特集:情報読解力を考える
UDC 02:000.000:000.000読解力とはどのような力か
田中 博之
* PISA 型読解力は,社会の多様な資料やデータを比較して既有知識を活用しながら深く読み取り,読み取った結果を自分なりに解釈・評 価してわかりやすく表現するという総合的な学力を意味している。21 世紀社会に求められる新しいリテラシーとしての PISA 型読解力は, すべての国の子どもたちの基礎学力になることが求められるとともに,これからますますその育成方法や評価方法の研究を推進すること が,OECD 的な意味で国の経済発展の根幹になるものと考えられる。 キーワード:PISA 型読解力,読解力,OECD,キー・コンピテンシー,資質・能力,全国学力・学習状況調査はじめに
OECD が,2003 年にキー・コンピテンシー(21 世紀に 必要となる主要な資質・能力)の理論枠組みの中で,読解 力(Reading Literacy,わが国では PISA 型読解力と訳さ れる)を提起してから,その考え方は日本の教育政策に大 きな影響を及ぼし続けている。 例えば,小中学生を対象とした国の悉皆調査である全国 学力・学習状況調査の実施に始まり,学習指導要領の改訂 や教育振興基本計画の作成などの教育改革のコンセプトと して,常にPISA 型読解力が位置づけられてきた。 このPISA 型読解力は,わが国では国語科の授業で用い られてきた伝統的な読解力の定義が教科書の物語教材や説 明文教材を正確かつ詳細に読むということであったのとは 異なり,社会の多様な資料やデータを比較して既有知識を 活用しながら深く読み取り,読み取った結果を自分なりに 解釈・評価してわかりやすく表現するという総合的な学力 を意味している。 こうした21 世紀社会に求められる新しいリテラシーと してのPISA 型読解力は,すべての国の子どもたちの基礎 学力になることが求められるとともに,これからますます その育成方法や評価方法の研究を推進することが,OECD 的な意味で国の経済発展の根幹になるものと考えられる。 そこで本稿では,OECD が定義した読解力の内実を キー・コンピテンシーに位置づけながらできる限り具体的 に解説し,さらに,わが国の教育政策に及ぼしてきた影響 を概観するとともに,これからの教育研究の在り方を示唆 することにしたい。1.OECD のキー・コンピテンシーへの位置づけ
まず,OECD が提起したキー・コンピテンシーについて 見てみよう。なぜなら,PISA 型読解力は,その中の一項 目として位置づけられているため,21 世紀の資質・能力の 特徴を大きくとらえておくことが大切だからである。 近年注目されているOECD の DeSeCo によって定義さ れたキー・コンピテンシー(key competencies)という 21 世紀型学力は,国際学力調査であるPISA 調査として具体 化されて,2000 年から世界中の国と・地域の子どもたちの 学力評価指標として活用されるようになっている。 21 世紀型学力として PISA 型読解力が提起されるように なった背景には,OECD のプロジェクト,DeSeCo(コン ピテンシーの定義と選択:Definition and Selection of Competencies)の理論的な基盤があったのである。この DeSeCo プロジェクトは,OECD が 1997 年に開始し主体 となりながらもスイス連邦統計局が実質的な理論化の作業 をリードし,12 カ国の参加国からの提案や調査結果をまと め上げ,2003 年に刊行した最終報告書によって,その理論 構築を完成したものである注1)。 DeSeCo プロジェクトのねらいは,この 21 世紀社会にお ける継続的な経済成長と自然・社会環境と人類の共生を調 和させるために,教育の経済的社会的効果を上げることが 必要であるとの認識に基づいて,これからのグローバル社 会で必要となる人的資本を客観的に評価する指標(国際比 較指標)を開発することであった。 そのような認識の背景には,従来の教科学習でもたらさ れる伝統的な学力は,近代社会における経済的・社会的成 功に役立つとしても,21 世紀社会においては必ずしも人間 の発達や社会・経済の調和的な発展にとって十分な教育的 成果をあげていないのではないかという疑いがあったので ある。 