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著者 瀬川 昌也

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床心理教育研修会 乳幼児期の睡眠・覚醒リズムと ロコモーションの発達の良否は、ヒトの知情意の発 達の良否につながるか

著者 瀬川 昌也

雑誌名 東京家政大学附属臨床相談センター紀要

巻 11

ページ 1‑38

発行年 2011

出版者 東京家政大学附属臨床相談センター

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010062/

(2)

東京家政大学附属臨床相談センター主催 第 11 回臨床心理教育研修会

乳幼児期の睡眠・覚醒リズムとロコモーションの発達の良否は、

ヒトの知情意の発達の良否につながるか

瀬川 昌也 Masaya SEGAWA

1

本日はお招きいただきまして大変嬉しく思い ます。と申しますのは、私どものクリニックに毎 年学生さんが研修にこられますが、皆さん非常に よく訓練されているというか、勉強しておられる と感じており、このようなところで話をさせてい ただく機会を楽しんでいます。

アンケートに私の話が難しいと書かれていま す。診察の場でのお話では、確かに難しいことは 難しいかもしれません。今日は時間がありますの で、できるだけゆっくりと話をさせていただきた いと思います。

本日は、「乳幼児期の睡眠・覚醒リズムとロコ モーションの発達の良否は、ヒトの知情意の発達 の良否につながるか」というお話をします。どう してこういうテーマにしたかといいますと、根底 にあるものは人間の脳はすごく発達しています が、他の動物と比べて何が特に発達しているのか というと、下位の神経系が上位の神経系を育てる 仕組みが完成していることによることをお話し したいからです。これは一般社会に例えますと、

世界をリードするのは、絶対君主国家ではなく、

民主主義国家であることと同じです。すなわち、

下位の神経系が上位を育てる仕組みが完成して 初めて高い能力を持った脳ができるのです。この

瀬川小児神経学クリニック

場合、下位の神経系がどのようにして、また、ど のような段階を踏んで、高次の機能を発達させる のか、それがどの月齢・年齢に起こるのかが問題 になります。睡眠とロコモーションには脳を育て る下位の神経系の活動が直接反映されます。それ ぞれきちんとした発達の過程を持っていますの で、それを見ることにより、下位の神経系が上位 の神経系をどのような順序で育てるかがわかり ます。これが本日のお話です。

睡眠とロコモーションの仕組みと脳幹・中脳のア ミン系神経系

最初に、睡眠とロコモーションの仕組みとそれ に脳幹・中脳のアミン系神経系がいかに関与する かをお話しします。図

1

に示してある脳幹・中脳 のアミン系神経系、セロトニンとノルアドレナリ ンとドパミンは、脳を育てる重要な神経系です。

この働きが睡眠と覚醒、睡眠の要素、そしてロコ モーションに出ています。したがって、これら睡 眠要素とロコモーションの良否を見ることで、こ れらの神経系がきちんと活動しているかどうか が判ります。これが今日の私のお話の根幹となり ます。

2

と図

3

は睡眠の仕組みを表したものです。

2

の一番下のところに正常成人の睡眠ダイア

グラムを示しました。覚醒から睡眠に入ると、睡

(3)

眠段階Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳと進みます。これはノンレ ム睡眠で、数字の高いほうが深い睡眠です。ノン レム睡眠がⅠ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳと深くなった後、浅く なり、レム睡眠が出現します。レム睡眠が一定時 間続くと、再びノンレム睡眠となります。一晩の 睡眠は、朝までこれが繰り返し出現します。ノン レム睡眠の始まりから、レム睡眠の終わりまでを、

1 サイクルと呼び、これが睡眠の最小単位となり ます。成人ではこのサイクルは 1 時間半です。ご 覧になってわかるように、最初のサイクルと後の サイクルは随分内容が違います。最初のサイクル

では III、IV 段階の深いノンレム睡眠が目立ち、

レム睡眠の持続が短くなっていますが、後のサイ クルになるにしたがってノンレム睡眠が短くな り、且つ深い睡眠がなくなって、精々、段階Ⅱの 睡眠くらいになり、代わりにレム睡眠が長くなる ということがわかります。これが正常な睡眠の仕 組みです。しかし、このパターンはだらだらした 生活をしていたのでは出てきません。最初の深い 睡眠が、充実した効率のよい深い睡眠となるため には昼間充実した覚醒レベルの高い生活をしな ければなりません。しかし、最後のサイクルの非 常に長い充実したレム睡眠を取るためには、この 時間に寝ていなければなりません。規則正しい生 活、日中充実した活動をして、効率のよい深い睡 眠をとり、決まった時間に起きることがよい睡眠 につながります。勉強や仕事で夜寝る時間が遅く なっても、それが充実した生活であった場合は、

充実した深いノンレム睡眠がとれます。しかし、

朝の 1 時間半がカットされると、レム期の足りな い睡眠となります。この場合、日中に耐えがたい 眠気が出ることがあります。充実したレム期は朝 の 1 時間半の前後の 1 時間半にも出ます。 しかし、

それ以外の時間帯には出ません。これは時差の異 なる国へ行ったときに実感します。アメリカの東

海岸に飛んだ時を考えますと、現地の夜 10 時は 日本の午前 11 時にあたり、朝の 7 時は午後 6 時 にあたります。アメリカの西海岸、サンフランシ スコへ行った時には、現地の夜の 10 時は日本の 午後 2 時に、朝の 7 時は午後 9 時にあたります。

したがって、旅行の疲れ、また、その間の活動で 夜の入眠期の深いノンレム睡眠はとれますが、睡 眠時間の中に十分なレム睡眠が出る時間帯は入 らず、レム睡眠の足りない睡眠となります。一方、

パリに飛んだ時を考えますと、現地の午後 10 時 は日本の午前 5 時に、午前 7 時は午後 2 時にあた ります。そのため、深いノンレム睡眠とともに、

睡眠時間に日本の明け方の 1 時間半が含まれる ため、充実したレム睡眠をとることも可能となり ます。したがって、時差ぼけはアメリカ、特に西 海岸へ飛んだ時には強く、ヨーロッパへ行ったと きには軽いと言えます。

次にノンレム睡眠とレム睡眠が起こる仕組み

をお話しします。これは、図 2 の上段に示したよ

うにアミン系神経系とコリン作動性神経系が交

互に活性化することによります。覚醒とノンレム

睡眠にはアミン系神経系のセロトニンとノルア

ルドレナリン神経が関係しており、レム睡眠には

コリン作動性神経系のアセチルコリンが関係し

ています。アミン系神経系は覚醒系の神経ですか

ら、起きているときは活発に活動しています。活

動が低下してくるとノンレム睡眠が出現し、それ

が止まってしまうとコリン作動性神経系が活性

化し、レム睡眠が出現します。これはアミン系神

経系がコリン作動性神経系の活動を抑制するこ

とによります。したがって、アミン系神経系が活

性を増している間は、コリン作動性神経系は活性

化しません。しかし、アミン系神経系の活性が低

下、停止すると、コリン作動性神経系が活性化し

ます。しかし、コリン作動性神経系は、アミン系

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神経系を活性化する働きを持ち、コリン作動性神 経系の活性があがると、アミン系神経系が活性化 し、コリン作動性神経系が抑制されます。これが ノンレム睡眠とレム睡眠が 1 つのサイクルをつ くり、繰り返し出現する仕組みです。

