• 検索結果がありません。

東京におけるタクシー運転手の地理空間情報利用と空間認知

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "東京におけるタクシー運転手の地理空間情報利用と空間認知"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

東京におけるタクシー運転手の地理空間情報利用と空間認知

若林 芳樹・永見 洋太・伊藤 修一

The use of geospatial information and spatial cognition of taxi drivers in Tokyo

Yoshiki WAKABAYASHI, Yota NAGAMI and Shuichi ITO

Abstract The aim of this study is to clarify the process of taxi drivers’ acquisition and the use of geospatial information and to examine the effects of in-vehicle navigation systems (IVNS) on taxi drivers’ spatial cognition in Tokyo. To that end, we interviewed with taxi companies and conducted a questionnaire survey for taxi drivers and university students. Licensed taxi drivers in Tokyo must pass a stringent set of examination on geography of Tokyo and undergo training for newcomers.

Then they take additional training at each taxi company to be engaged in the taxi service. Currently, more than 60 percent of the taxis in Tokyo are equipped with IVNS. Comparison of cognitive maps of taxi drivers with those of the university students based on the analysis of the questionnaire data showed that taxi drivers’ cognition of the relative locations is more correct than that of students; but no significant difference is found in the cognition of absolute locations between taxi drivers and students. This indicates that abundant route knowledge that taxi drivers acquire through experience influences the accuracy of the relative locations on cognitive maps rather than absolute ones.

Key words 空間認知(spatial cognition)、地理空間情報(geospatial information)、タクシー運転 手(taxi drivers)、カーナビ(IVNS)、東京(Tokyo)

1. 問題の所在と研究の目的

空間認知研究では,ナビゲーションのエキスパー トともいえるタクシー運転手を対象にして,その空 間認知や経路選択の特性に着目した研究が蓄積され てきた(若林 1999, pp.216-217).これは,生態的ア プローチの台頭に伴い,障害者,子ども,外国人な ど特定の集団に対象を絞って空間認知の多様性や状 況依存性を捉える近年の動向とも軌を一にしている.

そうした従前の研究では,タクシー運転手の認知 地図が 2 つのレベルの階層構造をもっていること (Pailhouse, 1970; Chase, 1983),タクシー運転手でも運 転歴が長いほど認知距離や経路の知識が正確である こと(Giraudo and Peruch, 1988),タクシー会社の運転

手と事務員とでは直線距離認知では差が小さいが,

運転手は経路距離を短く見積もる傾向があること (Peruch et al., 1989)などが明らかになっている.最近 では,ロンドンのタクシー運転手を対象にして,内 省報告や視線の動きを通して経路探索過程を詳しく 分析した VR のナビゲーション実験(Spiers and Maguire, 2008)なども行われている.

しかし,タクシー運転手といえども,ロンドンの ように厳しい試験を課している都市もあれば,非熟 練労働者が多く従事する都市もあり,時代や地域の 状況によって運転手の空間認知やそれに作用する要 因にも差があると予想される.そこで本研究は,東 京のタクシー運転手を対象にして,営業地域に関す る地理空間情報の獲得過程と空間認知を調査し,カ ーナビなどの新技術の導入状況や輸送業務の実態を ふまえて,その特徴を明らかにする.

―――――――――――――――――――――

若林:〒192-0397 八王子市南大沢1-1 首都大学東京都市環境学部地理学教室 E-mail: [email protected]

(2)

2. 研究の方法

東京のタクシー事情と運転手に対する研修の実態 を知るために,東京指定地域(東京特別区・武蔵野 市・三鷹市)の法人タクシーを管轄する(財)東京タ クシーセンター,および法人タクシー事業者7社へ の聞き取り調査を行った.その上で,タクシー運転 手の地理空間情報と空間的行動の特徴を明らかにす ることを目的として,運転手と大学生47人ずつに対 して,東京中心部の主要地点の位置関係を尋ねるア ンケート調査を実施した.また,運転手に対しては,

運転歴や輸送行動,カーナビ利用などについても質 問を行った.空間認知に関する調査結果は,ユーク リッド回帰などを用いて定量的な分析を行い,運転 手と大学生との違いを検討した.

3.タクシー運転手の地理空間情報の獲得

2001 年の道路運送法改正に伴う規制緩和の影響 を受けて,全国的にタクシー車両は増加傾向にあり,

企業間競争も激しくなっている(戸崎, 2008).しか し東京指定地域内では,安全性とサービス水準の確 保のために,1970年以来,新任のタクシー運転手に 対して,東京タクシーセンターが実施する「地理試 験」に合格した上で新規講習を受講することが義務 づけられてきた.「地理試験」は,主要幹線道路やそ の交差点,建物・施設の位置を問う「基本問題」と,

最短経路や道路の接続状況などに関する「応用問題」

からなり,80%以上の正解で合格となる.

