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統合報告時代における

サステナビリティ報告の位置づけ

朴 恩 芝

.は じ め に

最近,財務報告に関連した様々な動きがみられる。代表的に,国際会計基準

(International Financial Reporting Standard : IFRS)を中心とした会計基準の国際 的な統一化はかなり進んでおり,IFRS財団によると, 年 月現在 国・地域で強制適用( ヶ国)または任意適用( ヶ国)のかたちで当基準 が採用されている(IFRS Foundation, , p )。これは,企業経営のグロー バルな展開に歩調を合わせた動向といえる。

しかしながら,こうした伝統的な財務報告の有用性については疑問の声もあ る。なぜなら,特許やブランド価値,経営者の資質,従業員の業務能力などの ある種の無形資産が,直接数値には表れにくいものの企業価値を示す重要な要 素として企業の財務内容に占める割合を増していることで,従来の財務情報の もつ企業価値の説明力が相対的に低下しているとみられるからである(日本会 計研究学会特別委員会, , 頁)。

現在,そのような財務情報以外の要素はますます多様化し,その影響力も拡大 しつつある。グローバル競争が激しくなるなか,企業にとっては持続可能性から みてそれを阻害するリスク要因が大きく増えることになる。企業の不祥事を防 ぐのにシステム的な不備が指摘されるなか,自然災害や環境問題までもが脅威 となる。こうした現状には,企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility : CSR)情報などに対する社会の関心も大きく影響する。

このように,過去の財務情報だけでなく,将来起こりうるリスクの予測とそ

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の対策や戦略,中・長期的な経営方針,将来の見通しなどといった非財務情報 が,企業の持続可能性を説明するための重要な要素と認識されつつある。

こうした状況に対応するかたちで,現在統合報告(Integrated Reporting)の 動きが進んでいる。従来の財務情報に,環境や社会,ガバナンス(Environmental, Social and Corporate Governance : ESG)情報などの非財務情報を加え,ステイ クホルダーに有用な情報を簡潔にまとめて報告することを意図するもので,

中・長期的な観点での企業評価を狙う。

日本でも統合報告への関心は高く,すでに統合報告書(または統合報告書/

アニュアルレポート)という名称で 社以上の企業が統合報告を行ってお り,その %がESG投資から海外投資家を意識して英語版をも発行している

(日本経済新聞, 日付)。

様々な経営環境の変化,とりわけ非財務情報開示のニーズに応えるかたちで 統合報告の必要性は検討されているが,統合報告が従来の非財務情報の開示,

なかでも企業のCSR戦略やESG情報をまとめたサステナビリティ報告の代替 案になれるかについては慎重であるべきである。統合報告に対して,一方でい ままでとは違う非財務情報までも扱う財務報告書となることへの期待は大きい が,他方で多様なステイクホルダーの要請に対応するには限界があると考えら れるからである。

何より,統合報告では重要な情報を優先順位付けで簡潔に伝えることを重要 な原則としているため,誰にとって重要なのか,情報の重要度をどう判断する かにはステイクホルダー間の利害が衝突する恐れがある。そこでは主要な利害 関係者が優先されるため,それ以外のステイクホルダーに有用な情報は省略ま たは簡単に片づけられてしまう可能性が高い。

もし財務情報と非財務情報がまとめられ,統合報告の名目で一本化されてし まうと,サステナビリティ情報の開示をとおして社会的要請に応える経営戦略 として位置づけられつつあった企業のCSR行動はその推進力を失ってしまう

( ) 企業のCSR活動をまとめた報告としてはCSR報告,環境報告,サステナビリティ報 告などがあるが,ここではGRIガイドラインに倣って,サステナビリティ報告と称する。

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かもしれない。

本稿では統合報告の動きのなかで,サステナビリティ報告書の存在そのもの の重要性について再考察する。そのとき,独立したサステナビリティ報告は単 なる統合報告の補完材としてではなく,そのための情報源として,いままで以 上に企業の重要なCSR戦略やESG情報を網羅し,そのプロセスをも含む情報 となることが望ましい。

