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同族会社等の行為・計算の否認等(所得税法157条)の適用範囲に関する一考察」

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同族会社の行為計算否認(所得税法

157 条)に関する一考察

-不動産管理会社を用いるスキームを素材として-

平成26年度 修了 筑波大学大学院ビジネス科学研究科 企 業 法 学 専 攻 学籍番号 201340154 氏 名 石 井 謙

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目 次 はじめに 1 問題意識・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 2 検討の視点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 3 研究方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 第1章 不動産管理会社における所得の分散と「経済的二重課税」・・・・・・・・・・4 第1節 不動産管理会社を用いるスキーム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 1 管理委託方式(ケースⅠ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 2 転貸(又貸し)方式(ケースⅡ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 3 不動産管理会社を用いるスキームへの所得税157 条の適用・・・・・・・・・6 第2節 所得の分散方法と「経済的二重課税」・・・・・・・・・・・・・・・・・7 1 「経済的二重課税」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 2 所得の分散方法と「経済的二重課税」・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 第3節 所得税における「経済的二重課税」・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 1 管理委託方式(ケースⅠ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 2 転貸(又貸し)方式(ケースⅡ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 3 所得税における「経済的二重課税」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 第4節 所得税と法人税の「経済的二重課税」・・・・・・・・・・・・・・・・・10 1 理論的前提の考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 2 所得税と法人税の「経済的二重課税」・・・・・・・・・・・・・・・・・11 第5節 所得税法157 条の「不当性」の判断 ・・・・・・・・・・・・・・・・・12 1 学説の状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 (1) 狭義説(判例・課税庁)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 (2) 課税主体説(清永説)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 (3) 広義説(納税者)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 2 各説の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

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第2章 税負担の対応的調整 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 第1節 同族会社の法人税の対応的調整の可能性 ・・・・・・・・・・・・・・・15 1 平成18 年度改正前・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 2 課税実務における判断 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 3 平成18 年度改正の内容及び趣旨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 (1) 改正の内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 (2) 改正の趣旨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 4 学説の状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 (1) 義務規定と捉える見解・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 (2) 過大管理料の否認について対応的調整は不要とする見解・・・・・・・ 20 (3) 「対応的調整規定」による減額更正に消極的な見解・・・・・・・・・ 21 5 同族会社の法人税の対応的調整の可能性・・・・・・・・・・・・・・・・ 21 第2節 所得税法157 条の「不当性」の判断における広義説の妥当性の検証 ・・・23 1 「不当性」の判断についての判例の状況・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23 (1) 管理委託方式(ケースⅠ):東京地裁平成元年4 月 17 日判決 ・・・・・23 (2) 転貸(又貸し)方式(ケースⅡ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24 ① 福岡地判平成4 年 5 月 14 日判決・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 ② 東京高判平成10 年 6 月 23 日判決・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25 2 判例の傾向及び理由・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26 3 所得税法157 条の「不当性」の判断における広義説の妥当性の検証・・・・ 27 第3章 所得税法157 条は、「税負担の公平」を図る為の規定 ・・・・・・・・・・・ 28 第1節 所得税法157 条の趣旨・目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28 第2節 「税負担の公平」の見地からの検討・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29 第3節 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30 第4章 「不当性」の判断基準としての「独立当事者間取引」基準 ・・・・・・・・・31 第1節 所得税法157 条の適用要件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31 第2節 「不当性」の判断基準・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32 第3節 「独立当事者間取引」基準を用いる理論的根拠・・・・・・・・・・・・・ 33

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第4節 所得税法157 条の規定の特殊性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35 第5節 「通常の取引」への引き直し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36 1 管理委託方式(ケースⅠ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37 2 転貸(又貸し)方式(ケースⅡ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37 第6節 小括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38 第5章 所得税法157 条と「対応的調整規定」を一体と捉えた解釈 ・・・・・・・・・39 第1節 対応的調整規定の存在意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39 第2節 所得税法157 条の「不当性」の判断への影響・・・・・・・・・・・・・・ 39 1 許容性の観点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39 2 妥当性の観点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40 第3節 所得税法157 条と「対応的調整規定」を一体と捉えた解釈・・・・・・・ 41 第4節 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42 第6章 所得税法157 条の「不当性」の判断における広義説の妥当性・・・・・・・・43 第1節 所得税法157 条の「不当性」の判断における広義説の妥当性・・・・・・・ 43 1 所得税157 条は、「税負担の公平」を図る為の規定・・・・・・・・・・・・43 2 「不当性」の判断基準としての「独立当事者間取引」基準・・・・・・・・・ 43 3 所得税法157 条と「対応的調整規定」を一体と捉えた解釈・・・・・・・・ 43 第2節 所得税法157 条の「不当性」の判断における広義説の適用・・・・・・・ 44 第3節 不動産管理会社を用いるスキームへの適用・・・・・・・・・・・・・・ 44 1 管理委託方式(ケースⅠ)への適用・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 44 2 転貸(又貸し)方式(ケースⅡ)への適用・・・・・・・・・・・・・・・ 45 3 判例の検討(名古屋地裁平成20 年 12 月 18 日判決)・・・・・・・・・・・ 45 おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47

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は じ め に 1 問題意識 我が国において、税法規定の多くは「私法上の法律関係」を前提としており、「私法上の 法律関係」すなわち、「当事者間の契約」に基づき課税関係が決定されることになる。 そして、契約自由の原則のもと、不動産貸付業を営む個人が、その所有不動産の管理業 務を、不動産管理会社(同族会社)に行わせる形態が存在する。 こうした不動産管理会社(同族会社)は、少数の株主によって支配され、所有と経営が 分離していないため、いわゆるお手盛りによる取引や家族間での所得の分散を図ることが でき、個人の税負担を減少させ易い傾向にある。 不動産貸付業を営む個人が、不動産管理会社(同族会社)を用いて税負担の軽減を図る 場合、「税負担の公平」の見地から、同族会社の行為計算否認(所得税法157 条)の規定が 適用される場合がある。 この規定の特徴は、税務署長が恣意的と思われる取引を「通常の取引」に引き直して課 税する権限を有している点であるが、同条の適用に際して、関係する税負担につき、何ら かの対応的な考慮をしなければ、「一種の二重課税(以下、「経済的二重課税」とする。)1 が生じることになる。 こうした「経済的二重課税」が生じる状況は、望ましいとは言えないことから、「不当に 減少」(以下、「不当性」という。)の判断において、関係する税負担の対応的な考慮(税負 担の対応的調整)をすべきかが問題とされてきた。 具体的には、所得税法157 条の「不当性」の判断において、「減少した所得税(不動産所 得)のみを問題とすべきか、あるいは、増加した法人税をも併せて全体として税負担の減 少を問題とすべきか」、また、「同族会社から得た役員報酬(給与所得)をも考察の対象と して考えるべきか否か」が争われてきた2 この点、判例・課税庁は、おおむね「当該行為計算と直接関係のある当該同族関係者の 所得税(不動産所得)」だけで「不当性」を判断する「狭義説」に立っている。 この考え方による場合、同族会社の法人税(法人所得)及び給与所得を考慮しないため、 1 日本税理士会連合会税制審議会「租税回避について」の諮問に対する答申-平成 9 年度 諮問に対する答申―平成10 年 1 月 19 日、4 頁参照。平成 27 年 2 月 3 日閲覧。 http://www.nichizeiren.or.jp/guidance/pdf/toushin_H9.pdf 2 酒井克彦「同族会社の行為計算否認に係る対応的調整規定創設の意義」税理 49 巻 14 号11 頁参照(2006 年)。

