2017 年度スイス氷河実習 観測実習レポート(気象観測班)
Heat budget analysis on Rhone Glacier
in Switzerland
作成者:
髙木 毬衣
(環境科学院 地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース M1)山根 志織
(環境科学院 地球圏科学専攻 雪氷・寒冷圏科学コース M1)目次
Ⅰ. Introduction ... 3
Ⅱ. Method and results ... 5
Ⅱ-1. 研究対象地 ... 5 Ⅱ-2. データと手法 ... 6 Ⅱ-3. 結果 ... 13 Ⅲ. Discussion ... 20 Ⅲ-1-1. 観測日の気象条件① ... 20 Ⅲ-1-2. 観測日の気象条件② ... 21 Ⅲ-2. Rhone 氷河表面における融解促進要因 ... 22 Ⅲ-3. 氷河の融解水と氷河湖の水位及び河川流量の比較 ... 23 Ⅲ-4. 問題点と今後の展望 ... 24 Ⅳ. Conclusion ... 25 Ⅴ. Appendix ... 26 謝辞 ... 27 References ... 27
[3]
Ⅰ. Introduction
氷河とは,陸地に存在する降雪由来の氷塊で,自重によって流動する.氷河は,降雪によ って雪や氷が堆積した涵養域と,融解が卓越する消耗域との質量収支の釣り合いによって 成り立つ. しかしながら,近年氷河はほぼ世界中で縮小し続けている(IPCC 第 5 次評価報告書).ヨ ーロッパのスイスアルプスにおいても,多くの氷河の後退が報告されている(Huss et al, 2008b).Figure 1 にて,スイスアルプスにおける氷河の累積質量収支を示す.Figure 1 よ り,今回スイス氷河実習で観測を行った Rhone 氷河においても,氷河の質量損失が認めら れる. Rhone 氷河は,スイスアルプスに存在する氷河のひとつであり,ローヌ川やスイス・ヴァ レー州の東端にあるジュネーヴ湖の主要な水源である.Rhone 氷河の末端部には 2005 年よ り氷河湖が形成されており,年々拡大を続けている.氷河の質量損失に伴い流出する氷河融 解水の増加は,氷河湖を決壊させ,大規模な災害を発生させる恐れがある.実際にブータン では,氷河湖が決壊して洪水が発生し,建造物等に被害が出たという報告もある(Watanabe et al.,1996)そのため,氷河融解水の定量化は,氷河湖決壊を予測する点で重要である. 氷河融解に寄与するエネルギーは,短波・長波放射,顕熱,潜熱のフラックスの熱収支に よって決まる(紺屋ら,2004).また, 特に太陽からの放射熱が氷河の融解に関与するとさ れる(Huss et al.,2009). 北海道大学環境科学院では,2006 年より毎年スイス氷河実習として Rhone 氷河の現地観 測を行っている.過去には,各気象因子(気温,風速,風向等)の観測のほか,放射熱に影 響を与えるアルベド値の測定など(溝口ら,2016)気象因子や熱収支因子の解析が行われて いる.しかしながら,それらの因子を総合した熱収支そのものは未だ解明されていない. そこで本研究では,最初に Rhone 氷河上で観測した 3 日間の気象データと天気図から観 測日の気象条件について詳細を検討し,次に得られた気象データから熱収支変化を解析す る.さらに,熱収支により算出した氷河の融解水と,氷河湖の水位及び河川の流量を比較す ることで,熱収支の精度を検証する.これによって,氷河表面における氷の融解を促進させ る要因を議論するとともに,氷河の表面融解による消耗量を推定するがことが本研究の目 的である.[4]
[5]
Ⅱ. Method and results
Ⅱ-1. 研究対象地本研究では,スイスアルプス中央部に位置する Rhone 氷河(46°35′N,8°23′E)を対 象とする.Rhone 氷河は,ウルナー・アルプス山脈で最大の氷河である.小氷期以降急速に 後退しつつある約 8 km の長さの温暖谷氷河である(Huss et al., 2008).Rhone 氷河は約 2300~3500 m とスイスアルプスの中では比較的低い標高に位置する.氷河はフルカ峠に程 近く,アクセスが容易であったため,観光スポットとして有名であるばかりでなく,古くか ら氷河研究が盛んな地域である.
