182 6 電力の需給調査を通じた地域エネルギー会社の事業性評価検討 6-1 調査概要 6.1.1. 調査目的 地域エネルギー会社の主要な事業である電力小売事業の事業性を調査する。唐津市内の 電力需要の調査及び電源調達方法の検討を行い、その結果に基づき需給シミュレーション を実施することで地域エネルギー会社の事業性を検討する。 6.1.2. 電力小売事業概要 (1)電力小売事業の全体像 地域エネルギー会社が電力小売事業を営む際は、需要家への電力販売及び発電事業者か らの電力調達とその料金精算はもとより、各種機関及び一般配送電事業者等とも電気事業 法で定められた多数の報告業務や料金精算が定期的に発生する。事業展開にあたり関連す る団体及び各団体との手続きや取引等概要を以下図 6-1 に示す。 図 6-1. 電力事業に関わる団体と発生手続き (2)電力小売事業運営 電力小売の事業運営にあたっては原則として、電力の需要計画と実需要量及び調達計画 と実調達量を 24 時間 365 日 30 分単位で一致させる計画値同時同量達成に努めなければな らない。計画値と実績値との乖離をインバランスといい、この過不足が発生した電力量に 応じて旧一般電気事業者とのインバランス料金精算が必要となる。このインバランス料金
183 は基本的には一般的な電力調達単価より割高になるケースが多く、電力小売事業の収支に 影響を与える。よってこの電力の需給バランスの達成具合と、それを達成するための需給 管理の方法等が電力小売事業の事業性に関わることとなる。 6-2 調査実施方針 6.2.1. 電力小売事業の事業性調査と参入方式について 第 2 章で調査した唐津市内の低炭素電源及び第 5 章で調査した唐津市内の電力需要の調 査内容を踏まえ、地域エネルギー会社の事業性を検討していく。具体的には 6.2.2.及び 6.3.3.にて実施方針を述べる電力小売事業の需要シミュレーション及び電源シミュレーシ ョンの結果に基づき、事業性シミュレーションを実施していくこととなる。 電力小売事業への参入方式は事業への関与度合いに応じ複数のパターンが想定される が、今回は地域エネルギー会社が小売電気事業者のライセンスを取得し、電力小売事業を 行うものとして事業性を検討していく。 また図 6-1 で示したとおり電力小売事業には電気事業法に則った様々な付帯業務等が発 生し、専門性が求められる業務も少なくない。よって当シミュレーションでは地域エネル ギー会社が対応する業務範囲が異なる以下 2 パターンの事業性を検討する。 (1)電力小売事業に関わる全業務を地域エネルギー会社自身で行う場合 電力小売や電源調達はもちろんのこと、電力需給管理や各種計画提出等専門性が求めら れるような業務も含めすべて内製化する。自社での経営自由度が高まる反面、電力調達単 価変動等の事業リスクも大きくなる。 (2)専門業務を外部委託する場合 専門性が高い業務は他電気小売事業者等に業務委託する。特に専門性が高く事業の収益 性に影響が大きい電力需給管理を委託することを一般的に他社バランシンググループ(以 下 BG)に加入するという。BG 代表契約者は需給管理のノウハウを持ち、またより大きな ボリュームで需給管理運用が可能となることでインバランスリスクを低減することができ るため、BG 加入者にはインバランス料金精算を求めないケースが一般的とされている。そ れに伴う業務委託費用は発生するが、業務負担が軽減され、地域に根差した営業活動等地 域エネルギー会社の特徴が活かせる分野に経営資源を集中することができる。 上記 2 パターンの特徴比較等詳細に関しては 6.4.1.で後述する。 6.2.2. 需要シミュレーションの実施方針 当シミュレーションでは地域エネルギー会社が事業継続のための安定した需要確保の第 1 ステップとして、唐津市が所有する公共施設への電力供給を検討するための電力使用状 況を把握する。