次に図 3 でレム睡眠とノンレム睡眠の内容を 少し詳しく説明します。レム睡眠のレム:REM とは rapid eye movement の頭文字をとったもの です。寝ているのに薄目を開けて目がキョロキョ ロ激しく動くのがレム期の特徴です。このレム期 の発見は、ノンレム睡眠の段階 I というところで み ら れ る 、 ゆ っ く り し た 眼 球 運 動 ( slow eye movement)が夜中にどのようになるか研究しよ うということで、スタンフォード大学の若き

Dement 先生(後に睡眠研究の第一人者となる)

が徹底的に研究しました。その結果、夜中には slow eye movement は 認 め ら れ ず 、 rapid eye

movement が出現し、しかもそれが一定の間隔で

出るという事を見出しました。これがレム睡眠の 発見につながりました。一方、レム期の脳波は眠 っているにもかかわらず、活発に起きている時と 同様の脳波を示します。しかし、呼びかけにも応 じず、すぐに起きることはできません。実際にレ ムの発見より少し前、東大の神経生理学教室で睡 眠中の脳波がどうなるのか研究が進められてい ました。若い研究者が担当し、同級生の 1 人が被 験者となって実験を行いました。その結果、睡眠 中には起きている時と似ているような、しかも活 発に脳が活動しているのと似たような状態にな るということが分かりました。残念ながら、この 結果は発表されませんでしたが、レム睡眠は、そ の名が付せられる前は、脳波は起きているように 見えても、本当は深く寝ているという意味から、

逆説睡眠と呼ばれていました。逆説睡眠は日本人 が最初に見出したといいたいのですが、残念なが

らそうはなりませんでした。しかしレム睡眠では、

rapid eye movement の他に特徴的な要素がありま

す。ピクピクする体の動きが活発にあります。そ れとともに、最も重要なのはレム期のときに抗重 力筋、すなわち姿勢を維持する筋肉の活動が全く なくなってしまうということです。筋緊張が全く なくなってしまう、これがアトニア(無緊張)で す。これは睡眠の研究ではあごの筋肉の動きで判 定します。あごの筋肉は姿勢維持のための筋肉の 代表的なものですが、レム期には筋緊張(活動)

がなくなり、ノンレム期にはそれが出てきます。

これは、レム睡眠の生理学的意義―脳の機能にい かなる役割を持つかを知る上で重要な意味を持 ちますます。すなわち、アトニアがあることによ って脳の各部分がバラバラに動くことが可能に なるということです。それは、レム睡眠では脳の 各部分を個々別々に整備、調整することが可能に なります。例えば飛行機が飛んできて、着陸した 後、整備する時にエンジンをふかしたりしますが、

そのときに飛ばないような仕組みにしてエンジ ンを整備するのがレム期の状態です。一方、ノン レム期は脳全体がバランスよく系統立てて動く 仕組みを整えながら、また、反射系を維持しなが ら、脳全体の動きを調整することを可能にします。

ですから睡眠中の体動もノンレム期とレム期で

は違います。すなわち、ノンレム期の体動はゴロ

ンと寝返りをするような動きをしますが、レム期

の体動は左右手足が同時に動いてしまうためで

寝返りとはなりません。これは子供が枕を越えて

上にいくような体動になります。それと共に一つ

の筋肉がピクピクとした動きはありますが、反射

系統が全部カットされていますから、外からいろ

いろ刺激があってもなかなか体全体の動きには

なりません。例えば夢を見た時に、夢が現実なも

のとして体の動きにならないのはこのためです。

(5)

夢を見ているのは頭の神経がきちんと動くかど うか試しているようなものだと言えます。ところ がある病気、脳幹に障害があるとレム期のアトニ アがなくなってしまいます。そうすると、夢で見 たことが体を動かす神経と連動し、夢の内容が現 実の動きにつながります。夢で相手に殴りかかろ うと思うと、実際に隣の人を殴ってしまう。ベッ ドの柵に思い切り手をぶつけて骨折をしてしま うなどが起こります。逆にレム期では反射系統が 全て動いていません。したがって、心臓も肺も 各々自己のペースで動いており、止まったり、動 いたりしています。しかし、ノンレム睡眠では反 射系が保たれており、呼吸が止まると、血液の酸 素分圧が低下しますが、これに化学受容器が反応 し、呼吸中枢を刺激し、呼吸が再開します。しか し、ある脳幹の病気でノンレム睡眠でもアトニア が出てくるような状態となると、呼吸が止まって しまうと酸素分圧が低くなっても化学受容器が 作用せず、呼吸中枢を刺激することが起こらなく なります。これが睡眠時無呼吸症候群で、睡眠時 突然死につながります。前にもお話ししましたよ うに、レム期とは、浅い睡眠ではなく、特に外か らどのような刺激を受けても起きない睡眠です。

江戸時代、日本人全体が太陽の光に準じて寝たり、

起きたりしている状態では、大体誰でも同じ時間 に寝る、また、同じ時間にレム期になるという生 活をしていたと思います。赤穂浪士の大石蔵之助 がそのことを知っていたかどうかわかりません が、赤穂浪士が完勝したのは、吉良家の侍がレム 期の時に、突然襲われて、なかなか目が覚めない、

また、覚醒しても体が思うように動かない状態だ ったのではないかと推測できます。神経学的には レム期のアトニア、覚醒に似た脳波の発現に関与 するのがコリン作動性ニューロンですが、体動に はドパミン系の神経系が関与しています。しかし、

これらレム期の要素をノンレムに出さないよう にするのは青斑核のモノアミンニューロンと縫 線核のセロトニンです。脳波検査の際、あごの筋 肉(頤筋と呼びます)の筋電図を同時に検査し、

アトニアがノンレムに出てくるかどうかを見る ことによって、セロトニンやノルアドレナリンが 正常に活動しているかどうか、ピクピクとする筋 肉の動きが少なくなるか、激しくなっているかど うかをみることで、ドパミン神経系が活動を落と しているか、あるいはドパミン神経の活動が過剰 活動しているかがわかります。

次にロコモーションのお話をします。ロコモー ションというのは、面白いものがあるときに、そ れに向かいそれ行けというモチベーションにか られた移動運動です。そのときにどのように手足 を動かすのかと考えて動かしていると目標を失 います。ですから、この動きは意識して動かすこ とではなく、あっと思ったときに、それ行けと、

無意識に手足を動かす、自発的な動きが本当のロ コモーションです。

ロコモーションは、脳からの指令が大脳基底核 を介し、中脳のロコモーション野と筋緊張と筋脱 力の制御系を駆動、図 4 に示した脊髄の stepping

generator (ロコモーション駆動系)に作用し、発

現します。これには上腕分節と腰仙分節の 2 つの 駆動系があり、両者を結ぶ神経回路が回転するこ とでロコモーションが発現します。上腕分節は手、

上肢からの神経系が集まっているところ、腰仙分

節は足、下肢からの神経系が集まっているところ

です。ロコモーションはこの腰仙部にモノアミン

系網様脊髄路、先ほどお話しした、ノンレムにア

トニアをなくする、抗重力筋を活性化するアミン

系神経系が入力、持続的な刺激を与えることによ

って、サーキットが回転、ロコモーションが誘発

されます。

(6)

図 4 には他に、前肢からの入力系、後肢からの 入力系が示されてありますが、これらは手足を突 っ張った時に筋紡錘の緊張による強い刺激がこ の部分に入ることを示しています。これらの入力 があると、網様体脊髄路を介する入力がなくても、