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税負担の対応的調整が図られず、「経済的二重課税」が生じる。 税負担の対応的調整を図り、「経済的二重課税」を生じさせない為には、ダブルカウント になっている同族会社の法人税(法人所得)及び給与所得まで含めた全体としての税負担 を考慮し、「不当性」を判断する『広義説』が、妥当である。 平成18 年度改正によって、「経済的二重課税」等を考慮し、いわゆる「対応的調整規定」 が明文化された。これは、例えば、所得税法 157 条の適用により増額更正処分がされた場 合には、その結果を受けて、当該行為計算と直接関係のある法人税について、反射的な計 算をして減額更正をするという趣旨の規定とされる。 ただ、規定の文言上「準用する」とされており、必ずしも明確とは言えないことからも、 税負担の対応的調整についての議論の重要性は、高いものと思われる。 そこで、本研究においては、現行法解釈として、「不当性」の判断における『広義説』が 妥当であることの検証を試みる。 2 検討の視点 本研究で考察する、不動産貸付業を営む個人が、不動産管理会社(同族会社)を用いて 税負担の軽減を図り、所得税法157 条の適用が問題となる事案について、増井教授は、「『個 人から会社へと所得を流し込む型の事案』・・・として位置付けることができる。」とされ る。 そして、こうした不動産管理会社を用いるスキームは、「そもそも不動産所得の給与所得 および法人所得への転換まですべて考慮したうえで、節税を狙っていたのではなかったの か。仮にそうだとすれば、行為計算は、法人を介在した税額減少作戦の一部分でしかなく、 事態は本件行為計算を含む一連の取引をふまえて判断されるべきではないか。 以上のように考えると、所得税法157 条の適用にあたっては、(個人の)支払管理料が結 局は同族会社の法人所得や給与所得として課税されることをも斟酌すべきである、との主 張の中に重要な問題提起が含まれていることは、これを否定できない3」とされる。 すなわち、一連の取引をふまえずに所得税法157 条を適用した場合、「経済的二重課税」 3 さらに、この主張の論旨は、「各税目ごとに同族会社の行為計算の否認規定を置き(所 得税法157 条、法人税法 132 条、相続税法 64 条等)、一連の取引を分断して各々の要件・ 効果を考える現行法のしくみ自体にむけられたものである。」としている。増井良啓「所 得税法157 条を適用して過大不動産管理料の必要経費算入を否定した事例」ジュリスト 965 号 101-103 頁参照(1990 年)。

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が生じることになることから、こうした状況への配慮を示唆するものと思われる。 そうであるならば、「不当性」の判断における税負担の対応的調整について、一連の取引 をふまえて判断すべきであり、『広義説』よることが、妥当と言える。 3 研究方法 そこで、不動産管理会社を用いるスキームを素材として、下記の3つの観点から、『広義 説』が妥当であると結論付ける。 (1)所得税法157 条は、「税負担の公平」を図る為の規定 まず、所得税法157 条は、「税負担の公平」を図る為の規定であり、警告的・予防的機 能を強調すべきではなく、「経済的二重課税」を考慮する為には、『広義説』が妥当である。 (2)「不当性」の判断基準としての「独立当事者間取引」基準 つぎに、近時、同族会社の行為計算否認規定を、独立当事者間の正常取引と異なる取引 が行われた場合もその射程に含まれるとする、適正所得算出説による理解が有力になりつ つある。この「独立当事者間取引」基準を、同条の「不当性」の判断基準として用いるこ とは、『広義説』を前提とする。すなわち、同条は、表裏一体の関係にある個人と同族会 社との間の取引行為全体を把握し、一連の取引をふまえて判断することを前提とし、税負 担の対応的調整についても、広義説を前提としていると解することが、同条の趣旨に合致 し、妥当である。 (3)所得税法157 条と「対応的調整規定」を一体と捉えた解釈 さらに、「対応的調整規定」は、行為計算否認規定に追加的に規定された点から、所得税 法157 条と一体と捉えた解釈が可能であり、「経済的二重課税」を考慮する為の枠組みとし て理解できる。また、「準用する」と規定されたことに鑑み、税務署長に、極力、「経済的 二重課税」を生じさせないように配慮することを課したものと解することができる点で、 『広義説』が許容されている。

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第1 章 不動産管理会社における所得の分散と「経済的二重課税」 第1節 不動産管理会社を用いるスキーム 本研究で考察する不動産管理会社を用いるスキームが、『個人から会社へと所得を流し込 む型の事案』として位置付けることができるとは、いかなる意味であろうか。また、いか なる方法を用いて所得の分散を図るのであろうか。 まず、不動産管理会社を用いるスキームは、契約形態により、通常、管理委託方式と転 貸(又貸し)方式とに区分され、管理委託方式とは、不動産所有者たる個人が、不動産管 理会社に、管理を委託し、管理業務の対価として、管理料を支払う方式(以下、ケースⅠ とする。)であり、転貸(又貸し)方式とは、不動産所有者たる個人が、不動産管理会社に 不動産を賃貸し、当該会社が、その不動産を第三者に転貸する方式(以下、ケースⅡとす る。)である4 1 管理委託方式(ケースⅠ) ケースⅠは、高額な不動産所得を有する個人(不動産所有者)が、不動産管理会社(同 族会社)に、所有不動産の管理を委託して、「高額な管理料」を支払うことにより、その個 人の所得税(不動産所得)の負担の軽減を図る場合であり、こうした点を捉えて、『個人か ら会社へと所得を流し込む型の事案』として位置付けることができる。 不動産管理会社    (同族会社) 法人所得 益金(収入) 給与所得 役員報酬 重なっている部分の法人所得、給与所得が「経済的二重課税」 不動産所得 高額な管理料 ↑ 賃貸収入 ( ケースⅠ) 個人 「このような不動産管理委託がなされる場合には、不動産所得を有する者が同族会社に 4 ケースⅠは、契約形態が、管理委託契約(委任契約・民法 643 条)であり、ケースⅡ は、契約形態が、賃貸借契約(民法601 条)であり、有効に成立していることを前提と する。