184 5.2.1.に記載のとおり、唐津市が保有している施設 460 ヶ所の 2016 年度の契約電力 (kW)と月毎の使用電力量(kWh)及び現在の旧一般電気事業者との契約プランのデータを収 集した。その中から比較的負荷率が低い施設 56 ヶ所をピックアップしシミュレーション 対象としている。負荷率は約 20%以下を目安としている。なおここで低負荷率が想定され る施設を選定した理由は、一般的に低負荷率の施設は高負荷率の施設に比べ電力料金が割 高のケースが多く、地域エネルギー会社が供給する電力に料金値下げの余地が大きい可能 性が高いことによるものである。負荷率の考え方を以下図 6-2 に示す。 図 6-2. 負荷率について
185 6.2.3. 電源シミュレーションの実施方針 地域エネルギー会社が電源を調達する方法を以下表 6-3 に示す。 表 6-3. 電源調達方法 当シミュレーションでは、地域エネルギー会社立ち上げ初期の段階で実現性が高いと想 定される以下 3 パターンの電源調達を検討するものとする。 (1)常時バックアップ契約(以下常時 BU)をメインの調達手段とする場合 必ずしもコストに優れた調達方法とは言えないが、調達費の見通しがたてやすく、地域 エネルギー会社の安定経営に寄与する可能性は高い。 (2)日本卸電力取引所(以下 JEPX)のスポット市場をメインの調達手段とする場合 調達する量や時間帯等ある程度融通の利く調達手段ではあるものの、調達単価を市場価 格に委ねることとなるため、変動リスクが大きくなる。 (3)常時 BU と JEPX の組み合わせを調達手段とする場合 ここでは常時 BU をベース電源の調達手段とし、JEPX スポット市場での取引をミドル電 源及びピーク電源の調達手段としてシミュレーションするものとする。地域エネルギー会 社が地産の電源として市内発電事業者から調達可能な電源は、ミドル電源及びピーク電源 に相当する太陽光発電のポテンシャルが高いことが第 2 章の低炭素電源調査から明らかと なり、またその調達単価は JEPX の単価となることからこの電源ポートフォリオを検討す るものとしている。 調達方法 特徴等 市内発電事業者との相対契約 FIT電源を買い取る場合は一般送配電事業者を通じて調達するルールとなっておりその 調達単価は日本卸電力取引所のスポット市場単価となる。非FIT電源の買取は発電事 業者との交渉により単価や調達期間等を決定する。 常時バックアップ契約 契約電力の高圧以上で3割、低圧で1割を上限に旧一般電気事業者から電力調達可能 な制度。上限容量範囲内であれば30分ごとに任意で調達量を設定できる。料金は基本 料金と従量料金からなる。 日本卸電力取引所(JEPX) スポット市場(一日前)と時間前市場(当日)からなる。主な取引はスポット市場で行わ れ、スポット市場単価は需給バランス等に応じてオークションで30分ごとに設定される。 発電設備の自社保有 発電方法の種類や規模によって差はあるものの、意思決定から発電開始までの時間と 初期投資が必要となる。 他小売電気事業者等との相対契約 事業者との交渉により単価や調達期間等を決定する。
186 6-3 調査結果 6.3.1. 需要シミュレーション結果 6.2.2 にて検討した実施方針に基づき、データ収集した施設を電力使用状況が似通うと 想定される 10 パターンに分類した。集計及び分類結果を以下表 6-4 に示す。 表 6-4. 唐津市保有施設需要集計・分類結果(税込) 今回対象とした施設は計 56 ヶ所である。2016 年度の実績は契約電力合計で 9,767kW、 年間使用電力量は約 13,000 千 kWh、全体での負荷率は 15.3%であった。また電力料金は消 費税込で約 3.7 億円となっている。ただしこの電力料金算定にあたっては燃料調整費単価 の金額は 2016 年度旧一般電気事業者の月毎の単価を平均した-2.20 円/kWh、再エネ賦課金 は 2016 年度単価の 2.25 円/kWh で算出している。 次に分類したグループ毎に各グループの代表的な施設の 30 分毎の電力詳細使用データ (以下 30 分値)の需要パターンを各対象グループにあてはめ、グループ全体の需要や時 間帯毎の需要を算出した。30 分値は唐津市施設生データの需要パターンを使用し、唐津市 のデータだけでは賄いきれない不足分は他の小売電気事業者から提供された類似施設の需 要パターン実績を活用した。 上記手順にて集計したデータよりデマンドカーブを作成した。365 日分のデータを夏季 (7~9 月)とその他季(1~6 月、10~12 月)のそれぞれ平日と休日計 4 パターンに分類 し、各パターンの対象日の平均値で作成している。作成したデマンドカーブを以下図 6-5 に示す。