ロコモーション系が動き出します。鹿とか馬が生 まれた時から歩き出すのはこの経路を使ってい るからです。これは決して本当のロコモーション ではありません。

自然に手足の動くロコモーションは、網様体脊 髄路からの入力によって駆動されるものです。で すから真のロコモーションは重力に抵抗する抗 重力筋を制御するモノアミン神経系が正常に機 能して初めて可能になります。したがって、真の ロコモーションができるためには、重力に抵抗す る抗重力筋を制御する脳幹モノアミン神経系、セ ロトニン神経系が、正常に機能していることが必 須となります。このように睡眠・覚醒リズム、睡 眠要素とロコモーションは、ともに脳幹アミン系 神経系、中脳ドパミン神経系に制御され、密接な 関係を持っています。これらのアミン系神経系は、

脳の発達に重要な役割を持っています。したがっ て、睡眠とロコモーションの発達をみることは、

脳の発達をみることにつながります。そこで、睡 眠とロコモーションの発達について述べ、その発 達の過程が脳の機能の発達にいかに関与してい るかをお話しします。

睡眠・覚醒リズムとロコモーションの発達 最初に睡眠要素と睡眠・覚醒リズムの発達につ いてお話しします。睡眠の幾つかの要素の中では レム期の要素が最も早く発達します(図 5)。胎 生 20 週くらいに、ピクピクという筋肉の動きと 目の動きが出現します。28 週くらいなるとこれ が同じ時間帯に出現するようになります。これに

続き、32 週になると、眼球運動のない時間帯、

無眼球運動期、および体動のない時間帯、無体動 期が同期して出現し、レム睡眠とノンレム睡眠の 原型ができたことを示します。その後、32 週、

33 週には呼吸が乱れる時間帯、不整脈と排尿す る時間帯が現れ、36 週になると呼吸が不整にな る時間帯が眼球運動と体動のある時間帯に一致 出現するようになります。また、男の子の場合は、

陰茎勃起がこの時間帯に同期出現するようにな ります。40 週になると、この時間帯に心拍不整 と排尿の時間帯が同期します。胎生期は常にアト ニアでありますので、胎生 40 週にはアトニアを 除くレム睡眠の要素がすべて出そろうことにな ります。アトニアではない時間帯が出てくるのは 40 週ですが、アトニアがレム期だけに出るよう になるのは生後 3 ヶ月から 4 ヶ月です。筋緊張低 下がレム期だけに限局する。逆に言うと、抗重力 筋が活性化してくるのも 3 ヶ月から 4 ヶ月という ことになります。

ノンレム期の指標は、無体動期、無眼球運動期、

律動性呼吸がありますが、重要なものに、指標と

しては Mouthing があります。Mouthing とは、口

をグッと横に開く、胎児の微笑といわれている動 きです。これがノンレム期だけに出るようになる のは 36 週からです。この時期に胎児期のノンレ ム期が確立するということになります。

図 6 は生後より 2 歳 8 カ月までの睡眠・覚醒リ ズムの発達を示した図です。この横軸の 0、12、

0、 12、 0 は時計の時間を示します。したがって、

1 列に 2 日間の睡眠・覚醒の時間帯が表されてい

ます。黒い線は寝ている時間、白い線、空欄は起

きている時間を示します。最初は非常に短い間隔

で起きたり、寝たりを繰り返していますが、1 ヶ

月過ぎたころから起きている時間帯、寝ている時

間帯が出てきます。しかし、日に日に起きる時間、

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寝る時間が遅くなってきています。これは 25 時 間を周期とする生体リズムが発現したこと、しか し、それが 24 時間の昼夜のリズムに同調できな いことを示します。しかし、2 ヶ月頃より覚醒の 時間帯が昼間に集中し始め、4 ヶ月にはそれが昼 間のみにみられるようになります。ここで概日リ ズ ム 、 サ ー カ デ ィ ア ン ・ リ ズ ム ( Circadian rhythm)が確立します。その後、ばらばらだった 昼寝が、7 ヶ月頃になると午前 1 回、午後 1 回に なり、1 歳 3 カ月から 6 カ月ころには午後 1 回に なります。その後、昼寝が月齢とともに徐々に減 少、4.歳から 5 歳で昼寝がなくなり、昼夜の明暗 の区別に一致した二相性の睡眠・覚醒リズムが完 成します。ですから睡眠・覚醒リズムは 4 ヶ月ま での概日性リズムの確立、昼寝が 1 回になる昼間 睡眠の確立、そして昼寝がなくなって、二相性睡 眠・覚醒リズムの確立の 3 つのエポックを持って 発達すると言えます。

この時期に図 6 の中央に示した% Sleep という 1 日の中に睡眠が占める割合をみますと、最初は ほぼ 8 割ぐらいですが、それが概日リズムが形成 される 4 カ月に向かって急速に減少、その後、

徐々に下がってくることがわかります。その右に

示した NS・DS は、それぞれ、昼間と夜間の 12

時間に寝ている時間を%で示したものです。夜間 の 12 時間に寝ている時間の比率は生まれた時か ら 2 歳 8 ヶ月までほとんど変わりません。それに 対して、昼間に寝ている時間は特にサーカディア ン・リズムが形成される月齢に向かって急速に、

その後、徐々に下がってきます。このことは、子 どもの脳は昼間に起きることを覚え発達する、昼 間起きることを覚えることが脳の発達の基本で あるということを示します。

図 7 の上段は図 6 の最初の 6 ヶ月まで抜き出し たものです。最初の 1 カ月は短い睡眠・覚醒リズ

ム、これは 24 時間のより短い睡眠・覚醒リズム、

縮日リズムと呼ばれています。 1 カ月を過ぎると、

生体リズムである 25 時間リズムが昼夜の 24 時間 のリズムに関係なく出現するフリー・ランニン グ・リズムが出現、2 ヶ月となると、昼・夜リズ ムに同調したリズムが可能になり、4 カ月で昼間 に覚醒時間が集中するのがわかります。これは一 見バラバラに見えますが、図 7 の下段に示したよ うに、この間の夜間の総睡眠時間と昼の総睡眠時 間はそれぞれ標準偏差をもったなめらかな曲線 で描くことができます。これは、この間の睡眠・

覚醒リズムが一つのアミン系神経系に制御され ていることを示し、この期間の睡眠・覚醒リズム の発達ばかりでなく、脳の発達をみる客観性に富 んだ指標であることを示します。

図 8 は、夜間の睡眠開始時刻の受胎後週数によ る変化を示したものです。これは、 50 週、生後 2 カ月ころに一定となることを示し、この月齢から 昼間睡眠が夜の入眠時刻に影響を与えない真の 昼寝になることを示します。図 9 は、レム期とノ ンレム期の比率が生まれてから老齢になるまで どう変わっていくかを示したものです。これで見 ると新生児期はレム期が非常に多く、 50%がほぼ レム期ですが、年齢と共にだんだんと減少、 3~9 歳に成人レベルの 18~20%レベルに達すること、

しかし、高齢になるとさらに減るのがわかります。

レム期の比率が、年齢が小さいときほど多いのは、

これは前述したように、レム期は脳の各部分を

別々に動かす、各部分を独立して発達させる役割

を持つことにつながります。ノンレム期には脳が

統制された動きが可能であり、発達過程ではそれ

を発達させる役割を持つと考えてよいと思いま

す。すなわち、表 1 に示すように、レム期とは個々

の神経機構の形成と機能発現に関与する。ノンレ

ム期は各神経機構の相互関係、脳全体の制御、そ

(8)

の機能発現に関与する、と、それぞれ固有の役割 があると理解することができます。

日の光と睡眠

次に、日の光がいかなる機序で睡眠・覚醒リズ ムに関与するかのお話をします。これには視床下 部が重要な役目を持っています。図 10 に示した ように、日の光は視床下部にある概日性振動体、