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不動産管理を委託して管理料を支払う一方、当該同族会社から役員報酬の支払を受ける のが通例5」とされるが、個人の不動産収入の必要経費として支出された管理料が、同族 会社の管理料収入(益金)として計上され、それを原資として、不動産所得を有する個 人が役員報酬の支払いを受け、同族会社で法人税を負担する場合、不動産所得を給与所 得、法人所得に分散したことになるように思える。 2 転貸(又貸し)方式(ケースⅡ) ケースⅡは、不動産貸付業を営む個人(不動産所有者)が、不動産管理会社(同族会社) に「低額な賃貸料」で不動産を貸し付け、さらに、その会社が、その不動産を「通常の賃 貸料」で第三者に転貸(又貸し)し、「賃貸収入」を得ることにより、不動産貸付業を営む 個人の「所得税(筆者注:不動産所得)の負担の軽減6」を図る場合であり、こうした点を 捉えて、『個人から会社へと所得を流し込む型の事案7』として位置付けることができる。 不動産管理会社    (同族会社) 法人所得 不動産所得 低額な賃貸料 重なっている部分の法人所得、給与所得が「経済的二重課税」 役員報酬 益金(収入) 賃貸収入 ↑ ( ケースⅡ) 個人 給与所得 この場合にも、当該同族会社から役員報酬(給与所得)を受けることが想定される。 具体的には、不動産管理会社(同族会社)から不動産貸付業を営む個人に支払われた「低 額な賃貸料」が、その個人の不動産所得となるが、それ以外に、不動産管理会社が第三者 に転貸することにより得た「通常の賃貸料(賃貸収入)」を原資として、個人が役員報酬の 支払いを受け、同族会社で法人税を負担する場合、不動産所得を給与所得、法人所得に分 散したことになるように思える。 5 植松守雄『五訂版 注解 所得税法』181-182 頁参照(大蔵財務協会、2011 年)。 6 植松・前掲注 5・183 頁。 7 吉村政穂「所得税法 157 条の適用にあたり全体としての税負担を考慮することの要否」 ジュリスト1196 号 145 頁(2001 年)。

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3 不動産管理会社を用いるスキームへの所得税法157 条の適用 こうしたスキーム(ケースⅠ)について、「仮に何らの制限措置も講じられないならば、 不動産所有者は、第三者に不動産を賃貸しつつ、一方では、高額な管理料を会社に支払う ことにより、不動産所得を圧縮して法人所得に転換し、もって所得税の累進税率の適用を 回避することができ、他方では、会社を経由して本人や家族に給与所得の形で所得を分散 し、給与所得控除の恩恵を享受することができる。このような行為に対抗して、所得税法 157 条により過大管理料の必要経費算入を否定8」される場合がある。 所得税法157 条 1 項は、「税務署長は、同族会社等の行為又は計算で、これを容認した場 合には、その株主等またはその同族関係者・・・の所得税の負担を不当に減少させる結果 となると認められるものがあるときは、その・・・所得税に関する更正又は決定9に際し、 その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、所得の金額を計算する ことができる・・・」と規定している。 この規定は、「従来から、一般に租税回避の否認規定であると理解されてきている10 ここに「租税回避」とは、通説である金子教授によれば、「私法上の選択可能性を利用し、 私的経済取引プロパーの見地からは合理的理由がないのに、通常用いられない法形式を選 択することによって、結果的には意図した経済的目的ないし経済的成果を実現しながら、 通常用いられる法形式に対応する課税要件の充足を免れ、もって税負担を減少させあるい は排除すること11」を言うとされ、「課税要件の充足の事実を全部または一部隠匿する行為 」 である脱税のように違法でなく、「租税法規が予定しているところに従って税負担の減少を 図る行為 」である節税のように合法でもない「グレーゾーン」を意味する。 そして、こうした「クレーゾーン」を規律する規定として所得税法 157 条は位置付けら れる。 では、不動産管理会社を用いるスキームは、「租税回避」の事案であろうか。これらのス キームは、「通常用いられない法形式」を選択しているわけではないので、検討する。 8 増井・前掲注 3・102 頁。 9 「更正又は決定(更正等)とは、申告内容が法に従っていない場合に、課税庁が課税標 準等の調査にもとづいて課税標準および税額を是正する手続きをいう。決定は申告すべ き所得があるのに申告がされていないときに、また、更正は申告内容が法の規定に従っ ていないとき(課税標準が過大又は過小であるとき)になされる。」 岸田貞夫『税法としての所得税〔4 訂版〕』32 頁参照(税務経理協会、2008 年)。 10 清永敬次『租税回避の研究』385 頁(ミネルヴァ書房、1995 年、初出 1982 年)。 11 金子宏『租税法〔第 19 版〕』121-122 頁(弘文堂、2014 年)。

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この点、今村教授は、「いわゆる委託管理(筆者注:管理委託、ケースⅠ)方式の事案は、 賃貸物件を所有する個人が、不動産所得金額を圧縮して所得税を軽減するために、自らが 支配する同族会社に高額の管理料を支払って必要経費として計上するが、この場合は、複 雑な契約ではなく、委託契約(筆者注:委任契約)という単純な契約でただ委託料が通常 に比して高額というにすぎず、民法上は、このような委託契約であっても有効であり、虚 偽表示ではない。この事案が租税回避の事案に当たることは異論がないと思われるが、こ の場合に租税回避であるのは、契約が「異常」であるからではなく、通常であれば低額の 委託料で済むのに、高額な管理料を支払うのは、経済不合理だからと考えられる12。」とし ていることからも、不動産管理会社を用いるスキームは、「租税回避」の事案として、所得 税法 157 条の適用の可否が問題となる。ただ、不動産所得が、給与所得や法人所得への分 散している場合、同条の適用に際し、これらを考慮すべきようにも思われる。 第2節 所得の分散方法と「経済的二重課税」 1 「経済的二重課税」 では、上記のケースⅠ及びⅡにおいて、実質的には納税者の不動産所得が転換したもの であると考えられる給与所得や法人所得を、全く考慮せずに、所得税法 157 条を適用した 場合、いわゆる排除すべき「二重課税」が生じているといえるであろうか。 二重課税とは、「同一の課税原因事実について二重に課税されることをいう。例えば、法 人の所得に対する課税を資本主の所得に対する課税と考える場合の法人税と受取配当に対 する所得税の課税がある。我が国の租税法は、こうした二重課税を排除するため、税額控 除等の制度を設けている13。」が、「同一の所得に対して異なる者へ二重に課税することを、 通常の二重課税と区別する趣旨で「経済的な二重課税」と呼んでおり、経済的な二重課税 をどこまで排除すべきであるかについては議論のあるところである14」が、明確な規定は存 在しない。 そこで、いかなる場合に「経済的二重課税」となるのか、所得税法 157 条を適用し個人 に増額更正をした場合、関係する税負担につき何らの対応的な考慮をしなければ、同一の 所得に対して異なる者へ二重に課税することになるようにも思われることから、検討する。 12 今村隆「租税回避とは何か」『税大論叢40 周年記念論文集』24 頁(2008 年)。 13 岩崎政明=平野嘉秋=川端康之編『八訂版 税法用語辞典』733 頁参照(大蔵財務協 会、2011 年)。 14 岩崎=平野=川端編・前掲注13・208 頁参照。

