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政府情報システムの民間委託 : 我が国における地 方自治体のケース

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政府情報システムの民間委託 : 我が国における地 方自治体のケース

その他のタイトル Contracting‑out of Information Systems in Japanese Local Governments

著者 岡本 哲和

雑誌名 情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要

巻 10

ページ 13‑41

発行年 1998‑12‑20

URL http://hdl.handle.net/10112/1118

(2)

i&J#'ltffl 1/ A T L>. (J) ~rai~~

-~b~~t: ts,t Gtfil:1i§ta~(J) 7- 7-.-

Contracting-out of Information Systems in Japanese Local Governments Tetsukazu OKAMOTO

Abstract

This paper studies the factors that influence the information system contract- ing-out decisions with specific focus on Japanese local governments. My analysis focuses on four major factors that are likely to determine mak~r-buy decisions of local governments: the fiscal conditions, the technological resources, the protec- tion of privacy, and the transaction cost The results of a quantitative cross-section- al analysis of 303 case descriptions of the Japanese local governments reveal that the transaction cost is the strongest predictor of the extent of contracting-out It was also shown that,contrary to expectations, the other three factors have only lim- ited impact. I conclude with a discussion of the implications for the study of con- tracting-out based on these results.

-13-

(3)

1

はじめに

組織が自ら行うべき業務の範囲はどこに、そしてどのように画定されるのか。この問題をめ ぐって、公的組織及び民間組織のそれぞれに関連して大きな動きが生じつつある。

公的組織に関連するその動きとは、民間委託の拡大である。ここでいう民間委託とは、 「政 府及び地方自治体が行政責任を果たす上で必要な監督権を留保した上で、行政事務を民間企業 などに委託すること」 (')を意味する。我が国における中央.地方政府双方にとっての緊要な課 題として行政改革が位置付けられていく過程において、民間委託は効率化やコスト削減といっ た行政改革の目標を実現するための効果的な処方菱と見なされるようになっていった。近年発 表されている行政改革関係の報告書などにおいても、民間委託の必要性は繰り返し指摘されて いる(2)。今では、清掃、学校給食、保育所といった様々な公的サービスの供給が民間業者によ って行われるようになってきている。普通会計決算ベースでの委託料の歳出総額に占める割合 を見るならば、 ,970年度には,パーセント強であったものが1992年度には4パーセントにまで増 加している(3)。

そして、 もう一つの民間組織に関わる動きはアウトソーシング論の流行である。アウトソー シングとは、元来は経営機能や経営資源を外部から調達することを意味する。しかし、 1990年 代に入って、その語は特に情報システムの外部への委託を意味するものとして使用されるよう

になってきた(4)。現在では、コスト削減を目的として、あるいは経営資源を戦略的な機能に傾 注するために、多くの民間企業が内部の情報システムを外部ベンダに委託するようになってき ている。労働省がまとめた1997年の産業労働調査によると、情報処理や事務管理で業務を委託 する企業の割合は約50パーセントに上っており、この動きは今後も広まる見通しであるとされ ている(5)O

本稿は、上述の2つの動きがいわば交錯する所に位置する問題、すなわち、公的組織におけ る情報システムの民間委託を取り上げる。特に対象とするのは、我が国の地方自治体における その問題である。そこでの目的は、第1に地方政府において情報システムの民間委託がどのよ うに行われているのかを明らかにすること、そして第2に地方政府が民間委託を採用する際に どのような要因が影響を及ぼしているかを考察することにある。

ここで、本稿が分析対象とする「政府情報システム」を、 「情報の創出、処理、提供、使用、

保存、廃棄といった一連のプロセスから成る情報のライフサイクルを、政府が扱う総合的な仕 組み」と定義しておきたい。このように、 「政府情報システム」という語を単にハードウェア のみではなく、政府が携わる情報処理活動を包括する広い意味で使用することをあらかじめ断 っておく。

本稿の構成は以下のとおりである。まず前半においては、我が国の政府が民間委託をどのよ

うに位置付けてきたかについて、行政改革との関わりを中心に概観する。その後、情報システ

ムの民間委託がどのような形態で進められてきたかを、地方自治体についてのデータを基にし

(4)

て明らかにしたい。後半においては、数量データを用いた分析を進めていく。そこにおいて中 心となる問題は、地方自治体が情報システムの民間委託を選択する際、それに影響を与える要 因は何かということである。経済学を含めた諸分野からの知見を参考にしつつ、いくつかの要 因を取り上げて統計分析を含めた検討を行っていくことにしたい。

2民間委託をめぐる議論の展開

2‑1行政改革と民間委託

まず、地方自治体と民間委託全般に関わる議論の展開について概観しておこう。この問題を めぐる議論が活発化するきっかけになったのは、 1960年代における公営企業の経営悪化である といわれる(6)。病院や水道、交通などに関わる公営企業の赤字は1960年代以降増大しつつあっ た。このような状況に対し、自治大臣の諮問機関である地方公営企業制度調査会は1965年に

「地方公営企業の改善に関する答申」を提出し、公営企業の経営合理化のために水道事業にお ける料金徴収事務や病院事業における清掃、洗濯、給食などの作業は積極的に民間委託される べきであるとの考え方を示した。また、 1966年には第ll次地方制度調査会の「地方税財政に関 する当面の措置についての答申」が発表されている。そこにおいては「地方経費の効率化」が 重要な課題とされ、必ずしも地方団体が実施する必要のない業務、たとえば、各種会館などの 施設の運営や保育所の経営、庁舎の清掃などについては民間への委託を推進することが強調さ れている。さらにその翌年の1967年には、 「今後における定員管理について」が閣議決定され た。そこに盛り込まれた主たる内容は各省庁1局削減や国家公務員の定数減などの中央政府に おける行政の簡素化の推進であったが、それとともにこのような措置は国のみならず、地方公 共団体においても進められるべきであるとの意見が述べられている。

以上のような動きを受ける形で、 1967年12月27日に自治事務次官通達「地方公共団体におけ る機構の改善と定員の管理について」が各都道府県知事に宛てて発せられた。その中では、計 算事務や庁舎の管理事務などの単純な労務や、事務量の時期的な変動が大きい事務については、

積極的に民間への委託を考慮するように要請がなされている。

その後、 1960年代後半から70年代前半には各地で成立した革新自治体とそれを支える職員組 合の後押しによって保育所や給食業務などの「再」直営化がなされる動きが見られたものの、

それらは一時的なものであったといわざるを得ない。 1980年代からの行政改革の流れは、 「公」

と「私」の役割分担の見直しをさらに推し進めることとなったのである(7)o

1980年代以降に発表された行政改革関連の答申や報告書の多くは、地方における民間委託の 推進にも触れている。たとえば、臨時行政調査会が1982年7月30日に出した「行政改革に関す る第3次答申一基本答申一」は、地方の行財政改革についての1章を設けている。その中では、

地方行政の減量化、効率化を推し進めていくためには計画的な民間委託の推進が必要であると

‑15‑

(5)