視交叉上核に入り、視床下部刺激伝達物質を活性 化、脳幹アミン系神経系による概日性入力と統合、

内的同調を形成するとともに、昼夜の明暗の区別 に一致した覚醒・睡眠リズムを確立する。さらに 単独に間脳上行性覚醒系、脳幹上行性覚醒系を活 性化、前者は直接に、後者はレム―ノンレム振動 体の制御を行いつつ、視床、皮質下部、大脳皮質 の活性化につなげる作用を持ちます。この過程が 日の光により駆動されることを十分に理解して おいてください。発達の過程で昼夜の明暗のリズ ムの下で生活することが、視床下部のリズムと脳 幹アミン系神経系のリズムの同調機構を確立す るために絶対に必要なことがお分かりになると 思います。

次に視床下部に制御される睡眠の要素がどの ような過程をとって発達するのかを述べます。表 2 に示したように、最初は、生後 1 ヶ月での 25 時間のリズム、フリー・ランニング・リズムの発 現です。これは視床下部の持つ内因性のリズムが 出できたことを示します。4 カ月にはメラトニン の夜間分泌が始まり、それから離乳食が始まるこ ろ、昼間の哺乳が覚醒刺激となります。そして 6 ヶ月になると、明け方の睡眠時に副腎皮質刺激ホ ルモン(ACTH)が分泌されるようになります。

8 ヶ月になると、体温の概日性リズム、すなわち 体温が深夜に低く、夕方に高いというリズムが出 ます。これらは視床下部の基本的なリズムとして

持続、4 歳・5 歳になって、脳幹リズム系と同調 し、入眠時深睡眠での成長ホルモン分泌が始まり ます。体温の概日周期と睡眠・覚醒リズム周期が 完全に同調することにより、朝、体温が上がって くる時期に目を覚まし元気よく活動することが できるようになります。ところが、両方のリズム が合わないと、朝、体温の低い状態となることが あり、朝元気が出ない。子どもならなおさらです。

ですから、昼夜の明暗の区別に合わせた睡眠・覚 醒リズムがこの時期に確立されていないと朝起 きられないという事になります。これは不登校に つながり、さらに、この時期の不安定な状態は、

後に慢性疲労症候群にも結びつきます。視床下部 のリズムは、日の光、昼は明るい、夜は暗いとい うリズムに合わせて出てきます。したがって、視 床下部のリズムが出現する生後早期より昼夜の リズムに合わせて一日の活動をしなければいけ ないということになります。

ロコモーションの発達

次にロコモーションのお話をします。図 11 は 人間の一生の姿勢と起立(立位姿勢)と歩行の変 遷を図示した Ropper の図です。この図はその発 達をきわめて正確に示しています。まず、はいは いは手指を前方に伸ばし、足の甲を床につけた姿 勢をとっています。これが目標に向かって、無意 識に自然に手足を動かして進む正しいはいはい、

ロコモーションです。また、これは四つばい位で の抗重力筋力が十分に活性化したことを示しま す。この次の二足歩行は、手を肩の高さに挙げ、

背中はやや丸く、足は膝が蹴り上げのパターンを

とり、上下肢の協調が出ていません。これは、二

足歩行開始時にみるいわゆる high guard の歩行で

自然に手足の動くロコモーションではありませ

ん。この図にはありませんが、1 歳 6 カ月になる

(9)

と、上肢は下へ降り(low guard) 、背筋をまっす ぐ伸ばし、上下肢の協調運動のとれた歩行、ロコ モーションになります。これは、立位姿勢での抗 重力筋が十分に活動するようになったことを示 します。直立二足歩行は 4~5 歳に完成します。

注目したいのは老化の段階です。はいはいは歩く 前の未熟の状態の動きと考えると、歩行ができな くなった時にもう一度はいはいが出てきてもい いだろうと思います。しかし、高齢になり、背中 が丸く、直立姿勢がとれない状態でははいはいは できないのです。この図にあるはいはいは、人間 にしかできません。これを乳児期後半にすること は重要な意味を持つと言えます。

脳の発達とアミン系神経系

次に、脳の発達とアミン系神経系との関係のお 話をします。胎生期の脳の発達の特徴は、表 3 に 示したように、脳の各部分の基本構築の形成、次 いで機能的、特異的構造の形成があります。それ が顕著に出ているのが、後に述べる側頭平面、言 語野の左右差です。知覚回路の形成、性差という のもこれに入ります。特に視覚に関する回路はレ ム期の神経系の活動が重要な働きをします。ただ 胎生期の発達はほとんど遺伝的に規制された過 程です。図 12 に胎生 25 日から 9 ヶ月のヒト胎児 の脳の発達を示しました。だんだん脳の形が整っ ていくのですが、9 ヶ月になるとほとんど大人の 脳と同じ構造となります。細胞の数から言えば大 人の脳よりはるかに多い、たくさんの細胞を用意 してその機能的発達を待っているというのがこ の時期です。この時期に機能的に特異的な構造が 形成されるものに、表 3 の II に記したものがあり ます。神経系の性差の形成を表 4 に示しました。

ヒトの脳は、女性が生の脳、男性は胎生 8 週から 22 週に男性ホルモンの爆射を受けて男性の脳と

なります。男性はメッキされて出てくるので、女 性のほうが圧倒的に強いのは当たり前かもしれ ないですね。ただし、ドパミン神経系の性差は遺 伝的に規制されています。しかしながらドパミン の神経の安定性は女性ホルモンの一つ、エストロ ゲンという性ホルモンが関係しています。これが、

パーキンソン病も女性のほうが罹っても軽く、発 症率も少ないということに関係してきます。次は 図 13 に示した側頭平面です。言語野に関係する ところです。これは胎生 9 ヶ月までに左半球のほ うがはるかに大きくなっています。この傾向は男 性のほうがより強くみられます。従ってこれを利 き手でみますと、右利きの人は左半球が大きい人 が圧倒的に多い。しかし、左利きでも比率は少な いながら左半球が大きい人が多いということが わかります。これは生まれる前から機能が決めら れた発達の仕組みと言えます。ですから胎生 9 ヶ 月で言語野が言語に反応しますから、声掛けをし た場合、近赤外線フィルムのスキャンを使用して 調べますと、胎生児でも左半球が強く反応するこ とがわかります。これに対して生後の脳の発達は 表 5 に示したように髄鞘形成により神経の伝達 をより効率よくするとともに、シナプス形成、介 在ニューロンの形成によって神経のネットワー クを形成するのに加え、神経伝達に無駄な神経系 をカットする刈り込みということが起こります。

そして感覚系の fine tuning、例えば目に入ってき た視覚刺激を、ただ見ればよいということではな く、細かく見ることができるような仕組みを作る プロセスが起こります。その後、認知機能発現の ための神経機構の形成、感覚運動連合野というと ころが、見たもの、聞いたもの、感じたものを行 動として表す神経機構、感覚運動統合機構の形成、

情緒・精神・高次機能の発現、教育を受けること

を可能にする大脳皮質各部位の発達とその間の

(10)

神経伝達機構の形成と進みます。これらに対して は環境入力が重要な役割を持ちます。すなわち遺 伝的に規制された過程もありますが、環境入力に よる activity dependent neuronal development、い ろいろな神経系を活性させることによって神経 系が発達する仕組みが働き、これにアミン系神経 系が重要な役割を持っています。

