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Journal of Health Psychology Research, 29(1) (2016)

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(1)

2016, Vol. 29, No. 1, 13

23

DOI: 10.11560/jhpr.141216036

中学生のネガティブおよびポジティブな出来事の経験がストレス

反応,学校ぎらい感情,学校での自己効力感に及ぼす影響

1

東京家政大学人文学部 NPO法人

STEP

子ども発達相談室

三浦 正江

大角 真由子

Effects of experiencing positive and negative events on stress responses, school refusal,

and self-efficacy of junior high school students

Masae Miura

a)

and Mayuko Ohsumi

b) (a)

Faculty of Humanities, Tokyo Kasei University,

b)

NPO counseling room for child development, STEP

Effects of positive and/or negative events experienced in junior high school on mental health and school

malad-aptation of students were investigated. Junior high school students

N

218

from first to third grade completed

scales assessing school stressors, daily uplifts in school, stress responses, unwillingness to attend school, and

self-efficacy for school life. Results of multiple regression analyses indicated that school stressors increased stress

responses and unwillingness to attend school, or decreased self-efficacy for school life, whereas school uplifts

de-creased stress responses and unwillingness to attend school, or inde-creased self-efficacy. Results of cluster analysis

suggested that event patterns experienced by students could be classified into three types:

1

Average stressors

and low uplifts;

2

high stressors and average uplifts; and

3

low stressors and high uplifts. Moreover, an

analy-sis of variance indicated that students in the third cluster, compared to students in first two clusters had higher

self-efficacy for school life, lower stress responses, and less unwillingness to attend school.

Key words: junior high school students, stressor, daily uplifts, school maladaptation

問題と目的

これまで児童生徒のストレスや不適応に関する研究 として,ストレッサーを取り上げた研究が行われてき た(

Coddington, 1972; Phillips, 1978; Swearingen &

Cohen, 1985

)。特にわが国では,不登校等の学校不 適応を規定する要因といった観点から,学校生活で経 験するストレッサー(学校ストレッサー)に焦点を当 てた検討が数多く行われている(三浦,

2002

;三浦・ 坂野,

1996

;岡田,

2002

)。その結果,中学生の学校 ストレッサーには「学業」「友人関係」「教師との関係」 「部活動」に関する出来事があること,これらの経験 頻度が高いほど種々のストレス反応を表出しやすく, 不登校傾向が高まることが報告されている(岡安・嶋 田・丹羽・森・矢冨,

1992a

;嶋田,

1998

)。 しかし一方で,ストレッサー等のネガティブな出来 事だけでなく,中学生は学校生活の中で,喜び,楽し み,あるいは満足感等を感じるポジティブな出来事も 経験していると考えられる。そして,個人の心身の健 康を考える際には,ネガティブな出来事だけでなくポ ジティブな出来事についても考慮する必要があると いった指摘もある(

Fredrickson, 2001

)。このような 考えを背景として,近年,児童生徒のポジティブな出 来事の経験を測定する尺度の作成やポジティブな出来 事の経験がストレス反応や学校不適応に及ぼす影響に ついて検討されつつある。 たとえば,ポジティブな出来事として,

Barrett &

Heubeck

2000

)は「仲間」「学業」「教師」「家庭」,

Santa Lucia et al.

2000

)は「両親」「仲間」「学校」 「きょうだい」,吉武(

2010

)は「異性」「余暇」「友人」 「物質的充足」「趣味」「学校行事」「スポーツ」「課外活 動」「家族」「勉強」「休養」に関する出来事をあげてい る。また,これらが学校生活だけでなく家庭や地域を 含めた生活全般における出来事を扱っているのに対し て,三浦(

2013a

)は中学生の学校生活に焦点を絞っ た測定尺度の開発を行っている。その結果,「部活動」 「友人からの援助的かかわり」「友人との余暇的かかわ

(2)

り」「学業・授業」「教師とのかかわり」および「恋愛」 の

6

下位尺度を報告している。

一方,ポジティブな出来事の影響については,

Kanner

& Feldman

1991

, Swearingen & Cohen

1985

,

Kanner, Feldman, Weinberger, & Ford

1987

)等が小 中学生を対象とした検討を行い,ポジティブな出来事 と抑うつや学校不適応の間に有意な負の関係があるこ とを示している。 わが国の中学生を対象とした研究でも類似の結果が 得られており,友人関係に関するポジティブな出来事 の経験は友人関係充実感を高め,抑うつを軽減するこ と(黒田・桜井,

2003

),ポジティブな出来事と生活満 足感との間には正の相関関係があること(吉武,

2010

) が報告されている。さらに,三浦(

2013b

)は日常の 学校生活におけるポジティブな出来事から不登校感情 に至るモデルを検討し,ポジティブな出来事は直接的 に不登校感情を軽減すると同時に,ストレス反応を媒 介して間接的にも不登校感情を軽減することを示唆し ている。 このように,従来の研究の多くはネガティブな出来 事,あるいはポジティブな出来事のいずれかを取り 上げ,出来事がストレス反応や学校不適応に及ぼす影 響を検討している。しかしながら,

Haeffel & Vargas

2011

)は,個人はネガティブな出来事とポジティブ な出来事の両方を経験しているため,いずれかのみで はなく両方の出来事を同時に把握する必要性を指摘し ている。たとえば,ネガティブな出来事の経験が多い 場合であっても,同時にポジティブな出来事の経験も 多い場合にはネガティブな影響が緩和される可能性が 考えられる。一方,ネガティブな出来事の経験が多く, かつポジティブな出来事の経験がほとんどない場合に は,ストレス反応の表出が高くなることが予測されよ う。

