彩色 ・無彩色図形 にお けるイメージの 投影 につ いて
門前 豊志子
彩色 ・無彩色図形 におけるイメージの 投影 につ いて
門前 豊 志子
外界の事物の知覚や認知 はどのようになされているのであろうか。個体は, さまざまの事物や事象を見たり,感 じた りして,それ らに何 らかの意味づけを 与え,それにもとづいて外界に働 きかけている場合が多い。つまり,単 なる外 界の事物や事象の知覚にとどまらず,その事物や事象のなかに個体 自身の経験 や学習にもとづいたさまざまの感情や感覚 を投入 しているといえる。特 に個体 にとって関心の高い,自我関与の強いでき事 に遭遇する場合,それ らに対する 感情移入 は大きくなるであろう。たとえば,親 しい友人 を応援するときには, 思わず知 らず身をの り出 して声援 している自分に気がつ くことがあるし,また, 急いでハ ガキを投函 しないといけないときには,常 日頃気にもとめていなかっ
たポス トの所在が気にな りあわてて探 し求めることであろう。また,急用の場 合 は,電車のス ピー ドが遅 く感 じられた り,逆に行 きたくない所用のときには, 速 く着いたように思 うことも日常経験することである。
このように外界のさまざまの事象や事物を把握 してそれらに対応 した行動 を おこす場合,物理的,時空間的には同一の現象であっても,それを認知する個 体の欲求や情緒状態によって, ー心理的には異なって認知 されると考えられる。
ゲシタル ト学派のコフカは,この点に注 目して,従来の生理的 ・知覚的な場の 認知の考えを一歩お しすすめ,個体と外界 との力動的な相互関係の重要性 を強 調 して,心理的環境,心理的意味空間としての環境 ( 場 )が人間の行動の決定 に影響を与えると説いているo( 八木
,1967)このように,個体が外界 を知覚 し,認知するとき,■ 単 に,感覚的,生理的,
物理的なレベルのみで外界の事物や事象をとらえているのではなく,個体の欲 求,感情 を投入 して,すなわち,個体の内的状態との関係で外界をとらえ ( 認 知 し) ,行動 ( 反応)を決定 している場合が多いと考えられる。
個体が内的感情 を移入 して外界の事象をどのようにとらえているかを知 る手 がか りとなる心理学的方法に,投影法がある。なかでもあいまい図形に投影 さ れた反応内容の分析 を通 して,個体の無意識的な深層の欲求や感情 など個体の 内的状態を探 るロ
‑) I ,シャツハ法は,今 日,すでに臨床的にその有効性が認め られ て きて い る。( 片口
, 1969;KbLZfe
r,AzITZSuWEh,Kbjfer,&Ho
IE.1954;Schafe r ,
R.1954).筆者 は, これまで, ロールシャッハ法にもとづ く個体の内的理解 をすすめる なかで,ロールシャッハ法 という限 られた枠内にとどまらず,広 く,普遍的且 つ実験心理学的な立場か ら,投影のメカニズムについて,とらえてゆけないも のかと考えるに至 った。た しかに,あいまいな図形 は,その図形の性質上, さ まざまな情緒的負価を伴ったイメージや連想 をよびおこし易い。そこに投影さ れた内容 を分析することによって個体の無意識的な深層領域に迫 り,個体の精 神内界 をある程度了解可能ならしめてきたし,精神医学的な治療や診断にも重 要な手がか りを与えてきた。 しか し,ロールシャッハ法などの投影法的解釈や 手がか りをぬきに して,一般に,個体が外界を認知するさいに,共通 して認め られる投影のメカニズムが存在 しはしないだろうかと考え,もし存在するとす れば,その投影的側面 を明確に してゆけないものかと考えた。従ってE g形 もあ いまいな図形は, 日常見慣れている事物としては少なく,特殊な図形であると 考え られるので,あいまいでない,ごく一般的で普遍性のたかい図形について, どの ように投影がなされているかを,動 きの投影 を中心 に検討 してきた ( 門前,
1982)。
その さい明 らかになったことは,運動量と運動の速 さ及び方向性 とは,同一
の次元で捉えるべきではなく,動きの量的側面と動 きの質的側面という異なる
次元 として捉える必要があるということであった。また,個体の状態として,
