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32:735 第 35 回日本脳卒中学会脳卒中 血栓止血学会ジョイントシンポジウム < 総 説 > ワルファリンレジスタンス 長尾 1) 毅彦 要旨 : ワルファリンは用量に著しい個人差があり, 様々な薬物, 食品との相互作用以外にも個々で様々な程度の耐性が存在しているといっても過言ではない. 逆に

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(1)

はじめに

 ワルファリンほど,内服量の個人差が著しい薬剤も 珍しい.1 日必要量が 1.0 mg で足りる症例から,10 mg でもなお効果不十分な症例に出会うことも専門医の多 くが経験していることであろう.体格による投与量推 定が難しいことも悩みの一つである.さらにワルファ リンの必要量には人種性があることも知られており,

同じ INR=2.2–2.5 を達成するために,体重を補正して

も,黒人は白人,アジア人よりも 1.0 mg 程度必要量 が多いとの報告がある1).一般に 1 日量が 15 mg を越 える場合にワルファリン耐性と呼ばれている2).  これら,ワルファリン必要量の個人差,人種差につ いては近年の遺伝子解析によって,かなりの部分が解 明されつつある.

ワルファリンの体内動態(図 1)

 ワルファリンは 90%以上が消化管から吸収され,

肝臓でビタミン K 代謝の主要酵素である,vitamin K1

2.3-epoxide reductase(VKOR)を阻害することで,そ の効力を発揮すると考えられている.ワルファリンの 消化管からの吸収にはアポリポ蛋白Eが介在する3)

1)東京都保健医療公社荏原病院総合脳卒中センター神経内科 現 東京女子医科大学神経内科

(2010 年 9 月 1 日受付,2010 年 9 月 4 日受理)

長尾 毅彦1)

 要旨:ワルファリンは用量に著しい個人差があり,様々な薬物,食品との相互作用以外に も個々で様々な程度の耐性が存在しているといっても過言ではない.逆にアジア人種ではワ ルファリンが効きやすく,出血合併症を起こしやすいという意見もある.通常ワルファリン 耐性とは 1 日 15 mg 以上必要な場合と定義され,その原因はコンプライアンス不良やビタミン K 過剰摂取などのよく知られた要因と,先天的および外因による肝代謝活性の差(pharma- cokinetic resistance),感受性の差(pharmacodynamic resistance)に大別される.そしてワル ファリンの効果の個人差および人種差の原因が近年の遺伝子解析により判明しつつある.ワル ファリンは消化管から速やかに吸収され,ほぼ 100%肝臓で cytochrome P450(CYP)複合体に より代謝される.薬剤としては 2 つの光学異性体が等量含まれており,このうち S 体は抗凝 固活性の約 7 割を担い,主に酵素 CYP2C9 により短時間で代謝される.R 体は代謝酵素が異 なるため,肝代謝の差は主として CYP2C9 活性の差に依存していると考えられる.他方ワル ファリンは肝臓内ビタミン K サイクルの阻害により抗凝固作用を発揮するが,その作用はサ イクルの主要酵素である vitamin K1 2,3-epoxide reductase(VKOR)の活性に大きく影響され るために,この酵素活性の差により感受性の大部分が規定されることになる.このような特 徴から,ワルファリンの場合は他の抗血栓薬と異なり,抵抗性ではなく過敏性を呈すること がほとんどである.また抗凝固療法のモニタリングの根幹を成す PT-INR 算出にあたって,

使用するプロトロンビン時間試薬による差異も無視できないことが明らかとなった.

Key words:warfarin,CYP2C9,VKOR,PT-INR,ISI

(脳卒中 32:735–739,2010)

(2)

VKOR はビタミン K を活性化し,されにγ-glutamyl carboxylase(GGC)が介在して,ビタミン K 依存性凝 固因子である第 II,VII,IX,X 因子を活性化する.

 ワルファリンには 2 種の光学異性体が存在し,R 体 と比較して,S 体が約 5 倍 VKOR 抑制効果が強い.R 体 の 不 活 化 に は SYP2C19 が,S 体 の 不 活 化 に は SYP2C9 が主として関与することがわかっているの で,S 体の代謝速度を規定する SYP2C9 の活性の差異 が VKOR 抑制効果に最も影響を与えることになる.

 一方,凝固因子活性化を規定する GGC にはビタミン K 以外に calumenin と呼ばれる補酵素が必要である.

