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プラズマ酸化プリンティングによるDLC膜への機能テクスチュア形成

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プラズマ酸化プリンティングによる DLC 膜への機能テクスチュア形成

Plasma Oxidation Printing of Micro-Textures into DLC Coated Products

相澤 龍彦

* 和佐 憲治** 玉垣 浩***

Tatsuhiko Aizawa*, Kenji Wasa** and Hiroshi Tamagaki***

The plasma oxidation printing was proposed to make micro-texturing into the DLC (diamond-like carbon) coatings on the metallic dies and molds. Thick DLC coating method was developed to prepare for the initial DLC-coated mold and die substrates. Both the ink-jet printing and the maskless micro-patterning methods were employed to draw the two-dimensional micro-patterns onto the thick DLC films. High density plasma oxidation method was utilized to make anisotropic etching and to chemically remove the un-printed DLC films. This anisotropic etching process was described by experiments; high etching rate was attained for its application to formation of fine micro-DLC nozzles.

Keywords: DLC films, Plasma oxidation, Plasma printing, Maskless patterning, Ink-jet printing, Metallic-MEMS/NEMS, Selective etching, Micro/nano-texturing

1. はじめに

DLC(Diamond-Like Carbon)コーティングは,工具・金 型の保護コーティングとしてのみならず,CDあるいは HDDの表面被覆・眼鏡レンズ保護膜などきわめて広い分 野に利用されている1)。その特徴は,プラスチック・金 属材料など,ほとんどすべての素形材表面にコーティン グできることに加え,化学的な安定性・局所構造制御に よる硬度制御性など柔軟な物性展開にある2)。材料科学 的な視点からは,図1に示すように,炭素原子の局所配 列としてのsp2(グファイト的な平面局所構造)・sp3 (ダイヤモンド的な4面体局所構造)・水素原子の混合 状態により,DLC膜の硬度などの特性が決まる点が第1 の特徴となる。次にCVDダイヤモンド膜と比較して低密 度であることによる広いドーピング性が第2の特徴とな る。タングステン・シリコンなどの元素を添加すること で,さらなる硬度制御・摩擦摩耗特性向上が多く報告さ れている3,4)。加えて,CVDダイヤモンド膜と比較して,nm程度の低い表面粗さ分布が第3の特徴となる。DLC 膜のもつ平坦な面は,MEMS(Micro Electrical Mechanical System)・NEMS(Nano Electrical Mechanism System)あるい は光学素子の表面膜として有用となる5) さらに研究者らが報告してきたように,DLC膜のナノ グラニュラー化・ナノ積層化・ナノ複合化6-11)により, DLCコーティングが固有に有する力学特性・トライボロ ジー性などを究極までに向上させることができるのが, 第4の特徴となる。 このDLC膜をさらに加工し,デザインしたマイクロ・ ナノテクスチュアを形成して,金属MEMS/NEMS用の部 品化を実現する型としての利用は,全く提案されてこな かった。その原因は創成できるDLC膜が比較的薄い膜に 限定されてきたことに加え,化学的に安定なDLC膜への 異方性エッチングが難しいことによっている。 図1 DLC膜構造を記述するsp2-sp3-H線図。 Fig. 1: sp2-sp3-H diagram of DLC films. * デザイン工学部デザイン工学科 Department of Engineering and Design, College of Engineering and Design ** テクダイヤ株式会社 TECDIA, Co. Ltd.

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10 m

研究者ら12)はこの厚さの限界を解消し,10 m以上の 厚さのDLC膜をほとんどすべての工具・型材料表面,界 面上に創成できることを示した。加えて,高密度酸素プ ラズマエッチング法を開発し,金属マスク・レジンマス クを用いることで,そのパターンを2次元テンプレート として,3次元マイクロテクスチュアを形成することに 成功した13-18)。さらに,初期のマスキング用パターン 形成技術として,インクジェットプリンティング・マス クレスパターニングを用いることで,より微細で自在な 3次元マイクロテクスチュア19-22)の形成を行ってきた。 本研究では,この自在な3次元マイクロテクスチュア リング技術を,プラズマ酸化プリンティング(Plasma Oxidation Printing: POP)と称し,その特徴を述べる。次 に2種類のPOPとして,インクジェットプリンティング およびマスクレスパターニングを用いたプロセスを紹介 し,それぞれの方法の特徴と課題を明らかにする。その 上で,POPによる微小ノズル形成プロセスについて検討 し,その可能性を議論する。さらにPOPの展開として, MEMS用微小部品の創成,機能的機械要素の3次元分散 化,サブミクロン化を展望する。