187 図 6-5. 季節・平日休日別デマンドカーブ 日中は季節や平日休日別に使用量に差があるものの、デマンドカーブはほぼ似通ったか たちになっている。また夜間は年間を通じて需要が安定している。 6.3.2. 電源シミュレーション結果 6.2.3.にて検討した電源調達方針及び図 6-5 で示した需要シミュレーション結果に応 じ、3 パターンの電源調達を検討する。JEPX スポット市場での調達では現状最低取引単位 が 500kWh/0.5h となっているため、500kWh 以下の調達が必要な場合は一般送配電事業者か らの不足インバランスでの調整としている。検討結果を以下図 6-6 から図 6-8 に示す。
188 (1)常時 BU をメインの調達手段とする場合 図 6-6 季節別・平日休日別電源調達内容と内訳(常時 BU メイン) 表 6-3 に記載のとおり、常時 BU の調達は契約電力の 3 割という上限が設定されており、 需要シミュレーションの結果ではその値が 2,930kW となる。夏季のピーク時に合わせ最大 限の調達とすると常時 BU の基本料金が割高になってしまうため、当シミュレーションでは 他季のピーク時を考慮し、契約電力 2,500kW での調達としている。常時 BU 以外は JEPX ス ポット市場での調達をベースにしているが、最低取引単位に満たない量はインバランスで の精算としている。
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(2)JEPX のスポット市場をメインの調達手段とする場合
図 6-7 季節別・平日休日別電源調達内容と内訳(JEPX メイン)
JEPX スポット市場をメインの調達手段とし、最低取引単位に満たない量はインバランス での精算としている。ここでは常時 BU からの調達は検討しない。
190 (3)常時 BU と JEPX の組み合わせを調達手段とする場合 図 6-8 季節別・平日休日別電源調達内容と内訳(常時 BU と JEPX) 常時 BU は夜間の需要を考慮し、ベースとなる契約電力 800kW の調達とした。日中のミ ドル及びピーク電源は JEPX スポット市場で調達し、最低取引単位に満たない量はインバ ランスでの精算としている。 図 6-6 から図 6-8 それぞれで示した調達電力量合計と表 6-4 に示した需要電力量合計と の値に誤差が発生しているのは、電力調達は送電による損失を見込んで電力量を調達しな ければならないこと、また各電源調達の最低取引単位において発生した端数によるもので ある。 なお今回のシミュレーションには反映していないが、実運営においては時間前市場での 調達により不足インバランスを低減させるような対応や、JEPX スポット市場で需要より多 くの電力量を調達し、余った量を余剰インバランスとして精算する等の対応も検討するこ ととなる。
191 6.3.3. 事業シミュレーション 6.3.1.及び 6.3.2.のシミュレーション結果を踏まえ、電力小売事業全体の収支を検討す る。まず事業全体の収支算定にあたり前提とした収支項目を以下図 6-9 に示す。 図 6-9 電力小売事業収支項目 また 6.3.2.で検討した各電源の調達費算出に使用した条件設定を以下表 6-10 に示す。 表 6-10 電源調達費算出条件設定 調達手段 詳細 常時BU 九州電力の常時BU契約単価を想定で算出、燃料調整費単価は2016年度平均単価を適用 ※基本料金と従量料金の二部制料金のため、調達量が変化したん場合は単価も変更となる JEPX 2016年度の九州エリアスポット市場全17,520コマ実績から 昼間(8:00~22:00)、ピーク(13:00~16:00)、夜間(22:00~8:00) の時間帯ごとに平均単価を算出 昼間:\9.91/kWh ピーク:\10.09/kWh 夜間:\6.76/kWh (税抜) 休日は終日夜間の平均単価で算出 ※JEPXスポット市場取引手数料\0.03/kWhを含む インバランス 2016年度の九州エリアスポット市場全17,520コマ実績から 昼間(8:00~22:00)、ピーク(13:00~16:00)、夜間(22:00~8:00) の時間帯ごとに平均単価を算出 昼間:\10.68/kWh ピーク:\10.80/kWh 夜間:\8.26/kWh (税抜) 休日は終日夜間の平均単価で算出 ※BG加入時はインバランスリスクが回避できるとし、インバランスに該当する電力量は JEPXで算出するものとする。
