レンズ空間のスピン精密化 Resheikhin-Turaev SU(2) 不変量
について
岡崎 建太 (京都大学 数理解析研究所)
∗ 概 要スピン構造に由来する精密化
Reshetikhin-Turaev SU (2)
不変量の 値を,
レンズ空間の場合について計算する.
またこの計算結果から,
精密化
Turaev-Viro SU (2)
不変量の値をレンズ空間の場合について導出する
.
1. 導入
1980 年代後半に Witten[13] は, 半単純コンパクト Lie 群 G に対して, 3 次元多様 体上の主 G 束における Chern-Simons 理論を考え, その相関関数がその 3 次元多 様体の位相不変量を与えるということを提唱した. Reshetikhin と Turaev[10] は
Witten の提唱した不変量を初めて数学的に厳密に定式化した. その後 Kirby と
Melbin[4] は, G = SU (2) の場合にこの不変量を精密化した. Lickorish[6, 7, 8], Blanchet[1] は G = SU (2) の場合に, これらの不変量を linear skein を用いて再定 式化した.
多様体がレンズ空間であるとき, Kirby-Melbin[4], Jeffray[2], S.Yamada[14], Li- Li[5] らによって Reshetikhin-Turaev SU(2) 不変量が, また C. Sato[12] によって Z /2 Z 係数 1 次コホモロジーに由来する精密化 Reshetikhin-Turaev SU(2) 不変量 の値が計算されている.
本報告ではスピン構造に由来するレンズ空間の精密化不変量 τ
4p(L(a, b), Θ) の 計算について, 以下のような結果を示したのでそれについて解説する.
定理
1. a を正の偶数, b を整数, p を正の奇数とし, a と b は互いに素, かつ a と p は互いに素であるとする. Θ をレンズ空間 L(a, b) のスピン構造とする. このとき 次が成り立つ.
τ
4p(L(a, b), Θ) = ( a
p
) ζ
8p∗− ζ
8−p∗ζ
8p− ζ
8p−1ζ
−(3
4s(b,a)+8aδ)∨
p
ζ
−3µ(L(a,b),Θ)16
.
ここに ( a
p )
は Legendre 記号, s(b, a) は Dedekind 和, µ(M, Θ) はスピン多様体 (M, Θ) の µ-不変量であり, p
∗∈ Z /8 Z は pp
∗≡ 1 (mod 8) をみたす元, 有理数 n/m に対して (n/m)
∨∈ Z /p Z は (n/m)
∨· m ≡ n (mod p) をみたす元とする. ま た, 符号 δ = ± 1 は 4 節の式 (9) によって定められる.
∗〒
606-8502
京都市左京区北白川追分町e-mail: [email protected]
web: http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~junes/
注意.
a が奇数のとき, L(a, b) は Z /2 Z ホモロジー球面であり, ただ 1 つのス ピン構造を持つ. この場合の精密化 Reshetikhin-TuraevSU (2) 不変量は通常の Reshetikhin-TuraevSU (2) 不変量の値と一致する. また a が偶数のとき, L(a, b) は ちょうど 2 つのスピン構造を持つ.
さらに Roberts[11] の結果を用いることにより, 定理 1 から以下のようにレンズ
空間の精密化 Turaev-Viro SU (2) 不変量の値を導くことができる.
系
2. a, b, p を定理 1 の通りとし, Θ, Θ
0を L(a, b) の相異なるスピン構造とする.
y ∈ H
2(L(a, b); Z /2 Z ) とする.
T V (L(a, b), Θ, y) をレンズ空間の精密化 Turaev-Viro SU(2) 不変量とする. この とき, 次が成り立つ.
T V
4p(L(a, b), Θ, 0) = 2
| ζ
8p− ζ
8p−1|
2, (1) T V
4p(L(a, b), Θ, y) = 2ζ
16−3(µ−µ0)| ζ
8p− ζ
8p−1|
2· {
ζ
p(2/a)∨a ≡ 2 mod 4
1 a ≡ 0 mod 4 (y 6 = 0). (2) ただし µ = µ(L(a, b), Θ), µ
0= µ(L(a, b), Θ
0) とおいた.
本報告の構成は以下の通りである. 第 2 節で linear skein の定義と性質について 基本的な事項を復習し, 第 3 節で linear を用いた精密化不変量の組み合わせ的な 定義を与える. そして第 4 節でレンズ空間についての精密化 Reshetikhin-Turaev SU (2) 不変量の計算を行い, 定理 1 の証明の概略を述べる. また, 系 2 を示す.