2. プラズマ酸化プリンティング

DLC膜が炭素原子で構成され,マスクされていない部 位のみを選択的に酸素プラズマで異方性ドライエッチン グすることで,マスクの2次元パターンに対応する3次元 マイクロテクスチュアを形成する。

2.1 プロセス設計

プラズマ酸化プリンティングのプロセス手順を,図2 に示す。 図2:プラズマ酸化プリンティングの手順。 Fig. 2: Standard processes in the plasma oxidation printing.

準備段階として,曲面等を含む工具・型素材表面への 厚膜 DLC 形成を行った。後述するように,従来の薄膜 DLC 膜では金型として機能できる範囲が大きく限定さ れ,応用展開は難しい。DLC 膜へのプラズマプリンテ ィングでは,図2に示すように,インクジェットプリン ティングあるいはマスクレスパターニングにより,設計 した 2 次元パターンを直接 DLC 膜上に描画する。描画 した2 次元パターンは酸素プラズマ照射を受けるため, インク成分の最適化が不可欠となる。第2ステップが高 密度酸素プラズマエッチングプロセスである。DLC 膜 上の未描画部のみを選択的にエッチングし,未描画部を 完全に,あるいは設定した深さまで除去することで,型 形状あるいは DLC 製品形状を彫り込むことになる。し たがって,深さ方向のみに異方的にエッチングできない と,形状精度は大きく損なわれる。最終的に得られた 3 次元マイクロテクスチュア DLC 型を利用して,プラス チック材へのモールドプレス・射出成形および金属シー ト材へのプレス成形を行うことになる。

2.2 厚膜 DLC 形成プロセス

一般にDLC膜を含むセラミックコーティングを厚膜と して形成するには,物理的蒸着法(PVD法)よりも化学 的蒸着法(CVD法)が適している。ここでは,プラズマ 活性化CVD法をMF-AC(3 kW, 60-70 KHz; 交流電源) で制御したプロセスを使用した。DLCコーティングすべ き基材をArスパッタ―で清浄化した後,金属中間層をス パッタ―蒸着し,PECVD法でDLCコーティングした。 ガス種としてC2H2を用い,圧力2.5Pa,出力3 kWで, 2.7時間成膜した後の試料断面のSEM像を図3に示す。 図3 2.7時間成膜後のDLCコーテッド基材の断面像12)。 Fig. 3 SEM cross-sectional image of the DLC-coated substrate

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Chamber

Plasma

比較的短時間の DLC 成膜であるにも関わらず,一様厚 さで表面性状が良好なDLC 膜が創成できた。

2.3 初期マイクロパターン形成技術

DLC膜上への描画方法として,銀ペイントあるいはカ ーボンブラックを含有したポリマーをインクとして用い たインクジェットプリンティング法と,プラチナあるい はプラチナ―チタンをメディアとするリソグラフィー法 によるマスクレスパターニング技術の2つを用いた。 前者では,カーボンブラック比率を50%とし,プライ マーには改良したUV硬化樹脂を用いた。これにより 450℃以下の保持温度では大きなインク消失は生じない ことを予備実験で確認した。なお描画にはフラットベッ ド型ラスターキャン方式のインクジェットプリンターを 使用した。この描画方式では,前報20)に述べたように 実質的な分解能は50μm前後となる。代表的な描画結果 を図4に示す。 一方,線幅が10μmの微細なラインあるいは直径10μ m前後のマイクロドットを描画するために,銀ペイント を使用したベクトル描画方式のインクジェットプリンタ ーも使用した。 図4 カーボンブラックを用いたラスタースキャン方式 のインクジェットプリンターによる描画例。 Fig. 4 Two-dimensionally drawn micro-dot pattern by the

ink-jet printing with the carbon-black type ink.