快的な情緒状態 と不快な情緒状態という異なる二つの情緒状態 を設定 して,そ れらが動 きの投影にどのような影響 を与えるかを調べたのせあるが,結果は, 快的な情緒状態では,速 さも早 く,方向性においても自由な動 きの投影が可能 であったのに対 し,不快な情緒状態では,速 さと方向性 とが一対となって,相 補う関係 を保ちなが ら,不快な情緒 に対応 していることが明白となった。不快 な状態におけるこの特徴 を筆者は不安に対する速 さと方向性の相補的関係 と名 づけてみた。更 に,図形の性質と動 きの投影 との関係で示唆 されたことは,図 形の形態上の安定性 と速 さとの関係である‑ 。門前
(1982)の実験では十分な分 析が不可能であったが,安定性の高い図形 ( 円形 )ほど速 さは遅 くな り,安定 性が低 くなる程 ( 不等辺図形 )速 さが早 くなる傾向を示す ことであった。
目的
本研究 も門前
(1982)の研究の延長 と して,図形の性質と個体の情緒状態 と の関係が投影に及ぼす影響について,明 らかにしてゆきたい。図形の性質につ いては,形態の安定 した図形 と不安定な図形,及 び,色彩 をもつ図形 ともたな い図形という側面か ら捉え,情緒状態については前研究 と同 じく快 ・不快 とい う異 なる二つの情緒状態か ら捉えてゆくことにする。投影のメカニズムについ ては,今回は,動きの投影の分析ではな く, イメージ内容 についての分析 を行 う。
色彩の有無と図形の形態上の特性 とが,イメージの投影 にどのような影響を 与えるのかを,情緒的に異なる二群 について調べてみることを目的とする。
情緒的に快的な群と不快な群 とでは,色彩や形態の特性 に対 してイメージ内 容に相違が認め られるのではないかと予想 されるが,実験的にそれ らの特徴 を 明 らかに してゆくことを目的としたい。
方 法
被験者 看護学校 ・保育専門学校の学生
117名,年令
18‑19歳。被験者 を
無作為 に次の
4群 に分 けた。実験的 に快的な情緒状態 におかれ,黒色と白色図 形の組合せか らなる図形の系列 を提示 され る群 ( 以下COl 群と略記する)
45名。
同 じく快的な情緒状態で灰色 と白色図形の組合せか らなる図形の系列を提示 さ れる群 ( 以下C O
2群と略記する)
16名。不快 な情緒状態 におかれ黒色 と白色図形 の組合せか らなる図形 の系列 を提示 される群 ( 以下UC l 群と略記する)
42名。同 じく不快 な情緒状態で,灰色 と白色図形の組合せによる図形の系列 を提示され る群 ( 以下UC2 群と略記する)
16名である (表
1)。
表
1実 験 計 画
実 験 群 人 数 図形刺激 情緒状態
CO
1群
45名 黒色系列 快的状態
UC
1群
42名 黒色系列 不快状態
CO2
群
16名 灰色系列 快 的状態
UC2
#
16名 灰色系列 不快状態
図形刺激
15枚の幾何学図形か らなる。それぞれの図形 は彩色 と無彩色の 二種類か ら成 る。彩色図形 は明度の低 い黒色 と,明度の高 い灰色であり,無彩 色図形 は白色である (図 1)0
幾何学図形の形態 は,きわめて単純 な等辺図形
9枚 と,不等辺図形 1枚,及 び円形 と円形の集合 した図形
5枚の計15 枚か ら成 っている。
黒色図形 と白色図形の組合せか らなる図形の系列が
1組 ( 以下黒色系列と略記 する)と,同 じ図形,同 じ順序 で提示 される他の一組の図形の系列 に,灰色 と 白色の組合せか らなる図形の系列 ( 以下灰色系列と略記する)が
1組 ある 。
図形番号
1 2 3 4 5 6 7図形番号
8 9 10ll
12 13 14 15図
1.図形刺激 く同一の図形で黒色と灰色系列がある)
情緒状態 門前 ( 1982) の研究 と同 じ音刺激 を使用 した(図・
2) Oこれ は, エ レク トーン演奏 による協和音,不協和音のカデンツをテープ レコーダーに録音 した ものである。作曲は,専門の教師 に依頼 した。すでに.評定の信頼性 ・妥当性 は検証 されている。
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2 .協和音
(A)と不協和音
(B)手続 き 実験 日時 を異 に して
,co一
,CO2,UC.
