<全文>言語資源活用ワークショップ2020発表論文 集
著者 国立国語研究所コーパス開発センター
雑誌名 言語資源活用ワークショップ発表論文集
巻 5
ページ 1‑390
発行年 2020
URL http://doi.org/10.15084/00003139
2020
発表 論 文集
2020年9月8日(火)– 9日(水)
大学共同利用機関法人 人間文化研究機構
国 立 国 語 研 究所 コーパス開 発 センター 編
10:30–11:00 ■オープニング
11:00–11:50 ■セッション1(学生セッション)
[P1-1]
外来語サ変動詞における日本語母語話者の許容状況-I-JASに基 づく例文を用いた調査から-
. . . .南亜希子(金沢大学) [P1-2]
日本語複合名詞へのコーパス基盤アプローチ
. . . .近大志,神原一帆(京都大学) [P1-3]
中国語を母語とする日本語学習者の話し言葉における副詞の使 用傾向-I-JASを用いて習熟度別に-
. . . .島崎英香(専修大学) [P1-4]
類似度評定を用いた多義間の相互関係の分析-「鋭い」を事例 に-
. . . .西内沙恵(筑波大学/国立国語研究所)
[P1-5]
日本語学習者の助詞・動詞選択における解答時間と誤答率の傾 向-5週間のオンライン学習項目の分析を中心に-
. . . .沖本与子(一橋大学) [P1-6]
知識を伝える記述ルール:小学校・中学校の理科教科書を対象 として
. . . .新井庭子(東京大学)
13:00–14:30 ■講習会ビデオセッション
15:00–15:50 ■セッション2
[P2-1]
医学書テキストに現れる文末表現の特徴-単語N-gramを用いた 分析-
. . . .本多由美子(一橋大学),丸山岳彦(専修大学/国立国語研究所)
. . . .三枝令子(専修大学) [P2-2]
「阪急文化アーカイブズ」を利用した日本語研究/言語景観研 究の可能性
. . . .岡田祥平(新潟大学),正木喜勝(阪急文化財団)
[P2-3]
学校課題作文コーパスの構築
. . . .今田水穂(筑波大学),宮城信(富山大爆)
[P2-4]
地方都市における高度成長期前後の市民生活-静岡、茨城、神 奈川県政ニュース映画に見る時代と地域-
植物に関する自由形式説明文からのJSON形式テキストの自動生 成
. . . .山本富士男(神奈川工科大学) [P2-6]
「障害がない」はどのような状態を指すのか-日本語書き言葉 均衡コーパス(BCCWJ)および筑波ウェブコーパス(TWC)の分 析より-
. . . .宮崎康支(関西学院大学) [P2-7]
正規表現による文型検索ツールの試作--IPADicとUniDicの利 用をめぐって
. . . .蔡佩青,魏世杰(淡江大学) [P2-8]
病名を表す合成語の語末調査
相良かおる,高崎智子(西南女学院大学),東条佳奈,麻子軒(大阪大学) . . . .山崎誠(国立国語研究所)
[P2-9]
子どもの会話コーパスの構築に向けて
. . . .小磯花絵,居關友里子,柏野和佳子,角田ゆかり . . . .田中弥生(国立国語研究所),宮城信(富山大学) [P2-10]
実践医療用語を構成する語の計量的分析
. . . .山崎誠(国立国語研究所)
[P3-1]
BERTによる単語埋め込み表現の分散値を用いた語義の広がり の分析
. . . .欧陽恵子,曹鋭,白静,馬ブン,新納浩幸(茨城大学)
[P3-2]
BERTのMasked Language Modelを用いた二文間の接続関係の推 定
. . . .趙一,曹鋭,白静,馬ブン,新納浩幸(茨城大学)
[P3-3]
二言語BERTを利用したターゲット言語の教師データを必要と しない感情分析
. . . .荘司響之介,曹鋭,白静,馬ブン,新納浩幸(茨城大学)
[P3-4]
コーパスに見る漢語「無理」の歴史
. . . .髙橋圭子(東洋大学),東泉裕子(明治大学) [P3-5]
リアルタイムMRI動画日本語調音運動データベースの設計
. . .前川喜久雄,西川賢哉(国立国語研究所),浅井拓也(早稲田大学)
能田由紀子(国立国語研究所),正木信夫,島田育廣(ATR-Promotion) . . . .竹本浩典(千葉工業大学),北村達也(甲南大学)
. . . .斎藤純男(拓殖大学),籠宮隆之,石本祐一(国立国語研究所)
. . . .菊池英明,藤本雅子(早稲田大学),八木豊(ピコラボ)
[P3-6]
語義曖昧性解消における辞書に定義された単義語利用について の分析
. . . .佐々木稔,谷田部梨恵(茨城大学) [P3-7]
逆接の接続詞から見る明治・大正期の書き言葉の文体の通時的
変化. . . .近藤明日子(国立国語研究所)
[P3-8]
参照における相互認識達成のための方略に関する検討
. . . .川端良子(国立国語研究所)
[P3-9]
脱文脈化の観点からみる職場における取引先との談話の特徴
. . . .田中弥生,小磯花絵(国立国語研究所)
[P3-10]
科学技術系ライティング教材作成のためのComainuを利用した 日本語学術文技術文長単位解析
. . . .堀一成,坂尻彰宏(大阪大学)
13:30–14:30 ■KOTONOHA検索コンテスト2020
15:00–15:50 ■セッション4
[P4-1]
[P4-2]
会話における感動詞「うわー(っ)」
. . . .加藤恵梨(大手前大学) [P4-3]
子ども-保護者間会話における[要求-拒否]のやり取り
. . . .居關友里子,小磯花絵(国立国語研究所)
[P4-4]
日中接触場面の雑談における母語話者と非母語話者による「バ ランスをとるための笑い」の分析-『BTSJ日本語自然会話コー パス(2020年版)』を用いて-
. . . .宇佐美まゆみ(国立国語研究所),張未未(早稲田大学)
[P4-5]
フィッシュボウル方式のディスカッション練習に向けたモバイ ル型観察支援システムの拡張と観察活動の検証
. . . .山口昌也(国立国語研究所),栁田直美(一橋大学)
[P4-6]
『日本語日常会話コーパス』に対する短単位情報付与:作業工 程と評価
. . . .西川賢哉,渡邊友香(国立国語研究所)
[P4-7]
『日本語日常会話コーパス』モニター公開版に見られる感動詞 以外の応答表現
. . . .柏野和佳子(国立国語研究所)
[P4-8]
「嫌な経験」の語りにおける笑い
. . . .臼田泰如(国立国語研究所)
[P4-9]
病名における「-性」の分析-一般書籍との比較から-
. . . . .東条佳奈(大阪大学),相良かおる,高崎智子(西南女学院大学)
. . . .麻子軒(大阪大学),山崎誠(国立国語研究所)
[P4-10]
『分類語彙表』の質的拡張の試み
. . . .山崎誠(国立国語研究所)
[P4-11]
日本語日常会話コーパスから見える会話場面と声の高さの関係 性
. . . .石本祐一(国立国語研究所)
16:00–17:00 ■クロージング
外来語サ変動詞における日本語母語話者の許容状況-I-JASに基づく例文を用いた調査から
-
南亜希子(金沢大学) . . . 2 日本語複合名詞へのコーパス基盤アプローチ
近大志,神原一帆(京都大学) . . . 12 中国語を母語とする日本語学習者の話し言葉における副詞の使用傾向-I-JASを用いて習熟 度別に-
