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理科教育学研究

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Academic year: 2021

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管の伸長を観察するこの実験では,花粉管の伸長変 化が授業時間内に起こらずに終わってしまうことが 問題として挙げられている(山野井・菊地・武村, 2013)。また,小学校教員には,理科を苦手とする文 系出身者の教員もいることや,近年,現場が多忙を 極めており,授業の準備に多くの時間を費やせない という現状も指摘されている(土井ら,2010)。しか し,理科教育では,身近な生物を題材として行う実 験や観察を実際に行うことが求められていることか ら,これらの実験をサポートする情報は,極めて重 要である。 花粉管は花の種類によって伸長のスピードが異な ることから,早く伸びる植物が観察に適している。 教科書等の書籍には,ホウセンカ,ムラサキツユク サ,インパチェンス(別名アフリカホウセンカ)な どが取り上げられている。しかし,インパチェンス およびムラサキツユクサは,入手は容易であるが, ホウセンカに比べ,花粉管の伸長が遅く,発芽直後

1.はじめに

中学校理科の生物分野と高校生物において,教 師が指導上難しさを感じることのある単元のひと つとして,中学校理科生物分野である「花粉管の観 察」が挙げられている(石井・保坂・佐藤・三浦, 2012)。また,山野井・菊地・武村(2013)は,高校 生物の教科書に掲載されている観察・実験の実施状 況について,教員を対象に Web アンケート調査を行 い,生物Ⅰの 2 章「生殖と発生」の実験の実施状況 を報告している。その結果,WEB アンケートにおけ る「花粉管伸長」実施状況は,「毎年実施」が 12%, 「実施する年が多い」が 7%,「実施しない年が多い」 が 37%,「実施したことがない」が 44%であり,高 校教員の 8 割が花粉管の伸長に関する実験を実施し ないことが多い,または実施していないことが明ら かになっている。寒天培地に花粉を付着させ,花粉

資料論文

花粉管の伸長を観察できる植物および最適条件の検討

島村 裕子

1

増田 修一

1

【要   約】

本研究では,理科教育における花粉管の伸長を観察できる植物およびその最適条件を明ら かにするために,花粉管の伸長観察に適した植物の探索を行った。その結果,ホウセンカの 花粉は,ショ糖濃度 10%で最も発芽率が高かった。一方,サルスベリ,モクセンナおよび チャノキにおいては,ショ糖濃度 15%において最も花粉管の伸長が認められ,いずれの植物 においても 0.5%のエタノールを加えることで花粉管の発芽率が高くなる傾向が認められた。 また,薬包紙に包んだ花粉をシリカゲルとともに密封容器に入れ,乾燥条件下で家庭用冷蔵 庫にて,6 ヶ月間冷凍保存したところ,ホウセンカおよびモクセンナの花粉は,寒天培地に 付着 10 分後に発芽を開始し,冷凍前と同程度の花粉管の伸長速度が保たれていた。チャノキ およびサルスベリでは,発芽までに 30 分から 1 時間を要したが,授業の前に花粉を培地につ けておけば,授業時間内に花粉管の伸長を観察できることが示唆された。マリーゴールド, ジニアリネアリス,ヒャクニチソウ,センニチコウおよびヒオウギスイセンは,花粉管の伸 長観察には適していなかったが,花粉が学校でよく扱われる植物とは異なる形状をしている ことから,理科教材として興味深く観察することができると考えられた。これら本研究で明 らかにした花粉管の観察およびその伸長に適した植物およびその条件に関する情報は,花粉 管の観察・実験への利用・応用に資することが期待される。 [キーワード]花粉管,花粉保存,伸長,発芽,寒天培地 doi: 10.11639/sjst.16057 1 静岡県立大学食品栄養科学部

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の検討に加え,エタノールとホウ酸を加えた場合の 花粉管の伸長に及ぼす影響についても検討した。