,UC2群 の
4群 に,快 ・
不快の情緒状態 をひきおこさせるよう部屋 の後方中央か ら左右のス ピーカーを
通 し,適度な音量で,音刺激 をくり返 しきかせる。被験者 は,前方中央 のスク
リーンに,スライ ドにて影写 される図形刺激 をそれぞれ
5秒間擬祝 したあと,
手元の記録用紙 に,運動量 (
1から
5までの
5段階評定尺度) ,動 きの速 さ (
1か
ら
3までの
3段階評定尺度) ,動 きの方 向性 ( 矢印か文字でその方向を示す)と イ
メージ内容 ( 文字で記入)を1 0秒間の間 に記入 するよう指示 される。実験課題
に入 る前 に,練習課題 を
2題与え,練習 させて要領 を会得 させ た。
実験課題が終 了するまで音刺激は持続 してきか された。
整理法 今回はイメージの投影 を中心に分析する。それぞれの図形別に投 影 されたイメージ内容のうちで多数 を占めた上位
3位 までの内容をとりあげ, 各図形別,各系列別.各群別 に整理 した。イメージ内容については,快的内容 と不快 な内容及 びそのいずれでもない中性的内容 に大別 した。同一図形の上位
3位 までに,快的内容 と不快な内容,あるいは,不快な内容と中性的内容, ま たは中性的内容 と快的内容にまたがって分布 している場合には,両方の内容 と 考え,それぞれの内容 について,咲,不快,中性,両方と分類 した。
結
果以上の方法で得 られた結果は,表
2,図
3, 4, 図
5に示す通 りである。
765432
彩色図形の数
CO
l 群UCl 群CO2 群UC2 群
図
3.彩色図形における各群の イメー ジ内容の比較
COl 群UCl 群CO2 群U
C2群
図4 ,無彩色図形における各群の
イメージ内容の比較
表
2 各群における上位
3位 までの図形別 イメージ内容の比較
実tL‡事
図形粥丑 ・‑CO
I粁
一一UC1群
COZF .
UC2群
ー
■23
ピラ ミッ ド,山
,あがる,重 い,ど 山, ピラミッ ド
,ピラ ミッ ド,三角
ナウ:A ナツ レコー ド
丸い,水滴 足跡,花 広が り,足跡,花
4
花,重 い,
暗い 倒れ る,すいこま 冷たい, れる うず まき, ひろが る, す いこまれ る
広: . 一 り 結晶,風車 向つて くる,広が り, ピラミッ ド 花,マーク
5 ばら
つ きあ り 結晶,ステン ドグ 迫 勢 安定 暗 い ラス
よっいく て
とよ く ぷ
くると, ぶ,不 勢い
6 ばらつ きあ り 楽 収縮 暗 た と ぶ こ い し , ロケ , ,広 が り くまわ rおちる
る,ット
花が ,
7
不安定 不安定
8
暗 い,重 い,箱 重 楽 しい 広 が 暗い恐怖 暗 い恐怖, い り
,ま.不明 わる
るいひ安.
ろ,
が9
ボン玉 まわる円. シャ ダイヤモン ド
軽い
,花花, ダイヤJ V,質
ー0
1ー
折 り紙
広が り 他 他 亀の甲,重 い,暗
他 り い
折 り紙 他 不安定 窓,豆腐
ー2
五角形 他 不安定, とぶ,ひ 暗い恐怖,不安 ろが わ とぶ,軽い 重 い 飛ぶ,五角形,向 不安定にとぶ,不 安定,三角形 重 い,暗い つてくる
ー314
三角形,軽い 穴,日食,秤 軽 くとぷ 日食,軽い ピラ ミッ ド,山
,群群2
2
C0HUC′1‑∫IL灰
色系列実
験群群
群l■▲C0UCnHHHHHu 相
川HtL黒色 系
列実 験
群図形刺激の系列と提示IrB序
・
霊三笠?,警告芸志詣 嘉冨冨造彩色図形,図5 .図形の拒時的流 れ とイメー ジ内容 の各群 における比較
これ らの結果 を図形 の形態別,彩色 ・無彩色別及 び系列別 に, イメー ジ内容 との関係か ら,情緒的 に異 なる二群間 にどの ような特徴 が認 め られ るか分析 を 試み る。
(り 図形別 イメージ内容の特徴 について
まず15枚 の図形 の形 態及 び色彩別 イメー ジ内容 と
CO
.,CO2
,UCl,UC2群 問の特徴 につ いて検討 してみる。図5,表2か ら判 るように図形1につ いて はUCl群 が他 の
3
群 とは異 なるイメー ジ (重い,あがる)を投影 している。図形2
,3
も同様,UC
l群 が,迫 る,飛 ぶ,不安定 に広 が る とい った動 きを伴 った イ メ‑ ジの投影が多い ことが特徴的である。図形4
は, 4
群共 に イメージに共通 性 が少 な く, それぞれ各群固有 の イメージを投影 していることが判 る。図形5 は,UC2,CO2
群 は,類似 した イメー ジ内容 であるが,UCl群 は,倒 れ る,吸 いこまれるとい う不安 を暗示す る内容が多いの に対 し,CO
.群 は, さま ざまな イメー ジの投影 を与 えていることが特徴的 といえる。図形6は図形4と同様4 群問 にそれぞれ イメー ジ内容 に差異が認め られる.図形7は, 4群共,不安定 感 を投 影 した点 で共通 の イメー ジ内容 が認 め られ る。図形8も暗 い という イ62