島崎英香(専修大学) . . . 20 類似度評定を用いた多義間の相互関係の分析-「鋭い」を事例に-
西内沙恵(筑波大学/国立国語研究所) . . . 33 日本語学習者の助詞・動詞選択における解答時間と誤答率の傾向-5週間のオンライン学 習項目の分析を中心に-
沖本与子(一橋大学) . . . 43 知識を伝える記述ルール:小学校・中学校の理科教科書を対象として
新井庭子(東京大学) . . . 60 医学書テキストに現れる文末表現の特徴-単語N-gramを用いた分析-
本多由美子(一橋大学),丸山岳彦(専修大学/国立国語研究所),三枝令子(専修大学) 73
「阪急文化アーカイブズ」を利用した日本語研究/言語景観研究の可能性
岡田祥平(新潟大学),正木喜勝(阪急文化財団) . . . 85 学校課題作文コーパスの構築
今田水穂(筑波大学),宮城信(富山大爆) . . . 103 地方都市における高度成長期前後の市民生活-静岡、茨城、神奈川県政ニュース映画に見 る時代と地域-
春木良且(フェリス女学院大学),田中弥生(国立国語研究所/神奈川大学) . . . 114 植物に関する自由形式説明文からのJSON形式テキストの自動生成
山本富士男(神奈川工科大学) . . . 124
「障害がない」はどのような状態を指すのか-日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)およ び筑波ウェブコーパス(TWC)の分析より-
宮崎康支(関西学院大学) . . . 136 正規表現による文型検索ツールの試作--IPADicとUniDicの利用をめぐって
相良かおる,高崎智子(西南女学院大学),東条佳奈,麻子軒(大阪大学),山崎誠(国立国 語研究所) . . . 151 子どもの会話コーパスの構築に向けて
小磯花絵,居關友里子,柏野和佳子,角田ゆかり,田中弥生(国立国語研究所),宮城信
(富山大学) . . . 157 実践医療用語を構成する語の計量的分析
山崎誠(国立国語研究所) . . . 164 BERTによる単語埋め込み表現の分散値を用いた語義の広がりの分析
欧陽恵子,曹鋭,白静,馬ブン,新納浩幸(茨城大学) . . . 174
BERTのMasked Language Modelを用いた二文間の接続関係の推定
趙一,曹鋭,白静,馬ブン,新納浩幸(茨城大学) . . . 181 二言語BERTを利用したターゲット言語の教師データを必要としない感情分析
荘司響之介,曹鋭,白静,馬ブン,新納浩幸(茨城大学) . . . 189
コーパスに見る漢語「無理」の歴史
髙橋圭子(東洋大学),東泉裕子(明治大学) . . . 196 リアルタイムMRI動画日本語調音運動データベースの設計
前川喜久雄,西川賢哉(国立国語研究所),浅井拓也(早稲田大学),能田由紀子(国立国語 研究所),正木信夫,島田育廣(ATR-Promotion),竹本浩典(千葉工業大学),北村達也(甲 南大学),斎藤純男(拓殖大学),籠宮隆之,石本祐一(国立国語研究所),菊池英明,藤本 雅子(早稲田大学),八木豊(ピコラボ) . . . 209 語義曖昧性解消における辞書に定義された単義語利用についての分析
佐々木稔,谷田部梨恵(茨城大学) . . . 231 逆接の接続詞から見る明治・大正期の書き言葉の文体の通時的変化
近藤明日子(国立国語研究所) . . . 238 参照における相互認識達成のための方略に関する検討
川端良子(国立国語研究所) . . . 249 脱文脈化の観点からみる職場における取引先との談話の特徴
田中弥生,小磯花絵(国立国語研究所) . . . 257 科学技術系ライティング教材作成のためのComainuを利用した日本語学術文技術文長単位解 析
堀一成,坂尻彰宏(大阪大学) . . . 267
会話における感動詞「うわー(っ)」
加藤恵梨(大手前大学) . . . 283 子ども-保護者間会話における[要求-拒否]のやり取り
居關友里子,小磯花絵(国立国語研究所) . . . 293 日中接触場面の雑談における母語話者と非母語話者による「バランスをとるための笑い」の
分析-『BTSJ日本語自然会話コーパス(2020年版)』を用いて-
宇佐美まゆみ(国立国語研究所),張未未(早稲田大学) . . . 301 フィッシュボウル方式のディスカッション練習に向けたモバイル型観察支援システムの拡 張と観察活動の検証
山口昌也(国立国語研究所),栁田直美(一橋大学) . . . 315
『日本語日常会話コーパス』に対する短単位情報付与:作業工程と評価
西川賢哉,渡邊友香(国立国語研究所) . . . 324
『日本語日常会話コーパス』モニター公開版に見られる感動詞以外の応答表現
柏野和佳子(国立国語研究所) . . . 331
「嫌な経験」の語りにおける笑い
臼田泰如(国立国語研究所) . . . 348 病名における「-性」の分析-一般書籍との比較から-
東条佳奈(大阪大学),相良かおる,高崎智子(西南女学院大学),麻子軒(大阪大学),山 崎誠(国立国語研究所) . . . 357
『分類語彙表』の質的拡張の試み
山崎誠(国立国語研究所) . . . 365 日本語日常会話コーパスから見える会話場面と声の高さの関係性
石本祐一(国立国語研究所) . . . 371
KOTONOHA検索コンテスト2020優秀賞受賞作品1
伊藤秀明(筑波大学) . . . 380
KOTONOHA検索コンテスト2020優秀賞受賞作品2
黒沢晶子(元山形大学) . . . 382
KOTONOHA検索コンテスト2020優秀賞受賞作品3
松尾亮太朗(北摂リサーチ) . . . 384
KOTONOHA検索コンテスト2020優秀賞受賞作品4
吉村有弘(生駒ランゲージセンター) . . . 386
外来語サ変動詞における日本語母語話者の許容状況
―I-JAS に基づく例文を用いた調査から―
1南 亜希子(金沢大学大学院生)†
The Tolerance of Loanword Verbs among Japanese Native Speakers:
From the Survey with I-JAS
Akiko Minami (Graduate school, Kanazawa University)
要旨
「ドラマが/車がヒットする」のような外来語サ変動詞についての研究は,サ変動詞化の 基準を始め十分に解明されていない。本研究では,外来語サ変動詞における日本語母語話者 の許容状況を明らかにするため,I-JAS(国立国語研究所)に出現した外来語サ変動詞に対 する日本語母語話者の許容度調査を行った。I-JASから収集した73語のうち,BCCWJの出 現状況や外来語辞典等の用例と照合し,まだ十分に日本語として定着していない外来語サ 変動詞57語を選出した。その上で,大学・大学院生89名から容認度判定を得た。調査の結 果,外来語名詞と同様に「意味の縮小・特殊化」が外来語サ変動詞の許容度にも大きく影響 しており,日本語に借用された際に意味の縮小や特殊化が起こっていると,原語の意味での サ変動詞の許容度が低下することが分かった。これらの成果は,外来語の動詞化や,「日本 語の外来語/外国語」の判断に関する基準の明確化に貢献し得ると思われる。