2.研究の方法

2.1 試薬および器具

精製水,粉末寒天(Bacto agar; Difco Laboratories Detroit, MI),ショ糖(スクロース;和光純薬工業 (株)),エタノール(和光純薬工業(株)),ホウ酸 (和光純薬工業(株)),プラスチックシャーレ,薬 包紙,シリカゲル,カッターナイフ,ろ紙,割箸, スライドガラス,光学顕微鏡(Nikon ALPHAPHOT YS,株式会社ニコン),デジタルカメラ(LUMIX DMC-FX01,Panasonic)。 2.2 花粉管の伸長観察に適した植物の探索 開花時期が長く,安定して手に入る植物 40 種を試 験に供した(表 1)。各植物は,7∼10 月にかけて庭 木や街路樹などから採取,もしくは購入した。 2.3 花粉管伸長用の培地条件 花 粉 管 伸 長 用 の 培 地 と し て, ① 8% シ ョ 糖, ② 10% シ ョ 糖, ③ 15% シ ョ 糖, ④ 10% シ ョ 糖+ 0.5%エタノール,⑤ 15%ショ糖+0.5%エタノール, ⑥ 10%ショ糖+0.5%エタノール+0.01%ホウ酸の 6 種類を用いた。ショ糖(8,10,15 g),粉末寒天 2 g に精製水 100 mL を加え,電子レンジで溶解し, 50°C 程度に冷ました。④,⑤および⑥の条件には, エタノール 0.5 mL を,さらに⑥の条件には,5%ホ ウ酸溶液 0.2 mL を加えて良く撹拌し,直径 8 cm のプ ラスチックシャーレに 10 mL ずつ分注し,室温で冷 やして固めた。各シャーレをラップフィルムに包ん で冷蔵で保存し,調製後 2 週間以内に試験に用いた。 調製した各寒天培地をカッターナイフで 1 cm× 1 cm 片に切り抜き,スライドガラス上に乗せ,その 上に花粉を付着させ,光学顕微鏡(100 倍)で観察 した。観察は,室温にて花粉を寒天培地に付着させ てから,経時的に 1 時間後まで行い,画像をデジタ ルカメラで撮影した。15 分以上での観察においては, 寒天培地の乾燥を防ぐために,スライドガラス上に 乗せた寒天培地を水で湿らせたろ紙を入れたシャー レの中に入れて室温で保存した。発芽率の測定は, 花粉 100 個あたりの発芽率を求めた。実験は,少な くとも 3 回行った。 2.4 花粉の長期保存試験 花粉管の伸長観察に適した植物(ホウセンカ,サル スベリ,モクセンナおよびチャノキ)を選択し,その までは観察できるが,伸長が進んでいく様子を見る には時間がかかりすぎる。また,インパチェンスは, 5∼6 月では,花粉管の観察に適しているが,7 月以 降は暑さで花つきが悪くなり,開花しても花粉をつ けないことがある。一方,ホウセンカの花粉管の伸 長は速く,観察材料として適しているが,開花時期 が限られている。また,市販されているホウセンカ やインパチェンスは,園芸品種で八重咲きのものが 多く,八重咲きの花は,花粉の発芽率が低いため, 一重の原種に近いものを入手する必要がある。した がって,花粉管の伸長を確実に観察できる植物や条 件を見いだすことは,花粉管の伸長実験を行うにあ たり大変重要である。 そこで,本研究では,花粉管の観察に適した身近 な植物を探索するとともに,花粉管の伸長に適した寒 天培地について検討した。花粉管の伸長観察に適し た植物の探索では,1)花粉管の伸長が速い(5 分程 度で発芽する),2)開花時期が長く,安定して手に 入る,3)花粉の長期保存が可能であることを条件と した。花粉の長期保存に関しては,チャノキの花粉を パラフィン紙に包んで容器に入れ,−80°C で保存す ることで,新鮮な花粉には劣るものの,24 年間発芽 率を維持できることが報告されている(池田・武田, 2009)。しかし,小・中学校の理科室に−80°C のフ リーザーがないことが予想され,また,半年程度保存 できれば,授業で使用するには十分であると考えられ る。そこで,発芽率が高かった花粉については,花粉 を家庭用冷蔵庫の冷凍室(約−18°C)で保存するこ とにより約 6 ヶ月冷凍保存が可能かどうか検討した。 花粉管の伸長観察に適した条件の探索では,シン プルな寒天培地の組成で各植物材料に適した条件を 明らかにすることを目的とした。寒天培地に少量の エタノールを加えると,加えない場合に比べ,花粉 管が発芽する確率が高くなることが経験的に知ら れている。エタノールの最適濃度は,花粉の種類 によって異なるが,ホウセンカの場合,添加量を 0.01,0.05,0.1%にすると,20 分後の花粉管の長さ は,各々 1.5,2.3,2.9 倍であったことが報告されて いる(高見,1959)。また,ホウセンカ,インパチェ ンスおよびミドリアマナにおいて,カルシウムやホ ウ素を加えることで花粉粒の破裂を防ぐことができ, 観察できる確率が高くなることが明らかになってい る(藤本・紅露・米沢,2014)。チェリモヤの場合, ショ糖 15%を含む 2%寒天培地にホウ酸を添加した ところ,ホウ酸濃度 10∼500 ppm で花粉発芽と花粉 管伸長に効果的であったことが報告されている(米 本・樋口・中西・富田,1999)。そこで,ショ糖濃度