Haeffel & Vargas

2011

)はこのような考えに基づき, 大学生を対象として,ネガティブな出来事,ポジティ ブな出来事,および認知スタイルの相互作用に関する 検討を行っている。また,外山・桜井(

1999

)は大学 生のネガティブ出来事とポジティブ出来事の経験パ ターンをクラスター分析によって抽出し,各クラス ターによるストレス反応の違いを検討している。そし て,これらの研究ではいずれもネガティブな出来事の 経験が多い場合であっても,ポジティブな出来事の経 験が多ければ抑うつやストレス反応が緩衝されること を報告している。 このようにネガティブな出来事とポジティブな出来 事を同時に測定し,出来事の経験を包括的に捉えたう えで,出来事がストレス反応や学校不適応に及ぼす影 響を明らかにすることが必要であるといえよう。しか しながら,このような視点からの実証的研究は数少な く,特に中学生を対象とした研究は国内外を問わず見 当たらない。 ところで三浦(

2013b

)は,学校生活におけるポジ ティブな出来事の経験について,学校不適応等のネガ ティブ要因の抑止といった観点からだけでなく,学校 生活における自己効力感や動機づけ等のポジティブ要 因の促進といった観点からも検討することが必要であ ると指摘している。これまでにも生活満足感(吉武,

2010

)や友人関係充実感(黒田・桜井,

2003

)といっ たポジティブ変数を従属変数とした研究はあるものの 少数であり,より多くの知見を積み重ねる必要があ る。 また,吉武(

2010

)は広く生活全般における出来事 と満足感を扱い,黒田・桜井(

2003

)は友人関係とい う一側面のみを取り上げている。中学生にとって学校 は一日の大半を過ごす場所であり,友人関係だけでな く学業や部活動等のさまざまな活動を通して学び成長 する重要な場である。すなわち,学校場面に焦点を当 てた検討を行うことは意義あることといえよう。 なかでも自己効力感は,「ある結果を生み出すため に必要な行動をどの程度うまく行うことができるかと いう個人の確信の程度」であり(

Bandura, 1977

),自 己効力感が高いと行動への動機づけや実際の行動化が 促進されると考えられる。たとえば,学業活動への自 己効力感は学業への自己調整や動機づけを高め,持続 的な学習行動やパフォーマンスを促進することが報告 されており(伊藤・神藤,

2003

Pintrich & De Groot,

1990

),学校生活における自己効力感が高いことでさ まざまな活動への積極的なチャレンジが期待できよ う。また,自己効力感が高いことはストレス反応(今 村・服部・中村,

2003

Mosher & Prelow, 2007

;嶋田,

1998

)や学校の欠席日数(松田・藤生,

2004

)と負の 関係にあること,あるいはストレッサーに対するコン トロール感や積極的対処の実行と正の関係にあること (

Matsushima & Shiomi, 2003

;嶋田,

1998

)が示され ている。したがって,学校生活における自己効力感を 取り上げることで,中学生がより充実した学校生活を 送るための有用な提案が可能になると考えられる。 そこで本研究では,中学生が学校で経験するネガ ティブな出来事とポジティブな出来事を取り上げ,ス トレス反応,学校ぎらい感情,および自己効力感に及 ぼす影響を検討することを目的とする。

方 法

対象者 首 都 圏 の 中 学 校

1

校 の

1

3

年 生

218

名 を 対 象 と した結果,計

211

名の有効回答を得た(有効回答率

96.79

%:

1

年男子

37

名,

1

年女子

32

名,

2

年男子

42

名,

2

年女子

36

名,

3

年男子

34

名,

3

年女子

30

名)。 各分析は記入漏れや記入ミスのあったデータを除いて

(3)

行われた。

調査内容

学校生活で経験するストレッサー 

PSI

Public

Health Research Foundation Type Stress Inventory

) 中学生用(坂野・岡安・嶋田,

2007

)の学校ストレッ サーに関する項目を用いた。「学業(先生や両親から 期待されるような成績がとれなかった;人が簡単にで きる問題でも,自分にはできなかった等)」「友人関係 (顔やスタイルのことで,友だちにいやなことを言わ れた;クラスの友だちから,仲間外れにされた等)」 「教師との関係(自分は悪くないのに,先生から叱ら れたり,注意された;先生から,自分と他人を比べる ような言い方をされた等)」の

3

下位尺度

12

項目か ら構成されており,各下位尺度の

α

係数(

α

.72

.90

) によって信頼性が確認されている。妥当性について は,尺度作成時に明確な検討はないものの,原尺度で ある中学生用学校ストレッサー尺度(岡安他,

1992a

) と対人関係ストレッサーの

1

つであるいじめの被害・ 加害経験(岡安・高山,

2000

),あるいはストレッサー によって生起するストレス反応(岡安他,

1992a

)と の間に有意な関係性が示されている。すなわち,原尺 度は妥当性を有していると考えられ,それに基づいて 作成された本尺度も一定の妥当性を有していると判断 できる。各項目の経験頻度について,「