2. Linear skein
linear skein の言葉を用いることによって, 各不変量を量子群に関する知識を直接
用いずに構成することができる. この節では linear skein に関する基本的な事項 について復習する. 以下 r を 3 以上の整数,
ζ
r= exp(2π √
− 1/r), ∆
i= ( − 1)
iζ
2ri+1− ζ
2r−(i+1)ζ
2r− ζ
2r−1とおく.
F を曲面とし, 境界 ∂F 上に 2n 個の点(n ≥ 0)を順序もこめて固定したもの を (F, 2n) と表す. C 上のベクトル空間 S (F, 2n) を
S (F, 2n) = span
C{ (F, 2n) 上のタングル図式 } / ∼
で定める. ただし (F, 2n) 上のタングル図式とは F 上のタングル図式で, 指定され た 2n 個の点上に端点を持つもののことをいう. また同値関係 ∼ は曲面 F 上の isotopy および次の skein 関係式を表す.
= ζ
4r+ ζ
−4r, = ( − ζ
2r− ζ
−2r) ∅ .
S (D
2, 2i) の元
i(Jones-Wenzl
べき等元という)を, 次のように帰納的に 定める [9].
1
= ,
i
=
1 i-1
− ∆
i−1∆
i−2 1 1i-2
i-1 i-1
(i ≥ 2) .
ただし自然数の付与されている曲線は, その本数だけ平行に束ねてある曲線を表 す. 円環 A = S
1× [0, 1] に対して, S (A, 0) の元 ω
0, ω
1を次で定める.
ω
0= ∑
0≤i≤r−1 i:even
∆
ii
, ω
1= ∑
0≤i≤r−1 i:odd
∆
ii
さらに, F 上のタングル図式 D に対して, S (F ) の元 D
ω0, D
ω1を, D の各成分に それぞれ ω
0, ω
1を代入することによって定める. このとき, 次のハンドルスライ
ド性質が成り立つ[1].
ωα
ωβ
≡
ω ω
α+β
α
(α, β ∈ Z /2 Z = { 0, 1 } ). (3)
ここに ≡ は左辺と右辺の差が
r-1を含むタングル図式の線型和で表されるこ とを意味する. また, 次が成り立つことがわかる.
i
= ( − 1)
iζ
4r(i+1)2−1 i,
i
j
= ( − 1)
ij∆
(i+1)(j+1)−1∆
ji
(4)
3. 精密化 Reshetikhin-TuraevSU (2) 不変量
3 次元多様体の不変量である Reshetikhin-Turaev 不変量は Reshetikhin-Turaev [10]
によって最初に定式化され, Kirby-Melvin [4] によって精密化 Reshetikhin-Turaev 不変量に拡張された. これらの不変量は各々 Lickorish [6, 7, 8] と Blanchet [1] に
よって linear skein を用いて組み合わせ的に再定式化された. この節では linear
skein を用いた Reshetikhin-Turaev 不変量, 及びその精密化不変量の定義につい て復習する. 以下 h i は Kauffman 括弧を表すものとする.
任意の連結な有向閉 3 次元多様体 M は S
3内の枠付き絡み目 L にそって S
3を
手術することによって得られることが知られている. このとき, L を M の Kirby
図式という.連結な有向閉 3 次元多様体 M
1, M
2とそれらの Kirby 図式 L
1, L
2に
ついて, M
1と M
2が同相であるための必要十分条件は, L
1と L
2が以下の移動
(Kirby
移動という)を有限回施すことによって移りあうことである, ということ が知られている [3].
(KI) ←→ ∅ ←→ , (KII) ←→ .
ただし図の点線部分は, 自身や他の絡み目成分と絡まっていてもよいこと表す.