192 表 6-10 の条件にて調査実施方針 6.2.1.で述べた業務委託範囲の異なる 2 パターン及び 6.2.3 で述べた電源調達方法 3 パターン、計 6 パターンの電源調達費等を算出した。以下 表 6-11 に示す。 表 6-11 電源調達費試算(税抜) 表 6-11 にて試算した電源調達費等を用いて事業収支を検討した。それぞれのパターン の単年度収支概算を以下表 6-12 に示す。
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194 2016 年度においては JEPX スポット市場からの調達ウエイトが高い方が、より採算が取 れるという結果になった。また電源調達方法に関わらず BG 加入時の方が電源調達単価の 低減に優れ、需給管理を内製化するよりも収支は良好となる。一方で需給管理内製化はよ り多くの雇用創出に寄与する可能性がある。 6-4 地域エネルギー会社設立検討 6.4.1. シミュレーション結果考察と今後の検討事項 (1)需要 電力小売事業の拡大を図っていくにはさらなる需要獲得が必要となる。需要規模が大き くなればインバランスの低減につながり、電源調達価格の安定にも寄与する可能性があ る。具体的には今回シミュレーションに反映しなかった唐津市保有施設の中負荷率帯(25 ~30%程度)の需要や、第 5 章の電力需要調査で地域エネルギー会社へ賛同する旨の好意 的な回答をいただいた市内民間事業者がターゲットとなる。ただし唐津市保有施設中負荷 率帯への電力供給を当シミュレーションと同一条件の旧一般電気事業者比 10%割引で行う とすれば、販売単価や利益率は下がることとなる。また民間事業者需要獲得を目指してい く場合も同様に、他電力小売業者との競争激化等により販売単価や利益率の低下は考慮し なければならない。 (2)電源調達 1)電源調達方法検討 表 6-3 で示した主な電源調達の特徴詳細を以下表 6-13 に示す。 表 6-13 電源調達手段と特徴
195 地域エネルギー会社の設立コンセプトの 1 つが域内還元及び地産地消であり、基本的には 地産の電源を優先的に活用していく方針となる。第 2 章の低炭素電源調査からも分かるよ うに、地産電源において調達のしやすさとポテンシャルを考慮すると、FIT 太陽光発電か らの電源調達の実現性が高いものと思われる。ただし FIT 電源の調達価格は現在 JEPX ス ポット価格と連動するルールとなっている。価格変動リスクは比較的高い電源となるた め、一方では価格変動リスク電源のバランスを考慮した電源ポートフォリオの検討が必要 となる。 また JEPX から直接調達した電力の支払いサイトは 2 営業日後と非常に短いため、調達 ウエイトが高い場合は、地域エネルギー会社の資金繰りにも十分な検討が必要となる。 参考に第 2 章の低炭素電源調査で回答が多く実現可能性の高い調達電源の一例として、 太陽光発電の一般的なカーブを図 6-14 に示す。 図 6-14 太陽光発電パターン例(1.5MW) 太陽光発電は天候により刻々と発電量が変化するという特徴があるため、調達電源量の 変動リスクも大きい。その不足分を他電源でカバーするといった組み合わせの検討が必要 となることにも注意が必要である。 2)調達価格変動リスク 6.3.3.で行った事業収支シミュレーションのなかで、調達価格変動リスクが特に大きい JEPX スポット市場単価とインバランス単価が変動した場合の経常利益に与える感応度分析 を行った。結果を以下表 6-15 及び図 6-16 に示す。
196 表 6-15 JEPX 及びインバランス単価変動時の経常利益感応度分析 図 6-16 JEPX 及びインバランス単価変動時の経常利益率推移 JEPX からの調達ウエイトが高いほど変動リスクが大きく、電力の調達価格が経営に与え るインパクトは大きい。参考に九州エリアの JEPX スポット市場単価及び九州エリアイン バランス単価の推移を以下図 6-17 に示す。