本稿は,統合報告の必要性を検討したうえで,統合報告のもつ限界,とりわ け環境,社会およびガバナンスといった従来のサステナビリティ情報の扱いに おける限界を確認し,独立したサステナビリティ報告の必要性を探ることを目 的とする。これによって,企業のCSR行動の持続性も担保できるだろう。

.財務報告への問題意識

日本では, 年に金融庁の「スチュワードシップ・コード」,経済産業省 の「持続的成長への競争力とインセンティブ〜企業と投資家の望ましい関係構 築(伊藤レポート)」,さらに 年に金融庁の「コーポレートガバナンス・

コード」が相次いで公表された。これは資本市場にかかわるすべての関係者・

関係機関で構成されるインベストメントチェーン全体に中・長期的視点をもた せることを意図するものである。

これに強く影響を与えたのは, 年に企業や組織に責任ある創造的なリ ーダーシップの発揮を求め,社会の善良な市民として行動し,持続可能な成長 の実現に参加することを求めた,欧州委員会の「グローバルコンパクト(Global

Compact)」, 年に機関投資家を対象に投資行動に際してESGへの配慮を

組み込むことを宣言し,スチュワードシップの遂行において長期的利益を最 大化することを求めた,国連の「責任投資原則(Principle of Responsibility

investment)」の提唱と,これに影響を受けたアメリカやイギリスの動きであ

り,現在は世界的にも企業の多様な価値創造能力への再認識と中・長期的視点 による投資の重要性が訴えられつつある。

こうした動きには,経営のグローバル化が展開するなか,持続的に弊害と認

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識されてきた短期主義の問題がある。短期主義(short-termism/business myopia)

とは,企業や投資家などにおいて短期的な視点に基づく行動が蔓延する状況の ことで,経済の長期的な発展や安定を阻害しかねない悪弊として懸念される

(淵田, 頁)。

年に起きた世界金融危機も,短期的な結果を追求した過大なリスクテ イクの結果と考えられ,その反省としてアメリカやイギリスを中心に短期主義 問題への対処が検討されている。

とりわけ,イギリスでは 年に金融機関および上場企業,機関投資家の ガバナンスのあり方を見直し,短期収益指向の再考を提案したWalker Review が公表され,これを受けた財務報告協議会から長期的なリターンの向上を実現 す る た め の 機 関 投 資 家 の 責 任 を 定 義 し た ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ・コ ー ド

(Stewardship Code)が発表されている(淵田, , − 頁)。さらに,

Kay Reviewでは,スチュワードシップ・コードの強化,すなわち投資家や

資産運用会社に長期的視点を強く求めており,そのためには具体的なフラット フォームをとおした経営者との協調的なエンゲージメントを進め,インベスト メントチェーンを強化することが望ましいとしている(Kay, , p )。

短期主義のもとでは,長期的な利益を目指す投資が期待水準より過小評価さ れたり,短期的な利益が生成できない分野に投資が回らなかったりする。とり わけ,現在の四半期報告が強制される環境では,短期主義の弊害がより克明に 表れる。なぜなら,四半期ごとの業績開示を意識した経営活動では,経営者が

R&D投資のような長期的な投資を忌避し,短期的な判断と行動に走る傾向が

強まりがちだからである(淵田, 頁)。その場合,経営者の裁量によ る会計操作の誘因が出やすく,時間をかけて組織をつくり上げるためのガバナ ンスは機能しにくくなる。

このような短期主義は,広くはその副作用として環境問題や社会的格差問題 の拡大をもたらしているが,逆説的に企業のCSR戦略やESG投資といった長 期的な視点への関心を呼び起こす契機となっている。

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.統合報告の必要性とサステナビリティ情報との関係

こうした企業を取り巻く環境の変化は,財務情報の開示内容も変える必要性 をもたらしている。周知のとおり,短期主義への反省から検討される中・長期 的視点,無形資産やESG情報の増加に,近年短期的な投資家に焦点を当てて きた従来の財務報告が対応しきれなくなったからである。このような状況で,

