マーケティング努力統合過程の分析
梶原禎夫
現代の企業で,マーケテイング・システムは,市場槻会を評価し,市場必 要に沿って競争力のある製品の計画と開発を援助し,広告や販売力で需要を 創造し,経路組織を通じて市場に製品を流通させるために維持される。マー ケテイング・システムでは,当然その効率化が要求されるが,システムの効 率は,個々のマーケテイング努力の水準と特性ばかりでなく,それらがどの 程度統合されているかにも依存する。
マーケテイング・システムとしての統合の対象領域が,単なる販売力組識 から,1900年代に入って市場支配のための製品差別化・広告・経路維持,そ して価格設定の機能を含め,さらに1930年代,特に1950年代になって新技術 や新市場の発展,競争の緊密化と関係して市場機会の発見や市場危険の圧縮 のために,製品政策,さらに進んで製品開発にまで拡張され,また広域化す る市場への供給量の増大ともに販売と緊密に調整されなければならないもの として物的流通が含められるようになって,しだいにマーケテイング・シス テムでの統合の重要性が高められてきた。
このようなより緊密に調整されなければならないマーケテイング機能領域 の拡大に伴ない,統合のための機構も整備されてきた。1920〜30年以降,企 業組織でのマーケテイング・マネジャーの地位が製造や財務と類似の水準に 高められ,統合中枢としての役割が期待されたが,まだ企業の総合的計画へ の参加の程度は低く,統合能力は弱かった。しかし,1940〜50年代になると,
マーケテイング・マネジャーは,最高管理機構に参加するようになり,製 造,財務,研究開発との必要な調整能力が与えられ,計画スタッフ単位も確 立され,その援助もえてマーケテイング努力統合のためのより強力な能力が 与えられることになった。また,製品の多様化とともに,製品別にマーケテ イング努力を調整する必要がうまれ,プロダクト・マネージャーを確立する
企業も現われ,統合の組織はさらに整備されるようになった。 1950年代後半 になると,企業でのすべての決定がマーケテイングに従属するマーケティン グ支配の企業も現われたが,このような企業では,マーケティング努力の統 合が企業の全組織をあげて追求された。マーケティング支配の企業は,消費 者必要は操作可能という前提のもとで,企業利益のために消費者の安全や健 康を害する,または社会的価値の少ない製品について,その特異性と大量広 告によって無差別市場創造を行い,高価格で消費者を収奪する傾向が強くな った。 1960年代後半から1970年代にかけて,このような企業行動に対し,消 費者の抵抗が拡大し,企業はマーケティングについての基本的姿勢の転換を 余儀なくされるに至り,マーケティング努力の統合の基準や領域に変化の傾 向が現われ始めた。
しかし,企業によって容易に操作されない消費者居の拡大や企業行動に対 する消費者の組織的抵抗は,マーケティング努力の構成要系の比較的重要性 に影響を与えつつあるが,それは決してマーケティグ努力統合の必要性その ものを損なうものではない。ただ消資者がより敏感に反応する局面が,例え ば製品外様の魅力や特異J性,高価格一高品質イメージから製品の安全性,信 頼性,仕松に移行しつつあるに過ず,このような消賀者行動の変化を基礎と して競争力強化のためにマーケティング努力の統合はなお追求されるのであ るD また,需要操作による無差別大量市場の創造が困難になっても,可能な 方法で市場影響力を強化し,売上や利益の水準を高めようとする企業の要求 には変化はなく,マーケテイング努力統合はむしろ厳しい泊資者批判のもと で,企業利益と消費者利益の均衡維持に苦悩しながら,その重要性が拡大さ れる傾向さえみられる口
すでに, 1910,.....,20年 代 に お い て , 例 え ば ArchW. Shaw (1915)や Percival White (1927)等によって,マーケティング努力統合の重要性の認 識がみられる。 Shawは,製品差別化と価格をマーケテインク、、の基礎変数,
広告,販売員,中間商を需要創造変数として識別し,基礎変数との関係も合 めて,需要創造変数の有効な結合が市場分折を基礎lこ科学的にみいださなけ
(1)
ればならな乙とを指摘している。また Whiteは,販売や広告だけでなく
市場調査や販売分析を含むマーケテインク事諸機能についての均衡のある専門 的組織の確立,そしてこれらの機能単位問,および,マーケティングと製造
・財務との聞の調整中枢としてのマーケテイング・マネジャー, さ ら に 価 格,広告,製品,経路,販売力を含む総合的マーケティング計画等の問題を とりあげることよって,マーケティング努力の適正化とその統合の必要性を
(2)