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2 所得の分散方法と「経済的二重課税」 所得税法157 条を適用した場合に、「経済的二重課税」となるか否かの検討は、給与所得 への転換と法人所得への転換とで異なる。 すなわち、給与所得への転換は、所得税における「経済的二重課税」が問題となり、法 人所得への転換は、所得税と法人税の「経済的二重課税」が問題となることから、両者を 区別して、検討する。 第3節 所得税における「経済的二重課税」 所得税法 157 条が適用される場合に、実質的には、納税者の不動産所得が転換したもの であると考えられる役員報酬(給与所得)を全く考慮せずに、不動産所得の増減のみで、 納税者の所得税の「不当性」の判断をすると「経済的二重課税」が生じるように思われる。 これが、所得税における「経済的二重課税」の問題である。以下、ケース別に、検討す る。 1 管理委託方式(ケースⅠ) まず、ケースⅠに該当する事案として、エス・アンド・テイー事件15がある。 この事案は、「高額な不動産所得を有する者が、自己を主宰者とする同族会社である不動 産管理会社を設立し、これに所有不動産の管理を委託して高額な管理料を支払うことによ り、その者の所得税の負担の軽減を図ったとしてなされた更正処分の適否が争われた事案 16」である。 この事案において、原告は、「不当性」の判断の際に、「原告の支払管理料のうち、原告 の役員報酬額相当分は、原告の給与所得に転換されて、結局は、課税の対象となる所得を 構成するに至ることをも斟酌すべきである」旨主張する。 この点、佐藤教授は、「明らかに本来納税者の所得となるべきものの一部が同族会社を経 由して納税者に還流している場合には、その部分は、納税者の所得計算上、不動産所得と 給与所得とのダブル・カウントがなされることになり、きわめて不合理な結果となる。 本来、納税者の不動産所得となるべきものが同族会社を経由して納税者に還流している ようなタイプの給与所得(筆者注:還流所得)については、所得税法 157 条の適用上、こ 15 東京地裁平成元年4 月 17 日判決(訟月 35 巻 10 号 2004 頁、税資 170 号 26 頁)。 16 植松・前掲注 5。

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れを考慮すべきと考える17。」としている。こうした状況は、課税上、望ましい状況とは言 えず、所得税おける「経済的二重課税」が生じている。 2 転貸(又貸し)方式(ケースⅡ) つぎに、ケースⅡに分類される転貸(又貸し)の事案においては、「同族会社が、対外的 な第三者からの賃貸収入を原資として、役員報酬を支払う場合、同族会社(不動産管理会 社)から支払いをうけた不動産所得を、所得税法 157 条を適用して計算するに当たり、納 税者が当該同族会社から支払いを受けた役員報酬(筆者注:還流所得18)を考慮しないと、 二重課税ともいうべき不当に高額の課税負担を受けることになる19。」と納税者(原告)に より主張されている。 この場合も、ケースⅠと同様に、所得税における「経済的二重課税」が生じている。 3 所得税における「経済的二重課税」 所得税における「経済的二重課税」が生じているかの検討は、個人と同族会社の一連の 取引を、課税上、一体と捉えて、その原資に着目し、「ダブルカウント」になっていないか を観察すべきことが重要になると考える。そして、「ダブルカウント」になっているものを 「経済的二重課税」として認識する。 具体的には、上記のケースⅠ及びⅡにおいて、実質的には、納税者の不動産所得が転換 したものであると考えられる給与所得を、全く考慮せずに、所得税法 157 条が適用される 場合、家族へ分散した給与所得については、ダブルカウントされていないが、ケースⅠに おいては、その原資に着目し、明らかに本来納税者の所得となるべきものの一部が同族会 社を経由して納税者に還流している場合、ケースⅡにおいては、同族会社が、対外的な第 三者からの賃貸収入を原資として、納税者に役員報酬を支払う場合に、不動産所得と給与 所得との「ダブルカウント」となり、所得税における「経済的二重課税」が生じていると 言える。 17 佐藤英明「所得税法157 条(同族会社の行為・計算否認規定)の適用について」日本税 務研究センター編 21 巻 7 号 53-54 頁参照(1994 年)。 18 筆者は、ケースⅡにおいて、同族会社が、対外的な第三者からの賃貸収入を原資として、 納税者に、役員報酬等を支払う場合も、「還流所得」として位置付ける。 19 福岡地判平成4 年 5 月 14 日判決(税資 189 号 513 頁)、控訴審は、福岡高裁平成 5 年 2 月 10 日判決(税資 194 号 314 頁)、上告審は、最高裁第三小法廷平成 6 年 6 月 21 日判 決(訴月41 巻 6 号 1539 頁)。

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第4節 所得税と法人税の「経済的二重課税」 1 理論的前提の考察 前述のエス・アンド・テイー事件20において、原告は、役員報酬(給与所得)と同様に、 「不当性」の判断において、「原告の支払管理料のうち、エス・アンド・テイー(同族会社) の留保額相当分は、エス・アンド・テイー(同族会社)の法人所得に転換されて、結局は、 課税の対象となる所得を構成するに至ることをも斟酌すべきである」旨を主張する。 これに対して、判決は、所得税法157 条(平成 18 年度改正前)の規定上、同族会社が負 担する法人税を顧慮すべきだとは解されないとして否定的な態度をとっている。 この点について、佐藤教授は、「現行法(平成 18 年度改正前)の規定の解釈としては判 決の態度もやむをえないものと考えるが、なお、実質論から言えば疑問が残る所であり、 また、現行法の解釈・運用上も、納税者側に所得税法 157 条の適用があり、かつ、同族会 社側で何らの調整も行わないと結果的に所得の一部に二重課税がなされたかのように見え るという問題点がある21」としている。 では、上記の場合において、「経済的二重課税」が生じているであろうか。すなわち、所 得税と法人税の「経済的二重課税」が生じているかが問題となる。 そこで、いかなる場合に「経済的二重課税」となるか、その観察を行うための前提につ いて、考察する。これは、同族会社が負担した法人税をどのように捉えるかに関わる。 この点、金子教授は、「従来は法人実在説22と法人擬制説23の対立を法人税性質論にもちこ み、法人実在説によると法人税は独自の租税であることになるし、法人擬制説によると法 人税は所得税の前どりであることになるが、法人の本質論は、決め手のない問題(中略) 20 前掲注15。 21 佐藤・前掲注17・52 頁。 22 法人実在説(法人独立課税主体説)は、「法人の性格に関する考え方の一つで、法人は 社会の中で、実体として存在し、自然人における意思と同様に団体意思を有するもので あり、この意味から権利能力のみならず、固有の意思及び行為能力を有するとする説を いう。」とされ、法人税の課税根拠としては、「法人を自然人たる個人と並んで独立した 納税者である」と捉える。 金子宏『税法用語辞典〔七訂版〕』410 頁(税務経理協会、2006 年)、川田剛『三訂版 基 礎から学ぶ法人税』13‐15 頁(大蔵財務協会、2007 年)。 23 法人擬制説(法人集合体説)は、「法人の性質に関する考え方の一つで、本来の法的主 体は自然人のみであり、法人は法が擬制して認められた人格者に過ぎず、自然人の場合 のように固有の意思をもって行動する独自の行為というものはありえないので、法人は 代理人によってのみ法律行為をすることができるとする説をいう。」金子・前掲注22・410 頁。