アミン系神経系には図 1 に示したように、セロ トニン神経系・ノルアドレナリン神経系・ドパミ ン神経系があります。セロトニン神経系は縫線核 というところに神経の核があり、脳の各部分に軸 索を投射して脳全体の活動に関係する。ノルアド レナリン神経系はやはり脳幹にある青斑核に細 胞体があり、それが軸索をほぼ脳全体に出してい ます。これに対してドパミン神経系は中脳にある 黒質と腹側被蓋野にあり、その軸索は辺縁系、大 脳基底核、大脳では前頭部優位と部位特異的に軸 索を投射しています。セロトニン神経系・ノルア ドレナリン神経系の両者は遺伝的要因により活 性に良し悪しがありますが、その活性は主に環境 要因の影響を受けます。遺伝的要因がよくない場 合でも強力な環境要因をしかるべき時期に与え ることによって十分な活性を出させ、正常化する ことができます。しかしながらドパミン神経系は 主に遺伝的要因の影響を受け、環境要因に左右さ れることが少ない神経系です。ただ、環境要因に 多少左右されるのは、これが報酬系の神経ですか ら、あるものに対して報酬を与えることによって 活性化させることができるのが特徴です。しかし、

ドパミン・ニューロンの活性も間接的に環境によ って強く影響を受けます。これは、レム期にアト ニアを限局させる抗重力筋を制御するセロトニ ン神経系を活性化することにより、レム期アトニ アを制御する脚橋被蓋核を活性化することが黒 質および腹側被蓋野のドパミン神経系が活性化

するからです(図 14) 。すなわち、ドパミン神経 系の発達は、抗重力筋の活性化、ロコモーション の活性化に起因します。ここで活性化されたドパ ミン神経系は、乳児期中期には情緒、行動、乳児 期後期には前頭葉シナプスの形成、幼児期には大 脳基底核を介して前頭葉の機能的発達に関与し ます。すなわち、発達過程における脳幹・中脳ア ミン系神経系の役割は、表 5 のようにまとめられ ます。図 14 に示した脚橋被蓋核は、レム期のア トニアを制御する核で、レム期だけにアトニアを 出現することによって活性化します。そのために は抗重力筋を制御するセロトニン神経系が活性 化し、ノンレム期にアトニアが出現することを阻 止する必要があります。ですから図 11 に示した はいはい、背筋を伸ばした歩き方は子どもの脳の 発達のために、特に前頭葉の発達のために非常に 重要なことだといえます。

表 6 に示したように、生後に見られる高次脳機 能の発達に脳幹・中脳アミン系神経系が重要な役 割を持ちます。脳幹セロトニン・ノルアドレナリ ン神経系及び中脳ドパミン神経系は、それぞれ特 定の月・年齢(臨界齢)で特定の脳機能の発現に 関与しますが、この過程、特にドパミン神経系の 活性化には、人間のみができるロコモーションが 重要な役割を持ちます。そこで、図 15 で歩行と 筋緊張(抗重力筋)制御の神経機構を説明します。

頭で、どういう随意運動、何のためにロコモーシ ョンをするかを決めると、大脳基底核がその随意 運動をするにあたっての姿勢・筋緊張の調節を行 い、辺縁系視床下部がどのような心構え、気持ち を持ってするかを決めます。この三つの要素を集 中して、まとめて出力するのは歩行運動系・筋活 動抑制系で MLR(midbrain locomotion region) (中 脳ロコモーション野)と PPN(pedunculopontine

nucleus)(脚橋被蓋核)で、最終的に脊髄、図 4

(11)

に示した脊髄ロコモーション駆動系に伝達し、目 的を持ったロコモーションを発現させます。脚橋 被蓋核は、レム期のアトニアばかりでなく、他に 重要な役割を持ちます。これを表

7

に示しまし た。サッケード、これは、意図的にあるものに目 を向けようとした時の衝動性眼球運動ですが、そ の開始・準備に関わる活動、巧緻運動、スムーズ な手足の動き、動機付けと課題の

performance

に 対する活動、特にドパミン・ニューロンが未発達 の段階での動機付け機構に脚橋被蓋核が関係す ることが示されています。これはドパミン・ニュ ーロンが活性化してくるのははいはいの後です から、その前の月齢での脳の機能、特にドパミン が行う動機付けに基づいた行動の発現に非常に 重要な役割を果たすことになります。それにはア トニアをレム期だけに限局する神経の発達が関 係します。はいはいが可能になる前にアトニアを レム期に集中させることが大切だということで す。さらに、脚橋被蓋核は発達した脳、成熟脳で は中脳ロコモーション野とともに随意運動の指 令と大脳基底核を介した姿勢、筋緊張の調整機構、

視床下部を介して発現する情意刺激を統合し、出 力する役割を持ちます。これは完成した脳でもお こります。しかし、そのためには小さい時から徹 底的にロコモーションを発達させ、この核を活性 化することが大切だということです。

視床下部は情動に関する神経系ですが、胎生期 には海馬、扁桃体の影響を受けて発達します(図

16)。完成後にはここを主体として前前頭皮質、

連合皮質に入力し、それから視床前核、帯状回、

すなわち学習意欲を出すところと関係する神経 系の発達につながりますが、これをきちんと育て るには、先に述べたように生まれてから、お日様 の光とともに育てることが大切です。4 歳・5 歳 でこのリズムと脳幹のリズムを一致させること

がこの系統を完成させるために非常に重要です。

睡眠・覚醒リズムの発達のエポックは、それぞれ 特定の高次脳機能の発達に関与するアミン系神 経系に制御される

次に睡眠・覚醒リズムの発達の各エポックが、

それぞれ特定の高次脳機能の発達に関与するア ミン系神経系に制御されていることをお話しし ます。

これは、それぞれのエポックの発達が選択的に 障害されるアミン系神経系に異常を持つ疾患が あることから予測できます。これらは後天的な原 因で発症したものではなく、生まれつきのもの、

素因的なもの、あるいは遺伝的原因で発症した病 気です。さらにそれぞれが特有のロコモーション の発達の遅れを持っています。

それらは、表

8

に示した疾患、自閉症、レット 症候群、トゥレット症候群です。自閉症は睡眠・

覚醒リズムの発達をみると、4 ヶ月までの睡眠・

覚醒リズムができない、レット症候群は

4

ヶ月ま での睡眠・覚醒リズムはできるけれども、その後、

昼寝が午後

1

回に減ってくる仕組みが動かない。

トゥレット症候群は昼寝が午後

1

回になって、昼 寝がなくなる形にまでなるけれども、完全に昼夜 の区別に一致せず、睡眠相後退現象とか、バラバ ラな、リズムのない睡眠になってしまう。一方、

ロコモーションはどうかというと、自閉症は、は いはいはできることはできるが、きれいなロコモ ーションとなるはいはいではない。二足歩行は不 完全で、上下肢協調運動を欠く。レット症候群は、

はいはいは全くできない。トゥレット症候群は、

はいはいはできるが、手の振れるきれいな直立二 足歩行はできない。高次機能については自閉症、

レット症候群は異常がある。トゥレット症候群は

睡眠相後退現象や、ロコモーションに異常がある

(12)