企業の財務情報とESG情報などの非財務情報を統合して報告しようとする動 きが始まっている。

国際統合報告評議会(the International Integrated Reporting Council : IIRC)は,

投資家,企業,規制当局,基準設定主体,会計専門家およびNGOによって構成 された国際的な連合組織で, 年「統合報告に向けて」において新しい統 合報告概念を紹介するディスカッション・ペーパーを,また 年にフレー ムワークのドラフトを公表し,統合報告に向けたグローバルな合意を築くため に意見をまとめ,同年「国際統合報告フレームワーク」を公表した。

統合報告(Integrated Reporting)とは,組織の外部環境を背景として,組織 の戦略,ガバナンス,実績および見通しが,どのように短・中・長期の価値創 造を導くかについての簡潔なコミュニケーションである。統合報告の主な目的 は,財務資本提供者に対して,組織が長期にわたりどのように価値を創造する かについて説明することであり,その際には財務情報だけでなく,非財務情報 も含まれる(IIRC訳, , 頁)。

統合報告は,投資家を中心とした財務資本の提供者には利用できる情報の 質を改善し,企業にはそれらの報告に効率的に働くアプローチを促すことで,

経営活動で扱われる広範な資本に関する説明責任およびスチュワードシップを 向上させることを狙いとする。その際には,資本の変動と資本間の影響を説明 することで相互関係について理解を深め,短・中・長期的な視点で企業の価値 創造能力が発揮できるよう,統合思考にもとづいた意思決定および行動を期待 する(IIRC訳, , 頁)。

ここでは,長期的視点に立った統合思考が有意義なものとなる。統合思考

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(Integrated Thinking)とは,組織内の様々な事業単位および機能単位と組織が 利用し影響を与える資本間の関係に対して組織が能動的に考えることで,価値 創造を考慮した統合的な意思決定と行動ができるという,要素間の結合性と相 互関係を考慮する上で重要なものである(IIRC訳, , 頁)。すなわち,

一方で経営者にとっては非財務的要素を含む組織内の様々な出来事を的確に把 握し対応するための,将来までも見据えた戦略が,他方でステイクホルダーに とってはその戦略を外部者として読み取る位置にとどまらず,戦略を決める意 思決定にかかわることも想定している。そのためにはそのプロセスへの理解と 長期的視点が不可欠である。

財務情報と非財務情報を統合して報告する動きを,企業の持続可能性を考慮 した成長の側面でみると,財務活動に加えてESGを意識した経営と,各活動 関連リスクへの予防的対応および長期的戦略は強く関連している。たとえば,

ある企業がもつリスクが顕在化すると,そのリスクは企業内部にとどまること なく,環境や社会全体に影響を及ぼすこともあるからである。そのため,企業 そのものと企業内外の環境,社会,ガバナンスとは相互依存関係にあることを 認識し,それを経営にも反映することが必要である。

統合報告における経営管理上のメリットを,與三野( )は次のように想 定する( − 頁)。まず,複数のステイクホルダーの視点を伴う持続可能な 戦略は一般的にトレード・オフ関係にあるが,経営者はその状況を恐れずに,

選択した意思決定とその理由を明瞭に伝えることができる。また,財務情報と 非財務情報の結びつきを明示し,異なる事業や部門の活動を横断的に統合する ことで,企業経営者の意思決定が改善される。さらに,すべてのステイクホル ダーとより深いエンゲージメントをもつことは,経営管理の意思決定にも役立 つ。最後に,こうしたプロセスを経て,レピュテーションと現実の乖離を解消 し,変容する社会に寄り添った企業行動ができ,レピュテーションリスクを減

( ) 古賀( )は,統合報告を戦略的フォーカスと財務的フォーカス,戦略的非財務情 報と業務指向的財務情報との統合化と改めて定義し,戦略を意識した情報提供とみてい る( 頁)。