指摘されており、地方財政計画にそれを反映させていく必要があるとの意見が述べられている (8)。同様の見解は、後の臨時行政改革推進審議会による報告書や答申の中にも見いだし得る。

1983年7月25日に出された「当面の行政改革推進方策に関する意見一国の行財政改革と地方行 革の推進一」は「地方公共団体は、事務事業の運営にあたっては行政サービス水準を維持しつ つその合理化・効率化をより一層推進していく必要があるが、最近における民間の技術水準や 経営能力の著しい向上にかんがみ、こうした民間の活力を事業運営に積極的に活用していくこ とが肝心である」と述べ、個別の事務事業を委託するための具体的な方策についても論じてい る(9)。

地方の行政改革における推進事項のほとんどは国から指示されたものであり、その進め方も 国の指示によって行われてきたとの見方がある('01。このような見方に従えば、上述の諸文書 の内容は地方自治体が民間委託を推進していく過程において一定の影響を及ぼしたと考えられ よう。また、 より直接的な国から地方への指導の例としては、 1985年1月22日付の各都道府県 知事宛自治事務次官通知「地方公共団体における行政改革推進の方針(地方行革大綱)につい て」が挙げられる。その中では、地方自治体は行政運営の効率化や住民サービスの向上のため に、自らが行っている事業のうちで民間委託により実施することが適当なものについては、積 極的に民間委託を行うように勧告がなされている{''1。

2‑2情報システムの民間委託をめぐる議論

それでは、公的組織における情報システムの民間委託についてはどのような議論が行われて きたのか。実は、後述するように情報システムの民間委託自体は比較的早い時期から実施され てはいたものの、それが推進事項の一つとして各種の政府関係文書に登場し始めたのは比較的 最近のことである。行政における情報管理そのものを取り上げた政府関係の報告書等がこれま で少なかったことが、その理由の一つとして挙げられるかもしれない。さらに、政府がこれま で情報化の推進自体を、効率化を達成するための「手段」と位置付けてきたことも見逃しては ならないだろう ('2)。このことは、現場においてすでに多くの情報処理業務が委託されている にもかかわらず、政府が情報化を効率化の手段としてだけではなく、効率化の対象そのものと して明確に認識することを遅らせる一因ともなったと考えられる。

いくつかの重要な文書を取り上げつつ概観しておこう。まず、国を中心とした行政の情報化

に関わる文書を取り上げたい。第三次行革審の最終答申の要請に基づき、政府は1994年12月25

日に「行政情報化推進基本計画」を閣議決定した。この計画は、政府全体の行政の情報化を総

合的・計画的に推進していくために策定された初めてのマスタープランとしての地位を与えら

れている。同計画は1995年度を初年度とする5か年の計画であり、行政情報化推進のための各

種整備方針等の基本的な事項と、これに基づいて各省庁が共同・分担する共通実施事項が定め

られていた('3)。ところで、 この計画は早くも1997年12月に改定されることになる。その理由

(6)

は、当初の計画に掲げられていたいくつかの目標が早々と達成されてしまったこと、そして計 画策定当時は予想もできなかったほどインターネットが急速に普及してきたことである(M1。

ここで注目すべきは、改定後の計画において、 「情報通信技術の活用による事務・事業の簡素 化.効率化及び行政運営の高度化」を実現するための方策の一つとして「民間へのアウトソー シング等の推進」の項目が新たに設けられていることである。その中では、以下のように民間 委託に対する積極的な姿勢が打ち出されている。

「(1)既存の情報システムについて、事務・事業の形態に応じ、一括して民間に委託 するアウトソーシングを含め、運営管理の各般にわたる外注化を積極的に行い、運営 の簡素化・効率化・高度化を推進する。

(2)業務の新たな情報システム化にあたっては、事務・事業の形態に応じ、運営管 理を一括して民間に委託するアウトソーシングを積極的に推進する。」 ('5)

行政情報化推進基本計画には地方公共団体等との連携協力が認われており、国が地方公共団 体に対して行政情報化の推進を要請する旨の文言が含まれている。それゆえ、そこで打ち出さ れた民間委託の拡大の方向は、地方政府における情報システムの在り方に対して少なからぬ影 響を与えると考えられるだろう。

また、平成9年12月3日に出された行政改革会議の最終報告の中でも、官民の役割分担を徹底 させ、 さらに民間の能力を活用するための方策として民間委託の推進が強調されている。同最 終報告は、さらに積極的な委託化が必要とされる事務事業として、社会資本整備や各種国家資 格・認定業務、営繕・国有財産管理などとともに、集計やデータベースの作成・提供などの情 報処理に関わる業務を挙げている。

次に、地方自治体の情報化に関わる文書を取り上げてみよう。先述の行政改革の例と同様、

地方の情報化も国から通知された指針に従って進められることが多い。自治省はこれまで地方 自治体の情報化についての指針を作成し、 さらなる行政の情報化を促してきた。最近のもので は、 1995年5月に策定された「地方公共団体における行政情報化の推進に関する指針」が挙げ られる('6)。そこでは、分散型の情報システムの構築や通信ネットワーク整備の必要性が指摘 されているが、情報システムの民間委託については触れられていない。その重要性が明確に打 ち出されているのは、自治大臣官房情報政策室が1997年7月に発表した「高度情報通信社会に 対応した地域の情報化の推進に関する指針の概要」においてである。そこでは、地方の情報通 信基盤整備のために必要な事項として、地域情報化計画の策定、技術進歩への対応、広域的な 推進体制の3つが挙げられている。このうち、急速な技術進歩に対応するためには、外部コン サルタントの活用及びアウトソーシングを検討することが必要であると指摘されている。

3情報処理業務に関わる民間委託の現況一地方自治体の場合

前章で見たような議論の流れの中で、地方自治体はコンピュータをどのように利用している

−17−

(7)

のか。

地方自治体が本格的にコンピュータを業務に利用し始めたのは1960年代に入ってのことであ る。その最初の例は1960年12月に導入した大阪市であった。その後、 1961年に京都市と西宮市、

1962年に札幌市、 1963年には神奈川県及び東京都、そして江戸川区、渋谷区と拡がり、利用団 体数は増加していくことになる。

今や電子計算機はほとんどの市町村に普及している''7)。 1997年4月1日の時点では、全市町 村の99.3パーセントにあたる3232の団体が利用団体となっている。電算関係経費(当初予算額)

の総額で見ても、 1987年4月には2505億7700万円であったものが、 10年後の1997年4月には4638 億8200万円と2倍弱の増加を示している''8)。

地方自治体が電子計算機を利用する際の方式は、以下の4つに大別される。第1は、単独導入 方式である。これは、自治体が単独で特定の業務のための電子計算機を導入し、自前で業務の 処理を行うものである。第2は共同導入方式である。複数の自治体が事務組合や協議会を共同 で設立し、そこにおいて電子計算機を導入するのがこの方式である。第3は、民間の計算セン ターなどに電算処理の委託を行う単独委託方式である。第4は、複数の自治体が共同委託組織 を設けて委託を行う共同委託方式である。

これらのうち、地方自治体はどのような方式を実際に採用しているのか。自治体におけるコ ンピュータ利用が広まっていく中で、 70年代あたりまでその利用形態の中心を占めていたのが 委託形式であった。市町村及び特別区について見れば、 1973年4月1日時点での利用団体数は 1827 (全市町村特別区の55.4パーセント)であり、そのうちの約79パーセントにあたる1438が 委託団体である。単独導入及び共同導入を含めた導入団体は残りの389で、わずか20パーセン

ト強に過ぎなかった1'91.