強調している。その後は,マーケティング諸要素聞の相互依存効果の指摘と その分析はみられでも,マーケティング諸要素の統合そのものについての研 究はほとんど進められなかったO ょうやく第二次世界大戦後になって,企業 におけるマーケティング努力統合の重要性の充分な認識とマーケティング・
ミクス概念の確立をまって,統合過程についての解析的研究が始められ,つ づいてシミュレーション分析,統合のための組織や情報システムの研究が行 われるようになったO
1950年代に入って,マーケテイング努力統合のためのマーケテイング・ミ クス概念が確立されると, P. ]. Verdoorn (1956)等によりマーケティン グ・ミクス最適化の分析的研究がスター卜したoVerdoornは最適ミクスの 必要条件を限界原理によって一般的に示したことと,最適ミクスの存在を図
(3)
示しただけに止まったが, Harry Al1ison (1961)はミクスの最適化過程を (4)
グラフ手法で説明したO そ の 後 , マ ー ケ テ ィ ン グ ・ ミ ク ス 最 適 化 の 研 究 は , 適 切 な 分 析 手 法 が み い だ さ れ な い ま ま 停 滞 し て い た が Robert Dorfmanおよび Peter O. Steiner (1954)の独占的競争下の企業均衡モ
(5)
デlレが分析機構として有用であることがようやく1960年代末に至って認識さ (6) れ,Dorfman ‑Steinerモデノレを基礎とした研究から出発して.Philip Kot1er,
(7)
]ean‑]acques Lambin等によってミクス最適化のための数学モデル,数量 モデノレ,競争モデル,ダイナミック・モデルの構成へと進められたO
解析的研究では,マーケティング変数を製品,価格,広告,販売力(販売 日活劫),経路の少数の変数に縮約してシステムを単純化し,変数間関係、も 数学的処理が可能な状態のもとで最適化が試みられてきた。しかしこの分析 は,それぞれ一つにまとめられた変数についても,例えば広告については媒 休別や市場別の変数を識別し,広告だけについて最適化が解析的に行なわれ
る場合のように,まとめられている変数それぞれについて最適化を行ないな がら,これらが相互調整を通じて一つのマーケティング・プログラムに統合 される過程として考えることができる。マーケテイング・ミクスについての 解析的研究は,このようなマーケティング努力における基幹的調整過程を問 題とするものである。
以上のような解析的研究とは別に, 11ark. E Stern(1966)や ArnoldE.
Amstutz (1967)に代表されるように,実際に統合が推進される機構や過程
(8)
についての研究がシミュレーションの手法で進められた。この研究方法で は,マーケテイング努力を構成する変数が,当初から詳細な水準で識別さ れ,変数間相互関係も実際に沿って複雑な形で取扱われ,系統的試行により 解が発見される。シミュレーション分析では,始めからマーケティング努力 を実際に近い状態で取扱うが,これによって解析的研究の有用性が否定され るのではなく,むしろ解析的研究の成果が導入され,可能な限り計算過程が 単純化されなければならないのであるD また解の構造は解析的研究によって
のみ明らかにされるのであるD
このようl乙1950年代以降P':,統合的マーケテインクゃ計聞についての研究は 進められたが,実際に統合が推進される組織についての系統的研究は殆んど 行われなかった。わずかに,統合のためには,マーケティング・マネジャー の職位をトップマネジメントの水準に高め,すべてのマーケティング要素の 決定や調整の責任を集中する組織変更の必要性や,製品別のマーケテイング の統合に責任をもっプロタγ ト・マネジャーの役割が評価される程度であっ た。また当然,マーケティング努力の統合に必要な情報収集機構の問題があ ったが,この問題についてもようやく最近になって研究が行われるようにな ったばかりであるo
本稿では,マースティング努力の統合計画についてのこれまでの主な解析 的研究の成果をレビューし,また必要な分析や吟味を追加しながら,全般的 な研究の発展のうちにおける個々の研究成果の意義を明らかにしようと試み るものである口また,分析や吟味の追加については,数値事例だけで示され ているモデルでは,マーケティング変数の最適値が算出されるだけで,一般
的な分析や吟味が欠けていることが多く,また可能なモデjレの拡張が見逃が されている場合があり,本稿ではそのような数値事例モデノレの一般化やモデ ノレの拡張により,これらを補うことも目的としているD
注(1) A. W. Shaw, Sαme Problems in Market Distribution (1915) p.17, pp.57,.....,,59.