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である。また、法人税の性質を一元的に規定することは困難で、法人税がすべての株主の 負担になっていると判断することも困難である。おそらく、法人税の相当部分は株主の負 担となっているが、その程度は法人ごとに異なると考えるのが、実体に合致していると思 われる24」とされる。 これは、法人の性質論に拘泥することなく、実質に着目し、考察すべきことを示唆する ものではないだろうか。 思うに、「個人から会社へと所得を流し込む型の事案」における「経済的二重課税」を考 察する場合、所得が、どのように分割され、あるいは還流しているかの考察が重要と考え る。そのためには、同族会社を法人擬制説的に捉え、法人税を所得税の前払いと位置付け、 個人と同族会社の一連の取引を、課税上、一体と捉える必要がある。 これにより、本研究で対象としている不動産管理会社(同族会社)を用いるスキームに ついて、所得課税を中心に、「経済的二重課税」が生じているかの検討が、理論的に可能に なるものと考える。 2 所得税と法人税の「経済的二重課税」 そして、上記のように法人税を所得税の前払いと位置付ける場合、所得税と法人税の「経 済的二重課税」が生じているか否かの検討も、その原資に着目し、課税上、「ダブルカウン ト」になっていないかを観察すべきことが重要になると考える。 ケースⅠ及びⅡにおいて、「個人の所得税(不動産所得)との関係で所得税法157 条 1 項 を適用し、同族会社の収益(益金)を考慮せずに、不動産所得について増額更正した場合、 同族会社の法人税との関係では、依然として同じ金額が益金に算入されたままになること から、個人に所得税、同族会社に法人税、という具合にダブルパンチ(筆者注:ダブルカ ウント)25」のように見える。すなわち、一連の取引を観察した場合、Ⅰ及びⅡのケースと もに、その原資に着目し、その留保額相当分が法人所得に転換され、法人税を負担してい る場合には、不動産所得と法人税との「ダブルカウント」になっており、所得税と法人税 の「経済的二重課税」が生じている。 こうした「経済的二重課税」が生じる状況は、望ましいとは言えないことから、「不当性」 の判断において、関係する税負担につき対応的な考慮をすべきかが議論されてきた。 24 金子・前掲注11・284 頁。 25 増井良啓『租税法入門』280 頁参照(有斐閣、2014 年)。

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第5節 所得税法157 条の「不当性」の判断 所得税法 157 条の適用に当たり、その要件である「不当性」の判断において、関係する 税負担につき対応的な考慮をすべきかの問題について、八ツ尾教授は、狭義説、課税主体 説、広義説に分けて、整理している26 1 学説の状況 (1) 狭義説(判例・課税庁) まず、狭義説は、多くの判例や課税庁が採用する税負担の減少について判断する範囲が 最も狭い考え方であり、「当該行為計算と直接関係のある当該同族関係者の所得税だけ27 によって判断する見解である。 上記のように解する理由は、「個人と法人とは適用される税法を異にし、それぞれ全く別 の課税主体として規定されていること、同条(筆者注:所得税法 157 条)が『不当に減少 させる結果』になるかどうかを問題としているのは、当該行為計算と直接関係のある当該 同族関係者の所得税だけであると考えるのが同条の文理上自然な解釈であることから、同 条の適用に当たっては個人と法人を通じた総合的税負担の減少を考える必要はなく、所得 税の課税主体(個人)を単位とした税負担の減少の結果を考えれば足りるものと解される。」 点にある。 この点、八ツ尾教授は、「福岡地裁28の事件では、原告自身は同族会社から給与所得を得 ていなかったのであるが、判決が説示する「原告の事業所得(筆者注:不動産所得)とは あくまで所得の発生原因を異にする」という考え方からすれば、仮に原告自身が同族会社 から給与所得を得ていても、それは同族会社における労働の対価として得たものであって、 原告の事業所得(不動産所得)とはあくまで所得の発生原因を異にしているところから、 給与所得は斟酌されるべきではないとの結論になる29」とされる。 この狭義説は、「経済的二重課税」について考慮しない考え方であり、課税上、望ましい とは言えないと考える。 26 八ツ尾順一『〔六訂版〕租税回避の事例研究~具体的事例から否認の限界を考える』 130-132 頁参照(清文社、2011 年)。 27 福岡地裁平成4 年 2 月 20 日判決(訟月 38 巻 12 号 2712 頁、行集 43 巻 2 号 157 頁)。 「同族会社に対して自分の開業した病院の管理業務を委託した場合の適正委託料」に関 する事例である。 28 前掲注27。 29 八ツ尾・前掲注26・132 頁。

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(2) 課税主体説(清永説) つぎに、清永教授の課税主体説は、「原告の給与所得に係る所得税をも考慮したところで 判断すべき」とする見解である。 上記のように解する理由は、「給与所得に対するものであるとはいえ、所得税であるから、 所得税法 157 条の文言に照らして、過大管理料の支払いに伴う給与所得の所得税負担の発 生(又は増加)分があればそれも含めて、所得税の負担の不当な減少があったか否かを、 判断すべき30」点にある。 また、大淵教授は、「そもそも、所得税法157 条 1 項が、株主の所得税の不当減少を否認 するものであり、その過大管理料を異常不合理であるとして否認するのであれば、その過 大管理料収入を原資として、同族会社は当該株主(役員)に給与(役員報酬)を支給して いるのであるから、当該株主が受領した給与所得に係る所得税を斟酌して「不当減少」を 判定する必要があることは当然の事理である31」とされ、同様の見解を示している。 思うに、上記の課税主体説は、所得税における「経済的二重課税」を考慮している点は、 妥当であるが、法人所得(法人税)を考慮しない点で、「経済的二重課税」への配慮が不足 しているように思われる。 (3) 広義説(納税者) そして、「納税者が主張する広義説は、所得税法157 条の適用に当たっては、同族会社の 法人税(法人所得)及び給与所得32までをも考慮して、全体としての税負担が不当に減少さ せる結果となっているかどうかによって判断すべきである。」とする見解である。 上記のように解する理由は、「同族会社に対する管理料の支払が、個人の所得税の負担 を不当に減少させるものであるか否かを判断するについては、個人の支払管理料のうち、 個人の役員報酬額相当分は個人の給与所得に、同族会社の留保額相当分は同族会社の法人 所得にそれぞれ転換されて、結局は、課税の対象となる所得を構成するに至ることをも斟 酌すべきである33。」 また、「所得税法 157 条の立法趣旨が租税負担の公平である以上、原告が否認される取 30 清永敬次「租税回避行為の否認」別冊ジュリスト120 号 28 頁(1992 年)。 31 大淵博義『法人税法解釈の検証と実践的展開 第Ⅱ巻』87 頁(税務経理協会、2014 年)。 32 筆者は、同族会社から家族へ分散した所得は含まず、納税者に還流された所得(還流所 得)を考慮すべきと考える。 33 前掲注15・原告(納税者)の主張の理由である。