メージを投影する点では
,4群共通 しているが
,UCl群の暗いイメージの内容 は,抑 うつ的な重苦 しい感 じよりも,恐怖心の混入 した暗 さである点 において, 他の
3群とは異 なっているといえる。図形
9についても同様
,UC, 群 は他の
3群に比べて,楽 しいという快的反応 を多 く投影 していることが判る。
図形
10,ll
,12につ いて も
,UCl 群が他 の
3群,特 に同 じ情緒状態 にある
UC2
群に比べ,恐怖感や不安定感を多 く示 しているのが特徴的である。
図形1
3については
,UC2群 が他の
3群 に比べ,不安定な内容の イメー ジを やゝ多 く示 し卜図形1
4については,
UCl,UC2群が,暗い不安感や恐怖感 を示 しているのに対 し
,Col,CO
2群 は "日食" という中性的な内軒 ともいえる自 然の現象をイメージとして多 く投影 していることが判る。
図形1
5については,COl 群 を除き
3群共 に,動 きを伴 ったイメージが認め ら れた。
( 2) 彩色 ・無彩色図形 とイメージ内容について
15
枚の図形のうちで彩色された図形 はそれぞれの系列共同 じで
7枚,無彩色 も両系列共同 じで
8枚である。それ らの図形についてイメージ内容の結果をま とめたのは,図
3,図
4である..イメージ内容 を区分す るにあたって," 三角形' ‥̀ 山… といった内容 は, イ メージにあまり情緒が投入 されていない中性的な内容であると考え,中性 と し, それ らに対 して,"暗 い"," 不安"," 恐怖" といったイメージは,不安 な情緒 が投入 されていると考えられるので,不快な内容であると判断 し," 楽 しい",
̀ ̀ 踊 っている" といった内容は,快的な内容であると考えて区分けした。また, 同一の図形 に,快 ・不快の両方 を投影 している場合は,両方と判定 した。
まず,大別 したそれ らの内容が
4群間でどのような傾向を有 しているのかを 調べてみる。図 3, 4か ら判るように, 4群それぞれの傾向として,彩色図形 の方が,無彩色図形 よりも不快 な内容 を多 く投影 していることが判る。特に,
UC
l 群 は,彩色図形に対 して不快なイメージを多 く投影 していることが明 らか
である。無彩色図形では同一の図形に対 して,快 ・不快あるいは,快 ・中性 と
いった両方のイメージ内容を多 く投影 しているのが特徴的である。次に
COl,
CO
2群 と
UCl,UC2群間の比較 をしてみると
,Col,CO
2群の方が
UCl,UC2群 よりも不快 な投影の内容が少なく,無彩色図形では,快 ・不快 ・中性の変化に 富んだイメージ内容の投影が多 くなされている.黒色系列と灰色系列における 各群の比較 をしてみると
.UCl群が彩色図形すべてに不快な反応 を投影 してい ることと,無彩色図形 に対 しても他の
3群 よりも多 く不快な反応を示 している ことが判 る。次いで
,UC2群が彩色図形に不快 年反応が多 く,無彩色E g形に対 しても同様の傾向を示 している。また, 4 群共無彩色図形の方が彩色図形 より も不快 な反応内容が少 ない。快的な反応内容は
,Co
l,CO
2群の方 により多い ことが判明 した。
(3)
図形の形態別 ,系列別特性 とイメージについて
まず黒色系列の彩色図形で不快 なイメージ内容を投影 した
UCl群 は,すべて の図形 に対 して不快 ということであるか ら,形態か ら不快な感情が惹起 された というよりも,黒色という色彩が,不安感,恐怖感 を惹起 させているのではな いかと考え られる。同 じ不快な情緒群である
UC2群 は,最初か ら提示 された
3枚の灰色図形に対 しては中性的な内容にとどまっているが,その後提示 された
4
枚の灰色図形に対 して,不快 な不安 を示すイメージの内容が投影 されている。
灰色 という色彩 と,形態的には,正三角形,( 図
1)円形の集まり ( 図形
2, 3)以外の等辺図形や大 きい円形図形において不安感,不快感が惹起 されている. と 同時に,図形の継時的な流れに伴 って,不安感が強 くなってきているように思 われるO
つづいて
,COl群の彩色図形 におけるイメージの投影の特徴 を調べてみると, 図形
14の "日食" を除 き,色彩 を考慮 しない形態のみの反応内容で, しかも, 情緒的負価の少ない中性的な内容で占め られていることが判る。図形 4, 8は, 不快 な内容."暗い" ," 重 い' 'と,やゝ中性的な内容," 箱""花' 'の両方にま たがっていることが判 る。
これに対 して
CO
2群の彩色図形に対するイメージ内容の傾向をみてみると,
CO.
