スポーツ運動学研究 22 : 13 23, 2009 小学生の打動作の身体知指導に関する運動学的研究 一ラケット操作による打動作の運動発生について一 灘 閨西大学 英世 A kinematics Study on the Body Knowledge Guidance for the Hit Mot

全文

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スポー ツ運動学 研 究22 : 13〜23, 2009

小学 生の打動作の身体 知指導に関 する運動学 的研 究

一ラケット操作による打動作の運動発 生について一

灘 英世

閨西大学

A kinematics Study on the Body Knowledge Guidance for the Hit Motion of the Elementary school Students

— Movement genesis of hit motion by racket control—

Hideyo NAD A

Abstract

Our case study shows that we may easily teach racket games such as tennis, badminton, and table tennis to elementary school pupil who cannot hit a ball well with a racket, mrst of all, we prepare a gut-free racket and a special “butterfly net” racket, because we got a good hint of teaching young children how to play tennis using a

“butterfly net.” It is well known that they can learn the kind of movement necessary to hit a ball by letting do catching insects like movement.

Our experiment of using such a net racket brings out the clear movement and form of stroke used when playing tennis. There are a big backward swing, a follow-through swing and a smooth stroke with the children’s weight shifting. We can recognize enough movement to be able to play tennis.

Our conclusion is that in the physical education classes of elementary school, we can apply our result study as one of the ways to instruct by using sporting goods that improve the movement ability of elementary pupils.

1. はじめに

体 育•保健体 育科の新しい学 習指導要領の改善 は,「学 校段階の接続 」を重視して,小学 校,中 学 校,高等学 校の12年間を主に視野に入れて, 4 年間を一つのまとまりとして整理している。それ は,小 学 1年生から4 年生までを「さまざまな基

本的な動きを身につける時期丄 小学 5 年生から 中学 2 年生までを「多くの領域の運動を体 験 する 時 期 丄 中 学 3 年生から高校3 年生を「少なくとも 一つの運動を選び,継 続 することができるように する時期」 として,それぞれの学 習内 容の接続 を ねらいに改善が行われた。そのため学 習指導要領 に示される内 容も基礎的な身体 能力や知識を身に

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付け,生涯にわたって運動に親しむことができる ように,発 達の段階のまとまりを考慮し,指導内 容を整理し,その明確化と体 系化が図 られてい る0

特に,指導内 容の明確化と体 系化に関 しては,

これまでの教 育が「子どもの自主性を尊重する余 り,教 師が指導を躊躇する状 況があったのではな いか」 との指摘が大きく影響している。そして,

『「自ら学 び自ら考える力を育成する」 という学 校 教 育の理念は,教 師が子どもたちに教 えることを 抑制するよう求めるものではなく,「教 えて考え させる」指導を徹底し,基 礎 的■基本的な知識- 技能の習得を図 ることが重要である』(1-pl8)として いる。また,「基礎的な身体 能力を身に付け,運 動を豊かに実 践 していくための基礎を培う観 点か ら,各運動領域において,低学 年から高学 年への 系統性を明確にして指導内 容を整理し,当 該学 年 で身に付けさせたい具合的な内 容を明確に示

す」(2-p5)としている。このことは体 育の最も重要

な学 習内 容が,動き方を身に付ける運動の学 習で あり,基礎的•基本的な技能の定着を目指す指導 の在り方を改善することを求めている。

運動学 習で問題になることは,それぞれの運動 種目の動きかたには意味があるにもかかわらず,

基本的な動きかたとしての走■跳 や 投■補は,い つの間にか「ひとりでに」できてしまうと思い込 み,技能向上の指導では回数 や時間など量的内 容 の増 大を図 ればよいと考えることである。 このよ うな指導の考え方には,動きの発 生の問題意識は まったく欠落しており,動 き の 〈かたち〉の発 生 や改善などの指導がまったく行われない。その結 果として,中学 生や高校生になっても動きがぎこ ちなかったり, どのように動いてよいのかわから ない状 態であったり,用具を操作して動くことが 上手くできない児 童生徒が少なくないのである。

