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牧大輔 森彩花 河内杏樹 横山友里沙 赤坂祐梨 疋田真弓 松島美歩 鈴木七海
# ア ― ト 班
12 1. 導入
「展覧会」という言葉を聞いてどのようなものを思い浮かべるだろうか。ゴッホ、レオナ ルドダビンチなどの有名画家による絵画展が一番に思い浮かぶかもしれない。だが、インス タグラムを代表とするSNSの登場によって、その「展覧会」の形態が新しいものへと変化 してきている。
来場者数(主催者) 来場者数(人)
レアンドロ・エルリッヒ展 614,411
建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの
538,977
ルーブル美術館展 肖像芸術 ー人は人をどう表現してきたかー
422,067
ゴッホ展 巡りゆく日本の夢
370,031
至上の印象派 ビュールレ・コレクション
366,777
【表Ⅰ】
【表Ⅰ】は、2018年の美術館来場者数のランキングを表すものである。第一位は、レ アンドロ・エルリッヒ展。2017年11月から2018年4月までの約半年間で、61万 人もの人を動員した。この展覧会は、東京都港区、六本木にある森美術館で開催されたもの である。現代美術家、レアンドロ・エルリッヒ氏の作品に入り込み、来場者が芸術作品の一 部になることができる。さらには、それを写真に撮り、SNSに投稿する新しい楽しみ方が できるようになっている。このような新たな「展覧会」の形について掘り下げていく。
2. 問題提起
導入で取り上げた、レアンドロ・エルリッヒ展。この展覧会は、インスタグラムで約3万 件の投稿がなされた。次の図は、森美術館への来館動機に関する内訳である。(『シェアする 美術 森美術館のSNSマーケティング戦略』より引用)
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【図1】
【図2】
展覧会の来場動機の内訳では、【図1】からわかるように、半数以上の人がインターネット からの情報をもとに来場している。その中でも、55.6%がSNSを情報源としていること がわかる。【図2】
このことから、インスタグラムなどのSNSに投稿する芸術活動が自然と広告効果を生 み出していると考える。権威ある芸術家や有名人によって評価される芸術ではなく、一般の 人によって評価され、その評価を自由にSNSで共有できるように時代は変化した。そこか ら、SNSの登場により“芸術の価値を決める人が変化してきているのではないか”と考え、
これを問題提起とし研究を進めた。
62%がインタ ーネット
55.6%がSNS
14 3.比較分析
3.1 比較分析①
上記の問題提起に対して、過去と現在の違いを比較することで、結論を導くことにした。
19 世紀後半から活躍し現在まで名声のあるゴッホと、先ほど事例として紹介した現代芸術 家のレアンドロ・エルリッヒを比較対象として例に挙げ、まずは2人の代表作について紹介 する。
ゴッホの代表的な作品は、『星月夜』『自画像』『ひまわり』などが挙げられる。誰しもが 一度は目にしたことのある作品ではないだろうか。ゴッホは後期印象主義と呼ばれる時代 に作品を残し、色と筆触は鮮明で荒々しい苦悩、時には一種の狂気をも伝えたと言われてい る。『自画像』では後継の波動とは不動性で対比を成す厳しい目つきが痩せた顔を貫いてい る。『星月夜』は青の奥行きと黄色の鮮明さの対比効果が、生き生きとした筆触とおおらか な構図で強調された作品である。
レアンドロ・エルリッヒの代表的な作品は、『建物』『スイミング・プール』が挙げられる。
『建物』はレアンドロ・エルリッヒ展で最も注目された作品であり、人々が重力に逆らって、
各々の好きなポーズでぶら下がったり、立ったりしている様子を楽しめる参加型の大型作 品である。床面に設置された絵に対して約45度の傾きで大きな鏡が設置されており、鏡を 見ながら楽しむことができる。『スイミング・プール』は金沢21世紀美術館に設置されてお り、上からプールを見下ろすとあたかも水で満たされているように見えるが、実際はガラス の下は水色の空間で、鑑賞者はこの内部にも入ることができる。プールを見下ろして水の中 に人を見つけた時の驚きや、内部から水上を眺めるといった経験をすることができる作品 である。
以上の作品の特徴から、ゴッホの作品は、誰がいつ見ても同じ作品であり、絵の存在自体 に大きな価値があると考える。一方でレアンドロ・エルリッヒの作品は、撮る人、写ってい る人の服装やポーズ、写真の構図など個性によって多種多様な見え方があり、同じ作品が二 つとして存在しないと言える。体験として楽しむという価値もあるだろう。