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らすことができる。

しかし,基本的に統合報告では,すべてのステイクホルダーに有益であると しながらも,報告の対象を財務資本提供者としているため,各々のステイクホ ルダーにこれらのメリットがどのように,どこまで生かされるかは疑問であ る。とはいえ,ひとまずすべてのステイクホルダーを意識した改善方向は今後 期待するものがある。

投資家からみると,統合報告の利用価値は克明である。投資家において最も 重要な財務情報を短期だけでなく,中・長期的視点でアプローチし,さらに財 務に影響を与えるESGなどの様々な非財務情報が提供されるからである。何 よりも投資家と経営者の利害が一定の領域で一致することを考えると,その方 向性は決まりやすい。そのとき,非財務情報はとりわけリスク管理の次元で重 要となる。日本企業の多くに負の無形資産があることを考えると(窪田,

頁),投資行動に影響する重要な要素となる。

統合報告では財務資本の提供者に提供する情報の改善を目的と掲げており,

そこでは当然ながら機関投資家の存在が重視される。機関投資家の提供する財 務資本の規模から考えるとその影響力は非常に大きく,前述の国連や金融庁,

経済産業省から提唱された相次ぐ機関投資家向けの原則や方針などは,スチュ ワードシップを意識する機関投資家に長期的視点をもたせ,投資運用に反映す ることを期待するものである。機関投資家が中・長期的視点をもって経営者と エンゲージメントを続けることで,経営者の意思決定に何らかのかたちで影響 が与えられることは容易に想定できる。

統 合 報 告 に お い て 重 視 さ れ る つ の 資 本,財 務(financial),製 造

(manufactured),知的(intellectual),人的(human),社会および関係(social and relationship),自然(natural)と資本間の関係についての相互理解も注目すべき ところである。そこでは,各々の資本に関する説明責任およびスチュワード

( ) 統合報告においては有用な情報を「価値創造能力に影響を与える事象」としており,

このときの価値は主に経済的価値とそれに直接かかわる社会的価値に限定するものと解 釈される(向山, 頁)。

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シップの向上が見込まれており,資本の変動が他の資本のそれにつながってい ることから,すべてのステイクホルダーの関心領域に応える重要な情報となり うる。

このような財務情報と非財務情報の統合に関する本格的な取り組みへの関心 は高く,すでに多角的な側面で研究が進んでいる

なかでも,統合報告が非財務情報を提供するという点で,非財務情報,とり わけESG情報を扱っているGRIガイドラインを中心とした企業のサステナビ リティ報告との関連が注目されている。

牟禮( )は, IIRCによるパイロットプロジェクトに参加した 企業を対象にアニュアルレポートの内容を分析し,統合報告,さらにサステナ ビリティ報告の開示との関連を調べている。そこでは,統合報告を意識した企 業の方がアニュアルレポートにおいて貨幣数値情報を積極的に提供し,付加価 値情報ではその傾向がより強まることが確認されている。また,Lee and Yeo

)は統合報告と企業価値に関してポジティブな関連を確認したうえで,

統合報告のベネフィットがコストを上回り,統合報告をとおして複合的な経営 と情報環境にある企業が情報の処理費用を減らせると結論づける。Laura et al.

)は,なぜ企業が統合報告書を開示する際にCSR報告書の保証に特別な 注意を払っているのかに注目し,結果として,保証されたCSR報告書の企業 が統合報告を行う可能性は高いことを確認している。

ところで,統合報告においては,扱う情報が非財務情報にまで拡大している ため,提供すべき対象と情報の選別がもっとも重要となる。 年の統合報告 に関するディスカッション・ペーパーでは報告の対象を投資家としていたが,

年の統合報告フレームワークにおいては財務資本提供者を中心としなが らも,すべてのステイクホルダーを意識しているため,報告対象によってニー ズの異なる情報をどう選別,調整するかに注目があつまる。統合報告の目的か

( ) 日本では, 年日本会計研究学会の特別委員会による研究報告(中間報告)をはじ めに, 年企業会計や 年會計などの会計関連雑誌においても統合報告に関する 特集が組まれている。