このような子どもの運動指導は,理論的に動きか たを説 明しても動きかたを動感として理解できな いためにどうしても動くことができない。 このよ うな子どもに対 しては, どのような動感創発 能力 が空虚 なのかを観 察•分析し,動感促発 能力に よって発 生■充実 させることが必要になる。この ような指導の基盤になる運動理論が金子の提唱す

る発 生論的運動学 (4-p83)なのである。

本研 究は,この金子の発 生運動学 の立場から,

小学 校の学 校体 育における学 習■指導上の工夫の 方法を探ることが目的である。

2. 運動指導における形成位相の分析の重 要性

運動学 習は目指す動きかたの達成目標の設定に よって大きく 3つに分類できる。すなわち,1.

新しい運動や未習得の運動発 生に関 わる学 習,

2 .達成力を向上させるための運動修正,改善に 関 わる学 習,3. 他人との協力プレー に関 わる学 習,である。それぞれの運動学 習には,回数 や時 間などの量的な要求だけで解決できない問題があ る。すなわち,達成目標の設定によっては,動き かたの課題もそこで求められる動感創発 能力も異 なるため,子どもの現在値としての動感能力との 関 係を無視して指導することはできない。金子 は,「指導するために指導者自身が動感創発 の厳 密な分析能力を高め,充実 する訓練を欠くことが できない」 と言い, さらに加えて,「動感運動の 体 感身体 知,時間化身体 知,あるいは,コツや力 ンの形態化身体 知と洗練化身体 知などの発 生様 相 だけの形態発 生分析では,形態形成のプロセスの 分析が見過ごされることになる」 として,「動感 運動の形態化される様 相の発 生分析と動感形態の 充実 過程としての形成位相の査定分析は絶えず相 補関 係をなしている」(4_p64)ことを強 調している。

この形成位相について金子は,運動学 習の本質 は,習練形態が「できない」 こ と を 「できる」 よ うにするところにあるとして,『われわれは動感 が図 式化され,重ねられる習練とともに,その習 熟をまして安定していくのだが,その運動図 式化 のレべエルに対 して,いくつかの「形成位相」を 認めることができる』(3,17)という。そして,マイ ネルのスポー ツ運動学 で示された形成位相論に加 えて,受動的動感作用から能動的動感作用への形 態形成を重視して5つの形成位相を区 別すること ができるとしている。

金子の示した形成位相論とは, 目標とする動き のかたちが発 生から熟練態にまで形成されてい

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く 様 相 を 「原 志 向 位 相 丄 「探索位相」,「偶発 位 相 丄 「形態化位相」,「自在位相」の5位相で示し たものである。そして,この形成位相は,動きが 熟 練 さ れ 「自在位相」になってもそこで完結する ものではなく,上位レべエルの新しい動きの質を 目指して能動的な動感志向が生じると,「原志向 位相」にふたたび回帰 していくものである。この ような回帰 位相を示すことは,「スパイラル的で はなく,ゲシュタルトクライス的に,つまり,生 成と消滅が同時に行われながら,永遠の高みに 昇っていく」(3-P417)という。

運動学 習の指導においては,子どもの動きの形 成プロセスに視点を当 て,「今ここ」で行われた 子どもの動きかたがどの形成位相にあるかを理解 し,一人一人の子どもの動感創発 能力に応 じて指 導に当 たる必要がある。そこで大切なことは,指 導者と学 習者の動感交信によって,学 習者に動感 創発 能力の発 生を促すことであり,まさにこのこ とを運動指導の中核に据えることである。そのと き,指導者自らが共鳴化能力によって学 習者の動 感メロディー を確認することができなければ,学 習者の動感世界に入り込 むことはできない。