M を連結な有向閉 3 次元多様体, L = L
1∪ · · · ∪ L
Nをその Kirby 図式, B を L の絡み数行列とする. M のスピン構造 θ をとる. M のスピン構造全体と, 集合 { x ∈ ( Z /2 Z )
N| B x ≡
t(b
11, . . . , b
N N) (mod 2) } (b
11, . . . , b
N Nは B の対角成分)
の間には 1 対 1 対応が存在することが知られている [4] ので, Θ に対応する元を x =
t(x
1, . . . , x
N) とおく. r ≡ 0 (mod 4) である正の整数 r に対して, 対 (M, Θ) の精密化 Reshetikhin-TuraevSU(2)
不変量をτ
r(M, Θ) = c
−+σ+c
−−σ−h L
ω1x1∪ · · · ∪ L
ωNxNi (5) で定める [1]. ここで σ
+, σ
−は各々B の正, 負の固有値の個数であり,
c
+= h
ω1i , c
−= h
ω1i
とおいた. ハンドルスライド性質 (3) を用いることで, (5) の右辺の値が Kirby 図式 L の取り方に依らないことが示される [1]. ゆえに τ
r(M, Θ) はスピン多様体 (M, Θ) の不変量である.
4. レンズ空間についての不変量の計算
この節では, レンズ空間に対する精密化不変量の値を実際に計算し, 定理 1 の証明 の概略を与える. また系 2 の証明を与える.
定理
1
の証明の概略. 整数 a, b, p は定理の仮定の通りとする. 以下のように a/b の 連分数展開を一つとり固定する :
a
b = m
1− 1
m
2− . ..
− 1 m
N( | m
k| ≥ 2) .
このとき, L(a, b) の Kirby 図式は L =
m1 m2 mN
で与えられることが知られて いる. ここで図の m
iは各成分の framing を表す. L の絡み数行列は
B =
m
11 1 m
2. ..
. .. ... 1 1 m
N
で与えられる. また, det B = a であることがわかる.
B d = 0 をみたす, 0 でない元 d ∈ ( Z /2 Z )
Nがただ一つ存在する. この d は L(a, b) の非自明な ( Z /2 Z ) 係数 1 次コホモロジー類に対応している.
式 (4) を使うと, c
+= ∑
0≤i<4p i:odd
∆
ih
i
i = 2ζ
16p−3ζ
8p− ζ
8p−1∑
j∈Z/2Z
ζ
4p∗j2∑
k∈Z/pZ
ζ
pk2(6)
となることがわかる. 一方 c
−が c
+の複素共役であることは定義より明らかであ るから,
c
−= − ( − 1 p
) 2ζ
16p3ζ
8p− ζ
8p−1∑
j∈Z/2Z
ζ
4−p∗j2∑
k∈Z/pZ
ζ
pk2(7)
となる. さて, L(a, b) のスピン構造 Θ に対して, 前述の意味で Θ に対応する元
x ∈ ( Z /2 Z )
Nがとれ, これは B x ≡ (m
1, . . . , m
N)
T(mod 2) をみたす. このとき定 義より,
h
m
1m
2m
Nω x
1ω
x
2ω
x
Ni = ∑
0≤i`<4p i`−x`: even
∆
i1. . . ∆
iNh i
1i
2i
Nm1 m2 mN
i
である. 式 (4) を繰り返し用いて計算を進めることにより, h m
1
m
2m
Nω x
1ω
x
2ω x
Ni = δ C ζ
16ptyBy+2tvδy∑
j∈(Z/2Z)N
ζ
4p(tjBj+2tuδj)∑
k∈(Z/pZ)N
ζ
ptkBk+tuδk(8) がわかる. ただし
δ = √
− 1
(Bx+t(m1,...,mN))·d
, (9)
C = 2
Nζ
16p−trB(ζ
8p− ζ
8p−1)
N+1,
y = x +
t(1, . . . , 1), v
δ=
t(1, 0, . . . , δ), u
δ= 1
2 (B y + v
δ).
式 (6)–(8) 及び関係式
3(σ
+− σ
−) − trB =
tv
δB
−1v
δ− 2δa
−1− 12s(b, a) により,
τ
4p(L(a, b), Θ) = δ ( a
p
) ζ
8p∗− ζ
8−p∗ζ
8p− ζ
8p−1ζ
−(3
4s(b,a)+8aδ)∨
p
τ
4(L(a, b), Θ) ¯¯
ζ16p∗
. がわかる. ここで τ
4(L(a, b), Θ) ¯¯
ζ16p∗
は, 不変量の定義式 (5) の右辺において r = 4 かつ, 1 の 16 乗根として ζ
16の代わりに ζ
16p∗にとったものである. [4] の計算と同じ ようにして,
τ
4(M, Θ) ¯¯
ζ16p∗