0

=全然なかっ た」から「

3

=よくあった」の

4

件法で回答を求めた。 学校生活で経験するデイリーアップリフツ 三浦

2013a

)の中学生用学校デイリーアップリフツ尺度 (

DUS-J

)を用いた。「部活動(部活動にがんばって取 り組んだ;部活動で,できなかったことができた等)」 「友人からの援助的かかわり(友だちが相談に乗って くれた;友だちが,なぐさめたり励ましてくれた等)」 「友人との余暇的かかわり(クラスの人とおしゃべり をした;休み時間や登下校時に,友だちとおしゃべり をした等)」「学業・授業(わからなかった問題が解け た;授業の内容が理解できた等)」「教師とのかかわり (先生から頼りにされた;先生から認められたりほめ られたりした等)」および「恋愛(学校で好きな異性 に会った;好きな異性とおしゃべりをした等)」の

6

下位尺度

18

項目から構成されており,各下位尺度の

α

係数(

α

.72

.89

)による信頼性,関連尺度との有意 な相関による妥当性が報告されている。三浦(

2013a

) では各項目の経験頻度と良好性をそれぞれ測定してい るが,本研究では経験頻度のみを測定した。具体的に は,各項目について「

0

=全然なかった」から「

3

= よくあった」の

4

件法で回答を求めた。

ス ト レ ス 反 応 

PSI

Public Health Research

Foundation Type Stress Inventory

)中学生用(坂野他,

2007

)のストレス反応に関する項目を用いた。「身体 的反応(よく眠れない;頭が痛い等)」「抑うつ・不安 (さみしい気持ちだ;泣きたい気分だ等)」「不機嫌・ 怒り(だれかに,怒りをぶつけたい;いらいらする 等)」「無気力(ひとつのことに集中することができな い;根気がない等)」の

4

下位尺度

16

項目から構成さ れており,各下位尺度の

α

係数(

α

.72

.87

)によっ て信頼性が確認されている。妥当性については,尺度 作成時に明確な検討はないものの,原尺度である中学 生用ストレス反応尺度(岡安・嶋田・坂野,

1992b

)を 用いた岡安・高山(

2000

)の研究では,いじめの被害 経験および加害経験の多い中学生は少ない中学生に比 べて有意にストレス反応の得点が高いことが示されて いる。すなわち,原尺度は妥当性を有していると考え られ,それに基づいて作成された本尺度も一定の妥当 性を有していると判断できる。各項目に対して「

0

= 全然あてはまらない」から「

3

=よくあてはまる」の

4

件法で回答を求めた。 学校ぎらい感情 古市

1991

)の学校ぎらい感情測 定尺度を用いた。

1

因子構造で計

12

項目(学校に来 ても何も楽しいことがない;朝,何となく学校に行き たくないと思うことがある等)から構成されており,

α

係数(

α

.89

)によって信頼性が確認されている。 妥当性については,尺度作成時に明確な検討はないも のの,本尺度と欠席傾向(大塚・網谷,

2011

)あるい は学校生活満足感(吉川・高橋,

2007

)との関連性 が示されており,一定の妥当性を有していると判断で きる。各項目に対して「

1

=全く当てはまらない」か ら「

5

=良くあてはまる」の

5

件法で回答を求めた。 学校生活における自己効力感 松田・藤生(

2004

) の学校生活における自己効力感尺度の一部を用いた。 「授業・学習についての効力感」「リーダー的役割遂行 についての効力感」「部活動についての効力感」「対人 関係における効力感」「忍耐を要することについての 効力感」「プレッシャー対応についての効力感」「体育 的活動についての効力感」の

7

下位尺度

40

項目から 構成されており,

α

係数(

α

.72

.89

)によって信頼性 が確認されている。また,本尺度と学校生活サポート テスト(杉原・藤生・熊谷・山中,

2001

)の下位尺度 である「ひきこもり・非社会性傾向」や「思いつめ傾 向」との間に有意な相関係数が示されている。自己効 力感が低いと無気力,無関心,落胆,劣等感を抱きや すく抑うつ状態になりやすいという指摘(バンデュー ラ,

1985/1985

)を考慮すると,本尺度は一定の妥当 性を有していると判断できる。 本研究では,「授業・学習についての効力感(授業 内容が今より少しぐらい難しくなっても,ついていく ことができる;授業中,先生にあてられても,答える ことができる等)」「リーダー的役割遂行についての効 力感(機会があって,生徒会の役員になったとしたら, 自分の力を発揮できると思う;体育大会では,役員や 応援のリーダーになったら活躍できると思う等)」「部

(4)

活動についての効力感(部活動では,練習がきつく なっても,休まずに参加できる;休みの日の部活動が もっと増えても,練習に参加することができる等)」 「対人関係における効力感(自分は,仲の良い友だち をこれからも増やしていくことができる;自分は,話 したことのない人にも必要があれば話しかけることが できる等)」の

4

下位尺度に含まれる項目から,松田・ 藤生(

2004

)の因子分析結果で因子負荷量の高かっ た項目を各

4

項目選んで使用した。なお,各項目に対 して「

0

=全然当てはまらない」から「

3

=良くあて はまる」の

4

件法で回答を求めた。 調査手続きと倫理的配慮 調査実施前に,学校長や各学年主任等に対して本調 査の目的,内容,実施方法について口頭および文書に よる説明を行った。また,厚生労働省「臨床研究に関 する倫理指針」および日本心理学会倫理規程に基づ き,学校や生徒の調査協力は自由意思に基づくもので あり,協力しないことや途中離脱に対する不利益は一 切ないこと,調査結果に関する学校や生徒のプライバ シーは守られること,調査実施による学校や生徒の心 身の負担は可能な限り小さくなるよう配慮すること等 を説明した。そのうえで,学校長や各学年主任等と調 査の実施方法,項目内容,項目数等について話し合い, 生徒に対する倫理的配慮が十分であると判断された内 容・方法で調査を実施した。 調査は,担任教師による無記名式のクラス一斉方式 で行われた。実施時には,生徒に対して前述した倫理 的配慮に関する説明を口頭および書面で行ったうえ で,同意の得られた者にのみ回答を依頼した。