1. はじめに
日本語における外来語使用は,外来語名詞の単体使用のみならず,「ヒットする」「ゲッ トする」などのように,外来語に「-する」が付いて動詞らしく使われる(以下,「外来語 サ変動詞」)用法もある。しかし中には,「トゥギャザー(together)する」「エクスペリメ ント(experiment)する」などのように,日本語母語話者にとってあまり馴染みの無い,す なわち,日本語の外来語の中ではあまり「日本語っぽくない」,「外国語っぽい」響きを与 える外来語サ変動詞も存在すると考えられる。果たしてそれらの外来語サ変動詞のうち,
「『日本語らしい』語」と「『外国語らしい』語」の基準は如何であるか。
2. 先行研究
2.1. 外来語の意味変化に関する研究
Shibatani(1990)は日本語における意味変化について,(ⅰ)意味の縮小・特殊化 (ⅱ)意味
の拡大 (ⅲ)意味転換 (ⅳ)意味の格下げ・悪化 の4種類があるとしている。その中でも,(ⅰ) 意味の縮小・特殊化(「ライス」「ステッキ」など)(ⅲ)意味転換(「アベック」「フェミニス ト」など)が日本語の外来語において特に顕著であると述べている。これは,外来語が他の 語種(和語・漢語)と比較して,使用が特定の範囲に限られる語や意味の狭い語が多く,語 使用の「棲み分け」が見られるという特徴にも関連する(沖森・阿久津編, 2015)と考えら れる。
† minaki[at]stu.kanazawa-u.ac.jp
1 本稿は,2019年度立命館大学文学部卒業論文に加筆修正を行ったものである。
また,鳥飼(2007)は日本語の外来語が元となる語(英語)としばしば意味が異なる例か ら,言語の背景にある文化の違いが生じていることを示唆している。その一方,Horie & Occhi (2001) は外来語の意味変化の過程について,英語動詞由来の外来語は,日本で本来慣習化 していなかった行動などを記号化するために取り入れられた半専門用語であることが多い ため,必ずしも原語の語彙的意味を保持しているわけでは無いと主張している。
2.2. 外来語のサ変動詞に関する研究
風間・上野・松村・町田(2004)はサ変動詞について,接尾辞「-する」は動詞「する」
の意味が薄れたものであり,本来は漢語動詞(「計算する」「選挙する」など)を作る際に使 われたものが,現在ではあらゆる語を動詞化する汎用的な役割を担うと述べている。更に筆 者らは,「トラバーユ」「ブレイク」などの外来語に接尾辞「-する」を付けることによって,
より外国語らしい表現になり得ることを示している。
しかし,外来語サ変動詞に関する研究は未だ数が少なく,事例研究が多数を占めている。
Horie & Occhi(2001)「ゲットする」や茂木(2015)「マークする」などが挙げられ,それぞ
れ日本語母語話者の認知的側面と統語的特徴の観点から分析された。また,外来語サ変動詞 の研究情勢についてMogi (2012) は,外来語サ変動詞の一般的な文法的規則が,未だ明ら かになっていない点を指摘している。その上で,これらの規則の明確化に向けて,事例研究 を積み重ねていくことの重要性を説いている。
一方,澤田(1993)では,日本語教育に関連する基本語彙資料に基づいて,外来語におけ る基本語彙の選定を行い,接辞「-する」が付くと考えられる外来語から,外来語の動詞化 の基準に関する仮説を立てた。澤田論文における仮説では,原語の用法が動詞である語,そ して,ある事象の変化や行為を示す語が動詞化される傾向にあることを示唆している。しか し,これらの仮説の検討及び立証や,外来語と和語・漢語との使い分けの調査については,
今後の課題として示されている。
2.3. 先行研究と本研究の位置付け
2.1及び 2.2 節では,外来語の特徴及び外来語サ変動詞の先行研究についてまとめた。ま た,前節では澤田(1993)にて提唱された,外来語が動詞化する基準についても言及した。
しかし,澤田論文で選定された基本語彙には,「クリックする」「インストールする」などの ITに関する語が基本語彙の中に含まれていないとMogi(2012)が指摘するように,日常的 にサ変動詞化されて使われる外来語は,現在では更に増加していると考えられる。その上,
外来語の動詞化の基準についてより詳細に述べられた研究は,澤田論文の仮説検証を含め,
筆者の知る限り見られない。それにも関わらず,日本語母語話者が普段どのような外来語
(カタカナ語)を動詞化させて使用しているか,また,母語話者によって暗示的に共有され た動詞化の基準は,これまでの研究では触れられて来なかった。
したがって本研究では,外来語のサ変動詞化について,日本語母語話者による許容度判定 の面からその基準を明らかにする。
2.4. 研究課題と仮説,本研究における「外来語」の定義
本稿では,先節(2.1及び 2.2 節)の先行研究をもとに,以下の研究課題と仮説を立てる。
研究課題:日本語母語話者が動詞化すると考える外来語の意味的特徴は,どのようなもの か。
仮 説 :「日本語における」外来語そのものに原語からの意味変化が起こっている場合 は,その変化が起こった後の意味における語使用が優先される。
また,調査にあたって,本研究における「外来語」の定義にも言及したい。新村編(2018)
『広辞苑 第七版』では,外来語を「外国語で,日本語に用いるようになった語。狭義では,
漢語を除く。」(p.496)と定義している。しかし,外来語は一般的にカタカナで書かれ,その 語が外国語由来であると日常的に認識出来る(山田, 2007)との記述もある。
以上を踏まえ,本研究では外来語の定義を以下のように設定する。
「外来語」の定義:一般的にカタカナ表記であり,他言語由来だと広く認識可能な語。
3. 調査概要
3.1. 調査に向けた語選定
2.4 節における外来語の定義で言及したように,他言語由来の語は日本語へ借用される際 に,より日本語らしい語への変化を経て,日本社会に浸透することによって,日本語におけ る外来語へと変化(「日本語化」)する。しかし,完全に日本語化されたものは本来の「外来 語」であると言える一方で,日本語化の途上にある(定着が不十分である)語も多い(日本 語学会(編), 2018)。そのため,外国語と外来語の境目が未だ曖昧であることが示唆されてお り,外来語サ変動詞においても同様の問題が存在すると考える。したがって本稿では,この ような日本語化の過程にある,すなわち,日本語母語話者にとって自然な使用例か否か判断 し難い外来語サ変動詞に焦点を当て,調査を行う。
このような自然か否か判断し難い外来語サ変動詞を収集するため,本稿では日本語学習 者コーパス『多言語母語の日本語学習者横断コーパス(International Corpus of Japanese as a
Second Language,以下I-JAS)』第一次〜第四次データ2を使用し,外来語サ変動詞の出現例
を調査文として借用した。また,検索ツールには国立国語研究所提供「中納言」を利用した。