(2) P. White, Scientifi・cMarketing Management (1927) p.100,.....,,101, 108,..."
113, 126""""128, 164""""166, 178
(3) P. J. Verdooorn, ,Marketing from the Producer's point of view", Journal of J.Vfarketing, January 1956.
(4) H. A1lison, Framework for Marketing Strategy" California Management Re,1収ω,January 1961.
(5) R. Dorf man and P. O. Steiner,Optmal Advertising and Opti‑ mal Quality, American Economic Review, December 1954.
(6) P. Kotler, Marketing Mix Decision for New Producfs, Journal
。fMarketing Research, February 1964.
一一一, CorporateModels; Better Markefing plans", Haπlard Business Review, July‑August 1970
一 CompetitiveStrategies Fov New Product Marketing over the Life Cyle", Management Scienee, December 1965.
(7) J.‑J. Lambin, Optimal Allocation. of Oompetitive Marketing Efforts: An Empirical Study. Journal of Business, October 1970. 一一一 A Computer On‑Line Ma訂rk王et加ng,M ix Model
Mげf必arketi印「句ngRe沿 ωseωar何eh,May 1972.
(8) M. E. Stern, lVfarketing Planning: a Systems A仲roach(1966) pp.105
""122.
A. E. Amstutz, Comρuter Simulationοf Comρetitive .A1 arket Response (1967) pp.127~156. 山下降弘沢「マーケテインクーの計畳モデノレJ (1969)
(ー)
現代の企業におけるマーケティング努力統合の研究は, Neil H. Borden
(1947)によるマーケテイング・ミクス概念の確立から出発したといえるD
Bordenは,企業における製品や物的疏通を含む広範なマーケティング変数 とこれらの変数に関連する市場諸力を識別することにより,マーケテイング 努力統合の分析的研究の基礎を築いたのであるD
1927年に, Harvard Bareau of Business Research によって食品業につ いての費用調査が,各種のマーケテインクゃ機能への費用配分について共通数 値を見い出し,企業経営の指針とするために行われたが,どのような企業分 類によっても何らの共通数値もみられなかったこと,また1947,...,48年におけ る ]amesW. Culliton による同様の,しかしより多くの事例についての調 査でも,やはりどのような基準で分類しても,有用な共通数値は見い出せな かったことについて, Bordenは,企業間で採用されるマーケテイング・プ ログラムが,企業が直面する市場諸力と企業の利用可能な資源の呈により大 きく異なると乙ろにその原因を求めた。企業により多様なプログラムがみら れるのは,その構成要素の結合が異なる乙とによるためで, Bordenはこれ
(1)
らの要素の結合をマーケティング・ミクス (marketingmix)とよんだ。
このように Bordenは,マーケティング・プログラムを構成する企業努 力の結合をマーケティング・ミクスとよび,その構成要素として,製品計 画,価格,商標,経路,人的販売,広告,販売促進,包装,ディスプレイ,