結 果

学校生活における自己効力感尺度の因子構造の確認 本研究では学校生活における自己効力感尺度(松 田・藤生,

2004

)の一部の項目を用いて調査を実施 した。そこで,本研究で使用した

16

項目が元の測定 尺度と同等とみなせるかを検討するため,因子構造の 確認と信頼性の検討を行った。 まず,松田・藤生(

2004

)の

4

因子構造と同様で あるかを確認するため確認的因子分析を行った。その 結果,「部活動についての自己効力感」で係数が

.28

と低いものが

1

項目あったため,これを除外して再度 分析を行ったところ,

4

因子

15

項目のモデルで十分 な適合度が示された(

GFI

.93, AGFI

.90, CFI

.96,

RMSEA

.05

; 各 影 響 指 標 か ら 潜 在 変 数 へ の 係 数 は

.38

.92

)。次に,各下位尺度の

α

係数を算出したと ころ,十分とはいえないものの一定の値が得られた (学業:

α

.77

;リーダー:

α

.80

;部活:

α

.72

; 対人:

α

.68

)。そこで,

4

下位尺度

15

項目を用いて 以降の分析を行うこととした。 なお,学校生活における自己効力感を含めた全尺度 の平均値および標準偏差を

Table 1

に示す。 学校ストレッサーおよび学校デイリーアップリフツと ストレス反応,学校ぎらい感情,学校生活における自 己効力感との関連 まず,学校ストレッサーと学校デイリーアップリ フツの相関関係を調べるため,各下位尺度について

Pearson

の相関係数を算出した(

Table 2

)。その結果, 「学業」ストレッサーと「学業・授業」および「教師 とのかかわり」に関するデイリーアップリフツの間に 有意な負の相関係数が示された。また,「友人関係」 ストレッサーと「友人との余暇的かかわり」および 「学業・授業」に関するデイリーアップリフツ,「教師 との関係」ストレッサーと「教師とのかかわり」およ び「学業・授業」に関するデイリーアップリフツとの Table 1 各変数の平均値およびSD M SD n 学校ストレッサー 学業 5.72 3.07 211 友人関係 2.61 2.87 211 教師との関係 2.28 2.68 211 学校デイリーアップリフツ 部活動 6.94 2.18 211 友人援助 5.22 2.66 211 友人余暇 7.80 1.58 211 学業・授業 6.23 2.09 211 教師とのかかわり 3.88 2.42 211 恋愛 2.02 2.80 211 ストレス反応 身体的反応 4.29 3.56 211 抑うつ・不安 2.71 3.35 211 不機嫌・怒り 4.14 3.90 211 無気力 4.33 3.29 211 学校ぎらい感情 29.53 10.60 209 学校生活における自己効力感 授業・学習 7.05 2.88 206 リーダー 4.79 2.94 206 部活動 9.66 2.74 206 対人関係 8.06 2.73 206

(5)

間に,それぞれ有意な負の値が示された。 次に,学校ストレッサーおよび学校デイリーアップ リフツとストレス反応,学校ぎらい感情,学校生活に おける自己効力感との関連性を検討した。具体的には, 学校ストレッサーの

3

下位尺度および学校デイリー アップリフツの

6

下位尺度を説明変数,ストレス反応 の

4

下位尺度,学校ぎらい感情の合計得点,学校生活 における自己効力感の

4

下位尺度をそれぞれ目的変数 としたステップワイズ法による重回帰分析を行った (

Table 3

)。なお,多重共線性に関する指標を検討した ところ,許容度=

.65

1.00, VIF

1.06

1.54

であり問題 ないと判断された。 ストレス反応 分析の結果,すべての下位尺度にお いて有意な決定係数が示された(

Table 3

)。標準偏回 帰係数をみると,「身体的反応」ではストレッサーの 「友人関係」「教師との関係」およびデイリーアップリ フツの「友人からの援助的かかわり」に有意な正の値 が示された。また,デイリーアップリフツの「学業・ 授業」には有意な負の値が得られた。次に「抑うつ・ 不安」反応では,ストレッサーの「学業」「友人関係」 およびデイリーアップリフツの「友人からの援助的か かわり」に有意な正の値が示された。一方,デイリー アップリフツの「友人との余暇的かかわり」には有意 な負の値が示された。 「不機嫌・怒り」反応では,ストレッサーの「友人 関係」「教師との関係」に有意な正の値,「学業・授業」 に関するデイリーアップリフツで有意な負の値がそれ ぞれ示された。最後に「無気力」反応では,ストレッ サーの「学業」「友人関係」に有意な正の値,デイリー アップリフツの「学業・授業」に有意な負の値がそれ Table 3 学校ストレッサーおよび学校デイリーアップリフツからストレス反応,学校ぎらい感情,および学校生活に おける自己効力感への重回帰分析結果(n=211) β ストレス反応 学校 ぎらい 感情 学校生活における自己効力感 身体的 反応 抑うつ・ 不安 不機嫌・ 怒り 無気力 授業・ 学習 リーダー 部活動 対人関係 学校ストレッサー 学業 .13 .17** .27*** −.20** 友人関係 .23*** .33*** .19** .21** .19** −.12* 教師との関係 .16* .30*** .28*** 学校デイリーアップリフツ 部活動 .49*** 友人援助 .13* .27*** 友人余暇 −.32*** −.16* .39*** 学業・授業 −.23** −.14* −.32*** −.23** .45*** .36*** .15* 教師とのかかわり .19** .25*** .21** 恋愛 R2 .27 .37 .20 .34 .32 .43 .27 .24 .39 F 14.95*** 30.08*** 17.65*** 35.41*** 23.68*** 51.65*** 36.98*** 63.50*** 31.97*** *p.05, **p.01, ***p<.001 Table 2 学校ストレッサーと学校デイリーアップリフ ツの相関関係(n=211) r 学校ストレッサー 学業 友人関係 教師との 関係 学校デイリーアップリフツ 部活動 −.10 −.13 −.01 友人援助  .09 −.01  .07 友人余暇 −.10 −.25*** −.10 学業・授業 −.35*** −.19** −.20** 教師とのかかわり −.23** −.04 −.29*** 恋愛  .07  .11  .01 **p.01, ***p<.001