ところが、80年代に入って委託団体が減少し、それとともに導入団体数が増加していくよう な傾向が現れてきたとされる。自治大臣官房情報政策室が1997年4月に行った『電子計算機の 利用状況調査』を基にして、そのことを見てみよう (20)。導入団体と委託団体の数が逆転する のは、 1988年のことである。同年4月1日の時点では導入団体数はl634に上り、委託団体は1581 となった。この傾向はその後も持続されていく。 1997年4月時点での導入団体数は、 2719とな っている。その内訳は単独導入が2568,共同導入が151である(剛)。その一方で、単独委託と共 同委託を併せた委託団体数は年々減少していく。先述のように1988年には1581あった委託団体 は513 (単独委託が481,共同委託が32)へと減少しており、導入団体の5分の1以下の数でしか ない。 「情報サービス産業白書』はこの理由として、 ワークステーションやパーソナルコンピ ュータの登場によるダウンサイジング化が進んだこと、そしてコンピュータそのものの操作性 が高まり、操作に従来のような専門性が求められなくなったことの2つを挙げている(22)。

上に上げた数字を一見すれば、情報処理業務を民間へ委託している状態から脱却して、 自前 でそれを実行しようとする自治体が増加しているように思われる。情報処理の民間委託に関し、

それを「業務委託の目的は、現行の業務処理水準を低下させずに、増大する業務需要や情報処

(8)

理の高度化に対応する要員確保にあり、その本質は一過性(目的が消滅すれば廃止する。)の もの」(23)と捉える立場からすれば、今や自治体の内部で電算関係要員が充分に養成され、最 近のハードウェアの性能向上と廉価化も相俟って、 もはや自治体が民間に頼る必要がなくなっ てきているとの見方がなされるかもしれない。

だが、このような結論を下してしまうのはやや早急に過ぎる。その理由として、2つを指摘 しておこう。第1の理由として挙げられるのは、上で取り上げた自治省の調査における「導入 団体」の定義の問題である。そこにおいては、単独導入団体は「行政委員会を除くすべての部 局のうち一部でも単独で電子計算機を導入している団体」と定義きれる。また、共同導入団体 についても、一部の業務について単独で委託処理している場合を含むものとされている。つま

り、電算業務の大半が委託され、ほんの一部を自己導入で処理している自治体までもが導入団 体として扱われているのである。

このような定義に基づいた数字は、必ずしも民間委託の現状を正しく示すものではない。そ の根拠となる数字を挙げるのは容易である。平成9年4月1日の時点で、電算関係の派遣要員を 受け入れている市は657のうち約半数の331 (50.3パーセント)に及んでいる。さらに、パンチ 処理やソフトウェア開発など何らかの目的で電算関係の委託費を支出している市は616 (全体 の93.7パーセント)に上る。

実際、地方自治体が情報システムを運用する際に、委託に依存する度合いは高まってきてい るとの見方も存在している。ある自治体の情報システム担当者は、今後の情報システム開発に あたっては、民間のノウハウ、技術力を活用する委託の必要性はますます高くなってくるとの 意見を述べている(24)。また、北九州市などは、当初は自己処理を行っていた電算業務を徐々 に委託に切り替えつつある(25)。もちろん、そのようなケースが例外的であることもあり得る。

しかし、少なくとも上に挙げた調査の結果だけから、自己導入が増えて委託が減少していると の結論を単純に引き出してしまうことには大きな問題が含まれているといわざるを得ないだろ

う。

そして、第2の理由として挙げられるのは、電算業務の処理において、自己導入形式と委託 形式とが錯綜する形態が現れてきていることである(26)。単一の自治体内でも、情報システム の種類によって自己導入と委託とが併用されていることが多くなっている。京都府宇治市の例 を取ると、パソコン及びワークステーション以外で運用されている行政情報システムの数は28 であり、そのうちの20が委託によって運用されている(27)。委託するか、それとも自己導入を 行うかについての選択は、当の業務の性質等の様々な要因によって規定されると考えられる。

たとえば、情報システムの開発及び保守については基本的に委託するが基本設計までは市が行 う、 という方式や、汎用機は委託処理だが小型機は自己処理、 といった複合的な方式も存在す る(28)。最近ではクライアント ・サーバー・システムを導入し、サーバー機となるワークステ ーションのソフトウェア開発と保守は委託運用管理とハードウェア管理は自己処理といった 方式を採用する自治体も増えてきている。

−19−

(9)

このように、実質的に導入団体と委託団体との間に裁然たる区分を設けることは困難である。

それゆえに、民間委託について考察するために必要となる指標は、直営か委託かの2値のみを 取るのではなく、委託への依存の「程度」を示すものでなければならない。そのための新たな 指標を作成する作業を含めて、次章以降においては数量データ分析を用いつつ情報システムの 委託の現況を明らかにするとともに、委託の採用に影響を与える要因について考察することに

したい。

4民間委託の導入に影響を及ぼす要因一データ分析一

4‑1データの概要

本稿では、分析対象を市及び特別区に限定する。全国の674 (1997年4月1日現在)の市及び 特別区から、系統抽出法を用いて303のケースを抽出した。そのうちには、7つの政令指定都市 (川崎、名古屋、京都、大阪、神戸、広島、北九州)が含まれている。サンプルの人口の平均 は14万5349.96人であり、最多が大阪市の247万8999人、最少は歌志内市の6606人であった。ま た、そこには人口40万人以上の自治体が19含まれている。上に挙げた自治省の調査の定義に従 った利用形態の分類について見れば、単独導入団体数は294 (97パーセント)、単独委託団体数 は6(2パーセント)、そして共同導入団体数は3 (1パーセント)であった。これらのケースに ついて、主として「平成9年度地方自治コンピュータ総覧』及び『平成8年度市町村別決算状況 調』からのデータを用いてデータファイルを構築した(鋤)。

4‑2民間委託への依存度−その測定一

情報処理分野における委託は、次の5つに大きく分類される(30)。第1は、電算処理の委託で ある。これは、コンピュータによる処理全体を民間業者などに委託するものである。第2は、

SE,プログラマー、キーパンチャーなどのコンピュータ要員の派遣委託である(31)。我々のデ ータでは、303のケースのうち電算関係の派遣要員を受け入れている自治体は144(全体の48.9 パーセント)あり、その平均派遣要員数は4.49人であった。最多は名古屋市の102人である。