 したがってワルファリンの効果の個体差の原因は,

血中濃度に影響するワルファリン代謝酵素活性の個人 差(pharmacokinetic resistance)とワルファリンおよ びビタミン K に関連する酵素感受性の個人差(phar- macodynamic resistance)の 2 種類に大別されること になる4)

ワルファリンの効果に関する個人差,人種差の原因  最も強く VKOR 阻害をきたす S 体ワルファリンの 代謝は主として SYP2C9 でなされるため,その酵素 活性の個体差は直接的に VKOR 阻害率に影響を及ぼ す.CYP2C9 には様々な遺伝子多型の存在が知られて いるが,なかでも頻度の多い CYP2C9*2 と CYP2C9*3 の存在がワルファリン代謝に大きな影響を及ぼすこと が知られている.すなわち,両遺伝子多型が存在する 個体では,CYP2C9 活性が低下し,結果としてワル

ファリンの不活化が捗らず,ワルファリンの作用増強 効果をもたらすことになる5).このうち CYP2C9*2 は アジア人にはほとんど認められないが,CYP2C9*3 は 逆にアジア人に多く存在していることが明らかと なっている6).いずれの人種においても,野生型であ る CYP2C9*1 のホモ体と比べて,特に CYP2C9*3 の ヘテロ接合体やホモ接合体で S 体ワルファリンの代 謝活性が著しく低下することが報告されているので,

CYP2C9*3 の頻度が高いアジア人ではワルファリン必 要量は他の人種に比べて少なくてすむ確率が高いと言 える.野生型に比較して,ワルファリン必要量はヘテ ロ接合体で 2/3,ホモ接合体では実に 1/6 まで減少す るとの報告もある7)

 Pharmacodynamic resistance の 要 素 と し て は,

VKOR の感受性の規定因子の一つである VKORC1 の 遺伝子多型の影響が強い.VKORC1 のハプロタイプ にも様々な多型が報告されているが,多型によってワ ルファリン必要量が増加するタイプと減少するタイプ があることが報告されている5).ここにも強い人種差 が存在しており,中でも 1173C>T 多型は必要量が少 なくて済むハプロタイプであるが,日本人の 8 割以上 がこれを持っているのに対して,白人の約半数が他の ハプロタイプを有している1)6)8)

 もう一つの重要な酵素である GGC にも GGCX と呼 ばれる部位に遺伝子多型の存在が知られているが,こ ちらの遺伝子多型によるワルファリン必要量の差異は わずかである9)10)

図 1 ワルファリンによる血液凝固機序の模式図 白矢印は促進作用,黒矢印は抑制または代謝作用を示す VKOR: vitamin K1 2,3-epoxide reductase; GGC: γ-glutamyl carboxylase

(3)

 全体として考えると,ワルファリンの必要量の個体 差のほとんどは,代謝酵素である CYP2C9 の遺伝子 多型と作用点である酵素 VKOR の遺伝子多型による 感受性の差で規定されていることになり11)12),その何 れの遺伝子多型においても,アジア人では必要量減少 傾向となる遺伝子多型を多く持っていることが明らか となった13).両者のいずれも有しているが場合には相 乗効果となることは想像に難くない.必要量が少なく なるタイプでは,維持量決定までの期間が延長傾向で 効果も不安定になりやすいことが報告されており,さ らに注意が必要となる(表 1).

もう一つのワルファリンレジスタンス  一般的なワルファリン必要量の個体差を説明する要 素はこれまで述べてきたことに尽きるが,わが国の実

際の臨床現場で起きているもう一つのワルファリンの 効果不安定要因について問題提起をしておきたい.そ れはワルファリン効果判定の根幹となる PT-INR を算定 するプロトロンビン時間(PT)測定試薬の較差である.

同一検体を同じ条件で測定しても,INR が実際より 高く表示される試薬を使っている場合には,ワル ファリン投与量が必要量以下となる危険性がある.担 当医は報告されてくる INR を根拠にワルファリン投 与量を調整しているので,ワルファリンが治療域に 入っていると思っている症例から脳塞栓症再発を経験 することになり,実際は投与しているワルファリンが 不足しているのに,「ワルファリンが効かない」と誤っ た判断をすることになる.

 図 2 は当院にて検証した,異なる 2 つの PT 試薬に より算出された INR の差異である.PT-INR が高値に

維持量決定までの投与量変動 ↑ ↑

維持量決定までの効果過剰のリスク ↑ 影響少ない

維持量決定後の投与量,INR の変動 ND ND

図 2 異なる ISI 試薬による同一検体での INR 算出値

(4)

なるほどその差が開いている.治療推奨域である PT- INR=2.0 においても,その差は 1.0 近く開いており,他 方は推奨治療域外に逸脱していることがわかる.一般 に PT 試 薬 の 感 度 は international sensitivity index

(ISI)で規定されており,1.0 に近い試薬ほど誤差が少 なく正確な数値が出るとされている.ISI >1.2 の試薬 では,見かけ上 INR が 0.5 以上高く表示されることに なり,ワルファリンの用量不足を招く危険性が高い.