(6)

ぞれ得られた。 学校ぎらい感情 分析の結果,有意な決定係数が得 られた(

Table 3

)。標準偏回帰係数をみると,ストレッ サーでは「友人関係」と「教師との関係」に有意な正 の値,デイリーアップリフツでは「友人との余暇的か かわり」と「学業・授業」に有意な負の値がそれぞれ 示された。 学校生活における自己効力感 分析の結果,すべて の下位尺度において有意な決定係数が得られた(

Table

3

)。標準偏回帰係数をみてみると,「授業・学習につ いての自己効力感」では「学業」ストレッサーに有意 な負の値,デイリーアップリフツの「学業・授業」と 「教師とのかかわり」に有意な正の値がみられた。ま た「リーダー的役割遂行についての自己効力感」では, デイリーアップリフツの「学業・授業」と「教師との かかわり」においてのみ有意な正の値が示された。 「部活動についての自己効力感」では,デイリーアッ プリフツの「部活動」にのみ有意な正の値が得られた。 最後に「対人関係についての自己効力感」では,「友 人関係」ストレッサーに有意な負の値,デイリーアッ プリフツの「友人との余暇的かかわり」「学業・授業」 および「教師とのかかわり」に有意な正の値が示され た。 学校生活におけるネガティブおよびポジティブな出来 事の経験パターン 中学生の学校生活におけるネガティブな出来事およ びポジティブな出来事の経験パターンを検討するた め,学校ストレッサー尺度および学校デイリーアップ リフツ尺度の各下位尺度について,個人の得点を標準 化し,その得点を用いて

k-means

法による

Q

モード のクラスター分析を行った。

3

から

6

程度のクラス ターを想定して検討した結果,

4, 6

クラスターでは特 定の下位尺度得点のみが突出する等解釈困難なクラス ターが出現した。また,

5

クラスターでは所属人数が 少ない(

n

10

)クラスターが出現した。そのため, 各クラスターの人数や解釈可能性から

3

クラスターに 分類することが適当であると判断された(

Figure 1

)。 クラスター

1

36

名,全体の

17.06

%:以下

CL1

)は, 学校でのストレッサー得点はいずれも平均的である が,デイリーアップリフツの得点は全体的に低いこと がみてとれる。すなわち,学校でのネガティブ出来事 の経験は平均的であるが,ポジティブ出来事の経験が 全般的に少ないパターンと考えられる。 次にクラスター

2

75

名,全体の

35.55

%:以下

CL2

) は,学校ストレッサー得点が全体的に高く,デイリー アップリフツ得点は平均的である。すなわち,このパ ターンの生徒は,学校でのポジティブ出来事の経験は 平均的であるが,ネガティブ出来事の経験が全般的に 多いといえる。最後にクラスター

3

100

名,全体の

47.39

%:以下

CL3

)は,学校ストレッサーの得点は 全体的に低く,逆にデイリーアップリフツの得点は全 体的に高い傾向が示された。そのため,

CL3

の生徒は, 学校でのネガティブ出来事の経験が少なく,ポジティ ブ出来事の経験は多いと考えられる。 学校生活におけるネガティブおよびポジティブな出来 事の経験パターンがストレス反応,学校ぎらい感情, 学校生活における自己効力感に及ぼす影響 クラスター分析で抽出された

3

クラスターを独立変 数,ストレス反応および学校生活における自己効力感 の各下位尺度,学校ぎらい感情の合計得点をそれぞれ 従属変数とした一要因の分散分析を行った。各クラス ターの平均値,

SD

,分散分析結果および効果量

η

2 Figure 1. 学校ストレッサーとデイリーアップリフツの経験パターン

(7)

Table 4

に示した。 ストレス反応の分析結果ですべての下位尺度におい て有意差が示されたため,

Tukey

法による多重比較を 行った。その結果,すべての下位尺度で

CL1, 2

の得点 が

CL3

に比べて有意に高かった。効果量は

η

2

.09

.18

であり,水本・竹内(

2008

)の基準によれば中程度 から大きな効果量であった。 次に学校ぎらい感情について検討したところ,クラ スターによる有意差がみられため多重比較を行った。 その結果,ストレス反応と同様に

CL1, 2

の得点が

CL3

に比べて有意に高いことが示された。また,

η

2

.15

と大きな効果量が示された。 最後に,学校生活における自己効力感について検討 した結果,すべての下位尺度で有意差がみられた。そ こで多重比較を行ったところ,「授業・学習について の自己効力感」と「リーダー的役割遂行についての自 己効力感」で