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らもわかるように,そこでは重要なものを(重要性,Materiality),簡潔に(簡 潔性,Conciseness)伝えることが要求されているが,①誰にとって,②何が重 要な情報なのかという,二つの要素を決めることには困難が予想される。

結局のところ,先に①ステイクホルダーの優先順位をつけることで,②その ステイクホルダーにとって重要な情報を限られた報告量に落とし込むことにな る。そのとき,ステイクホルダーの優先順位としては,ひとまず企業経営に直 接かかわり積極的に情報を利用する投資家や仕入先などのような 次的ステイ クホルダーが意識され,行政当局や消費者,地域住民,従業員らは 次的ステ イクホルダーとして副次的な情報提供に回されるだろう。

統合報告では,すべてのステイクホルダーに有用な情報提供を表明しながら も,「主要な」ステイクホルダーが報告対象とされている。この「主要な」ス テイクホルダーが誰を指すのかは明確にされておらず

,ガバナンス責任者

の判 断にゆだねられるが,そこでステイクホルダー間の利害衝突が起こりうる。衝 突を緩和または回避するために,ガバナンス責任者の裁量がどう働くかを見極 める工夫のひとつとして,経営者とのエンゲージメントは重要となる。エンゲ ージメントはステイクホルダーの様々な利害がぶつかり合う可能性から,その 重要性が増しているが,形式だけのものではなく,本格的に経営者とかかわる ことのできるフラットフォームをつくることが望ましい。

統合報告でも,重要度の評価と,そこに至ったプロセスの説明が求められて おり,これは単純に報告書をとおすものではなく,ステイクホルダーと経営者 とのエンゲージメントを活性化させ,システム化することをも想定していると 考えられる。イギリスのKay review( )や日本の金融庁の「伊藤レポート

( ) もちろん,統合報告ではその目的のなかで,財務資本提供者に提供する情報の質改善 をうたっており,「主要な」ステイクホルダーに財務資本提供者が優先的に含まれるこ とは容易に推測できる。しかし,「主要な」ものの中身にはふれていないことから,財 務資本提供者以外は企業特有の事情を考慮したガバナンス責任者によって優先順位が決 められるものと考えられる。

( ) 統合報告では,ガバナンス責任者(Those charged with governance)を,組織の戦略的 方向性,組織の説明責任およびスチュワードシップの遵守状況を監督する責任を有する 個人または組織のことと定義し,役員会や評議会などを想定している。

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)」においても,投資家フォーラムという具体的なフラットフォームの設 立を促している。

ここで見過ごしてはいけないのが,統合報告に含まれる非財務情報の性質で ある。統合報告では,ステイクホルダー全体に有用な情報提供を目指すとしな がらも,提供する内容に関しては価値創造能力に直接かかわる事象に限定して おり,財務関連以外のステイクホルダーの要請を積極的に考慮しているわけで はない。たとえば,環境や社会に関する情報提供に際して,社会的価値が経済 的価値に影響を及ぼす限りにおいて財務資本提供者が関心をもつことから(向 山, 頁),企業のサステナビリティ報告書などから得られたはずの環 境,社会関連の情報と同程度のものが提供されるとは限らない。

向山( )は統合報告の指導原則とGRI(G )の報告原則から,両方に 共通する重要性(Materiality)の原則と,統合報告における簡潔性(Conciseness)

GRIガイドラインの網羅性(Completeness)を取り上げ,扱いの違いに注意 を促す( − 頁)。

統合報告における重要性は,組織の短・中・長期の価値創造能力に実質的な 影響を与える事象に関する情報を開示するものと定義されている。この場合,

統合報告が目指す企業の価値創造能力とは組織の事業活動とアウトプットに よって資本の増加,減少,変換をもたらすものなので,事業活動から成り立つ 経済的価値への影響が最優先されることになる。

それに対して,GRIガイドラインの場合,重要性を,組織が経済,環境,社 会とガバナンスに与える著しい影響を反映する,またはステイクホルダーの評 価や意思決定に実質的な影響を与えるものとし,経済的価値と社会的価値(環 境や社会などへの影響)を並列に扱う。このように,両者のいう重要性の意味 は根本的に異なることに留意しなければならない(表)。