PT-INR 測定にあたっては極力 ISI が 1.0 に近い試薬 で算出する必要がある.

 筆者らの指摘を受けて,大手外部検査機関は 2009 年 4 月から PT 試薬の改変を行い,ほとんどの機関で 試薬の精度が改善されている.一方,自前で検査を 行っている全国の病院においては,ISI <1.2 の試薬の シェアは 2009 年の調査でも 1/4 に満たず,多くの施 設で ISI >1.5 の試薬を使い続けていることがわかって いる.ISI の高い試薬でも最低限,標準試薬をもちい た施設内補正(local SI 設定)を行うべきであるが,補 正の実施率もわずか 10%で年々減少傾向にあること は由々しき事態であると認識している.

 本稿に目を通していただいている読者各位において は,自施設での PT 試薬の現状を速やかに確認してい ただきたい.

おわりに

 ワルファリンの効果の個体差を規定している各種因 子について概説した.アジア人特に日本人において は,ワルファリンの効果延長,感受性増大傾向となる 遺伝子多型を多く持っており,抗凝固療法実施にあ たっては格段の注意が必要である.また,抗凝固療法 モニタリングの根幹をなす PT-INR 算出の大きな問題 点についても言及した.

 謝辞

 シンポジウムおよび本稿をまとめるにあたりご指導,ご助 言をいただいた,明治薬科大学薬物治療学教授高橋晴美先生 に深謝いたします.

参考文献

1) Limdi NA, Wadelius M, Cavallari L, et al: Warfarin pharmacogenetics: a single VKORC1 polymorphism is predictive of dose across 3 racial groups. Blood 115: 3827–3834, 2010

2) Osinbowale O, Al Malki M, Schade A, et al: An algorithm for managing warfarin resistance. Cleve Clin J Med 76: 724–730, 2009

3) Kohnke H, Sorlin K, Granath G, et al: Warfarin dose related to apolipoprotein E (APOE) genotype.

Eur J Clin Pharmacol 61: 381–388, 2005

4) Wadelius M, Pirmohamed M: Pharmacogenetics of warfarin: current status and future challenges.

Pharmacogenomics J 7: 99–111, 2007

5) Yin T, Miyata T: Warfarin dose and the pharma- cogenomics of CYP2C9 and VKORC1-rationale and perspectives. Thromb Res 120: 1–10, 2007 6) Perini JA, Vargens DD, Santana IS, et al: Pharma-

cogenetic polymorphisms in Brazilian-born, first- generation Japanese descendants. Braz J Med Biol Res 42: 1179–1184, 2009

7) Takahashi H, Wilkinson GR, Caraco Y, et al: Popula- tion differences in S-warfarin metabolism between CYP2C9 genotype-matched Caucasian and Japanese patients. Clin Pharmacol Ther 73: 253–263, 2003 8) Takahashi H, Wilkinson GR, Nutescu EA, et al:

Different contributions of polymorphisms in VKORC1 and CYP2C9 to intra- and inter-population differences in maintenance dose of warfarin in Japanese, Caucasians and African-Americans.

Pharmacogenet Genomics 16: 101-110, 2006 9) Vecsler M, Loebstein R, Almog S, et al: Combined

genetic profiles of components and regulators of the vitamin K-dependent gamma-carboxylation system affect individual sensitivity to warfarin.

Thromb Haemost 95: 205–211, 2006

10) Wadelius M, Chen LY, Downes K, et al: Common VKORC1 and GGCX polymorphisms associated with warfarin dose. Pharmacogenomics J 5: 262– 270, 2005

11) Gage BF, Eby C, Johnson JA, et al: Use of pharmacogenetic and clinical factors to predict the therapeutic dose of warfarin. Clin Pharmacol Ther 84: 326–331, 2008

12) Limdi NA, Wiener H, Goldstein JA, et al: Influence of CYP2C9 and VKORC1 on warfarin response during initiation of therapy. Blood Cells Mol Dis 43: 119–128, 2009

13) 高橋晴美:ワルファリン応答の個人差 . 血栓と循環 14: 196–202, 2006

(5)

In the clinical setting, many doctors are confused that warfarin’s efficacy is affected by a variety of external factors, including the food and drugs patients ingest. In addition, it was recently discovered that certain genetic factors related to warfarin metabolism play important roles in determining warfarin’s efficacy. Two enzymes, CYP2C9 and VKOR are known to be major factors which affect the vitamin K pathway. In the Japanese population, gene polymorphism of both enzymes is different compared to western populations. As a result many Japanese tend to have a higher sensitivity to warfarin. Therefore, for Japanese patients, maintenance therapy with warfarin should be more carefully monitored.

We also warned that the quality of the prothrombin time reagent affects the accuracy of PT-INR monitoring.

(Jpn J Stroke 32: 735–739, 2010)

参照

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