CL3

の得点が

CL1, 2

に比べて高いこと が示された。また「部活動についての自己効力感」で は

CL2, 3

の得点が

CL1

に比べて高かった。さらに, 「対人関係についての自己効力感」では

CL1, 2, 3

の順 で得点が高いことが示された。効果量については, 「リーダー的役割遂行についての自己効力感」と「部 活動についての自己効力感」では中程度の効果,「授 業・学習についての自己効力感」と「対人関係につい ての自己効力感」では大きな効果であった。

考 察

学校生活における自己効力感尺度について 本研究では学校生活における自己効力感尺度(松 田・藤生,

2004

)に含まれる項目の一部を用いたため, 因子構造の確認および尺度の信頼性に関する検討を 行った。確認的因子分析では十分な適合度が得られ,

α

係数による検討においても一定の信頼性が確認され た。したがって,本研究で分析に使用した

4

下位尺度

15

項目は,松田・藤生(

2004

)の測定尺度の短縮版と して使用できる可能性が示唆される。ただし,本研究 では尺度の妥当性に関する検討は行われておらず,今 後の課題であるといえよう。 中学校でのストレッサーおよびデイリーアップリフツ の経験とストレス反応,学校ぎらい感情,学校生活に おける自己効力感との関連 ストレッサーとデイリーアップリフツの関連 学校 ストレッサーと学校デイリーアップリフツの間にいく つかの相関関係が示された。特に,学業や授業に関す るデイリーアップリフツと学業ストレッサー,教師と のかかわりに関するデイリーアップリフツと教師関係 ストレッサー,友人との余暇的かかわりと友人関係ス トレッサー等同じ内容の出来事間で負の関係性がみら れた。 したがって,ストレッサーの経験頻度を低減するこ とに加えて,積極的にデイリーアップリフツの経験を Table 4 各クラスターのストレス反応,学校ぎらい感情,学校生活における自己効力感の平均値とSDおよび分散分析 結果 CL1 CL2 CL3 F η2 多重比較 M SD n M SD n M SD n ストレス反応 身体的反応 5.44 4.17 36 5.35 3.40 75 3.08 3.06 100 12.12*** .11 1**, 2***>3 抑うつ・不安 3.75 4.02 36 3.76 3.43 75 1.56 2.61 100 12.50*** .11 1**, 2***>3 不機嫌・怒り 5.00 4.14 36 5.33 3.81 75 2.93 3.53 100 9.99*** .09 1*, 2***>3 無気力 5.83 3.33 36 5.52 2.84 75 2.89 3.00 100 21.92*** .18 1, 2>3*** 学校ぎらい感情 35.15 11.45 36 32.42 9.43 75 25.26 9.43 98 18.48*** .15 1, 2>3*** 学校生活における自己効力感 授業・学習 5.23 3.09 35 6.19 2.59 72 8.32 2.41 99 24.48*** .20 1, 2<3*** リーダー 3.23 3.24 35 4.35 2.41 72 5.67 2.91 99 11.25*** .10 1***, 2**<3 部活動 5.89 3.13 35 7.24 2.11 72 7.60 1.90 99 7.69** .07 1<2**, 3*** 対人関係 5.63 2.97 35 7.72 2.32 72 9.17 2.29 99 28.67*** .22 1<2<3*** *p.05, **p.01, ***p<.001

(8)

増やすことで間接的に生徒のストレッサーを減少でき る可能性が示唆されよう。 ストレッサーおよびデイリーアップリフツとストレ ス反応との関連 ストレス反応を目的変数とした重回 帰分析の結果,学校デイリーアップリフツよりも学校 ストレッサーの方が種々のストレス反応に対して有意 な標準偏回帰係数が比較的多く示された。 従来の研究においても,ストレッサーはさまざまな ストレス反応と正の関係にあることが数多く示されて いるのに対して(今村・服部・中村,

2003

;三浦・ 上里,

2002

;岡安他,

1992a

),ポジティブな出来事 に関しては無相関あるいは比較的小さい相関係数や標 準偏回帰係数の報告がみられる(

Barrett & Heubeck,

2000

;細田・三浦,

2008

;三浦,

2013a

Swearingen

& Cohen, 1985

;高比良,

1998

;外山・桜井,

1999

)。 すなわち,ストレス反応については,全体的にポジ ティブな出来事よりもネガティブな出来事との関連性 が強い可能性が示唆される。 一方で,ネガティブ,ポジティブにかかわらず,特 定の内容の出来事と特定のストレス反応との関連性も 示唆された。具体的には,「抑うつ・不安」反応につ いては,友人関係ストレッサーとの間に

β

.33

,デイ リーアップリフツの「友人からの援助的かかわり」「友 人との余暇的かかわり」との間にそれぞれ

β

.27, β

= −

.32

が示された。また,「無気力」については学業 ストレッサーで

β

.27

,デイリーアップリフツの「学 業」で

β

=−

.32

が得られ,ストレッサーとデイリー アップリフツに同程度の大きさの値が示された。 岡安他(

1992a

)は,中学生を対象とした調査研究 の結果,友人関係に関するストレッサーと抑うつ・不 安感情,学業に関するストレッサーと無気力感との間 にそれぞれ強い関連があると報告している。本研究結 果では当該領域のストレッサーのみでなくデイリー アップリフツとの関連も示された。したがって,中学 生の友人関係における出来事は,ネガティブ,ポジ ティブいずれの出来事も生徒の抑うつ感や不安感に影 響を及ぼし,学業に関する出来事は無気力感に関連す ることが示唆される。 ところで,ストレス反応を軽減すると予想された 「友人からの援助的かかわり」に関するデイリーアッ プリフツと「身体的反応」および「抑うつ・不安」の 間に正の標準偏回帰係数が認められた。項目をみてみ ると「友だちが相談に乗ってくれた」「友だちが心配 してくれた」等であり,ソーシャルサポートを受けた 出来事ととらえられる。従来の研究では実行サポート とストレス反応との間に正の相関が報告されており (