そこで,OECD は 1999 年にスイスで第一回の DeSeCo シンポジウムを立ち上げ,次のような問題意識のもとに, 教育学者だけでなく,人類学者,経済学者,心理学者,そ して社会学者等が集まって,これからの 21 世紀社会にも とめられる新しい学力と人間の諸能力についての枠組みを 構築したのである。 「読み,書き,計算することとは別に,どのような他の能力 *たなか ひろゆき 早稲田大学教職大学院 〒169-8050 東京都新宿区西早稲田 1-6-1 (原稿受領 2018.6.14)が個人を人生の成功や責任ある人生へと導き,社会を現在 と未来の挑戦に対応できるように関連づけられるのか?」 (ライチェン他,2006,p.11) このような問題意識には,次のような6 つの特徴が想定 されている。 [DeSeCo 枠組みの特徴] ① 全人的な幅の広い観点から必要な能力(態度,動機づ け,価値といった非認知的要素を含む)を整理する ② コンピテンシーの評価が可能となる概念枠組みを構築 する ③ コンピテンシーは,知識,スキル,態度,感情,価値 観と倫理,動機づけを含む総合的な能力と定義する ④ 学校や職場に限らずに人生の成功や社会の良好な動き (生産的な経済,民主的なプロセス,社会団結,平和等 を含む)に貢献する ⑤ OECD 加盟国の教育政策や社会政策の立案に貢献す る ⑥ 3 つのコンピテンシーのカテゴリーに共通する能力と して思慮深さや反省的思考力を位置づける (ライチェン他,2006,p.12) これを見て気づくことは,DeSeCo では総合的な資質・ 能力が示されているということである。21 世紀社会で個人 の人生の成功と社会の持続可能な発展を可能にする力を, 幅広く豊かに定義したことは,これからの21 世紀社会で の学校学力を再編成するために大変大きな指針となるもの である。 このようにして,OECD が提案した DeSeCo という概念 枠組みは,社会の変化とそこに求められる力を十分に考察 した上で,継続的で総合的な活用を可能にする優れた能力 項目を提案した21 世紀型能力モデルなのである。 では,このDeSeCo のコンピテンシーモデルの具体的な 領域と能力項目を紹介したい。それは,次のような3 領域 から構成されている(ライチェン他,2006,pp.210-218)。 [DeSeCo のコンピテンシーモデル] カテゴリー1:相互作用的に道具を用いる コンピテンシー1A 言語,シンボル,テキストを相互作 用的に用いる能力 コンピテンシー1B 知識や情報を相互作用的に用いる 能力 カテゴリー2:異質な集団で交流する コンピテンシー2A 他人といい関係を作る能力 コンピテンシー2B 協力する。ティームで働く能力 コンピテンシー2C 争いを処理し,解決する能力 カテゴリー3:自律的に活動する コンピテンシー3A 大きな展望の中で活動する能力 コンピテンシー3B 人生計画や個人的プロジェクトを 設計し実行する能力 コンピテンシー3C 自らの権利,利害,限界やニーズを 表明する能力 このような 21 世紀社会の変化とそれが要求する人間の 諸能力を明確に認識したことが,DeSeCo という総合的な 能力モデルを開発した基盤になっているのである。
2.PISA 型読解力とは
このキー・コンピテンシーの学力モデルのカテゴリー1A に属しているのが,PISA 型読解力である。PISA 型読解力は,原語では,Reading Literacy であり, 「自らの目標を達成し,自らの知識と可能性を発達させ,効 果的に社会に参加するために,書かれたテキストを理解し, 利用し,熟考する能力」と定義されている。そして,その 具体的な能力領域として,次のような4 つが設定されてい る。 [PISA 型読解力の項目] ① 情報の取り出し ② 解釈 ③ 熟考 ④ 評価 文部科学省では,PISA 型読解力の特徴を,次の 4 点に 集約している注2)。 [PISA 型読解力の特徴:文部科学省による解釈] ① テキストに書かれた「情報の取り出し」だけはなく, 「理解・評価」(解釈・熟考)も含んでいること。 ② テキストを単に「読む」だけではなく,テキストを利 用したり,テキストに基づいて自分の意見を論じたりする などの「活用」も含んでいること。 ③ テキストの「内容」だけではなく,構造・形式や表現 法も,評価すべき対象となること。 ④ テキストには,文学的文章や説明的文章などの「連続 型テキスト」だけでなく,図,グラフ,表などの「非連続 型テキスト」を含んでいること。 このような特徴をもつPISA 型読解力は,わが国の教育 課程では,国語科だけでなく総合的な学習の時間でこそ十 分に育てられる総合学力である。 なぜなら,一つめの理由として,それは,日常生活の中 の課題解決を支える総合的な言語力だからである。 そして二つめ理由として,そのような課題解決を十分に 行う時間的ゆとりが,PISA 型読解力の育成には必要だか らである。 この二つのポイントは,カリキュラム編成の観点から見 ると,わが国の学校教育においては,総合的な学習の時間 が最も得意とするところである。 もちろん国語科がその基礎を作り,社会科や理科,家庭 科,そして算数・数学などが,それぞれの教科固有の思考