群に比べ,動きの加わったイメージが増大 していることである。単 に形態 のみに注 目した中性的な反応内容にとどまらず,動 きの加わった情緒的負価の 伴う反応が認め られる。動 きの性質は,ゆっくりとした広が りと軽い動 きが中 心であり,図形の形態 との関係では,円形や等辺図形については,ゆっくりと 広がってゆく動 き,軽 く飛ぶ動 きが認め られ,不等辺四辺形では,早 く飛ぶ, 上昇する,下に落ちる動きがみ られた。イメージ内容 も
,CO. 群の中性的な内 容一辺倒 に比べ,快 と不快,中性 と不快 などの両方にまたがる変化の多いイ メージの投影が認れ られた。
黒色系列 にお ける無彩色図形 (白色)について
CO. 群のイメージ内容 をみて みる。形態のみに注 目して中性的で動きの伴わない反応 を示 しているのは,図 形
2,ll,.15の
3枚 である。図形
5, 6, 9,13は両方 ( 中性と快)の情緒的 魚価 を投入 し且つ動 き ( まわる,軽い,飛ぶ)を伴 ったイメージの投影がなされ ている。無彩色図形 8枚の うち不等辺四辺形 である図形 7のみが,不快 なイ メージを惹起 させていることが判る。
UC
l 群 について調べてみる。図形
9,13,15は快的なイメージの投影がなさ れているが,あとの
5枚 は,不快なイメージの投影が多い。また
CO▲ 群 に比べ て,動 きを伴ったイメージの投影が多 く認め られるが,動 きの性質 も," 倒 れ る",̀ す いこまれる' ' ," 迫 って くる",など不安感,恐怖感 を内包 させた意 味 あいの内容が多いことが判る。図形の形態との関係では,̲ 図形
9の円形の集 ま りを図示 した図形に最 も快的なイメージ ( 楽しい,明るい)の投影がなされてい る。正三角形,正五角形については動きを伴 った快的なイメージの投影がなさ れているが,正六角形,正方形 と不等辺四角形 については,不安なイメージが 多い。
灰色系列における無彩色図形に対するイメージ内容をみてみる。イメージ内 容は
,CO. 群 と余 り変 りはないが,動きが
COl 群 よ りも具体的な状況 と して表 現 され易 くなってきている。図形
7は
,COl群 ではきわめて不快な内容 を示す 唯一の図形 であったが
,CO
2群 で もその点 については同 じである。たヾ, イ
65
メ‑ジ内容 と して "ものが落 ちる",…ロケ ッ トの発射 ( 噴射) " という具体的 な不安や攻撃性 を暗示する表現 をしている点で両群に差異が認め られる。図形 6 は,COl 群では多種多様 な変化 に富んだイメージ内容に分かれていたのに対 して,"楽 しくまわる"," 花" といった内容に集中 している。
UC2
群 について調べてみる。灰色系列のうちの
8枚の無彩色図形のなかで,
3枚が不快な内容,あとq)5 枚が中性的なイメ‑ジ内容を示 している。 3 枚の 不快 な内容 は,いずれ も,動 きを伴 ったイメージで," 迫 って くる' ' ," 不安定 に飛ぶ" といった漠然 とした恐怖感,不安感 を強調するものである。中性的な イメージ内容 を示 した図形
9,11では,図形の形態のみな らず,白色という色 彩にも注 目して," 雪"," 豆腐"といった反応が投影 されている。
考 察
以上の結果か ら考察 してみる。本研究は, これまで検討 してきた動 きの性質 と情緒的快 ・不快 との関係を更 に詳 しく検討するための前段階として, イメー ジ内容 に,情緒的 に異 なる二群 と,図形の性質 ( 形態と色彩)との間で,どの ような特徴が認め られるのかを中心に実験 を試みた。
動 きの投影 と個体の内的状態,つま り情緒的快 ・不快の状態 との関係では, 前述 したように,情緒的に快的状態にある場合は,動 きが促進 され易 く,不快 な状態 にある場合 には,動きが促進 されにくいか,・ あるいは,方向性 と速さと の相補的関係の中で動 きを捉える必要があるということが明 らかにされたが, イメージ内容についての分析か らどのような関係が認められるかについて検討 してみる。色彩図形として黒色 と灰色という
2種類を使用 しているので,それ ぞれの系列について個別に考えると同時に総合的にイメージ内容 との関係をと らえ,その特徴 を明確 にしてゆきたい。
まず,系列別にその特徴について考察 してみる。情緒的に快的な状態にあっ