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花粉を採取して,薬包紙に包んだ(図 1(A))。シリ カゲルを入れた密閉容器に薬包紙に包んだ花粉を入れ (図 1(B)),家庭用冷凍庫(約−18°C)で 6 ヶ月間保 存した。冷凍庫で保存した花粉を室温に 5 分間置い た後,寒天培地に付着させ,2.3 と同様に観察した。

3.結果と考察

3.1 花粉管の伸長観察に適した植物の探索 花粉管の伸長の結果を表 1 に示した。花粉管の伸 長が速く,観察材料として適しているホウセンカと 実験に供した植物を比較した。ミソハギ科サルスベ リ属のサルスベリ,マメ科カワラケツメイ属のモク センナおよびツバキ科ツバキ属のチャノキにおいて, 花粉管の発芽開始時間がホウセンカと同程度(1∼5 分もしくは 5∼15 分)であり,花粉管の伸長を観察 することが可能であった。しかし,同じ科や属の植 物種であっても,花粉管の伸長の傾向は異なってい たことから,科や属で花粉管の伸長を予測すること は難しいことが推察された。サルスベリは,6∼9 月, モクセンナは,9∼10 月,チャノキは 10∼11 月を中 心に,庭木や街路樹などに長期的に花がついており, 安定して手にいれることができ,また,これらの植 物は,大量に花粉が得られることから花粉管の伸長 に適した植物であることが示唆された。 3.2 花粉管伸長用の培地条件 3.1 で花粉管の伸長観察に適していると判断したホ ウセンカ,サルスベリ,モクセンナおよびチャノキ について,花粉管の発芽率が高かった上位 3 条件の 培地上における花粉の写真を図 2 に示した。ホウセ ンカのショ糖濃度 10,15%の時の花粉を培地に付着 させて 1 分後の発芽率は,38.3,20.3%であり,ショ 図 1 花粉の長期保存方法 (A)ホウセンカから花粉の採取,(B)シリカゲルを入 れた容器中の薬包紙に包んだ花粉 家庭用冷凍庫(約−18°C)で 6 ヶ月間保存した。 糖濃度 10%で発芽率が高かった。一方,花粉を培地 に付着させて 15 分後のサルスベリ,モクセンナおよ びチャノキでは,ショ糖濃度 10%では 30.7,33.7, 8.0%であったのに対し,ショ糖濃度 15%では 35.7, 34.7,19.3%であり,発芽率が高かった(図 2)。ま た,いずれの植物においても,至適ショ糖濃度の培 地に 0.5%のエタノールを加えることで,花粉管の 発芽率が高くなり,発芽率は,ホウセンカで 1.04 倍 (花粉を培地に付着させて 1 分後のエタノール添加時 の発芽率 42.3%),サルスベリで 1.76 倍(花粉を培 地に付着させて 15 分後のエタノール添加時の発芽率 42.0%),モクセンナで 2.77 倍(花粉を培地に付着 させて 15 分後のエタノール添加時の発芽率 44.3%), チャノキで 11.09 倍(花粉を培地に付着させて 15 分 後のエタノール添加時の発芽率 40.7%)となった。 培地のホウ酸濃度の違いが花粉発芽に及ぼす影響に ついては,ビワおよびモモ(福島・中島・原田・小 林,1968), キ ウ イ フ ル ー ツ(Hopping & Simpson, 1982),チェリモヤ(米本ら,1999)およびサンショ ウ(前田・米本・萩原・谷口・間佐古,2008)等の 結実を伴う植物において報告されている。そこで, ホウセンカの花粉において,ショ糖濃度 10%の培地 に 0.5%のエタノールを加え,さらにホウ酸(終濃度 100 ppm)を加えて検討した。ホウ酸の添加なし,あ りの場合の発芽率は,各々 1 分後で 42.3,36.3%,3 分後で 71.3,58.7%,6 分後で 77.7,63.3%となり, 発芽率が低下する傾向が認められた。サルスベリ, モクセンナおよびチャノキにおいても発芽率に対す る影響は,認められなかった(data not shown)。上 述の条件における発芽開始時間は,ホウセンカおよ びモクセンナで 1∼5 分,サルスベリ,チャノキで 5∼15 分であった(図 2)。これら植物以外では,シ ロツメクサ,ヒオウギスイセン,テッポウユリ,タ カサゴユリおよびヒャクニチソウにおいて,花粉管 の伸長が確認できたが,15 分以上の時間を要するこ とから,授業前に花粉管の伸長を始める必要がある ことが示唆された(表 1)。 3.3 花粉の長期保存試験 6 ケ月間,シリカゲルによる乾燥条件の家庭用冷 蔵庫内で,冷凍保存した花粉における花粉管の発芽 率および培地上の花粉管の写真を表 2 および図 3 に 示した。ホウセンカは,寒天培地に付着後 10 分で発 芽を開始し,その発芽率は 37.3%であったが,30 分 後においても発芽率は上昇せず(35.7%),その後の 花粉管の伸長も,冷凍保存しないものと比べて遅い 傾向が認められた。一方,モクセンナでは,ホウセ