この試験は,2001年から難度が高まったこともあ って,近年の合格率は50%を下回っている(図2) 合格後は,各事業者が行う研修を経て輸送業務に従 事することになるが,東京指定地域で営業するタク シーは,「都内交通案内地図」というタクシーの運行

に特化した地図帳を携帯することになっている.ま た,カーナビを搭載したタクシーも増え,2005年に

23%であった搭載率は,2007年には68%へと急増し

ている.タクシー運転手は,こうした地図帳や新技 術を活用しながら輸送業務に従事し,毎日の営業日 報の記録を地図上で確認しながら,東京の地理空間 情報を蓄積していく.

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007

1 「地理試験」合格率の推移

(財)東京タクシーセンターの資料による

4.タクシー運転手のカーナビ利用と空間認知 4.1 タクシー運転手のカーナビ利用

アンケート調査に回答した47人の運転手のうち,

6割がカーナビを積極的に利用している.その利 用目的と影響を集計した表1によると,カーナビは 運転者自身の経路確認だけでなく,乗客へのサービ ス向上にも役だっていることがわかる.カーナビの 導入による影響としては,「紙の道路地図帳を使わな くなった」と回答した者が半数近くにのぼった.ま た,「運転経路を選ぶのが楽になった」「客の安心感 が高まって苦情が減った」などの回答も多く,乗客 と運転手の双方にカーナビ導入の効果がみられたこ

1 タクシー運転手のカーナビ利用の目的およびその影響(複数回答)

選択肢 回答数

カーナビの利用目的 (運転手自身のとっての)目的地や経路の確認のため 28 60

(乗客にとっての)目的地の確認のため 26 55

乗客に現在地を示すため 8 17

カーナビはめったに利用しない 13 28

その他 8 17

カーナビ導入の影響 紙の道路地図帳を利用しなくなった 23 49

運転経路を選ぶのが楽になった 22 47

乗客の安心感が高まって苦情が少なくなった 16 34 運転手の能力に不安を感じる乗客が増えた 4 9

その他 12 26

(3)

とがわかる.ただ,一部の回答者は,「運転手の能力 に不安を感じる客が増えた」という負の効果を指摘 していた.タクシー会社での聞き取りによると,カ ーナビ搭載率は会社によって差があるものの,不慣 れな新人運転手を優先してカーナビ搭載車を利用さ せている場合もある.

4.2 タクシー運転手の空間認知

タクシー運転手の空間認知の特徴を,大学生(首 都大学東京の主に1~2年生)との比較を通して明か にするために,都区部の主要7駅の位置認知に関す るアンケート調査を行った.ここで用いた方法は,

東京駅と新宿駅の位置を予め与えた用紙上に他の 7 駅の位置と道路や鉄道などを示してもらうという地 図描画法の一種(若林, 1999)である.

この調査で7地点の位置をすべて回答したタクシ ー運転手31人と学生29人について,基準点となる 東京駅と新宿駅の位置が現実の地図に一致するよう,

認知地図上での位置を座標変換して重ね合わせたの が図2である.これは絶対的位置認知を表している が,いずれも山手線沿いの駅がほぼ円周上に並ぶよ うな系統的歪みがみられ,個人差を表す標準偏差楕 円は,駅が位置する鉄道路線に沿って延びている.

現実の位置とのズレを二次元相関係数で計測すると,

タクシー運転手と学生の間で絶対的位置認知の正確 さに有意な差はみられない(表2)

つぎに,相対的位置を比較するために,各回答者 の認知地図上での位置と現実の位置とのズレが最も 小さくなるよう,ユークリッド回帰分析(若林, 1999)

を行って変換した結果を示したのが図3である.相 対的位置認知の個人差を表す楕円の大きさは,多く そー運転手の方が小さく,また正確さを二次元相関 係数で測ると,表2のようにタクシー運転手の方が 優っていることが明らかになった.

一方,タクシーの乗務経験による影響を検討する ために,運転歴10年以上と10年未満の運転手に分 けて,二次元相関係数の差の検定を行ったが,有意 差はみられなかった(表3)

以上の結果から,タクシー運転手と学生の認知地 図は,類似した歪みの傾向を示し,絶対的位置の認 知では両者の間に有意な差がみられなかった.しか し相対的位置については,タクシー運転手の方が学

生に比べて正確に認知しているといえる.これは,

タクシー運転手が乗務経験によって獲得する経路の 知識が,主に認知地図の相対的正確さに反映される ことを示している.