リソグラフィー方式のマスクレスパターンでは,マス クを用いないため,プラチナなど金属成分を描画する。 分解能は 1-2μmではあるが,形状精度の高いマイク ロパターンを比較的小さい面積(本研究はとりあえず 10 x 10 mm2)への描画に適している。以下の実験では, CAD で格子状ラインならびにマイクロドットパターン を作成し,それを位置制御コマンド群に変換することで, 直接描画を行った。

2.4 酸素プラズマエッチング

ここでは,これまでに開発してきたホロー・カソード 型の高密度プラズマ装置を用い,高プラズマ密度での酸 素プラズマエッチングを行った。本研究がベースとした RF-DCプラズマ装置は,図5に示すように,電気的に中 立である真空チャンパ―(通常のコーティング装置など ではバイアス電流が流れている)の内部に設置した, RF-プラズマ点火用の双極子電極とDCプラズマ点火用の カソードプレートから構成される。この装置のみでも酸 素プラズマエッチングは可能であるが,詳細を文献[23] で論じているように,プラズマ密度は1016 m-3 領域にと どまっている。 図5 高密度化する前のRF-DCプラズマ装置の概念図。 Fig. 5 Illustration of RF-DC plasma etching system without a

device to intensify the plasma density.

この低プラズマ密度を飛躍的に向上させる方法には 種々の方法がある24)。ここではホローカソードデバイス を図5に設置し,チャンバー全体に広がっているプラズ マを所定のホロー内部に閉じ込めた。図6に示すように, ホロー内部の基材は,酸素原子あるいは酸素イオンのフ ラックスで効率良く照射できる。 後述するように,このホローカソードデバイスを利用 することで,ホロー内部の平均プラズマ密度はほぼ1桁 向上する。ただし,図6からも推察されるように,酸素 ガスをホロー入口から挿入しているため,プラズマ密度 は入口近傍で低く,出口近傍で高くなるため,ホロー形

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DC-bias Plate

Dipole Electrode

O

2

Hollow

300 m

50 m

状設計・酸素ガス供給方式に加え,エッチングすべき基 材のホロー内配置が,高密度プラズマを利用する上での 重要な因子となる。 図6 ホローカソードデバイスを利用した高密度酸素プ ラズマエッチング概念図。

Fig. 6 Illustration of high density oxygen plasma etching system with use of the hollow cathode device.

3. インクジェットプリンタからの POP

ここでは,初期の2次元マイクロパターンを,型素材 面上にインクジェットプリンターで描画したPOPプロセ スの特徴について述べる。

3.1 初期パターン形成

カーボンブラック+プライマーをインクとして用い, ラスタースキャン方式のインクジェットプリンターによ り,厚さ20 m のDLC膜上に直接描画することで、初期2次元マイクロドットパターンを形成した。 基材としては,ハイス鋼を用い,図7に示すように, 10x10x5 mm3 の試験片を標準とした。 7 DLC成膜したハイス基材(エッチング後)。 Fig. 7 DLC-coated high-speed steel substrate after etching.

3.2 酸素プラズマエッチング

標準酸素プラズマエッチング条件(50 Pa, 3.6 ks)で POP処理した,100μm直径で印字したマイクロドット パターンを図8に示す。

8 50Pa,3.6ksでPOP処理したDLC膜表面。 Fig. 8 Micro-dot patterned DLC film etched by 50 Pa

for 3.6 ks. 直径100μm,ピッチ200μmのマイクロドットパター ンを描画したDLC膜において,マイクロドット以外の DLC膜が一様かつ選択的にPOP処理によりエッチングさ れている。これにより,初期の2次元パターンをマスク として,DLC膜内にマイクロテクスチュアが形成される ことがわかる。次に,1つのマイクロドットに注目して, エッチング後のSEM像観察を行った。 9 エッチング後のマイクロドットパターン。 Fig. 9 Micro-texturing into the DLC film via POP from the

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9にPOP処理後のマイクロドットパターンを示す。直100μmのマイクロドット周囲のDLC膜はエッチングさ れ,基材表面上には直径100μm,高さ20μmのDLC円柱 ピラーが形成された。