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表 1 花粉管の伸長観察に適した植物材料 No. 名前 科名・属名 開花時期 発芽の有無 * 発芽開始時間 花粉管の伸長に適した培地/備考  1 ホウセンカ ツリフネソウ科ツリフネソウ属 6 ~ 8 月 1 ~ 5 分 ② 10%ショ糖,④ 10%ショ糖+ 0.5%エタノール 2 シロツメクサ マメ科シャジクソウ属 3 ∼ 10 月 △ 15 分以上 花粉が採取しにくい 3 ヒオウギスイセン アヤメ科モントブレチア属 7 ∼ 8 月 △ 15 分以上 ④ 10%ショ糖+ 0伸びるものもある.5%エタノール/発芽すれば長く 4 ツユクサ ツユクサ科ツユクサ属 6 ∼ 10 月 × ― ― 5 テッポウユリ ユリ科ユリ属 6 月 △ 15 分以上 ⑤ 15%ショ糖+ 0花粉が大きくて見やすい.5%エタノール/発芽率は低いが 6 トキワツユクサ ツユクサ科ムラサキツユクサ属 5 ∼ 7 月 × ― ― 7 ヒメジョオン キク科ムカシヨモギ属 5 ∼ 8 月 × ― ― 8 ダイヤーズカモミール キク科カミツレモドキ属 5 ∼ 7 月 × ― ― 9 ハルノノゲシ キク科ノゲシ属 5 ∼ 6 月 × ― ― 10 ムラサキカタバミ カタバミ科カタバミ属 6 ∼ 10 月 × ― ― 11 トレニア ゴマノハグサ科トレニア属 5 ∼ 10 月 × ― ― 12 ペンタス アカネ科ペンタス属 3 ∼ 10 月 × ― ― 13 ベゴニア シュウカイドウ科シュウカイドウ属 3 ∼ 11 月 × ― ― 14 サルスベリ ミソハギ科サルスベリ属 6 ~ 9 月 5 ~ 15 分 ③ 15%ショ糖,⑤ 15%ショ糖+ 0.5%エタノール 15 クガイソウ オオバコ科クガイソウ属 7 ∼ 8 月 × ― ― 16 ドクダミ ドクダミ科ドクダミ属 5 ∼ 8 月 × ― ― 17 タカサゴユリ ユリ科ユリ属 7 ∼ 10 月 △ 15 分以上 ③ 15%ショ糖,⑤ 15%ショ糖+ 0.5%エタノール 18 サルビア シソ科サルビア属 7 ∼ 10 月 × ― ― 19 ジニアリネアリス キク科ジニア属 5 ∼ 11 月 × ― ― 20 マリーゴールド キク科タゲテス属 6 ∼ 11 月 × ― ― 21 ラッカセイ マメ科ラッカセイ属 7 ∼ 8 月 × ― ― 22 ヌスビトハギ マメ科ヌスビトハギ属 7 ∼ 9 月 × ― ― 23 モクセンナ マメ科カワラケツメイ属 9 ~ 10 月 1 ~ 5 分 ③ 15%ショ糖,⑤ 15%ショ糖+ 0.5%エタノール 24 ヨウシュヤマゴボウ ヤマゴボウ科ヤマゴボウ属 6 ∼ 9 月 × ― ― 25 フジカンゾウ マメ科ヌスビトハギ属 8 ∼ 9 月 × ― ― 26 ハツユキソウ トウダイグサ科ユーフォルビア属 7 ∼ 8 月 × ― ― 27 ローマンカモミール キク科カミツレモドキ属 6 ∼ 8 月 × ― ― 28 キキョウ キキョウ科キキョウ属 6 ∼ 9 月 × ― ― 29 ペチュニア ナス科ペチュニア属 4 ∼ 11 月 × ― ― 30 ゼラニウム フウロソウ科ペラルゴニウム属 3 ∼ 11 月 × ― ― 31 ヒャクニチソウ キク科ヒャクニチソウ属 5 ∼ 9 月 ○ 1 ∼ 5 分 ④ 10%ショ糖+ 0花粉管が伸長しない.5%エタノール/発芽はするが, 32 ハイビスカス アオイ科フヨウ属 6 ∼ 9 月 × ― ― 33 ミニトマト ナス科ナス属 7 ∼ 8 月 × ― ― 34 センニチコウ ヒユ科ゴンフレナ属 7 ∼ 9 月 × ― ― 35 タマスダレ ユリ科タマスダレ属 7 ∼ 10 月 × ― ― 36 ローズマリー シソ科マンネンロウ属 2 ∼ 10 月 × ― ― 37 ルドベキア キク科ルドベキア属 6 ∼ 10 月 × ― ― 38 ヤマハッカ シソ科 ヤマハッカ属 . 8 ∼ 10 月 × ― ― 39 ヒルガオ ヒルガオ科イポメア属 6 ∼ 9 月 × ― ― 40 チャノキ ツバキ科ツバキ属 10 ~ 11 月 5 ~ 15 分 ⑤ 15%ショ糖+ 0.5%エタノール * ○:発芽する,△:一部が発芽する,×:発芽しない