Rhone 氷河末端部左岸の岩盤上にて,気象ステーションを設置し気象データの観測,氷河 前縁の氷河湖の湖畔に水位計を設置した.熱収支を解析する上で不足する気象データは, meteoblue(https://www.meteoblue.com)から Grimsel Pass 地点のデータを取得した (Figure 3).
河川の流量は,スイス氷河実習河川観測グループの流量観測データを用いた(網野ら,2017).
Figure 3 (a) スイスにおける研究対象地. (b) 研究対象地と Weather Station 設置地点, 及び長期的に気象データが取得されている Grimsel Pass.上が北方向.(出典:Google Earth) Weather Station Grimsel Pass Rhone 氷河 (b) (a)
[6] Ⅱ-2. データと手法
Ⅱ-2-1.気象・水位データ
各観測機器とその設置場所を Table 1 に示す.Weather Station と定点カメラ, そして水 位計の写真は Figure 4, Figure 5 及び Figure 6 である.測定期間は,2017 年 9 月 1 日 11: 00~9 月 3 日 10:00,測定項目は,気象データ(風速・風向,降雨量,気圧,気温,湿度), 水温・水圧,画像(気象,湖面)である.また,測定間隔は水圧計のみ1分間,その他は5 分間とした. 水位計の観測方法を以下に説明する.計測範囲 4 m の水位ロガーを水中へ沈めた.その 際,ロープを付けた 1 m 程度の金属の棒の先端部分に水位ロガーをテープにて固定した.そ して固定した水位ロガーを目視で見えなくなるまで沈めた.最後にロープが流失しないよ うに石で固定した. その他,解析に使用したデータは,meteoblue(https://www.meteoblue.com)から Grimsel Pass 地点の気象データ(気温,風速・風向,降雨量,気圧,気温,湿度,短波放射量,雲被 覆率)10 分値,ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)から 500hPa , 850hPa 天気図を使用 した. Table 1 観測機器と設置場所 観測 地点 観測機器名 観測機器(メーカー) 観測機器の設置場所の座標 (スイス直交座標系) 標高 1 Weather Station WXT510 E672710 N159033 2304 m
2 定点カメラ1
(気象) Brinno gwctlc130A E672723 N159050 2308 m 3 定点カメラ2(湖) Brinno gwctlc130A E672721 N159050 2305 m
4 水位計データロガー HOBO U20
[7] Figure 4 Weather Station
Table 2 Weather Station の測定精度
Figure 5 定点カメラ
Figure 6 水位計(HOBO U20)
Accuracy
Wind speed
±0.3 m/s or ±3%(0…35m/s)
Wind direction
±3%
Liquid precipitation
rainfall 5% rain duration 10sec
Barometric pressure
±0.5hPa
Air temperature
±0.3℃
[8] Ⅱ-2-2.Rhone 氷河表面の熱収支
気象・水位データをもとに,Rhone 氷河の表面融解に寄与する熱量を求めるため,以下の 熱収支式を考えた.解析に使用する各データは,一時間当たりの平均値に換算して使用した. 各式のパラメータ Table 3,Table 4 及び Table 5 に示す.