第3はシステム開発の委託である。これにはシステム開発全体を委託するものからプログラム の開発のみを委託するものまで、様々な範囲のものが含まれる。オンラインシステムに関して いえば、301のケース(オンラインシステムを運用していない2つの自治体を除外している。)

のうち、その97.4パーセントにあたる293の自治体が何らかの形でシステム開発の委託を行っ

ている。第4はデータ入力委託である。大量データの入力作業が職員によって行われる例は現

在では稀であり、ほとんどが派遣要員もしくは企業への委託によって行われている。我々のデ

ータによれば、パンチ処理を外注している自治体の数は182であり、全体の6割を超えている。

(10)

そして、第5は電子計算機や周辺機器などに対する保守の委託である。

このように、委託が行われる業務の分野は多岐にわたっている。しかも、一つの自治体の中 でも業務ごとに自己処理と委託とが併用されることが多い。自治省調査の定義に基づいた自己 導入団体数と委託団体数の比率のような数字は、必ずしも民間委託の実態を正しく反映してい るわけではないのである。

そこで、このような問題点を踏まえて、派遣要員委託やシステム開発委託の程度など様々な 委託の形態に関する情報をできる限り縮約して、委託への依存度を測るための総合的な指標の 作成を試みてみたい(32)。そのために、 まず電算業務に関して以下のように操作化された変数 を投入して、主成分分析を行うこととした(33)。すべての変数について、委託の程度が高いほ どポイントが高くなるようにコード化してあることに注意されたい。また、各変数についての 基本統計の結果は表4‑2‑lに示されている。

表4‑2‑1 各変数の基本統計

変数 平均 標準偏差 最大値 最小値

派遣要員委託の程度(1) 派遣要員委託の程度(2)

外注処理の程度 オンライン・システム 所管の委託

オンライン・システム 開発の委託

大量定型業務の委託(1) 大量定型業務の委託(2)

非定型業務の委託

0.1834 0.1698 0.2082

0.2212 0.2182 0.1937

000

111

7.972E-02 0.2082 1 0

0.7505 0.1879 0.2424 0.1026

0.2788 0.3605 0.4114 0.2618

0000

1111

1派遣要員委託の程度(1) ・ ・ ・自治体ごとの電算関係の所属職員数と電算関係派 遣要員数を併せて電算関係総職員数とし、そのうち派遣要員が占める割合とした。な お、電算関係職員がゼロである自治体については、欠損値として処理している。

2派遣要員委託の程度(2) ・ ・ ・自治体ごとの電算関係経費のうちの所属職員の人 件費と派遣要員人件費とを合わせて電算関係総人件費とし、そのうちで派遣要員人件 費が占める割合とした。この変数についても、電算関係総人件費がゼロである自治体

‑21‑

(11)

については、欠損値として処理した。

3外注処理の程度・ ・ ・自治体ごとの「外注処理費用」のうち、 「マシンタイム借料」

及び「その他」の項目を除いた「パンチ費」 「ソフトウェア開発費」 「電算処理費・そ の他」の3つの合計額が、電算関係経費全体に占める割合とする。

4オンライン・システム所管の委託・ ・ ・各自治体が運用するすべてのオンラインシ ステムのうちで、CPUの所管区分が全台数委託先となっているシステム数の割合と する。ちなみに、サンプルデータのうちでオンラインシステムを保有している自治体 の数は301であり、平均保有システム数は5.54であった。用いたデータでは、CPUの 所管は「全台数自己所管」、 「全台数委託先所管」、そして「一部自己、委託先所管」

の3つに区分されている。このうち、 「一部自己、委託先所管」に区分されるオンライ ンシステムについては0.5とカウントした。オンラインシステムを運用していない自 治体については欠損値として扱った。

5オンライン・システム開発の委託・ ・ ・各自治体が運用するすべてのオンラインシ ステムのうちで、システム開発が委託によって行われたシステム数の割合とした。オ ンライン・システムの開発についても「自己開発」 「委託開発」 「共同開発」の3つの 区分が存在する。 「共同開発」によるシステムについては、 0.5とカウントすることに した。この変数についても、オンライン・システムを運用していない自治体について は欠損値とした。

6大量定型業務の委託(1) ・ ・ ・大量定型業務の典型として、税務関係業務に焦点 を合わせる。この業務についての委託の程度を測るものとして、各自治体における住 民税、固定資産税、軽自動車税、都市計画税、国民健康保険税に関わる電算業務のう ちで、委託処理されている業務数の割合を採用した。委託されている業務の数そのも のでなく割合を採用したのは、取り上げたすべての自治体がこれら5つの業務すべて を電算処理しているわけではないからである。また、単独委託処理だけではなく、共 同委託処理がなされている場合も委託と見なしている。併用処理については0.5とカ ウントした。

7大量定型業務の委託(2) ・ ・ ・大量定型業務のもう一つの典型例として、給与計

算を取り上げる。この業務に関して、委託がなされていればl、そうでなければ0,併

用処理は0.5とコード化した。給与計算を電算処理していない自治体については、欠

損値として処理している。

(12)

8非定型業務の委託・ ・ ・非定型業務の例として、財務会計業務を取り上げる。具体 的には、予算査定、予算配当、資金管理、財産管理、起債管理、物品管理、会計経理 の7つの業務のうち、委託処理されている業務数の割合を採用した。これについても、

取り上げた業務のすべてが電算処理されているわけではないがゆえに、割合を採用す ることにした(34)。

表4‑2‑2主成分分析の結果

変数 第1主成分 第2主成分

派遣要員委託の程度(1) 派遣要員委託の程度(2)

外注処理の程度 オンライン・システム 所管の委託

オンライン・システム 開発の委託

大量定型業務の委託(1) 大量定型業務の委託(2)

非定型業務の委託

817329 557 ●●● 一一

、818 .827 .172

450 、338

67342632 5786 ●●●●

、262

.267 .138 .198

固有値 説明率(%)

3.348 41.845

1.695 21.185

主成分分析の結果は表4‑2‑2に示されている。固有値1以上の基準で、2つの主成分が析出され た。この2つの主成分で分散の63.03パーセントが説明されている。第1主成分の因子負荷量に 目を向ければ、派遣要員委託の程度に関するもの以外の6つの変数で正の方向に高い値を示し ており、派遣要員委託の程度についての2つの変数において負の方向に比較的高い値を示して いる。それゆえ、この第1主成分を「情報処理業務の委託対派遣要員委託」の軸と解釈するこ とにする。情報処理業務自体の外部への委託の程度は、派遣要員への委託の程度とトレード・

オフの関係にある、 ということになる。第2主成分に注目すれば、派遣要員委託の程度につい ての2つの変数が他の変数と比較して際だって高い因子負荷量を示している。派遣要員委託の 程度は、業務委託のそれとは独立した次元を構成しているとも考えられる結果である。そこで、

−23−

(13)

第2主成分を「派遣要員委託の程度」を表す軸と解釈することにしよう。

以後の分析においては第1主成分及び第2主成分の主成分得点に注目し、前者を「業務委託の 程度」の尺度値、そして後者を「派遣要員委託の程度」の尺度値を表す変数と考えることにし たい。表4‑2‑3には、それぞれの変数の値の最上位及び最下位から10番目までの自治体名が示さ れている。

