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自転車走行空間の整備を伴わない自転車駐車場整備の外部性と、自転車走行空間を 整備する有効性に関する研究
政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU14615 長棟 一秀
1 はじめに
自転車は近年、特に東日本大震災以降、年 齢や性別を問わず、都市内を自由かつ気軽に 移動できる交通手段として、また、健康志向 の高まり、環境負荷の少ない乗り物として地 球温暖化対策の観点から注目されるなど、そ の利用ニーズは一層高まっている。都市内の 主要な移動手段の一つである自転車の利用増 大が今後も見込まれるなか、現在、区市町村 が中心となり行っている都内の自転車施策は、
自転車駐車場の整備といった放置自転車対策 を中心に実施されているが、自転車の走行空 間の整備を伴わない対策は、交通事故の増加 等の外部不経済をもたらしている可能性があ る。本研究は、自転車駐車場及び自転車走行 空間の整備の有無が、交通事故の発生に与え る影響について実証分析を行い、道路交通の 観点から政策を提言するものである。
2 これまでの自転車施策 2.1 自転車駐車場の整備状況
「駅前放置自転車の現況と対策 平成25年 度 東京都治安対策本部」によると、都内の放 置自転車台数について、ピークであった平成2 年度から、平成25 年度までの間に、24.3万台 から2.8万台へと、21.5万台(約90%)減少し ている。また、平成25年度において、駅周辺へ の乗り入れ台数は65.5 万台に対し自転車駐車 可能台数は90.0万台と、総数だけに着目すると、
都内全体では自転車駐車場は充足している状 態となっている。しかし、自転車駐車場の整備 状況については地域差が大きく、都心部を中心 にまだ全体として自転車駐車可能台数が需要
に追いつかない区が、千代田区等6区あるなど、
周辺に自転車駐車可能台数が不足している駅 はまだ多数存在する状況となっている。
2.2 自転車走行空間の整備状況
国は、自転車通行環境整備モデル地区を指定 し、自転車道(国道14号江東区亀戸地区)や、
自転車レーン(国道17号文京区西片白山地区)
等の自転車走行空間の整備を実施している。東 京都は、自転車交通量が多く安全性を向上させ る必要がある区間や、観光スポット及び集客施 設を結ぶ区間等で、優先的に自転車レーン(旧 玉川水道道路、平和橋通り)や自転車歩行者道 の構造的分離(東八道路)、視覚的分離(浅草 通り)等の自転車走行空間の整備を進めてきた。
また、区市町村においても、自転車利用者が多 い地域において、通勤・通学時に駅まで安全に 走行できるルートや、走行空間の整備に向けた 取組が進められている。これら各道路管理者の 取組の結果、都内における自転車の走行空間が 明確化された道路の整備は進みつつあるもの の、整備済み区間は短く(67.6km 河川敷等を 除く 平成23年度末時点)、整備済み区間同士 の接続やネットワーク化については実現して いないため、自転車利用者が連続して走ること ができる走行空間は極めて少ない状況にある。
3 実証分析の方針 3.1 実証分析の方針
第一に、自転車駐車場の整備と自転車交通量 との関係を分析し、自転車駐車場の整備が自転 車交通量に与える影響について明らかにする。
第二に、自転車交通量と交通事故との関係を 分析し、自転車交通量の増加が交通事故発生件
- 2 - 数に与える影響について明らかにする。
第三に、自転車駐車場及び自転車走行空間の 整備と交通事故との関係を分析し、自転車駐車 場及び自転車走行空間の整備の有無による、交 通事故発生件数への影響を明らかにする。
実証分析にあたっては、OLS推計を採用する。
3.2 「自転車走行空間」の定義
本研究における「自転車走行空間」とは、「東 京都自転車走行空間整備推進計画(平成24年10 月)」の「自転車道」、「自転車レーン」、「自 転車歩行者道の構造的分離・視覚的分離」の4 つの類型と定義する。
3.3 分析対象
本研究の分析対象は、都内(自動車専用道路 及び島嶼部を除く)とする。
4 自転車駐車場の整備に伴う自転車交通量 への影響(雨天を除く)
4.1 推計式
推計式は以下のとおり。
4.2 推計結果及び考察
推計結果は以下のとおり。自転車駐車場の整備により、自転車交通量は 統計的に有意に、約200台/12時間増加する。
したがって、自転車駐車場の整備は、自転車交 通量を有意に増加させることを実証した。