内容や表現内容を伴って,読解力の育成を豊かにすること は間違いない。 しかし,その集大成として,PISA 型読解力の育成に必 要な課題解決的な学習をしっかりと展開するには,総合的 な学習の時間において,30 時間から 40 時間程度の課題解 決的な単元を設定するとともに,そうした探究型単元をい くつか組み合わせた年間指導計画を作成することが不可欠 である注3)。 ではもう少し具体的に,PISA 型読解力の特徴を分析し て,それが,総合的な学習の時間を必要とする理由につい て考えてみよう。 まず,最も大きな特徴はすでに述べたように,それが, 課題解決的な総合言語力だということである。 この点は,よく誤解されているので注意が必要である。 それは,決して「読解」という用語が直截的に示すように, たんに「本を読む力」や「文章を読む力」を意味してない。 このようなテキストからの「情報の取り出し」という活 動は,PISA 型読解力のごく一部を構成しているだけで, 実際には,次のような課題解決的な言語活動を総括する用 語なのである。 [PISA 型読解力の課題解決過程] ① 日常生活の中で問題を発見する ② その問題を解決するために必要なテキストから目的に 応じた情報を取り出す ③ 自らの視点や仮説によって,得られた情報を編集する ④ 編集した情報に基づいて自分の考えをテキストにして 表現する ⑤ そのテキストを社会的に役立てるために活用する PISA 型読解力とは,本来的にこのような課題解決的な 知的創造過程を意味するものなのである。 ただし,実際にOECD の学習到達度調査が測定している のは,この中で②から④までのごく一部の能力だけであり, さらに,それをペーパーテストという限定的な方法で測っ ているだけなのである。 さらに,この過程の中に引用した「テキスト」という意 味が,たんに国語科の教科書に掲載されている物語文とい う領域を超えて,説明文や解説書などの連続型テキストと 統計資料や数値データ等の非連続型テキストの両方を含む とともに,さらに,国語科を超えて,社会科や理科,家庭 科,体育科,そして算数・数学科が対象とする内容を学際 的にカバーしていることが大きな特徴になっている。 そして特徴の3 つめに,この課題解決過程の第 5 段階に 位置づけた「実社会に参加して自分の考えを自分や人のた めに役立てること」があげられる。 具体的には,調査結果を研究会で口頭発表したり,紙芝 居や寸劇を作って公演したり。機械の操作マニュアルを 作って人に説明したりすることが想定される。 もっと日常的には,説明書きに沿って正しい薬の飲み方 を実践したり,あるいは,人に目的地までの行き方を分か りやすく教えてあげたりすることまでも含んで考えてよ い。 以上のことから,PISA 型読解力を育てるには,自ら課 題を発見し,基礎的な言語事項を実践的に応用し,そして 読む・書く・話す・聞く力を総合的に発揮しながら,その 課題を解決する学習を子どもたちに行わせることが大切で あることが分かる。
3.現行学習指導要領との関わり
前節で検討したように,PISA 型読解力を育てる授業づ くりの研究は,総合的な学習の時間を中心にしながらも, 国語科や社会科等,資料やデータを多く扱う教科で様々な 取組が行われてきている。 その法令根拠は,現行の学習指導要領の規定に基づいて いる。現行の学習指導要領では,その総則において,小学 校でも中学校でも,「言語活動の充実」を行うことを求めて いる。 「言語活動の充実」とは,2000 年の改訂で始めて使われ た用語であり,学習指導要領の中では,第1 章総則の第 1 教育課程編成の一般方針 1 に,「児童の発達の段階を考慮 して,児童の言語活動を充実するとともに,家庭との連携 を図りながら,児童の学習習慣が確立するよう配慮しなけ ればならない。」と定められている。