シリコン基板上に形成した Bi
4-xLa
xTi
3O
12薄膜の 優先配向の結晶化過程における変化
香野 淳1)・田尻 恭之1)・隅谷 和嗣2)・春木 理恵3)
(平成 21 年 5 月 30 日受理)
Change in Preferred Crystal Orientation of Bi
4-xLa
xTi
3O
12Thin Films Formed on Silicon Substrate during Crystallization
Atsushi Kohno1), Takayuki Tajiri1), Kazushi Sumitani2), and Rie Haruki3)
(ReceivedMay30,2009)
Abstract
Preferred c -axis orientations of La-substituted bismuth titanate(BLT)thin films formed directly on silicon substrates have been observed by X-ray diffraction using synchrotron light source.
The preferred orientation formation depended on the crystallization temperature. As functions of temperature and time for crystallization, the pole-figure measurement of 00l diffraction which refers the c -axis orientation of BLT crystal was carried out. In the case of 600℃, the 008 diffraction peaks were observed in the direction of normal to the surface and in-plane even at the early stage of crystallization. Although the surface normal component was slightly diminished with increased time for crystallization, the in-plane intensity increased and its distribution became sharp. In the contrast to this behavior, at 550℃ c -axis orientation normal to the surface never observed but the in-plane orientation was observed like the case of 600℃. Therefore the in-plane orientation could be related to the crystal structure of silicon.
1)福岡大学理学部物理科学科,〒 814-0180福岡市城南区七隈 8-19-1
DepartmentofAppliedPhysics,FacultyofScience,FukuokaUniversity,8-19-1Nanakuma,Jonan-ku,Fukuoka,814-0180, Japan
E-mail:[email protected]
2)九州シンクロトロン光研究センター,〒 841-0005佐賀県鳥栖市弥生が丘 8-7 SagaLightSource,8-7Yayoigaoka,Tosu,Saga841-0005,Japan
3)(独)日本原子力研究開発機構先端基礎研究センター,〒 319-1195茨城県那珂郡東海村白方白根 2-4
AdvancedScienceResearchCenter,JapanAtomicEnergyAgency,2-4ShiraneShirakata,Tokai-mura,Naka-gun, Ibaraki319-1195,Japan
1.序 論
強誘電体薄膜メモリーは,消費電力が低く高速で動 作する不揮発性メモリーとして注目されており,すで に一部は実用化されているものの,さらなる高集積化 や高性能化に向けて材料からメモリー構造まで幅広い 研究開発が行われている.将来の強誘電体薄膜メモ リー材料の有力な候補として,分極疲労特性に優れた Bi 層状構造物質 SrBi2Ta2O9(SBT),Bi4Ti3O12(BTO)
などが注目されている.それらの中で Bi4-xLaxTi3O12
(BLT)薄膜はメモリー素子応用に適した優れた強誘 電特性を示し[1,2],比較的低温で結晶化できることか らプロセス温度の低温化の観点でも有利と考えられ る.また,メモリー構造に関しては,金属─絶縁体─
半導体トランジスタ(MISFET)の絶縁層を強誘電 体薄膜で置き換えた金属─強誘電体─半導体(MFS)
トランジスタ型メモリーが高集積化とスケーリングに 適合する点で優れており,将来のメモリー素子構造と 期待されている.トランジスタ型メモリーを実現す るためには,適切な材料選択(残留分極値,抗電界,
誘電率など),高品質な強誘電体薄膜をシリコン基板 上(あるいは絶縁膜/シリコン基板上)に形成する技 術,強誘電体(絶縁体)とシリコン基板との界面を制 御する技術などが重要である.特に強誘電体/ Si 界 面には界面層が容易に形成されるため,界面の制御は
難しい[3-5].そのため,Si 基板上に極薄い絶縁膜を形
成し,その上に強誘電体を形成する MFIS 構造の研 究が盛んになっている[5–10].他方,Si 基板上に直接溶 液をコートして結晶化する手法を用いて作製した多 結晶 BLT 薄膜に優先配向が生じることが分かってき た[11].安価な薄膜形成手法によって結晶配向を制 御ができれば,応用上のメリットは大きいと考えら
れ[1,2,11–13],配向形成過程の理解と制御技術の開発が
望まれる.我々はこれまでに,Si 基板上に直接薄膜 を形成する技術を用いて作製した Au/BLT/Si 構造に おいて BLT の強誘電性に基づくヒステリシス特性を 観測し,ヒステリシス幅が薄膜中の優先配向に関係し ていることを明らかにしてきた[14].本研究では,薄 膜中の結晶配向の形成過程を理解するため,シンクロ トロン光を利用したX線回折を用いて,結晶化温度お よび時間による結晶配向の変化についてより詳細な研 究を行った.