サービス,物的供給,事実の収集と分析をあげ,またマーケティング・ミク スの構成に直接影響する市場力として,消費者,商業者,競争者,政府の行 動を識別した。さらに,マーケティング・ミクスは,企業の資源,組織,市 J易地位の制約のもとで,市場諸力の反応を考慮しながら構成されること,マ ーケティング・ミクスは市場変化に対する一連の戦略であるため,補正行動 のために,それ自体のマーケティング活動,消費者,商業者,競争者に関する 情報の経路が維持されねばならないこと,またマーケティング・ミクスは社 会,経済,技術の長期的変動に対しても調整さねばならないことが示された。
Borden により広範なマーケティング変数が識別され,それぞれの変数 に,マーケティング成果をどの程度依存するかということと,その可能な限 度を規定する諸要素が明らかにされ,マーケティング変数操作の基本機構が
示されたことは高く評価されねばならない。しかし, Bordenのミクス概念 には,マーケティングの最終成果である売上を規定する企業努力の統合とい う面からは,事実の収集と分析という,他と異質の要素が含まれており,混 乱がみられる口事実の収集と分析は,製品,価格,経路,広告,物流等の直 接の対消費者活動についての問題解決のための情報供給活動であり,最終マ ーケティング成果との直接の関係はない。 Bordenは,別に,マーケテイン グ・ミクス補正のための情報経路の維持の必要性を示しているが,事実の収 集と分析は,この情報経路の維持と併せて,マーケティング・情報システム として捉えられるべきものである。事実の収集と分析は,マーケティング努 力統合の対象というより,統合の情報的基盤なのである。 Bordenのミクス 概念にこのような混乱がみられるのは,各種マーケティング機能への費用配 分がこの概念の背影になっており,調査活動への支出と,製品,経路,広告 等への支出とが単純に等置された乙とによっているO 調査活動への支出は,
製品,経路,広告等の問題解決のための情報価値との関係で決定されるべき ものであり,製品,経路,広告等それぞれへの支出に配分されるべき性格の 費用なのであるO
Alfred R. Oxenfeldt(l965)は, Bordenのマーケテイング・ミクス概念 が,マーケティング賀の各種用途への配分比率とこれらの費用が消賀者に影 響する過程を含んでいることについて,マーケテイング賀が即座に顧客アピ ーノレを生むものではなく,その効果も一定しないこと,また顧客アピーノレを 目的としない支出があること等の理由で,マーケティング費と顧客アピール の聞には必ずしも直接の関連がないとし,この概念のあいまいさを指摘す る。そして,彼は,マーケテイング・ミクス概念に代えて,アピーノレ・ミク ス (appealmix)の概念を提案する。アピーノレ・ミクスは,購買や使用の 便宜性,特異性,高級品の感覚,信頼性等で表現され,特定の顧客アピーノレ を創造するためには複数のマーケテイング・ミクス要素の結合が必要とされ る。 Oxenfeldtは,マーケティング費は,製品,価格,経路,広告の概念,
つまりマーケテイング・ミクス概念に基づく要素ではなく,その支出目的で ある顧客アピーノレに対応させる方が適切であるとするo また彼は,目標の顧
客アピーノレを創造するための企業努力の結合はマーケテイング・プログラム (2)
とよんでいるO
マーケテイング・ミクス概念の効用は,マーケテイング努力を製品,価 格,経路,広告等の水準で把握し,マーケティング努力の統合や最適化のた めに,その売上効果や賀用を考慮しながら,具体的な操作変数として利用す るところにあるo 先に述べたように, Bordenでは,マーケティング賀用を 機能別に分類し,それらの構成比率を基礎にしてマーケテイング・ミクス概 念を構成しているため,市場調査のようにその効呆が直接的には市場で現わ れないものが含まれ,またその他にも同じ性格の要素が含まれる可能性をも っているが,これらの点は, Bordenの概念がよく整理されていないとを表 わしているO しかし,このことは,マーケティング・ミクス概念に基本的欠 陥があるということではなく,ミクスの構成要素を,直接市場効果を生むも のだけに限定するだけで充分であるO マーケティング・ミクスをアピール・
