虹色レーザーの発見と応用

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

虹色レーザーの発見と応用

Imasaka, Totaro

Kyushu University

http://hdl.handle.net/2324/4067126

出版情報:学士会会報. 944, pp.42-47, 2020-09. 学士会 バージョン:

権利関係:

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43 虹色レーザーの発見と応用(今坂) 虹色レーザーの発見と応用(今坂) 42

學士會会報 No.9442020─Ⅴ

虹 色 レ ー ザ ー の 発 見 と 応 用

  坂

  藤

.はじめに  筆者が学部四年生のとき、石橋信彦教授と小川禎一郎助教授が「今坂君にレーザーを研究させよう」と話し合われました。このため修士一年生のときに電気工学科に行き、窒素レーザーと色素レーザーの作り方について教えていただきました。その後、図

に示す放電方向、窒素の流れ、レーザー光の三軸が直交する、大気圧動作型ピコ秒窒素レーザーを開発しました。繰り返し速度は一・二

時、高繰り返しピコ秒レーザーとして位相同期アルゴ すぐ空になり十分間しか運転できませんでした。当

kHz

と速いのですが、窒素ボンベが

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図1 大気圧動作型ピコ秒窒素レーザー

(1)と高圧電源(2)

ンイオンレーザーが市販され、蛍光寿命の測定に用いられていました。この装置をもっている研究室を羨ましく思ったものです。これ以降、筆者は超短パルスレーザーの研究に関心をもつようになりました。

.虹色レーザーの発見

!?

  一九八七年にエキシマーレーザー励起色素レーザー光を加圧水素に集光し、誘導ラマン散乱により波長を近赤外と紫外域に変換していました。プリズムを通してラマン光の発生を確かめていると、目的とする振動ラマン光の間に時々虹色に光るスポットが見えることがありました。当初は、どこかで光が反射しているのだろうと考えていました。そのうち、この光がはっきり見え「これは何だ!」と大騒ぎになりました。そのときの様子は、文献

文献

Applied Sciences

た、筆者が後日編集した特集号の

1

(和文)に報告しています。ま されたときは大変驚きました。 日「チャープパルス増幅」の研究でノーベル賞を受賞

Donna Strickland

たが、そのお一人の先生が、後 に関して著名な約十名の研究者に執筆をお願いしまし

2

(英文)の前書きでも紹介しています。本現象

  後日、この現象が観測される原因について考えてみ ました。その結果、水素の回転運動による遷移に基づくことがわかりました。通常、このような遷移は禁制のため観測されないのですが、色素レーザーの発振線に加えて自然放出増幅光の二色光が偶然発生していたため、四波ラマン混合により生じたのでした。「これは大発見だ!」と思い学術誌に投稿しましたが、次々と不採択の通知が来ました。その後ようやく公表できたのですが、後日ドイツのレーザー製造企業のニュースレターでこの虹色レーザーを紹介していただいたときは、とても嬉しく思いました。曰く、「この現象はレーザーの欠陥により発見された。ちなみに製造企業は弊社である(すみません)」。ドイツ人はみんな謹厳実直と思っていましたが、ユーモアが好きな国民なんだー、と思いました。筆者が虹色レーザーについて講演すると、「日本人はみんな真面目だと思っていましたが、実は面白い国民なんですねー」と言われます(ちょっと違うような気もします)。

.虹色レーザーは何に使えるか?  虹色レーザーがどのような分野に使われるかについて考えてみました。しかし、よいアイデアは浮かびません。そこでレーザーディスプレイに使えないかと考えました。創成型科目「君はピカソを超えられる

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か?」を企画し、九州芸術工科大学の学長に面談してご支援をお願いしました。九州大学と同大学の学生が集まり、レーザーショーを行いました。図

の写真は、そのときの様子です。みんな深夜まで熱心に作品を制作しましたが、当日は暴風雨で建物の外壁に光を投影できず、建物内の廊下で実演することになりました。なかなか思ったようには行かないものです。それでもいろんな作品が制作され、今では楽しい想い出の一つです。

.超短パルス光発生に使えるか?  虹色レーザーを用いれば、紫外から近赤外域に亘る光を同時に等周波数間隔で発生できます。それらの位相を合わせると、光を用いて発生できる極限の超短パ ルス光が発生できることになります。筆者は、図

考えていたのですが︙。 の研究者の仕事だ、と 提案するが実証は物理 い、したがって筆者は あって「物理」ではな 者の専門は「化学」で た。正直に言えば、筆 は?」とのお言葉でし と、「では、やってみて 名な先生に話します です)。この考えを著 しないかもしれない、と考えないところが筆者らしい 用いて位相は自動的に同期すると主張しました(同期

を   毎日あれこれ考えていると、やはり位相が合って超短パルス光が発生するかもしれないとの想いが募ります。そこで学術誌にこのアイデアを投稿し、専門家の意見を聞きたいと考えました。審査員から「ナイス、トライ!化学の人は面白いことを考えますね。しかし専門家に言わせると、そのようなことは起こりません。その理由は︙」と説明があると思っていました。しかし、いきなり論文採択の通知とゲラ刷りが送ら