このように両報告において意味合いは違っても,重要性そのものの評価は最 適な資源配分,環境や社会への影響を含むリスクの検討など重要な意思決定の 根幹となるもので判断される。判断をより確実なものにするためにも,ステイ クホルダーとのエンゲージメントは重要となり,それが繰り返されることで質

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の改善が期待できる。経営者が下した意思決定において重要とされたものが妥 当であるかを検証するためにも,ステイクホルダーの意見を取り込むプロセス は極めて重要である。

もうひとつ,簡潔性と網羅性が意味するところも,両報告の性質を規定する 重要な原則である。簡潔性を表明する統合報告の場合,財務情報と非財務情報 というかなり膨大な情報から,主要なステイクホルダーに有用とされる情報を 選別する作業が重要となる。そのとき簡潔性には,ステイクホルダーを規定す る意味合いも含まれることになる。統合報告の場合原則主義を採用しているこ とから,情報を選別する際にガバナンス責任者の判断に大きく左右されること になり,その裁量による情報の重要性とその優先順位の決定への影響は避けら れない。

統合報告の簡潔性原則に対し,GRIガイドラインのサステナビリティ報告は 網羅性を原則とする。サステナビリティ報告書は,経済,環境,社会とガバナ ンスに著しい影響を及ぼす情報をできる限り詳細に提供することを望ましいと するからである。そのため,その報告量が膨大になることもありうるが,現在 日本企業が開示しているサステナビリティ報告書をみる限り,一部の産業を除 いて情報量は抑えられており,サステナビリティ情報の選別も進んでいるよう に思われる

IIRC GRI

重要性 価値創造能力に実質的な影響を与 える事象の重要度を,価値創造に 与える既知のまたは潜在的な影響 という観点から評価

組織が経済,環境,社会に与える 著しい影響を反映する,またはス テイクホルダーの評価や意思決定 に実質的な影響を与える 重要性の判断材料 価値創造能力に実質的な影響を与

える事象

経済,環境,社会に与える著しい 影響

価値の範囲 経済的価値とそれに直接影響する 社会的価値に限定

トリプルボトムラインに基づく経 済・社会的価値

価値間の位置づけ 経済的価値優先の社会的価値への 戦略的取り組み

経済的価値と社会的価値は並列的 な位置関係

表 重要性と価値創造に置ける視点の相違

出所:向山( ), − 頁の内容参照,加筆。

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.サステナビリティ報告の役割

現在国際的に進んでいる統合報告は,財務情報のみならず,非財務情報を入 れ,より長期的な視点で広範囲な情報を提供することで,財務資本提供者のニ ーズに応えるとともに,すべてのステイクホルダーを意識した情報を提供しよ うとしている。とりわけ,非財務情報の重要性が表面化することで,企業経営 の多様化,さらには非財務情報の主な対象となるCSR戦略が本格的に表れる ことから,その開示に注目があつまる。

その一方で,そこに含まれる非財務情報はすでに確認したとおり,企業の価 値創造能力に直接かかわるものに限定されることから,従来のサステナビリ ティ報告との違いを認識する必要がある。そうしないと,統合報告の登場でサ ステナビリティ報告書の役割が終ったと,作成側にも利用者側にも誤解されか ねない。

現在多くの企業において積極的に開示されているCSR情報やESG情報は GRIガイドラインを参考または準拠する場合が多い。 年公表されたGRI ガイドラインG では,サステナビリティ報告を,経済,環境,社会という従 来のトリプルボトムラインにガバナンスの側面を追加したパフォーマンスと,

それによるプラス・マイナスの影響を伝える基盤となるものとして位置づけて いる。そこでGRIガイドラインが想定する統合報告との関連は,サステナビ リティ報告における基本項目や開示項目を統合報告に提供し(GRI, 訳, 頁),統合報告はサステナビリティ報告書をそのまま取り入れるのでは なく,あくまでも参考にしたうえで,情報の結合性を生かした独自の情報をま