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引形態を選択しない場合に比し、より高額の税負担を強制されるべき根拠は存在しないこ とから、その適用に当たっては、同族会社の法人税及び同社役員の所得税(給与所得)ま でをも考慮して、全体としての税負担が不当に減少させる結果となっているかどうかによ って判断すべき34」点にある。 2 各説の検討 では、上記の各説について、検討したい。 所得税法157 条の適用に際して、関係する税負担の対応的調整を図らなければ、「経済的 二重課税」が生ずる。 こうした「経済的二重課税」が生じている状況は、望ましいとは言えないことから、税 負担の対応的調整が図られるべきである。 この点、同条の「不当性」の判断における、「当該行為計算と直接関係のある当該同族関 係者の所得税(不動産所得)だけ」によって判断する狭義説(判例・課税庁)は、税負担 の対応的調整が図られず、「経済的二重課税」への配慮を看過しており妥当でない。 また、原告の給与所得に係る所得税をも考慮したところで判断すべきとする課税主体説 (清永説)は、法人税(法人所得)を考慮しない点で、「経済的二重課税」への配慮が不足 しており妥当でない。 税負担の対応的調整を図り、「経済的二重課税」を生じさせない為には、「ダブルカウン ト」になっている同族会社の法人税(法人所得)及び給与所得まで含めた全体としての税 負担を考慮し、「不当性」を判断する『広義説』が、妥当であると考える。 ただ、現行法上、「不当性」の判断において、この『広義説』を採用できる明確な根拠規 定は存在しない。 こうした議論を背景として、同規定を適用した場合に、関係する税額(法人税)の対応 的調整についても問題とされてきた。この点に関して、平成 18 年度税制改正により、「対 応的調整規定」が創設されている。そこで、平成18 年度税制改正前後の状況を概観する。 34 前掲注27・原告(納税者)の主張の理由である。 この事案においては、所得税法157 条の適用に当たって、同族会社の法人税額及び同 社の役員報酬(原告の妻)に対する所得税額をも斟酌する必要があるかが争われた。 この点、筆者は、原告の妻(家族)への役員報酬は、これを斟酌する必要はないものと 考える。

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第2章 税負担の対応的調整 第1 節 同族会社の法人税の対応的調整の可能性 平成18 年度税制改正による「対応的調整規定」の創設以前、所得税法 157 条を適用した 場合、関係する税額(法人税)につき対応的に減額更正処分をすべきか、という「同族会 社の法人税の対応的調整の可能性35」が問題とされてきた。 1 平成18 年度改正前 この点、一般に、判例36は、次のような判断をしている。 「所得税法 157 条の規定は、租税負担の公平を図るため、同族会社を利用して個人の税 負担を不当に減少させる行為を否認して、税務署長の認めるところによって所得の計算を できるとするものにすぎず、その場合の同族会社の法人税額の計算については何らの調整 の規定は置かれていない。そもそも、同族会社とその取引の相手方である個人は別個の人 格を有するものであり、個人についての所得税の計算を行うについては、これに先立ち又 はこれと同時に同族会社の法人税について減額更正等の処分をして、相互の課税額の調整 を行わなければならない理由はないというべきである。」とされる。 この考え方によれば、「所得税法157 条が適用された場合には、個人の所得の一部のみを 実質(適正)に引き直して課税することになるため、結果として、実質的に本来払うべき 以上の租税負担を負うことになる37」ことから、こうした状況は、望ましいとは言えない。 ただ、「同族会社の法人税の対応的調整」を認める規定がなかった平成 18 年度改正以前 においては、関係する税額(法人税)につき対応的に減額更正処分は、認められなかった と解さざるを得なかったものと考える。 では、平成18 年度改正以前の課税実務における判断は、どのようになされていたのであ ろうか。 35 八ツ尾・前掲注26・132 頁。 36 東京地裁平成13 年 1 月 30 日判決(税資 250 号)。租税事件訴訟研究会編『租税判例年 報 平成13 年度』271-275 頁(税務経理協会、2003 年)。 37 これに関して、佐藤教授は、(立法論であるが)「具体的には、同族会社が負担した法人 税額に、157 条により否認された個人の必要経費に対応する同族会社の収益がその年度の 同族会社の総所得に占める割合を乗じた金額を、個人の更正処分の際に税額から控除す るようにすべきであろう。」ただ、「実際には、同族会社の事業年度が暦年でない場合な どにつき、かなり技術的に複雑な規定が必要となる。」としている。佐藤・前掲注17・66 頁。

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2 課税実務における判断 「本規定(筆者注:平成 18 年度改正「対応的調整規定」)が追加される前、課税実務で は、株主等個人の不動産所得について同族会社である不動産管理会社への管理委託料の是 正が所得税法の行為計算否認規定の適用により行われたときには、当該不動産管理会社の 法人税の計算上は、その是正に係る金員を返還した日の属する事業年度の損金算入を認め ることとしていた38。」とされ、事後的ではあるが、法人税の対応的調整が図られていたと 思われる。 こうした状況の下、平成18 年度税制改正により、いわゆる「対応的調整規定」が創設さ れた。 金子教授は、当初、この改正は、「経済的二重課税等を考慮して、対応的調整に途を開く ための規定が設けられた39」としていた。 仮に、この規定の創設が、「経済的二重課税」の考慮を目的として規定されたとすれば、 「税負担の対応的調整」の問題は、解決されることになるように思われる。 そこで、「対応的調整規定」の内容及び趣旨について、概観する。 3 平成18 年度改正の内容及び趣旨 (1) 改正の内容 平成18 年度税制改正により、「第1 項(前項)の規定は、・・・準用40する。」との規定が、 各税法の同族会社の行為計算否認の規定に追加する条項として規定された(所得税法 157 条3 項、法人税法 132 条 3 項、相続税法 64 条 2 項)。 酒井教授は、法人税の対応的調整の可能性「という問題がこれまでも議論されてきたの は、法人税を更正しない限り所得税と法人税との実質的な二重課税(筆者注:「経済的二重 課税」)が放置されたままとなるという問題があるからであり、この点については、平成18 38 井出裕子「同族会社等の課税に係る一考察-同族会社等の行為計算否認に係る対応的調 整を中心に-」税大論叢62 号 180 頁(2009 年)。 39 金子教授は、『租税法〔第11 版〕』878 頁(弘文堂、2006 年)。但し、『租税法〔第 12 版〕』377 頁(弘文堂、2007 年)は、「この規定は、対応的調整をも認める趣旨であると いわれている。」としている。 40 「準用するとは、ある事項について定められている規定を、それとは異なるが本質的に は類似する他の事項について、必要な変更を加えたうえで働かせようとする場合に用い られ・・・その意味において、本来その規定の対象としている事項についてあてはめて 働かせる場合に用いられる「適用する」とは区別される。」田島信威『最新 法令用語の 基礎知識 三訂版』84 頁(ぎょうせい、2006 年)。