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2 各種培地条件下における花粉管の伸長 寒天培地は,2 .3 に記載したものを用いた。各花粉は,室温にて観察し,光学顕微鏡(100 倍)で観察したものをデジタルカメラで撮影した。

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ソウ(図 4(C)),センニチコウ(図 4(D))および ヒオウギスイセン(図 4(E, F))の花粉は,ホウセ ンカなど学校でよく扱われる植物とは異なる形状を 有していた。花粉管の伸長においては,ヒャクニチ ソウは,1∼5 分で発芽はしたが,その後の伸長は認 められなかった。花粉を形状で分類すると,マリー ゴールド(図 4(A)),ジニアリネアリス(図 4(B)) およびヒャクニチソウ(図 4(C))は,球形で表面 が刺状であり,センニチコウ(図 4(D))は,球形 で花粉表面にサッカーボールのような幾何学模様が 認められ,ヒオウギスイセン(図 4(E, F))は,多 数集合形であった。いずれの花粉においても,サイ ズが大きく,観察も容易であった。これら花粉は, 花粉管の伸長はみられなかったが,その形状はホウ センカなど学校でよく扱われる植物とは大きく異な ることから,これらの花粉も観察することで花粉の 役割や植物の適応に対する興味を惹起するきっかけ となり得ると考えられる。