本コーパスから,「名詞(語種:外来語)」及び「する(品詞の大分類:動詞,活用型:サ行 変格)」を検索し,発話データ から全ての対象語を抽出した。その結果,日本語学習者デー タから抽出した外来語サ変動詞は延べ 92語,64種類であった。3また,同コーパスの日本語 母語話者データからも同様に対象語を抽出し,延べ 12語,9 種類の語を得た。
次に,アンケート調査に使用するための語の選定を行った。選定には,①日本語母語話者 の内省(筆者の主観的判断),②日本語学習者向けカタカナ語教材(佐々木監修, 2001),③ 外来語(カタカナ語)・略語辞典(堀内監修, 2013),④国立国語研究所提供『現代書き言葉 均衡コーパス(The Balanced Corpus of Contemporary Written Japanese,以下BCCWJ)』による 検索,の4種類を使用した。それぞれの媒体の選定理由は,明らかに許容度が高くなると思 われる語を予め除外するため(①母語話者内省),外来語(カタカナ語)の用例にサ変動詞化 するとの旨が明示されているため(②佐々木監修(2001)及び③堀内監修(2013)),そして,
日本語における使用例が存在するかを確認するため(④BCCWJ),である。以上の4媒体に おいて,各外来語がサ変動詞化するかどうかをそれぞれ判断し,4つのうち3つ以上におい てサ変動詞化しない,または不明と判断された語を次段階のアンケート調査に使用した。選 定の結果,全 57語を許容度調査に使用することにした。なお,選定された語については紙 幅の都合上,「4. 許容度順位の結果」に纏めて示す。
なお,使用語の選定には一部例外も存在する。本研究では日本語学習者における発話デー タの使用を主とするが,日本語母語話者データも一部含んでいる。日本語母語話者データに おいても,学習者データと同様の4媒体を選定に使用しているが,「サ変動詞化しない」と された媒体が3 未満であっても,後述する理由により一部調査語に含めた。また,BCCWJ
2 コーパスデータの収集当時(2019年 8月〜9月)は第 5 次データが未公開であったた め,本研究では対象外である。
3 中納言での検索時に「煙草する」「天ぷらする」も同様に外来語サ変動詞として抽出され た。しかし,2.4 節で述べた外来語の定義に適さないため,本稿では研究対象語から除外 した。
中の用例において,I-JASデータにおける使用状況と対応する語があった場合も,同様に例 外として含めた。
これらの例外語を調査に含めた理由は,仮説の検証を目的とした語の比較対照を行うた めである。同じ語にも関わらず意味が異なる場合の許容度の相違を見ることによって,日本 語母語話者に一般的に認識されている外来語の意味や,それらの特徴はどのようなものか を考察する。
3.2. 許容度調査
3.1 節で選定した調査語彙をもとに,『カタカナ語動詞に関する許容度調査』と題してア ンケート調査を行った。本調査では,選定した外来語サ変動詞を含む短文4を提示した。そ れから,一般的な使用を想定した上で,使用されている語が自然か不自然かどうかを4件法 で判断する許容度判定を行った(「問題なく使うことが出来る,自然(4)」〜「使うことが 出来ない,不自然(1)」)。また,調査で使用した短文の共起名詞や格関係は,適宜I-JAS上 のプレインテキストを参照し,可能な限り元データの発話状況に基づくよう設定した。
調査対象者は,日本国内の大学・大学院に在籍する日本語母語話者である。2019年9月 25日から 2019年10月15日にかけて調査が行われ,89件の有効回答を得た。アンケート
は Google フォームを用いて作成し,SNS や立命館大学文学部の小集団クラス等を通じて
URLを配布した。
また,許容度調査を行うとともに,フェイスシートによるインフォーマントの属性調査も 行った。調査項目は,(1)性別,(2)年齢,(3)所属(学部生・大学院生)の3つである。本 調査のインフォーマントの属性については,以下の表1 を参照されたい。
表1 インフォーマントの属性
性別 【男】32人/【女】59人/【未回答(回答しない)】4人
年齢 【18-20歳】36人/【21-23歳】36人/【24-26歳】10人/
【27-29歳】2人/【30-32歳】1人/【33-35歳】1人/【35歳以上】1人
所属 【大学(学部)生】70人/【大学院生(修士・博士前期)】12人
【大学院生(博士後期)】2人/【その他】1人/【未回答(回答しない)】4人
4. 許容度順位の結果
調査対象語は,3.1節で選定した外来語サ変動詞57語である。これらの語を,3.2 節の調 査方法にしたがってアンケート調査を行った。なお,全体の許容度平均値は2.23であった。
以下の表 2に,各調査対象語の回答状況と許容度平均を降順にて示す。
4 表 2のうち,文末に「*」が付けてある例文は日本語母語話者データに基づいたものであ る。また,「※」が付けてある例文の外来語サ変動詞は,元データでは連体修飾節として 出現していたが,本調査で使用する語を「〜する」の表現に統一するため,格関係を一部 変更した。
表 2 調査対象語ごとの回答状況と許容度平均値(降順)
順
位 例文
4 (自 然)
3 2 1(不 自 然)
許容度 平均
標準 偏差
1 このドラマは世界的に「ヒットした」*※ 87 1 1 0 3.97 0.24 2 友達と遊んで「オールする」*※ 81 5 3 0 3.88 0.42
3 友達に「バイバイする」 81 6 0 2 3.87 0.50
4 自身の体力を「セーブする」 75 11 1 2 3.79 0.57 5 「トータルする」と半年になる *※ 75 9 2 3 3.75 0.66 6 パソコンで文字を「タイプする」 70 14 2 3 3.70 0.68 7 流血を見て「フリーズする」 65 12 9 3 3.56 0.81
8 スイッチを「オフする」 63 9 7 10 3.40 1.04
9 歌手が曲中で「シャウトする」 58 16 3 12 3.35 1.06 10 魚を油で「フライする」 53 17 7 12 3.25 1.08 11 髪の毛を「ウェーブする」 33 30 14 12 2.94 1.04 12 出稼ぎの日系人を「リクルートする」 33 27 10 19 2.83 1.15 13 駐車場に「パーキングする」 32 22 19 16 2.79 1.12 14 大自然の中を「トレッキングする」 39 13 15 22 2.78 1.25 15 絵を「ペインティングする」 29 22 18 20 2.67 1.16 16 ヒーローが悪者と「ファイトする」 22 32 17 18 2.65 1.07 17 魔法で異世界に「トランスポートする」 29 19 21 20 2.64 1.16 18 突然のことに驚き「パニックする」 29 17 16 27 2.54 1.23 19 臓器を病人に「ドネーションする」 23 26 15 25 2.53 1.16 20 このプログラム言語で「コーディングする」* 25 12 23 29 2.37 1.21 21 自転車に車が「ヒットする」 17 20 26 26 2.31 1.09 22 蛇を銃で「シューティングする」 16 19 30 24 2.30 1.06 23 海外からの留学生を「ホストする」 20 15 25 29 2.29 1.15 24 飛行機で海外へ「トラベルする」 18 20 20 31 2.28 1.15 25 車を「ドライビングする」 18 16 20 35 2.19 1.17 26 野菜と肉を「フライドする」 15 18 23 33 2.17 1.11 27 仕事を「ミステイクする」 5 20 36 28 2.02 0.88 28 見知らぬ人を「キルする」 11 20 16 42 2.00 1.10 29 異なる場所の景色を「コントラストする」 10 16 27 36 2.00 1.02 30 プレゼントを「ピックする」 7 19 27 36 1.97 0.97