ミクスに置き替えるといっても,アピーノレ・ミクスもマーケティング・ミク スに依存するのであり,マーケティング・ミクスを排除することにならな い。つまり,まずアピーJレ・ミクスが選択され,このアピーノレ・ミクスを創 造するためにマーケティング努力の結合が選択されるのであり,アピール・
ミクスの概念は,マーケテイング・ミクス概念に,変数としてのマーケティ ング努力の操作基準としてアピーノレ・ミクスを導入したものに過ぎない。し かし,乙こで,マーケテイング・ミクスの操作において,マーケテイング成 果を,まずアピーJレ水準で捉えるということについては,その意義を認めて よいであろうD なお乙の場合,所与のマーケティング賀の制限の下でアピー ノレ・ミクスを調整する場合以外では,総マーケティング費用の決定のため に,やはりアピーノレ水準の価値評価,つまりアピーノレの売上効果の測定の問 題は回避されない乙とに注意しなければならない。 Oxenfeldt自身も,マー ケティング・ミクス概念に代るものとしてのアピーjレ・ミクス概念に必ずし
(3) も固執していないことにも注目したい。
Oxenfedtのマーケティング努力統合問題についての貢献は, アピール・
ミクス概念の導入よりもむしろ,マーケテイングの計画過程で,マーケティ
ング・ミクスの構成の前に,標的市場 (markettarget)の設定が行なわれ ることを明示したことにみいだされるoOxenfeldt (1958)によると,潜在 顧客は製品に対する必要や欲求の程度,顧客に到達する経路の相異,特定の 販売アピールに反応する程度,立地等により分割されるが,標的市場の設定 とば,企業がその目標と能力に従ってマーケティング努力を比較的集中する
(4)
顧客若手を選択することであるO 市場は,同種の必要の充足のために異なる購 買行動をする消費者から成るが,競争の圧力が少ない場合には,企業は,こ のような消費者の必要を総括的に充足するだけで市場を維持できるが,競争 が緊密化すると,市場を比較的類似の購買行動をする消費者群に分割し,特 定の市場区分を標的市場として選択し,それにマーケティング政策を適合さ せてゆかなければ,市場の開発や維持は困難になる。一般に現代の企業は,
複数の市場区分を標的市場として,複数のマーケティング・ミクスで追求す る。このような複数のマーケティング・ミクスは,企業の総合競争力を強化す るばかりでなく,単一のミクスでは困難な市場区分への浸透が可能になる。
注(1) N. H. Borden,The Concept of the Marketing Mix", Journal of Advertising Research, J une 1964.
(2) A. R. Oxenfeldt, From Price Elasticity to the Marketing Mix‑
and beyond, The Business Quarterly, Winter 1965.
(3) A. R. Oxenfeldt. Executive Action in Marketing (1966) , p.759. ここ では,アピーノレ・ミクスの概念はとりさげられている。
(4) A. R. Oxenfeldt,The Formulation of a Market strategy", in Lazer and Kelley, Managerial Marketing: Perspectives and Viewpoints
(1958)
(二)
マーケティング・ミクス分析では当然その最適化の問題がとりあげられな (1)
ければならない。標的市場を追求することができるマーケティグン・ミクス は, ミクス構成要素のさまざまな水準と特性について考えられるためほう大 な数になるのがふつうである。企業目標からみて明らかに望ましくないもの
から遂次除いても,なお多数のミクスが残ると考られるo この多数のミクス をそれぞれ個別に評価し,企業目椋lこすぐれた貢献をすると期待される一つ または少数のミクスを選択する作業はほとんど実行不可能であろうD しか し,マーケティング・ミクスの量的側面,つまりミクス諸要素への資源配分 については,企業目標とミクス要宗との聞の数量関係を示すモデノレを構成 し,乙のモデノレの解によって最適なミクスの選択が援助される場合を考える ことができるO 勿論マーケティング要素の量的側面の結合は,要素の特性に ついての結合をも含むのであり,特性面の結合を除外して量的側面の結合だ けを考えることはできない。しかし,マーケティング要素への資源配分問題 を,各要素についての特性的側面についての調整を前提として行われる場合 に限定して考えることはできる。