このようなことから,体 育で身につける基礎 的■基本的な技能習得にっいても, これまでの体 育の伝 統的な指導の考え方,すなわち,運動を教 えるために動きを要素化,錶 型 化 に よ っ て 運 動を反復的に行うような技能学 習から脱 皮し,動 感身体 知を発 生させるという発 生論的運動学 的観 点から技能学 習の指導の在り方を検 討する必要が ある。

3. 指導の視点としての動感身体 知

学 校体 育では各種運動種目の習練形態(4_pl°3)を 目標に学 習することになるが,その学 習は,「私 の運動」 として実 際に自分の身体 を動かすことな しには成立しない。そ こ で の 「私の運動」は, 自 分の身体 をどのように動かすかを意識すること

( コ ツの身体 知) と情況に応 じてどのように動く

かを意識すること(カンの身体 知)のニ面性の動 感能力によって現れる。このニ面性は,決して絶 縁 されたものではなく,志向対 象への〈現れ〉 と

〈隠 れ〉の相互隠 蔽性の関 係にあり,カンはコツ に支えられ,コツはカンによる情況に応 じた動き かたができることではじめて生かされる(5-p29)。

実 践 的な運動場面ではコツとカンが表裏一体 と なって行われるため,指導においては学 習者の動 きの形成位相と創発 身体 知の観 点から, どんな身 体 知を発 生させる必要があるのか観 察■分析する ことになる。それによって創発 身体 知の始原身体 知からどんな能力が空虚 でどんな能力を発 生させ るための指導が必要なのかが明らかになる。始原 身体 知とは,〈今ここ〉で動きかたを感じること ができる身体 知であり,動きかたを覚 えるための 基盤になる身体 知として,体 感身体 知と時間化身 体 知に分けることができる(4_p336)。体 感 (ここを感 じる)身体 知は,〈全身感覚 〉によって,運動空 間 に お け る 〈ここ〉を感じ取り, どんな方向に,

どれくらいの距離感をもって,情況のなかで何ら かの気 配を感じて動くことのできる身体 知であ り(5-p2〜12),「定位感能力」,「遠近感能力」,「気 配 感能力丄 で成り立っている。また,時間化(今を 感じる)身体 知は,〈今〉 という時間を感じ取る 能力で運動するときの基本になる身体 知である。

この今は,過去と未来 を含む幅をもつ。私が動い ているとき,すでに過ぎ去った動きの感じと,こ れから起こる未来 の動きの感じとともに〈今ここ〉

を私の身体 で感じ取っているのである。 この身 体 知 は , 「直 感 化 身 体 知 」, 「予感化身体 知丄

「差異的時間化身体 知」 によって成り立ってい

I (5-p l218)

以下では,こうした動感身体 知の視点から,適 切な動感素材に注目した指導事例について検 討す るものである。

4. 動感身体 知を発 生させる指導実 践 の検 討

生涯スポー ツとして多くの人に親しまれている 種目として野球,テニス,ゴルフなどがある。こ れらの種目の基礎的•基本的な技能として用具を 操作してボー ルを打つ動感能力が求められる。そ の動感能力は,ボー ルを投げる,捕らえる,蹴 る,つくなど身体 で直接ボー ルを操作する動感能 力に比べ,用具を操作してボー ルをコントロー ル

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するという高度な動感能力が要求されることにな る。そのため小学 校では個人差も大きく,指導が 難しい種目とされ,中学 校以降で学 習する種目で もある。また,近年の小学 生は幼児 期での夕^遊び における,用具を使った野球などの遊びの経 験 が 少ないこともあって,用具操作の動感能力が空虚 なままの子どもが多くなってきている。そのこと が高学 年になってもバットやラケットを用いて ボー ルを打つ動作がぎこちなかったり,空振りを したりする子どもが見られる原因の一つではない かと考える。

本研 究では,用具を操作し,さらに飛んでくる ボー ルに対 して打ち返すという打動作に焦点を当 てて,テニスにおけるストロー クの動感能力を発 生させるために先行研 究7>で得た知見を基に,小 学 生高学 年への動感素材を用いた指導の適用を試 みる。それによって,小学 生には難しいとされて いる打動作の基礎的■基本的な技能習得に関 わる 指導の在り方について検 討を加える。