ても,黒色 と白色 とが極端に対比する系列 をもつ黒色系列の図形においては,
COl
群でも快的なイメージ内容 はほとんど認め られず,中性的な内容にとどま っていることが顕著に認め られる
。UCl群では,黒色図形すべて不安や恐怖 を 伴 ったイメージで占め られているように,黒い色彩が,図形の形態 を圧倒 して 不安や恐怖感を惹起 させる大 きな要因となっていることが推察 される。 しか も 白色の図形 においても
,UCl 群では
,COl群に比べて,不安定な動 きを伴 った イメージを投影 させ易 くなっているのが特徴的で
,COl群のように,不安なが らも,不安感や恐怖感 を伴わないような中性的で,抽象的な内容にとどまるこ とのできない内的な混乱状態,不安状態が示 されていると理解 され よう。また,
UCl 群では,黒色図形 と白色図形 に対するイメージ内容が,極立って異なって いるのもその特徴で,継時的な黒色と白色の対比関係が顕著に捉え られたこと は,注目に価するといえる。たとえば,黒色系列の次に白色の しか も安定 した 形態 を有すると考え られる円形の集合図形 ( 図形
9)に対 して,不安な状態か ら一息に解放 されたかの如 く,"楽 しい",̀ ̀ 明るい' 'イメージを投影 している などである。このように,不安な状態における黒色の色彩が,いかに個体の内 的不安感 を増大 させているかが, この対比反応か ら読みとることができたと考 えてもよいだろう。また
,COl群の白色図形
7に投影 された不快な内容 は,他 の白色図形への投影内容とは異なったイメージを表出 している点で,等辺図形 に対 して不等辺図形という図形の不安定な形態が,不安感 を惹起 させているの ではないかと考えられる。
次に灰色系列では,色彩 と形態がどのような関係になっているのかを検討 し
てみる。灰色系列では
UC2群 も,不快な内容ばか りではなく,色彩 に影響 され
ない中性的な内容を示すイメージが増加 してきている。同一図形でC O
2群 も,
中性的なイメージが少なくな り,中性的 と快的,あるいは不快 と中性的な両方
の内容にまたがったイメージ内容を示す傾向が多 くなり,いわば, イメージが
多様に投影 され易 くなっていることが判 る。 しか も,黒色系列の場合に比べて,
両群とも動 きの伴ったイメージが増加 しているのが特徴的である。 しか も,灰
色の色彩が不安感を与えていると考え られるのは,C O
2群の場合,四角形 ( 図
形 8 )と五角形 ( 図形 1 2) のやゝ角 ぼった形態 を併せ もつ図形のみであ り,そ の他の六角形,三角形,円形では,灰色という色彩 をうまく形態の中に統合さ せたイメージを投影 していることが判 る。
UC2
群 は
,CO
2群の上述の傾向に比べ,まだ灰色の色彩が,不快感を増大 さ せている傾向はつ よく,形態にかかわらず,色彩のもつ不快感に内的な情緒が 刺激 され易 くなっていると判断 される。灰色系列の場合において,黒色系列 と の相違 は,無彩色図形において,不安感が少な く, しかも不安定な動きを伴 っ たイメージ内容が減少 している点である。
以上のことを総合 して考えてみると,まず,彩色図形の方が,無彩色図形 よ りも不安定な情緒 を喚起 し易いと結論づけられるだろう。今回は,黒色 と灰色 という
2種類の色彩 を使用 したが,明度の低い黒色は,明度の高い灰色に比べ て,個体の不安感 ・恐怖感 を喚起 させていることが判る。特に,情緒的に不快 な状態にある個体にとって,黒色の色彩 は,不安や恐怖 を増大 させ ることが明 らかとなった。また,不安感 ・恐怖心 は,不安 な動 きとなってイメージの中に 投影 され易いことも明 らかとなった
。COl群の結果か ら判 るように,快的な状 態で,不快な刺激 を提示 されると,不快 と快 とを折衷するような中性的な反応 を多 く示 している。 これ ら中性的な反応内容が図形 とうまく適合 している限 り において,個体が内的不快感 を抑えるのに成功 し,適応的な反応 を示 している と考えることができるのではないかと思われる。これ らの傾向は,灰色という 明度の高い色彩 になって くると,内的な快 ・不快状態にかかわ らず,不安感 は 軽減 され,快的状態 におかれた個体では,中性的な内容か ら,より情緒 を投入 した,感情移入の豊かなイメージの投影が可能 となるし,不快状態 におかれた 個体では,不快 な内容は減少 し,中性的な内容へと移行 していっていることが 明 らかに捉 え られた。従 って,個体が,図形刺激 ( ひいては外界の刺激に結びつ けて考えられると思われるが)を認知する場合,まず色彩が,個体の情緒 に何 ら かの働 きかけをし,つづいて形態の把握がなされ,最後に,色彩 と形態 との統 合過程があって, イメージが想起 されるのではないかと推論 される.色彩が強