𝑄
𝑀= 𝑄
∗− 𝑄
𝐸− 𝑄
𝐻+ 𝑄
𝑃…(1)
Table 3 (1)式の各パラメータ パラメータ 定義 単位Q
M 氷河の表面融解に寄与する熱量 W/m2Q*
正味放射量 W/m2Q
H 顕熱輸送量 W/m2Q
E 潜熱輸送量 W/m2Q
P 降雨による熱フラックス W/m2 それぞれの熱収支項は次のように求める. 正味放射量はステファン・ボルツマンの法則を用いて計算を行う.𝑄
∗= 𝐾
∗+ 𝐿
∗・・・(2)
𝐾
∗= (1 − 𝛼)𝐾
↓𝐿
∗= 𝜀(𝐿
↑− 𝐿
↓)
𝐿
↑= 𝜎𝑇
𝑖4𝐿
↓= 𝜎𝑇(1 −
𝐿𝑓↓ 𝜎𝑇4𝐶)
𝐿
𝑓↓= (0.74 + 0.19𝑥 + 0.07𝑥
2)𝜎𝑇
4𝑥 = ln𝜔
𝑡𝑜𝑝= 0.0315𝑇
𝑑𝑒𝑤− 0.1836
[9] 雲の効果を表す係数Cは,以下のように区分する. 曇天のとき:
𝐶 = 1 − (0.095 − 0.0006𝑒)𝑛
降雨のとき:𝐶 = 1 − (0.85 − 0.007𝑒)𝑛
𝑒 =
𝑅ℎ 100𝑒
𝑎 大気飽和水蒸気圧eaは,Tetens の近似式を使う.𝑒
𝑎= 6.1078 × 10
𝑏+𝑇𝑎𝑇…(ⅰ)
氷面上のとき a=9.5,b=265.3 である.[10] Table 4 (2)式,(ⅰ)式の各パラメータ パラメータ 定義 単位
K*
正味の短波放射量 W/m2L*
正味の長波放射量 W/m2α
アルべード (溝口ら, 2016 で示された最大値 0.34,最小値 0.14 の平均を取り,α= 0.24 と仮定)K
↓ 下向き短波放射(全天日射量) W/m2Ε
射出率(ε =0.97 と仮定)L
↑ 上向き長波放射 W/m2L
↓ 下向き長波放射 W/m2σ
ステファン・ボルツマン定数(5.67×10-8) W/(m2・K4)T
i 氷面温度(Ti = 0℃と仮定) ℃T
気温 ℃L
f↓ 快晴日の下向き長波放射 W/m2C
雲の効果を表す係数(快晴日C = 1)
T
dew 露点温度 ℃E
水蒸気圧 hPaN
平均雲量(n = 0~1)R
h 相対湿度 %e
a 大気飽和水蒸気圧 hPa[11] 顕熱・潜熱輸送量は,バルグ法を用いて計算を行う.
𝑄
𝐻= 𝜌𝑐
𝑝𝐶
𝐻𝑈(𝑇
𝑖− 𝑇) …(3)
𝑄
𝐸= 𝑙𝛾𝐶
𝐸𝑈(𝑞
𝑖− 𝑞
𝑎) …(4)
𝑙 = 2.5 × 10
6− 2400𝑇
𝑖𝑞
𝑎=
0.622 𝑒𝑎 𝑝 1−0.378𝑒𝑎𝑝…(ⅱ)
氷面比湿qiは,(ⅱ)式に氷面飽和水蒸気圧ei((ⅰ)式のTにTiを代入した値)を用いて導 出する.𝑄
𝑃= 𝜌
𝑤𝑐
𝑤(𝑇 + 273.15) × 𝑃 …(5)
Table 5 (3)~(5)式,(ⅱ)式の各パラメータ パラメータ 定義 単位ρ
空気の密度(1 気圧 20℃でρ= 1.2 kg/m3) kg/m3c
p 空気の定圧比熱(cp= 1005J/(kg・K)) J/(kg・K)C
H・C
E 顕熱,潜熱輸送のバルグ輸送係数 (C E= CH= 0.0015)U
風速 m/sL
水の気化の潜熱 J/kgγ
蒸発効率 水面・積雪面のときγ
=CE/CH≒1(CE=CH)q
i 氷面比湿 kg/kgq
a 大気比湿 kg/kgP
湿潤空気の気圧 hPaP
雨量 m/s[12] 最後に,熱収支により求められたRhone 氷河の表面融解に寄与する熱量QMをもとに, 氷河表面より流出した氷河融解水の質量Mwを算出する.Mw は「1m2当たりの 0℃の氷が,QM によって 100%融解されたときの 0℃の水の質量」と仮定する.