( ) 電機・精密機器・自動車産業(東証 部上場)を対象に, 年に発行されたサステ ナビリティ報告書の量(頁数)を調べると,全体的には多くて 頁前後で推移してい たが,自動車産業は大半が 頁を超えていた。最も多い企業はカシオ計算機で に達している。

( ) 現在日本企業が開示する統合報告の場合,アニュアルレポートの利用形態が多い。も ともとアニュアルレポートが投資家向けの任意開示資料であったことを考えると,まだ 報告形態が定まっていない段階では,アニュアルレポートなどの形式を借り,追加的に 非財務情報を含むのが効率的かもしれない。

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とめることが期待されている。

とすれば,従来のサステナビリティ報告を取りやめて統合報告に一任するの は危険であろう。統合報告によってサステナビリティ報告が代替されると,重 要性の名目で様々な関連情報が切り捨てられる可能性,さらに企業価値と正の 相関を有するCSR情報のみが選択されてしまう危険性がある。

すでに日本企業の一部で,サステナビリティ報告書の発行を取りやめ,統合 報告に移行する動きがみられる。いまは過渡期なので,統合報告には従来のサ ステナビリティ報告の内容がそのまま含まれることが予想されるが,重要性の 原則に従って情報が選別される場合,今後多くの関連情報が減らされるかもし れない。

もちろん,統合報告の意図として,企業の情報開示の手段が多様化しすぎて ステイクホルダーに混乱をもたらす情報氾濫の問題を解消し,情報の結合性を とおして,多様な情報の有用性を向上させる単一の報告書を提供することは大 変有意義なものである。しかし,統合報告がもつ限界を考えると,いわゆる 次的ステイクホルダー,また社会的課題解決に関心のある投資家などの 次的 ステイクホルダーに,企業のCSR活動とESG関連情報を詳細に提供する独立 した報告は続けられるべきである。

いうまでもなく,サステナビリティ報告に関連する情報は量的にも質的にも 今後重要性を増していく。すでにESG投資や,統合報告における重要な非財 務情報のもととして,情報の価値と重要性に一定の社会的合意がなされている 以上,多様な側面から質と量を確保したさらなる進化が求められる。いまのサ ステナビリティ報告に,まだ不十分な開示にとどまっている領域が多いことを 考えると,その領域を補完し改善するCSR戦略とESG情報の提供はすべての ステイクホルダーにとって有意義であろう。

今後サステナビリティ報告において強化が予想される情報としては,従来の 経済・環境・社会・ガバナンスのなかでも,相対的に取り組みが弱かった社会 的側面があげられる。その際には,格差問題などの社会的課題の解決に積極的 にかかわる企業姿勢と戦略を,それに至るプロセスまでしっかり説明したうえ

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で,関連するステイクホルダーに理解してもらう必要がある。そのとき有用な ものが,従来のサステナビリティ報告を質と量の両方で向上させた独立報告書 である。

とりわけ,情報の質を改善するためには,統合報告において経営者と投資家 のエンゲージメントが強調されているのと同様に,サステナビリティ情報を企 業経営に生かすために,組織構成員や仕入先,さらには社会構成員など,企業 内外のステイクホルダーと経営者とのエンゲージメントも欠かせない。これ は,統合報告において財務資本と同様に,人的資本,社会・関係資本,自然資 本の重要性と資本間の関係を重視する考え方をまさにサステナビリティ報告に おいて生かすこととなる。

いまの統合報告における非財務情報開示の新たな挑戦に注目しつつ,今後そ のもととなるサステナビリティ情報の強化と独自の開示は維持されなければな らない。それによって,企業もCSR戦略を経営の正当で重要な要素と位置づ けるとともに,社会に強く認識させることができる。

参 考 文 献

北川哲雄編( )『スチュワードシップとコーポレートガバナンス つのコードが変える 日本の企業・経済・社会』東洋経済新報社。

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