31 日本で「ワークする」 9 13 31 36 1.94 0.98
32 政府の新たな政策に「レジスタンスする」 6 17 26 40 1.88 0.95
33 忘れ物に気づき「シャウトする」 8 16 21 44 1.87 1.01 34 友人を危機から「セーブする」 7 12 27 43 1.81 0.95
35 家を「レントする」 5 17 23 44 1.81 0.94
36 車を「パークする」 6 13 24 46 1.76 0.94
37 果物を「ドライする」 9 7 26 47 1.75 0.98
38 研究に「ワークする」* 6 9 24 50 1.67 0.91
39 車で「アクシデントする」 5 8 28 48 1.66 0.88 40 書籍を「パブリケーションする」* 3 15 20 51 1.66 0.87 41 映画が「ハッピーエンディングする」 5 9 21 54 1.61 0.89 42 弟の誕生日を「セレブレーションする」 3 10 24 52 1.60 0.82 43 ものを「アセンブルする」 2 13 20 54 1.58 0.89 44 みんなが「ハッピーする」 7 3 25 54 1.58 0.82 45 チャンピオンシップに「ウィンする」 4 7 25 53 1.57 0.86 46 大学の学籍を「フリーズする」 5 7 22 55 1.57 0.82 47 学校を「グラデュエイトする」 3 9 22 55 1.55 0.81 48 木の枝が「クラックする」 4 6 22 57 1.52 0.81 49 客が店の料理に「コンプレインする」 3 3 23 60 1.43 0.72 50 家に帰って来て「ドアベルする」 4 7 11 67 1.42 0.82 51 学生アルバイトに「レジストレーションする」 2 6 19 62 1.42 0.72
52 コートを「ハングする」 0 4 22 63 1.34 0.56
53 良い知らせに「ラッキーする」 3 3 14 69 1.33 0.70 54 調査を「エクスペリメントする」 2 2 18 67 1.31 0.63 55 巨万の富を手に入れ「ハピネスする」 2 1 18 68 1.29 0.61 56 友人が帽子を「ウェーブする」 0 5 14 70 1.27 0.56 57 子どもが「ハイパーする」 ※ 1 3 11 74 1.22 0.56
5. 分析結果
5.1. サ変動詞部が同じ調査語における許容度の比較分析
本章では,「共起名詞は異なるが調査語自体は同じ文のペア」及び「外来語名詞部の語尾 は変化しているが,元となる語は同じだと考えられる調査語のペア」計8組について,許容 度の相違が生じた原因を述べる。本章で対象とする例文,許容度平均及び有意差5の一覧は,
以下の表3の通りである。
5 許容度平均の有意差の検定にはマン・ホイットニーのU検定を用い,関西大学の水本篤 氏作成のWebアプリケーション『Langtest Version 1.0』(http://langtest.jp)によって計算を行 った。
表3 サ変動詞部が同じ語のペアの一覧 順
位 例文 許容度平均 有意差6
1. 1 このドラマは世界的に「ヒットした」*※ 3.97 21 自転車に車が「ヒットする」 2.31 ***
2. 4 自身の体力を「セーブする」 3.79 34 友人を危機から「セーブする」 1.81 ***
3. 13 駐車場に「パーキングする」 2.79 36 車を「パークする」 1.76 ***
4. 10 魚を油で「フライする」 3.25 26 野菜と肉を「フライドする」 2.17 ***
5. 11 髪の毛を「ウェーブする」 2.94 56 友人が帽子を「ウェーブする」 1.27 ***
6. 7 流血を見て「フリーズする」 3.56 46 大学の学籍を「フリーズする」 1.57 ***
7. 9 歌手が曲中で「シャウトする」 3.35 33 忘れ物に気づき「シャウトする」 1.87 ***
8. 31 日本で「ワークする」 1.94 38 研究に「ワークする」* 1.67 *
5.2. 原語における意味での使用と意味の特殊化
許容度の相違が起こる原因の1つに,文脈による外来語の意味の違いが挙げられる。
特に,外来語名詞が,原語における意味そのままで使用されている際に,許容度平均が低 くなる傾向にあると考えられる。また,Shibatani(1990)や沖森・阿久津編(2015)が言及 したように,日本語における外来語には,特定の意味のみでの使用がなされる「意味の縮小・
特殊化」が見られる。この特徴が,外来語サ変動詞の許容度にも影響していると考える。
前項表5の1.「ヒットする」を例に挙げると,「このドラマは世界的に『ヒットした』」の 許容度平均は3.97である一方,「自転車に車が『ヒットする』」の許容度平均は2.31と,数 値がやや低くなった。マン・ホイットニーの U 検定の結果,両群の間に有意差が認められ た(U =816.5, p = .00, r = .77)。
佐々木監修(2001)の日本語学習者向け教材では,「ヒット」は「大変な人気になる」の 用例のみが記載されている。また,堀内監修(2013)においても,以下の用例が記載されて いる。
ヒット【hit】(〜する)①[野球]安打(する)。②小説・演劇・レコードなどが大当た りすること。③つりで魚が掛かること。④ホームページを見るときのファイルの総数。
⑤成功。⑥検索で見つけ出す。検索で引っかかる。ダウンロード(アクセス)する。情
6 * = p<0.05, ** = p<0.01, *** = p<0.005
報や答に行きつく。
(堀内監修, 2013:574)
一方,Hornby (2015) によると,「自身の手や持っているもので,他の事物に勢いよくぶつ
かる」(p.745,筆者訳)の用例が主であり,英語のhit(動詞における意味)においては「人
気を得る」やその類義は記載されていない。7
したがって,「このドラマは世界的に『ヒットした』」の用例における「ヒット」は,「人 気になる」の意味で使用されている。これは日本語における一般的な「ヒット」の認識の1 つである。対して,「自転車に車が『ヒットする』」は原語(英語)における「ぶつかる」の 意味そのままで使用されたと考えられる。ゆえに,同じ語でも許容度に差が出たのではない だろうか。表5の2., 5., 6., 7. においても同様のことが言える。
しかし,8.「ワークする」においては,「日本で『ワークする』(許容度平均:1.94)」「研究 に『ワークする』(許容度平均:1.67)」共に許容度平均がやや低く,例外的だと言える。マン・