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年度改正によって立法的解決が図られたと思われるが、改正後の条文の記載振りが必ずし も明確ではなく、それが「対応的調整」規定を意味するかどうかなど、条文解釈を巡って 様々な議論が展開されている41。」とされる。 では、この規定は、どのように解すべきであろうか。その趣旨について、概観する。 (2) 改正の趣旨 「対応的調整規定」の趣旨は、いかなるものであろうか。 この点、平成18 年の改正規定の趣旨につき、「改正前は、所得税法 157 条の規定の適用 による所得税の「増額計算が行われた際に、反射的に法人税の課税所得等を減少させる計 算を行う権限が税務署長に法律上授権されているかどうかは必ずしも明らかではなかった。 すなわち、法人税法における行為計算否認規定は法人税の不当減少に対応した増額計算 を前提としているが、所得税法等において行為計算否認規定によって増額計算が行われた 場合に、これに対応して法人税法の減額計算を行う必要がある場合に、その根拠規定がい ずれであるかは明確ではなかったということである。他方で、このような状況では、納税 者の利便性が損なわれるだけでなく、・・・租税回避的な「法人成り」に対応する際の執行 にも支障を来しかねないといったことが考えられたところである。 そこで、会社法の制定を機に「法人成り」の増加も見込まれるという状況をも踏まえ、 所得税法・・・の適用関係に係る明確化措置として、所得税法 157 条・・・の規定の適用 による所得税の増額計算が行われる場合に、税務署長に法人税における反射的な計算処理 を行う権限があることを明定することとされたものである42」と説明する。 ここに「『反射的な計算処理』は、従来から学説が対応的調整と名付けて検討してきたも のである43」とされる。 この改正規定について、田中教授は、「平成 18 年度改正の趣旨や目的の理解、規定の解 釈の仕方のいずれにおいても、相当な不明確さを残している44」と指摘する。 41 酒井克彦「法人税と所得税の間に介在する二重課税問題―同族会社課税における二重課 税と二重控除―」211 頁(租税訴訟、2008 年)。 42 財務省大臣官房文書課編『ファイナンス別冊 平成18 年度税制改正の解説』374 頁(大 蔵財務協会、平成18 年)、武田昌輔監修『DHC コンメンタール法人税法 第 5 巻』5599 の23(5600)頁(第一法規)。 43 増井・前掲注25。 44 田中治「同族会社の行為計算否認の見直しで脚光を浴びる対応的調整規定」税理50 巻 8 号 142-143 頁(2007 年)。

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そして、同教授は、「一般に、この改正は、経済的二重課税等を考慮して導入されたもの と考えられている。この考え方は、所得税において行為計算が否認され税金が増えれば、 それに対応して法人税が減るという対応的調整であって、これは、納税者にとって福音で あると考えるのであろうが、実際の条文の組立てをみると、このような理解がはたして成 り立つか、相当の疑問が生じる45」としている。 また、清永教授は、「新設規定の文言から、直ちにその趣旨を読みとることは、必ずしも 容易ではないように思われる46。」として、条文の文言の不明確さを指摘している。 酒井教授は、「この規定の改正は、対応的調整を読み込んだものと理解しているが、そも そもこれが対応的調整を意味していると言い切れないという有力な議論もあり、この改正 規定の意義をめぐる議論は未だ尽きるところがないが、そもそもこれらが議論されるのは、 同規定の明確性に問題があるためであるともいえよう47」と指摘される。 上記のような指摘からも、「対応的調整規定」を「経済的二重課税」の考慮のために創設 されたと位置付けることは、容易でないと言える。 こうした条文の文言の不明確さゆえに、「同族会社の法人税の対応的調整の可能性」につ いて、様々な見解が生じている。 4 学説の状況 そこで、「同族会社の法人税の対応的調整の可能性(法人税法132 条 3 項の対応的調整の 問題)」、すなわち、「対応的調整規定」についての学説の状況を概観する。 (1) 義務規定と捉える見解 この見解は、「例えば株主等個人に同族会社等の行為計算否認規定が適用された場合、当 該同族会社において全てのケースについて無条件、義務的に減額更正するべき(以下「義 務規定」という。)とする見解48」であり、積極的に、減額更正が許容されると考える立場 である。 45 田中治「所得税における同族会社の行為計算の否認規定」日本税務研究センター編『同 族会社の行為計算の否認規定の再検討-租税回避行為との関係を含めて-』91 頁(財経 詳報社、2007 年)。 46 清永敬次『税法〔新装版〕』45 頁参照(ミネルヴァ書房、2013 年)。 47 酒井克彦「租税法律関係における対応的調整とその諸相‐各税間調整をめぐる諸問題」 税理50 巻 8 号 132 頁(2007 年)。 48 山本守之「対応的調整における実務上の問題点」税理50 巻 8 号 152 頁(2007 年)。

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この見解によれば、「平成 18 年度改正で対応的調整による(減額)更正の権限が税務署 長に創設的に付与されたと考えるべきであり、税務署長が、減額更正をしない場合には、 行政事件訴訟法の義務付けの訴え49によって処理されることになる。 改正の直接的理由が、「納税者の利便性」「会社法制定に伴う法人成り等の対応にも支障 をきたす恐れ」であったとしても、むしろ同族会社の行為計算否認規定の適用により、実 質的な二重課税(筆者注:「経済的二重課税」)の状態になった・・・ことをもって減額更 正処分を行うことは不可能であったので、対応的調整を認めることにしたと説明する方が 望ましい。つまり、平成18 年度改正で対応的調整による減額更正の権限が税務署長に創設 的に付与されたと考えるべきである50。」とする。 また、「義務規定」であることを前提として、「同族会社の行為計算否認規定により、所 得税につき増額更正処分を受けた場合に、反射的に減額更正処分を受けるべき税目(法人 税)について、税務署長から積極的な対応的調整がなされない場合、納税者から税務署長 に対して国税通則法23 条 1 項に基づく通常の更正の請求が可能であり、さらに、同 2 項に 基づく後発的事由による更正の請求も可能であると解される51」とする見解もある。 では、「義務規定」と捉えることは可能であろうか、税負担の対応的調整を図り、「経済 的二重課税」を生じさせない為には、義務規定と捉えるべきようにも思われるが、解釈論 として許容できるか、検討する。 この点、田中教授は、「新たな準用規定を根拠に、納税者が義務付け訴訟ができるかどう かは疑問である。準用すべき根拠規定が増額更正処分の根拠規定である以上、納税者の利 益の方向に課税処分の発動を求めることはおよそ望みえないからである52」としているが、 条文の文言上、義務規定と解することは、困難であると考える。 また、「裁判例53も、同族会社の行為または計算の否認は、単に課税の計算上、当該行為 または計算と異なる行為または計算を想定して、当該法人の課税標準、欠損金額または法 人税額を計算するにとどまり、現実になされた行為の法律上の効果になんの影響を及ぼす 49 行政事件訴訟法第 37 条の 2(義務付けの訴えの要件等)「・・・、義務付けの訴えは、 一定の処分がなされないことにより重大な損害が生じるおそれがあり、かつ、その損害 を避けるために他に適当な方法がないときに限り、提起することができる。」 50 山本守之『体系法人税法〔30 訂版〕』172 頁(税務経理協会、2013 年)。 51 青木丈「対応的調整に対する実務のアプローチ‐更正の請求と租税争訟の可能性」税理 50 巻 8 号 154 頁参照(2007 年)。 52 田中・前掲注44・145 頁。 53 東京高判昭和 34 年 11 月 17 日(行集 10 巻 12 号 2392 頁)。