Barrera, 1986

),福岡(

2010

)はその理由として,ス トレス反応を生起させるストレッサーに応じて周囲か らサポートが提供されることによる一種のアーティ ファクトである可能性を指摘している。すなわち,本 研究の結果についても,友人からのポジティブな出来 事によってストレス反応が表出されるというよりは, 何らかのストレッサーによって身体症状や抑うつ・不 安感が強い状態になり,それに対して友人が相談に 乗ったり心配してくれた可能性が推測できる。今後 は,ストレッサー経験の有無を含めて,生徒がどのよ うな文脈で友人からの援助的かかわりを経験したか, またその経験によってストレス反応は軽減したかと いった一連の流れを面接調査等によって検討する必要 があると考えられる。 ストレッサーおよびデイリーアップリフツと学校ぎ らい感情との関連 重回帰分析の結果,「友人関係」 と「教師との関係」に関するストレッサーとの間に有 意な正の関係が示された。すなわち,友だちや教師と の人間関係におけるネガティブ出来事は中学生の学校 ぎらい感情を高めるといえる。また,デイリーアップ リフツでは「友人との余暇的かかわり」および「学業・ 授業」にのみ有意な負の関連性が認められた。友だち との日常的なおしゃべりや学業活動での成功体験は学 校ぎらい感情を軽減する可能性が示唆される。 一方,三浦(

2013a

)はさまざまな種類の学校デイ リーアップリフツと学校ぎらい感情との間に有意な負 の相関関係を報告しているが,本研究では「友人との 余暇的かかわり」と「学業・授業」に比較的小さな標 準偏回帰係数が示されただけであった。この理由の

1

つとして,本研究と三浦(

2013a

)における測定方法 の違いが考えられる。三浦(

2013a

)は,出来事の経 験があっても出来事に対する良好性の評価が

0

(全く 嬉しくない等)である場合には出来事が個人に与える ポジティブ価は

0

であると考え,経験頻度に加えて良 好性(どの程度嬉しい,楽しいか)についても評定さ せ,両者を掛け合わせた得点を分析に用いている。し かし本研究では,対象生徒の負担を考慮して経験頻度 のみを評定させた。すなわち,三浦(

2013a

)のデー タは生徒が出来事に抱く主観的ポジティブ度が反映さ れているととらえることができ,それによって学校ぎ らい感情との関連性がより明確に示された可能性も考 えられる。 ストレッサーおよびデイリーアップリフツと学校生 活における自己効力感との関連 学校生活における自 己効力感ではストレス反応とは異なり,学校ストレッ サーとの間にはほとんど有意な関係が示されず,学校 デイリーアップリフツとの間により多くの有意な負の 標準偏回帰係数が得られた。比較的大きな値をみてみ ると,「学業・授業」に関するデイリーアップリフツと 「授業・学習についての自己効力感(

β

.45

)」,「部活 動」に関するデイリーアップリフツと「部活動につい ての自己効力感(

β

.49

)」,および「友人との余暇的 かかわり」と「対人関係についての自己効力感(

β

.39

)」の組み合わせがある。すなわち,それぞれの活

(9)

動でのネガティブ出来事の経験はあまり自己効力感に 関与しないが,ポジティブ出来事の経験は当該活動に おける自己効力感を高めると考えられよう。

Bandura

1977

)は,自己効力感を高める要因の

1

つ として遂行行動の達成,すなわち成功体験の経験をあ げている。「部活動」および「学業・授業」に関する デイリーアップリフツの項目は「がんばって取り組ん だ」「できなかったことができた」といった成功体験 に結びつく内容である。また,「友人との余暇的かか わり」に関する項目は「おしゃべりした」「仲が深まっ た」等であるが,友だちと楽しい時間を共有したり, 関係性が深まったという実感は,中学生にとって良好 な対人関係を持てたという成功体験として位置づけら れると推測できよう。したがって,日常の学校生活の 中で「うまくできた」「できないことができた」と生 徒が感じられるように積極的に働きかけることによっ て,生徒の学校生活における自己効力感を高めること が可能になると考えられる。 中学校でのネガティブおよびポジティブな出来事の経 験パターンによるストレス反応,学校ぎらい感情,学 校生活における自己効力感の違い まずクラスター分析を行った結果,

3

つのパターン があると判断された。次に,これらのパターンによる ストレス反応の違いを検討したところ,ストレッサー の経験が少なくデイリーアップリフツの経験は多いパ ターン(

CL3

)の生徒は,他のパターンの生徒に比べ てさまざまなストレス反応の表出が少ないことが明ら かにされた。大学生を対象とした外山・桜井(

1999

) においても同様の結果が得られており,ポジティブな 出来事を多く経験し,かつネガティブな出来事の経験 が少ないことは,発達段階の違いにかかわらず個人の ストレス反応の軽減に結びつくといえよう。 また,出来事の経験パターンによって学校生活にお ける自己効力感および学校ぎらい感情が異なるかを検 討した結果,ストレス反応と同様に