5 自転車交通量の増加に伴う交通事故発生 件数への影響
5.1 推計式
推計式は以下のとおり。
5.2 推計結果及び考察
推計結果は以下のとおり。自転車交通量が1台増加することにより、交 通事故発生件数は統計的に有意に、約0.0015 件/km2増加する。したがって、自転車交通量 の増加は、交通事故を有意に増加させることを 実証した。
6 自転車駐車場及び自転車走行空間の整備 の有無が、交通事故発生件数に与える影響 6.1 推計式
自転車駐車場及び自転車走行空間単体の、交 通事故発生件数への影響についての推計式は
表-1 被説明変数 自転車交通量(台/12 時間)
説明変数 自転車駐車場の整備状況ダミー(なし:0、あり:1)
区市町村の駅前の自転車収容能力(台)
自転車走行空間の整備状況ダミー(なし:0、あり:1)
自転車の代表交通手段分担率(%)
(自転車の発生集中量/全交通手段の発生集中量×100)
全交通手段の発生集中量(TE/日)の対数値
2 歩道(自歩道を含む)の幅員の状況ダミー
(2m 未満:0、2m 以上:1)
5 年前の自転車交通量(台/12 時間)
表-3
被説明変数 自転車交通事故発生件数(件/k ㎡)
説明変数 自転車交通量(台/12 時間)
歩行者交通量(人/12 時間)
自動車交通量(台/12 時間)
二輪車交通量(台/12 時間)
自転車の代表交通手段分担率(%)
(自転車の発生集中量/全交通手段の発生集中量×100)
全交通手段の発生集中量(TE/日)の対数値
2 中央分離帯の構造物による分離の有無(なし:0、あり:1)
2 歩道(自歩道を含む)の幅員の状況ダミー
(2m 未満:0、2m 以上:1)
表-4
被説明変数 自転車交通事故発生件数(件/k ㎡)
説明変数 係数 不均一分散頑健標準誤差
自転車交通量(台/12 時間) .0015032 *** .0003709 歩行者交通量(人/12 時間) .0002667 *** .0000946 自動車交通量(台/12 時間) .0000651 .0000498 二輪車交通量(台/12 時間) .0011858 ** .0005125 自転車の代表交通手段分担率(%) .0738017 * .0413705 全交通手段の発生集中量(TE/日)の対数値 .2746454 .3176841 中央分離帯の構造物による分離の有無 -1.588503 ** .7335488 歩道(自歩道を含む)の幅員の状況ダミー .803837 .5855731
定数項 -2.137733 3.442668
観測数 422
決定係数 0.3350
(注)***,**,*は、それぞれ 1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す。
表-2
被説明変数 自転車交通量(台/12 時間)
説明変数 係数 不均一分散頑健標準誤差
自転車駐車場の整備状況ダミー 200.7897 ** 98.7698 区市町村の駅前の自転車収容能力(台) .0024095 .003716 自転車走行空間の整備状況ダミー 239.114 202.8341 自転車の代表交通手段分担率(%) 18.96912 *** 7.149954 全交通手段の発生集中量(TE/日)の対数値 72.22892 68.39214 歩道(自歩道を含む)の幅員の状況ダミー 350.2434 *** 92.3884 5 年前の自転車交通量(台/12 時間) .6136326 *** .071967
定数項 -1007.351 790.8988
観測数 320
決定係数 0.5025
(注)***,**,*は、それぞれ 1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す。
- 3 - 以下のとおり。
𝛾 𝛾1
𝜸𝟐 𝛾 𝜸𝟒 𝒗 𝒍 𝒔 𝛾 𝛾
𝛾 𝛾 𝛾9
𝛾1 𝛾11
次に、道路の幅員構成において、自転車走行 空間を設置する位置の違いによる交通事故発 生件数への影響の推計式は以下のとおり。
1
𝟐 𝟒 𝒍
9 1
11 1
自転車走行空間の整備を伴う自転車駐車場
の整備が、交通事故発生件数に与える影響につ いての推計式は以下のとおり。
1
𝟐 𝟒 𝒔𝒔
9 1 11
6.2 推計結果及び考察
推計結果は以下のとおり。表-5
被説明変数 自転車交通事故発生件数(件/k ㎡)
説明変数 自転車交通量(台/12 時間)
自転車駐車場の整備状況ダミー(なし:0、あり:1)
区市町村の駅前の自転車収容能力(台)
𝒗 𝒍 𝒔 自転車走行空間の整備状況ダミー(なし:0、あり:1)
歩行者交通量(人/12 時間)