2.実 験
p-Si(100)基板を化学溶液で洗浄し,超純水で水 洗した後,希フッ酸処理により基板表面を疎水性化 した.超純水でリンスした Si 基板をスピンコーター
中の試料テーブルに置いて,sol-gel 前駆体溶液を基 板に滴下して,スピンコートにより薄膜を形成した.
スピンコート時の回転数は 2 ステップで変化させ,
第 1 ステップを 1000rpm で 5 秒間,第 2 ステップを 3000rpm で 30 秒とした.前駆体をコートした後直ち に 150℃に保たれたホットプレート上で 30 分間の乾 燥を行った.その後,ゴールドイメージ炉を用いて O2ガス雰囲気中 550℃あるいは 600℃で結晶化を行っ た.これらの温度では 1 時間以上のアニールを行うこ とにより,薄膜全体がほぼ完全に結晶化されることが 分かっている.
薄膜の結晶化状態を X 線回折(XRD)により調べ,
配向性の解析には主に極点図測定(pole-figure 測定)
を用いた.測定試料は膜厚が 100nm 以下と非常に薄 く(結晶子が小さく)かつ配向も強くないため,回折 強度は非常に小さい.そのため,配向変化を定量的に 調べるための pole-figure 測定は,高エネルギー加速 器研究機構・放射光科学研究施設・ビームライン BL- 4C においてシンクロトロン光を利用して実施した(放 射光共同利用実験課題 2006G280).測定はすべて室温 で行った.
3.結果および考察
温度 550℃および 600℃で 1 時間の結晶化アニール を行った BLT 薄膜のX線回折パターンを Fig.1 に示 す.図中,BLT の(00l)面による回折の 2θ位置に 回折指数を記入している.600℃で結晶化した試料に
Fig.1X-ray diffraction pattern for BLT thin films crystallizedat550or600℃for1h.Thediffraction wasmeasuredby2θ–θscanwhichmeansthat the scattering vector was parallel to surface normal.
おいて明瞭に観測できる 00l回折が 550℃の試料には ほとんどみられない.すなわち,BLT 結晶の c 軸方 向の配向性が結晶化温度によって異なることが示唆 された.ただし,0012 回折ピークについてはほぼ同 じ 2θ位置に 200 と 020 回折ピークが重なっており,
550℃の強度が 600℃のそれに比べて大きいことはこ れらの回折の寄与によるものであり,a,b 軸方向に ついても結晶化温度による違いがあることを示唆して いる.Fig.2 に回折測定における回転軸の定義を示し ている.Fig.1 は 2θ–θスキャンの結果であり,この 場合散乱ベクトルが基板表面に常に垂直になるように
(ω=2θ/2)走査されたことになる.したがって,Fig.
1 において結晶化温度 550℃で作成した試料に 00l回 折が観測されないことは,基板表面に垂直な方向にc 軸をもつ結晶がほとんど存在しないことを示してい る.薄膜は数十 nm 程度(膜厚と同程度)の大きさの 多数のグレインから成っていることが分かっているの で,この薄膜は優先配向をもつ多結晶膜であると考え られる.
c軸配向性を定量的に調べるため,シンクロトロン 光を用いて pole-figure 測定を行った.モノクロメー タにより単色化されたX線(E=12.0keV,波長λ=
0.10333nm)を入射光として用い,6 軸回折計に試料 をマウントして回折測定を行った.測定中は常に入射 強度I0をモニターし,入射強度の変動の影響を受け ないように,回折強度分布はI/I0によって評価した
(Iは測定された回折強度).600℃で 10 分間および 60 分間の結晶化を行った BLT 薄膜について 008 回折の pole-figure 測定の結果を Fig.3 に示す.強度分布を 面内に投影して示しており,強度の大きさをグレース ケールで表している.Fig.2 に示したように,φは基 板表面に垂直な軸の周りの回転を表しており,一方χ は基板表面と回折面(入射線と回折線を含む面)の
交線に一致する軸のまわりの回転に対応し,表面と回 折面が一致するときをχ = 0º,垂直なときをχ = - 90º と定義している.投影図においては,円の中心軸が 基板表面に垂直な方向に対応している(Fig.3 参照).
Fig.3 の結果から,基板表面に垂直な方向と面内方向 に 008 回折強度が分布していることが分かる.この結 果は定性的には実験室系での測定結果と一致している が[15],実験室系では強度が弱すぎるため定量的な変 化を議論することができなかった。結晶化時間によ
Fig.2Definition of rotation axes for XRD measurements.
