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大学生の自殺念慮と問題解決能力との関連

人間教育専攻

臨床心理士養成コース 今 井 梓

1.研究の背景と目的

自殺死亡率を国別に概観すると, 15歳から29歳 の中で自殺率が先進7か国のうちで、もっとも高いの は,わが国であることが報告されている(独立行政 法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究 所自殺予防総合対策センター, 2014)。自殺による 死別を経験した遺族は,死別から 10年以内に複雑 性悲嘆に擢患するリスクが高いことが明らかにされ ている(川野, 2014)。つまり,自殺は,わが国に おいて稀に生じる問題ではないと同時に,個人レベ ルにとどまらず,周囲に強い心理的影響を及ぼす危 険性があると考えられている(高橋・福間, 2007)。 以上のことからわが国の青少年における自殺の問題 は喫緊の課題であるといえる。

効果的な自殺予防対策を立案するためには,自殺 の予測因子の特定が重要であると考えられており

(独立行政法入国立精神・神経医療研究センター精 神保健研究所自殺予防総合対策センター, 2014),  その中でも「自殺に関する思考(Lewinsohn,Rohde,  Seeley, & Oregon ReseahInstitute, 1996) Jと 定義される自殺念慮が,青年における自殺の予測因 子 と し て 機 能 す る こ と が 明 ら か に さ れ て い る (Armstrong & Manion, 2015)。自殺念慮を低減 するための有効な介入法のーっとして認知行動療法 (Cognitive Behavior Therapy :以下, CBT)が推 奨されている(官leTADSτA M,2008)。しかし ながら,青年の自殺念慮を減弱させるための CBT は他の心理社会的介入法よりも有効であることが明

指 導 教 員 古 川 洋 和

らかにされている一方で,その効果量は決して大き い値ではないことが明らかにされている(古川・宮 崎・百瀬・青野・池川・原田・森・山下・山本・田 中・長儀, 2014)。したがって,自殺念慮に対する CBTの効果を高めるためには,大学生の自殺念慮を 強める心理学的変数を明確化する必要があるといえ

る。

佐藤・佐藤・三田村 (2014)の研究では,大学生 を対象に,大学生の抑うっと自殺念慮に対する認知 行動的要因の影響に検討した結果,否定的自動思考 とストレッサーが大学生の自殺念慮に影響を及ぼす 可能性は指摘されているものの,快活動および社会 的スキルといった行動的要因が自殺念慮に及ぼす影 響は認められていない。したがって,自殺念慮、に対 する CBTの効果を高めるために,否定的自動思考 といった認知的変数以外の認知行動的変数を明確化 する必要がある。特に,自殺念慮と関連することが 想定される問題解決能力といった認知行動的要因が 自殺念慮、に影響を及ぼすかどうか実=副句研究がおこ なわれておらず,十分な知見が得られていないとい える。

2.方 法

研究デザイン:横断研究によって「自殺念慮Jと

「自動思考J,

r

ストレッサーJおよび「問題解決能 力Jがどのように関連するか検討した。

対象者:除外基準に該当する対象者を除いた,中国 および四国地区の四年制国立大学に在籍する大学生

182名を対象とした。

(2)

− 104 − 調査材料:①フェイスシート(年齢,性別),②齢受 念慮尺度(鼠泊制 I品世:nQt服蜘maire‑Jm町;以下

回Q-JR:佐藤・信藤・三耐却1剖,Q:泊費思考用動班~

rugl血匂臨蜘maire‑聡司副以下:A'IQ‑R:坂本・田中・

丹野・大野広削,④大挙主日常生活ストレツザ」用支制鳥 取渇),信満耀覇報機力視l鹿尺度依泊alPnhl=m最前理

z

h暇 政ny&担ョ1;以下,盟団‑R:佐藤・高橋・松尾・

境・嶋田・陳・員谷・坂野, 2006)が用いられた。

分析方法:棺関分析によって測定した変数聞の関 連を検討した。その後「自殺念慮jを従属変数,

r

動思考J,

r

ストレッサーJおよび f問題解決能力J との各下位尺度を独立変数とするロジスティック回 帰分析によって,オッズ.比およびその 95%信頼区間

を算出した。

3.結 果

まず,自殺念慮とストレッサー,自動思考,問 題解決能力との関連性を検討するために,それぞれ の項目について,ピアソンの積率相関係数(r)を 算出した結果,

r

否定的自動思考」と「自殺念慮jに, 中程度の正の相関が認められ (r=0.63,P<O.Ol), 

「ストレッサーJと「自殺念膚Jにも中程度の正の 相闘が認められた (r=O.44,P<O.ol)。また,

r

ガティプな問題志向Jと「自殺念慮」との聞に弱し、

正の相関がみられた (r=0.26,P<O.ol)。つまり,

ストレッサーの度合いが大きい者あるいは,ストレ ッサーに対する否定的認知を有する者ほど,自殺念 慮が強いことが示唆された。また,独立変数として 想定した説明変数間に絶対値0.8以上の有意な強い 相関係数は算出されなったため,それぞれの独立変 数は交絡しないことが示唆された。次に自殺念慮に 関連する要因を検討するためにロジスティック回帰 分 析 を 行 っ た 結 果 ス ト レ ッ サ ーJ(OR=3.61,  95%信頼区間:1.92 ‑6.82)および「否定的自動思 考J(OR=4.96, 95%信頼区間:2.68・9.19),

r

ポジ ティプな問題志向J(OR=0.54, 95%信頼区間:

0.32・0.92),

r

ネガティブな問題志向J(OR=2.59,  95%信頼区間:1.37・4.88),

r

回避型問題解決J(OR 

=1.7, 95%信頼区間:1.01・2.85)のオッズ比が有 意であった。一方,

r

合理的問題解決J,

r

種T動的/不 注意型問題解決jのオッズ比は有意で、はなかった0

4.考 察

本研究の目的は,大学生の自殺念慮に対する認知 行動療法の効果を高めるため,自殺念慮に関連する 要因を問題解決能力の観点から検討することで、あっ た。

本研究の結果から,自殺念慮を高めるリスク要因 として,

r

ストレッサーJや「否定的自動思考jおよ び「ネガティブな問題志向J,

r

回避型問題解決J

影響することが明らかにされた。また,自殺念慮を 弱める要因として,

r

ポジティブ、な問題志向」が明ら かにされた。自殺念慮を減少させるために, 日常生 活で受けるストレッサーに対するコーピングの増加,

リラクセーション法などのストレスマネジメントの 必要性や適応的な考え方に変容する認知酎蕎成法な

どの有効性が示唆された。

従来の自殺念慮、を弱める認知行動療法的介入とし ては,対人スキルおよび情動調整スキルの向上を目 的としたもの(古川ら, 2014),社会的スキル訓練 やリラクセーション,認知再構成法を用いたプログ ラムが実施されているものの(佐藤・三田村・高岡・

金谷・佐藤, 2014),自殺念慮の減少には効果が大 きくなかった。認知的介入だけでは効果が不十分の ため,行動的介入にも着目し,これらの技法を組み 合わせることによって,より自殺念慮、を減少させる ための効果的なアプローチが可能になることが推察

される。

今後は行動的要因を予測するため,行動的変数を 増やし,本研究で明らかになった問題解決能力以外 の自殺念慮、に影響を与える変数を明らかにすること が必要と考えられる。

参照

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