3.2 比較分析②
次に、ゴッホとレアンドロ・エルリッヒの作品が有名になったきっかけについて比較する。
ゴッホは存命中に売れた作品が1点だけであり、当時の人には理解してもらえず、その才 能、影響力、価値は没後に認められた。そのきっかけとして、当時流行を生み出していた文 芸作品公報誌メキュール・ド・フランスに、有名な画家エミールベルナールが書いたゴッホ
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についての文書が掲載されたこと、印象派の巨匠であるモネが高く評価したこと、大物画商 のヴォラールがゴッホの回顧展を開いたことなど、芸術に精通した人物が評価したことで 有名になったと言える。
レアンドロ・エルリッヒの作品が現代の多くの人に知られるようになったのには、スマー トフォンの進化が関係すると考える。小型だった画面が大型化しカメラ機能が飛躍的に向 上、通信も高速化したことで写真や動画を発信する流れが加速した。2017年には「インス タ映え」が流行語大賞に輝き、現代社会において写真を撮ることの価値は向上している。実 際に作品に入り込み、写真を撮ることで完成するアート作品は社会背景とも相まって認知 度を高めた。彼の作品を展示した展覧会では全ての作品が写真撮影可能であり、SNSで数 多くシェアされたことが動員につながった。つまり、一般の人々が気軽に発信した情報が発 端となり有名になったと言える。
4. 考察
以上の比較分析を踏まえて、芸術の価値を決める人は時代に伴い変化したことがわかっ た。さらにこの研究を通して、インターネット時代の芸術を参加型アートと従来の鑑賞型ア ートに分類した。従来は、完成されたものを見て楽しむことを目的とした鑑賞型が主流であ った。しかし最近ではSNSが普及したことで、鑑賞型芸術に加え、参加型というスタイル が確立された。参加型芸術とは、自分が作品の一部になり、手を加えることで完成した作品 を、見て、撮って、共有して楽しむことを目的とするもの。しかし、参加型芸術はトリック アートなどを筆頭に、SNSが普及される前から存在はしていた。だがここまで参加型芸術 が今注目されている理由は、SNSと参加型芸術がうまくマッチしたからだと考察を深め た。SNS(インスタグラム)のもつ役割とは、写真を撮って広める。というものと、アー トの中に人が入り写真に収め完成する参加型芸術のマッチングが良く、現在、ここまで参加 型アートに注目が集まっているのだろう。
5. まとめ
SNSは来場者数にも、展覧会の形態の変化にも、強い影響を及ぼすのだ。また、私たち はSNSの登場によって、”芸術の価値を決める人が変化してきているのではないか?”比較 分析からも分かるように、今まで芸術は、権威のある人に評価されることで、有名になるケ ースがほとんどだった。しかし、SNSの登場によって、気軽に、様々なものを評価できる 場が広がっていった。それにより、芸術に精通していなかった一般の人でも、インスタグラ ムやツイッターのいいね!お気に入りボタンから、価値を決め、世界に発信、芸術の価値が 認知される、という構造になったと考える。
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インターネットの可能性が広がれば広がるほど、私たちの暮らす社会の芸術の幅も広がる のではないだろうか。
参考文献
・シェアする美術 森美術館のSNSマーケティング戦略」
https://bijutsutecho.com/magazine/insight/19034?utm_source=antenna
・美術館で写真撮影&SNSにアップしてもOK?著作権は?
https://allabout.co.jp/gm/gc/469608/
・美術手帖「2018年来場者数ランキング」
https://bijutsutecho.com/magazine/insight/19034
https://www.instagram.com/
・森美術館「レアンドロ・エルリッヒ展 見ることのリアル」
https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/LeandroErlich2017/
・金沢21世紀美術館「スイミング・プール」
https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=30&d=7
・オルセー美術館見学案内