Fig.3Theresultsofpole-figuremeasurementof008 diffractionfortheBLTthinfilmscrystallizedat 600℃for(a)10minand(b)60min.Theintensity distributionwasprojectedontothecircleplane.
The diffraction intensity at the center of the circle means that from the crystal,c -axis of which is parallel to the surface normal (χ =
-90º).Thedottedlinesshowχ =-60º,-30º,0º frominsidetooutside.
る強度の変化をみるため,Fig.3 の破線(χ)に沿っ て強度変化を抽出した結果を Fig.4 に,またχ = - 2º における強度変化(φスキャンに対応)を Fig.5 に示 す.Fig.4 から基板表面垂直方向の強度は結晶化時間 とともに減少し,面内の回折強度が増加したことが分 かる.面内回折については強度が増加するだけでなく,
その分布がシャープになっている(Fig.5).これらの 結果から,結晶化過程の初期には結晶c- 軸が表面垂 直方向と面内方向と一致する 2 種類の結晶核が形成さ れ,結晶化が進む過程でc- 軸を面内にもつ結晶粒の 成長が優勢に進み,そのグレイン成長の過程で他の配 向結晶グレインを取り込むことによって,面内c- 軸 優先配向となったものと考えられる.
次に,550℃で 10 分間および 60 分間の結晶化を行っ た BLT 薄膜について 008 回折の pole-figure 測定の結 果を Fig.6 に,また Fig.6 の破線(χ)に沿って強度 をプロットしたものを Fig.7 に示す.550℃の場合に
は表面垂直方向に強度分布が見られない.このことは Fig.1 の結果と一致している.一方,面内方向の強度 は 10 分間の結晶化を行った時点から観測され,60 分 になると強度が増加していることが分かる(Fig.7).
また,600℃の場合と同様に,面内回折については強 度分布がシャープになっていることが確かめられた.
008 回折の表面面内の強度分布は温度によらず結晶 化の比較的早い段階から観測されており,面内での方 向もシリコン基板の方位と関連していることが示唆さ Fig.4χ dependence of the 008 diffraction intensity.
The intensity was counted along the broken lineforχinFig.3.
Fig.5φ dependence of the 008 diffraction intensity countedatχ=-2ºinFig.3.
Fig.6Theresultsofpole-figuremeasurementof008 diffractionfortheBLTthinfilmscrystallizedat 550℃for(a)10minand(b)60min.Theintensity distributionwasprojectedontothecircleplane.
The diffraction intensity at the center of the circle means that from the crystal,c -axis of which is parallel to the surface normal (χ =
-90º).Thedottedlinesshowχ =-60º,-30º,0º frominsidetooutside.
れているので,c– 軸の表面面内配向はシリコン基板 の結晶構造と関係しており,結晶核発生が薄膜/基板 界面付近で起こっているのではないかと考えられる.
一方,表面に垂直な方向のc- 軸配向成分については 膜中に発生した結晶核に起因するのではないかと考 えられる.結晶化温度 600℃と 550℃の間の配向形成 過程のメカニズムについては未だ明らかとなっていな い.今後,結晶核発生率およびグレイン成長速度の観 点から実験と解析を進める必要がある.
4.結 論
強誘電性結晶 BLT 薄膜の Si 基板上での結晶化過程 と優先配向の形成過程についてX線回折法を用いて調 べた.BLT の 008 回折の pole-figure 測定からc– 軸優 先配向性があることを確かめ,BLT 薄膜中のc– 軸の 優先配向の形成過程が結晶化温度によって異なること を明らかにした.結晶化温度 600℃の場合には,c– 軸 が表面に対して垂直方向に配向した結晶と表面面内に 配向した結晶とが存在し,時間とともに面内配向の結 晶の方が優勢に成長し,表面垂直方向の結晶が減少す ることが分かった.一方,温度 550℃の場合には,表 面面内方向にc- 軸が配向した成分のみが観測された.
c- 軸の表面面内配向は基板の結晶構造と関係してい
ることが示唆された.
謝 辞
本研究の一部は福岡大学研究推進部の研究経費によ り実施された(課題番号:085001).また,シンクロ トロン光を用いたX線回折実験は,高エネルギー加速 器研究機構・放射光共同利用実験課題 2006G280 のも とで行われた.
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Fig.7χ dependence of the 008 diffraction intensity.
The intensity was counted along the broken lineforχinFig.6.