さてマーケテイング・ミクスの最適化についての解析的研究は,まずグラ (2)
フ手法を用いた P.J. Verdoorn (1956)に始まるといってよい口 Verdoorn モデルでは,マーケティング・ミクスの構成要素として,価格,製品,販売 促進(広告と販売力を含む) ,経路が考えられ,これらの要素が,それぞれ 売上効果について収獲逓減することを前提として,手IJ潤極大化のために調整 される場合の最適結合の条件が明らかにされ,最適結合の存在が図示され るD まず,最適結合をもたらすための極大原理と選択原理が,次に最適結合 状態が示される。
極大原理は,ただ一つの要素が変更される場合に適用されるもので,その 要素の賀用は,もし売上増が,その追加的費用と売上増分の生産貨を加えた ものより多い限り増加させられることであるO 選択原理は,ある要素の賀用 の増加は,他の要素の貨用を同一額だけ増加した場合よりも多くの売上増加 が可能な限り選択されることであるO 極大化原理と選択原理により最適ミク スが達成されるが,最適状態は要素の中のいずか一つ,または要素の具なる 結 合 の い ず れ に よ っ て も 企 業 利 潤 が 改 善 さ れ な い 場 合 で あ るD さらに Verdoornは,最適化過程では,一定の売上拡大は生産買とマーケティング 賀の合計の極小のものによってもたらされなければならないこと,およびこ のようなマーケティングの限界貿用がマーケティング・ミクスのどの要素に
関係し,またその総量がどれだけであるかは,製品改善,広告,販売力等に ついての需要感度によって決定されるととを示している。最後に多数のマー ケテイング・ミクスの中から最適のものが選択される過程が図示されるo 乙 こで価格,品質,経路,促進の変数は,いずれも非連続で,収獲逓減し,生 産費は生産数量と品質の関数である乙とが前提とされるD そこで,横軸が販 売数量を,縦軸が総収益と総費用を表わす直交座標l乙,各種の価格水準のも とでの他の変数のミクスが,その費用と売上への効果との関係で描かれるO
まず,特定の価格が考えられ,総収益線が原点を通る直線として措かれるD
そして,品質,販売促進,経路の各種の結合が考えられ,それらの総費用と 売上への効果が評価されて,それぞれのミクスが座標に記入されるo こ乙で 極小費用のミクスをつないで極小費用曲線が描かれる。極大利潤のミクスは 総収益線と極小費用曲線の垂直距離の最大のものである。同様の手続がその 他の可能な価格水準について行なわれ,それらが同一座標に重ねて描かれ る口乙の図表から,価格も変数として含めた場合の,利潤を最大にするミク スがみいだされる。
このように Verdoornは,極大原理によって個々の要素の操作方向を,
選択原理によってどの要素が操作の対象とされるかを示し,最後に最適ミク スの存在を図示することにより,最適化の条件とその過程を示したものとし て評価してよい。更に,限界的マーケティング費用の支出の方向と呈がマー ケティング要素の需要係数(需要に対する感度)により決定されることが述 べられており,最適化への選択原理の具体的な作用過程lこまで分析が及んで いるとみなされる。しかし, Verdoornでは,モデノレの解が数学的手続によ っていないため,最適化過程での分析が,経済的lこ意味がある限界内に止ま るという利点はあっても,最適条件の厳密な変換を通じて多面的分析が行わ れるとか,最適結合それ自体についての分析が行われる機会が著しく限定さ れている。例えば,選択原理の変形としては,マーケテイングの限界史と需 要係数の関係が示されているだけであるo また最適結合の図解は,殆どその
(3)
存在を示すだけで,最適結合自体については何の分析も加えられていないo
マーケテイング・ミクスの分析的研究の展望は, Verdoorn によって与えら
れたが,その実質的進歩は数学モデルや数量モデルの導入によらねばならな かったのである。
しかしグラフ手法でも最適化過程のある程度の分析は可能であるoHarry Arrison (1961)は,マーケティング・ミクスの最適化過程をグラブ手法で
(4)