197 図 6-17 九州エリア JEPX スポット及びインバランス単価の推移 JEPX スポット単価は 2015 年 4 月から 2018 年 1 月末時点まで、九州エリアインバランス 単価は現行のインバランス制度がはじまった 2016 年 4 月から 2017 年 12 月末時点までの データを反映している。JEPX スポット市場の単価変動は需給バランスはもちろんのこと時 間帯や季節性等様々な要因が想定されるが、ここ数年の単価推移をみると安定した市場と は言い難い。特に直近では JEPX スポット市場単価は高騰しており、2017 年度の平均単価 (2018 年 1 月末現在)は 2016 年度比で約 10%上がっている。 地域エネルギー会社運営には価格変動リスクが少ない安定した電源確保が重要な課題の 1 つとなる。6.4.3.で後述する他の地域エネルギー会社の事例を調べると、地産電源の長 期契約や地域性を活かした電源開発等により独自の安定した電源を確保している例もあ る。第 3 章及び第 4 章で賦存量調査を実施した、地域エネルギー会社による低炭素電源発 電所開発等も有効な選択肢の 1 つとなり得る。 (3)需給管理内製化と BG 加入 地域エネルギー会社が電力小売事業において需給管理を含むすべての業務を内製化した 場合と、BG に加入し業務を委託した場合の特徴詳細を以下表 6-18 に示す。
198 表 6-18 需給管理内製化と BG 加入の特徴比較 地域エネルギー会社が事業体制をどれだけ整えられるか等を踏まえたうえで業務委託範 囲の検討が必要となる。需給管理を含めた業務の内製化は域内でより多くの雇用を生み出 す可能性はあるが、経営上のリスクは大きくなる可能性が高い。スムースに事業を立ち上 げ、リスクをおさえたスモールスタートが望ましいのであれば、BG 加入によるトータルサ ポートの享受は有効な手段である。 6.4.2. 制度変更による事業リスク 電力業界においては経済産業省主導の電力システム改革という大きな枠組みのなかで、 市場整備に伴う制度の改正等が頻繁に行われるため、それが電力小売事業の経営に影響を 与えるケースがある。今後予定されている新制度導入スケジュールを以下図 6-19 に示 す。
199 図 6-19 各制度の導入予定スケジュール59 当シミュレーションで電源調達の手段として検討した常時 BU は、ベースロード電源市 場創設に伴い、将来的な現行制度の継続が検討中となっている。またこの他インバランス 料金制度等についても継続的に制度変更が検討されている。専門分野の知見が必要な制度 も多く、電力小売事業者には制度変更対応への業務負担及びそれに対応するためのシステ ム改造コスト負担等が想定される。電力小売事業者は事業リスクを最小限にとどめるため に新制度設計の動向を継続的に注視していく必要があるが、地域エネルギー会社としては 外部委託による負担軽減及びリスク回避も有効な手段となりうる。 6.4.3. 地域エネルギー会社設立に関する手続き (1)地域エネルギー会社への自治体出資 日本全国における地域エネルギー会社の設立事例を以下表 6-20 に示す。 59 出典:資源エネルギー庁 中間論点整理(第2 次)について(概要資料)2017 年 12 月 26 日
200
表 6-20 地域エネルギー会社設立事例60
201 地域エネルギー会社の設立にあたっては、現在は自治体と民間事業者での共同出資が主 流となっている。自治体の出資比率は会社毎にばらつきがある。また出資する民間事業者 は地元の会社や金融機関及び電力小売事業者等様々であり、その出資比率も会社によって 異なる。自治体及び各事業者の経営関与度合い等を考慮のうえ、出資割合を協議していく こととなる。 また需給管理を内製化している地域エネルギー会社、一般家庭向けの電力小売を実施し ている地域エネルギー会社は現状ではあまり多くないことが分かる。 なお電力小売事業以外の事業を行っているもしくは行う予定の地域エネルギー会社は幾 つか存在し、今後はさらに地域の独自性を活かした様々な事業やサービスが増えてくるこ とが予想される。 (2)電気小売事業運営の手続き 電気小売事業を営む会社の設立にあたっては、一般的な会社設立に必要な定款作成や登 記申請等に加え、電気事業法に則った電力小売事業運営のための特有の手続きが必要とな る。主な手続きを以下表 6-21 に示す。 表 6-21 電力小売事業に必要な主な手続き これらの手続きは基本的には会社設立手続き完了後の手続きとなるので、事業開始予定 の 6 ヶ月程度前からの着手が望ましいとされる。