症例では、高次機能の異常がみられる。これらの 事実から、異常発現時期は厳密に言えば、自閉症 は生後 4 ヶ月前、レット症候群は乳児期の中期・

後半、トゥレット症候群は幼児期と言えます。自 閉症が生後 4 ヶ月にその徴候が出るということ に疑問を感じられると思いますが、それは自閉症 の診断基準が DSMⅢとか DSM Ⅳでは 36 カ月に なっているからかと言えます。この診断基準には エール大学とかオックスフォード大学とかで、自 閉症をサイエンティフィックに研究している人 たちがかかわっています。しかし、神経疾患の診 断基準からすると極めておかしいものであり、ど うしてこのような診断基準を出したのかとこれ らの研究者に質問しました。そうしましたら、誰 でも彼でも自閉症、自閉症と言うので、誰でも間 違いなく自閉症と診断ができるのがこの基準だ、

他の病気に例えれば、おなかを触って腫瘍が触れ て胃がんと診断するのと同じことなのですね。自 閉症をはじめて見出したカナ―は、自閉症は 1 歳 までにわかるといっています。実際はきちんと見 れば 1 歳台までで診断がつきます。すなわち、サ ーカディアン・リズムをきちんとつけていれば 4 カ月までにわかりますし、ハイハイがちゃんとで きるかどうかまで見ることができれば 1 歳まで に診断ができます。レット症候群は乳児期後半、

はいはいができないことで確実にわかります。ト ゥレット症候群は後にまた述べますが、幼児期に きちんとした歩行をしていればよいのですが、そ うでない場合は十分な注意が必要です。

自閉症

次に 実際の例をお見せします 。図 17 は、自閉 症児の睡眠・覚醒リズムを示したものです。2 歳 6 ヶ月のところですが、非常にバラバラな動きに なっています。サーカディアン・リズムができて

いない状態です。これは親の育て方が悪いのでは ありません。この時期ですと、妙におとなしいか ら母親は育てやすいと感じておりますが、 100 点 満点に近い育て方をしています。しかし、自閉症 児はその育て方を受けとめる神経が十分機能し ていないため、100 点満点の育て方をしてもそれ を 40 点としか受けとめていないという状態と言 えます。これではいけないから、徹底的に昼間は 起こしておきましょうと指示しました。そうして からは、リズムは治ってきました。そして 3 歳 2 カ月の時に、5・ヒドロキシトリプトファンとい うセロトニンの前駆物質を使うとさらによくな りました。そしてレム期に入る前のローテーショ ン、寝返りをした時間をチェックしますと、睡眠 時の縦棒にみるようにそれは規則正しく現れま した。これはレム、ノンレムリズムが正常である ことを示します。したがって、自閉症は 4 カ月ま でにサーカディアン・リズムを形成することに関 与するセロトニン神経系に異常があることが示 唆されました。図 18 に示したように、 実際に 4 歳までに自閉症の睡眠・覚醒リズムをきちんと治 しますと、環境順応と社会性欠如が改善し、また、

有意味語が出てくる、すなわち左右脳の機能分化 がでてきました。ただ、多動・同一性保持・パニ ックなどは、解決はするが完全ではない、プラス アルファーの治療を必要とします。 表 9 に示した ように、 ラットを使った動物実験では、セロト ニン・ニューロンを障害すると、早期社会隔離と 類似の行動異常、これは自閉症の社会性欠如に相 当、さらに新しい環境への順応障害、同一性の保 持、大脳半球左右機能分化の障害は自閉症の大脳 半球左右機能分化の障害、利き手が決まらないと いうことに対応します。反響言語とか人称の逆転、

子音の発音ができない、リズムはできるが、メロ

ディはできないことも右半球優位の状態、すなわ

(13)

ち左半球が十分に機能していない状態で説明で きます。一方、単純記憶の亢進というのは、おぼ えるけど、忘れないため、それに変にこだわって しまうことにつながりますが、これはノルアドレ ナリンの障害で胎生期に起こった記憶消却障害 に起因すると言えます。また、セロトニンとノル アドレナリン神経系を障害させたラットのドパ ミン・ニューロンを過剰活動させると、特有の異 常行動を示します。すなわち、このラットをマウ スといっしょに飼育すると、通常、ラットはマウ スを食しますが、良好環境に置くとラットは食べ 物であるマウスの毛繕いをします。しかし、社会 隔離下では食べもしないのに次々にマウスを殺 してしまうことが起こります。これは自閉症の極 端な甘えと思い通りにならない時の粗暴行動、自 傷行為に結びつきます。自閉症の徴候はラットの 実験がピタリとあうのですね。このことが非常に 重要なのです。すなわち、4 カ月以前、抗重力筋 が十分に機能していない段階でのセロトニン神 経系の役割は、傍脊柱筋が抗重力筋でないラット と類似しており、その障害も類似した徴候をもた らすと言えるからです。表

9

には、自閉症と関係 のない、脳の拡大の停滞がノルアドレナリン障害 で出現することを示しております。これは、後に 述べるレット症候群でみられる徴候です。

19

に示すように、自閉症は歩く時に手を振 らない、足踏みをすると足を蹴り上げてしまう。

はいはいさせると、図

11

に示されたはいはいと 異なり、手の指をつっぱる、足の親指を床に立て ています。また、右下の写真は颯爽と歩いていま すが、つま先歩きをしている。これはなぜかとい うと、つま先歩きをすることにより後肢(足)から の入力系が強力になるからです。すなわち、図

20

に示すように自閉症でうまく歩けないのは脊 髄の歩行駆動系が悪いのではなくて、姿勢維持系

の脳幹アミン系神経系の障害により、歩行駆動系 に入力する網様体脊髄路の活性が低下している ことに起因、これがつま先歩行をすることで、下 肢からの入力が加わり、歩行駆動系が活動したと 考えられます。これは、自閉症で抗重力筋を制御 するセロトニン神経系に異常のあることを示し ます。次に、自閉症のお子さんたちに徹底的に歩 行練習をして正常な足踏みをできるようにする ことによって、何がよくなるかを図

21

に示しま した。自閉症のお子さんは目をつぶってといって も目を閉じることができない、また、検査者が目 を閉じて見せても、それをまねることができない。

また、上肢の回内回外運動―キラキラ星―ができ ず、それをやらせるとバイバイをする時の形にな ってしまいます。これらは、それぞれ口部顔面失 行、肢節運動失行と呼ばれ、大脳部位別機能分化 の障害を示す所見です。これが、足踏みがきちん とできるように訓練すると、できるようになる。

すなわち、大脳の部位別機能の分化が出来てきた ことを示します。5 歳児の前までにこれができて くると、IQ レベルを上げることができます。こ れはどのような仕組みで動いているのでしょう か。図

22

に示すように、SSG、脊髄歩行駆動機 構が活性化すると、脊髄小脳路を介して室頂核を 活性化し、これが視床を介して大脳皮質を活性化 する。この経路を使って大脳の部位別機能分化が 進むと考えられます。実際に自閉症では小脳深部 核である室頂核と歯状核が障害されていますが、

その室頂核は巧緻運動障害を出すのではなく、歩 行系の神経核です。自閉症の脳病理をみますと、

室頂核は幼児期には空胞化しており、そのまま放

置すると、成人年齢では萎縮します。これはおそ

らく脊髄歩行駆動機構からの入力がないことに

よって起こり、これが活性化することによって正

常化したのではないかと思います。ニホンザルに

(14)

直立二足歩行をさせると、この核を介して猿がお 利口さんになるというようなことが知られてお ります。

これらの事実から自閉症の病態を考えますと、

23

に示したようになります。すなわち

4

ヶ月 までの昼夜の区別を確立させるセロトニン神経 系が障害される。それにより睡眠・覚醒リズムの 発達障害、サーカディアン・リズムの発達障害が 起こり、さらに、対人関係の障害、環境順応の障 害が起こり、大脳半球機能分化の発達障害によっ て、利き手決定の遅れ・反響言語・人称の逆転・

