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Vol.30 , No.1(1981)095的場 慶雅「唐代における観世音菩薩信仰について -観世音と観自在をめぐる一考察-」

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Academic year: 2021

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(1)

-観

-的

﹁ 観 世 音 菩 薩 ﹂ は 鳩 摩 羅 什 を 始 め と す る 旧 訳 で あ り、 ﹁ 観 自 在 菩 薩 ﹂ は 玄 婁 を 始 め と す る 新 訳 で あ る。 こ の 二 者 に 関 し て は 従 来 梵 語 学 的 見 地 か ら 二-三 の 論 文 が 発 表 さ れ て い る。 そ こ で 小 論 で は 論 点 を 変 え て、 唐 代 に お い て こ の 二 者 が、 ど の よ う に 人 々 に 受 容 さ れ て い た か に つ い て、 1 註 釈 者 に お け る ﹁ 観 世 音 ﹂ と ﹁ 観 自 在 ﹂ 2 訳 経 者 に お け る ﹁ 観 世 音 ﹂ と ﹁ 観 自 在 ﹂ 3 霊 験 記 に お け る ﹁ 観 世 音 ﹂ と ﹁ 観 自 在 ﹂ の 三 項 に 分 類 し て 少 し く 考 察 を 試 み よ う と 思 う。 1 註 釈 者 に お け る ﹁ 観 世 音 ﹂ と ﹁ 観 自 在 ﹂ 羅 什 の 弟 子 僧 肇 は ﹁ 注 維 摩 詰 経 ﹂ 第 一 で、 観 世 音 菩 薩 什 日 ﹁ 世 有 危 難 称 名 自 帰。 菩 薩 観 其 音 声 即 得 解 脱 也。 亦 名 観 世 念 亦 名 観 自 在 也。 ﹂ (傍 点 筆 者 ) と 羅 什 の 言 葉 を 引 用 し て い る。 こ こ に お け る ﹁ 観 自 在 ﹂ は、 同 文 を 引 用 す る 道 抜 撰 ﹁ 浄 名 経 関 中 釈 抄 ﹂ で は ﹁ 観 世 自 在 ﹂ と な っ て お り、 大 正 蔵 経 ㊥ 大 和 多 武 峯 談 山 神 社 蔵 本 も 同 様 ﹁ 観 世 自 在 ﹂ と し て い る。 羅 什 後 の 諸 訳 経 か ら も 鑑 み て、 こ れ は 写 本 の 誤 り と 思 わ れ る。 そ こ で 羅 什 は、 観 世 音 ・ 観 世 念 ・ 観 世 自 在 の 三 名 を 示 し、 そ の 代 表 と し て ﹁ 観 世 音 菩 薩 ﹂ と し た こ と が わ か る。 ﹁ 観 世 音 菩 薩 ﹂ の 名 号 に つ い て 始 め て 解 説 し た 光 宅 寺 法 雲 は ﹁ 法 華 義 記 ﹂ 巻 八 に お い て、 観 世 音 可 有 四 名。 一 名 観 世 音 正 言。 観 世 間 音 声 而 度 脱 之 也。 二 名 観 世 音 身。 即 是 観 衆 生 身 業 而 度 脱 之。 三 言 観 世 意。 即 是 観 衆 生 意 業 而 度 脱 之 也。 四 者 名 観 世 業。 此 則 通 前 三 種。 と 述 べ、 続 け て 口 業 は 行 い 易 く、 身 意 業 は ⋮難 し い、 又 仏 事 は 声 を あ げ て 行 う か ら 観 世 音 と な っ た と 説 明 し て い る。 吉 蔵 は ﹁ 法 華 義 疏 ﹂ 巻 十 二 に お い て、 観 世 音 ・ 観 世 意 ・ 観 世 身 の 三 名 を 立 て、 趣 標 其 一。 二 者 観 世 意 名 但 生 意 業 善。 観 世 名 生 身 意 二 業 善。 生 善 義 局 故 不 標 之。 若 口 称 名 必 備 三 業。 以 生 善 多 故 立 観 音 名 也。 三 唐 代 に お け る 観 世 音 菩 薩 信 仰 に つ い て ( 的 場 )

(2)