さらに,第 4 指導計 画等の作成に当たって配慮すべき事項の2(1)に,「言語 に対する関心や理解を深め,言語に関する能力の育成を図 る上で必要な言語環境を整え,児童の言語活動を充実する こと」とされている(中学校及び高等学校の規定もほぼ同 様)。 「言語活動の充実」という改訂の方向が出された背景は, PISA(Program for International Student Assessment: OECD による生徒の国際学習到達度調査)の国際比較で, 日本の子どもの学力が初回の 2000 年度調査以降,毎回, 低下していることが明らかになったことにさかのぼる。数 学や理科(科学)も下がっているが,特に読解力(Reading Literacy)の落ち込みが顕著であった。日本の子どもは知 識の量や正確さでは世界でトップレベルである。これは日 本の教育が知識の量や定着度を測る学力観やテスト観に基 づいた指導と評価を行ってきたことに原因を求めることが できる。 しかし,自分の考えを論理的な文章で表現することは苦 手である。論理的な作文の訓練をほとんどしていないので, PISA の読解力問題では,一文字も書かずに解答を棄権す る子どもが6 割もいる。 それにも関わらず,21 世紀の現代社会では,自分で考え, 判断し,表現することが非常に重要な時代になっている。 そうした高次な思考力・判断力・表現力をもつ人間になる ためのPISA 型読解力が日本の子どもには最も不足してい る,ということがPISA 調査ではっきりしてきた。こうし た背景や認識から,今回の学習指導要領の改訂に,PISA 型読解力としての言葉の力を育てる言語活動を充実させる ことがあげられるようになったのである注4)。さらに具体的な解説を見てみると,小学校学習指導要領 解説(総則編)において,第5 節教育課程実施上の配慮事 項の1 に,具体的な活動例が示されている。 以上のような経緯を経て,中央教育審議会は,平成 20 年1 月 17 日の答申「幼稚園,小学校,中学校,高等学校 及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」にお いて,次のように提言している。長くなるが引用しておこ う。 まず国語科においては,「これらの言語の果たす役割に応 じ,的確に理解し,論理的に思考し表現する能力,互いの 立場や考えを尊重して伝え合う能力を育成することや我が 国の言語文化に触れて感性や情緒をはぐくむことを重視す る。具体的には,特に小学校の低・中学年において,漢字 の読み書き,音読や暗唱,対話,発表などにより基本的な 国語の力を定着させる。また,古典の暗唱などにより言葉 の美しさやリズムを体感させるとともに,発達の段階に応 じて,記録,要約,説明,論述といった言語活動を行う能 力を培う必要がある。」としている。 さらに,各教科等においては,「このような国語科で培っ た能力を基本に,知的活動の基盤という言語の役割の観点 からは,例えば, ・観察・実験や社会見学のレポートにおいて,視点を明確 にして,観察したり見学したりした事象の差異点や共通点 をとらえて記録・報告する(理科,社会等) ・比較や分類,関連付けといった考えるための技法,帰納 的な考え方や演繹的な考え方などを活用して説明する(算 数・数学,理科等) ・仮説を立てて観察・実験を行い,その結果を評価し,ま とめて表現する(理科等)など,それぞれの教科等の知識・ 技能を活用する学習活動を充実することが重要である。」と した。 さらに,「コミュニケーションや感性・情緒の基盤という 言語の役割に関しては,例えば, ・体験から感じ取ったことを言葉や歌,絵,身体などを使っ て表現する(音楽,図画工作,美術,体育等) ・体験活動を振り返り,そこから学んだことを記述する(生 活,特別活動等) ・合唱や合奏,球技やダンスなどの集団的活動や身体表現 などを通じて他者と伝え合ったり,共感したりする(音楽, 体育等) ・体験したことや調べたことをまとめ,発表し合う(家庭, 技術・家庭,特別活動,総合的な学習の時間等) ・討論・討議などにより意見の異なる人を説得したり,協 同的に議論して集団としての意見をまとめたりする(道徳, 特別活動等) などを重視する必要がある。」としている。 このように例示された多様な言語活動を,日々の授業の 中で取り入れるとともに,その回数を増やすだけでなく, それぞれの言語活動が備えている思考力・判断力・表現力 という高次な活用型学力をより向上させる効果を発揮する ように,指導の手だてを工夫することを通して言語活動を 一層充実させることが必要であると提言している。 このようにして,文部科学省は,PISA 型読解力の向上 を目的として,学習指導要領の改訂を行ってきたといえる。