アンチス トークス光 ストークス光

基本光

波の数

位相が合う

合成波 の強度

図3 四波ラマン混合における位相同期

れ、逃げることができなくなりました(どうしよう)。

  単一の超短パルス光を発生するには、フェムト秒レーザーを用いて本現象を発生させる必要があります。筆者は幸運にもフェムト秒色素/エキシマーレーザーを入手する機会に恵まれました。製造元から、顧客がレーザーについて精通し、ドイツに研修に来ることが販売の前提だとのことでした。ドイツに研修に行き、研究室員達とパブでビールを飲んでいました。「最後にもう一杯どうだ」、「どんなビールがいい?」、「生ビールがいいね」。早速、「ドライ・ビール」を注文しました。読者はすでにご賢察のことと思いますが、各自にジョッキ三杯のビールが来ました。アインス、ツヴ ァイ、ドライ、︙ドイツ語をもっとよく勉強しておけばよかった︙。「全部飲めー!」。しかし、この紫外フェムト秒レーザーを用いる研究はうまく行きませんでした。紫外域では振動ラマン光が発生し易く、目的とする回転ラマン光だけを発生することができなかったのです。  筆者は近赤外フェムト秒チタンサファイアレーザーを用いることにしました。しかし、自己位相変調や自己収束などの非線形光学効果が発生し、回転ラマン光を効率よく発生することができません。研究を続けていくと、ある条件を満たすときに、偶然、近赤外から紫外域において五十本以上の回転ラマン光を同時に発生できることがわかりました。大学院生と一緒に大い

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47 虹色レーザーの発見と応用(今坂) 虹色レーザーの発見と応用(今坂) 46

に感激しました。しかし、位相を合わせて超短パルス光の発生を示すことはできませんでした。

.超短パルス光は発生したのか、しなかったのか?  超短パルス光の発生を検証するため、高繰り返しチタンサファイアレーザーとパルス幅計測装置を購入し、三十

ぶことにしました。現在では数 た。そこで大学院生をドイツに派遣して測定技術を学 本ではそのような技術をもつ研究室はありませんでし を測定するには、高い専門知識が必要です。当時、日 代遅れになっていました。超短パルス光の位相と波形 した。しかし、世界の進歩は速く、研究室の成果は時

fs

程度の光パルスが発生することを確認しま

近赤外域で三・二 同一の光パラメトリック増幅のシグナル光を重ねて、 が、最近ではチタンサファイアレーザーと相対位相が 学を退職した後、家内と一緒に研究を続けています 波形が測定できるようになっています。筆者は九州大

fs

の光パルスの位相と

と記されています。 た。その下部には「近赤外域における最短光パルス」 誌に掲載され、表紙の一つとしても紹介いただきまし

Analytical Chemistry

た。この成果は米国化学会の

fs

の単一光パルスを発生させまし 返し光パルス(十七 では、連続発振のラマン光を重ねて世界最速の高繰り ねることにより超短パルス光を発生できます。研究室 知の事実になっています。したがって、ラマン光を重 か?現在では、ラマン光の位相が同じになることは周   さて、ラマン光の位相同期はどうなったのでしょう

を重ねる方法です。筆者の挑戦はまだ終わっていません。 重ねる方法と、近赤外超短パルス光とその第三高調波 て二つの方法があると考えています。高次ラマン光を ます。筆者は極限の超短パルス光を発生する方法とし ることにより位相の安定性を高める方法も報告してい 述の単一超短パルス光発生において、ラマン光と重ね

THz

)を発生させています。また前 派遣し、著名な先生方にご指導いただくと共に、多大 でした。これまで多くの学部学生や大学院生を海外に がよいわけではなく、学生が研究に興味をもったから スの成績となることもありました。これは筆者の教育 と、わずか数カ月後の大学院の入学試験でトップクラ でしたが、四年配属時に虹色レーザーの課題を与える を感じました。研究室には成績がよい学生は来ません かもしれません。しかし筆者は、より教育に生きがい   読者は、筆者が研究の楽しみを堪能したと思われる

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.おわりに

な迷惑もおかけしました。この誌面を借りてお礼とお詫びを申し上げます。

  高校の出前講義などで学生とのやり取りの実話を紹介しますと、大変好評でした。とても誌面に残せないものも多々ありますが、「検閲済み」のものについては文献

1

、 に伺います。どうぞ、よろしくお願いいたします。 し」については、ご一報いただければ、いつでも講演

2

をご参照下さい。より面白い「検閲な

[参考文献],

, 750-754 (1992); ⑼

, 93-96 2001;

583-586 2005,76): , ⑽ , 164-168 (2007;86 ⑵ , 41-44 2017.

(九州大学名誉教授、九大・工博・工・昭 Appl. Sci., 7,1272017.2. TotaroImasaka@gmail.com imasaka-lab-kyushu-univ.com/index.html:   (: http://

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