ホイットニーのU検定の結果,両群の間に有意差が認められた(U =3304.5, p = .03, r = .155)。 前者は原語における「働く,勤める,仕事をする」の意味をそのまま使用した例であると 考えられるが,後者はそれ以上に許容度が低くなっている。BCCWJで「ワークする」の用 例を検索したところ,全9件 の用例のうち,4件が特定目的・国会会議録,3件が図書館・
書籍コーパス,残りの2件が特定目的・ブログコーパスからの出典であった。以下は,BCCWJ における「ワークする」の用例である(下線部筆者)。
(1)中央突破を図るという手法は,国民的合意を形成する上で全くワークしていない。
(『社会保障の財政改革』2005)
(2)それなりに私は今まで準備をしてまいりました対応というものはワークしたと思 います。
(『国会会議録 第132回国会』1995)
このように,「ワークする」は「(何かしらの事物に)働きかける,結果を出す」という意 味で使用されることもあると考えられる。また,堀内監修(2013)では,「ワーク」の意味
を「①働く。働き。②工事。仕事。③製作。作品。④練習。研究。」(p.845)と記している。
ゆえに,「研究に『ワークする』」も意味の特殊化が起こっていると言える一方,日本語にお ける外来語の「ワーク」は「仕事・労働」や「作品」といった意味での認識が一般的である
8 ため,許容度が低くなった。
5.3. 原語の接尾辞との関連性
前項では外来語名詞の意味による許容度の相違に言及したが,原語における語の接尾辞 も許容度に影響を与えると考えられる。
表5の3.は,「パーキング(parking)する」と「パーク(park)する」という,接尾辞-ingの有 無による比較である。前者は許容度平均が2.79である一方,後者の許容度平均は1.76であ った。『ジーニアス英和辞典 第5版』(南出編, 2015)によると,-ingには動詞に付いて現
7 名詞においては「(興行などの)ヒット,大成功」(南出,2015)という旨の用例が記載され ていたが,本稿では澤田(1993)の仮説「原語の用法が動詞である語が動詞化する傾向にあ る」(2.2 節参照)に倣い,南出(2015)でも優先的に掲載されていた動詞の意味を優先した。
動詞以外の品詞における意味の考慮については,今後の課題としたい。
8 「ワーキングホリデー」「ワークショップ」「ハローワーク」などの複合名詞・固有名詞にお ける「ワーク」にも同様の意味を含意すると考えられるが,本稿の範疇から外れるため議論は 割愛させて頂く。
在分詞を作るほか,動作やその結果を示す動名詞・名詞を作る役割もあるという。
また,ビタン(2016)によると動名詞「パーキング(park-ing)」は,辞書において名詞的意 味が先行する語である。このような名詞的意味が強い語が日本語に借用される場合,その語 の名詞における意味がそのまま借用されるため,動詞的意味の強い語と比較して,名詞的意 味の強い語の辞書形には「〜する」の付加が起こりにくいと指摘されている。更に,同論文 では「日本語母語話者は『〜ing』形を動詞らしく捉え,行為,活動などの意味を持つ印象を 強く受ける」(p.67)との記述もある。また,澤田(1993)による仮説(2.2節参照)におい ても,同様の旨が指摘されている。したがって,本調査における日本語母語話者は,「パー キングする」の方に「(駐車場に)車を停める」という動作性をより強く表すと感じ,許容 度がより高くなったと考えられる。
対して,4.「フライ(fry)する(許容度平均: 3.25)」「フライド(fried)する(許容度平均: 2.17)」 においては,接尾辞-ed の有無による相違である。南出編(2015)による-ed の記述による と,規則動詞に付けることによって過去・過去分詞形を作る役割のほか,名詞に付けて「『…
を持った』『…を備えた』『…のある』『…のような』の意の形容詞を作る」(p.673)役割も持 つ。日本語内における「フライド(fried)」は,「フライド [チキン/ポテト/オニオン]」のよう に,揚げ物を表す名詞に使われる場合が多く,これらの語では形容詞的用法で使われている。
そのため,「フライド」単体で「する」をつけて動詞化することは,日本語母語話者にとっ てはやや不自然に思われたと考える。
6. まとめと今後の課題
先章(第5章)では調査結果に基づき,語の特徴における許容度平均の相違について分析 した。その結果,原語からの意味の特殊化が起こっている語ほど許容度が高くなる傾向にあ ると分かった。これらの結果から,2.5 節で述べた仮説は概ね立証された。
したがって,日本語母語話者にとって外来語がサ変動詞化する基準には,その外来語が日 本語において「一般的に使用されている意味か」が最も影響していると考える。また,その 要因には,原語の本来の意味からの縮小や特殊化も関わっており,あくまでも個人が考える
「母語(日本語)」の範囲内で,一般的な「外来語」かどうか,対象となる外来語の意味が 文脈に適しているか,という判断に依拠するだろう。それらが本稿の許容度調査においても 優先されたと考える。更に,許容度の相違は,外来語サ変動詞それ自体のみならず,共起名 詞にも影響すると考える。例えば,「見知らぬ人を『キルする』」という文と,「オンライン ゲームで敵を『キルする』」という文とでは,外来語サ変動詞自体の意味は同じにも関わら ず,許容度が異なってくると予想される。しかし本稿では,共起名詞による許容度の相違ま で明らかにすることは出来なかった。
以上より,本稿では外来語や外来語サ変動詞に関する先行研究を踏まえ,日本語母語話者 を対象とした外来語サ変動詞の許容度調査を行った。その結果,外来語研究でも今まで指摘 されてきた日本語における外来語の意味の縮小・特殊化が,外来語サ変動詞における許容度 にも影響を受けていることが明らかになった。これらの研究結果は,かねてより議論されて きた外来語サ変動詞における動詞化及び「外来語」と「外国語」の基準について,新たな側 面から貢献し得ると考える。
最後に,今後の課題を2 点挙げたい。1点目は,動詞化の許容傾向をより明確にするため に,用例数・調査人数を増やした量的な調査を行う点である。本研究で明らかとなった結果 をより一般化された基準に近づけるためには,より多くの用例を検討すると共に,より幅広 い属性の日本語母語話者に調査を行なうべきである。また調査文には,先章(第 5章)でも 述べた共起名詞による許容度の相違も含めたい。2 点目は,日本語母語話者における外国語 の理解・運用能力および海外滞在経験と,外来語サ変動詞との許容度における関連性の検討 である。英語・英語圏の国に限らず広い範囲で許容度の比較を行なっていくことで,新たな 知見が生まれると考えられる。これらを踏まえ,より量的かつ詳細な調査を行い,動詞化の 基準をより明確にしていきたい。
参考文献
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Shibatani, M. (1990). The languages of Japan. Cambridge, UK: Cambridge University Press.