4.全国学力・学習状況調査における位置づけ
文部科学省が実施した,わが国の子どもたちのPISA 型 読解力を高める教育施策の2 つめは,文部科学省が全国の 都道府県・市町村教育委員会の協力を得て,2007 年度から 行ってきた,「全国学力・学習状況調査」である。 この調査では,文部科学省がそれまでに実施してきた「教 育課程実施状況調査」が,子どもたちの基礎的・基本的な 教科学力,つまり基礎的・基本的な知識・技能の習得状況 を測ることを目的としていたのに対して,明らかに PISA 型読解力の測定をねらいとして,国語と算数・数学の2 教 科について,基礎的な学力を測る問題A と活用型学力(思 考力・判断力・表現力)を測る問題B を出題していること が特徴になっている。 このB 問題は,いわば「資料提示型記述式活用問題」と もよべるもので,次のような5 つの特色がある。 ① 大問において,通常複数の資料(文章やグラフ,図な ど)が提示され,そこで読み取れることを比較したり組み 合わせたりして考えることを求める。 ② 既有知識の暗記量を問うものではなく,既有知識を活 用して問題解決を行うことを求めている。 ③ 回答形式は,小問において記号や数値を選んだり書い たりするものもあるが,最後の小問においては,自分の考 えを条件に沿って論理的に記述することを求めている。 ④ 記述の条件には,「間違っているわけを書く」「式と文 を組み合わせて書く」「文字数の条件に合わせて書く」「問 題文のキーワードや重要箇所を引用しながら書く」「適切な 接続詞を用いて求められる論理展開の型にそって書く」と いうものなどがある。 ⑤ 複数の教科に関連する内容を取り扱ったり,日常の生 活や学校での多様な学習場面(運動,話し合い,部屋の広 さの測定など)を取り扱ったりして,教科で学んだ知識・ 技能を活用することが求められる問題状況を設定してい る。 このような問題づくりの特徴は,明らかにPISA 型読解 力を想定しているものであるが,全国学力・学習状況調査 の方が,国語や算数・数学などの教科的知識の活用を強く 求めている点において,両者には若干の違いがある。 この全国学力・学習状況調査における問題B の平均回答 率の 10 年間の推移を見てみると,大きな傾向性としてい えることは,調査の開始当初は 20%に到達しない大問も あったが,最近では多くの大問において40%程度のものが 増えていることから,わが国の子どもたちのPISA 型読解 力は少しずつ向上しているといえる注5)。おわりに
2017 年 3 月に公示された,新しい学習指導要領におい ても,読解力(PISA 型読解力)は「全ての学習の基盤と なる資質・能力」の一つとして,その向上の必要性が提起 されていることに注目すべきである。 これは,2015 年度の PISA 調査において,日本の高校 1 年生のスコアが,また参加加盟国中で8 位となったことか ら,新学習指導要領においても,PISA 型読解力の育成は 継続的な課題になることは当然の帰結であった。また,全 国学力・学習状況調査においても,問題B の各設問の平均 正答率も,この10 年間でやや上昇傾向にあるものの,全 体としてはまだ 40%程度に留まっていることも要因に なったと思われる。 わが国の子どもたちのPISA 型読解力は,学校での指導 方法の改善によって,これからもまだ向上できるものであ る。新学習指導要領が提唱している,「主体的・対話的で深 い学び」という指針は,その促進的な機能を期待されてい るものであるといえるだろう。 したがって,これからの実践的で実証的な教育研究にお いては,子どもたちのPISA 型読解力を高めるための「深 い学び」の指導方法や子どもたちの学び方の開発研究を一 層充実させることが求められる注6)。 注 注1) ドミニク・S・ライチェン,ローラ・H・サルガニク編著, 立田慶裕監訳『キー・コンピテンシー 国際標準の学力を めざして』明石書店,2006 年を参考にした。 注2) 文部科学省『読解力向上に関する指導資料―PISA 調査(読 解力)の結果分析と改善の方向』東洋館出版社,2006 年を 参照のこと。 