𝑀
𝑊= 𝑄
𝑀× 𝑡/𝑄
𝑚・・・(6)
Table 6 (6)式の各パラメータ パラメータ 定義 単位M
w QM によって融解された0℃の水の質量 kg/m2t
時間 sQ
m 氷の融解熱(= 335 kJ/kg) kJ/kg Ⅱ-2-3.氷河湖の水位 氷河湖の水位を計測するに当たり,1 台の水圧計を使って圧力と水温を測定した.水中で 得られた水圧データを水位に変換するために, 水深 100m 当たり 1MPa の水圧となる関係 を用いた.気圧の変化が水圧に与える影響を除去するために,気象ステーションで測定した 気圧の値を使用した.測定を開始した 9 月 1 日 10:30 の気圧の値を基準値として,各時間 の気圧の値から基準となる気圧の値を差分し,その値を対応する水圧の値から差分して補 正を行った.[13]
Ⅱ-3. 結果
Ⅱ-3-1. 各気象要素の観測結果 Figure 7 に観測によって得られた気象データを示す.各気象データについて分析した結 果,9 月 2 日 10 時頃から風速,風向,気温,湿度,気圧で大きな変化がみられた.これら の変化の詳細とその考察は,Ⅲ-1-1,Ⅲ-1-2 に譲る.雨は,9 月 1 日 15 時から 2 時間 で 0.7mm ほど降雨があったほか,2 日から未明にかけて微量の降雨があった. Ⅱ-3-2. 観測した気象データと Grimsel Pass の気象データの相関meteoblue から取得した,観測地点から近い Grimsel Pass の気象データを解析に用いる ため,Grimsel Pass データと Weather Station データとの相関を調べた.Figure 8 に 2017 年 9 月 1 日~3 日の Grimsel Pass と Weather Station の気温と風速の比較を示す.その他 の気象データ(風向,気圧,湿度,降雨)については,Ⅴ. Appendix を参照されたいが,こ れらのデータは地形の影響を大きく受けるためここでは議論しない.Figure 8 より Grimsel Pass と Weather Station のデータの相関係数を計算すると,気温は 0.90,風速は 0.86 で あり,2つの地点について有意な相関関係があるといえる.また,Figure 9 に Grimsel Pass と Weather Station の地形性の違いを調べるため,風配図を示した.観測地点では北風が, Grimsel Pass では北北西が卓越風向となっていることが言える.以上の結果から,Grimsel Pass の気象データが Rhone 氷河の気象条件と近似すると仮定して、以降の解析に使用した。
Ⅱ-3-3. Grimsel Pass の短波放射量,雲被覆率と定点カメラの画像
観測日の気象条件をより詳しく調べるため,Grimsel Pass の短波放射量,雲被覆率と, 定点カメラの画像を比較した.Figure 10 2017 年 9 月 1 日~3 日の Grimsel Pass data(短 波放射量,雲被覆率)に Grimsel Pass の 2017 年 9 月 1 日~3 日の短波放射量,雲被覆率, Figure 11 に定点カメラの画像を示す.
Figure 10 より 1 日は雲被覆率が 20%まで下がり日射量が多いことと,Figure 11(a)よ り晴れた様子が確認できることから,1 日は晴天であったと言える.2 日は雲被覆率が 100% であり日中の日射量も少なく,また Figure 11(b)(c)の様子から,曇りであったと言える. 3 日は日射量の増加とともに雲被覆率が 0%にまで低下し,また Figure 11(d)の様子からも 天気が回復したと言える. 以上の結果から,1 日は多少の降雨はあったものの晴れであったが,2 日 10 時頃から天 気が悪化し,3 日の 10 時頃から天気が回復したことがわかった.さらなる詳細は,Ⅲ-1-1を参照されたい.
[14]
Figure 7 2017 年 9 月 1 日~3 日の Weather Station data(風速,風向,気温,湿度,気 圧,降水量及び積算降水量)
[15]
Figure 8 2017 年 9 月 1 日~3 日の Grimsel Pass data と Weather Station data の比較 (気温,風速)
Figure 9 Weather Station (観測地点)と Grimsel Pass の風配図.ただし期間は図の通り
[16] Figure 11 定点カメラ 1 で撮影された画像
(a) 2017 年 9 月 1 日 13:52 (b) 2017 年 9 月 2 日 8:57