使用コーパス
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(https://chunagon.ninjal.ac.jp)
『多言語母語の日本語学習者横断コーパス(I-JAS)』, 国立国語研究所.
(http://lsaj.ninjal.ac.jp)
日本語複合名詞へのコーパス基盤アプローチ
近 大志(京都大学 大学院) ∗ 神原一帆(京都大学 大学院) †
A Corpus-based Approach to Japanese Noun Noun Compounds
Taishi Chika (Kyoto University) Kazuho Kambara (Kyoto University)
要旨
複合名詞 (NN-Compound; NNC) は構成要素に還元できないような名詞間の意味関係を含
むため,構成性を前提としたアプローチに対して重大な問題を喚起する (cf. Partee 1995). Levin et al. (2019)は「後部要素N2が自然種であるか人工物であるかによって,NNCの解 釈のパタンが特定のクラスに収束する」という一般性の高い仮説を提唱した.本研究ではこの 仮説が日本語においても有効かどうかを検討するため,BCCWJから [格助詞|普通名詞|普 通名詞|格助詞]のパタンに合致する事例を無作為に500件抽出し,N2が人工物・自然物であ るかを判定した.その結果,N2は人工物・自然種の区別では説明できない要素を多分に含む だけではなく,この区分に該当する半数近くの事例がLevinらの説明からは十分に記述できな い意味関係を持つことが判明したため,本仮説は日本語のNNCでは必ずしも妥当ではないと 結論づけた.
1. はじめに
複合名詞 (Noun-Noun Compound; NNC)(1) は名詞間の関係が構成要素に還元できない点 で,意味解釈に関する議論が盛んである (cf. Downing 1977, Partee 1995, 影山 1999).例え ば,coffee cakeには少なくとも 「コーヒー風味のケーキ(i.e. コーヒーを原材料とするケー キ)」や「コーヒーを飲む際に食べるケーキ」といった解釈が想定できるが(2),〈原材料とす る〉や〈際に〉という名詞間の意味関係は構成要素には存在しない(3).
構成性を前提とした理論の限界を克服するため,構成要素のパタンを特定の意味関係に対 応づけるアプローチが提案されてきたが,具体的な意味クラス (e.g., [N+事務用品],[N+食 品])に特化した議論が多い一方で,一般化を志向した研究は少ない(cf. Downing 1977, Ryder 1994, Wisniewski and Love 1998, Smith et al. 2014).これに対して,Levin et al. (2019) は
∗alberto [email protected]
(1)本研究が主に扱うNNCは,前部要素N1が修飾部(modifier)であり,後部要素N2が主要部(head)であるよ うな内心複合語(endocentric compound)である.
(2)https://en.wikipedia.org/wiki/Coffee_cake
(3)以降,N1とN2の意味関係を太字の〈〉内に表記する.
「後部要素N2が自然種であるか人工物であるかによって,解釈のパタンは特定のクラスに収束 する」とする仮説Event vs. Essential Hypothesis(EEH)を提示することで,英語にお けるNNCの解釈のパターンが十分に予測づけられると主張した.EEHは記述的一般性が高 いだけでなく,後述する理由から,通言語的にも成立することが想定されるため,この仮説が 妥当であればNNCの意味研究は大きく発展する.
本研究の目的は,日本語のNNCの分析を用いてLevin et al. (2019)の仮説 EEHを検証す ることである.BCCWJを用いたコーパス調査の結果,(i) N2が自然種・人工物に合致したと
しても,Levinらの措定した意味関係では記述できない事例が半数近く含まれることに加え,
(ii) NNCのうち,約6割が自然種・人工物以外を指示するため,EEHではNNCの意味解釈 を十分に説明できないことの2点が判明した.これらの結果から,EEHが広範なNNCを説 明できるという期待に反して,対象言語の相違を踏まえたとしてもEEHの有効性が非常に限 定的であると結論づけた.
本稿は次のように構成される.§2では,構成要素のパタンに基づくNNCの意味解釈理論 を概観し,本研究のリサーチクエスチョンを提示する.§3と§4では,BCCWJを基に行った NNCの調査方法とその結果を報告する.§5では結果に関する考察を行うと共に,Levinらの 予測に合致しない事例について検討する.§6は結論である.
2. 先行研究
本節では,本研究の検討対象であるLevin et al. (2019)の論を中心に,NNCの意味解釈に 関する先行研究を概観した上で,本研究のリサーチクエスチョンを提示する.
先述したように,構成性に基づく従来の意味解釈理論ではNNCの意味を説明できないこと が指摘されている(cf. Partee 1995).ParteeによるとNNCの意味は,(i)構成要素の意味に 還元できない意味関係を含み(e.g., a dog house⇒ a house that a dog lives in),(ii)同じ要 素から構成されるNNCの意味関係がコンテクストによって変動する(e.g., a dog house⇒ a house that looks like a dog).これらの理由からNNCは構成性を満たさないとされる.