、68
烈に個体の情緒 や情動を喚起すると,個体 は動揺 ・混乱 し,形態把握や,形態 と色彩との統合 をする能力を放棄 させ られ,情緒や情動によってのみ反応 を決 定 して しまうことが推測 される。日常の生活場面において,暗やみの中やお化 け屋敷などに入 ると,危機状態や不安状況 に陥って,判断力を失い,感情的行 動や衝動的行動 をとり易 くなるということも上述の結果か ら了解 される。不安 が軽減されると,図形の認知 も客観的になって,経験や学習を生か した多面的 な観点か ら
1つの図形 を把握 し,イメージ化できるようになっていくことが判 る。情緒的 に快的な方が,図形 の色彩 と形態 をうまく統合 させて,柔軟 にイ メージを想起 させなが ら,状況 を多面的に把握 し易いことが示唆 された。また 不安の程度 に応 じてイメージ内容 も不快‑中性‑快へと変化 していくことが明
らかとなった。
以上の ことか ら,情緒的に極度に不安 を喚起 させ られるような状態において は,たとえ個体が内的に安定 した状態であっても,快的な動 きを伴 ったイメー ジの投影 は少な く,む しろ不安定な動 きを伴 うイメージが,不快な状態 を解消 するために多 く投琴 され,不安が軽減 されるに従って,快的な動きを伴 ったイ メージの投影が増大 していく傾向にあるといえる。それと共に,イメージ内容 においても変化が認められる。つま り,極度に不安 を喚起 させ られる状況では, イメージ内容は不快な不安や恐怖 を示す内容が多い。特 に,暗い,重い,恐 ろ しい,不安定なといった漠然とではあるが,不快感 を象徴する内容が多い。不 安が軽減 される状況になるに従 って,つま り,色彩 としては,黒色,灰色,白 色の順に,形態 としては,不等辺四辺形に代表 される不安定な形態か ら,正三 角形,正六角形,円形 といった安定 した形態 になるに従 って,同 じ不快 なイ メージ内容 でも,"向 って くる' ‥̀ 広がってゆく' '" 早 くころが り落 ちる" とい った具象的な表現内容へと変化 してゆくのが特徴 といえる。色彩に関 しては, 黒色‑灰色‑白色の順 に,不安感は軽減 されるが,黒色系列における白色図形 と,灰色系列における白色図形 とでは,イメージ内容に明 らかな相違が認め ら れたことは注目すべき点であるO個体 は,ある図形 ( ひいては外界の事物) ・を把
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握 し,認知する場合,図形の色彩にしても.形態にしても,そのものだけを単 独に,独立 させて把握 しているのではなく,継時的に, しかも全体の構造の中 で相対的に位置づ けて認知 し,全体の構造の枠組の内で比較検討 しなが ら固有 のイメージを想起 させていると判断できる手がか りがこの実験か ら得 られたと 考えてもよいだろう。 しかも快 ・不快 という情緒的な気分が持続 されている場 合,全体の構造の把握 にそれらの気分が影響 して, イメージの中に感情移入さ れているわけであるか ら,黒色と白色の対比の方が,灰色 と白色という対比よ りも,快 ・不快の情緒 に強 く働きかけ,ーイメージ内容を限定 していることが判 る。図形の形態について考えてみると,円形,あるいは円形の集合図形 は,他 の辺形図形 に比べて安定 した図形と考えられるので,図形
3, 4にみられる如 く,色彩があって も比較的不安感 を介入 させずにイメージを惹起 させ易 くして いるといえる。 しか し図形1 4のように安定 した円形図形で も,大きい円形全体 に色彩 を有するような場合には
,UCl,UC2群においてみ られたように,形態 よりも色彩 によって不安定感がひきおこされていることが判 る 。Co
l,CO