抑揚の障害が出現します。メロディが出ない、子 音が発音できないこともこれによります。自閉症 の脳は胎生期の

30

週で発達が止まった状態にあ ります。それ以後で出てくるものに記憶を消却す る、制御する経路があります。これが十分に機能 しないと、同一性の保持、単純記憶の亢進となり ます。これに胎生期

36

週以後のノルアドレナリ ン神経系の異常が関与すると考えられます。自閉 症の運動機能としては把握反射の残存とか、倒れ かかったとき、支える手が出ない、落下傘反射開 発遅延、それに抗重力筋の筋緊張障害、上下肢協 調運動障害が出てきます。このことがはいはいで きない、上下肢協調運動を欠く歩行障害につなが ります。これらに関与するセロトニン神経系の障 害により、脚橋被蓋核がレム期にアトニアを限局 することができなくなり、これがドパミン神経系 の障害につながります。ドパミン神経系の活性が 落ちますと、ドパミンは脳、特に前頭葉の発達に 重要な役割をしていますから、その受け皿が受容 体過感受性亢進を起こします。ドパミン受容体の 過感受性だけでも、多動・常同行動が出てきます がセロトニン、ノルアドレナリンが低いところに ドパミンが過剰になると甘えの反面の粗暴行 動・自傷行為につながります。さらに、ドパミン

の異常は前頭葉障害が起こります。そして、ロコ モーションの障害により口部顔面失行、肢節運動 失行、すなわち大脳部位別機能分化障害が出てき ます。これが自閉症の病態です。ですから

4

ヶ月 までのセロトニンの障害はこれだけの仕組みを 動かし、高次機能の発達を障害するといえます。

レット症候群

Xq28

に存在する

MeCP2

遺伝子異 常

次にレット症候群についてお話しします。この 症候群は、X 染色体の長腕

28

の部に存在するメ チル化

CpG

結合蛋白

2、MeCP2

遺伝子の異常に 起因します。レット症候群は主に女のお子さんに 出まして、両手を体の前でたたき合わせる、また、

こすり合わせて動かす常同運動を特徴とします

(図

24)

。その睡眠・覚醒リズムのデータを取り ますと、レット症候群は、サーカディアン・リズ ムは乳児期早期にできていますが、ノーマルのお 子さんの

2

歳レベルでの昼寝の状態が続きます。

25

16

3

ヶ月のお子さんですが、昼寝が減 らない。すなわち、

4

ヶ月から

1

歳半の

S-W

リズ ムの第

2

エポックの発達ができていないという ことがレット症候群の特徴です。これとほぼ同様 な異常が出るのがダウン症です (図

26)

。 これは、

レット症候群とほぼ同じセロトニン神経系の障 害があるということを示唆します。図

27

に示す ように、レット症候群は、実際には最初に乳児期 前半・中半から小児自閉傾向がでてきます。しか し、この月齢で昼寝が減らないことに加え、抗重 力筋筋緊張低下、はいはいがまったくできないこ とが特徴です。乳児期後半、四肢の筋緊張が多少 上がってきますが、ロコモーションはできません。

しかし、乳児期後半、筋緊張が上がるとともに、

目的を持った手の動き、自分で物を取ることが出

来なくなります。それと一緒に知的な面にさらに

(15)

遅れが出てきます。もう一つの特徴は頭囲です。

生まれた時は正常ですが、6 ヶ月くらいから頭囲 が伸びなくなる。頭が大きくならない。後でわか ったことですが、これは細胞が減ってくるのでは なくて、細胞数はきちんとあるのですが、その間 を結ぶネットワークを形成するシナプスとか介 在ニューロンが発達せず、ネットワークが出来て いないことによることがわかりました。乳児期後 半のレット症候群の特徴はロコモーションの高 度の障害です。図

28

に示したように、四つばい 位はとりますが、正しい姿勢ではなく、前進しま せん。レット症候群は、立位はとれますが、前進 する時は足を左右に開き、体を左右に振らないと 進めません。体を左右に振ってあげると、下肢の 横への開きがだんだん狭くなって、下肢が前に出 るようになります。レット症候群のお子さんも何 らかの拍子につま先歩きをすると歩き方が良く なります。ですから、レット症候群の歩行障害、

ロコモーション障害も自閉症と同じように抗重 力筋がうまく働かないための障害であることが わかります。自閉症は睡眠・覚醒リズムを完全に すれば治るのですが、レット症候群では遺伝子異 常により脳を発達させるためのセロトニン、ノル アドレナリン・ニューロンの軸索が早期に切れて しまったために、睡眠・覚醒リズムを徹底的に鍛 えても治りません。しかしながらロコモーション は先ほどのようにすると治るのです。レット症候 群では、黒質のドパミン神経核ではドパミンを作 るために重要なチロシン水酸化酵素が全く欠損 しています。したがって、30 歳を過ぎると、パ ーキンソン病の症状が出てきます。しかし、幼児 期よりロコモーションを徹底的に鍛えることに よって、この黒質の異常が正常化した例がありま す。ですから、ロコモーションをきちんと訓練す ることによってドパミンの欠乏は治ります。レッ

ト症候群の場合、はいはいがちゃんと出来るか否 かで脳の発達が、知能、言語の出方が違うようで す。レット症候群の病態を図

29

に示しました。

レット症候群は胎生

9

ヶ月、36 週までは完全に 発達しています。それから後はうまくいかない。

4

ヶ月までにサーカディアン・リズムができるけ れど、その後はうまくいかない。その後に発達す る脳の全体の統合的仕組みを形成するのに必要 な、シナプス形成に関与する脳幹セロトニンとノ ルアドレナリン神経系が働かないことが予想さ れます。ノルアドレナリン神経系の障害は、大脳 全体のシナプス形成を障害、6 カ月頃より頭囲の 拡大が停滞します。さらに、この時期に発達する レム期要素の、レム期への完全限局を障害します。

そのため、姿勢維持とロコモーションの障害とか、

自律神経系の障害が出現します。シナプス形成や 脳 の 発 達 に 必 要 な ア ミ ン 系 神 経 系 の 軸 索 を

MeCP2

遺伝子の異常が切り取ってしまうからで

す。しかし脚橋被蓋核とその上行路を見ると、こ れには

MeCP2

は関与していません。したがって、

ここでロコモーションを徹底的に鍛えることに よって、前頭葉が小さくなることを防ぐことがで きます。さらに、補足運動野障害とありますが、

補足運動野は目的を持った手の動きに関係する ところです。補足運動野の片方が障害されると、

例えば左側の脳で起こった時には、左手がやろう とする運動を妨害するような動きが右手に出て しまう。これが常同運動となります。これは、手 もみとか手洗いに表現されますが、右手と左手の 位置関係は一生変わらないことからもこの異常 運動は手もみ、手洗いとは異なる特殊な動きであ ることが理解できます。ですから早期にロコモー ションを訓練し、これらを防ぐことが大切です。

先ほど、ラットのノルアドレナリン神経系に障害

を与えると大脳シナプス形成に障害が起こると

(16)

いいましたが、レット症候群の仕組みはまさにそ れです。動物でもセロトニン神経系の障害は、昼 夜の区別を徹底する訓練で改善しますが、ノルア ドレナリン障害の動物は同様の訓練をしてもよ くはなりません。何が有効かといいますと、豊満 環境です。親に加えて、仲間がいるばかりではな く、積み木とかトンネルやクルクル回ったりする 輪があったりする豊満環境におくことによって よくなります。ですからレット症候群も、何より も早期に見つけ、豊満環境に置き、徹底的に訓練 すればよくなります。ダウン症も乳児期早期から 徹底的に訓練をすれば専門学校へ行ける程度に なります。