これら2つの変数が他の様々な要因とどのような関係を持つかを明らかにすることが、以下 の分析の中心となる。

表4‑2‑3委託の程度における自治体順位

派遣要員委託の程度 下位 業務委託の程度

下位 上位

上位

231郡山市 230福山市 229−宮市 228臼杵市 227川西市 226宇土市 225富士吉田市 224成田市 223春日市 222高浜市 l宇土市

2富士吉田市 3臼杵市 4春日市 5飯塚市 6彦根市 7八幡浜市 8阿南市 9秦野市 10大洲市

231米子市 230両津市 229沼田市 228越谷市 227飯山市 226美唄市 225常陸太田市 224蓮田市 223盛岡市 222羽島市

l桐生市 2文京区 3田辺市 4相生市 5大竹市 6浜田市 7練馬区 8須崎市 9香芝市 10甘木市

4‑3民間委託全般との関連

まず、各自治体の民間委託全体の規模と、情報システムの委託への依存度との関連について みておきたい。清掃や学校給食など多くの業務を民間委託に依存している自治体は、情報シス テムの運用についても委託に依存している度合いが大きいと予想される。

そこで、委託全般の規模を示す変数として全体の委託料が歳出総額に占める割合を用い、

「業務委託の程度」及び「派遣要員委託の程度」との相関係数を算出してみた。ここで注意す

べきは、委託の程度を算出する際に用いたいくつかのデータが、全体の委託料との関連性を持

つことである。たとえば、外注処理費や派遣要員の人件費は委託費に含まれるし、オンライン

システムの所管が委託先にある割合が高くなれば、それは委託費の上昇に反映されるとも考え

(14)

られる。それゆえ、 「業務委託」の程度及び「派遣要員委託の程度」と全体としての委託への 依存度との間には、高い相関関係があって当然とも考えられよう。だが結果として、両者の間 には5パーセント水準においても有意な相関は見いだせなかったし、相関係数自体もきわめて 低い値であった(35)。情報システムの委託が、他の業務の委託とは異なる論理によって行われ ていることを予想させる結果である。

ただし、 自治体においては、 目的をほぼ同じくする支出であってもそれを委託料とするか、

それとも補助金とするかの選択は窓意的に行われることがあるという (36)Oそれゆえ、 ここで 用いた委託料が必ずしも委託の真の規模を表すものといえないことについては留意しておくべ

きであろう。

4‑4財政要因との関連

民間委託の最大の効果の一つは、 コストの削減にあるといわれる(37)。地方自治経営学会が 1984年12月に発表した『公・民のコスト比較一公営のコスト高の要因分析』は、 自治体が業務 を民間委託した場合のコストの削減率を平均して約50パーセントと試算している。ゴミ収集や 庁舎清掃などの25の業務をすべて委託するならば、人口20〜30万人の自治体では約40〜50億円 のコスト削減効果があるとの試算も示されている(38)。

アメリカでは、連邦政府支出の削減を目的として、 1966年に発布された行政管理予算局の回 状A76 (1967年及び1979年に改訂)を指針として積極的な民間委託が進められてきている。そ こにおいては、ビジネスにおいて政府と一般国民とが競合してはならないことが原則として提 示されており、 さらに競争によって経済発展と生産性の拡大を実現すること、政府の機能を限 定すること、そして民間部門を信頼することの3つの方針が定められている。これらの原則と 方針に基づき、政府の職務行為のうちで「商業的行為」と見なされうるものについて、政府部 門と民間部門のパフオーマンスを比較して前者が後者に劣る場合にはその職務の遂行を民間部 門に委ねなければならない(39)アメリカ政府はこのような措置により、実際に20から30パーセ

ントの経費を削減しているといわれる(40)。

そこで、 まず民間委託の効果について考察することにしよう。問題となるのは、我が国の自 治体において、民間委託の効果はどのように現れているのかということである。実際のところ、

民間委託の効果を正確に評価することは困難であるし ')、民間委託が行われる前後の時点で のコストの比較を行うことは、我々の用いるクロス・セクショナルなデータからは不可能であ る。そこで、各自治体の民間委託への依存度と財政状況との関連を見ることによって、 この問 題にアプローチしてみたい。

まず、全般的な民間委託の規模と財政状況との関連について見ておきたい。ここでの全般的 な民間委託の規模を表す変数は、先に用いた全体の委託料が歳出総額に占める割合である。財 政状況については、 1997年度の公債費比率及び財政力指数の2つを取り上げた(42)。両者の関係

−25−

(15)

を示す回帰式は次のとおりである。 (括弧内の数字は標準誤差を示している。)

財政力指数=、323+7.621×歳出総額に占める委託費全体の割合 (RP=.365)

(、033) (、589)

公債費比率=17.611‑62.991×歳出総額に占める委託費全体の割合(R2=.174)

(、452) (8.04)

決定係数は高くはないが、どちらの回帰式においても1パーセント未満の水準で委託の規模 が財政状況に有意な影響を与えている。すなわち、民間委託へ依存している割合が高いほど公 債費の比率が低く、財政状況が健全な自治体であることが示されている。民間委託の採用は、

自治体の財政状況の改善に一定の影響を及ぼしていると考えることができるだろう(431。

それでは情報システムの委託と財政状況との関連についてはどうなのか。取り上げられるべ き問題は、情報システムの委託が各自治体の財政状況に何らかの影響を与えているかどうかで ある。そこで、 「業務委託の程度」及び「派遣要員委託の程度」のそれぞれを説明変数とし、

財政力指数と公債費比率を被説明変数として回帰分析を試みてみた。その結果を示すことは省 略するが、 5パーセント水準においても有意な回帰式は得られなかった。情報システムの運用 においてその多くを委託に頼ったとしても、そのこと自体は財政状況の改善につながっていな いことになる。

もっとも、この結果だけをもって両者の関連について即断することはできないだろう。我々 が用いたデータにおいては、各自治体の歳出額全体に占める電算関係費の割合は平均でわずか 0.96パーセント (SD=0.442 (パーセント))に過ぎなかった。それゆえ、仮に情報システムの 委託が経費削減効果を及ぼしていたとしても、その効果はマクロな指標である財政力指数及び 公債費比率には反映されにくくなっているとも考えられる。

さらに、民間委託の程度と財政状況との関係は、上に見るような単方向的なものではない可 能性がある。すなわち、財政状況の悪い自治体ほど、それを改善するために民間委託を積極的 に導入しようとしている可能性も無視できない。民間委託が財政状況に及ぼす効果が現れるま でに一定のタイムラグが存在すると仮定するならば、 クロス・セクシヨナルなデータを用いた 場合には各自治体の財政状況と民間委託の程度との間に負の相関関係が出現するとも考えられ

