平成9年9月1日
告知患者とその家族を対象とした、
アンケート調査から学んだこと
飯富病院看護部第二病棟 看護婦 石川善子 看護婦一同 外科医 長田忠孝 1 はじめに 癌告知は諸外国、特にアメリカなどにくらべるとわが国ではまだまだ 一般的ではない。告知を進めるに当たっては、民族的・宗教的な諸問題 をクリアーするとともに、告知する医師だけが問題を抱え込むのではな く、それをサポートする医療チームの姿勢、特に患者との接点が一番多 い看護婦が患者、家族の精神的ケアーをいかにしてゆくかが、重要なポ イントになってくると考えられる。 私がこのアンケート調査に取り組もうと考えた一つには、以前勤務し ていた医療施設での告知の対象者は外科の早期癌の患者に限られていた 為、それ以外の多くの患者は好転しない病状に苛立ち、深い疑心暗鬼の 中で他界されるケースがほとんどで、臨死の都度、看護の限界を思い知 らされてきたことが挙げられる。ところが2年前当院に来て目にしたも のは、外来で行われている癌告知であった。患者と家族を前に、X線写 真や病巣図を用いて熱心に説明する光景を見て、大きな感銘を受けたこ ともアンケート調査にとり組むきっかけの一つとして挙げられる。 当院では癌告知が行われるようになって10年程経過する。しかしこ の間病名告知は、外来やナースセンターの片隅で医師、患者、家族の間 で行われる事が多く、特に外来で癌告知が行われる場合は、告知内容や 予後、治療プランが看護サイド伝わって来ないという問題があり。この ため医療チームとして、患者、家族をいかにサポートしてゆくかという 具体的に統一された見解が出されず、日々手探りの患者対応をしている という問題もあった。 そこで、過去2年間の告知患者、特に予後が悪いとされている肺癌患 者で、化学療法を行った患者10例を対象とし、その家族を含めた対象 者にアンケート調査を行い、ダイレクトな告知に、患者、家族はどのよ うな感想をもち、告知後の彼等自身の生き方や考えかたに変化があった かどうか、また入院中、医師や看護婦の対応は満足のいくものだったか を知り、今後の看護に役立てたいと思い取り組んだ結果をここに報告す る。 ロ 調査期間平成9年3月∼4月
皿 調査対象および方法 調査対象 過去2年間に告知を行った肺癌患者の中で、化学療法 を実施した患者とその家族10例 一104一山梨肺癌研究会会誌 10巻2号 1997 検 討 症 例 症例 年齢 別 病理 部位 進行度 治療法 結果
1・MY
42
♂Ad
肺野 1 ヒ+外 生存(再発なし)2・WK
54
♂Ad
肺野皿B
ヒ 死亡3・MN
57
♂Ad
肺野皿B
ヒ+放 生存(担癌)4・TD
61
♂Sq
肺門1
ヒ+外+放 生存(担癌)5・WH
64
♂Sq
肺門皿B
ヒ 死亡6・WK
68
♂Sq
肺門皿B
ヒ 死亡7・ST
69
♂Sm
肺野H
ヒ 死亡8・HG
70
♂Sq
肺野 1 ヒ+外 死亡9・TH
74
♀Ad
肺野n
ヒ+外 生存(担癌)10・HY
75
♂La
肺野皿A
ヒ+放 生存(担癌) なお、告知は医師によって行われ、その内容は以下の項目について行われた。 1・出来るだけ早い時期に肺癌の可能性を示唆する。 2・確定診断時に本人と配偶者に 配偶者がいないときには子供等 3・肺癌であること 組織型 臨床病期 治療手段 合併症 副作用 4・治療効果、予後 5・医師の選択した治療手段、療養方法の説明 6・最終決定は患者自身がする 7・全ての検査、治療は患者の同意を得て行う 8・患者抜きで、裏取引はしない 9・プライバシーの保護 調査方法 アンケート用紙を用いた対面調査 アンケートは看護婦によっておこなわれ、 った。 その内容は以下の項目について行 1・病気の説明を受けたことについてどう思うか 2・病気の説明を受けた場所と場面 3・説明を受けて考えたことは何か 4・説明を受けた時の医師の態度や言葉はどうだったか 5・治療を受けてどうだったか 6・治療を受けている間の医療者の態度や接し方はどうだったか 7・説明を受けて考え方や生き方が変わったか 8・苦痛な副作用が出ているとき何を考えたか 9・苦痛時の医療者の態度はどうだったか 10・個室での治療について感じたこと 11・治療中医療者に希望すること 12・現在最優先で行っていることは何か 一105一平成9年9月1日 IV 調査結果および評価 調査結果 1・患者、家族と対面調査が可能 2・死亡、重篤な状況で患者と対面調査不能 3・家族より拒否
6例
3例
1例 1・対面調査が可能だった患者と家族6例のアンケートから概ね以下の結 果がえられた。 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ 調査に非常に好意的だった 主治医に絶大な信頼を寄せていた 看護婦への苦情、不満はなかった 癌の告知を全ての患者が望んでいたわけではなかった 生存している患者と家族は疾患を全面的に、共に受容していた 主治医との信頼関係が強い患者ほど、副作用に耐え、 予測より長い予後が得られていた 2・対面調査不可能だった患者と家族1例では調査拒否の原因として、 ① ② ③ ④ ⑤ 主治医と患者の信頼関係が確立されていなかった 患者に告知することを家族が望んでいなかった 家族の不完全な受容 患者、家族への看護方針の不統一 看護サイドよりの家族に対する不十分な精神的サポート 以上の5点が調査拒否の原因であると推測された。 V 考察 数年来マスメディアを含めて、癌告知の問題は、様々な形で取りざた されているが、医師、看護婦、共に多忙な業務の中でともすると現象だ けにとらわれ、何故、その現象が起きたかという原因を探ることは、後 まわしにされてしまっている。 そのような中で患者、家族は、ますます不安と迫り来る死への恐怖に 動揺しているのが現実ではないかと思われる。 幸い、今回のアンケート調査では、10例中6例までが病院に対し好 意的で告知を受けて良かったと思い、告知後は家族と過ごす時間を充分 に取る工夫がされた行動があり、満足な「生」を得るための努力を家族 とともにされていることがうかがえる。 しかし、ダイレクトに告知をしているだけに、その後の医師、看護サ イドからのフォローが充分であったかは、調査を行った者が、病院職員 であるというから、本音をすべて話してくれたと思うのは自信過剰であ ろう。 問題なのは、拒否された1例であり、今後も同様のことがおこりうる ことも充分考慮しなければならない。 一106一山梨肺癌研究会会誌 10巻2号 1997