202 6-5 第 6 章まとめ 「電力の需給調査を通じた地域エネルギー会社の事業性評価検討」の目的と調査概要、 期待した効果と得られた主な調査結果、調査結果の評価を以下に整理する。 (目的) 地域エネルギー会社の主要な事業である電力小売事業の事業性を調査する。唐津市内の 電力需要の調査及び電源調達方法の検討を行い、その結果に基づき需給シミュレーション を実施することで、地域エネルギー会社の事業性を検討するとともに、その設立の妥当性 を検討する。また、地域エネルギー会社のビジネスモデルや設立にあたっての課題等を把 握する。 (調査概要) 【1】~【3】の調査からポテンシャルの再整理を行い、エネルギーミックスや低炭素社会 の推進等の踏まえたところで、地域内外からの調達可能な電力による電力小売り事業のビ ジネスモデルとその実現性を検討した。 なお、調査内容については、以下のとおりとした。 電力の需給調査を通じた地域エネルギー会社の事業性評価検討 地域エネルギー事業への参入方式について 地域エネルギー事業のシミュレーション方法 地域エネルギー会社の設立に係る課題・留意事項の整理 設立に係る手続き、関連法制度に関する調査 電力需要については公共施設データ 460 件分を基に、データ整理を行った。分析に必要 な情報が揃っていて、かつ比較的負荷率が低いと想定される 56 施設を抽出して、需要シミ ュレーションを実施した。 (期待した効果) 電力小売事業の事業シミュレーションを実施し、事業可能性を評価することで、地域エネ ルギー会社設立の妥当性を判断することが可能となる。 地域エネルギー会社を設立する上で解決すべき課題や、設立の上で検討すべき項目を把握 することで、設立に向けた活動項目やスケジュールを具体化することが可能となる。 (主な調査結果) 公共施設 56 施設のデータから、電力需要を電力使用状況が類似している 10 パターンに 分類した。56 施設の 2016 年度の合計契約電力は 9,767kW,電力使用量は 13,000 千 kWh、 電力料金は約 3.8 億円である。 集計データに基づいて作成したデマンドカーブと電源調達シミュレーションに基づきな
203 がら、需給調整を自社で実施するか BG に加入するかの 2 つのオプションに分け、唐津市 内の公共施設 56 施設に対する電力小売事業の事業性検討を実施した。その結果、いずれ のケースでも黒字経営が可能であり、その中でも JEPX スポット市場からの調達ウエイト が高い方が、より採算が取れるという結果になった(2016 年度の JEPX 価格に基づく)。 また電源調達方法に関わらず BG 加入時の方が電源調達単価の低減に優れ、需給管理を内 製化するよりも収支は良好となる結果となった。 JEPX スポット市場単価とインバランス単価が変動した場合の経常利益に与える感応度分 析を行った結果、JEPX からの調達ウエイトが高いほど変動リスクが大きく、電力の調達 価格が経営に与えるインパクトは大きいことを確認した。 (調査結果に対する評価) 電力小売事業の事業シミュレーションを実施したことで、唐津市の公共施設 56 施設を電 力供給先とする場合は、事業として成り立つという検討結果を得ることができた。今後は、 実際に、これらの公共施設への電力供給契約のあり方(公共機関から見た電力調達先の選 定方法(プロポーザル方式など)、長期契約の締結可能性など)の検討、需給管理を内製 化するか否か、調達電源の構成比など、収益性や地域貢献など多面的な視点をもって、継 続的な検討が必要であるといえる。 地域エネルギー会社を設立する上で解決すべき課題や、設立の上で検討すべき項目の調査 を行い、今後の検討方針を定めることができた。今後の検討方針は、8-3 にまとめるもの とする。