2群 の快的情緒群では,色彩か らくる不快感が回避 され,色彩 と形態とがうまく統 合されたイメージを形成 している。円形の次に不安感 をひきおこし難い図形と して正三角形が考えられる。その次は,正四角形 となって,辺数が少な く,角 が少ない辺形 になる程 ( 円形に近づく程)不安定,不快感が減少 し,辺数が五角 形,六角形,更に不等辺図形になるにつれて,不安感,不快感 は増大する傾向 にあるといえよう。また,角の少ない四辺形でも図形
6, 7にみられる如 く, 図形の置かれた方向や位置 によって攻撃的な感情 を投影 させ易 くしていること も判明 した。筆者が門前 ( 1 982) の研究の中で,安定 した図形 と不安定感とは 高い相関関係 にあるのではないかと推論 したが, ここでもそれが確認されたと 考えてよいだろう。
また,図形の中に描かれた実線 は,動 きの方向性 を暗示するはたらきをして
いると考えられる場合が多 く,下 に向かうか,上に向かうか,前に向か うか,
動 く方向を規定 しているように考えられる。
更に,灰色系列の中で注 目すべき内容として,図形
5のステン ドグラス,結 晶,図形
9の雪,図形
10の亀の甲,図形1 1の豆腐,などである。これ らはロー ル シャッハ図版 のⅥ図の
IShading( 濃淡)反応 と して分析 されるのと同様の性 質 を有する反応内容ではないかと考え られた。灰色という色彩が,
shading効 果 を表わ し,灰色以外の白色の図形 においても立体的 で, その ものの材質感 ( たとえば,固さや柔らかさ)を与えるような反応 を促 している。上述以外の反 応 と しては,広 がる動 き ( 波紋など)を感 じさせる反応 を多 く示 していること か らも明 らかである。ロール シャッハ法 における
shading反応 は,母子の愛 情関係や基本的安全感が幼児期 に確立 されているか否 かの指標 と考え られ, この愛情交流 に欠 ける休験 を していると
shading反応 を拒否 した り,反応 を示 して も,硬 い材質反応 や漠然 と した反応内容 を多 く示 すといわれている
(Ⅹlopfer,1956;
河合
,1970)0本研究においては,母子の愛情関係とか基本的安全感の確立 といった幼児期 体験にまでさかのぼって推論することは不可能であるが,少な くとも灰色の色 彩が漠然とした不安感 を喚起 させ,増大させている刺激 になっているというこ とが明白となった。更に白色図形にまでもその傾向が及んでいるということは, 灰色一 白色の対比が,黒色一 白色の対比に比べて,明瞭に識別できにくい明度 を有 していたため,白色図版に残象効果が及んでいったものと解 される。
臨床的にも,抑うつ傾向や,不安傾向の強い人,明 らかにうつ状態であった り,うつ病 と診断された人のロール シャッハ反応 は,黒色図形 (Ⅰ
,Ⅴ図)や
shading
図版 ( Ⅳ
,Ⅵ
,Ⅶ図)に対 して拒否的であった り,形態のみの反応であ ったりして,運動反応 は少ないとされてきているが,本実験では,む しろ,不 快 な動 きを伴った反応がかなり多 く認められていることから類推 して考 えると, 不安定な状態や,不快な情緒状態では動きのなかで不安 を解消 しようとする試 みが強 くはたらいているように思われた。
これ らの結果から更に,今後 も,基礎的な実験 をつみ重ねて,臨床や臨床場
面における人間の行動の理解 を深める一助 となるよう,個体の認知行動の一環
としての投影の メカニズムについてさまざまの側面か ら実験的に解明 してゆき たいと思 う。
引 用 文 献
片口安史
1969 ロー)t'シャツハ ・テス ト心理診断法詳説 牧書店河合隼雄
1970 臨床場面におけるロール シャッハ法 岩崎学術出版 P.ギ ョ‑ム著 八木晃訳 1967ゲシタル ト心理学 岩波現代叢書Klopfer.B..Ainsworth.M.D.,KlopEer.W.G.,&Holt
,
R.R.,1954,Devilopnentsinthe Rorschachtechnique,y
ol.1.NewYork:WorldBookCompany.Rlopfer,B.,&Kelley,D.,1956,DevelopmentsintheRorschachteclmique.vol.II.
NewYork;WorldBookCompany.
門前豊志子
1982情緒的快 ・不快が投影的運動知覚に及ぼす影響 心理学研究 vol .
53,No.5,266‑273 .SchaLer