トゥレット症候群

次にトゥレット症候群のお話をします。この病 名は聞いたことがあると思いますが、これは慢 性・多発性チック症候群のことです。チックには 目をパチパチしたりする運動チックと、アッと声 を出したりする音声チックがありますが、2 種類 以上の運動チック、それに加えて音声チックが一 年以上続くのがトゥレット症候群の特徴です。ト ゥレット症候群は経過とともに強迫性障害がで て慢性化します。図

30

に発症が

9

歳のトゥレッ ト症候群の男の子の睡眠・覚醒リズムを示しまし た。睡眠と覚醒の二つの波は出来るけれど、昼夜 の区別がない。いつでも寝ているというような状 態です。この場合の軌道修正は、昼は完全に起き ているように徹底的に訓練をすることです。実際 のトゥレット症候群の兆候は幼稚園に入るころ から、卒園くらいまで、だいたい

5~6

歳におき ますけど、その時期に昼夜の区別にのった生活を すること、正しい歩行をすることが大切です。徹 底的に鍛え上げることが重要です。トゥレット症 候群の方は、もともとは優秀な素質を持っていま

す。よく気がつく、周囲の人の気持ちがよく判る などの素因を持っていますから、それを十分生か すよう活発に生活することが大切です。それを十 分生かして大活躍している著名な方々もいます。

トゥレット症候群の研究者によると、モーツアル トも宮沢賢治もトゥレット症候群の要素がある といっていますね。それには幼稚園から小学校低 学年の間に徹底的に鍛えることが必要です。今ア メリカでもだんだんそのムードになってきまし て、その時期にしっかり教育しようということに なっています。図

31

にトゥレット症候群のチッ クと他の症状の経過を示しました。まず、最初に

6

歳ぐらい、眼、顔面、首などを動かす単純運動 チックで発症します。これらは無意識のうちに勝 手に動いてしまうチックです。そのうちにだんだ んと複雑チックになります。10 歳を過ぎたころ から。アッとか声をだす単純音声チック。それと 同時に、たたく、触れる、肘撃ちなど衝動が先行 したチック、複雑運動チックが出現、言葉を発す る複雑音声チックが出てきます。さらにわざわざ 危険な行動をする。バイクに乗ってスピードをだ して両手を離して運転したりするのが

15

歳頃か らです。

チックの原因はドパミン神経系の異常にあり

ます。10 歳以下の小児期でドパミンの神経の主

役を成すところは黒質線条体ドパミン神経系の

終末部です。これは、2,3 歳で一番高い活性を示

しますが、その活性は

10

歳までに急速に下がっ

てきて、その後、ゆっくり下降、15 歳から

20

までに低値に達し、その役割を終える、という経

過をたどります。トゥレット症候群の場合はこの

カーブが

3

年ほど先行してしまうのですね。そう

しますと、6 歳の値が

9

歳から

10

歳くらいの値

に低下してしまいます。ノーマルな

6

歳を

100

しますと、9 とか

10

歳は

40

とか

50

に相当しま

(17)

すから、この減ったことに対する代償性のドパミ ン受容体の過感受性の発現が単純チックになる と考えられます。しかし、これは終末部ドパミン の経年齢性減衰が先行しただけですから 14 歳・

15 歳から 20 歳になると正常の値と同じになるの で、単純チックは思春期以後、自然寛解します。

ところが、複雑チックの原因となるドパミンの活 性低下は、サーカディアン・リズムがきちんと出 来ていない、膝を上げて歩くことが出来ない、き ちんとした歩行が出来ていないことに関与する セロトニン神経系の活性の低下に起因します。こ れにより、先にもお話ししましたが、アトニアが レム期に限局できなくなります。これは脚橋被蓋 核の活性低下を起こし、黒質および腹側被蓋野

(辺縁系)のドパミンの活性を落として、セロト ニン活性低下を伴って大脳基底核を介していろ いろな症状を起こすのです。大脳基底核内の神経 回路は図 32、図 33 に示しました。ドパミン・ニ ューロンは大脳基底核の線条体に働いて、大脳基 底核、視床、皮質回路を回転させる重要な役割を します(図 32、図 33)が、ドパミン活性に異常 が生じると、これらの回路がうまく動かなくなっ てしまいます。そうしますとこの回路の視床が投 射する大脳の部分がおかしくなります(図 34)。

特にドパミンが過剰活動すると、視床からの投射 を受ける大脳の神経系が同じく過剰活動して(図 34) 、機能障害を起こします。これが強迫神経症 とか、 学習問題の発症に関係するのです (図 34) 。 トゥレット症候群では前頭葉の中でも、中部眼窩 前頭皮質と前帯状野が障害されています(表 10) 。 その眼窩前頭前野は感情移入、共感性、適切な社 会的応答の制御をしますが、これがうまくいかな いときに、情緒不安定、感情移入、共感性の障害 とか強迫性障害などが出てきます。前帯状回は動 機付け行動に関与しますが、これが出来ないため

に手続き学習の障害などが出てきます。これらの 異常が起きないようにするには、薬物を使用し、

ドパミン神経系、セロトニン神経系の異常を治す ことですが、もっとも重要なことは、その病因と なるセロトニン神経系の異常を治すことです。で すから、直立歩行をきちんとすること、昼夜の区 別をきちんとすることによって、セロトニンを活 性化して、アトニアをレム期だけに限局して脚橋 被蓋核の働きをさらに活性化し、ドパミン神経系 を活性化、安定することが大切と言えます。トゥ レット症候群の場合は本来持つ優れた能力に自 信を持たせて活発に活動し、複雑チックの発症を 阻止し、活性化させて自然経過的に単純チックを 消してしまうことが重要な治療となります。

高次脳機能の年齢依存性発達 アミン系神経系 の役割

次にこれらの疾患の病態研究、治療結果をまと め、胎児から大人になるまで脳がどのような発達 過程をとるか、それにアミン系神経系がいかに関 与するかついてお話しします。

図 35 は、胎児における記憶の馴化現象の発現 の過程を図示したものです。これに、先ほどお話 ししたマウジィング(mouthing)が関係します。

マウジィングは、大体胎生 32 週ぐらいからノン

レム期に出現しますが、胎生 36 週ぐらいで常時

ノンレム期に出現するようになります。お母さん

のお腹に無害な振動刺激を与え、この振動刺激に

対して胎児がどう動いたかをみてみますと、32

週から 34 週では胎児が繰り返し行った振動刺激

に対して毎回かなり反応を起こしましたが、マウ

ジィングがノンレム期に常時出現してから、馴れ

の現象が出てきました。これは胎児が無害な刺激

だと判断して、反応しなくなったこと、記憶の制

御の仕組みが出てきたことを示します。胎生 32

図 10 12視床下部リズムの発達1ヶ月内因性リズム(フリー・ランニング・リズム)の発現4ヶ月メラトニンの夜間分泌(松果体)4ヶ月~昼間哺乳が覚醒刺激となる6ヶ月明け方の睡眠時のACTHの分泌8ヶ月体温の概日リズム出現4~5歳脳幹リズム系との同調入眠時深睡眠での成長ホルモン分泌体温概日周期と睡眠・覚醒リズム(REM睡眠夜間変動)との同調表2 13人間の一生の姿勢と起立・歩行の変遷図11 14胎生期の脳の発達I

参照

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