る。

そこで、情報システムの民間委託と財政状況との関係を双方向的なものと考え、 とりあえず

相関係数を求めることによって両者の関連を検証することとした。民間委託の程度の指標とし

ては「業務委託の程度」及び「派遣要員委託の程度」、そして財政状況としては財政力指数と

公債費比率を用いた。その結果は表4‑4‑lに示されている。5パーセント水準では有意な相関は

得られず、かろうじて10パーセント水準において「業務委託の程度」と財政力指数との間に負

(16)

の相関が見られる。この結果は、財政状況が悪い自治体ほどそれを改善しようとして積極的に 民間委託を導入しているとの予想とほぼ合致する。その一方で、他の相関係数の符号に着目し てみれば、委託の程度に関する2つの変数と公債費比率との間の負の相関、そして「派遣要員 委託の程度」と財政力指数との間の正の相関はその逆の可能性、すなわち財政状況が健全な自 治体ほど委託に多くを依存している可能性を示している。民間委託の程度と財政状況との関連 が双方向的なものであること、そしてなおかつ民間委託の採用からその効果が現れるまでにタ イムラグが存在していることを前提とするならば、これらの結果は必ずしも矛盾するものとは いえない。財政状況の悪化に伴う民間委託の採用がすでに効果を及ぼしているか、それとも未 だその効果が現れていないかの違いが、ここでの相関の方向の違いをもたらしているとも考え られるからである。特に、 「派遣要員委託の程度」及び「業務委託の程度」に関し、財政力指 数との間で相関係数の符号が異なる点については、前者の効果が後者のそれよりもいっそう直 接的であって財政状況に迅速に反映されやすい一方で、後者の効果が現れるまでにはより長い 時間を要することを示していると解釈できるかもしれない。

表4‑4‑1情報システムにおける委託の程度と財政状況との相関係数(γ)

業務委託の程度 要員委託の程度

財政力指数

‑.117* 、077

公債費比率

一.085 ‑.039

N=221

☆p<.10

しかしながら、このような見方をさらに詳しく検証するためには我々のデータは充分である とはいえない。しかも、すでに見たように相関自体は有意でなく、相関係数について見てもす べてが低い値を示している。それゆえ、現時点では情報システムの民間委託が財政状況に影響 を及ぼしている可能性、さらに財政状況が情報システムの民間委託に影響を与えている可能性 については否定的な見方をせざるを得ないであろう。

4‑5 自治体規模との関連

民間委託が行われる理由としてしばし挙げられるのは、自治体の要員不足である。自治体の 業務量が増大する一方で、 自治体における定員の管理は厳しくなってきており新たな人員の増

−27−

(17)

加は望めない。そこで、現行の業務処理水準を低下させずに増大する業務量に対処するため、

外部への委託が選択されることになる 4)。

このことについて、情報処理業務を例に挙げて見てみよう。情報処理業務に対する需要は、

以下のような理由で急増している。第1は地方における行政改革の推進である。そこにおいて 情報化の推進は、行政改革が要請する効率化の実現をもたらすための重要な手段であると見な されるようになってきている(45)。第2は、情報化の進展に伴う情報処理機器の利用範囲の拡大 である。従来の大量定型業務への適用から、現在では政策形成を支援するための政策情報シス テムの利用へとその適用範囲は拡大してきている。このような状況において、さらに財政上の 制約の中で、自治体は電算関係要員の確保に努めねばならない。しかも、電算関係の要員確保 の問題は、単に頭数を揃えるだけの問題ではない。情報処理に関する業務はしばし高度な技術 力を必要とする。自治体内部で高度なスキルを持った職員が確保できない時、また、そのよう なスキルを持つ職員を養成することが困難である場合には、情報処理業務を外部に委託せざる を得なくなる。それゆえ、電算関係要員の内部確保が困難で、技術力に乏しい自治体ほど委託 への依存度が高くなると考えられる。

データを用いて上の議論を検証することにしよう。上に見たように、情報処理業務において の要員不足の問題は、 自治体の技術リソースとも密接な関係がある(46)。問題となるのは、各 自治体における要員確保の容易さ、 もしくは技術リソースを直接測るようなデータが利用でき ないことである。そこで、自治体の人口規模と歳出総額を代理変数として取り上げて分析を行 うことにした。人口の多い大規模な自治体ほど情報処理に関わる高度なスキルと要員を有して おり、小規模な自治体はその逆である可能性が高いと考えるからである。平成9年3月31日現在 における住民基本台帳人口及び平成8年度の歳出総額(ただし、どちらもその自然対数) と、

「業務委託の程度」及び「派遣要員委託の程度」との相関係数を求めた結果は、表4‑5‑1のとお りである。相関係数の値自体はさほど大きくないが、すべての組み合わせにおいて1パーセン ト及び5パーセント水準で有意な相関が見られる。自治体規模を表す変数と「業務委託の程度」

との間には、負の相関が現れている。この結果は、技術力と人材を有する大規模自治体ほど民 間委託に依存する必要性が低いとした先の議論を支持するものである。

表4‑5‑1 委託の程度と自治体規模との相関係数(γ)

要員委託の程度 業務委託の程度

歳出総額 (自然対数)

住民基本台帳人口 (自然対数)

、164★

、181☆★

★★★★ 2322 22 ●● 一一

N=231

★p<、05

☆☆p<、01

(18)

問題となるのは、自治体規模を表す変数と「派遣要員委託の程度」との間の正の相関である。

相関係数自体の低さには触れずに符号の向きだけに焦点を合わせるならば、これについては次 のような解釈が可能かもしれない。大規模な自治体ほど多くの派遣要員を受け入れているのは、

人手の不足を補うためと考えてみよう。これは、大規模な自治体ほど要員確保が容易であると した先述の仮定と矛盾しているようである。しかし、先程述べた要員とは、情報システムの運 営に関わる高度なスキルを有する人材を指していることに留意せねばならない。このような人 材については、大規模自治体は内部からの供給が容易である。その一方で、情報処理に関わる 業務のうちでも、高度な能力が要求されない比較的単純な業務、たとえばキーパンチャーのよ うな業務が派遣要員によって担われている可能性がある。仮に、自治体の規模が大きくなるに つれて職員一人あたりの仕事量も増加すると考えるならば、定員上の制約も相俟って、このよ うな業務については派遣要員に依存せざるを得なくなるだろう。そして、小規模で技術力に乏 しい自治体は、派遣要員を受け入れる以前に業務自体を委託してしまっているとも考えられ る。

ただ残念なことに、この議論を検証するための充分なデータは得られなかった。我々のデー タで明らかなのは各自治体ごとの情報処理業務に関する派遣要員数だけであり、派遣要員が具 体的にどのような業務に従事しているかまでは明らかでない。また、自治体規模と人手不足と の関係について例証するためには、 さらに精密な測定を要するであろう。それゆえ、ここでは 上の議論を仮説として提示するに留め、その検証については今後の課題としておきたい。