[17] Ⅱ-3-3. Rhone 氷河表面における熱収支 Figure 12 に 9 月 1 日から 3 日までの各熱収支因子の変動と,熱収支式より算出した氷 河表面の融解に寄与する熱量を示す. Figure 12 Rhone 氷河の各熱収支因子の積み上げ面グラフと氷河表面の融解に寄与する熱 量 Figure 12 より,氷河表面の融解に寄与する熱量は日変化しており,昼間は熱フラックス が大きいのに対し夜間は小さい. また,測定期間の 3 日間で熱フラックスの日変化に違いがみられた.熱フラックスの内訳 をみると,9 月 1 日午後は正味放射量の割合が大半を占めているのに対し,2 日の潜熱フラ ックスの割合は 1 日と比較すると終日通して増加していた. さらに,氷河表面の融解に寄与する熱量QMは,晴天であった 9 月 1 日 15 時に最大 510 W/m2と非常に大きかったのに対し,荒天であった 9 月 2 日午前から翌日 3 日の 6 時にかけ てのQMは,9 月 1 日の値と比較すると変化が小さかった. -300 -200 -100 0 100 200 300 400 500 600 9/1 11:00 9/1 21:00 9/2 7:00 9/2 17:00 9/3 3:00 正味放射量 潜熱フラックス 顕熱フラックス 降水量フラックス 融解に寄与する熱量
H
eat
flux
[W
/m
2]
[18] 次に,Figure 13 において氷河の表面融解に寄与する熱量QM より推定される氷河の融解 水の質量を示す. Figure 13 QMより推定される氷河の融解水の質量Mw Figure 13 より, QMより推定される氷河の融解水の質量Mwには日変化がみられ,昼間は 正の値を示し,夜間は負の値を示している.この結果により,氷河の融解水は昼間に融解し, 夜間は凍結していることがわかる. また, Mwは解析を行った 2 日間で違いがみられた.晴天であった 9 月 1 日は,15 時に最 大値Mw = 5.5 kg/m2・h と高い値を示したのに対し,荒天であった 9 月 2 日は 15 時に最大 値を示したもののMw = 2.5 kg/m2・h と値は小さかった. さらに,Figure 14 において 1 日当たりのMw の総量の比較を行った. Figure 14 Figure 13 で示された氷河の融解水の質量Mwの総量の比較 Figure 14 は,Figure 13 のMw を正負の値毎の総量を示しており,正の合計値(橙色の グラフ)は 1 日当たりの氷河の総融解量を,負の合計値(青色のグラフ)は総凍結量を示し ている.Figure 14 の結果より氷河の総融解量の値を比較すると,9 月 1 日は 27.6 kg/m2 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 9/1 11:00 9/1 21:00 9/2 7:00 9/2 17:00 9/3 3:00
Mas
s
of
w
ate
r
[kg/
m
2・h
]
-20 -10 0 10 20 30 1日11:00~19:00 1日20:00~2日9:00 2日10:00~18:00 2日19:00~3日8:00M
ass
of w
ater
[k
g/m
2]
[19] と非常に高いのに対し,9 月 2 日は 11.1 kg/m2 と前者の値の半分以下である.また,氷河 の総凍結量の値を比較すると,9 月 1 日から 2 日にかけては 10.5 kg/m2 であるのに対し, 9 月 2 日から 3 日にかけては 13.3 kg/m2 であり,後者の値が少し高い. 以上の結果より,氷河の総融解量から総凍結量の差分をとり,1 日当たりの氷河の涵養量 もしくは消耗量を算出すると,9 月 1 日から 2 日にかけては 17.1 kg/m2 の氷が消耗された のに対し,2 日から 3 日にかけては 2.2 kg/m2 涵養した. Ⅱ-3-4. 氷河湖の水位 Figure 15 に氷河湖の水深と水温を示す.水温は,湖に測器を投入し数値が安定した 9 月 1 日 10:55 のデータから使用している.また,測器を設置した 3 日間に水位が大きく低下 したため,9 月 2 日の午前中と翌 3 日の午前中に水位計が湖面から露出しているのが発見さ れた.そのため,水温が異常に高い値を示した 9 月 2 日 5:25 から水位計を再投入し水温が 安定した 14:30 までのデータと,再び水温が異常に高い値を示し始めた 9 月 3 日 5:30 以 降のデータはグラフから除去している. Figure 15 氷河湖の水深と水温 Figure 15 より,水位観測を行った 3 日間のうち,9 月 1 日の測定開始から 14 時まで水 位は 8 cm 上昇した後,翌 2 日の 1 時まで 30 cm 低下し,その後安定した.