3.3 エッチング挙動

ここでは,エッチング条件を変化させ,非描画部の DLC膜のエッチング挙動を調査した。描画部位の相互距 離が大きい場合には,一様な酸素原子フラックス下で非 描画部は一様に除去される。非描画部が狭隘な場合には, 後述するように描画用インクあるいはマイクロパターン 用金属の酸素原子への耐候性があれば,ライン状の非描 画部のエッチングが進むと考えられる。 それぞれのマイクロドットへ照射される酸素原子フラ ックスが干渉する程度に,マイクロドット間のピッチが 近づいた場合はどうなるのであろうか。ここでの関心は, この相互干渉効果にある。 図10に示すように,厚さ10μmのDLC膜上に,直径 100μm,ピッチ400μmのマイクロドットを描画した。 図10 図8のピッチを倍にして描画したDLC上のマイク ロドットパターン。

Fig. 10 Typical micro-dot pattern on DLC by doubling the pitch in Fig. 8. 図8の処理に用いたプラズマエッチング条件で,2 ksまで エッチングしたパターンを図11に示す。エッチングはマ イクロドット配列の2等分線上で生じており,各マイク ロドット近傍よりも早くエッチングが進行している。こ れは酸素原子フラックスがマイクロドットによりリコイ リングされ,マイクロドットの中間位置で強め合って DLC膜をライン状にエッチングしていることを示してい る。図11のようにライン状にエッチングが進んだ後は, エッチング時間を延ばすことにより,図12に示すように, 次第にエッチング先端がマイクロドット近傍に進展して いき,図11に見られるシャドー効果は消失する。すなわ ち,上記効果はエッチング初期固有の現象で,時間の経 過とともに、一様なエッチング挙動となる。 図11 酸素プラズマエッチング初期における シャドー効果。

Fig. 11 Shadowing effect observed in the early stage of oxygen plasma etching process.

12 プラズマエッチング進展に伴う マイクロドット近傍のDLC除膜挙動。 Fig. 12 Advancement of the etching front end from the

periphery to the vicinity of micro-dots.

実際,図12においては,マイクロドット周辺の円形状 の残留DLC膜直径が,394 m  236 m  175 m  165 mのように単調に減少している。酸素原子フラック スあるいはDLCコーテッド試験片の位置あるいは姿勢制 御を行うことで,上記の効果は大きく低減し,より一様 なエッチング挙動が達成されると考えている。

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4. マスクレスパターンからの POP

現状のノズルを利用したインクジェットプリンターで は,50μm以下のマイクロドット形成でも精度の面で課 題があった。ここでは,ノズルならびに描画方法の改善 と並行して,リソグラフィーによるマスクレスパターニ ングを利用して,精度の検証を行った。

4.1 初期パターン形成

ここでは直径30 mマイクロドットパターンを基本と して,DLC膜上にプラチナを用いたマスクレスパターニ ングで描画を行った。図13に示すように,描画部位は 10x10 mm2 に限定されるが,マイクロドットの形状寸法, 配列ともに良好なパターンが描画できる。 図13 マスクレスパターニング法によるDLC膜上への マイクロドット描画。

Fig. 13 Micro-dot pattern drawn on the DLC coating by the maskless patterning process.

4.2 酸素プラズマエッチング

これまでの酸素プラズマエッチングと同一の条件で, エッチング処理を行った。3000s後の処理したDLC試料 の表面SEM像を図14に示す。前述のインクジェットプリ ンターによるマイクロドット描画では,1つ1つのマイ クロドット形状は,凸型の小山状になっており,3.3で 述べたように,酸素原子フラックスのマイクロドット間 での干渉効果が生じていた。マスクレスパターニングに よる描画では,個々のマイクロドットの平坦性が高いた めに,エッチング初期においても,干渉効果は観察され ず,比較的均一にエッチングが進行した。 このことは,インクジェットプリンターによる描画で 生じる,インクの濡れ性に起因する凸形状生成が,エッ チング挙動にも影響していることを示唆している。現在, インクの濡れ性制御とともに,マイクロドットの凸形状 に影響されない酸素プラズマの姿勢制御も考案中であり, 今後の課題としたい。 図14 マスクレスパターニングによるマイクロドットパ ターンからのマイクロDLCピラーの創成。 Fig. 14 Formation of micro-DLC pillars from the micro-dot

patterns drawn by maskless patterning via POP.