1) ストロー ク指導の運動学 的問題性

テニスの初心者指導では,ラケットを使って ボー ルを打つ動きを教 えることからはじめる。そ のために,まずはラケットの長さを「付帯 伸長能 力」で感じ取り,ボー ルの飛んでくる方向(定位 感能力)やスピー ド感(予感化能力), どのくらい バウンドして飛んでくるのか(遠近感能力)を動 感能力として発 生,充実 させるが求められる。 し かし,初心者はいきなり前方から飛んでくるボー ルを打つことは難しい。この情況で見られる動き は,ラケットの長さの感覚 がわからないために,

本来 なら身体 からラケットの長さ分,身体 の横 で ボー ルを捕らえなければいけないところ,飛んで くるボー ルを体 の正面で捕らえようとしてしま う。その結果として,ボー ルと身体 が正対 してラ ケットを振る軌道が下方から上方,上方から前方 へと羽子板的に打つ傾向が見られる。また,跳ん でくるボー ルのスピー ドの感覚 やバウンドの性質 がわからないために,前に突っ込 みすぎたり,打 点が高い位置になったり,何とかラケットにボー ルを当 てようとする動きになってしまう。

初心者は,飛んでくるボー ルに対 してどの方向

にどの場所に移動すればよいのかの定位感能力や 遠近感能力がまだ発 生していない。また,ボー ル がどのようなバウンドをしてくるのかの予感化能 力や適切な場所に移動する遠近感能力もまだ空虚 なままである。

このような初心者の指導段階としては,前方か ら飛んでくるボー ルを打つのではなく,横 向きの 立った体 勢でラケットを持ち,インパクトの位置 をラケットで確認させ,そのポイントに上方から 落下させてバウンドしたボー ルを打たせることか ら始めるのが一般的である。これによって,学 習 者は打つための位置取りや距離を合わせるなどの 定位感能力や遠近感能力の空虚 さが軽 減され,ス トロー クによって打つことに動感意識を集中する ことができる。

しかし,先行研 究では,テニスの授業でこの練 習方法でも, うまくボー ルを捕らえられない2名 の学 生がいることから,この2名の学 生の動きに どんな問題があるのかを動感観 察•分析を行った。

その結果, 自分の身体 の一部としてラケットを扱 う 「付帯 伸長能力」が空虚 なため,ストロー クで の自分の動きとそこから伸びるラケットの長さを 動感として捉えられていないこと。また,スト ロー ク自体 もぎこちなく,ラケットを振るのでは なく,ボー ルに当 てようとするだけで,大きなス イングができないことがわかった(9-p7())。

フォア一ハンドストロー クでの大切なポイント は,ノ《ックスイングからフォロー スルー までラ ケットを振り切ること,インパクトの瞬間をしっ かりと自分の視覚 で捉えることである。それに よって付帯 伸長能力が働 き,充実 したものになっ てくる。 しかし,初心者の場合,ラケットを正し くストロー クすることと,ボー ルを見てインパク トの瞬間を感じ取ることは大変 に難しいことにな る。また,ストロー クが安定しないためラケット にボー ルが当 たる場所が一回一回異なりうまく打 つことができない。その原因としてボー ルを前方 に飛ばし相手コー トに入れなければいけないとの 思いから,インパクトの瞬間にボー ルの飛んでい く方向を目で追いかけ視線がラケットから早く離 れてしまう。このことがインパクト時にラケット の面やスイング軌道に対 して動感意識が働 かなく

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なる原因のひとつであると考えられる。そのため にもインパクト時における直感化能力が働 くよう な動感素材を用いた指導の工夫が必要になる。

そのための工夫として,バックスイングのテ一 クバックからフォロー スルー までのフォア一ハン ドストロー クの形態化を目指しながら,インパク トでの直感化能力の発 生を促す動感素材として,