しかし,測器を 湖に再投入した 2 日 13 時以降水位は緩やかに低下した. 水温は,測定を開始した 9 月 1 日の日中は約 1 ℃程度の振幅があり,その後安定した. その後 2 日から 3 日にかけて水温は概ね緩やかに低下した. 7.3 7.4 7.5 7.6 7.7 7.8 7.9 8 8.1 8.2 0 1 2 3 4 5 6 9/1 10:30 9/1 20:30 9/2 6:30 9/2 16:30 9/3 2:30 水温 水深 Wate r lev el [m] W ater tem pe ratu re [℃ ]
[20]
Ⅲ. Discussion
Ⅲ-1-1. 観測日の気象条件① Ⅱ-3-1の結果より,9 月 2 日 10 時からの各気象要素の大きな変化についてその詳細を検 討する. 9 月 1 日 12 時から 2 日 9 時までは弱風であったが,2 日 10 時から 3 日 9 時まで約 10 m/s の強風が吹いた.風向は,1 日 12 時から 2 日 10 時までは南や北とまばらであったのに対 し,2 日 10 時から 3 日 9 時までは恒常的に北風が吹いた.これは,1 日から 2 日 10 時まで は風速が小さく風向がまばらになりやすい気象条件であったものが,2 日 10 時以降は大規 模擾乱による一般風が吹き,風が一様に北向きになったと考えられる.また, 観測開始直 後の 1 日 13 時頃に気温約 7℃と高い状態であったが,夜になるにつれて気温は徐々に低下 していった.これについても一般風の影響が考えられ,2 日から 3 日は一般風が吹き込むこ とによって気温上昇が妨げられ,恒常的に 2℃以下であったと考える.湿度や気圧について も同様で,2 日 10 時以降 80~90%から 60~70%と低下し, 気圧は 2 日 0 時までは 771hPa であったが徐々に低下し始め,一般風が吹き込み始める 2 日 10 時になると 767~769hPa に なった.これらの低下も一般風の影響であると考えられる.[21] Ⅲ-1-2. 観測日の気象条件②
Ⅲ-1-1では観測された気象データで気象状況を分析したが,それを裏付けるために天気 図を用いて考察する.Figure 16 に 850hPa,Figure 17 に 500hPa の天気図を示した.観測 当時,スイスではサマータイム導入中のため UTC+2 の時刻であった. 1 日では多少の降水があった.この降水の原因は,スイス南方にある低気圧が要因であると 考えられる(Figure 16a).この低気圧は 2 日にかけて発達しながらスイス南方を西から東 に通過した.2 日午後からの悪天は,上空の気圧の谷が 2 日に通過し,寒気が北からスイス に流入したことが要因であるといえる(Figure 17). Figure 16 850hPa 天気図.カラーは風速の強さ,コンターは等圧線を示す. Figure 17 500hPa 天気図.カラーは気温,コンターは等圧線を示す. (a) 2017 年 8 月 31 日 12UTC, (b) 2017 年 9 月 2 日 12UTC
[22] Ⅲ-2. Rhone 氷河表面における熱収支分析 Figure 12 によると,Rhone 氷河表面における熱フラックスは,昼間は氷の融解に寄与し, 夜間は水の凍結に寄与する方向に働いた.また,氷河表面の融解に寄与する熱量 QMの熱収 支因子の内訳をみると,正味放射量が最も寄与していた.さらに, 氷河の融解水の質量Mw を解析した結果, Mwは 15 時に最大値となり,晴天であった 9 月 1 日から 2 日にかけての Mw 総量は,昼間の総融解量が夜間の凍結量を上回り,氷河表面が消耗する条件であったこ とが示唆された.以上のことから,氷河表面において氷の融解に最も寄与するものは正味放 射熱である.また,本観測期間中において氷の融解量が最大となる気象条件は晴天時である. データの解析を行った 3 日間のうち,Rhone 氷河表面は融解によって 9 月 1 日から 2 日にか けて 17.1 kg/m2 消耗し,2 日から 3 日にかけて 2.2 kg/m2 の涵養が推定された.
[23]
Ⅲ-3. 氷河の融解水と氷河湖の水位及び河川流量の比較
Figure 18 にて,Rhone 氷河表面の融解水と氷河湖の水位,及び河川流量の比較を行う. なお,氷河湖の水位は 1 時間当たりの平均値に換算している.