4.3 エッチング挙動

ここでは,エッチング後のDLCマイクロピラー形状の 測定から,当該エッチング精度について検討した。図14SEM像より個々のマイクロピラー形状を測定した。結 果を図15に示す。平均ピラー直径は29μm,平均ピラー 高さは5.3μmであった。標準偏差も1μm以下であり, 均一なエッチング挙動を実証している。 図15 POPで作成したDLCマイクロピラーのSEM像から の形状測定。

Fig. 15 Measurement of the micro-DLC pillars formed by the present POP.

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金属シート材

DLC膜

マイクロパターン

金属シート材

DLC膜

DLC コーティング

インクジェットプリンティング

酸素プラズマエッチング

金属シート材

DLC膜

5. POP による微小機能要素創成

プラズマ酸素プリンティング(POP)により,DLCコ ーティングした製品・工具・金型などの表面に,微細な マイクロストラクチュアを創成することができる。ここ では,DLCコーティングした金属シート基材にノズルを 形成する手法ならびに,DLCコーテッドした金属ノズル の表面特性を制御する手法を提案する。

5.1 平面マイクロノズル設計

市販されているノズルの課題を簡略にまとめると, 1)mm以下の小さいノズル(種々の溶液を相互作用な しで適量を噴出できる機械要素)ができないこと, 2)耐久性のある細孔径のノズルができないこと, 3)同時に多数孔をもつノズルができないこと, 4)描画パターンあるいは接合領域形状に対応するノズ ルアセンブリーなどを設計・製作できないこと, にある。図16で提案する平面マイクロノズルは,4)に 対応してノズル胴体を金属シートに形成し,その上に 2)を考慮したDLC膜をコーティングし,3)のためのノ ズル先端部の形状をDLC膜上にプリントし,酸素プラズ マエッチングにて非プリント部を除去することで,1) から4)までの課題を解決するノズルアッセンブリ―を 創成する。 図16 平面マイクロノズルの創成プロセス。 Fig. 16 Illustration of the planar nozzle assembly for fine

imprinting and joining processes.

5.2 POP によるノズル形成

ここでは上記の平面ノズルを実現する上でキーとなる, 金属シート上へのDLC先端部の創成を実証する。キー技 術は,DLC膜に高精度インクジェットプリンターで描画 した2次元形状パターンから,マイクロDLCノズル形状 を高精度に形成するPOP技術である。 ここでは,高精度インクジェットプリンターを,前述 のマスクレスパターニング法で代替し,2次元マイクロ パターンのサイズ・形状などを変化させ,DLC膜上での 形状寸法再現性を最初に調査した。図17に示すように, マイクロノズル先端部の標準断面形状を,高精度で描画 できることがわかった。 図17 DLC膜上に描画したマイクロノズル先端部の標準 断面形状。3-20μm直径のユニット形状を再生できる。

Fig. 17 Two dimensional micro-patterns with the diameter from 3 to 20m for the outlet of micro-nozzle.

18 POPで創成したマイクロDLCノズル。 Fig. 18 Micro-DLC nozzle fabricated by POP. このパターンの中で、外径20 m,内径10 mの中抜き 円形パターンに注目し,その2次元描画パターンから3次 元マイクロDLCノズルの創成を試みた。図18に,これま でのエッチング条件を用い,3.6 ksで処理した結果を示 す。外径・内径ともに描画パターンと同等の寸法形状で 高さ10μmのマイクロDLCノズルを基材上に形成するこ

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とに成功した。外表面の性状も良好であり,通常の研磨 プロセスに対応する,精密プラズマ酸化条件で仕上げを 行えば,内面性状も含め良好なマイクロDLCノズルとす ることができる。