幼児 期の夕^遊びでの虫 取り遊びをヒントにガット の張っていないラケットとガットの変 わりに虫 取

り網を張ったラケットを使用して指導を行った。

ここではガットの張っていないラケットを使用す ることで,打つという動感意識はなくなり,ノ《ッ クスイングからフォロー スルー までラケットを振

り切る中でワンバウンドのボー ルを通すという動 感意識が強 く働 き,視線はボー ルがラケットを通 り抜 けた後まで残 して置くことになる。このよう な動きかたが形態化位相に達すると,次の段階と して,虫 取り網を張ったラケットを用いてワンバ ウンドのボー ルを同じようにストロー クすること で,ボー ルを網で受けることになる。このとき ボー ルを受けるだけではなく,ラケットの真 ん中 でボー ルを捉えようという意識とボー ルがラケッ トを通過した後,少しの時間差でネットに当 たる 衝撃 を感じることが直感化能力として働 き始め る。また,網の真 ん中にボー ルが当 たりだすこと でラケットから手への衝撃 も, もっとも心地よい ものとなり探索位相から偶発 位相としてのコッを 身に付けることができる。

これらのラケットを使うことで,前方へボー ル を飛ばそうという意識は働 きにくくなり,ボー ル の飛んでいく方向を気 にせずインパクトの瞬間に ラケットから視線が離れることがなくなる。初心 者でもラケットのストロー クとボー ル軌道を合わ せようとする予感化能力とラケットをボー ルが抜 ける瞬間の直感化能力を発 生させることができる。

また,テニスにおけるラリー 中では飛んでくる ボー ルの方向に対 して早くラケットを後方に引く テー クバックが大切なポイントになってくる。そ の動きについても, 自分の目の前でボー ルを通過 させる運動や,網で捕らえようとする運動を行う ことで,ラケットを後方に引いてから前方へと振 り切るという基本的なラケットスイングが行われ

るようになる。

このようなガットの張っていないラケットとガッ トの変 わりに虫 取り網を張ったラケットを使用し た指導が, フォア一ハンドストロー クの動感形態 の発 生を促す方法になるとの仮 説 を立て,先行研 究としてテニス経 験 のない2名の女子大学 生に指 導を試みたのである。その結果,体 重移動が見ら れるスムー ズなストロー クが発 生し,次のステッ プに進むための動感能力を充実 させることができ

2) 指導事例

( 1 ) 被験 者および指導の方法と手順

以下の指導事例は,この先行研 究の結果を踏ま えて,小学 生の高学 年(5年 生1名,6年生3名)

の男子児 童に対 して行ったものである。 この様 子 をV TR撮影と高速度カメラにより撮影した。な お,実 施日時および実 施場所等は以下の通りであ る0

実 施日時:2009年7月5日 (日)

実 施場所:西宮市N小学 校に隣接する公園 被験 者となる小学 生は,小学 校のサッカー サー クルに参 加しているが,テニス経 験 は全くない初 心者4名である。指導において使用したラケット はジュニア用で通常よりは短いラケット(写 真 1 ) を使用した。また,先行研 究と同様 にストロー ク の形態化を目指しながら,インパクトでの直感化 能力の発 生を促すような動感素材として,ガット の張っていないラケットと(写 真 2) とガットの 変 わりに虫 取り網を張ったラケット(写 真 3) を 使用して指導を行った。

( 2 ) 通常のラケットを用いた指導による打動作

の特徴

指導は,まずジュニア用のガットの張ってある ラケットを使用し,ネットの反対 コー トから筆者 がボー ルをワンバウンドで被馬免者に届 くように投 げ入れ,ワンバウンドのボー ルを相手コー トに打 ち返すようにと指示をして,一人10球ずつ行っ た。次に,ガットの張っていないラケットで,ワ ンバウンドしたボー ルをラケットの真 ん中を通す ように振り抜 くことを指不して,一人10球ずつ