Figure 18 (a) Rhone 氷河表面の融解水の質量Mw と氷河湖の水位,及び(b) Rhone 川の流
量 Figure 15 より, 熱収支式より算出した Rhone 氷河表面の融解水の質量Mw が増加する とき,氷河湖の水位も増加した.また,氷河湖の水位と Rhone 川の流量を比較すると,9 月 1 日午後に水位が上昇するとき,Rhone 川の流量も増加した.このことより,熱収支式より 算出した Mw が,実際に氷河から氷河湖に流入し河川へと流出した水量を再現している可 能性が示唆される. しかしながら,9 月 2 日午後については, Mw と氷河湖の水位は同時に上昇,低下してい るものの,水位が上昇しているとき Rhone 川の流量は増加していない.これは,氷河から 流出した融解水が氷河湖によって貯留され,河川の流量に反映されなかったと考えられる. 7.4 7.6 7.8 8 8.2 -4 -2 0 2 4 6 融解水の質量 氷河湖の水位 Ma ss of W at er [kg /m 2] Wate r lev el [m] (a) (b)
[24] Ⅲ-4. 問題点と今後の展望 本研究では,Rhone 氷河上で観測した 3 日間の気象データに基づく熱収支変化から氷河表 面の融解水の質量Mw を算出し,氷河湖の水位や Rhone 川の流量との比較を行った.その 結果は,熱収支により算出したMw の再現性が示唆されるものであった.しかしながら,本 研究の成果には問題点が複数存在する.その点を以下にいくつか列挙する. まず熱収支式についてであるが,氷河表面のアルベドについて地域特異性を考慮してい ない点が問題である.本研究では,氷河表面上のアルベドは溝口ら(2016) の測定したアル ベドの最大値と最小値の平均を取りその値を使用した.しかしながら,溝口らによるとアル ベドは測定場所によって異なる研究結果が示されており, 今後アルベドの地域的特異性を 考慮していくことが必要である.また,本研究の熱収支式には氷河表面から内部にかけての 熱伝導性について考慮されていない点も問題であり,これによって Mw を実際の値よりも 多く見積もっている可能性が高い.さらに,本研究での観測期間中,9 月 2 日から 3 日にか けて降雪が確認されたものの,雪による影響を考慮しなかった.今後データを蓄積させてい く上で,雪による涵養や熱フラックスを熱収支に含めて考慮していく必要がある.以上の問 題点を考慮すれば,より再現性の高い氷河の表面融解による消耗量を推定することが可能 であると考える. また本研究で実施した, 氷河表面の融解水の質量Mw と氷河湖の水位・Rhone 川の流量 との比較は,氷河内部や氷河湖での融解水の滞留について考慮出来ていない点が問題であ る.この点については,今後長期的データに基づく氷河湖の水位変化や Rhone 川の流量変 化,そして降水量等による質量収支より実測値を求め,熱収支による結果と検証を行うこと が必要である.
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Ⅳ. Conclusion
本研究では,スイス氷河実習においてアルプスの Rhone 氷河で 3 日間の気象・水位の現 地観測を行い,熱収支によって氷河表面の融解水量を算出し,氷河湖の水位や Rhone 川の流 量との比較・検証を行った.その結果,氷河表面において氷の融解に最も寄与するものは正 味放射熱であることや,氷の融解量が最大となる気象条件は晴天時であることがわかった. また,データの解析を行った 3 日間のうち,Rhone 氷河表面は融解によって 9 月 1 日から 2 日にかけて 17.1 kg/m2消耗し,2 日から 3 日にかけて 2.2 kg/m2 涵養したことが推定され た.さらに,熱収支により算出した氷河の融解水量は,氷河の水位や Rhone 川の流量と対応 し,再現性の高い氷河の表面融解の消耗量の推定が可能であることが示唆された. 今後は,本研究で使用した熱収支式の精度向上や,熱収支による氷河の融解水量の推定値 と長期データに基づく質量収支による実測値との比較・検証が必要である.[26]
Ⅴ. Appendix
Grimsel Pass と Weather Station のデータ比較
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謝辞
本研究に当たり,2017 年度スイス氷河実習においてご指導くださった杉山慎先生,白岩 孝行先生,渡邊豊先生をはじめ, 南極学カリキュラムでお世話になりました遠藤知子様, 現地調査でご協力いただいた学生の皆様,スイス連邦工科大学の皆様,ならびに本研究を進 めるに当たってお世話になりました全ての方々へ,この場を借りて厚く御礼申し上げます.References
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https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%8C%E6%B0%B7%E6%B2%B(2017 年 9 月 24 日閲覧)