-365-唐 代 に お け る 観 世 音 菩 薩 信 仰 に つ い て ( 的 場 ) 者 意 業 存 念 身 業 礼 拝 但 得 自 行 不 得 自 行 不 得 化 他 故 不 立 身 意 二 名。 口 称 観 音 具 得 自 行 化 他 故 立 観 音 名 也。 四 者 娑 婆 国 土 以 音 声 為 仏 事。 義 既 顕 彰 故 立 観 音 之 名。-中略-別有 経 云 ﹁観 世 自 在 菩 薩 ﹂ 此 名 備 含 三 業。 於 名 義 最 勝。 と 述 べ ﹁ 観 世 音 ﹂ は 三 名 を 全 て 含 ん だ 名 号 で あ る と し、 し か し、 ﹁ 観 世 自 在 菩 薩 ﹂ の 方 が 最 も 勝 れ て い る と し た。 唐 代 に 入 っ て 玄 斐 は ﹁ 大 唐 西 域 記 ﹂ 第 三 で 唐 言 観 自 在 合 字 連 声 梵 語 如 上。-申略-旧 訳 為 光 世 音 或 云 観 世 音 或 観 世 自 在 皆 託 謬 也。 と 始 め て ﹁ 観 自 在 ﹂ を 発 表 し、 光 世 音 ・ 観 世 音 ・ 観 世 自 在 は 託 謬 と し て 否 定 し た わ け で あ る。 玄 斐 の 弟 子 円 測 は ﹁ 観 世 音 ﹂ と ﹁ 観 自 在 ﹂ を 定 義 し て ﹁ 仏 説 般 若 波 羅 蜜 多 心 経 賛 ﹂ に 若 依 旧 本 名 観 世 音。 観 諸 世 間 称 菩 薩 名 音 声 語 業、 以 救 諸 難 因 而 立 号 名 観 世 音。 猶 未 能 顕 観 身 意 業。 而 今 本 云 ﹁ 観 自 在 ﹂ 者 内 証 二 空 外 観 三 業。 不 依 功 用 任 運 自 在 故 日 ﹁ 観 自 在 ﹂。 と 述 べ、 ﹁ 観 世 音 ﹂ で は 身 意 業 を 顕 わ し て い な い か ら 全 て を 包 括 す る ﹁ 観 自 在 ﹂ で な く て は な ら な い と し た わ け で あ る。 し か し、 湛 然 の 弟 子 智 度 は ﹁ 法 華 経 疏 義 績 ﹂ 巻 六 に 於 て、 翻 観 世 音 有 三 名。 一 名 観 世 音 二 名 観 世 意 三 名 観 世 身。 初 是 口 業 次 是 意 業 三 是 身 業 故 立 三 名。-申略-菩 薩 弘 慈 一 時 普 救 皆 令 解 脱 故 日 ﹁ 観 世 音 ﹂。 と 述 べ 玄 斐 等 の 説 に は 全 く 言 及 せ ず、 法 雲 以 来 の 説 に 拠 っ て い る。 以 上 を 検 討 す る と、 (1) 玄 斐 は 梵 語 か ら の 訳 に よ っ て ﹁ 観 自 在 ﹂ の 正 当 性 を 裏 付 け て い る。 働 諸 家 の 論 点 は、 三 業 に よ る 救 済 の 希 求 に 対 す る 表 現 と し て ﹁ 観 世 音 ﹂ が 妥 当 で あ る か 否 か と い う 点 に あ る。 (3) 法 雲 ・ 吉 蔵 ・ 智 度 は ﹁ 観 世 音 ﹂ の 名 号 を 三 業 の 集 約 と し て 正 当 で あ る と し て い る。 (4) 円 測 は (3) を 否 定 し、 梵 語 の 訳 と し て も 正 し く、 三 業 を も 包 括 す る ﹁ 観 自 在 ﹂ こ そ 正 当 な 名 号 で あ る と し て い る。 2 訳 経 者 に お け る ﹁ 観 世 音 ﹂ と ﹁ 観 自 在 ﹂ 玄 装 後 の 訳 経 者 に お い て ﹁ 観 世 音 ﹂ -と ﹁ 観 自 在 ﹂ の 使 用 状 態 は 左 記 の 如 く で あ る。 (1) 那 提 観 世 音(2) 智 通 観 世 音、 観 音、 観 自 在(3) 伽 梵 達 摩 観 世 音、 観 音(4) 阿 地 擢 多 観 音、 観 自 在(5) 杜 行 顕 観 自 在(6) 地 婆 詞 羅 観 世 音、 観 音、 観 自 在(7) 提 雲 般 若 観 自 在(8) 慧 智 観 世 音、 観 音(9) 達 摩 流 支 観 自 在(10) 実 叉 難 陀 観 世 音、 観 自 在(11) 李 無 詔 観 世 音、 観 自 在(12) 弥 陀 山 観 世 音(13) 宝 思 惟 観 世 音、 観 自 在(14) 義 浄 観 世 音、 観 自 在(15) 菩 提 流 志 観 世 音、 観 音、 観 自 在(16) 般 刺 蜜

(3)