4‑6プライバシー保護との関連

民間委託の問題点としては、 l.営利本位になってサービスの平等や公正さが失われること、

2議会や住民の目が届きにくくなり、行政の民主性が失われるおそれがあること、3.同一業者 に継続的に委託している場合には、長期的にはコスト高になること、4.地方自治体の責任の所 在が不明確になり、行政責任の放棄につながりかねないこと、 5.委託先には公務員のような法 令上の守秘義務がないので、秘密保護がおろそかになりやすいことなどがしばし指摘されてい る(47)。このうち、情報システムの民間委託において最大の考慮が払われるべき事項の一つは 秘密保護の問題であろう。いうまでもなく、 自治体が扱う情報の多くは住民の個人情報を含ん でいる。外部業者にそれらの情報の取り扱いを委ねた場合には、外部への秘密漏洩の危険性が 高まることになる。地方自治情報センターが1994年に実施した『地方自治体における情報処理 のアウトソーシングに関する調査』 (人口40万人以下の市のうち84に対して実施)によれば、

「現行業務をアウトソーシングによる処理に移行しようと考えた時、主要な問題となってくる と思われるものを選択してください(4つまでの複数選択)」との質問に対して、調査対象の8 割以上にあたる71の市が、プライバシーなどに関わるセキュリティ対策を回答として選択して

−29−

(19)

いる。これは、2番目に多く選択された項目である「庁内外の理解」 (38市が選択)や3番目に 多く選択された項目である「現行システムのドキュメント化」 (28市が選択)を大きく上回っ ている(48)O

電子計算機処理に関わるデータの保護に関しては、比較的早い時期からその必要性が指摘さ れてきた。 1976年1月29日の各省庁事務次官等会議においては、すでにそのことについての申 し合わせが行われている。その内容は、電子計算機処理に関わるデータで特にその漏洩.滅 失.穀損を防止する必要のあるものについては、電子計算機を導入.管理する国の機関の長が 措置すべき事項の大綱を定め、規定を整備して管理の徹底を図るべきである、 というものであ った。この申し合わせの内容は、同日付けで自治大臣官房長通知「電子計算機処理に係わるデ ータ保護について」として地方自治体に指導されている。また、 1976年2月21日の自治大臣官 房情報管理官通知「地方公共団体が電子計算機処理を委託する場合におけるデータの保護につ いて」においては「電子計算機処理を委託する場合におけるデータ保護取扱要領」が通知され ており、委託契約に明記すべき事項についても指導が行われた"91.

これらを受ける形で、電子計算機で処理される個人情報に関して、その保護を目的とした条 例を制定する地方公共団体の数も増加していった。平成9年4月1日の段階では、 1312 (一部事 務組合8を含む、対前年110団体増)の地方公共団体において個人情報保護に関する条例が制定 されており、全団体に占める制定団体の割合は39.5%となっている。さらに、多くの自治体が データ保護に関する規則を定めるようになり、委託契約の内容にもそれに関わる措置が盛り込 まれるようになっていった。平成9年4月1日現在、外部委託に際しての受託業者などの責務や データ保護の確保措置などの規制を個人情報保護条例に含んでいる地方自治体の数は1156であ

り、条例制定済み自治体の88.1パーセントを占めている。 (釦)。

このような個人情報保護に対する配慮が民間委託の採用に何らかの影響を与えるであろうこ とは充分考えられる。そこで、 「個人情報保護条例を制定している自治体はそうでない自治体 よりも、情報システムの委託に関してより慎重な姿勢を示している」との仮説を提示し、その 検証を試みてみたい。用いたデータは、自治省による『地方公共団体における個人情報保護対 策制度化調』に基づく平成9年4月1日現在の個人情報保護条例の制定状況である。我々のデー タに含まれる303のサンプルのうち、 163の自治体が条例の制定団体となっている(5'1。また、

委託の程度としては、これまでに用いてきた「業務委託の程度」及び「派遣要員委託の程度」

の2つを採用する。

まず、個人情報保護条例の制定団体と非制定団体の間で委託の程度が異なるかどうかをt検 定を用いて調べることにした。表4‑6‑1の結果に示されているように、 「業務委託の程度」に関 して10パーセント水準において有意な差が見られるのみである。業務委託の程度だけに有意差 が現れているのは、業務自体を外部に委託するよりも外部からの派遣要員を受け入れる方が、

自治体にとっては情報漏洩に対するコントロールを行いやすいためとも解釈できよう。

(20)

表4‑6‑1個人情報保護条例の制定団体・非制定団体間の委託の程度の違い(平成9年4月1日 現在の状況)

業務委託の程度 平均値 標準偏差

派遣要員委託の程度 N 平均値 標準偏差

N

制定団体

139 ‑.105 、899 139 3.20EO2 1.06

非制定団体

92 .158 1.12 t=‑l.889

p=.061 (両側検定)

92 ‑4.84EO2 、902

t=.599

p=.550(両側検定)

だが、個人情報保護条例の存在が民間委託を制限する効果を及ぼしているとの結論を、 この 結果だけから引き出すのはやや無理がある。そこで、個人情報保護条例の存在が委託に及ぼす 影響は直接的に個人情報を扱う業務に現れやすいと考えて、別の分析方法を試みることにした い。対象とするのは、各自治体の住民記録オンラインシステムである。いうまでもなく、住民 記録オンラインシステムが処理する情報には個人状況や世帯構成、そして住所の経過状況など 住民のプライバシーに直接関わるものが多く含まれている。さらに住民記録管理は市町村の基 幹業務の中核を構成するものであり、電算化されている割合も他の業務と比較してきわめて高 い(52)。平成9年においては、電算処理を利用する全市町村(3232)の85.9パーセントが住民記 録管理を電算化している{罰)。我々のデータにおいても、名寄市l市を除くすべての市及び特別 区が住民記録オンラインシステムを運用している。それゆえ、分析にあたってより多くのケー ス数を確保するという点から見ても、住民記録オンラインシステムに焦点を合わせることは適 切であると考えられる。

分析の具体的な手順としては、 まず各自治体が運用する住民記録オンラインシステムの CPU所管区分を「全台数自己所管」と「全台数委託先所管及び一部自己、委託先所管」の2つ のカテゴリーに分割する。これを個人情報保護条例についての「制定団体」及び「非制定団体」

の2つのカテゴリーと組み合わせ、 クロス表を作成してX2検定を行った。結果は、 10パーセン ト水準においてかろうじて両者の関連が見られるのみである(表4‑6‑2)。

−31−

(21)

表4‑6‑2住民記録オンラインシステムの委託と個人情報保護条例の制定状況(平成9年4月1 日現在)

個人情報保護条例の制定状況 住民記録オンライン

システムの運用方法 制定済み 制定せず 合計

自己所管

134 97 231

委託

33 38 71

合計

167 135 302

2798 20

﹄一一一

Xp

さらに、別の分析方法を用いて同じ仮説の検証を行ってみよう。住民記録オンラインシステ ムの運用形態を、 「単独自己処理」、 「共同自己処理」、 「併用処理」、 「共同委託処理」、 「単独委 託処理」の5つのカテゴリーに分類し、これを5点から成る順序尺度と見なして「単独自己処理」