5.3 マイクロ DLC ノズル設計

POPで重要な点は,DLCコーティング可能な材質から なる製品あるいは工具・金型の任意のDLCコーティング 部位表面に,最大高さがDLC膜厚となるマイクロテクス チュアを創成できることにある。当該マイクロDLCノズ ルの場合,硬さは20-21 GPa であり,超硬工具材に匹 敵する。ノズル吐出部は,もとのDLCコーティング膜面 であり平滑性を保持している。内面は,DLC膜内部の切 断面であり,DLCコーティング時のナノ構造化技術など によって制御可能である。例えば,研究者らが開発して きたナノ積層コーティングであれば,図19に示すような 質量密度が異なるDLCサブレイヤーの多積層構造面とな る。この場合,純水に対する接触角度が増大し,撥水性 特性となるため,マイクロDLCノズル内面を選択的に撥 水化できる可能性がでてくる。 図19 DLCコーティング時のバイアス電圧のパルス制御 によるナノ積層化DLC膜の一例。

Fig. 19 Nano-laminated DLC coating synthesized by pulse control of bias voltage in PVD.

今後の研究では,各種DLCコーティングを利用し,内面 特性制御を目標に,種々のマイクロDLCノズルの作成を 行う中で,ナノ構造化DLCコーティングの特異なナノ構 造を活用した機能化を検討する。

6. 考察

プラズマ酸化プリンティング(POP)は,製品あるい は工具・金型の表面特性あるいは耐久性を向上させるた めに炭素系コーティングしたものにはすべて適用可能で ある。ここでは,POPによるマイクロ機械要素創成,機 能テクスチュアの分散性,マイクロテクスチュアのサブ マイクロ化の可能性を議論する。

6.1 マイクロ機械要素創成への展開

ここでは,現状のディスペンサー・精密インクジェッ トプリンターで課題となっている,接合材の安定吐出・ 描画パターンの安定化に向けたマイクロノズルを対象と して,POP技術のマイクロ機械要素創成への展開を考え る。 これまでノズル吐出孔は円形,細径のスルーホールは 平滑面と信じられてきたが,ノズルからの溶剤・接着 材・溶融金属などの噴出挙動を安定化させるには,吐出 孔形状・内面形状の異形化は重要である。POP技術では,17に示したように,高精度インクジェットプリンター を利用することで,種々の形状のマイクロDLCノズルを 創成できる。ここでは,直径20μmの円形内部に4辺星 形状の孔をもつ2次元マイクロパターンをDLC膜上に描 画し,これまでと同一条件で,酸素プラズマエッチング を行った.図20に示すように高さ10μmの4辺星型形状 孔のマイクロDLCノズルを創成できた。 20 2次元マイクロパターン(直径20μmの円形中に 4辺星型の余白をもつ)から作成した異形マイクロDLC ノズル例。

Fig. 20 Micro-DLC nozzle with irregularly shaped outlet via the POP method from the two dimensional circular

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6.2 機能テクスチュアの 3 次元分散

DLCコーティングあるいは類似の炭素系コーティング は,ほとんどすべての材料表面に施すことができるため, POP法によって,3次元の機能テクスチュアを任意の部 位に構成できる。具体的には,この機能テクスチュアの 3次元分散化を以下の3方向で行う考えである。 第1は,DLCコーテッド型として,電磁波としての熱 放射機構を保持するテクスチュアおよび沸騰伝熱面で気 泡微細化・流動化を促進するテクスチュアを,種々の金 属シート材に転写する研究である25)。第2は,工具・金 型あるいはエラストマー・ゴム基材など,変形する製品 上のDLC膜へのマイクロテクスチュア形成である.前者 では,連続なDLC膜をマイクロテクスチュア化し,過酷 なプレス成形・鍛造工程で必然的に生じるDLC膜の剥離 を防止する。後者では,柔軟な基材上に剛なDLCマイク ロテクスチュアを分散配置することで,変形能とメカニ ズムを両立するトランスデューサー・センサー用機械要 素を構築することを目指す。 第3は,ナノ構造化DLC膜・ナノコンポジットダイヤ モンド膜など,厚さ方向に構造化した炭素系被膜へのマ イクロテクスチュア形成である。特にグラファイト類似 の構造層と絶縁層との相違を利用した,3次元回路ネッ トワーク構築へのマイクロテクスチュアの応用は,高電 流化する電極設計,高周波化する素子の担体として有用 ではないかと考えている。