-366-帝 観 世 音、 観 音(17) 智 厳 観 世 音、 観 自 在(18) 善 無 畏 観 音、 観 自 在(19) 金 剛 智 観 世 音、 観 音、 観 自 在(20) 輪 婆 迦 羅 観 世 音、 観 音、 観 自 在(21) 阿 質 達 霰 観 自 在(22) 法 月 観 世 音、 観 自 在(23) 遍 智 観 音(24) 不 空 観 世 音、 観 音、 観 自 在(25) 阿 目 怯 観 世 音、 観 音、 観 自 在(26) 般 若 観 音、 観 自 在(27) 含 光 観 世 音、 観 音、 観 自 在(28) 尸 羅 蹟 陀 羅 観 自 在 (29) 誓 弘 観 世 音、 観 音(30) 菩 提 金 剛 観 音、 観 自 在(31) 恵 果 観 自 在(32) 達 磨 栖 那 観 自 在(33) 法 成 観 自 在(34) 蹟 駄 木 阿 観 音(35) 三 昧 蘇 囎 羅 観 音、 観 自 在 こ れ を 集 約 す る と、 (1) そ れ ぞ れ、 観 世 音 二 十 例 ・ 観 音 十 六 例 ・ 観 自 在 二 十 八 例 と な る。 (2) 二 者 を 両 用 し て い る 訳 経 者 が 十 九 人 あ り、 経 典 に よ っ て 訳 が 異 り、 甚 だ し い の は 一 経 典 中 に 両 者 を 使 用 し て い る 場 合 な ど、 著 し く 統 一 性 に 欠 け て い る。 (3) 時 代 的 に も そ れ 程 変 化 な く 使 用 さ れ て い る。 3 霊 験 記 に お け る ﹁ 観 世 音 ﹂ と ﹁ 観 自 在 ﹂ 霊 験 記 に つ い て は 昨 年 小 論 を 発 表 し た わ け で あ る が、 こ こ で は 法 華 系 以 外 の 霊 験 記 に 見 え る 二 者 を 左 記 に 掲 げ る。 (1)続 高 僧 伝 観 音、 観 世 音、 観 世 音 経、 観 音 像、 観 音 呪、 玄 婁 伝 の み 観 自 在(2) 冥 報 記 観 世 音(3) 釈 門 自 鏡 録 観 音、 観 世 音 経、 観 音 神 呪(4) 集 古 今 仏 道 論 衡 観 音(5) 集 神 州 三 宝 感 通 録 普 門 品、 観 音 経(6) 法 苑 珠 林 観 音、 普 門 品、 観 世 音 経、 玄 婁 伝 の み 観 自 在(7) 大 唐 内 典 録 普 門 品、 観 音 経(8) 弁 正 論 観 世 音、 観 音、 観 音 像 こ れ を ま と め る と、 (1) 霊 験 伝 に お い て は ﹁ 観 世 音 菩 薩 普 門 品 ﹂ の 影 響 が 強 い。 (2)玄 突 伝 の み に ﹁ 観 自 在 ﹂ を 使 用 し て い る。 (3) ﹁ 観 世 音 ﹂ の 省 略 型 で あ る ﹁ 観 音 ﹂ の 使 用 が 目 立 つ。 以 上 の 如 く 諸 点 よ り 考 究 し た 結 果、 唐 代 に 於 て は、 ﹁ 観 世 音 菩 薩 ﹂ と ﹁ 観 自 在 菩 薩 ﹂ が ほ ぼ 共 存 し て い た こ と が 判 明 し た。 で は、 何 故 唐 代 の 大 訳 経 家 玄 斐 が 提 唱 し た 新 訳 ﹁ 観 自 在 ﹂ に 統 一 出 来 な か っ た の で あ ろ う か。 こ れ は、 前 の 小 論 で 記 し た 如 く、 唐 代 の 観 音 信 仰 が 六 朝 代 よ り 連 綿 と 継 承 さ れ た ﹁ 観 世 音 菩 薩 普 門 品 ﹂ を 中 心 と し た 信 仰 で あ り、 そ れ が 人 々 の 心 の 奥 深 く へ 滲 透 し て い た が 故 で は な い で あ ろ う か。 結 局 の 所、 中 国 人 の 仏 教 受 容 形 態 が、 梵 語 か ら の 訳 の 正 誤 と い う こ と よ り も 漢 訳 さ れ た 漢 語 に よ る 信 仰 が 強 調 さ れ る と い う 論 か ら 考 え 合 わ せ て、 唐 代 の 人 々 は 前 代 か ら 長 き に 亙 っ て ﹁ 観 世 音 菩 薩 ﹂ と そ の 省 略 型 の ﹁ 観 音 ﹂ の 言 葉 自 体 に 霊 性 を 感 じ、 又 そ の 威 力 を 信 じ、 唐 代 に 改 訳 さ れ た ﹁ 観 自 在 菩 薩 ﹂ の 正 当 性 を 理 性 的 に は 理 解 し た と し て も、 つ い に 統 一 さ せ る こ と が 出 来 な か っ た の で あ る。 ( 立 正 大 学 大 学 院 ) 唐 代 に お け る 観 世 音 菩 薩 信 仰 に つ い て ( 的 場 )

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