4.おわりに

授業時間内に花粉管の伸長を観察するためには, 発芽率が高く,短期間で発芽する植物が適している。 そこで,理科教育における花粉管の伸長を観察でき る植物およびその最適条件を明らかにするために, 花粉管の伸長観察に適した植物の探索を行った。そ の結果,サルスベリ,モクセンナおよびチャノキに ンカと同様に,寒天培地に付着後 10 分で発芽を開始 しその発芽率は 11.7%とホウセンカと比べて低いも のの,30 分後の発芽率は 17.3%となり,発芽後,冷 凍前と同程度の花粉管の伸長速度が保たれていた。 これらの結果より,モクセンナの花粉は,長期の冷 凍保存に最も適していると考えられた。一方,チャ ノキ,サルスベリでは,発芽までに各々 30 分,1 時 間を要したが,その発芽率は,23.7%,38.7%と比較 的高く,その後の花粉管の伸長も確認することが可 能であった。これらの結果より,チャノキおよびサ ルスベリにおいては,冷凍保存後の花粉を授業前に 培地に付着させておくことで,花粉管の伸長を観察 できることが示唆された。 3.4 学校でよく扱われる植物とは異なる形状の花粉 身近に手に入る植物の中で,マリーゴールド(図 4(A)),ジニアリネアリス(図 4(B)),ヒャクニチ 表 2 6 か月間冷凍保存した花粉における花粉管の発 芽率(%) 植物名 1 分後 5 分後 10 分後 30 分後 1 時間後 ホウセンカ ― ― 37.3 35.7 32.3 モクセンナ ― ― 11.0 17.3 25.7 チャノキ ― ― ― 23.7 27.0 サルスベリ ― ― ― ― 38.7 ―:発芽しない 図 3 冷凍保存 6 ヶ月後の花粉管の伸長 各花粉は,家庭用冷凍庫(約−18°C)で 6 ヶ月間保存した。寒天培地は,2.3 に記載したものを用いた。各花粉は, 室温にて観察し,光学顕微鏡(100 倍)で観察したものをデジタルカメラで撮影した。

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おいて,ホウセンカと同程度の花粉管の発芽開始時 間で花粉管の伸長を観察することが可能であること を明らかにした。また,ショ糖濃度 15%において最 も花粉管の伸長が認められ,0.5%のエタノールを加 えることで花粉管の発芽率が高くなることを確認し た。さらに,ホウセンカ,モクセンナ,チャノキお よびサルスベリの花粉は,半年間冷凍保存したもの においても花粉管の伸長が観察可能であることを明 らかにした。マリーゴールド,ジニアリネアリス, ヒャクニチソウ,センニチコウおよびヒオウギスイ センの花粉は,花粉管の伸長を観察するには適して いなかったが,学校でよく扱われる植物とは異なる 形状をしており,容易に観察可能であった。これら 本研究で明らかにした,花粉管の観察およびその伸 長に適した植物,その条件に関する情報は,花粉管 の観察・実験の改善に資することが期待される。

謝辞

本研究は,「青少年のための科学の祭典」第 16 回 静岡大会 開発補助の助成を受けたものである。

引用文献

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An Evaluation of Suitable Plants and Conditions

for Observing Pollen Tube Growth

Yuko SHIMAMURA

1

, Shuichi MASUDA

1

1

School of Food and Nutritional Sciences, University of Shizuoka

SUMMARY

For this study, we screened suitable plants for observing pollen tube growth. The results showed that crape myrtle (Lagerstroemia indica L.), scrambled egg tree (Cassia surattensis) and tea tree (Camellia sinensis) were suitable for the observation of pollen tube growth, the same as rose balsam (Impatiens balsamina). With the exception of rose balsam, pollen germination and tube elongation were prominent in 2% agar media containing 15% sucrose by addition of 0.5% ethanol. The pollens of rose balsam, myrtle, scrambled egg tree and tea plant were stored under dry, refrigerated (–18°C) conditions for 6 months. After 6 months’ of dry refrigeration, the germination of the pollen of scrambled egg tree started within 10 minutes, and the growth speed of the pollen tube was as fast as before frozen storage. Crape myrtle and tea tree needed about 30 minutes to 1 hour to begin to germinate. These results suggest that the growth of the pollen tube can be observed by adding the pollen to the agar media before the start of class. Although the pollens of marigold (Tagetes patula), zinia linearis (Zinnia angustifolia), common zinnia (Zinnia elegans), globe amaranth (Gomphrena globosa) and crocosmia (Crocosmia crocosmiiflora) are unique, they were not suitable for the observation of growth of the pollen tube. These results propose the most suitable plants and method for pollen tube growth observation.

表 1 花粉管の伸長観察に適した植物材料 No. 名前 科名・属名 開花時期 発芽の 有無 * 発芽開始時間 花粉管の伸長に適した培地/備考  1 ホウセンカ ツリフネソウ科 ツリフネソウ属 6 ~ 8 月 ○ 1 ~ 5 分 ② 10%ショ糖,④ 10%ショ糖+ 0.5%エタノール 2 シロツメクサ マメ科シャジクソウ属 3 ∼ 10 月 △ 15 分以上 花粉が採取しにくい 3 ヒオウギスイセン アヤメ科モントブレチア属 7 ∼ 8 月 △ 15 分以上 ④ 10%ショ糖+ 0 伸びるものもある .5%

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