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ものではない54」とし、最高裁55は、「現実になされた行為計算そのものに実体的変動を生じ せしめるものではない。」と判示し、否認の効果は、私法上の効力に何ら影響を及ぼすもの ではないものとの考え方を示している。 仮に、「義務規定」と解した場合、この考え方との整合性がとれないのではないだろうか。 すなわち、税務署長による所得税の増額更正処分が行われた場合に、反射的に、対応す る法人税の減額更正処分をすべきと構成することは、見方を変えれば、否認の効果を私法 上の法律関係に及ぼすことになり、「私的自治の原則」を納税者自らが否定することになる と考える。 こうした解釈は、一見、「納税者の利便性」を高めるようにも思えるが、申告納税制度を 採用する我が国における租税法解釈として、許容できないと考える。 (2) 過大管理料の否認について対応的調整は不要とする見解 大淵教授は、不動産管理会社を用いるスキームについて、「過大経費の支出の必要経費控 除の否認は、所得税法 157 条 1 項の問題として扱うのではなく、事実認定の実質主義の法 理(又は必要経費の解釈)により、厳格な証明の下で、独立企業間価格を算定した上で、 差額を個人からの贈与と認定して、同族会社に限らずすべての法人又は個人に対する支出 に適用し必要経費性を否認すべきものであり、法人税法 132 条 3 項の対応的調整はその 機能を停止し不要であることが、むしろ合理的である56」とされる。 こうした考え方は、採用し得るであろうか。以下、検討する。 この見解は、「過大管理料は事実認定の実質主義により過大部分を株主(個人)から同族 会社に対する贈与と認定して否認すべきであり、」対応的調整は不要57とするが、不動産管 理会社を用いるスキームにおける「経済的二重課税」に対する問題意識が欠如しているよ うに思われる。 すなわち、不動産管理会社を用いるスキームにおいても、所得税法 157 条の適用を検討 すべきことが、「税負担の公平」の見地から求められる場合もあり、画一的に捉えた場合、 54 武田昌輔監修『DHC コンメンタール所得税法 第 4 巻』7103 頁(第一法規)。 55 最高裁第二小法廷昭和48 年 12 月 14 日判決(訴月 20 巻 6 号 146 頁)。 56 大淵教授は、「いわゆる転貸方式に対して、所得税法157 条 1 項を適用して収入認定を 行った課税事例が判例により支持されているが、これも許されないというべきである。」 とされ、「そもそも、対応的調整規定を手当てする必要はない。」とする。大淵・前掲注 31・97-98 頁。 57 大淵・前掲注31・89 頁。

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税負担の対応的調整の余地がなく、結果として、「経済的二重課税」が考慮されないことか ら、この見解は、妥当とは言えず、採用し得ない。 (3) 「対応的調整規定」による減額更正に消極的な見解 田中教授は、「対応的調整を認めるならば、過大管理料を個人に返還するなどして、法人 の所得の大きさに修正を要すべき現実の変化が生じたことを条件とすべきであり、立法論 として、対応的調整の是非をめぐる二つの選択肢を適正に考慮すべきである。対応的調整 をしないというのも一つのあり得る選択肢であり、現実世界における適正な修正を反映し た対応的調整を立法化するのも、もう一つの選択肢である。今回の立法はこの選択に必ず しも成功していない58。」とされる。 また、「例えば、同族会社行為計算否認規定の適用によって個人からその同族会社へ支払 った不動産管理料の必要経費性が高額であるとして否認された場合等は、個人側で増額更 正が行われたことにより、一時的には二重課税状態になる。しかし、経済的利得の返還が 無い場合は、法人の側には名目は何であれ確かに経済的価値の流入が存在している以上、 結果として減額更正の必要はないという考え方も出てくると思われる59」との意見もある。 これらは、いずれも「対応的調整規定」による減額更正に消極的な見解として位置付け ることができると考える。 5 同族会社の法人税の対応的調整の可能性 こうした学説の状況を、どのように捉えるべきであろうか。 田中教授は、「現時点で、性急に対応的調整措置を導入することが、当然に納税者の権利 性の伸長につながるかどうかもそれほど明確ではない。実務的にのみいえば、対応的調整 だと説明されている規定がある以上、納税者は他の税目について減額更正を求めるべきで あろうが、その権利性を確かなものにするためには、現行規定では不十分である60。」とさ れるが、規定の文言からも、「義務規定」と捉える見解は、解釈上、困難であると解する。 また、過大管理料の否認について対応的調整は不要とする見解は、不動産管理会社を用 いるスキームにおける「経済的二重課税」に対する問題意識が欠如しており、妥当でない。 58 田中・前掲注44・145 頁。 59 小関健三「パチンコ平和事件を素材にした同族会社の行為計算否認規定の検討[最高裁 平16.7.20 判決]」税法学 559 号 204 頁(2008 年)。 60 田中・前掲注44・145 頁。

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ただ、現行法解釈において、対応的調整による減額更正を許容できないと解することは、 規定が創設された趣旨を没却すると言える。 では、「対応的調整規定」を、どのように位置付けるべきであろうか。以下、検討する。 酒井教授は、「これまでの同族会社の行為計算否認規定では税務署長に対して対応的調整 を行い得る権限が付与されていなかったことから、法的根拠のないところでの対応的調整 は法律上許容されていなかったと思われる。したがって、同族会社の行為計算否認規定の 適用によって、実質的な二重課税(筆者注:「経済的二重課税」)といえる状態になったと しても、同族会社の行為計算否認規定は、現実になされた行為の法律上の効果に何ら影響 を及ぼさず、同規定が適用されたとしても何ら法人税額の計算の基礎となる課税標準額に も影響を及ぼさないから、そのことをもって減額更正処分を行うことは不可能であり、法 人税額の調整をすることはできなかった61」とされる。 にもかかわらず、本規定が創設される前の「課税実務では、株主等個人の所得税につい て、同族会社等の行為計算否認規定の適用により増額更正があった場合には、不動産管理 会社の法人税の計算上は、その是正に係る金員を返還した日の属する事業年度の損金算入 を認めることとしていた62。」とされ、事後的な対応的調整が図られていたが、その法的根 拠は明確とは言えなかったのではないだろうか。 こうした状況の下、平成18 年度改正により、税務署長が、所得税法 157 条の適用により 更正等を行ったときには、是正に係る金員を返還した日の属する事業年度の、当該不動産 管理会社(同族会社)の法人税(法人所得)を考慮する権限を与えた、すなわち、平成18 年度税制改正は、従来の課税実務に法的根拠を与えたものと解するべきである。 この点、水野教授は、「同族会社の行為または計算の否認については、税務署長の権限は 明らかでなかったので、平成18 年度税制改正において、対応的調整を行う税務署長の権限 が明確にされた63」とされるが、上記のような理解と捉えると、妥当と考える。 ただ、従来の課税実務に法的根拠を与えたものと解すると、「経済的二重課税」への配慮 は不足しているように思われる。 すなわち、従来の課税実務による場合、所得税法 157 条により増額更正された後、同族 会社において、是正に係る金員を返還した日の属する事業年度の損金算入するまでの間、 61 酒井・前掲注2・16 頁参照。 62 井出・前掲注 38。 63 水野忠恒『租税法〔第5 版〕』543 頁(有斐閣、2011 年)。

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