自動車交通量(台/12 時間)
二輪車交通量(台/12 時間)
自転車の代表交通手段分担率(%)
(自転車の発生集中量/全交通手段の発生集中量×100)
自転車の発生集中量(TE/日)の対数値
2 中央分離帯の構造物による分離の有無(なし:0、あり:1)
2 歩道(自歩道を含む)の幅員の状況ダミー
(2m 未満:0、2m 以上:1)
表-7
被説明変数 自転車交通事故発生件数(件/k ㎡)
説明変数 自転車交通量(台/12 時間)
自転車駐車場の整備状況ダミー(なし:0、あり:1)
区市町村の駅前の自転車収容能力(台)
𝒔𝒔 自転車走行空間の整備を伴う自転車駐車場整備状況ダミー
× 𝒗 𝒍 𝒔 (なし:0、あり:1)
歩行者交通量(人/12 時間)
自動車交通量(台/12 時間)
二輪車交通量(台/12 時間)
自転車の代表交通手段分担率(%)
(自転車の発生集中量/全交通手段の発生集中量×100)
自転車の発生集中量(TE/日)の対数値
2 中央分離帯の構造物による分離の有無(なし:0、あり:1)
2 歩道(自歩道を含む)の幅員の状況ダミー
(2m 未満:0、2m 以上:1)
表-6
被説明変数 自転車交通事故発生件数(件/k ㎡)
説明変数 自転車交通量(台/12 時間)
自転車駐車場の整備状況ダミー(なし:0、あり:1)
区市町村の駅前の自転車収容能力(台)
𝒍 自転車走行空間の車道設置ダミー(なし:0、あり:1)
自転車走行空間の歩道設置ダミー(なし:0、あり:1)
歩行者交通量(人/12 時間)
自動車交通量(台/12 時間)
二輪車交通量(台/12 時間)
自転車の代表交通手段分担率(%)
(自転車の発生集中量/全交通手段の発生集中量×100)
自転車の発生集中量(TE/日)の対数値
2 中央分離帯の構造物による分離の有無(なし:0、あり:1)
2 歩道(自歩道を含む)の幅員の状況ダミー
(2m 未満:0、2m 以上:1)
表-8
被説明変数 自転車交通事故発生件数(件/k ㎡)
説明変数 係数 不均一分散頑健標準誤差
自転車交通量(台/12 時間) .0014121 *** .0003581 自転車駐車場の整備状況ダミー 2.100987 *** .5728093 区市町村の駅前の自転車収容能力(台) 5.39e-07 .0000207 自転車走行空間の整備状況ダミー -3.561513 *** 1.281935 歩行者交通量(人/12 時間) .000257 *** .0000954 自動車交通量(台/12 時間) .0000647 .0000491 二輪車交通量(台/12 時間) .0009618 * .0005272 自転車の代表交通手段分担率(%) .0587619 .0533544 自転車の発生集中量(TE/日)の対数値 .1857983 .2514392 中央分離帯の構造物による分離の有無 -1.376957 * .7158718 歩道(自歩道を含む)の幅員の状況ダミー .7741278 .5858314
定数項 -.9732337 1.746935
観測数 422
決定係数 0.3697
(注)***,**,*は、それぞれ 1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す。
表-9
被説明変数 自転車交通事故発生件数(件/k ㎡)
説明変数 係数 不均一分散頑健標準誤差
自転車交通量(台/12 時間) .0014337 *** .0003596 自転車駐車場の整備状況ダミー 2.090144 *** .573521 区市町村の駅前の自転車収容能力(台) -3.33e-07 .0000208 自転車走行空間の車道設置ダミー -6.192842 * 3.299452 自転車走行空間の歩道設置ダミー -3.301974 ** 1.344523 歩行者交通量(人/12 時間) .0002539 *** .0000954 自動車交通量(台/12 時間) .0000649 .0000491 二輪車交通量(台/12 時間) .0009377 * .0005276 自転車の代表交通手段分担率(%) .0609696 .0532718 自転車の発生集中量(TE/日)の対数値 .1767688 .2509808 中央分離帯の構造物による分離の有無 -1.346752 * .7166322 歩道(自歩道を含む)の幅員の状況ダミー .7798648 .5863415
定数項 -.902756 1.743675
観測数 422
決定係数 0.3706
(注)***,**,*は、それぞれ 1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す。