分析した。 Arrisonモデ、ノレでは,まず価格所与の条件の下で,各程の水準の 販売量を実現するための販売力(販売員活動〉と広告の可能な結合が,縦軸を 広告費,横軸を販売力量(時間で測定)とする直交座標で,両要素問の限界 代替率が逓減することを前提として,等量曲線 (q). q2…, q9)として示さ れ,そとへ販売力と広告の可能なすべての組合せによる各程の水準の等質用 線 (C). C2…. C9) が重ねて示されるo (図1)
図1. 広告と販売力の組合せによる等丑曲線と等賀用線
そして乙れらの等量曲線と等費用線の接触点が求められるD 各接触点に対応 する販売力と広告は,それぞれの等量曲線が表わす数量を販売するための最 適なものであるD 各等量曲線が表わす販売量に所与の価格を釆じて販売額を え,それぞれの販売量に対応する販売力と広告の最適結合から販売買用が明 らかになり,各販売量についての純収益(販売額から販売買を控除したもの) が算定されるo以上の手続が可能なすべての価格について繰返えされ,一群
の純収益曲線がえられるo (図2)乙れらの純曲線群の垂直距離の最大の部 図2 .異なる価格についての,広告と販販力の
浮世・ 収 益
最適結合のもとでの純収益曲線
P 6 P 5
販売数量
分をつないで,図で太線で示されている別の純収益曲線がえられる。この純 収益曲線は,販売力,広告,価格を最適に結合しながら販売量を拡大してゆ く場合の純収益の状態を表わしている。更に四番目の変数として例えば経路 組織が導入される。いくつかの経路組織について,乙れまでの三つの変数の 最適結合の下での純収益曲線を描き,また新しい純収益曲線群をうるD 先に 行なったのと同様に乙の曲線群をその垂直距離の最大の部分だけをつないで 別の純収益曲線をうるO この純収益曲線は,販売力,広告,価格,経路組織 を最適に結合しながら売上を拡大してゆく場合の純収益の状態を表わしてい るo 最後に,最終的な純収益曲線に対応して総生産費曲線が導入され,手JI潤 (販売額から販売買および生産究を控除したもの)が極大になる産出数量が 選択されるo
さて乙のようなグラフ手法による分析によって, Verdoornでは分析され ていない最適化過程が示されたということは認められなければならない。し かし,実際の長沼化がここで示された経路をとeれ る か ど う か に は 問 題 が あ るo実行可能な最適化過程ば,マーケテイング変数聞に均衡を維持しながら 売上拡大を行うというより,むしろ各売上水準については均衡を破壊する変
数操作を行ってより高い売上水準に到達し,変数の効果についての資料をえ た後に,最適条件を満すための変数調整を行うという過程であろうO 企業は 販売目標を設定して,必要なマーケティング努力を定めるという計画をとる 場合が多いが,乙の場合も均衡のとれないミクスの経験を迫じて最適ミクス に接近する過程しかとれない。いずれにしても,すべての売上水準で連続し て変数の最適結合を実現することは不可能であるo Allisonの分析は最適化 過程の合理的説明に過ぎず,最適化のための有効な手がかりはほとんどえら れないO
Verdoornでは最適ミクスの存在とその一般的条件が示され, Allisonで はその最適化過程に一つの説明が加えられたが,これらの分析手法ではこの 水準以上には出られず,マーケティング・ミクスの分析を更に促進するため には,数学的方法の導入が必要であったO 需要関数や賀用関数が数学的に表 わされ,必要に応じて特定の関係型が導入されたり,更に数量化されて,最 適化のための具体的手がかりとなる条件が誘導され,また変数調整が可能な 数量模型が構成されなければならなかったのであるO
註(1)企業管理者は,最適化ではなく,満足化を求めることが認められているの lと,マーケティング・ミクスの分析で,決定基準を極大利潤として適当かどう かの問題がある。管理者は,決定の選択肢について限られた知識しかもたず,
またこれらの選択肢から最適なものを選ぷ基準を確立するととができないとと が多く,決定に当って最適化より満足化を求めることが認められている。
(R. M. Cyert, H. A. Simon and D. B. Trow,Observation of a Business Decision," Journal of Business (October 1956) , H. A.