注3) 田中博之著『改訂版カリキュラム編成論』NHK 出版,2017 年,および,田中博之著『アクティブ・ラーニング実践の 手引き』教育開発研究所,2016 年を参照のこと。 注4) 文部科学省は,『言語活動の充実に関する指導事例集』の【小 学校版】及び【中学校版】を出しているので参考になる。 注5) 詳細な調査問題と解答例,調査結果については,国立教育 政策研究所の以下のウェブページに記載されている。(参照 日 2018 年 6 月 24 日) http://www.nier.go.jp/kaihatsu/zenkokugakuryoku.html 注6) 具体的な開発事例については,拙著『アクティブ・ラーニ ング「深い学び」実践の手引き』教育開発研究所,2017 年 などに詳しい。 参 考 文 献 1) 田中博之.子どもの総合学力を育てる.ミネルヴァ書房,2009, 233p.(シリーズ・21 世紀型学力を育てる学びの創造 1) 2) Trilling, B.; Fadel, C. 21st Century Skills: Learning for Lifein Our Times. Jossey-Bass, 2009, 206p.
3) Bellanca, James; Brandt, Ron, eds. 21st Century Skills: Rethinking How Students Learn. Solution Tree, 2010, 375p. (Leading Edge 5)
4) Bellanca, J. Deeper Learning: Beyond 21st Century Skills. Solution Tree, 2014, 390p. (Leading edge 9)
Special feature: Reading literacy. What competencies are included in the word ‘Reading Literacy’?. Hiroyuki TANAKA (Waseda University, Graduate School of Teacher Education, 1-6-1 Nishiwaseda, Shinjuku, Tokyo, Japan 169-8050)
Abstract: This article explains the definition of Reading Literacy of OECD compared to the traditional reading skills in the subject ‘National Language’ in the Japanese educational context. Reading Literacy is an integrated notion of different kinds of students’ competencies such as information retrieval, interpretation, reflection and evaluation. This new notion of literacy has had great impact on the government educational policy of the revision of the National Curriculum and the National Survey of Academic Achievements and Learning Situations for Japanese students. The test scores of Japan have not improved since the beginning of the PISA test. This means more educational research to develop effective pedagogies and students’learning strategies for deeper learning will be necessary to improve this situation.
Keywords: Reading Literacy / OECD / Key Competencies / National Survey of Academic Achievements and Learning Situations by Mext