CL3

の学校ぎらい 感情は低く,逆に自己効力感は高いことが明らかにさ れた。すなわち,日常の学校生活でネガティブな出来 事はあまり経験せずポジティブな出来事を十分に経験 している生徒は,さまざまな活動に対する自己効力感 が高く,学校ぎらい感情を抱きにくいことが示唆され る。 ところで,

CL1

に比べて

CL2

は全般的にストレッ サーの経験が多い。重回帰分析の結果を踏まえると,

CL2

の方がストレス反応や学校ぎらい感情が高く,自 己効力感は低いことが予測できるにもかかわらず,両 者のストレス反応や学校ぎらい感情,あるいは「授業・ 学習」や「リーダー的役割遂行」についての自己効力 感には有意差が示されなかった。また,「部活動」と 「対人関係」では,むしろストレッサーの経験量が多 い

CL2

の方が

CL1

よりも自己効力感が有意に高かっ た。このことから,中学校でネガティブな出来事を多 く経験していても,同時にポジティブな出来事を経験 させることで,学校生活における自己効力感の低減, あるいはストレス反応や学校ぎらい感情の増大を緩和 できる可能性が考えられる。あるいは逆に,ネガティ ブな出来事をあまり経験していない生徒であっても, 日常の学校生活で「嬉しい」「楽しい」と感じる出来事 の経験が非常に少ない場合には,自己効力感の低下や 学校ぎらい感情の増大といった学校不適応に結びつく 可能性も示唆される。 さらに,「部活動」についての自己効力感では

CL1

の得点が他よりも低く,

CL2, 3

の間に有意差はなかっ た。

CL1

と他のクラスターでは,ストレッサーとデ イリーアップリフツの経験量がそれぞれ異なるが,

Figure 1

からはデイリーアップリフツの経験量により 大きな違いがみてとれる。また,ストレッサーの経験 量が最も多い

CL2

よりも,経験量が平均程度の

CL1

の自己効力感が有意に低くなっている。さらに,「対 人関係」についての自己効力感では

CL1, 2, 3

の順で 有意に自己効力感の得点が高く,この順でデイリー アップリフツの経験量が多くなっている。これらを考 え合わせると,部活動や対人関係に関する自己効力感 は,ストレッサーの経験量よりもむしろデイリーアッ プリフツの経験量による影響を受ける可能性も考えら れよう。すなわち,部活動や対人関係については,ネ ガティブな出来事の経験を減らすことよりも,むしろ ポジティブな出来事を多く経験させるといった視点で のかかわりが生徒の自己効力感を効果的に高める可能 性が示唆される。 以上の結果から,中学生のメンタルヘルスや学校不 適応を考える際には,従来の研究で着目されてきたネ ガティブな出来事に加えて,ポジティブな出来事の影 響についても考慮することや両者を包括的に取り扱う 視点の必要性が明らかにされた。 ただし,本研究にはいくつかの課題が残された。第 一は,測定尺度の妥当性に関する点である。本研究で 使用した尺度の中で,作成時点で妥当性に関する検討 が行われているものは

DUS-J

のみであった。それ以 外の尺度については,作成過程や作成後の複数の研究 結果から妥当性を有していると考えられるものの,今 後は十分な妥当性の確認を行ったうえでの使用がより 望ましいであろう。 第二は,ストレッサーおよびデイリーアップリフツ の測定についてである。本研究では,対象者の負担を 考慮して各出来事の経験頻度のみを回答させた。使用 した尺度項目は,いずれも一般的な中学生が「ネガ ティブ」あるいは「ポジティブ」と評価することが確 認されており,各項目の経験頻度を尋ねることで調査 対象生徒がどの程度ネガティブな体験やポジティブな

(10)

体験をしたかを測定可能であるといえる。しかし一方 で,

Lazarus & Folkman

1984

)の心理的ストレスモ デルでは,ストレッサーに対する認知的評価をストレ ス反応の重要な規定因として位置づけている。このよ うな個人の主観的評価の重要性は,ストレッサーおよ びデイリーアップリフツのいずれについても同様であ ると考えられる。すなわち,出来事の経験頻度が同じ であっても,それらをどの程度ポジティブあるいはネ ガティブに捉えるかによって,ストレス反応や学校ぎ らい感情等への影響は異なるといえよう。したがっ て,今後は出来事の嫌悪性や良好性の測定を行い,各 生徒の個人差を反映した検討を行うことで,学校生活 におけるネガティブな出来事およびポジティブな出来 事が中学生に及ぼす影響について,より詳細な特徴を 明らかにできると考えられる。 第三は,サンプルに関する点である。本研究の対象 者は公立中学校

1

校に在籍する生徒のみであり,本研 究結果を一般化するには十分とは言い難い。今後は, 多様な地域でより多くの生徒を対象とした研究を積み 重ねることが期待される。

1

) 本研究の実施にあたり,中学校の先生方と生徒の 皆さんに多大なご理解とご協力を賜りました。誠 にありがとうございました。 利益相反自己申告:申告すべきものなし

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2014.12.16

受稿,

2016.3.29

受理)

Table 4 に示した。 ストレス反応の分析結果ですべての下位尺度におい て有意差が示されたため, Tukey 法による多重比較を 行った。その結果,すべての下位尺度で CL1, 2 の得点 が CL3 に比べて有意に高かった。効果量は η 2 = .09 – .18 であり,水本・竹内( 2008 )の基準によれば中程度 から大きな効果量であった。 次に学校ぎらい感情について検討したところ,クラ スターによる有意差がみられため多重比較を行った。 その結果,ストレス反応と同様に CL1, 2 の得点が C

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