Simon Models of Man (1957) p.202, 272‑273)
ここで満足化とは,管理者が意志決定を行なう場合,可能な選択肢とその各々 の結果についての情報を探査することから出発し,彼が達成しようとする価値 について主観的な極小満足水準を満たす選択肢をみいだすまで,その探査を継 続することを意味する。乙の満足な選択肢の基準は,意志決定者の要求水準に より決定され, 乙の要求水準は意志決定者の平前の成功や不敗によって規定さ れる。意志決定者は,満足な選択肢の探査が不成功と分れば要求水準を低下さ
せ,満足な選択肢が容易にみいだされると要求水準を高める。しかし,とこで 一度,満足利潤が達成されると,それはもはや満足なものではなくなり,要求 水準はさらに引き上げられ,より高い利潤をもたらす選択肢の探査に至り,要 求水準の継続的上昇を経て,ついに極大利潤に至ることが示唆されていること に注意しなければならない。(J.Margo1is,The Analysis of the Firm:
Rationalism, Conventionalism, and Behaviorism," Journal 0] Business, July 1958. D. Bodenhorn, A Note on the Theory of Firm, J ournal 0] Business, A pril, 1959.)マーケイング・ミクスのモデノレの分析に おいて,一次近似として, 1"極大利潤Jを決定基準とする乙とは,管理者の利 益に対する要求水準は当初から高い乙とも考え併せると,不適当とはいえない。
(2) P. J. Verdoorn, Marketing from the Producer's Point of View", Journal 0] Marketing, January 1956.
(3) 荒川祐吉,現代配給理論 (960)p.88.
(4) H. Allison, Framework for Marketing Strategy", Cali]ornia Mαnagement Review, J anuary 1961.
(三)
Robert Dorfmanおよび Petero. Steiner (1954)は,企業が製品の品 質 水 準 , 広 告 , 価 格 を 操 作 す る 場 合 の 最 適 化 過 程 を 初 め て 数 学 的 に 分 析 し (1)
た。 Dorfman‑Steiner Modelは,マーケテイング・ミクス最適化の基本 (2)
モデルとして利用できるものであったが, Phi1ip Kot1er (1967) , David
(3)
B. Montgomeryおよび Glen L. Urban (1969) , Kristion S. Palda (4)
(1971)等 によりマーケティング・ミクス最適化のための基本モデノレと して利用されて以来,ょうやくその有用性が一般に知られるようになったO
D orfman ‑Steinerモデノレにおける製品, 価格,広告の同時均衡条件は,
より数学的に再143成すると次のようになる。
企業が,製品の品質,価格,広告賀を調3をするときの,企業の利潤と製品 の品質,価格,広告賀の関係を表わす校型を構成し,乙の校型から製品の品 質,価格,広告賀の最適ミクス条件を示すことができるo
次のように記号を定めるD
c 平均生産費 P:価格 q:販売量 R:利潤
S 広告費 x 品質水準
販売量qは,価格P,広告賀S,品質xの関数として,次式のように表わ す。
q = f( P, s, x) (3. 1) 平均生産費cは,販売量qと品質xの関数として,次式のように表わす。
c=c(q, x)
= c {f(p,s,x), x} (3. 2) 利潤Rは,次式のようょになるO
R =P'qーc・q‑s
=P・f(p,s,x)‑f(p,s,x)c {f(p,s,x), x} ‑ s (3. 3) (3.3)式が極大値をとるための必要条件は,次式のようになるo
θ R θ R θ R
8p 万長一=万三一=0 (3. 4) (3.4)式から次の均衡条件がえられるG
θf p o f ‑ p θf P Bx
‑ 一 一 一 一 一 ‑Bs q θ p q θ c θx
(3. 5)
乙の均衡条件について DorfmarトSteinerは, 特lこ吟味していないが,
次のように解釈できるであろうD つまり,最適マーケテイング・ミクスの条 件は I追加的広告賀θsに対する,この追加的広告による収益増pθfの比 率J, I価格修正分 θpによる収益減qθp~乙対する, この価格修正のもと での販売数量増分θfによる収益増pBfの比率J, I品質の追加的変更θx
θf
の賀用 q万玄に対する,乙の品質変更による収益柏 P万五?の比率」がすべて 等しいことを示しているO
さて,乙の最適条件は,弾力性概念を用いて次のように訪諒されるD
まず,需要の価格弾力性係数を 'lp,品質問i性係数を 71x, また広告の限界 価値生産物をμで表わし,それぞれを次のように定義するO
η p ‑ p θ f 一 一 一q θ p