6.3 サブミクロン化

当該POP技術における形状寸法分解能は,2次元マイ クロパターンをDLC膜上に描画する際の印字精度ならび に酸素プラズマエッチングによる未描画部のDLC膜の除 去精度で決定する。現時点では,前者は当該リソグラフ ィー方式の限界から1-2μmと考えてよい。すなわち, 前者の空間分解能は装置依存であり,サブミクロン化に 向けて大きな障壁はない。一方,後者に関しては,実験 的な試行・実証によってサブミクロン化に向けた課題を 抽出し,より微細な分解能の追求が必要となる。 今,例題として,3.5 x 3.5 m2 の正方形ドットを,ク リアランス1.5 m で描画し,酸素プラズマエッチング した結果を示し,具体的な分解能を考察してみよう。 図21に示すように,正方形の形状は4.1 x 4.1 m2でク リアランスは0.9 mとなっており,正方形パターンのエ ッジがだれたことによる寸法誤差として、0.5-0.6μm の差異を確認できる。この誤差の主原因は,プラズマ反 応場の制御性にあると考えている。図21の例をとれば, DLC膜内部へ格子上に進むエッチングに伴い,反応場は 狭い格子内部への移行するため,プラズマ姿勢制御の影 響を受けにくくなり,局所的な状況によって一様なエッ チング挙動が阻害される。 図21 狭隘なクリアランスのマイクロパターンの酸素プ ラズマエッチング事例。

Fig. 21 Fine micro-texturing into DLC coating with narrow clearance between micro-textures by POP.

このような不均一性を抑制し,局所的な変動の影響を 最小限にして,POP時の形状寸法精度をサブミクロン化 するには,広義のプラズマ姿勢制御,すなわちホロカソ ード形態・キャリアガス導入方法・酸素プラズマ姿勢制 御などを複合化したプロセス設計が必要である。現在, 小型プラズマ装置を試作し,本課題も含めた微小製造技 術へのPOP展開をはじめている。

7. おわりに

酸素プラズマプリンティング法(POP)は,本研究で 対象としたDLCコーティングへの構造用マイクロテクス チュア・機能性マイクロテクスチュアの創成に加え,炭 素系コーティング膜および炭素系素材への表面・界面マ イクロテクスチュア形成に有用である。前者では特に, 次世代MEMSの主材料として注目されるダイヤモンドコ ーティングへのマイクロ・ナノテクスチュア形成手法と しての展開をはかりたい26)。後者では,炭素繊維表 面・界面構造の改質,グラッシーカーボン表面へのミク ロ構造の形成を予定している。またDLCコーテッド金型 としての展開は,マイクロテクスチュア・ナノテクスチ ュアの金属シート材,プラスチック材への転写成形プロ

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制御へのマイクロテクスチュアの応用は,デバイス開発 として重要である25)。 本論文では,対象をDLCコーティングに限定したが, POPによるマイクロテクスチュアリングは,TiNあるいは TiCNなどの窒化物・炭化物コーティングへのマイクロ テクスチュアリングにも有用である22)。今後は,用途別 に選択されるセラミックコーテッド製品・工具・金型へ のマイクロテクスチュア・マイクロ構造の創成も視野に 入れて研究を進めたい。 なお,本論文は,研究者らが公表した2編の査読付き 国際会議録(第8回マイクロ成形生産技術に関するアジ アワークショップならびに第10回SEATUC国際会議)を 基本としつつ、関連の研究開発状況のサーベイならびに、 現時点で展開をはかりつつある研究方向性などを考慮し て執筆した。

謝辞

本研究において、実験遂行・試験片の準備・分析などに 関して,天野君(SIT・学生),Nikeさん(University of Brawijaya), E.E. Yunata君(SIT・博士課程院生),赤理 研究員(神戸製鋼)の助力を得た.ここに深く感謝する。 なお本研究の一部は,私立大学研究支援プログラムなら びにJSPS2カ国間共同研究費による。

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Fig. 2: Standard processes in the plasma oxidation printing.
Fig. 4 Two-dimensionally drawn micro-dot pattern by the ink- ink-jet printing with the carbon-black type ink
Fig. 6 Illustration of high density oxygen plasma etching  system with use of the hollow cathode device
Fig. 11 Shadowing effect observed in the early stage of  oxygen plasma etching process
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参照

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