(ii)に挙げたNNC の解釈の文脈依存性は主に語用論が扱う問題であるのに対して,(i)に 挙げた意味関係の分析に関しては,構成要素の意味的なパタンを特定の意味関係と対応づける 試みが知られている(cf. Downing 1977, Ryder 1994, Bezuidenhout 2019).Wisniewski and Love (1998)は[N+事務用品]というパタンから〈〜に使用する〉という意味関係が呼び出さ れる傾向があることを心理実験によって観察した.それに加え,Smith et al. (2014)は [N+
食品]というデンマーク語のパタンが〈〜を原材料とする〉や〈〜を産地とする〉という意味 関係を喚起することを心理実験によって観察した.
構成要素のパタンと意味関係を対応づける一連の研究は,ある程度の成功を収めているとは いえ,適用範囲が比較的下位の概念 (i.e. 事務用品,食品)に留まるため,NNC一般に適用で きる仮説が提供できない.その一方で,Levin et al. (2019)は [N+自然物] [N+人工物] と いった上位概念から意味関係の予測づけを試みることによって,(1)に示す一般性の高い仮説 を提示している.
(1) EVENTS VS. ESSENCES HYPOTHESIS:
人工物(artifacts)を表す複合名詞は,自然物(natural kinds)を表す複合名詞とは 異なる傾向を示す.人工物では修飾語が人工物に関連する事象を指示する傾向があ る一方,自然物では修飾語は自然物の本質を反映した性質を指示する傾向にある.
(Levin et al. (2019: 438);筆者訳)
さらにLevinらは,自然物として解釈されたNNCの意味関係および,人工物の意味関係に対
する予測も与えており,これらは表1と表2から示される(4).
表1 N2=自然種のMeta Relation,包含される意味関係,NNCの例
Meta Relation 包含される意味関係 例
〈借用〉 〈借用〉 keshi pearl
〈知覚〉
〈色〉〈大きさ〉
〈弁別的な部分〉〈風味〉
〈見た目〉
green bean, deep spoon, red-leaf lettuce, sugar pea, kidney bean
〈環境〉 〈産地〉〈場所〉 freshwater pearl, Boston lettuce
表2 N2=人工物のMeta Relation,包含される意味関係,NNCの例
人工物 包含される意味関係 例
〈事象〉
〈素材〉〈方法〉
〈目的〉〈時間〉
〈使用〉〈事態の担い手〉
opal bracelet,skillet cake, fish spatula,wedding band, navy bean, banana slicer
Levinらは2つの意味クラスに該当するパタン (自然種={[N+鉱物],[N+植物]}; 人工物
={[N+調理器具], [N+料理]}) のコーパスを作成し,人手によるコーディングを行った結果,
NNCがEEHに従う傾向があることを観察した(5).Levinらは非常に興味深い結果を示して いる一方で,仮説の一般性について2点の疑問が残る.
まず,EEHが英語以外の言語にも適用されるかどうかは議論の余地がある.Levin et al.
(2019: 430)は Downing (1977)の論を援用することで,NNC を使う動機が事物の名付け
(naming) に基づくと主張している.森岡・山口(1985)は,日本語における名付けの手段の一
つとしてNNCを挙げている.このように,NNCを用いた名付けの行為は英語以外の言語に も観察されることから, EEHは名付けの一般的な傾向についての仮説として解釈することも 可能であろう.この解釈が正しいと仮定した場合,英語以外の言語でもEEHが成立するか否 かは検討すべき事項である.
(4)仮説の評価にあたっては,各意味関係を包含するMeta Relationが用いられている.また,Levinらは自然物の 意味関係を予測づける仮説を指してEssence-Related Modifier Hypothesisと呼び,人工物の意味関係に関す る仮説をEvent-Related Modifier Hypothesisと呼んでいるが,ここでの議論には必要がないため省略する.
(5)コーパスの構築は人手で行われたものであり,本論文執筆時点ではhttps://osf.io/t43kd/に掲載されている.
また,Levinらはコーパス調査だけでなく,理解・産出に関する実験を実施し,どちらの結果もEEHを支持する
と結論づけた.
次に,EEHが調理器具や鉱物といった特定の意味クラス以外の語を含むNNCに対して有 効か否かにも議論の余地がある.Levin et al. (2019)は [N+調理器具] や [N+鉱物] といっ た比較的具体的な対象の分析を通してEEHを提示しているが,EEHが高い一般性を志向し ている以上,NNCの解釈について過大般化を行なっている可能性が否定できない.よって,
EEHの負例がどれだけ存在するかを調査する必要がある.
以上の2点を踏まえ,本研究では以下の2点をリサーチクエスチョンとする.
(2) a. EEHの予測が日本語のNNCにおいて再現されるか? b. EEHはNNC全体を代表するものか?
3. 方法
前節でも述べたように,本研究の目的はLevin et al. (2019)の分析結果の一部を再現するこ とである.本節では本研究が採用した調査方法について,データの収集方法,そしてそのデー タの分析手法という順序でそれぞれ述べる.
本研究では現代日本語書き言葉均衡コーパス (BCCWJ)のデータを,中納言を用いて収集 した.複合名詞の事例を収集するために短単位検索にて品詞情報を用いた検索を行った.可能 な限り機械的に負例を取り除くため,「助詞–格助詞:名詞–普通名詞–一般:名詞–普通名詞–一 般:助詞–格助詞」という検索条件を用いた.その結果174,948件のデータが得られた.そし て,中納言を用いて収集した10万件をローカル環境に保存し,人手によるコーディングを行 うためにRubyを用いて500件を無作為に抽出し,これを最終的な分析対象とした.
分析対象としたデータには,パージングミスや従来のNNCに関する議論では分析対象とし て扱われないものを含むため,(3) に示されるデータを除外してある.特に, (広義の) 空間 直示表現は英語などでは形容詞として用いられるため,NNCの議論には無関係であると判断 した.
(3) a. 全体が固有名を表す場合: ワームテール,ロイヤルホテル,達磨横町,朝日新聞,栃
の木峠,……
b. (広義の)空間直示表現を含む場合: 東西南北,右手首,中心シグナル,中西部ツ アー,県境付近,……
c. N1またはN2が単純語ではない場合: 同世代,老若男女,主素材,学校側,オイル
入り,……
d. パージングミス: 装束ならび,初句切れ,楼閣机上,いきアレルギー,……
(3)に挙げた負例は合計で171件となった.これらの事例を除いた329件の事例に対して,
第1著者と第2著者はN2が自然物か人工物のどちらを表すのかをコーディングし,EEHの 傾向に従うか否かをLevin et al. (2019)のコーディング情報を参照しつつ判定した.
4. 結果
本節では,§3で得たデータの調査結果を報告すると共に,EEHに従う事例および従わない 例を分類する.表3にN2の各意味クラスの集計結果を記載している.また,表4には,表3 で自然種・人工物として判定されたNNCがEEHに従うか否かの分析結果を掲載している.