が5, 「単独委託処理」が1となるように値を割り当てた。これを住民記録オンラインシステム の委託の程度を示す指標と考え、マン・ホイットニーの検定を用いて個人情報保護条例の制定 団体と非制定団体との間で差が見られるかどうかを検証してみた(表4‑6‑3)。この結果におい ても、条例の制定団体の方が住民記録システムを自己処理で運営している傾向が見られるもの の、その差は10パーセント水準においてのみ有意である。

表4‑6‑3住民記録オンラインシステムにおける委託の程度についてのMann‑Whitney検定

タ11桁│| |訓〃 う29卜

MannWhimey'sU=10274.5

p=.096 (両側検定)

(22)

住民記録オンラインシステムに焦点を合わせたこれら2つの分析においても、上述の仮説は 充分には支持されなかった。それゆえ、個人情報保護条例に基づくプライバシー保護への配慮 が情報システムの民間委託に及ぼす影響は、実はさほど大きなものではないと考えられよう。

4‑7取引費用が与える影響

公的組織が民間委託を選択するかどうかを決定する際、考慮すべき問題の一つとなるのがコ ストである。特定の業務を内部で実施する場合のコストと外部に委託する場合のそれとを比較 し、前者が後者を上回る時には外部委託が選択される可能性が高くなる。重要なのは、ここで いうコストが次の2つの要素を含むことである。第1は生産費用である。生産費用は、アウトプ ットを生み出すために使用される土地や労働、そして資本といった資源の機会費用と定義され る。生産コストに関しては、公的部門自体が生産に携わるよりも民間部門に委託した方が安く つくと一般的に理解されている(51)。そして第2は取引費用(transactioncost)である。取引費 用は契約を実行する費用である生産費用に対置されるものであり、 「事前に契約を取り決め、

事後的にそれを監視.執行する費用」と定義される(55)。人間の性質についてH.サイモンのい う限定的合理性を前提とするならば、契約の締結において必然的に取引費用は発生する。現実 の取引に参加する人間は、完全な情報を有して完全に合理的に行動するわけではない。それゆ え、契約主体との間で将来に起こり得るあらゆる事態をあらかじめ想定し、それへの対処を備 えた契約を作成するためにはきわめて高いコストを払わねばならない。さらに、取引の参加者 はしばし機会主義的な行動を取り得る。ここでいう機会主義とは、取引において当事者が専ら 私利を追求するため、率直さや正直さ以上に欺臓が支配的になることを意味している。需要者 と供給者との間においてしばし生じ得る情報の非対称性は、機会主義のリスクをいっそう増加 させる。このような状況においてサービス供給者の行動をモニタリングすることは、高いコス

トをサービスの需要者に課すこととなる(弱'・

民間委託の選択にあたっては、生産費用のみでなく取引費用の存在にも考慮が払われねばな らない(57)。委託した場合の生産コストが低くなったとしても、それが高い取引費用を伴うも のであるならば、取引に関わる活動を内部化しようとするインセンテイブが組織において働く ことになる。この議論を情報システムの民間委託の問題に応用してみよう。まず重要なのは、

取引費用を規定する要因である(瓢)。これについては、取引が行われる場の特性が第1に挙げら れる。多数の競争者がいる完全競争に近い市場で取引が行われるならば、取引に必要な情報は 価格に集約されるし、機会主義に由来する駆け引き的行動によって価格に影響を与えることは 誰にもできなくなる。逆に、市場における競争者が少数となり市場が寡占的になってくれば、

取引に参加するプレーヤーの駆け引き的行動は顕著になる。たとえば、取引に必要な情報は供 給者の側に偏って所有されていることが多い。供給者の側は、駆け引き的行動によって意図的 に情報を操作しようとする。それに対抗して、需要者が取引に必要な情報を独自に収集しよう

−33−

(23)

とするならば、たいへんなコストがかかってしまう。このように、市場が寡占的であるならば 契約に際しての交渉は複雑で戦略的なものとならざるを得ないし、契約を成立させるためには 多くの人的能力と資金を投入せねばならなくなる。

情報システムの民間委託に関しては、業務を受託する意思と能力を持った民間専門業者は潜 在的に多いと考えられる(59)。もっとも、契約に関わる市場がどれほど競争的かについては、

自治体ごとに違いが見られるであろう。地理的制約などの条件が、他の地域からの業者の参入 を抑制する効果を及ぼすとも予想されるからである。残念ながら、たとえば業務を受託し得る 潜在的な民間専門業者数などの、自治体ごとの市場における競争の度合いを示すようなデータ は得られていない。利用可能なデータである自治体ごとの産業構造は、良質の指標であるとは いえない。ちなみに、第一次から第三次までの各産業の構成比と業務委託の程度及び要因委託 の程度との相関を求めてみたが、有意な関連は見いだせなかった。

ただ、ここで注意すべきは、実際には情報処理に関わる民間委託のほとんどが、発注者が受 注者を指定する随意契約によって行われていることである。地方自治法施行令167条の2は市町 村が行う契約の締結を随意契約によって行うことができるものとして、 「不動産の買い入れ又 は借り入れ、普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるた め必要な物品の売り払いその他の契約でその性質又は目的物が競争入札に適しないもの」と定 めている。一般的に自治体の委託契約は、この随意契約で行われることが多い。特に情報処理 に関わる委託については、コンピュータによる事務処理の方法が民間企業ごとに異なっている こと、そして、住民の個人データの取り扱いに際しては信用のおける事務処理会社に委託する 必要があることなどの理由から、ほとんどのケースでそのような形式が採られている("}・随 意契約方式の採用については効率性の観点からの批判もなされているが(61)、取引費用の節約 という点から見ればそこには一定のメリットも存在する。随意契約は契約の当事者間に長期的 で親密な関係を築かせる。当事者達が相互の理解を深め、慣例を作ることは相互の行動を調整 するための明示的な計画の必要性を減少させることにもつながるのである(鯉)。

いずれにせよ、情報システムの民間委託に関してはほとんどの場合に随意契約方式が採られ ているがゆえに、取引が行われる場の特性を変数として取り扱う必要性は高くないといってよ いだろう。それゆえ、民間委託の選択に影響を与える要因を考えるにあたって、ここでは自治 体ごとの市場の競争性をすでにコントロールされた要因と見なすことにしておきたい。

そして、取引費用を規定する要因として第2に挙げられるのは、取り引きされる財.サービ スの特性である。取り引きされる財・サービスの特性が複雑であるならば、その品質を客観的 に評価するのは困難になってくる。そのため、各メーカーの仕様や入札価格を細かく分析し、

何回も選定会議を開かねばならないようなことになり、その結果として取引費用は上昇する。

また、財・サービスの複雑性は契約を取り巻く不確実性をも増加させる。複雑な業務は作業環

境における変化からの影響を受けやすいため、契約の遂行においてどのような事態が生じるか

を予測するのは困難な事柄となる。この場合、あらゆる事態に備えた契約を作成することの.

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