(a)タクシー運転手

(b) 学生

2 認知地図上の絶対的位置と現実の位置

N 二次元相関 係数の平均

t値 (有意確率)

絶対的位置(ユークリッド回帰前)

タクシー運転手 31 0.685 0.732

学生 29 0.588 (0.468)

相対的位置(ユークリッド回帰後)

タクシー運転手 31 0.894 2.769

学生 29 0.754 (0.008)

表2 認知地図と現実の位置の二次元相関係数

(4)

(a)タクシー運転手

(b)学生

3 認知地図上の相対的位置と現実の位置

N 二次元相関 係数の平均

t値 (有意確率)

絶対的位置(ユークリッド回帰前)

運転歴10年以上 8 0.834 0.806 運転歴10年未満 22 0.794 (0.384) 相対的位置(ユークリッド回帰後)

運転歴10年以上 8 0.905 0.307 運転歴10年未満 23 0.889 (0.445) 表3 認知地図と現実の位置の二次元相関係数

5.まとめと考察

本研究で明らかになったように,東京のタクシー

運転手は,「地理試験」の準備や合格後の研修,およ び輸送業務に従事する過程で,営業区域内の主要な 道路や施設に関する地理空間情報を獲得していく.

また,最近では半数以上のタクシー運転手がカーナ ビを利用しており,運転手の経路探索と乗客へのサ ービスの両面で効果があったことも判明した.

そうした東京のタクシー運転手の空間認知の特徴 を学生との比較で分析したところ,道路や施設の相 対的な位置認知では学生を上回る正確な知識を持っ ているとはいえ,絶対的位置については学生との間 で顕著な差がみられなかった.これは,タクシー運 転手が乗務経験によって獲得する経路の知識が,主 に認知地図の相対的正確さに反映されることを示し ており,Peruch et al. (1989)が得た結果と類似してい る.しかし,Giraudo and Peruch (1988)の研究とは違 って,運転歴による認知地図の差は明確にみられな かった.これは,サンプル数を増やして再検討する 余地はあるが,カーナビの利用が運転歴の短い運転 手の空間認知を補強しているためではないかと推定 される.

文 献

戸崎 肇 (2008)『タクシーに未来はあるか』学文社.

若林芳樹 (1999) 『認知地図の空間分析』地人書房.

Chase, W. G. (1983) Spatial representations of taxi drivers.

In Acquisition of symbolic skills. Eds. D. Rogers and J. A. Sloboda, pp. 391–405. New York: Plenum.

Giraudo, M. G. and Peruch, P. (1988) Spatio-temporal aspects of the mental representation of urban space.

Journal of Environmental Psychology Vol. 8, pp.

9-17.

Pailhous, J. (1970) La representation de l’espace urbain:

l’example du chauffeur de taxi. Paris: Presses Universitaires de France.

Peruch, P., Giraudo, M. and Garling T. (1989) Distance cognition by taxi drivers and the general public.

Journal of Environmental psychology Vol. 9, pp.

233-239.

Spiers, H. J. and Maguire, E. A. (2008) The dynamic nature of cognition during wayfinding. Journal of Environmental psychology Vol. 28, pp. 232-249.

参照

関連したドキュメント

Answering a question of de la Harpe and Bridson in the Kourovka Notebook, we build the explicit embeddings of the additive group of rational numbers Q in a finitely generated group

Splitting homotopies : Another View of the Lyubeznik Resolution There are systematic ways to find smaller resolutions of a given resolution which are actually subresolutions.. This is

In our previous paper [Ban1], we explicitly calculated the p-adic polylogarithm sheaf on the projective line minus three points, and calculated its specializa- tions to the d-th

In order to be able to apply the Cartan–K¨ ahler theorem to prove existence of solutions in the real-analytic category, one needs a stronger result than Proposition 2.3; one needs

Our method of proof can also be used to recover the rational homotopy of L K(2) S 0 as well as the chromatic splitting conjecture at primes p > 3 [16]; we only need to use the

Classical definitions of locally complete intersection (l.c.i.) homomor- phisms of commutative rings are limited to maps that are essentially of finite type, or flat.. The

Yin, “Global existence and blow-up phenomena for an integrable two-component Camassa-Holm shallow water system,” Journal of Differential Equations, vol.. Yin, “Global weak

We study the classical invariant theory of the B´ ezoutiant R(A, B) of a pair of binary forms A, B.. We also describe a ‘generic reduc- tion formula’ which recovers B from R(A, B)