- 4 - 自転車駐車場の整備により、交通事故発生件 数は約2.1件/km2増加、自転車走行空間の整備 により、約3.6件/km2減少し、統計的に有意な 数値となった。したがって、自転車駐車場の整 備は交通事故を有意に増加させ、自転車走行空 間の整備は交通事故を有意に減少させること を実証した。
次に、自転車走行空間を車道に設置する場合 と歩道に設置する場合とを比較すると、交通事 故発生件数はそれぞれ約6.2件/km2、約3.3件
/km2減少し、統計的に有意な数値となった。
したがって、交通事故削減効果の観点では、車 道への設置がより効率的であることがわかる。
自転車走行空間の整備を伴う自転車駐車場 の整備により、交通事故発生件数は統計的に有 意に、約1.8件/km2減少する。したがって、自 転車走行空間の整備は、外部不経済の内部化に 寄与しているといえる。
7 政策提言
自転車駐車場の整備により、自転車交通量は 有意に増加する。
また、自転車駐車場の整備により、交通事故 は有意に増加し、自転車走行空間の整備により、
交通事故は有意に減少する。
さらに、自転車走行空間の整備を伴う自転車 駐車場の整備は、交通事故を有意に減少させ、
外部不経済の内部化に寄与する。
したがって、本研究により、自転車交通事故 の観点から、自転車駐車場への主要な経路とな
る路線について、既に自転車走行空間の整備が 完了している、もしくは、自転車走行空間の整 備が完了していない場合、計画する自転車駐車 場の整備と併せた自転車走行空間の整備を実 施することが望ましいということが示された。
よって、自転車駐車場の整備に際しては、交 通事故の低減に向け、道路交通の円滑化を図る ため、自転車駐車場への主要な経路となる路線 について、事前に、これまで自転車駐車場の整 備の要否を判断するための要件から欠落して いた、自転車走行空間の整備の必要性に関する 検討を実施すべきであることを提言する。
8 補足
自転車は車道を走行することが本則のもと、
車道に自転車走行空間を設置する場合、次に、
歩道に設置する場合について、幅員的な余裕や 会計上の費用(工事費等)の他に、事前評価す べき検討の視点を下記に補足提案する。
視点(自転車走行空間を車道に設ける場合)
当該区間を含め、周辺道路の自動車交通に過 度な負荷は生じないか(日混雑度について、1 もしくは1.25未満か、または設置前後で大きな 変化は生じないか、走行時間費用について、設 置前後で大きな変化は生じないか)。
視点(自転車走行空間を歩道に設ける場合)
当該区間を含め、周辺道路の歩行者交通に過 度な負荷は生じないか(サービス水準Aを担保 できるか、もしくは設置前後でサービス水準の 向上が見込まれるか)。
その上で、整備効果が高く、自動車交通や歩 行者交通への影響等に問題がないことを確認 した路線について、自転車走行空間の整備を推 進していくべきである。
なお、自動車交通や歩行者交通への影響等に おいて、問題がないことの確認がなされていな い路線への自転車走行空間を整備するか否か の判断に関しては、本研究で提案できなかった、
交通事故削減効果の貨幣換算化が必要となる。
表-10
被説明変数 自転車交通事故発生件数(件/k ㎡)
説明変数 係数 不均一分散頑健標準誤差
自転車交通量(台/12 時間) .001411 *** .0003577 自転車駐車場の整備状況ダミー 2.215265 *** .5739876 区市町村の駅前の自転車収容能力(台) -2.71e-07 .0000206 自 転車走 行空間 の整備 を伴う 自転 車駐車 場整備 状況ダ ミ ー -4.03954 *** 1.501762 歩行者交通量(人/12 時間) .0002607 *** .0000969 自動車交通量(台/12 時間) .0000625 .0000491 二輪車交通量(台/12 時間) .0009684 * .0005272 自転車の代表交通手段分担率(%) .0562311 .0533259 自転車の発生集中量(TE/日)の対数値 .1920371 .2518559 中央分離帯の構造物による分離の有無 -1.377605 * .7147563 歩道(自歩道を含む)の幅員の状況ダミー .7380442 .5868899
定数項 -1.006724 1.751325
観測数 422
決定係数 0.3704
(注)***,**,*は、それぞれ 1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す。