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行った。次に,虫 取り網ラケットで,ワンバウン ドしたボー ルをラケットの真 ん中で捉えて,網に 当 たる感覚 を感じ取るようにと指示して,一人10 球ずつ行った。

写 真 1

写 真 2

写 真 3

まず,今回の被験 者の打動作を見てみよつ。

児 童A (写 真 4 )に見られる打動作は,①〜⑤ では早くから両 足が地面に着いたままで,打点位 置への身体 を移動させるための遠近感能力もまだ 空虚 であり,②〜④では前のめりになった体 勢で 何とかラケットにボー ルを当 てようとする動きに なっている。

児 童B (写 真 5 ) の打動作では,①〜③でボー ルに対 して脚を踏み込 んでいるのは見られること から遠近感能力は発 生している。 しかし,①では ラケットを後方に引かずに,はじめから体 の前で 構えており,テー クバックによる予感化能力がま だ発 生していない打ち方になっている。また,ラ ケットにボー ルを当 てて打つだけの志向性が強 く 働 いているため十分なフォロー スルー が見られな いスイングになっている。

児 童C (写 真 6 ) の打動作では,①②ではサッ カー などのボー ルを正面で捉える動きの習慣化 が,用具を操作する動作時にも身体 の正面でボー ルを捕える位置取りになっている。そのため③と

④ではラケットスイングの軌道が,下方から上方 になっており,また,上体 も前のめりになり,何 とかラケットにボー ルを当 てようとする動きに なっている。

児 童D (写 真 7 ) の打動作では,児 童Aと同様 ■ の動きで①〜⑤では両 足が地面に着いたままであ るが,テー クバックが見られ,ボー ルを打つ体 勢 は作れている。 しかし,インパクト時③には上体 も前のめりになっていることから,遠近感能力は 十分に充実 しているとはいえない。

ガットを張ったラケットでの打動作は,以上の ような結果であった。

4名の児 童の動感観 察♦分析をしてみると, 4 名ともにラケットでボー ルを捉えていることにつ いては,今回使用したジュニア用の短いラケット を使ったことで,自分の体 の一部としてラケット を 扱 う 「付帯 伸長能力」は充実 しているものと思 われる,また,先行研 究(9172)の大学 生の打動作で 見られた,インパクト時にボー ルの飛んでいく方 向を早くから気 にするのではなく,ラケットに ボー ルを当 てることへの意識をもって,インパク トの瞬間に視線がラケットから離れることがな 一 18 一

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かったことも,影響しているものと考えられる。

しかし,飛んでくるボー ルに対 して, どの方向に どの場所に移動すればよいのか定位感能力や遠近 感能力については,まだ十分に充実 されていな い。また,ボー ルがどのようなバウンドをするの か予感化能力や適切な場所に移動する遠近感能力 もまだ空虚 であり,ラケットを振るのではなく,

ラケットにボー ルを当 てようとするだけのぎこち ないストロー クになっている。

( 3) 動感素材に基づいて工夫したラケットを用 し、た指導による打動作の特徴

次にガットの張っていないラケットとガットの 変 わりに虫 取り網を張ったラケットを使用して指 導をおこなった。

児 童A (写 真 8,9 )の打動作を見てみると,

①ではボー ルのバウンドに対 して,打点位置への 適 切 な 移 動 (定位感能力,遠近感能力)とラケッ

トを後方に引いてテー クバック(予感化能力)が

① ② ③ ④ ⑤

写 真 4 児 童Aのガット張りラケット

① ② ③ ④ ⑤

写 真 5 児 童Bのガット張りラケット

写 真 6 児 童Cのガット張りラケット

① ② ③ ④ ⑤

写 真 7 児 童Dのガット張りラケット

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見られる。①から⑤ではラケットをテー クノ{ック から前方へとタイミングよく大きなスイングが行 われており,③〜⑤では前脚から後脚への体 重移 動も見られ,フォロー スルー もしっかりと行われ ている。虫 取り網ラケットでは,飛んでくるボー ルに合わせて膝の動きが見られることから,上下 の遠近感能力も発 生している。

