に よって自分の体への気づきから,動く楽しさや 心地よさを味わったり,自分自身の身体能力の 伸びを感じ取ったり,仲間との関わりの中で自 分のよい動きを培うために,友だちのよい動き を見たりすることが重要である。すなわち,前 述の「多様な動きをつくる運動」の教材づくり の視点にある「運動・経験 (のびる)」を表す ものである。 本実践の形成的授業評価からも,成果項目, 協力項目が上昇する要因として,よりよい人間 関係や助け合って活動する姿の表出,励まし合 いながら集団で課題解決することと深い関わり が出てきた。これらの項目が高い水準で推移し ていく背景には,友だちとの関わりが必然的に 生じる課題設定にあるといえよう。それには, 井谷 (2011) の「力を合わせるとこんなすごい ことができる」という「共有できる明確な目 標」をもたせることが必要である。これは,前 述の教材づくりの方法的視点の「運動経験や興 味・関心」にあたり,課題の共有化が重要であ 図 2 「多様な動きをつくる運動」の教材づくりの基本的視点 (改変した部分)

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る。また,内田 (2011) が『「指導内容の明確 化と体系化」と「教師の見とりや見立て」とが 重なり合って,子どもたちに意味のある体つく り運動の授業が展開できる』と指摘しているよ うに,他校において改変したプログラムで行っ た再実践が有効な教材として検証されているこ とから,様々な子どもたちが集まっている学級 や各学校の実態において,その子どもたちに とってどのような内容がふさわしいかを見とっ たり見立てたりしながら,授業をコーディネー トしていった結果が表れたといえる。 調整力フィールドテスト,立ち幅跳びの結果 においては,男女とも,どちらの単元とも身体 能力面での向上が見られ,「多様な動きをつく る運動」の授業によって,「調整力」が高まる ことが示された。特に,ボールを使った運動を 取り上げた単元の女子と,他校実践で縄を使っ た運動を取り上げた単元が 4 年生の男女に非常 に有効であるという結果が示された。昨年の北 村実践で縄を使った運動を取り上げた単元に取 り組んだ 4 年生の女子が,すべての種目で有意 な伸びを示す結果と一致することとなった。 少ない事例からではあるが,これらの結果か ら,「多様な動きをつくる運動」は,どの学校 においても 4 年生の「調整力」を高めることが 推察された。また,「多様な動きをつくる運動」 で身につけさせたい身体能力の伸びは子どもた ちにとって実感しにくいものであるが,児童が 喜びをもって主体的に活動に参加できる内容を 工夫していくことで,態度測定の結果に結びつ くことも示唆された。 今後,よりよい授業実践を構築していくため, 「多様な動きをつくる運動」を教材化するにあ たっての視点として,一つは,児童が運動に よって楽しさや心地よさを夢中になって経験し ている中で,自分の体への気づきがあり,多様 性が保障されている運動を取り上げて単元を構 成することである。与えられたことをこなすだ けの授業では子どもたちは満足することはない。 「児童自らが動きの広げ方や工夫をしやすい教 材=つくり変えていける教材」をどう組み入れ ていくかによって,子どもたちが主体的に取り 組む授業が展開されるはずである。もう一つは, 仲間との関わりをもたせる課題設定をすること で,集団で課題解決する喜びを味わわせる,す なわち,「課題を共有化できる教材」にするこ とである。子どもは,動きの「コツ」を核にし て相互に関わり,自分自身の力を伸ばすと共に, さらに仲間の力も伸ばしていくと考えられる。 よりよい人間関係の構築が学習意欲を高めるこ とを,本実践から北村実践で満たされなかった 運動欲求を満足させる有効なプログラムであっ たことが裏付けている。2 つの視点のバランス をとりながら,これらの実践を積み上げていく ことが,子どもたちに意味のある「多様な動き をつくる運動」の授業を展開する上で重要ある と考える。 参 考 文 献 1 ) 文部科学省 (2008) 小学校学習指導要領解説体 育編 p13-14. 2 ) 鈴木秀人 (2011) 体つくり運動と子どもをめぐ る今日的課題〈体育科教育〉59-1,p10-13 3 ) 内田雄三 (2009) 体つくり運動をどう授業に仕 組むか〈体育科教育〉57-4,p20-29. 4 ) 北村佳史 (2010) 小学校体育科における体つく り運動領域の「多様な動きをつくる運動」に 関する実践的研究〈滋賀大学研究紀要 修士 論文〉p9. 5 ) 近藤智靖 (2008) 低中学年の体つくり運動への 私案〈体育科教育〉56-13,p34-37. 6 ) 塚本博則 (2009) おすすめは,おりかえしの運 動・長なわとび・馬とび〈体育科教育〉57-5, p40-41. 7 ) 山内弘文 (2010) 小学校の体つくり運動の単元 計画〈体育科教育〉58-4,p48-52. 8 ) 栗原知子 (2010) 小学校 3 年生の「多様な動き をつくる運動」〈体育科教育〉58-7,p30-33. 9 ) 岩田靖 (2007) 体育授業を創る〈大修館書店〉 p33. 10) 岩田靖 (2007) 体育授業を創る〈大修館書店〉 p30-31. 11) 奥村基治他 (1989) 体育科の授業に対する態度 尺度作成の試み ―小学校中学年児童を対象に して―〈体育学研究〉33-4,p309-319. 12) 長谷川悦示他 (1995) 小学校体育授業の形成的 授業評価票及び診断基準作成の試み〈スポー ツ教育学研究〉14-2,p91-101. 13) 栗本閲夫他 (1981) 体育科学センター調整力 フィールドテストの最終形式 ―調整力テスト 検討委員会報告―〈体育科学〉9,p207-212. 14) 野田昌宏ら (1987) 小学校体育科における授業 分析に関する研究 ―態度得点を高める要因に

(10)

ついての事例的研究―〈日本体育学会〉38, p426. 15) 内田雄三 (2011)「考えるべきこと」について 私が考えたこと〈体育科教育〉59-1,p17-20. 16) 栫井大輔 (2010) 伝承遊びの要素を生かす「多 様な動きをつくる運動」〈体育科教育〉58-6, p38-40. 17) 高橋和子 (2011)「体つくり運動」の生活習慣 化を糺す〈体育科教育〉59-1,p9. 18) 井谷恵子 (2011) なわとび運動で展開する協同 的な学びの場〈体育科教育〉59-9,p20-23.

参照

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