数学講究2 第32回 ノート
内野 正康 10 月 20 日
1-2-4 ユークリッド幾何の誕生
ユークリッド原論が生み出した幾何を「ユークリッド幾何」という。
ユークリッド幾何では、多角形や平行性の性質の他、円の性質や相似性に 関する性質なども大切である。
主要な人物
アルキメデス(Archimedes)(B.C.287-212年) 古代最大の天才数学者であり、物理学者、技術者。
「アルキメデスの螺旋」、「アルキメデスの多面体(準正多面体)」で知られ る他、取り付くし法1を用いて円周率πの値が
223
71 (= 3,140845· · ·)< π < 22
7 (= 3,142857· · ·)
で挟まれることを求めたり、放物線と直線で囲まれた面積を求めたりした
(その他いろいろな図形の面積や体積を計算した)。また、球の体積とその球 に外接する円柱の体積の比は2 : 3であることを証明した。
物理学においては、アルキメデスの原理(浮力)や梃子の原理を発見。
著作には、「方法」、「球と円柱について」、「螺旋について」などがある。
∗ 「取り付くし法」は極限に相当するもので、図形を細かい部分に分けて 面積や体積を求める方法。積分の基礎となっている。
アポロニウス(Apolloniings)(B.C.262-190年) 数学者、天文学者。
円錐曲線(図1参照)の研究で知られる。円錐の断面にできる 楕円、放物 線、双曲線という3つの曲線について、多くのことを発見した。
著作には、「円錐曲線論」がある。
1与えられた図形の面積や体積を求める手法の1つで、その図形に内接する一連の多角形を 描き、それらの面積を元の図形に収斂させる方法である。アルキメデスは96角形を用いて円周 率を試算した。
図 1: 円錐曲線
パップス(Pappos)(320年頃)
著作がまとまって残っているギリシアの大幾何学者の最後の人。「数学集 成」では、それまでの重要な著作の紹介と解説をし、時折別の証明や彼独自 の考え方も述べている。
また、パップスの定理の発見、回転体の研究、回転体の体積を計算する一 般式の発見もした。
パップスの定理
直線上に3点A,B,C,もう一つの直線上に3点A ,B ,C をと る.AB とA Bの交点をP,BC とB Cの交点をQ,AC とA C の交点をRとするとき,P,Q,Rは同一直線上にある.
A
B
C
A0
B0
C0
P Q R
図2: パップスの定理
ヘロン(Heron)(B.C.150年頃)
「ヘロンの公式(任意の三角形の3辺の長さから面積を求める公式)」
三角形の1辺の長さをそれぞれ、a, b, cとした時 a+b+c= 2sとして
S =√
s(s−a)(s−b)(s−c)
で知られる。
また、気圧や蒸気を研究し、蒸気タービンを発明した。
メネラウス(Menelaus)(150年頃)
紀元2世紀の数学者・天文学者。メネラウスの定理に名を残す。
クラウディオス プトレマイオス(K. Ptolemaios)(83-168年頃) 天動説を唱えた。
著書「アルマゲスト」は、古代ギリシアの天文学の集大成。天体観測の方 法、天体の軌道計算、太陽までの距離やその大きさなどをまとめた。
定理 1.1 (トレミーの定理)
四角形ABCDが円に内接する必要十分条件は、
AB·CD + AD·BC = AC·BD が成り立つことである。
証明:
A
D
C B
E 原論第三巻「円の幾何学」の「命題21:
同じ円弧の円周角は等しい」を使う。
(−→) 四角形ABCDが円に内接して いるとする。
円周角の性質から、∠BAC = ∠BDC,
∠ACB =∠ADB
次に、対角線AC上に∠ABE =∠DBC を 満 た す 点 E を 取 る と 、4ABE と 4DBC,4EBCと4ABD は相似 なぜなら、対応する2つの角がそれぞれ 等しいので。
従って、
AB : AE = DB : DC
これよりAB·CD = AE·BD…1
BC : CE = BD : DA
これよりBC·AD = CE·BD…2 1 +2より、
AB·CD + AD·BC = BD(AE + CE) また、AE + CE = ACより、
AB·CD + AD·BC = AC·BD
A
D
C B
E (←−) 四角形ABCDにおいて、
AB·CD + AD·BC = AC·BD…(∗) が成り立っているとする。
∠ABE =∠DBC,∠BAE =∠BDCを 満たすような点E を取ると、4ABEと 4BDCは相似になるから、
BD : CD = BA : EA, BD : BC = BA : BEとなる。
従って、
AB·CD = BD·AE・・・・・・・・(1)
AB·BC = BD·BE・・・・・・・・(2)
この時、4ABDと4EBCは、∠ABD =∠EBCと (2)より相似。
よって、AD : BD = EC : BCであるから、
AD·BC = EC·BD・・・・・・・・(3) (1)と(3)を加えると、
AB·CD + AD·BC = (AE + EC)·BD となり、(∗)の式と比較して
AE + EC = AC
が成り立つ。これより、E は対角線AC上にあり、
∠BAC =∠BAE =∠BDC が成り立つ。
よって、円周角の性質から、四角形 ABCDは同一円上にあるから、円に 内接している。
問題 1.6
4ABCの内心をI とし、角A の二等分線が4ABCの外接円と交わる点 をDとすると、DB = DI = DCが成り立つことを証明せよ。
証明:
内心とは、三角形に内接する円の中心。三角形のそれぞれの頂点から内心 へ引いた線分はその角を二等分する。
4BID について、
∠BID =∠IAB +∠IBA(命題32より)
また、円周角の性質より、∠DBC =∠DACだから、
∠DBI =∠DBC +∠B
2 =∠IAB +∠IBA よって、4BIDは二等辺三角形。
同様に、4CIDも二等辺三角形。
よって、DB = DI = DC
※図は数学リテラシーP110,図A1,6を参照
1-3 作図に関して
(a) 定規とコンパスによる作図
ユークリッド原論での定規とコンパス
定規: 与えられた2点を結ぶ線分やそれを伸ばした直線を画く。
コンパス: 与えられた点Aを中心とし、与えられた点Bを通る円を画く。
原論第一巻における作図の命題
命題1: 与えられた線分を1辺とする正三角形
命題3: 与えられた線分の長さを与えられた半直線上に取る 命題9: 与えられた角の二等分線
命題10: 与えられた線分の二等分点
命題11: 与えられた線分に対して、その上を通る垂線 命題12: 与えられた点から与えられた直線に下ろす垂線 命題22: 3辺が与えられた長さを持つ三角形
命題23: 与えられた角と等しい角を与えられた半直線上に作る
命題31: 与えられた点を通り与えられた直線に平衡な直線
命題46: 与えられた線分を1辺とする正方形
例 1.4 与えられた円の中心を求める作図
円C上に異なる2点E、Fを任意に取り、線分EFの中点をG、垂直二 等分線をlとし、lが円と交わる点をH、Iとする。線分HIの中点をKと すると、Kは円Cの中心。
C
F
E G
H
K
I l
O
実際,Cの中心をOとすると,OE=OFである.またEG=FGであるから,4OEGと4OFG は3辺が等しく合同である.よって,∠OGE =∠OGF =直角であり,Oはl上
にある.OH=OIであるから,O=Kである。