児 童B (写 真 10,1 1 )の打動作では,児 童A と 同様 に,①では打動作におけるポジショニングも

ボー ルに対 して適切な位置(定位感能力,遠近感 能力)が取れており,テー クバックによる準備動 作 (予感化能力) も見られる。②〜⑤では体 重移 動を伴ったテー クバックからフォロー スルー まで の大きなスイングが行われている。また,飛んで くるボー ルの高低に合わせての膝の屈伸(遠近感 能力) も見られた。

児 童Cの 打 動 作 (写 真 1 2 )では,ボー ルのバウ ンドに合わせて打点位置が取れるようになってい

① ② ③ ④ ⑤

写 真 8 児 童A のガットなしラケット

① ② ③ ④ ⑤

写 真 9 児 童A の虫 取り網ラケット

① ② ③ ④ ⑤

写 真 1 0 児 童B のガットなしラケット

写 真 1 1 児 童B の虫 取り網ラケット

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るが,ガットの張っていないラケットを使用して いるときには,まだ,ボー ルを抜 くことだけに意 識 (直感化能力)が強 く働 き,⑤ではフォロー ス ルー の見られない小さなスイングになっていた。

しかし,虫 取り網を張ったラケット(写 真 13) で は,ボー ルをラケットの真 ん中で捉え,網の真 ん 中にボー ルが当 たりラケットから手への衝撃 を感 じようとする意識が働 き,③〜⑤では最後までラ ケットをスイングする大きなフォロー スルー が見

られるようになった。

児 童Dのガットなしのラケットの打動作(写 真

1 4 )では,ボー ルのバンドに合わせた適切な打点

位置にポジションが取れている。②〜⑤では,上 体 を少し起したスイングが見られる(遠近感能 力)。虫 取り網ラケット(写 真 1 5 )を見ると,②で は,ボー ルのバウンドに対 して前脚をしっかり踏 み込 んでおり,テー クバックから⑤のフォロー ス ルー まで背中の後ろまで振りぬく大きなスイング

① ② ③ ④ ⑤

写 真 1 2 児 童 C のガットなしラケット

① ② ③ ④ ⑤

写 真 1 3 児 童 C の虫 取り網ラケット

① ② ③ ④ ⑤

写 真 1 4 児 童D のガットなしラケット

① ② ③ ④ ⑤

写 真 1 5 児 童 D の虫 取り網ラケット

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が見られた。また,③ではインパクトの体 勢(直 感化能力) もしっかりとしており,④では網が外 れてしまうほどの強 くてダイナミックなストロー クが見られた。

ガットの張っていないラケットと網を張ったラ ケットの打動作では,以上のような結果であっ た。

3) 考察

初心者指導の導入段階では,ラケットスイング の基本的動作は素振り練習によって行われるのが 一般的である。今回のガットを張っていないラ ケットと虫 取り網を張ったラケットによる動感素 材を使っての指導は,素振り練習の感覚 で,飛ん でくるボー ルに対 して打点位置に身体 を移動さ せ,ラケットを振り抜 くというラケットスイング の動感意識は働 くことになる。そこではラケット に当 てるという動感意識はなくなることによっ て,ノ《ックスイングからフォロー スルー までラ ケットを振り切る大きくスムー ズなスイングの動 感意識が強 く働 くことになる。また,ラケットを 後方に引いてから前方へとスイングする基本的な ラケットスイングが行われたことに加えて,テニ スにおける打動作の動感形態として後脚から前脚 への体 重移動が見られるようになった。このよう な動きの改善は,打動作に必要な始原身体 知が充 実 してきたことが伺える。また,特筆すべきこと は,最後にガットを張ったラケットを使っての指 導で,子どもたちがダブルスのゲー ムをしてみた いと目い出したことであった。

今回の試みにおける児 童の運動学 習では,ガッ トの張っていないラケットとガットの変 わりに虫 取り網を張ったラケットを使用してのストロー ク において,1時間の練習で「できるような気 がす る」 と い う 「偶発 位相」か ら 「できる」 という

「形態化位相」の段階まで達することができた。

それによって,ガットの張ってあるラケットを 使 っ て 「やってみたいと思う」志向が生まれてい き,「原志向位相」へと回帰 して次のレべエルで の探索位相の学 習が可能になっていくと考える。

5 . 結§吾

幼児 期の運動遊びが,各種のスポー ツ種目の基 礎■基本的技能の形成に重要な役割を果たしてい る。特に,幼児 期の遊び(夕^遊び)で身につく創 発 身体 知の始原身体 知である。この身体 知は,動 きかたを覚 えるための基盤になる動感能力であ り,多彩な遊びの中で充実 させることができる。

特に,学 校体 育で新しい習練形態を学 習すると き,遊びの中で身につけた動感アナロゴン(類似 例)をもとに動感形態を統覚 していくことにな る。 しかし,遊びの欠如は,始原身体 知が空虚 な ために, どのように動いてよいのか動感メロ デイ一も奏でることができないことになる。

本研 究の目的であった金子の発 生論的運動学 の 立場から,動感素材を用いて運動指導を工夫する ことは,動感身体 知を発 生させるための有効 な指 導法であることが明らかになった。今回の事例的 研 究での指導の工夫は,小学 生にテニスの技能習 得について,夕^遊びで経 験 する網での虫 取りの動 感能力をヒントに,先行研 究より,ガットの張っ ていないラケットとガットの変 わりに虫 取り網を 張ったラケットを使用した指導がテニスのスト ロー クの動感形態の発 生に有効 であるかどうかを 試みた。その結果,数 回の練習でバックスイング からフォロー スルー までのスムー ズで大きなスト ロー クが発 生した。そのストロー クは,素振りで 身に付ける形式的なストロー クではなく,ボー ル のバウンドに合わせたストロー クであり,それに よって予感化能力を働 かせなければならず,定位 感能力や遠近感能力も同時に発 生させることがで きる。それがガットの張ってあるラケットを用い てのストロー クにおいても打点位置と体 重移動が 見られるストロー クとなり,次のステップに進む ための動感能力を充実 させることができた。

このような事例的研 究の成果から,学 校体 育で の技能習得は,練習目標となる運動を提示し,そ の運動の仕方を説 明して指導するだけではなく,

学 習者の動感形態の発 生を促すための動感能力を 充実 させる必要がある。特に,小学 校体 育では,

学 習者に親しみやすい遊びに関 係した動感素材を 収 集して,それを積極的に教 材として用いること

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が基礎的■基本的な技能の習得と定着に効 果的で あるということである。

文 献

1 ) 文部科学 省:幼稚園,小学 校,中学 校,高等学

校及び特別支援学 校の学 習指導要領等の改善に つ い て 中 央 教 育 審 議 会 2008

2 ) 文部科学 省小学 校学 習指導要領解説 体 育編

東洋館出版社2008

3 ) 金子明友:技 の 伝 承 明 和 出 版2002

4 ) 金子明友:身体 知の形成(上)明 和 出 版2005

5 ) 金子明友:身体 知の形成(下)明 和 出 版2005

6 ) 金子明友:身 体 知 の 構 造 明 和 出 版2007

7) K•マイネル•スポー ツ運動学 (金子明人訳 )大

修 館 書 店1981

8 ) 三木四郎:新しい体 育授業の運動学 明和出版

2005

9 ) 三木四郎,灘 英 世 :学 校体 育における技能習 得に閨する研 究,神戸 親和女子大学 児 童教 育学 研 究,第 28 号 :65-75, 2009

^平成21年8月12日受付1

、平成21年10月22日受理ノ

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